堕天少女と中二病少年   作:AQUA BLUE

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お待たせ致しました。今回も堕天少女と中二病少年、始まります。サブタイトルに深い意味はない。


ところで。また投稿間隔が長くなってきてんなAQUA BLUE……ですって?

よ、よーし! それよか早速スタートです!


黒騎士と蜜柑少女 ―前の章―

 ――堕天使と格闘ゲームに興じよう。前回返り討ちにされた雪辱(せつじょく)を果たすのだ!

 

 

 

 

 と、放課後直前は考えていたのにッッッ! 今構えているのはコントローラー(架空戦場への繋ぎ手)……ではなく、手提げ袋。先程帰還したところ、不運にも母から買い物(使いっ走り)を押し付けられてしまったのである。いわく、『ちょっと昼寝したいから』とのこと。有無を言わさぬ迫力さえなければ、キッパリ断っていた。黒騎士って実はたいしたことない、だと? ……切り裂くぞ。

 

 さて、それだけならまだマシなのだが。

 

行き場なき落ち物(ドロップアイテム)め……ふうむ」

 

 我はもう1つの状況下に陥っていた。家からいくらか離れた傾斜気味の歩道の中で、渋っているのだ。買い物(使い走り)に向かう中拾った、財布の処遇を。

 

 おかげで予定を潰された鬱憤(うっぷん)は収まったが、なかなか決断を下せずにいる。交番に届けるのが定石(じょうせき)なのだろうが、必ず持ち主の元へと返るとは限らない。かといって、自力で届けようにもヒントが少なすぎる。

 財布は歩道のど真ん中にあり、見た感じでは落とされてからあまり時間が経っていなかったようだった。しかしながら名の記載がどこにも見られず、さらに中身は千円札1枚だけ。他の情報としては蜜柑(みかん)っぽい色をしていることと、昔ながらのがま口タイプだということのみ。この段階でうろついたとて、迅速なる解決は現実的ではない。

 

「ええいっ、力を……迷いの霧をかき消す力を我にッッッ!」

 

 お手上げゆえに祈りを捧げてみる。悲しいかな、我の小さな賭けは虚空(こくう)へと溶けていった。それどころかたまたま歩道を進み来ていたカップル(充実男女)に嗤われる始末。咆哮(ほうこう)の代償は、恥となりて我の精神に乗しかかった。無礼な奴らめ……近い将来歴史に刻まれるであろう黒騎士をコケにしたこと、いずれ悔やむがよい!

 

 徐々に反対の道へ消えていくカップルを一睨みしたりしながら、我は打開の光を探るも――時はただ刻々と過ぎていく。しばらく棒立ちした末、本意ではないが「先に用を片付ける」という結論に落ち着いたのだった。

 財布をボストンバックの中に放り込み、我は改めてスーパー(庶民のオアシス)の方位へ向き直る、渋々と。母の頼みを押し切って堕天使の所へ赴くべきだったか。嘆息(たんそく)してしまいそうだ。

 

 海辺にいた(からす)が、我を(あざけ)るかのように鳴いて飛び去っていった。残ったのは、一欠片(ひとかけら)の虚しさよ。

 

 

 

 

 

 

 平日とはいえども夕刻を意識させ始める頃合いだけあり、スーパーには少なからず賑わいがあった。人々もそれなりに(うごめ)いている。少々練り歩けば、色々な者の買い物風景が観察できた。

 

 例えば――。

 

 お菓子コーナーから厳選してきたであろうポテトチップスをねだる幼い少年と、その要求を容赦なく断る彼の母と思わしき女性。どこか物寂しげな様子で惣菜ブースを徘徊(はいかい)する初老紳士(シニアンジェントル)。はたまた、天然水のペットボトルとたった1つのエクレアだけを入れた買い物籠を、せかせかとレジへ運んでいく高校生ぐらいの男も。……こいつに対しては、何故だか妙に親近感を覚えた。

 

 油を売ってばかりもいられない、ぶらつきがてら使いっ走りを遂行する。食材集めだ。想定していたより品が減っている。

 

 (たまわ)った買い物メモには、上からカレールー・にんじん・じゃがいも・醤油・そして餃子の皮とある。今宵、母がカレーか餃子の果たしてどちらを創造するつもりなのか興味深いが、すべてを完了せぬことには始まらぬ。よってまずは、現在地から最も近い野菜コーナーを目指す。

 

 幾度となく来ているので、売り場の構造は頭に入っている。右往左往(うおうさおう)して品を獲得していくような高揚はなく、頼まれたものを集めて会計を通せば終焉。もはや決まりきっているルーティンをなぞるのみ。

 

 つまらぬのもあってか、予期せぬような面白きことが起きてくれやしないだろうかと――そこらの人間が抱きがちな願望が浮上してきた。くそったれめ、腹いせに己の土産も買っていってやろうか。

 

 通りすがりにも届かない程度のボリュームで、我が愚痴を溢した瞬間であった。現在進んでいる直線の左右一定の間隔ごとにある別ブースへ分岐する道、その一角に。

 

 ――ぴょん、と一本だけ際立って生えている橙の(アホ毛)が見えた。

 

 ぴったり曲がりきるところだったのだろう、それは間もなくして角の奥に消えていった。

 

「あれは……?」

 

 放っておけず、立ち止まる。少しばかり特徴的な髪の毛など、精々一瞬注目するだけですぐさま忘却する。それでも釘付けになってしまったのは、捉えた橙に覚えがあったから。

 

 もしかすると、もしかするやもしれぬ。引き寄せられるように、我は慎重に向こう側へ行った人影を追う。買い物の件はとうに頭からふっ飛んでいた。

 

 

 曲がってみれば、アホ毛を持つ当人は意外と近くで品を片手にしゃがんでいた。女であった。男が着ないような清涼感ある軽装と、ゴツゴツとしていない輪郭(りんかく)から一目で判断できた。けれども重大な部分は、そういった基本的な外見ではなかった。

 

「っ……!」

 

 頭の方へと視線を移して――我は戦慄した。つい叫びそうになるのを左手で口を押さえることで堪え、半ば無意識に後退(あとずさ)る。まさかとは思ったが、やはり。

 

 ――他人の空似といった(たぐい)でなければ、この人物は……ッッ!

 

 

 

 眼前でしゃがむ彼女は、我のよく知る存在(・・・・・・)であった。

 

 

 我は可能な限り音を殺して軌道修正し、それから斜め後ろの角へ駆けた。幸い、向こうはブースの品に集中していてこちらに気付かなかったようである。どうにか(じか)では関わらずに済んだ。

 

「ハァッ……ぬゥ……こんな形でぇぇぇ」

 

 撤退するつもりは毛頭なかったのだが、姿を確認した途端に足が動いていた。現場から離れるために神経を張り詰めさせた疲労と、急激にスピードを発揮したために上がった心拍が、追って我に重圧をかけてくる。こんな形で出くわすことになるとは想像だにしなかったぞ――――千歌ねえちゃん。

 

「…………あ、にんじんだ」

 

 そして何の因果(いんが)か、辿り着いた場所は野菜コーナー。弾んだ息を戻すのも怠って、我はブースに並ぶ山菜らから無造作ににんじん入りの袋を引っ張る。品定めする余裕は失せていた。

 

 思考の(ほとん)どが、彼女の件に()かれていた。あるいはどうすれば遭遇せずに目的を果たせるか、ということばかり。なにしろ、もし次に対峙しても平静でいるのは難儀、そんな確信があったのだ。たとえ間を置いた上でも、だ。

 

 




今回と次回は「本編に関係するかもしれないし、結局は関係しないかもしれない」本編と番外編の中間的なお話でございます。また、変な要素入れてみたりと結構遊び心が生じてきておる。うむ。

なに、堕天使ヨハネが全く出てこなかった?

……非常に申し訳ないッッッ! そして終焉の炎!
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