女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第十一話 オリ主あらわる!?

 現在、俺は自室で腕を組み、頭を悩ませていた。

 度々アプローチを変えてなのは達に絡んでいるのだが、良い手応えを感じられない。

 なにかが足りないのか、踏み台転生者としての覚悟がもっと必要なのか。

 

「初心に帰ってみるか?」

 

 ふと呟くと、俺の相棒が呆れた間隔で明滅した。

 

《今度は、どんな馬鹿馬鹿しい内容を思いついたんですか?》

 

「ちょ、それはいくらなんでも酷くない?」

 

 本当に、容赦がなくなってきたよなドラちゃんは。

 まあ、いい。今に始まったわけじゃないし、俺にはやるべき事があるのだから。

 

 侵略シュークリームさんから、平穏な日々が流れ。

 あの時の出来事がきっかけで、俺は自身を見つめ返す事ができたのだ。

 つまり、踏み台転生者という概念を。

 

《で?》

 

「思ったんだよな。

 踏み台転生者というのは、名前の通り誰かのかませ犬になるんだよ。

 だけど、今まで原作主人公やオリ主が現れてないじゃん」

 

《まあ、そうですね》

 

「そ、こ、で!」

 

 一文字ずつ区切り、俺はクルリと回ってポケットからある道具を取り出す。

 

《なんですか、それは?》

 

「ふっ。

 これは“コピーロボット”という道具だ。

 この道具の鼻を押せば、名前の通りに……」

 

 トナカイのように赤い鼻を触ると、のっぺりとしていたパペットが大きくなっていく。

 直ぐに人間と同じ大きさになり、姿形も変貌。

 

《これは……》

 

 ドラちゃんが驚くのも無理はない。

 変身が終わったコピーロボットは、どこかで見た事があるような超絶可愛い幼女なのだから。

 様になっている素晴らしい笑みを覗かせ、彼女は不敵に腕を組んで口を開く。

 

「流石はお前だな。

 俺を使うとは、我ながら手放しで褒めてやろう」

 

「だろう?

 それで、お前なら俺の考えも理解しているよな?」

 

 そう。

 目の前にいるスーパー美少女の彼女は、正真正銘俺なのだ。

 このコピーロボットを使えば、自分そっくりの人格や能力を持ってくれる。

 つまり、オリ主がいなければ作ればいいじゃない!

 

 自分の閃きに自画自賛していると、目の前の俺が髪を掻き上げて。

 

「ああ。

 俺が踏み台転生者になるから、お前がオリ主になってくれるんだろ?」

 

「……はっ?」

 

 いやいや、こいつはなにを言っているのだろうか。

 それでは俺がコピーロボットを使った意味がないだろ。というか、その至極当然って顔がムカつく。

 自然と頬が引き攣りながら、俺は呆れて肩を竦めてみせる。

 

「まったく、所詮は俺のコピーという事だな。

 お前がオリ主になるに決まってんだろ?

 コピーのお前は、大人しくオリ主になればいいんだよ」

 

「……はぁ。

 オリジナルのアホさ具合に救いようがない。

 オリジナルのお前じゃ踏み台転生者になれなかったんだから、コピーロボットである俺が踏み台転生者になった方が確実だろ?

 だから、お前は負け組として素直にオリ主になっとけ」

 

「あっ?

 やんのかこら?」

 

「返り討ちにしてやるわ!」

 

《あまり騒ぐと、リニスさんに怒られますよ》

 

 冷静なドラちゃんの声に、俺達は互いの顔を殴る直前で停止した。

 暫く無言で目を交わし合い、頷いて最初の位置に戻っていく。

 そして、腰に拳を構え、同時に振りかぶる。

 

『最初はグー! ジャンケンポン!』

 

 あいこ、あいこ、あいこ、あいこ……

 

「くそっ! さすが俺だ。強い」

 

「そっちこそ、ここまで苦戦するとは思わなかったぞ」

 

 フッとニヒルに笑い合った後、俺達は再びジャンケンのポーズを取った。

 

《……これ。本当に決着がつくのでしょうか》

 

 結局、百二十九連引き分けの末、コピーが折れてくれた事により、このジャンケン大会は幕を閉じるのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

『こちら、静香。準備はオーケーだ』

 

『了解。

 ドラちゃんのサポートに従い、こちらも行動に移す』

 

 コピーからの念話を受け取った俺は、電柱の影に隠れて様子を窺う。

 視線の先ではなのはがおり、どうやら桃子さんに買い物を頼まれたらしい。

 桃子さんの娘である美由希さんと一緒に、朗らかな笑顔で歩いている。

 

 ふっふっふ。

 美由希さんもいるなら、ちょうどいい。

 彼女も俺の話を受け流しているので、ここらで踏み台転生者の活躍を見せてやろうではないか。

 さあ、行くのだコピー!

 

 俺の思念が伝わってくれたのか、ドラちゃんを身につけたコピーが向かい側から歩んでくる。

 変身魔法を使っているので、なのは達も彼女が元は俺の姿をしているとは思わないだろう。

 

 現在のコピーの姿は、黒髪黒目のオリ主らしいイケメンだ。

 利発そうな瞳に、将来が期待できる流麗な柳眉。

 鼻筋もシュッと整っており、これならばなのはもイチコロだろう。

 

 さて。

 ドラちゃんがいない今、俺は一人でコピーのサポートをしなければならない。

 うーん、どうやってコピーのサポートをしようか。

 一応、超能力が使いたくて“E・S・P訓練ボックス”で練習をしているのだが。

 

 この道具を使って三年間練習すれば、『念力』『瞬間移動』『透視』を使えるようになるのだ。

 しかし、まだ練習途中なので、能力が安定しない。

 万が一があってなのは達を怪我させるのは、絶対に嫌なのである。

 

 ……仕方ない。

 見た目が不格好だが、使いこなせるアレを使うしかないな。

 ため息をついてポケットに手を突っ込み、指がついた帽子を取り出す。

 これは“エスパーぼうし”と言い、まあE・S・P訓練ボックスのような物だ。

 

「装着、と」

 

 頭に被り、なのはの方を凝視した。

 そのまま意識を集中していき、コピーとのすれ違いざまに念力で彼女の足をよろめかせる。

 

「ふぇ?」

 

 転びそうになり、素っ頓狂な声を上げたなのは。

 それを狙っていたコピーが足を踏み出す直前、美由希さんが驚くべき速さでなのはを受け止めてしまう。

 

「もう、なのははおっちょこちょいなんだから」

 

「えへへ、ありがとうお姉ちゃん」

 

 ぐぬぬ。

 これじゃあ、美由希さんの凄さしかわからないではないか。

 よし、コピーよ。そのまま突っ込め!

 

 念力を使い、コピーの身体をなのはの方へと向ける。

 俺の思考を理解したのだろう。直ぐに爽やかな笑みを浮かべると、コピーは二人の元に近づく。

 

「やあ、こんにちは」

 

「こんにちはー」

 

 優しく挨拶を返す美由希さんに対し、何故かなのははぶるりと身体を震わせた。

 ここからでは後ろ姿しか見えないが、恐らく胡乱げな眼差しでも送っているのだろう。

 手を上げたまま、コピーの顔が引き攣っているし。

 

「……こんにちは」

 

「う、うん」

 

 おいおいおい。もっとしっかりしてくれよ。

 コピーがこの調子では、なのはに好かれるオリ主になれないではないか。

 お前がオリ主として頑張ってくれなければ、この後踏み台らしく登場できない。

 

 頑張れ、コピー!

 諦めるな、まだまだ行ける!

 お前の限界はこんな物ではない。やればできるんだから!

 

「ねーねー。

 あの変な帽子のお姉ちゃん、なにしてるのかな?」

 

「しっ!

 見ちゃいけません!」

 

 電柱にしがみつきながら、俺はひたすらコピーにエールを送る。

 そんな俺の純粋な気持ちが伝わったのだろう。

 コピーは美由希さんに標的を変え、上手くこの後の買い物にご同伴につく事に成功した。

 

「よっし!」

 

 この調子で、なのは達に好かれてくれたまえ。

 俺も陰ながらサポートをするから──

 

「お嬢ちゃん?」

 

 うるさいなぁ。

 今いいところなんだから、邪魔しないでほしい。

 肩を叩いてくる手を振り払い、コピー達の様子にかぶりつく。

 すると、今度は困った声色で俺に語りかけてくる。

 

「お嬢ちゃんは迷子かな?」

 

「だから、俺は今忙しい……」

 

 怒ろうと振り向くと、優しい目つきの警察官が俺を見つめていた。

 えっと、もしかして目立ちすぎたのか?

 キョロキョロと辺りを見渡す俺の視界に映るのは、遠巻きに心配そうな顔立ちで見守る野次馬達。

 恐らく、誰かが警察に連絡をして呼んだのだろう。

 

 わざわざ見ず知らずの子供を心配してくれて、個人的にはむちゃくちゃ嬉しい。

 海鳴市の人情さが伝わるし、自慢の街だと胸を張れるから。

 しかし、喜びの感情とは裏腹に、正直複雑な思いを抱かざるを得ない。

 

「おじさんがお嬢ちゃんのお母さんを探してあげるね?」

 

 膝をついて俺と目線を合わし、優しい笑顔で俺の返事を待つ警察官。

 う、うぅ……善意でやっているとわかるだけに、これからやる事に罪悪感が。

 いやいやいや。なにを弱気になっているのだ、俺は。

 せっかくコピー達に協力して貰ったのだし、しっかりと踏み台転生者にならなければ。

 

 改めて決意を固めた俺は、内心で謝罪しつつ念力を発動。

 俺達の近くにいた美少女のスカートが捲れ、全員の視線が否応なく集う。

 

「キャッ!?」

 

 安心してくれ、ギリギリ見えないチラリズムを作ったから。

 慌てた様子でスカートを抑える美少女に、俺は頷いて踵を返す。

 

「あ、ちょっと!」

 

 男としての性には勝てなかったのだろう。

 吸い寄せられるように目を向けていた警察官が声を上げるが、既に俺は野次馬の群れを掻き分けて逃げ出していた。

 よし、これで逃げ切る事ができたな。

 

 にしても、ガーターベルトはえっちぃと思うんだけど。

 眩しい太ももが目を焼き、思わず生唾を飲み込む。

 まあ、普段から俺をからかっていたんだし、今も面白そうな顔で静観していたのだから、これぐらいの役得があっても構わないよね。

 と、自己弁護しながら、俺は背後をチラリと振り返る。

 

「ひっ!?」

 

 満面の笑みを浮かべた美少女──忍さんと目が合った。

 彼女の笑顔に老若男女が頬を赤らめているが、俺は全身がガクガクと震えてしまう。

 

 わ、笑ってねぇ。忍さんの目が笑っていないよ。

 凄く怒った時のリニスに似た雰囲気を感じ、これは次会う時にやり返されるだろうな、と諦めにも似た感情が心を覆う。

 

「よし、その時はコピーに行かせればいいや」

 

 早速、コピーロボットの新たな使い道を閃いた天才な俺は、再び隠れながらなのは達の尾行を続けるのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 カラスが鳴き、空が茜色に染まる頃。

 なのはの家の前で、コピーロボット達は相対していた。

 

「今日はありがとうね、秀俊君」

 

「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」

 

 笑みを交わし合う、美由希さんとコピーロボット。

 二人の間に漂う雰囲気から、今日の出会いが喜ばしい事だと窺えるだろう。

 対して、なのははいまだにコピーの方をジト目で見つめていた。

 

「うーん……」

 

「うん?

 僕の顔になにかついているかな?」

 

 にこりと微笑む爽やかなイケメンフェイス。

 正直、元は俺だと知っていても……いや、知っているからこそ、あのムカつく顔面をぶん殴りたい。

 

 なーんか、あの表情を見ているとムカムカするんだよなぁ。

 あ、あれだ。これが踏み台転生者としての思考ではないだろうか。

 なのは達にまとわりつくオリ主。それを颯爽と現れて喧嘩を売る踏み台転生者。

 

 おお!

 なんか、それっぽい。

 というか、そうに違いないはず。

 なるほど。ついに、俺も踏み台転生者としての自覚が出てきたという事だな。

 思わず感動している俺を尻目に、なのははコピーロボットから視線を外す。

 

「なんか、変なの」

 

「へ、変?」

 

「うん。

 わざとらしいというか、嫌な感じがするっていうか」

 

 なに?

 まさか、なのはのやつ。コピーロボットの本質に気がついてしまったのか?

 俺の性格と能力を元にしてコピーされた以上、彼女にオリ主としての役割は荷が重いだろう。

 そう簡単に察せられるとは思わなかったのだが、こんなにも早く看破されてしまうとは。

 

 流石は原作キャラという事だな。

 ……あれ。そういえば、美由希さんは普通に接している。

 まあ、美由希さんは大人の余裕で受け流してくれたのだろう。

 というより、早くなんとかしないと踏み台転生者の活躍がなくなる!

 

 そう考えた俺は、なのはの言葉に頬を引き攣らせているコピーロボットの方へと駆け寄る。

 軽快な足音に全員の視線が集まる中、ビシッと指を差して口を開く。

 

「俺の嫁達に近づくな、モブ野郎!」

 

 ふぉぉぉぉぉ!

 踏み台転生者として言いたいランキング、第二位の言葉が言えました!

 正直、自作自演なのが気に食わないが、この際そんな細かい事など捨て置け。

 とにかく、俺はカッコよく踏み台転生者としての行動ができたのだ!

 

「あ、静香ちゃん!」

 

「モ、モブ?」

 

 ぱっと表情が華やいだなのはに、困惑がちに首を傾げる美由希さん。

 対照的な二人の様子を尻目に、俺は尊大に腕を組んで大きく仰け反る。

 

「ハーハッハッハ!

 嫁達の大好きな俺が来たぞ!

 俺が来たからには、もう安心だ。

 こんなモブ野郎など、瞬殺してやろうぞ!」

 

「静香ちゃんが見下しすぎて見上げてるの……」

 

「えーっと、どういう状況?」

 

 細かい事は気にしてはいけない。

 こういうのは、勢いが非常に大事なのだから。

 さあ、コピーロボットはオリ主らしい返事を期待しているぞ。

 

 そんな俺の視線が伝わったのか、曖昧な笑みで頬を掻いていた秀俊君は、やれやれと言わんばかりに肩を竦める。

 

「初対面の人にモブとは、随分と失礼な方のようだ」

 

 おい、待て。

 オリ主はそんな皮肉が効いた返事なんてしないぞ。

 一体、どういう事か聞かせてもらおうか。

 

 とはいえ、なのは達の前なので、今は踏み台転生者として振る舞わなければ。

 あからさまな傲慢さが滲む顔で、俺はふんと鼻を鳴らして口角を吊り上げる。

 

「モブにモブと言ってなにが悪い?

 なのは達は俺の嫁だ。貴様のような雑魚が触れていい女じゃない」

 

 髪を払ってそう告げると、コピーロボットはひくりと頬を痙攣させた。

 自然と目つきが険しくなっており、どうやら予想以上に頭にきているらしい。

 

 ふっふっふ。

 上手くオリ主との対立を演出する事ができたぞ。

 これで、なのは達がオリ主の方に隠れて、嫁に近づくなと攻撃すれば……うん?

 

「おい、なのは。

 なんで俺の背中に隠れているんだ?」

 

 首だけ振り向いて問いかければ、秀俊君をシッシッと手で追い払っていたなのはが、露骨に顔を歪めて目を背ける。

 

「なんか、あの人気持ち悪い」

 

 ちょっと、言葉がキツくないですかね。

 ほら。コピーロボットがショックのあまり、顔が固まって白目を向いているぞ。

 元が俺だっただけに、メンタルの弱さは重々承知しているのだ。

 秀俊君の心中を深く察せられ、思わず手を合わせて拝んでしまう。

 

「くっ……!」

 

 おい、待て!

 化けの皮が剥がれかけているぞ、コピーロボット。

 美由希さんも目を丸くして驚いているし、このままではオリ主がオリ主でなくなってしまう。

 

「ひ、秀俊君?」

 

 恐る恐るといった様子で、尋ねる美由希さん。

 訝しさが含まれた声色に気がついたようで、コピーロボットは表情を引き締める。

 

「アハハ。

 すみません。まさか、いきなり気持ち悪いと言われるとは思っていなかったので」

 

「うちのなのはがごめんね?

 こら、なのは! 秀俊君が傷ついているじゃない!」

 

「うぅー、だって」

 

 そもそも、何故なのははコピーロボットの存在を受けつけないのだろうか。

 別に見た目に不潔感はないし、性格だってオリ主らしく優しい。

 まさか、こんな序盤で躓いてしまうとは。

 

 とりあえず、今は目の前の偽オリ主を追い払っておこう。

 踏み台転生者らしくカッコよくな!

 

 勢いよく地を蹴り、コピーロボット方へと飛び込む。

 腰だめに構えた拳を振りかぶると、相手が掌を向けて受け止めてきた。

 辺りに小気味よい音が鳴り、風が吹いて俺の銀髪を靡かせる。

 

「これ以上なのはに近づくなら、お前をぶっ飛ばす」

 

「いきなり攻撃してくるなんて、野蛮な人だね。

 そんな危険な人に、高町さんを任せておけないよ」

 

 目を合わせて火花を散らし、互いに不敵な笑みを交わす。

 出し抜けに足を蹴り上げ、もう片方の手でガードしたコピーロボットを目に止めた後。

 無理矢理回転しながら拘束を外した俺は、勢いを乗せた回し蹴りを放つ。

 あっさりと躱されてしまうが、なのは達との距離を離す事に成功。

 

 とんっと軽やかに着地した俺を見て、飛び退いた秀俊君がなのはに声を掛ける。

 

「高町さん。

 この人と一緒にいると危ない。

 彼女のところより、僕のところにおいで」

 

 手を差し伸べるその姿は、控えめに言っても非常に絵となっていた。

 しかし、それがオリ主らしい行動なのかと言えば、全くもってそんな事はない。

 お前はどこの劇団員だよ!

 ロミオとジュリエットでもオマージュしているのか?

 

 ──ああ、なのは。どうして君はなのはなのだ!

 

 おかしい。

 こんなのオリ主じゃないわ。

 というか、普通の人間としても鳥肌が立つレベルのキモさがあるのだが。

 こんな事を素面で言うとか、ちょっと秀俊君の正気を疑ってしまう。

 

《団栗の背比べですね》

 

 うん?

 今、ドラちゃんが念話してきた気がするのだが。気のせいだろうか?

 まあ、いい。とりあえず、眼力を込めてコピーロボットへと抗議を伝える。

 すると、小憎らしいあいつが、俺だけにわかるよう微かに口角を上げた。

 

 ……こ、こいつ。

 オリ主をする気がないな!?

 だから、そんな変な言動や行動を取っていたのか。

 なんてやつだ。俺の踏み台を邪魔するとは。

 

 思わず唖然としていると、俺の背中から顔を出したなのはが舌を見せつける。

 

「べー!」

 

「ちょ、なのは?」

 

「ふぅ……どうやら、高町さんは彼女に洗脳されているようだ。

 ここは素直に引き下がるとしよう。

 次会った時に、貴女の事を解放してみせるよ」

 

 コピーロボットが首を竦めた後、俺達に手を振って踵を返す。

 遠ざかっていく背中を見送っている俺に、前に回り込んだなのはがジト目を向ける。

 

「静香ちゃん。あれ、誰?」

 

「だれとは?」

 

「なんか、あの人静香ちゃんぽかったの」

 

 す、鋭い。

 コピーロボットなので、魔力資質や細やかな癖などは俺と変わらない。

 なのははそれを敏感に察し、俺がなにかしたのではないかと疑っているのだろう。

 

 ……あれ?

 つまり、俺がオリ主的な行動をすると気持ち悪いという事?

 

「あ、あれ? 静香ちゃん?」

 

 がっくりと膝を折り、項垂れて四つん這い。

 頭上から困惑気味ななのはの声が落とされるが、俺は間接的に悪口を言われた事にショックを受けていた。

 

 わかってはいたよ、うん。

 俺みたいな存在が、オリ主みたいなカッコイイ行動ができない事は。

 でも、改めてなのはに突きつけられると、かなり心に来るなぁ。ガラスのハートに右ストレートを貰った気分だ。

 

「……私、ついていけない」

 

 ポツリと寂しげに漏れた美由希さんの言葉が、哀愁漂う付近を駆け抜けたのだった。

 

 

 

 

 


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