女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第二話 アリサちゃんの小学校デビュー

 なのはを嫁にしてから、幾分か時が経ち。

 現在、俺は私立聖祥大付属小学校の制服に身を包んでいた。

 今日は聖祥小学校の入学式で、晴れて俺もピッカピカの一年生というわけだ。

 こんな姿でも愛してくれる優しい両親に撮影されながらも、つつがなく入学式は終わる。

 クラス表を見てみると、どうやらなのはと同じクラスらしい。

 

「静香ちゃん、一緒のクラスだね!」

 

「ああ、そうだな」

 

 隣で喜色の声を上げるなのはを尻目に、俺はクラス表に隅々まで目を通していく。

 すると、明らかに浮いている名前を発見した。

 

「アリサ・バーニング」

 

「バニングスって書いてあるよ?」

 

 あ、本当だ。素で間違えた。

 ともかく、名前的に明らかに外国人だろう。

 二次元の世界で、こんな美味しい名前のキャラがモブであろうか。いや、モブのはずがない。

 つまり、この燃え盛るアリサは原作キャラだ!

 俺の嫁センサーもビンビン鳴っているし。

 

 ふっふっふ。

 なのはに続いて二人目の嫁。

 天は俺にハーレムを作れと囁いている!

 いや、神様のお蔭でこうしているんだし、むしろ天からのお墨付きだな。

 ビバ、踏み台転生者!

 

「なのは! 俺に続け! 新たな嫁を迎え入れるぞ!」

 

「新しいお友達なの!」

 

 なのはを連れて教室に入り、目的のアリサ某さんを探す。

 不安げな顔でウロウロしている子供や、早速仲良く会話している子供達。

 新たな環境に胸を踊らせている彼等の中、明らかに目立つ金髪の幼女がいた。

 席に座って鞄の整理をしており、見た目は気が強そうな美少女だ。

 無事に発見し、俺は笑みを深めて彼女の方へと近づいていく。

 相手の方も俺に気がつき、目を向けて笑みを浮かべる。

 

「今日から同じクラスになるアリサ・バニングスよ。

 一年間よろしくね」

 

「俺の名前は小鳥遊 静香だ。

 突然だが、アリサ。お前は今から俺の嫁だからな!」

 

「わたしは高町 なのは! よろしく、アリサちゃん!」

 

「……」

 

 胸を張ってそう告げれば、アリサの表情がピシリと固まった。

 次いで、何故かなのはが笑顔でアリサの胸を殴る。

 ポコッと間抜けな音が響き、なのはは「これで友達だね!」なんて喜ぶ。

 あー、俺が教えた友達なら殴り合いって話。あれを信じてなのははアリサを殴ったのか。

 自分から行動に移れるなんて、なのはも成長したなぁ……お兄ちゃん嬉しい。

 

 目頭を抑えて感動していると、アリサも現状を把握できたようだ。

 瞬く間に顔を真っ赤に染め上げ、ガタリと勢いよく立ち上がって。

 

「ななななななにを言い出すのよ!?

 初対面の人に嫁とかばっかじゃないの!

 ていうか、そもそもなんで女の子のあんたが嫁とか言ってんのよ!

 それに、そっちのあんたはいきなり殴ってくんな!」

 

「おお! 今度の嫁はツッコミスキルが高いな!」

 

「え? 友達になるには殴り合いするんだよ?

 だから、アリサちゃんもなのはを殴って!」

 

「はぁっ!?」

 

 理解できないと首を振り、アリサは俺達を睨みつけた。

 対して、なのははファイティングポーズを取ってかかってこいやと手招き。

 やたら様になるその挑発に、ピキリと額に青筋を立てるアリサ。

 

 とりあえず、俺の発言は無視する事にしたらしい。

 なんだろう、この疎外感。踏み台転生者としては正しいはずなのに、この胸中を過ぎる虚無感は。

 一人で項垂れている間にも、なのは達の会話は続いていく。

 

「来るの、アリサちゃん!」

 

「だから、意味わかんないって言ってんの!」

 

「来ないならこっちから行くよ! やー!」

 

「ああ、もう! やればいいんでしょ、やれば!」

 

 ヤケクソにでもなったのか、アリサは殴りかかるなのはの懐に入り込み、軽く胸を叩く。

 迷いない判断や隙のない足取りから、どうやら彼女は護身術でも齧っているようだ。

 当然、運動神経皆無のなのはが太刀打ちできるはずもなく、アリサにいいようにあしらわれていた。

 少し不服そうにほっぺたを膨らませ、それ以上に嬉しげに目を細めて口を開く。

 

「むぅ……でも、これでアリサちゃんと友達だね!」

 

「……よくわかんないけど、あんたは意外とまともそうね。

 まあ、いいわ。改めて、よろしくなのは」

 

「うん!」

 

 うむうむ、麗しい友情だな。

 いつの間にかクラス中の視線が集まり、二人の出会いを祝福している。

 なのは達もその様子に気がついたのだろう。

 照れ臭そうに頬を赤らめる栗毛ツインテール対し、金髪お嬢様はワナワナと身体を震わせる。

 やがて、キッと鋭い眼光で俺を射抜き、涙目になりながら駆けだしていく。

 

「おうちかえる!」

 

「バ、バニングスさん!?」

 

 教室に入ってきた先生と入れ違いになり、そのままアリサはこの場を去っていった。

 ……ファーストコンタクト、失敗?

 

《間違いなく》

 

 いや、逆に考えるんだ。

 今の様子から、アリサは俺の事を恨んでいるだろう。

 なんせ、俺達が騒いだせいで小学校デビューに失敗したんだから。

 つまり、これから嫁嫁言えば踏み台転生者らしく嫌われる!

 

《はぁ、駄目だこりゃ》

 

 なんだよ、ドラちゃん。

 念話までして俺の悪口を言わないでくれ。

 とにかく、これはこれで結果オーライと言えるだろう。

 まあ、幼女に嫌われるってかなり心にくるんだと理解したけど。

 世の中の踏み台転生者は凄いなぁ。嫌われてもめげずに頑張れるんだもん。

 改めて、先人達のメンタルに畏敬の念を抱きながら、俺は慌てた様子でアリサの後を追いかけようとするなのはを羽交い締めにするのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

 結局、あれからアリサは顔を真っ赤にして帰ってきた。

 クラスの子から事情を聞いていた先生は、そんな彼女を優しい目で歓迎。

 それから、休み時間にはアリサの周りに子供達が集まり、色々と話を聞いていたりしていた。

 どうやら、あの一連の流れは少年少女に受けが良かったらしい。

 結果的に、小学校デビューに成功したアリサちゃんなのであった。

 

 で、放課後の現在。

 俺は、アリサにガンをつけられている。

 今にも胸倉を掴みそうな表情で、彼女は眉尻を跳ね上げる。

 

「それで、いきなり嫁なんて言ったあんたの弁明を聞きましょうか」

 

「嫁は嫁だろ。なに言ってんだ?」

 

「ねぇ、殴ってもいいかしら?」

 

 笑顔で拳を掲げ、シュッシュッとシャドーボクシングを披露するアリサ。

 小気味よい風切り音が鳴り、当たればただでは済まないと理解できる。

 うーん。踏み台転生者って、嫁に暴力を振るわれていたっけ?

 なんか、俺が期待していた展開と違う。

 もっとこう、ストーカーを見る目で逃げるアリサを追いかける場面を想像していたんだけど。

 そして、なのは。友達、友達と連呼しながらアリサの真似をしなくていいから。

 

「わたしも殴り合いするの!」

 

「なのは、あんたは大人しくしてなさい。

 私はこいつの正気を確かめるだけだから」

 

「むー! アリサちゃんばっかり楽しんでズルい!」

 

 口を尖らせたなのはの言葉を聞き、アリサは額に手を置いてため息をつく。

 

「はぁ……なんか、なのはを見ていたら気が抜けたわ。

 で、改めて聞くわ。いきなり嫁と言った理由はなに?」

 

「まあ、簡単に言うと。

 踏み台転生者を目指しているから、可愛い女の子を侍らせたい」

 

 どうだと言わんばかりに告げれば、目をパチパチと瞬きさせるアリサ。

 次いで、こめかみに指を当ててグリグリと押す。

 

「ごめん、あまりにも馬鹿らしくて反応できなかったわ。

 つまり、私となのははあんたの愛人かなんかって事でいいの?」

 

「愛人ではない。皆が嫁だ」

 

「……ねぇ、なのは。こんな馬鹿は放っておいて、私と友情を育みましょう?」

 

「え、駄目だよアリサちゃん。

 なのは達は友達になったんだから、もう静香ちゃんの嫁なんだよ?」

 

 キョトンと首を傾げるなのはを見て、アリサはジト目で俺を見やる。

 

「あんた、なのはに嫁の意味を教えてないの?」

 

「あー、そうだな。教えそびれた」

 

 まあ、そろそろ教えてもいい頃合だと思っていたが。

 これで、なのはとアリサに嫌われて踏み台転生者としての面目躍如だ。

 目線でなのはに教えておいてと伝えれば、どうやら上手く受け取ったらしい。

 深いため息をついた後、アリサはなのはを連れて教室の隅に行く。

 

 暫くゴニョゴニョと内緒話をすると、なのはが耳まで真っ赤にする。

 チラチラと俺の方に目を向け、いやいやと首を振っていた。

 正直、話の内容が非常に気になるな。

 ドラちゃん、レッツ盗聴!

 

《なんですか?》

 

 冷たい声が返ってきた。

 ブリザードの如き薄ら寒い声音に、俺は慌てて言葉を重ねる。

 

『いやいや!

 今のはジョークだから。

 流石に、女の子の内緒話を知ろうとするほど腐ってないって!』

 

《……まぁ、そういう事にしておきます》

 

『よっ、流石ドラちゃん!

 懐の広さはデバイスいちー!』

 

 なんて内心でドラちゃんとふざけあっていると、アリサ達が戻ってきた。

 モジモジを身体を揺らしながら、なのはは頬を赤らめて俯く。

 

「し、静香ちゃんはわたしと結婚したかったの……?」

 

 重い。発言が重いぞなのは。

 俺のはほら、ただのファッションハーレムだから。

 実際はオリ主さんがなのは達を幸せに……幸せにしてくれるのか?

 待て。よく考えろ。そもそも、原作主人公は誰なんだ?

 原作主人公が男なら、オリ主よりそいつがなのは達を幸せにしてくれるだろう。

 ……閃いた!

 

「なのは!」

 

「ひゃい!」

 

「来るべき時まで、お前は俺の嫁だ!」

 

「う、うん?」

 

 要領の得ない顔で首を捻っているが、俺は新たな事実に気がついてしまったのだ。

 つまり、この作品は異能バトル物。

 そして、なのはとアリサは原作主人公のハーレム。

 なるほど。それなら俺が魔力を持っているのにも頷ける。

 恐らく、高校生ほどになったなのはの元に、原作主人公が現れるのだろう。

 

 だから、俺がやるべき事は一つ。

 原作主人公に対して、踏み台転生者になる。

 これなら、原作開始までなのは達と楽しめ、原作ではかませ犬のようにやられればいい。

 我ながら完璧な作戦だ。

 後は、原作開始までなのは達に絡み続けよう。

 

「その腹立たしい顔をやめなさい」

 

「安心しろ、アリサ!

 お前も平等に愛しているからな!」

 

「だ、か、ら! 私はあんたの嫁でもなんでもないって言ってんでしょ!」

 

「みんな静香ちゃんの嫁で仲良くなれるの」

 

「なのはも納得してんじゃないわよ!」

 

 こうして、じゃれ合うのも楽しいな。

 そのうち嫌われるのがちょっぴり寂しいけど、俺は踏み台転生者として頑張るぞ。

 楽しくなりそうな学校生活に、思わず笑みを零すのだった。

 

 

 

 

 


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