女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第二十話 小鳥遊探検隊、上陸!

「──ついたね」

 

 そう告げると、船長は酒を喉に流し込む。

 美味しそうに堪能した後、口元を拭って鋭い声を上げる。

 

「野郎ども! 錨をおろせ!」

 

『おうっ!』

 

 船長の命令を皮切りに、海賊達は四方に散って各々の役割を果たしていく。

 

「ほぇー」

 

 精力的に動く彼等を見て、俺となのははただただ圧倒されていた。

 現在、俺達は船長の指示である島へと赴いている。

 雑用船員として働いていたのだが、今の俺がやる事はない。

 せいぜいが、海賊達の邪魔にならないよう、端っこにいるだけだ。

 

「あんたらも来るかい?」

 

「来るって?」

 

 近寄ってくる船長に言葉を返せば、彼女はニヤリと笑って懐から一枚の紙を取り出す。

 渡されたそれを見てみたところ、どうやらこの島の地図らしい。

 島の形はドクロのようになっており、そこの右目の部分にバツマークが……って!

 

「気づいたかい?」

 

「も、もしかして宝の地図!?」

 

「え、ホント!」

 

 なのはも顔を覗かせてきたので、バツ印の部分に指を添えて教える。

 

「ほら、これとかいかにもって感じがしないか?」

 

「うんうん!

 なんか、テレビとかである宝の地図って感じ!」

 

「てれび? なんだい、そりゃ」

 

「いや、こっちの話」

 

 にしても、まさかこの目で生の宝地図を見る事が叶うとは。

 最近は、ずっと船上の掃除ばかりしていたから、清掃員になったつもりだったな。

 しかし、ようやく海賊らしい行動ができる。冒険、お宝、財宝、ガッポガッポ!

 

「うわぁ……静香ちゃんの顔が」

 

「アッハッハ!

 欲に塗れて結構結構! それでこそ、人間ってもんさ!」

 

 ドン引きした表情のなのはに、腹を抱えて大笑いする船長。

 失敬だな。なのは達の言い草では、まるで俺が欲深いみたいではないか。

 俺はただ、純粋に冒険心を擽られているだけで、決して金銀財宝に目が眩んでいるわけではない。

 ないったら、ないのだ。

 

「だから、俺の反応は普通だからな!」

 

「そういう事にしておくの」

 

「尻に敷かれているねぇ」

 

「そ、そんな事ないし」

 

 ないよな?

 時々、なのはがオカンっぽく見える時があるけど、俺は尻に敷かれていない、はずだ。

 亭主関白系踏み台転生者を目指しています。

 ……若干、我ながら難しいと思ってしまうのが、なんとも言えないが。

 

 そんなこんなしている間に、船は無事に島の沿岸部へと停泊。

 板が取り付けられ、海賊達が慣れた様子で降りていく。

 

「さて、あたい達も下に行くよ」

 

「了解しました、キャプテン!」

 

 ノリで敬礼すると、苦笑いした船長が板を伝って向かう。

 無言で佇んでいたシグナムも続き、俺達は島に上陸する事に成功した。

 

 地面は岩盤地帯になっており、岩がゴロゴロと転がっている。

 視線の先は木々が乱立している事から、どうやらここは森と繋がっているらしい。

 

 辺りを見渡している俺を尻目に、船長は手際よく海賊達に指示を出す。

 

「さっさと用意しな!」

 

『おうっ!』

 

 四方八方に散る彼等を尻目に、俺はきせかえカメラを取り出す。

 

「あれ、着替えるの?」

 

「ああ。

 今の海賊衣装も素晴らしいが、やはりこれから探検をするからな。

 なのはもどうだ?」

 

「うーん、わたしも服を変えたいな」

 

 と、いうわけで。

 踏み台としての高スペックを駆使して、そこそこの画力を発揮した俺。

 無事に紙に服を描け、それをきせかえカメラにセットしてパシャリ。

 

「なんだい、その服は?」

 

「ふっふっふ。

 俺達の中では探検と言ったら、この服なんだよ」

 

 サファリパークとかでありそうな、帽子とジャケット。

 背にはリュックもあり、これで探検の準備は万端。

 

「相変わらず、静香ちゃんの道具はとんでもないよね」

 

「だろう?

 道具の手柄は、俺の手柄。俺の手柄はもちろん、俺のもの。

 どうだ、惚れたか?」

 

「その考えはおかしいの」

 

 なのはには、ガキ大将の偉大な論理が理解できなかったか。

 踏み台転生者ともマッチしている、素晴らしい理論なのだが。

 お前の心は俺のモノ。俺の心も俺のモノみたいな……あれ、なんか途端にヤバくなったな。

 

「船長! 付近に危ない存在はいませんでした!」

 

「わかった。

 じゃあ、まずはあたいがシグナムと偵察してくる。

 おまえらは船の見張りを頼んだよ!」

 

『了解』

 

 一糸乱れぬ動きで、船長に返事をした海賊達。

 やはり、船長は彼等に慕われているんだな。そうでもなければ、こんな素直に言う事をきかないし。

 

「というか、自分で見にいくのか?」

 

「当たり前さね。

 最初にお宝を見るのは、このあたいだよ」

 

「ふーん」

 

 自ら最前線に立つ、上司か。

 戦争物でそういう将軍は、大体兵士達に慕われていた。

 それと同じようなものだろう。

 まあ、海賊と兵隊では考えとかが違うのかもしれないが。

 

「それより、行くよ。ついてきな」

 

「あいあいさー!」

 

 羽織を翻して進む船長に、警戒した素振りで追随するシグナム。

 俺となのはも彼女達に続き、こうして四人で島の探検をするのだった。

 

 

 ♦♦♦

 

 

「小鳥遊探検隊は現在、森の中にいます」

 

「見た事もない種類の木があり、わたしことなのはも興奮しています」

 

「あんたら、なにしてんだい……」

 

 呆れた表情を向ける船長に、俺達は揃って頬を掻く。

 

「いやぁ、なんか冒険してるとテンションが上がっちゃって」

 

「テレビとかでしか見ないから、楽しいの!」

 

「……はぁ。

 連れていくのを間違ったかね」

 

「そういえば、どうして俺達を一緒に連れていこうとしたんだ?」

 

 その言葉を聞き、ふとある事が気になった。

 構えていたカメラを下ろした俺は、額に手を置いている船長に尋ねる。

 すると、彼女は口角を上げて。

 

「もちろん、あんた達が魔法を使えるからに決まってる。

 あたいが使う気はおきないけど、あんた達が使うのは止めないからね。

 むしろ、あたいの肉壁になってくれれば嬉しいねぇ」

 

 くつくつと嗤う、船長。

 流石に冗談だと思いたいのだが、彼女の瞳からは言葉の真偽は読み解けなかった。

 

 今更だけど、船長って海賊なんだよな。

 俺達に気を遣ってくれたのか、船長達が他の海賊と争っている場面は目撃しなかったが。

 実際には、何人もその手にかけているのだろう。

 

 冒険を、満喫するのはいい。

 すずか達に見せるために写真も撮っているし、こうしてなのはとも楽しんでいる。

 だけど、船長達の事は、心から信用してはダメだ。

 万が一、彼女の言う通り、俺達が囮にされる可能性があるから。

 ……なのはが、危ない目に合わないようにしなければ。

 

 密かに決意していると、俺達は開けた場所に躍り出た。

 目の前には大きな遺跡らしき建物があり、どうやら中に地図に記されている宝があるらしい。

 

「この中に入るんだよな?」

 

「そうさ。

 地図によれば、この中のようだしね……まあ」

 

 途中で言葉を区切ると、船長はある方角に視線を転じた。

 同時にシグナムが前に出て、腰に靡いている長剣の柄に手を添える。

 

「主。お下がりください」

 

「頼んだよ、シグナム」

 

「御意」

 

 船長に激励されたからか、シグナムの全身からはやる気が迸っていく。

 対して、なのはもドラちゃんを握り、真剣な目で彼女の横に並ぶ。

 

「む。お前は下がっていろ」

 

「ううん。わたしも、シグナムさんと一緒に戦う」

 

「いいさ。お嬢ちゃんの好きにさせな」

 

「……主がそう仰るのなら」

 

 若干不服そうだが、どうやらシグナムは納得したらしい。

 横目でなのはを捉えた後、微かに口元を緩める。

 

「足でまといにはなるなよ」

 

「大丈夫!

 シグナムさんに、魔法の使い方を教えてもらったから」

 

「……ふっ、そうか」

 

 今、シグナムは確かに笑った。

 他の人にとっては、笑いとも言えない小さな変化だったが。

 なのはの言葉を聞いて、彼女は笑みを零した。

 

 流石は、なのはだ。

 この短期間で、シグナムの心を解きほぐしたのだから。

 もちろん、まだ完全にとはいっていないだろう。

 しかし、少なくとも今までのシグナムとは、雲泥の差だ。

 

 心の中でなのはを賞賛していると、俺の耳に草木が揺れる音が耳に入った。

 徐々にこちらに近づいていき、やがて茂みから複数の肉食獣が飛び出す。

 

「ふっ!」

 

 いつの間にか、長剣を鞭状に変化させていたシグナムは、それを巧みに扱って獣達を吹き飛ばした。

 

「ディバインシューター!」

 

《Divine Shooter》

 

「シュートッ!」

 

 なのはがそう叫ぶと、三つの桜色の魔力弾が出現。

 弧を描いて飛んでいき、シグナムの攻撃外にいた肉食動獣達へと着弾する。

 彼等はこの世界では異様な攻撃方向に、タジタジな様子だ。

 耳を垂らして戦意が下がっており、こちらを睨む視線は弱々しい。

 

「やるじゃないかい」

 

 じりじりと後ずさる肉食獣達を見て、船長は満足げに口角を上げた。

 彼女の言う通り、俺もなのはの手際の良さに驚いている。

 

 空間把握能力がずば抜けているのだろうか。

 小学生とは思えない采配は、シグナムと並んでいても違和感がない。

 前衛を務める騎士と、彼女の穴を的確に埋める魔導師。

 流石に完璧とは口が裂けても言えないが、少なくとも連携には見えるだろう。

 

「流石はなのはだな」

 

 原作キャラ云々、だけではない。

 常に一緒にいたからこそ、なのはが弛まぬ努力をしていた事を知っている。

 言葉一つ逃さぬよう、シグナムの話を噛み砕いて自身の糧にしていたのだ。

 よってこの結果は、必然とすら断言できる。

 

「こりゃ、俺は必要なかったかな」

 

 一応、俺も空気砲を構えていたけど、なのは達なら大丈夫そうだ。

 そんな俺の考えを肯定するように、ほどなくして肉食獣達は茂みの中に消えていく。

 暫く警戒を解いていなかったが、やがてシグナム達は息を吐いて武器を下ろした。

 

「お疲れー」

 

「ふぅ……どうだった、静香ちゃん」

 

「うむ。流石俺の嫁だな! 惚れ惚れするぐらいカッコよかったぞ」

 

「えへへ、そうかな?」

 

「そうだな。魔法を覚えたてにしては、私も良かったと思う」

 

「も、もー! みんなで褒めないのー!」

 

 頬に手を当てながら、もう片方の手をパタパタ振っているなのは。

 柔らかそうなほっぺたは赤らんでいて、照れている様子が一目瞭然だ。

 

《ところで、マスター》

 

 なのはの可愛らしい仕草に癒されていると、脳内でドラちゃんの声が響いた。

 

 いきなり、どうした?

 なにか問題でも起きたのか?

 

《いえ。ここ最近のマスターって、ぜーんぜん活躍していないなぁ、と思っただけです》

 

 ……。

 

《まあ、マスターですし仕方ありませんよ。元気出してください。

 例え、今後のマスターが役立たずでも、私は支えますから》

 

「次は俺が戦う!」

 

「え、突然どうしたの?」

 

 なのはが目を丸くして問いかけてくるが、気にせず俺は意気揚々と先頭で歩く。

 

 危ない危ない。

 このままではドラちゃんの言う通り、ただのモブ美少女として終わるところだった。

 俺も活躍して、なのは達に良い部分を見せなければ。

 

 それに、今回は原作に備えた良い練習になる。

 原作主人公やオリ主がいつ現れるのかわからないが、今のうち戦闘に慣れておけば、本番でそれらしい踏み台行動を取れるだろう。

 俺は余裕のある、優雅な踏み台転生者を目指すのである。

 

「さあ行こうすぐ行こう今すぐ行こう!」

 

「……主、どうしますか?」

 

「好きにさせな。自分から肉壁になってくれるって言っているんだからね」

 

「待ってよ静香ちゃんー!」

 

《やりました》

 

 背後から聞こえる皆の声をよそに、俺は目を光らせて来るべき襲撃に備えるのだった。

 

 

 

 

 


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