女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第三話 VSアリサとすずか

 許可なくアリサを嫁にしたのに反して、俺達の仲は意外と良好だった。

 あれから避けられるかと思ったのだが、なんだかんだ三人でつるむ事が多い。

 俺がふざけてなのはが天然ボケをかまし、アリサがツッコミを放つ。

 主にそんな感じで回っている。

 本当に、色々な意味でアリサと仲良くなれてラッキーだな。

 正直、アリサとは面白さの関係で嫌われたくないと思うほどだ。

 まあ、踏み台転生者としての行動はやめないんだけどな!

 

「待ちなさい!」

 

「ははは、アリサは照れちゃって可愛いな!」

 

「ぶっ飛ばすっ!」

 

 走りながら振り向き、笑顔でそう告げた俺を見て、アリサは表情を怒りに染めて足のスピードを上げた。

 いやー、踏み台転生者として言いたい言葉ランキング、三位を言えて満足満足。

 廊下を走ると先生に怒られるのだが、その辺は大体誤魔化している。

 ともかく、何故俺がアリサに追いかけられているかというと。

 

「嫁を撫でただけだろ? そんなに怒る事ないじゃないか」

 

「じゅ、授業中に撫でるやつがいるかー!」

 

「なるほど。授業中じゃなきゃ撫でてほしいと。

 はっはっは。アリサはツンデレさんだな。そんな嫁も愛しているぞ!」

 

「むっきー! 絶対ボコす!」

 

 いかんいかん。アリサをからかうのが面白すぎて、つい必要以上に弄ってしまう。

 このままだと昼休みが終わってしまうし、教室で待っているなのはが可哀想だ。

 ……お、あそこを使おう。

 下半身に力を入れて速度を上げ、角を左に曲がる。

 直後にポケットから安心と信頼の“通り抜けフープ”を取り出し、壁に張りつけた。

 すると、フープの中が開き、外の景色が映る。

 

「よっと」

 

 穴をくぐり抜け、通り抜けフープを外せばあら不思議。

 俺の姿が消え失せてしまった!

 廊下に残していたサーチャーで映像を見ると、キョロキョロと辺りを見回すアリサがいる。

 

『あいつどこ行ったの!

 いつもいつも消えちゃって、どうなってるのよ……』

 

 首を捻りながら、金髪の鬼はこの場を去っていった。

 ふっ、今回の鬼ごっこも俺の勝ちだな。

 やっぱり、アリサはバニングスより、バーニングの方が似合っていると思う。

 主に、直ぐに熱く燃え盛っているところが。

 

《マスターに翻弄されて、アリサさんが可哀想です》

 

 皆まで言うな、ドラちゃん。

 あれはアリサなりのスキンシップなのだ。

 素直になれないツンデレさんは、こうして好きな人を追いかけ回して二人っきりの時間を作っているって事だよ。

 

《それにしては、アリサさんの表情が殺意に染まっていましたが》

 

『あ、あれはアリサなりの愛情表現だし!』

 

《声、震えていますよ》

 

『ふふふ震えてねーし!』

 

《いつかアリサさんにボコボコにされそうですね》

 

『うぅ……助けてドラちゃん!

 アリサと仲直りする道具を出して!』

 

《素直にボコられましょう、静香ちゃん》

 

 優しさが滲んだドラちゃんの声音が辛い。

 まあ、今のやり取りはもはやお約束になったじゃれ合いなんだけどね。

 ドラちゃんもいい感じに柔らかくなって良かった良かった。

 ……最近、本気で俺を見捨てようとするのは如何かと思うが。

 

「さってさって。昼休みはその辺をぶらぶらしていようかな……あっ」

 

 通り抜けフープをポケットに仕舞って振り向くと、目を丸くして立ちすくむ少女がいた。

 紫色の髪を靡かせ、口元に両手を当てて俺の顔を凝視している。

 瞬間、俺の脳裏で嫁センサーが警鐘を響かせた。

 

「い、今、そこから出てきたよね?」

 

「……気のせいではないデースか?」

 

「え、でも」

 

「そんな事より!」

 

 大きな声で遮れば、少女はピクリと肩を竦ませた。

 なんか仕草が可愛い子だな。昔のなのはを彷彿とさせる純粋さだ。

 今のなのははなぁ。当たり屋的に殴り合いを挑んでいるから、正直見ていて危険人物にしか思えない。

 本人曰く、友達が沢山欲しいから殴っているのだとか。

 誰が可愛い嫁をこんな残念な人にした!

 まあ、俺なんだけど。バレたらなのはの家族の人達に怒られそうで、いまだになのはを嫁にするって挨拶にいけていないよ。

 なのはの家は喫茶店を開いているので、本当は行ってみたいんだけど。

 

「ど、どうしたの?」

 

 と、いけないいけない。声を上げたまま少女を無視していた。

 改めて、咳払いを落としてから、俺は爽やかな笑みを浮かべる。

 

「お前も今日から俺の嫁になれ!」

 

「ごめんなさい」

 

 告白してから三秒で振られた……。

 ヤバい。胸に巨大な矢が突き刺さったような痛みを感じる。

 これが、踏み台転生者の宿命だというのか。

 彼等は日々この痛みと戦い、原作キャラ達に嫁と言っていたんだな。

 まだ俺はそこまでの境地に至れていない。これからも頑張らなければ!

 

「ふ、ふふ。嫁は俺を虐めるのが好きなようだな」

 

「ううん、そんな事ないよ。

 ただ、ほとんど知らない人にいきなり告白されても困るでしょ?

 だから、ごめんなさい」

 

「…………まずはお友達からお願いします」

 

 項垂れてそう告げれば、目の前のサド少女はにっこりと微笑む。

 

「うん、それならいいよ。よろしくね?」

 

「名前は小鳥遊 静香。そっちの名前は?」

 

「月村 すずかだよ。すずかって呼んで、静香ちゃん」

 

「わかったよ、すずか」

 

 すずかには逆らえない迫力がある。

 まさか、踏み台転生者である俺がここまで押されるとは。

 ……いいだろう。お前は俺の生涯の好敵手だ。

 いつか嫁と言っても嫌がられないようにしてやる!

 密かな決意を固めていると、背後から爆発を起こしそうな声が聞こえてくる。

 

「見つけたわよ!」

 

「その声は、嫁か!」

 

「アリサよ! 嫁じゃないって何度言わせればわかるの!」

 

「ふっ、愚問だな。俺はアリサの全てを愛しているぞ!

 だから、お前は俺の嫁だ!」

 

「意味わかんない!」

 

 コツコツと靴音を鳴らして駆けだすアリサ。

 重心を前方に傾け、彼女は両腕をコンパクトに纏めて双眸を光らせる。

 対して、俺も身構えて迎撃体勢を取っていく。

 

「え?」

 

 困惑気味なすずかを尻目に、俺は放たれたアリサの殴打をいなす。

 一歩踏み込んでジャブを撃つが、後退したアリサに躱されてしまう。

 

「ふふん。今日こそはあんたのいけ好かない顔面をぶん殴ってやるわ」

 

「嫁の愛なら受け止めたいが、あいにく俺はMではないんでね!」

 

「嫁って言うなー!」

 

 それから、俺達は土煙を巻き起こしながら攻防を繰り広げていく。

 巧みな位置取りで攻撃を当たらせないアリサに、身体能力で強引に回避する俺。

 一進一退の戦闘で膠着状態になるが、今日の俺はひと味違うぞ。

 アリサの隙をついてポケットに手を突っ込み、取り出した物を彼女の口に当てる。

 

「むー!?」

 

「まあまあ、そんなに怒ってたら身体に悪いだろ?」

 

 俺がそう告げれば、先ほどまで怒りの炎で燃えていたアリサの瞳が、みるみるうちに平常時の色に戻っていったのだ。

 パチパチと瞬きをした後、アリサは首を傾げて口を開く。

 

「なんか、落ち着いたわ」

 

「そりゃあ良かった」

 

 クルリと掌に持つ棒を翻し、ポケットにしまい込む。

 今俺が使った道具は、“まあまあ棒”という物だ。

 これは怒っている相手に棒を当てると、今のアリサのように怒りを鎮める事ができる。

 ただ、怒りを無理矢理抑え込んでいる状態に近いので、やり過ぎると爆発して大変な事になってしまう。

 つまり、何事もほどほどにしようというわけだな。

 

「なにが起こったの?」

 

 疑問符を浮かべ、俺に訝しげな眼差しを送るすずか。

 あー。今のまあまあ棒はともかく、通り抜けフープは誤魔化せないよなぁ。

 俺の四次元ポケットはドラえもんのとは違い、意識してポケットに手を入れれば使える。

 どのポケットでも発動するので、こうして聖祥小学校のスカートポケットでも問題ないというわけだ。

 だから、質量的に通り抜けフープがポケットの中に入るのはありえない。

 

 ……素直に教えるのは、なんか嫌だな。よし、せっかくだし俺の好感度アップを狙うか。

 すずかに向き直って笑みを浮かべ、毅然と胸を張って口を開く。

 

「今のはマジックだ。

 どうだ、凄いだろう? 惚れたか?」

 

「マジックには見えなかったけど」

 

 惚れた云々に関してはスルーするのね。

 すずかの対応が塩過ぎて、俺の心はハートブレイクを起こしそうだ。

 思わず涙目になる俺を尻目に、アリサがすずかの元に近づく。

 

「あんたって、同じクラスの月村よね」

 

「そういう貴女は、バニングスさん?」

 

「アリサでいいわよ。

 それにしても、あんたって可愛いカチューシャをしているじゃない」

 

 アリサに褒められたすずかは、嬉しそうにはにかむ。

 

「えへへ、すずかでいいよ。

 うん、これはお気に入りなんだ」

 

 俺を置いて、二人の世界を作るアリサ達。

 楽しげに会話しているのを見ると、心の奥底から黒い思いが湧き上がってくる。

 前世で培った理性では駄目だとわかっているんだけど、それでも感情が抑えきれない。端的に言って、アリサを取られたような気がして悲しい。

 自然とふくれっ面になり、俺は感情に従うまますずかのカチューシャを奪う。

 

「あっ!」

 

「嫁の物は俺の物だ!」

 

「ちょっと、返しなさいよ!」

 

 手を伸ばすアリサから離れ、頭にカチューシャをつけて手招きする。

 

「返して欲しかったら、力ずくで取り返してみろ!」

 

「上等じゃない。

 これ以上、あんたの好き勝手にさせないんだから!

 すずか、行くわよ!」

 

「あ、うん!」

 

 駆けだす二人を見とがめた俺は、身を翻して鬼ごっこの延長戦を開始した。

 

《外道……というか、クズですね》

 

『う、うるさいやい!

 勝手に身体が動いちゃったんだよ!

 なんか俺一人を除け者にしているみたいで、凄く寂しくなっちゃったの!』

 

《はぁ。あの三人の中で、もっとも精神年齢が低いのはどうなんでしょうか》

 

 それは、正直俺も我ながらどうかと思う。

 だがしかし、これはこれで踏み台転生者として正しい姿なのではないだろうか。

 この調子でいけば、アリサ達に嫌われる日も近い。

 

《……好きな子に素直になれない男の子みたいですね》

 

 ……。

 

「はぁっ!」

 

 背後からの気配を察し、俺は右前方に宙返り。

 回転する視界の中、飛び蹴りを放つアリサの行動が目に入る。

 わぁお。アリサは本気で俺を仕留めにかかっているな。

 それでこそ、ツンデレヒロインだ。

 ツンデレは暴力があってこそ映える。だから、どんどん俺に攻撃してこい!

 

「さあ、嫁の愛を俺にくれ!」

 

「だから、そういうのは気持ち悪いのよ!」

 

 うげっと顔を歪めて声を荒らげるアリサ。

 正直、俺もないなとは思っていたけど、踏み台転生者としてのチョイス的には正しいだろう。

 つまり、俺の言葉は間違っていない。

 ……内心で自己弁護しなければ、アリサの言葉が鋭すぎて泣きそうになるのは内緒だ。

 

 足に力を入れてアリサを引き離し、俺は校庭へと躍り出る。

 昼休みも残り僅かなためか、幸いな事に誰もいない。

 よって、ここで好きに暴れても問題ないというわけだ。

 

「へっへっへ。これを使う時が来たな」

 

《うわぁ……》

 

 ドン引きした声を上げるドラちゃんを無視して、俺はポケットから卵型の道具を取り出す。

 サングラスに、黒の帽子に黒の服装。ギャングみたいな見た目のこれは、“ころばし屋”という道具だ。

 後ろに空いている穴に十円玉を入れれば、指定したターゲットを三回転ばしてくれる。

 つまり、これを使ってアリサ達から逃げ切ろうと考えたのだ。

 

「では、早速十円を入れてっと。よし、じゃあ──」

 

「逃げんじゃないわよ、静香!」

 

「──アリサを転ばしてくれ!」

 

 勢いよくそう告げれば、手の中のころばし屋が起き上がった。

 そのまま軽やかに跳んで地面に着地。

 俺の元まで追いついたアリサと俺を挟む位置で、右手の銃を掲げる。

 アリサは困惑げに眉を寄せるが、これで俺は勝ったも同然。

 腕を組んでドヤ顔を見せ、アリサへと告げる。

 

「こいつは、俺の助っ人だ。

 残念だったな、アリサ。今回の鬼ごっこも俺の勝ちだ。

 まあ、嫁に勝利するのは当然だよなぁ?」

 

「助っ人……?」

 

 キュッと靴底を回し、拳を構えて警戒する素振りを見せつけるアリサ。

 即座に対応できるよう目を凝らし、俺達の一挙手一投足を窺う。

 しかし、アリサの警戒は無意味だ。ころばし屋はターゲットを三回転がすまで、決して諦めない。

 つまり、この時点でアリサの負けは必然なのだ。

 

 ふっふっふ。

 膨大な道具の内、的確にその場に合う物を使えるとか。

 俺って天才じゃね!

 これは自画自賛しても許されるべきだろう。

 さてと、有能な俺はここにすずかがいない事にも気がついている。

 あとは、あいつがどこにいるか探すだけ──

 

「わひゃっ!?」

 

 間一髪、飛び退いて銃撃を躱した。

 どういう事だ!?

 なんでころばし屋が俺を攻撃してくるんだ!?

 戸惑いの表情を浮かべる俺と、首を傾げて静観するアリサ。

 二人の視線が注がれる中、ころばし屋は確かに俺へと標準を合わせている。

 

《マスターが命令する前に、アリサさんに名前を呼ばれたからだと思います》

 

「……あっ」

 

 タラリと額から冷や汗を垂らし、ゆっくりと後退していく。

 俺の足取りにあわせて、近寄ってくるころばし屋。

 陽光に照らされたサングラスがキラリと光り、隙のない構えで銃を向ける。

 

「……仲間割れ?」

 

「アリサ!」

 

「な、なによ」

 

 ビクリと肩を震わせた彼女へと、俺は満面の笑みで手を振る。

 

「愛しているぜ、という事でさよなら!」

 

「あ、ちょっ!」

 

 側転をして襲来する弾を避け、その勢いのまま全速力で駆けていく。

 風に乗る俺の疾走は、そんじゃそこらの人には追いつけないだろう。

 とはいえ、相手は確実に三回転ばせるころばし屋だ。

 油断しないで全力で逃げ切ってやる!

 

《自業自得ですね》

 

「うるせーやい!」

 

 ドラちゃんにそう返しながら、俺は身を潜める場所を探すのだった。

 

 

 

 

 


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