女の子だけど踏み台転生者になってもいいですか?   作:スネ夫

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第五話 使い魔は四人目の嫁

 意識を取り戻すと、俺は保健室のベッドで寝ていた。

 なんでも、あのまま嘔吐しながら気絶してしまい、てんやわんやの大騒ぎだったとか。

 なのはは責任を感じて泣き、アリサは凄い目で俺を睨みつけ、すずかはなんとも言えない表情を浮かべていた。

 確かに、すずかのカチューシャを取った俺が悪いのだし、なのはが泣く必要はないんだけど。

 アリサの視線が怖すぎて……嫌われたか?

 

 保健室でお見舞いに来た彼女達に、俺は改めて謝って友情を交わした。

 踏み台転生者としてはらしくない行動だったが、流石にこれは全面的に俺に非がある。

 とりあえず、すずかが許してくれて良かったよ。

 

《代わりに、マスターの道具について教える事になりましたけど》

 

「仕方ない。

 別に教えて困るもんでもないし」

 

 現在、俺は学校から帰って自分の部屋にいる。

 こっそりと弁当を食べ終え、改めて濃かった日にため息をつく。

 今日は色々と会ったなぁ。すずかと友達……じゃない。すずかを嫁にできたし、なのはが覚醒したし、ころばし屋が強かったし、なにより目の前の猫と仮契約を交わしたし。

 

 警戒する目つきでこちらを見つめる猫に、俺は困った表情を返す。

 常日頃原作キャラを嫁と言っているが、いくらなんでも動物に嫁とは言えない。

 他の踏み台転生者達なら、動物でも構わず嫁と言い切れるのだろうか。

 一応、寝ている時にメスだと確認しているので、嫁という言葉自体は間違っていないのだが。

 

「そんなに警戒するなって。

 別にとって食おうってわけじゃないんだからさ」

 

《そうですよ。

 このマスターは普段から複数の女性に嫁と告げる正真正銘のクズですが、実際には行動に移せない救いようのないヘタレですので。

 警戒するだけ無駄です》

 

 ……なきたい。

 

「そ、そういう事だから」

 

 涙を堪えていると、猫はどこか同情するように前足を俺の手に乗せた。

 やっぱり、動物は優しいなぁ。

 人間なんかより、俺の事をよくわかってくれて癒されるよ。

 思わず抱き上げて、頬擦りしていく。

 

「本当に可愛いなぁ!

 もう嫁とかどうでもいいから、俺はお前と結婚したいよ」

 

 そう告げた俺の言葉を聞き、ピクリと耳を動かして反応した猫。

 照れたような素振りを見せ、心なしかほっぺたが赤くなっているような。

 暫く猫と戯れて癒されていると、不意に猫は腕の中から跳躍して床に着地。

 首を傾げる俺を尻目に、己の魔力を高めていく。

 

「な、なんだ?」

 

 困惑していた俺だったが、それも直ぐに驚愕へと変わる。

 何故なら、先ほどまで猫がいた場所に猫耳美女がいたからだ。

 非常な端整な顔立ちで、ショートヘアーの髪型もサラサラしている。

 豊満な身体は男の劣情を誘うだろうし、なにより瞳から垣間見える深い知性が特徴的だ。

 唖然としていた俺だったが、彼女が懐から取り出した帽子を被るところで我を取り戻す。

 

「ば、化け猫だぁぁぁぁ!?」

 

「な、失礼ですね!

 私は猫型の使い魔なだけです」

 

 仰天した俺の言葉を聞き、彼女は不服そうに眉を潜めた。

 いやいやいや、猫が変身って妖怪じゃないか。

 擬人化できるなんて聞いていない!

 

「そう言われてもな……」

 

「そのような存在だと納得してください。

 とりあえず、改めて自己紹介をしましょうか。

 私の名前はリニス。よろしくお願いします」

 

「あ、ああ。俺は小鳥遊 静香。

 好きなように呼んでくれて構わない」

 

「では、静香と呼びますね」

 

 猫──リニスと自己紹介を交わし、向かい合って腰を下ろす。

 

「それで、リニスがあそこにいた理由とかは聞いてもいいのか?」

 

「……できれば、聞かないでくれるとありがたいです。

 まだ、心を整理しきれていないので」

 

「ん、わかった」

 

 素直に頷いた俺を見て、リニスは意外そうに眉尻を上げる。

 

「聞き出さないんですね」

 

「無理矢理聞くのもあれだしなぁ」

 

《細かい所で気が利くマスターは好きですよ》

 

「よ、よせやい!

 照れるじゃねーか」

 

 頬を掻いて目を逸らした俺に、リニスは不思議さが篭った眼差しを送った。

 

「先ほどから気になっていたのですが、どうして静香は男口調なんですか?」

 

「その方が俺らしいから、かな?

 ま、それは俺なりの事情があるだけだな。

 理由を言ってもいいけど、説明しても理解できないと思うぞ」

 

「はぁ、そうですか」

 

 要領を得ない面立ちで頷く、リニス。

 転生云々や踏み台転生者なんて話、普通に俺の気が狂ったとしか思えないだろう。

 実体験しなければ俺だって、遅い厨二病ですねってからかっただろうし。

 と、俺の話は置いておいて。

 

「これからお前はどうしたいんだ?

 一応仮契約はしたとはいえ、本契約はまだだろ?

 言っておくけど、契約破棄するつもりはないからな」

 

 その言葉にリニスは考え込む仕草をし、やがて複雑な表情で頷いた。

 

「私と本契約してもらえませんか?

 ろくに事情も話せない怪しい存在ですが、こうして生きながらえてしまった以上、どうしてもやり残した事ができてしまったので」

 

「いいぞ。

 俺も美人を使い魔にできるのは嬉しいしな」

 

「あら、随分と口が上手いですね」

 

 あっさりと受け流されただと。

 これがアリサだったら、顔を赤くてツンデレってくれる場面なのに。

 リニス、やりおるな。

 口元に手を添えて微笑を零すリニスからは、大人の余裕という雰囲気が醸し出ていた。

 外見年齢は大学生ほどなのだが、もしや思ったより実年齢が──

 

「念のため言っておきますが、私の歳の詮索はしないでくださいね?」

 

「は、はい!」

 

 疑問系だったが、有無を言わせない迫力があった。

 思わず敬語で肯定し、額の冷や汗を拭ってため息をつく。

 そんな俺の様子を見て、リニスは呆れた表情で首を振る。

 

「その辺の機敏はまだまだのようですね。

 静香も立派な女性なんですし、気をつけてくださいよ」

 

「わかってるって」

 

 めっと指を立てて告げるリニス。どことなく叱る事に慣れた雰囲気だ。

 昔のリニスがなにをしていたのかは知らないが、恐らく教師のような職についていたのだろう。

 

「さて、話を戻して。

 本契約の内容はどうしましょうか?」

 

「そうだなぁ……リニスの方は希望はあるか?」

 

「私、ですか」

 

 試しに促してみれば、リニスは顎に手を添えて目を伏せた。

 暫く思案にふけった後、顔を上げて困ったように微笑む。

 

「ある人の無事を確認したい、ですかね」

 

「ふむ。

 それは、一目見るだけで達成できる願いじゃないか?」

 

「いえ、その人に会うのは難しいです。

 それに、私はその人がある程度自立できているかも知りたいので」

 

「なるほどな。

 そいつが今後も大丈夫か確信できるまで見守りたい……って感じか?」

 

 無言で肯定の意を示すリニス。

 しかし、自立と来たか。自立という言葉を使うからには、今のそいつはリニスから見れば危なかっかしいのだろう。

 精神的に脆いのか、肉体的に不安なのか。

 どちらにしても、随分と訳ありな使い魔だったようだな。

 まあ、詮索しないと言ったばかりだし、これ以上は考えないようにしよう。

 

 軽く息を吐いて気持ちを切り替え、俺はどうするべきか思考を巡らせる。

 正直、成り行きで仮契約を交わしたから、特に契約内容なんてないんだよな。

 リニスのような覚悟もないし、かと言って代わりに良さげな内容は……いや、待てよ。

 

 よくよく考えれば、これはチャンスではないか?

 嫁センサーが鳴った関係から、リニスは原作キャラで間違いない。

 そんな彼女が気にしている人も、恐らく原作キャラだろう。

 つまり、ここでリニスと仲良くなっておけば、原作キャラ二人を嫁にできる!

 

 俺はなんて天才なのだろうか。

 我ながら、自分の冴え渡る頭脳が末恐ろしい。

 踏み台転生者としても活躍でき、リニスの手伝いもできる。

 まさに、一石二鳥……いや、その原作キャラも嫁にできれば一石三鳥!

 

 はーはっはっ!

 そうと決まれば話は早い。

 せっかくの本契約なのだし、とことんゲス野郎になってやろうじゃないか!

 

《あぁ。マスターがまた悪い顔に》

 

「今更ながらに頼る相手を間違えた気がしてきました」

 

「俺の方も決まったぞ!

 早速、本契約を交わそうと思うんだが」

 

 微妙に嫌な予感を覚えたのか、リニスは不安げに顔を曇らせた。

 

「契約内容を聞いてもいいですか?」

 

「当たり前だろう。

 これは、俺とお前の大事な使い魔契約なんだからな。

 それで、契約内容だったな。俺が要求する内容は、リニスを嫁にする、だ!」

 

「……へ?」

 

《ですよね、わかってました》

 

 素っ頓狂な声を上げるリニスに対し、ドラちゃんは悟りきった声音で呟いた。

 なんだよ、ドラちゃん。随分と反応が薄いじゃないか。

 相棒として、寂しいぞ。

 内心で文句を言っていると、どうやら脳が言葉の意味を理解したらしい。

 リニスは瞬く間に頬を赤らめ、目を彷徨わせながら口を開く。

 

「そ、それは私と番になるという事ですか?」

 

「うん?

 まあ、そういう事になるのか?」

 

 首を傾げて肯定した俺の言葉を聞き、リニスは頭を抱えて唸り始める。

 

「同性なのに番……そもそも知り合って間もないのに求婚とか……いやでも一度は捨てようとした命ですし……ここで静香に身を委ねるのも一考の余地はあるのではないでしょうか……しかしこのまま流れに任せて良いのか──」

 

「リニス?」

 

「──ひゃい!?」

 

 ブツブツと独り言を漏らしていたリニスだったが、俺に声を掛けられて肩を跳ね上げた。

 しかし、直ぐに取り繕った笑顔になり、モジモジと指を絡ませている。

 

「そんなに俺は変な事を言ったか?

 それより、早く本契約をするぞ」

 

「えっ、私が静香の嫁になるのは決定事項なんですか?」

 

 至極当然な問いかけに、俺は呆れた表情を返す。

 

「当たり前だ。

 俺は嫁にしたいと思った人は、必ず嫁にするんだからな。

 ドラちゃん、頼む」

 

《了解しました》

 

「え、え?」

 

 困惑気味な声を上げるリニスを尻目に、俺達は立ち上がって使い魔契約の準備を始める。

 そして、何事もなく契約は完了した。

 リニスと繋がっていたパスが強固になり、どうやら無事に本契約できたようだ。

 

「よし、これでリニスは俺の嫁だ!」

 

「……あのぉ、私の意思は?」

 

「ない!

 なんたって、俺は踏み台転生者だからな!」

 

 最近、踏み台転生者って言えばなんでも許されるような気がしてくる。

 本当に、踏み台転生者ってサイコー!

 胸を張って自信満々に告げれば、リニスはがっくりと項垂れる。

 

「フェイト……どうやら、私はよくわからない人に捕まってしまったようです」

 

「ハーッハッハッハ!

 これで嫁が四人目だな!

 しかも、リニスは確実に俺の嫁になってくれている!

 俺の踏み台街道は順調だー!」

 

《リニスさん。心中お察しします》

 

 遠い目をするリニスに、腰に手を当てて高笑いを響かせる俺。

 そして、気の毒そうに言葉を落としたドラちゃん。

 三者三様の様子を見せるが、なんとなくこれからも上手くいきそうだ。

 思わずニヤニヤしながら、俺はバラ色の未来に思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 


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