90年代の火葬戦記を元ネタにいじくってみた。と言ってもオリジナルストーリーで谷恒生、志茂田影樹などのネタも混ぜているから、誰得な作品。

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 一九四四年(昭和十九)年、アリューシャン列島、支那大陸、ビルマ、ニューギニア、ビスマルク諸島、ギルバート諸島から連合軍の反攻が行われている。

 そして六月十一日、物量で勝る連合軍は、本土防衛の要であるマリアナ諸島攻撃を本格的に開始した。

 空母機動部隊であるTF58が、航空優勢を確保すべく空爆を開始。対する日本軍は小沢治三郎(おざわじさぶろう)中将麾下、第一航空艦隊(1AF)の航空機が虚しく地上撃破されている。

 悲報の届くGF司令部は、あ号作戦の決戦用意(・・・・)を発令。角田覚治(かくたかくじ)中将麾下、第三艦隊(3F)を中核とした第一機動艦隊が来襲した敵の迎撃に動き出した。

 一方、海軍大臣嶋田(しまだ)繁太郎(しげたろう)も秘中の策を実行に移すべく三重県にやって来ていた。

 三重は関西と近畿に含まれる恵まれた地勢であり、霊的にも神々に愛された地であった。この地に嶋田が訪れたのは、全宇宙的視野から見た平和実現の為である。

 伊保乃糸(いぼのいと)手延素麺(てのべそうめん)の様な雨が降っている。

 伊勢湾にひっそりと浮かぶ渡鹿野島(わたかのじま)は売春島を装いながら、海軍の秘密工廠(こうしょう)が築かれていた。売春婦を装った見目麗しい女性工員によって昼夜を問わずの作業を行われていたが、この日だけは島が静まり返っていた。

 工廠から静静と姿を表したのは、日本海軍が心血を注いで完成させた20世紀史上最強の超弩級戦艦扶桑(ふそう)だ。

 その扶桑は国家を挙げての突貫工事と言う挺身で、とてつもない変貌を遂げていた。

 開戦劈頭(へきとう)の真珠湾奇襲とマレー沖海戦の結果、飛行機の時代がやって来た。しかし日本海軍──と言うよりも連合艦隊(GF)司令部は慢心し増長した。そして魂に脂肪が着いた結果、ミッドウェー海戦で虎の子の空母四隻を失い、戦争終結の講和に進める機会を失った。

 歴戦の搭乗員損失も大きい。海軍にとって空母戦力の回復は急務だった。

 海軍は戦艦の時代が終わりつつある事を理解しており、旧式の部類に入る扶桑を試験的に改装する事とした。すなわち後部の三六センチ砲三基に代えて飛行甲板と格納庫が取り付けられた戦艦空母なのである。

 

 ギューン! ギューン! ギューン!

 

 陳腐な擬音、もとい勇壮な爆音を立てて戦闘機が扶桑の甲板に着艦して来る。超隼である。超隼は陸軍の名機隼を海軍用に改めた物で、陸海軍の装備共有化を目的としていた。特に盟友ドイツから取り寄せた二〇ミリ機関砲のマウザー砲は地球上に存在するあらゆる敵機を撃墜可能な性能で、異星人の宇宙船を撃墜した事もあると言われている。

 世界をして驚嘆せしめる扶桑は、この素晴らしい超隼を三〇機も搭載しており、軽空母並みの航空戦力を保有している。さらに前部の三六センチ砲は爆沈した陸奥の四一センチ砲に換装されており、砲撃力も途轍もなく倍増して生まれ変わっていた。

 言うなればただの扶桑ではなく扶桑様である。

 この扶桑様には嶋田大臣が、雄渾無双の大作戦で陣頭指揮を取るべく乗り組んでいた。つまり超海軍省である。

 嶋田大臣はこれから中部太平洋に進出する。東亜の平和を守る祖国、大日本帝国の安寧を脅かす邪悪な白人帝国アメリカの野望を砕く為である!

 嶋田大臣の決意とは裏腹に、部下は昼時と言う事で食事を何にするか尋ねた。

「大臣閣下、ジャージャー麺を召し上がりますか」

 嶋田大臣は第三艦隊参謀長や支那艦隊司令長官を歴任し、その頃に味を覚えて大のジャージャー麺好きであった。

「いや、今は良い」

 嶋田大臣は戦の緊張感で食欲が無かった。それはこの大いなる作戦で、魔物との決戦も控えていたからだ。

 魔物とは死して邪神と化した山本五十六である。

 連合艦隊(GF)司令長官であった山本五十六は昨年四月、い号作戦終結後、前線視察中に乗機を撃墜され戦死した。海軍甲事件である。

 しかしその魂は強い恨みを残し悪霊となって現世に残された。軍神として奉ったのは世間を混乱させない為の国策であった。今でも全国の神社、仏閣で調伏の祈祷が行われている。

 嶋田大臣は淀んだGF司令部の空気を思い出す。山本の次を継いだGF司令長官である古賀峯一(こがみねいち)が不可思議にも殉職し、新たに親補された豊田副武(とよだそむえ)が大淀から陸にGF司令部を移転させようと動いてる理由も、山本の呪縛によって瘴気(しょうき)に満ちていたからだ。

 祖国をこの戦争で滅ぼさない道は、邪神山本五十六に魅入られ魔窟と化したGF司令部の専横を許さない事だ。その為に、嶋田大臣が自らの指揮で戦果をあげる事によって海軍の戦争指導で主導権を握る必要があった。

(俺はこの戦で勝たねばならん。勝って山本の呪縛を打ち砕くのだ)

 山本は祖国日本を、本来の主戦場である支那大陸から太平洋の戦いに引きずり込んだ責任がある。いわゆるアカのコミンテルンが唱える敗戦革命主義と異なり、山本は日本滅亡に導いていた。

「分からん。山本はなぜ同胞の我らを負ける様な戦に嵌めたのか。そんな事をして何の得があると言うのだ。不義不忠を犯してまで、山本は死してなお帝国を滅ぼそうとしている。許せぬ、国賊め。断じて許せぬぞ!」

 扶桑は畏こくも天皇陛下自らの命名を賜ると言うお清めによって霊的守護がされており、邪神と化した山本五十六から守られていた。

「奴の魂は穢れきっており、浄化するには奴の力を使い尽くさせるしかない。その為に勝利を重ねるのだ。神州は不滅だ!」

  嶋田大臣は山本の復活を阻止する事に命を賭けている。魔神と化した山本相手には、密教の秘術、大元帥法による呪殺も効果が出ない。

 山本は復活する為にも生け贄を求めていた。幾千、幾万の屍を築き上げた先に賢者の石を造る事が出来る。賢者の石こそ山本が完全体として復活する材料だった。

 出港の前日、嶋田大臣は吉原で禿(かむろ)の幼い少女達に金をやり、自由にしてやった。死ぬ前に善行を行いたかったのだ。これで思い残す事は無い。精一杯、戦える。

 

 

 

「提督、敵の航空兵力は概ね掃討完了致しました」

 参謀長のカール・ムーア大佐が機嫌良く言葉をかけて来た。その言葉に男は頷く。

「ご苦労、ムーア君。後は海兵隊の連中を島に揚げて頑張って貰うとしよう」

 米第五艦隊司令長官レイモンド・スプルーアンス大将は将旗を揚げる旗艦の重巡洋艦(CA-35)インディアナポリスの艦橋に居た。スプルーアンスの視線の先には空母、戦艦、巡洋艦、駆逐艦が埋め尽くしている。現代の無敵艦隊(アルマダ)であった。

 スプルーアンスは昨年、奇妙な体験をした。

 ヴェンジェンヌ作戦の成功で、日本海軍の指導者、山本五十六を抹殺したと言うニュースに部下達と祝杯をあげて、スプルーアンスは深酒で酩酊してた。

「飲み過ぎたな……」

 ベッドで横になって後悔していると喉のかわきを覚えた。サイドボードの水差しに手を伸ばした瞬間だった──。

『余は山本五十六なり!』

 突然、声が聴こえた。それは体の中をかき乱す様な気がした。

 その後は凄まじい憎悪と殺意が沸き出すのを抑えられなかった。

(殺せ、殺せ、殺せ。現代のカルタゴである日本を滅ぼし、日本人を殺せ!)

 軍務に対して、粗野な言動を演じるハルゼーと自分では違った。しかし心の声は収まらない。

(余は山本五十六なり。日本を滅する為に、余はこれより汝の意識の底に魂魄(こんぱく)を憑依させ、神通力を発揮させる。余は山本五十六なり!)

 スプルーアンスが邪神山本と融合し、山本スプルーアンスが誕生した瞬間である!

 山本の憑いたスプルーアンスは日本軍の手の内が読めていた。

 山本の経験と知識も流れてくる。忠誠心、愛国心の為に死ぬのは馬鹿馬鹿しいと内心で思っていた。だから真面目に生きるのが馬鹿らしい。しかし山本は海軍軍人としての道を選んでしまった。選んだ以上は義務がある。

 軍は士官と下士官、兵で構成される。スプルーアンスが生まれたアメリカは実力、能力主義で機会を与えられる。成果をあげるならば少将から大将に昇進した海軍のニミッツやスピード出世を続けている陸軍のアイゼンハワーが記憶に新しい。だが日本海軍は違う。兵学校、大学の席次が将来を決めた。駆逐艦をこよなく愛した南雲忠一が機動部隊を与えられたのも年功序列の弊害だった。

 生前の山本は根っからのギャンブラーだった。死から学んだのは、これ以上に無い敗北の屈辱だった。

 戦死するまで祖国の為に捧げた人生を取り戻せるとしたら、日本を生け贄にしても構わない。死ぬ前のギャンブルで山本は邪神に魂を売り、賭けに勝ち自らも邪神と成った。

 ──日本人の命を喰い尽くしてやる。ただその憎悪しか無かった。

「先ずはサイパンを攻め落とす。当然、海軍は出るしかない。これで油を使い尽くさせる。その後はゆっくりと本土を叩く」

 六月十五日、サイパン島に米軍が上陸を敢行した。前日までの空爆と艦砲射撃による面制圧効果は大きく、日本軍の継戦能力を大きく削ぐ事に成功していた。確かにサイパンに橋頭堡を築く事は出来た。しかし日本軍は陸でも海でも頑強な抵抗を続けていた。

 この時、揚陸指揮艦ロッキーマウントで水陸両用部隊の指揮を執っていたTF51司令官のリッチモンド・ケリー・ターナー中将は稲妻の様な衝撃を受けて声を聴いていた。

(我は古賀峯一なり。古賀峯一なり。汝の意識に沈み、対日戦争計画の秘策を授けよう)

 ターナーと古賀が融合し、以下省略。

 

 

 

 十八日、第一機動艦隊に先んじて、サイパン北西海域に我が扶桑は逞しくも進出しつつあった。

 日本人に限らず身内贔屓は何処の組織にもあり得る。ただし嶋田大臣から見て、味方の航空隊は贔屓目に見ようにも、技術的に未熟な搭乗員が多かった。その為、彼ら雛鳥は燃料の豊富なボルネオのタウィタウィに展開し、夜となく昼となく敵機撃墜、敵艦撃沈の念で荒鷲になるべく苛烈な訓練を行っていた。

「角田中将の飛行機は最新の彗星と天山を用意した。角田中将自身も旺盛な敢闘精神を持っている。しかし錬度が足らん。飛行時間が足らん。ここは扶桑が切っ先と成り、敵艦隊の防空網に穴を開けてやるのだ」

 SB2Cヘルダイバー偵察爆撃機は米空母機動部隊の目であり、耳である。日本軍の襲撃を警戒し、索敵任務を帯びて母艦より飛び立っていた。扶桑は先ず、その目を潰しにかかった。

 艦の習熟訓練は未了だが、大臣命令で機材も人も揃えられた。

 哨戒中の敵機を捉えた我が超隼のマウザー砲が吠えた。

 

 バババババババババババッ、バババババババッ、ババババババババッ、バババババッ、ババババ。

 

 主翼と胴体部が脆くも砕け散って墜落して行く。

 かくして強力なる超隼はそのまま敵防空網の中にまっしぐらと突っ込んで行き、戦闘空中哨戒(CAP)のF6Fヘルキャットと交戦に入った。勝利を! 血をたぎらせて、より勝利を求めて!

 

 ダダダダダダッ、ダダッ。

 ダダッ、ダダダッ、ダダダッ。

 

 超隼は三〇〇発の二〇ミリ弾を搭載している。一機落とすのに五〇発も使わない。つまり単純計算で六機以上を落とす事が出来るのであった。

 上空の空中戦はやや味方に部が悪いと見て、スプルーアンスが応援を差し向けようとした瞬間、扶桑が現れた。

 頭上に注意を引き付けてる間に扶桑様が敵艦隊に向けて突進する。

 慌てた様に護衛の駆逐艦が扶桑に向かって来る。だが扶桑の四一センチ砲が吠える方が早かった。猛烈な砲撃が放たれた。

 

 ガガーン! ガガーン! ガガーン! ガガーン! ガガーン! ガガーン!

 

 扶桑様の四一センチ砲は無敵である。熟練した扶桑の砲撃は、駆逐艦が直撃をした。

 

 グウワーン!

 ドドッ。

 グウワーン!

 グウァーン!

 

 火山の様な爆発で駆逐艦が吹き飛んだ。

「薄汚いジャップの猿め! 海の底へ叩き込んでやる」

 そう吠えるのはウィリス・オーガスタ・リー中将。ソロモン海の死線をくぐり抜けた戦艦屋である。今回も駆逐艦が追い込んで、リーの戦艦群が阻止役だった。しかし駆逐艦が逆に狩られている。

「詰めが甘い。警戒を抜かれてどうする! 各艦に発令。あのジャップの糞ったれを沈めろ」

 TG-58.7のワシントン、ノースカロライナ、インディアナ、アイオワ、ニュージャージー、サウスダコタ、アラバマと言った戦艦群が扶桑の前に立ち塞がるが、扶桑は攻撃を弛めない。

 

 ガガーン! ガガーン! ガガーン! ガガーン! ガガーン! ガガーン!

 

 戦艦同士の砲撃戦は扶桑に分があった。敵は絶望的損害を受けている。その光景には血沸き肉踊る海戦の醍醐味が凝縮されていた。

 しかし空母に砲戦能力は期待出来ない。

 甲板にSB2Cヘルダイバー急降下爆撃機、TBFアヴェンジャー爆撃機を待機させていた空母は、我が戦艦の砲撃を逃れんとして大慌てで回避行動に入る。物も人も有り余るアメリカは、甲板の機体が海に溢れ落ちても気にしない。

 

 グワーン!

 

 扶桑の放った砲弾が灼熱の矢となってワシントンの弾薬庫に命中し爆発した。一六インチ砲弾の誘爆は凄まじい。艦が沈む時、大きな渦を作り、死者の魂が次々と海の底に引き込まれて行く。

 爆風がインフルエンサーのツイート様に、波動と成って周囲を揺るがした。

 扶桑は砲撃を続けながら驀進する。味方にとって戦艦より空母が脅威だ。戦艦が空母を沈められる好機は早々に出会える物では無い。制空権さえ取り戻せば、残った戦艦は簡単には料理出来る。だから空母を狙った。

 

 ガガーン!

 

 扶桑の砲撃は舷側にめり込み、海底火山の様な爆発を引き起こした。結果、文字通り空母が吹き飛んだ。エセックス級空母のレキシントン(CV-16)だ。

 アーレイ・バーク大佐はマーク・ミッチャー中将に参謀長として仕えていた。敬愛出来る人物だったが、床に倒れたバークの上で首を失っていた。

「畜生……」

 目を向けた先には急速に接近する空母が見えた。その空母はホーネット(CV-12)だが、近付いているのはレキシントンの方だ。爆発で吹き飛んだ先には他の空母があったのだ。

「ああ、神様!」

 それがバークの最後の言葉と成った。

 レキシントンがホーネットの真上に落下した。その衝撃でホーネットの甲板に並んでいた艦載機が爆発する。艦載機はMk13魚雷や500ポンド爆弾を積んでいる。その爆発が周囲の軽空母や巡洋艦、駆逐艦を巻き添えにして新たな爆発を呼び起こす。まさに爆発の革命だった。

 

「うろたえるでない。戦艦扶桑一隻が来ようとも余の艦隊は無敵である。密集して火力を当てよ。スプルーアンス艦隊の凄まじさを思い知らせてやれ!」

 スプルーアンスは艦隊を率い兵を鼓舞する提督である。いかに手駒を活かすか指導力が求められる。

 推しカップリングが思い通りにならない歯痒さを二次創作にぶつける様に、魔神山本の執念が取り憑いたスプルーアンスは気迫をほとばらせていた。闘争こそ最高の愉悦であると教えていた。

 一方、ターナーは心に囁きかける声を聴いていた。

(この船を扶桑にぶつけよ。さすれば貴様に勝利と栄光が約束されるだろう)

 アメリカは国力で日本に勝る。日本と同じ土俵で戦うのでは無く、一方的に物量で押し潰す事が可能だった。しかし現状は、個艦性能で勝る扶桑に押されていた。上陸した部隊も扶桑に叩かれる可能性があった。

「この船を……ぶつける……この船を……」

 ターナーはロッキーマウントを扶桑に体当たりさせるべく乗員の意識を操った。ロッキーマウントは山本の呪法により強化され、機敏な動きで進路を変える。扶桑を沈めれば歴史は正しい道筋に戻る。アメリカが邪悪な日本を倒す事こそ、神に運命付けられているのだから。もっとも、神とは言っても邪神の方ではある。

 いかに扶桑と言っても足を止めれば沈める事も可能だった。邪神には邪神の戦い方がある。人に合わせる必要は無い。アメリカ兵ですら利用して、扶桑の態勢が治る前に沈める。

 肉体は死んでも魂は残る。これ以上、相応しい死に場所は無い。

 邪神達の戦いはこれからだ!


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