『魔王様、リトライ!』書籍版1巻発売記念&お祝い作品。

ヤホーの街でディナーを楽しむ魔王とアクと聖女ルナ。
魔王の大盤振る舞いで盛り上がるレストランは、魔王に対しての噂話が飛び交っていた。


▼原作は「R-15」、「残酷な描写」タグがありますがこの短編では設定していません。モブが酒飲むだけのお話です(屑
▼オリジナルのモブキャラが登場します。名前は原作の雰囲気を重視。


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2017/6/30
双葉社モンスター文庫『魔王様、リトライ!』1巻発売記念&お祝い作品となります。

第三者視点から見た魔王一行の様子と、ちょろっとだけアク視点。
時系列としては「二章 聖女」の「金色のルナ」辺りのお話となります。



魔王様の孤独

 交易の街、ヤホー。その中でも最上級と名高い宿屋、ググレ。

 その宿には多くの金持ちが集まり、また彼等に群がるように商魂逞しい商人たちが日夜押しかける。

 人が集まる場所とは情報の集まる場所でもある。

 宿屋に併設されたレストランにはバーカウンターが設置されており、商人たちはそこで酒とツマミで粘りながら上流階級(ハイソ)な人々の会話に耳を傾けて商売のチャンスを伺っている。それがこの店の日常だった。

 

 

「どこぞの貴族が美術品を探しているらしい」

「今年は人参が不作のようだ」

「北方では勇者様が活躍しているらしいぞ」

 

 

 旅先で仕入れた情報を交換する者、酒を振る舞い相手が口を滑らせることを期待する者、思惑はそれぞれだが、今日は誰もが皆笑みを浮かべて杯を傾ける。

 

 何せ、今日は特別な日である。

 

 店中のテーブルにはワインが並べられていた。高級宿屋併設のレストランだけあって、一部の常連(金持ち)以外はワインのような高級酒、なかなか頼めるものではない。しかし、今日に限っては一人の例外なく高級酒(ワイン)の味を楽しんでいた。

 少なく見積もっても三桁に近い数の高級酒(ワイン)が店中のテーブルに並ぶ光景は、貴族主催のパーティーでもない限り、中々お目にかかれるものではない。

 

 

「乾杯だ兄弟!」

「何度目だよ兄弟」

 

 

 バーカウンターの片隅で行商人の兄弟がグラス打ち鳴らす。既に顔は赤く染まっており、ずいぶんとアルコールが進んでいる様子である。

 

 

「何度目だっていいじゃないか。魔王様に乾杯!」

「あぁ、魔王様に乾杯だ!」

 

 

 ここは聖光国。三天使と聖女への信仰篤い人々が多く住まう国ではあるが、今日ばかりは魔王への感謝を口にする者が多かった。なぜなら、魔王と呼ばれる男が店内の客全員に高級酒(ワイン)をサービスするという大盤振る舞いをしたからだ。

 

 

「くぅー、美味ぇ! まさかこんないい酒が飲めるとは思ってもいなかったな、アッチ兄貴」

「神都で仕入れた飾り布も全部売れたし、今回の行商は大成功。言うこと無いな、コッチ!」

 

 

 行商人の兄弟、兄のアッチ・ムイテホイと、弟のコッチ・ムイテホイは何度目かわからない乾杯を交わす。

 親元を離れ兄弟2人で行商を続けてきたが、最近は馴染みの客も増えてきており、手堅いルートを作りながらもチャンスがあれば博打を打つ。そうして少しずつ儲けを増やしてきたが、今回は勝ちも勝ったり、大勝利だった。

 

 神都で商売のネタでもないかと酒場で情報収集していると、悪魔王復活の噂と、聖女の一人がお忍びで都を出たという噂を聞いた。

 二つの噂を足せば、聖女様が悪魔王討伐に出かけたのだと馬鹿でも分かる。馬鹿でも分かることをどうやって儲け話にするかが商人の腕の見せ所である。

 二人が注目したのは、聖女の行動の速さだった。悪魔王復活の噂と聖女様お忍びの噂はほ同時に広まっている。ならば国を代表し民草を慈しむ聖女様のことだ、悪魔王復活の話を聞くやいなや、矢も盾もたまらず飛び出したに違いない。しかし、旅とは楽なものではない。馬車での移動とはいえ、衣食住の備えなくてはとても耐えられるものではないだろう。

 

 神都と悪魔王復活の噂が流れた僻地。その間に位置し、聖女様に相応しいレベルの物資を集めることができる場所といえば交易の街ヤホーしかない。

 そう考えたアッチコッチ兄弟は、急いで聖女様御用達の仕立て屋に向かい、買えるだけの飾り布を仕入れた。

 

 準備不足で旅を始めた時、一番困るのが衣服である。食料と野営道具の準備を忘れる者は少ないが、既に一着は身につけているので替えの服をうっかり忘れてしまうことがある。行商人としてはある程度身なりを整えていないと取引先に信用して貰えないこともあるので、衣類の重要性については嫌というほど身に付いていた。

 

 商品を仕入れた兄弟は不眠不休で馬車を走らせ、ようやく本日ヤホーにたどり着いたのだ。そして、聖女が立ち寄りそうな服飾店を片っ端から回ろうとしたところ、一軒目で当たりを引いた。

 

 人気服飾店、ファッションチェック。

 本来なら飛び入りの行商人など相手にしないような名店であり、仮に商品を気に入って貰えても丁々発止の値段交渉が始まるところだが、何と全ての商品を言い値で引き取ってくれたのだ。それどころか、泣いてお礼を言われ、値段に色まで付けてくれた。

 

 「今すぐ御嬢様に似合うよう仕立てるのです!」と血走った目で号令をかける店主に若干引きながらも、兄弟は賭けに勝ったことを喜んだ。

 そして、祝勝を兼ね次の商売のネタでも探そうかと高級店に入ったところで高級酒(ワイン)の無料サービスである。今ならどんなギャンブルでも負ける気がしなかった。それこそ、泥沼にボールを転がしてゴールの穴に入ったら勝ち、崖に丸太を架けて無事渡りきったら勝ち、という都会で流行りだした危険なギャンブルだろうがどんと来い、という気分だ。

 

 

「いや、それにしても何者なんだろうな、あのお大尽」

「聖女様とも痴話喧嘩するほど仲が良いみたいだし、貴族様じゃないのか?」

 

 

 二人が注目するのはレストランの中心で悠然とディナーを楽しむ長身長髪の男だ。

 高級な仕立て服で嗜好品の葉巻らしきものを嗜み、店に入るなり最高級のワインを頼む。連れの少女も高級ドレスを身にまとい、聖女ルナ・エレガントをディナーに同席させる。

 圧倒的なカリスマ性、とでもいうのだろうか。見目麗しい少女が二人もいるのに、何故か注目されるのはその横にいる男の方だった。

 

 

「しかし、名前はマ・オーというらしいぞ。そんな貴族いたか?」

「お忍びで偽名つかってるんじゃないかな」

「それもそうか」

「あの存在感、あの態度、俺はあの人が魔王だって言われても驚かないね。魔王様万歳!」

 

 

 兄弟の陽気が移ったのか、ところどころから「魔王様乾杯」の声が聞こえてくる。

 当の本人はそんな声が聞こえているのかいないのか、聖女との歓談を楽しんでいるようだった。

 

 

「おいおい、兄貴。盛り上がるのはいいけど、教会の連中に聞かれないよう気を付けてくれよ。悪魔崇拝者だと思われたら面倒だぜ」

「いやいや、弟よ。アイツが本当に魔王だったとして、何の問題があるってんだ」

 

 

 アッチは商人としては優秀だが、酒が入ると大トラになってしまう困った性質があった。しかし態度の大きさに比例して頭の回転も早くなる。向こう知らずの態度でトラブルを起こすことも多々あるが、こういう時に新しい商売のヒントを思いつくこともあるので、コッチはとりあえず話を転がしてみることにした。

 

 

「え、そりゃ問題だろう。魔王つったら、天使様の仇敵だ。魔王を称えるってことは、天使様に背くってことになるだろ」

「普通ならそうだろうな。だが、あっちをよく見てみろよ。その魔王様はあちらでなにをしていやがる?」

「聖女様と食事してるな……、笑いながら」

「聖女様の態度はどうだ、天使様の仇敵である魔王に向けるような態度か?」

「いや、ありゃあ……年上の異性に駄々こねて甘えてる感じだな」

 

 

 噂に名高い聖女様が「見つけたわよ! 魔王!」と突然怒鳴り込んで来た時はすわ何事か、と店中が緊張したが、その後の流れを見る限り、どうやら魔王と呼ばれる謎の男と聖女はそれなりに親しい間柄のようだった。

 針のようにツンツン尖った様子で駄々をこね、構ってもらうや恋に恋する少女のように顔を赤らめ、デレっとした表情を隠すこともできない。その可愛らしい一連の流れにアッチは新しい感動の概念を思いつきそうになったが、言語化するとなぜか殺されてしまいそうな殺気を聖女様から感じたのであえて口にすることはなかった。

 

 

「だろう!? そんなやつが魔王な訳あるか? 仮に魔王だったとしても、聖女様が信用されてるってことは何の問題もないだろう!」

「そういう、ことになるか?」

「なる!」

「まぁ、アッチ兄貴が言うことだし。なる、かもなぁ」

 

 ここは聖光国。天使と聖女への信仰厚い人々が住まう国である。ある意味純粋なまでに天使と聖女を信仰する彼等にとって、聖女とは絶対の存在であり、その行動に間違いなどありえないのだ。もし聖女が魔王に心酔しているのであれば、魔王が聖女を惑わしたのではなく、聖女の御心に触れたことで魔王の方が改心したのだと考えるだろう。

 

 

「それによ、あいつが魔王だったら、俺はむしろ嬉しいぜ」

「へぇ、なんでだアッチ兄貴」

「魔王ってのは、そりゃー恐ろしい存在だぜ。ガキん頃から天使様の敵として散々聞かされてきたから、俺だってそのくらい分かってる」

「だよな」

「でも、だぜ。もし自分が魔王と同じ立場だったらって考えると、魔王って物凄い孤独だよな」

「え、そうか? 数え切れないほどの悪魔を従えていたって話だぜ」

「でもそれは、仲間っていうより部下だろ。味方はいても魔王と同じ立場のやつっていなかったんじゃないか」

「うーん、そういう考えもあるか」

 

 

 一般的な魔王のイメージとは、幾千もの軍勢を従え、周囲に美女を侍らせた、暴力と退廃の象徴である。その周りには常に誰かが付き従っているイメージだが、対等な者、理解者がいないという意味では確かに孤独と言えるかもしれない。

 

 

「三天使様だって自分以外にお二方の仲間がいたんだ。同じ目線で向き合える対等な存在がな。だが、魔王ってのはきっと手下はいても仲間はいなかったんだろうな、って思ったわけだ」

「そういうことか。確かに、魔王は孤独上等、孤独万歳ってイメージだよな」

「だからこそ、何か切っ掛けがあれば、例えば聖女様の優しさに触れることがあれば、魔王と言えども改心したっておかしくないってわけだ」

「確かに、一人きりってのは寂しいもんな」

 

 

 コッチが兄の言い分に納得し、改めて魔王と呼ばれる男を観察すると、聖女が顔を真っ赤にして店から飛び出していくところだった。

 途中から店内の喧騒が大きくて三人の会話が聞こえなくなっていたが、どうやら魔王が聖女様をからかい過ぎて、聖女様が拗ねてしまったらしい。店内の客たちは年相応に感情を表す聖女に対して、珍しいものを見た、と概ね好印象を持っていた。

 聖女に置いて行かれた男はやれやれといった様子で席を立ち、優雅に会計を済ませてもう一人の少女とともに店を去る。

 

 

「貴族か、富豪か、それとも一流の冒険者か」

「あの気品、ただ事ではないぞ」

「聖女とあれだけ仲が良いとは何者だ」

「これは縁を繋いでおくべきか」

「連れの少女が着ていた服、綺麗だったわね」

 

 

 純粋に正体を探る者、どう儲け話に繋げようか計算する者、純粋に見惚れた者、話の内容は様々だが何から何まで規格外の男性は、店を去った後も話題の中心となっていた。

そんな中、アッチとコッチは魔王ではなく、その横に寄り添っていた小さな少女のについて考えていた。

 

 

「なぁ、アッチ兄貴。あの魔王の横にいた娘、どっかで見たことなかったか」

「奇遇だな、俺もそう思っていたんだよ。店を出る時、一度俺たちを見て頭を下げたような気もするし」

 

 

 あれだけの御嬢様だ、一度見たら忘れるはずないと頭を捻るが、どうしても思い出せない。喉に小骨が引っかかっているような、ちょっとした切っ掛けがあれば途端に思い出せるはずなのだが、結局2人はその切っ掛けを掴むことはできなかった。

 

 

 

■□■□

 

 

 

 お姫様抱っこで部屋まで運ばれているアクは、わずかに頬を染めながら魔王の横顔を眺めた。

 

 レストランで魔王と聖女が難しい話を始めた時、邪魔にならないよう沈黙していると周囲の喧騒が自然と耳に入ってきた。なかでも「魔王様」という単語は喧騒の中でも不思議とクリアに聞き取ることができたので耳を傾けると、偶然にも見知った顔の兄弟がほろ酔い顔で噂話に花を咲かせていたのだ。

 直接会話したことは無いが、かつて兄弟がアクの村に行商に来た際、仕事中のアクを見ても嫌な顔せず「仕事熱心で感心感心」と果物を恵んでくれたことがある。

 アクは心中とても感謝していたが、言葉にする前に2人は商売を終えて村から去っていった。

 アッチコッチ兄弟も、まさか寒村で見かけた汚物処理の少女が高級ドレスをきてレストランでディナーしているとは考えもつかなかったのである。

 

 アクは、アッチコッチ兄弟が話していた内容を思い出す。

 

 

(魔王様でも、寂しかったりするのか)

 

 

 聖女様、ルナ・エレガント様は孤児院から立身出世を果たした人物としてその生い立ちも有名だ。それこそ、辺境の村で学の無いアクですら知っているほどに。

 だけど、魔王についてはその経歴が一切不明である。伝承通り天使様に封印されていたとして、その間ずっと一人だったのだろうか。封印がとけてアクと出会うまで、一体どうやって過ごしてきたのか。

 

 アクは何も知らない。

 

 魔王からは与えられてばかりで、まだ何一つ恩を返すことができていない。

 だからこそ、もし魔王が孤独を感じていたのなら、その悲しみをすこしでも和らげることができればと思う。

 そして、自分と同じように魔王様に惹かれる彼女、聖女ルナ・エレガントもまた、人知を超えた超人などではなく、聖女と成った「ただの人」なのだということに気付かされた。アクとは逆の意味ではあるが、人間扱いされないというのは彼女にとってどれほど負担であっただろうか。

 

 孤独は辛い。

 

 故郷の村で虐げられ、見捨てられていたアクにとって、孤独と日常であり受け入れないないといけない現実だった。

 だが魔王と出会い孤独ではない世界を知ったアクにとって、孤独とは最も恐れるものとなった。

 

 

(もし魔王様が、聖女様が、孤独を感じているのなら、私は……)

 

 

 その日、アクの胸に一つの想いが芽生えた。

 その芽がどのような花を咲かすのは、今はまだ、知る者はいない。

 

 

 




これからも応援しています!
もっと色んなモブの名前を考えるんだ(ぇ

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