どうも、ふぁもにかです。ストックがかなり溜まってきたので更新スピードを早めます。今までは1週間ペースでしたが、次回からは5日ペースで更新します。もし作品を完全に執筆し終えたら、3日ペースでの更新へと加速するかもしれませんので、その時はよろしくなのです。
☆星井ミク
VRMMOな魔法少女育成計画の、α版の世界にて。星井ミク、なのだ先輩、フォーチュンテラー、ムイムイ、ラストエンゲージ、ファソラで構成された6人パーティーは草原地帯を抜けた先の大規模な石造りの遺跡の探索を始めた。外から見た印象だと、3~4階建ての遺跡だろうか。
「思ったより暗いの」
「ちょっと待ってぇ。明かりを出すからぁ」
遺跡の明かりは、石壁に一定間隔に貼りつけられたロウソクしかない。ロウソク程度のか弱い光での探索は困難だ。星井ミクが魔性少女の視力で何メートル先まで見通せるかを目を細めて確認しようとしていると、ムイムイが目を瞑り、直後にはムイムイは懐中電灯を手にしていた。ムイムイの召喚魔法で生み出されたのだろう。随分強力な懐中電灯らしく、100メートル先の突き当たりまでくっきり照らされている。
(ムイムイの魔法は本当に万能だなぁ。私の魔法も大概だけど)
「あらあら。凄く明るいですわね。頼もしいですわ」
「えへへぇ」
「あかん。わかっとらん、わかっとらんよムイムイ!」
「ふぇ?」
改めてムイムイの魔法の汎用性に感心する中、ファソラが相変わらずのぽわぽわとした雰囲気でムイムイを褒める。ムイムイが欠片も恥ずかしがらずに照れ顔を浮かべるも、フォーチュンテラーの否定により、ムイムイは困惑することとなった。
「せっかくのファンタジーやん? 未知の遺跡の探索っちゅうワクワクイベントやん? なのに懐中電灯とか現実チックなものを使うなんてナンセンスや! 暗くても別にええから、もっと場にあったロマンのある、夢のある明かりにせえへん?」
「フォー。明かりが脆弱だと敵や罠に気づきにくくなるのだ。リーダーとして、それは看過できないのだ」
「心配あらへんよ、なのさん。ウチの魔法で未来を見た上で皆に危険を知らせれば、危機察知は万全や」
「……ふむ、それなら別に構わないが、ムイムイはどうなのだ?」
ムイムイが懐中電灯を召喚したことが気にくわないフォーチュンテラーに、なのだ先輩はパーティーを危険に晒しかねないと却下しようとする。が、なのだ先輩の意見を見越した上でフォーチュンテラーが己の未来を見れる魔法があるから明かりの問題はないと主張すると、なのだ先輩はあっさりと受け入れ、しかしムイムイの意思が最優先だと確認を取った。
「むむむ、やってみるぅ」
ムイムイは眉を寄せて唸り始める。そして、5秒後。ムイムイの指先から白い光の球が8つ現れた。光の球はテニスボールと同じくらいのサイズとなり、ふよふよと浮かびながらムイムイたちの周囲を陣取り、優しく照らしていく。
「こんなのでどう? ムイムイたちと一緒に来てくれる光の球だけどぉ」
「これや! こういうのをウチは求めてたんや! ありがとな、ムイムイ!」
「どういたしましてぇ」
(なんでそんなにこだわるのやら)
ムイムイがフォーチュンテラーの反応を伺うと、当のフォーチュンテラーは光の球の1つをぷにぷにと両手で触って感触を楽しみながら、己の期待に応えてくれたムイムイにお礼を述べた。感謝されて嬉しそうなムイムイ。その一部始終を星井ミクは冷めた眼で眺めていた。どう考えても懐中電灯の方が安全に探索できるのにと、少々の危険なんぞ顧みないフォーチュンテラーの謎のこだわりを理解できずにいた。
明かりの件を解決した星井ミクたちは遺跡を進み始める。星井ミクたちを出迎える遺跡の廊下は横幅が広く取ってあり、6人が横一列に並んでも十分に余裕がある。また、天井も十分に高さがあり、魔法少女の脚力で飛び跳ねても頭を天井にぶつける心配はなさそうだ。
星井ミクたちはひとまず100メートル先の突き当たりまでまっすぐに通路を進み、左右を見やる。ここで分岐があると星井ミクは想像していたが、左の道は3メートルほどあるのみで、その先は行き止まりだった。一方、右の道はまだまだ続いている。
「右にいけるのだ」
「……待って。左の道がこうも中途半端に終わってるのは不自然……」
特に違和感を抱かず、右へ進路を切ろうとしたなのだ先輩にラストエンゲージが言葉で引き留める。ラストエンゲージは注意深く行き止まりを観察する。石壁をぺたぺた触り、天井や床を見た後、何かに気づいたように目をわずかに見開いた。
(何か見つけたのかな?)
「……これ、壁じゃない……」
ラストエンゲージは石壁にすっと手のひらを合わせると、そのまま右にスライドした。すると、石壁がまるで引き戸のようにガララと開かれる。石壁とそっくりな色合いの引き戸が隠していたのは、開放感のある広間だった。
「偽物の壁だったとは、驚いたの」
「隠し扉とかあるんか! 盛り上がってきたぁぁああ!」
「あらあら、それなら今しがた通った通路も改めて確認した方がいいでしょうか?」
「いや、遺跡を完全に攻略する必要はないのだ。まずはこの隠し部屋を探索するのだ」
「お手柄だねぇ、ラストちゃん」
「……ん……」
隠し通路の存在に星井ミクは素直に驚き、フォーチュンテラーのテンションが一気に跳ね上がる。ファソラが一度引き返すことを提案するも、隠し扉を全て見つけようと考えた際の労力を考慮して却下したなのだ先輩は広間へと歩を進める。その傍らで、ムイムイがラストエンゲージの両手を取って笑顔で褒めるも、ラストエンゲージは何ともなさそうにうなずくのみだった。
6人が広間に入り、周囲を一瞥する。広間のあちこちにたくさんの宝箱が設置されており、隠し扉を見破ったご褒美としてα版の開発スタッフが用意したように星井ミクは感じた。
「凄い! 凄い凄い! 宝箱がこんなに!」
「……圧巻だね……」
「こうも宝箱を大盤振る舞いされると罠を疑いたくなっちゃうの」
「同感だが、敵の気配はないのだ。あるとしても、この宝箱の内、いくつかが宝箱のフリをした敵って所だろうな」
フォーチュンテラーはまるで己が億万長者になったかのように興奮に興奮を重ね、ラストエンゲージは思いがけない宝箱の数に意外そうに呟く。一方、一時はボーナス部屋だと考えたが、うまい話には裏があるとの考えからつい星井ミクが疑心暗鬼になっていると、なのだ先輩が広間を気配を探りつつ、現実的にあり得そうな展開を1つ提示した。
「ミミックかぁ。いるかもねぇ」
「扉が壁に擬態するなら、敵さんが宝箱に擬態していてもおかしくないですわね」
「ま、過ぎた警戒で宝箱を開けないのは論外なのだ。宝箱の中身を回収するのだ」
ムイムイとファソラがひょいとその場にしゃがみ込み、近くの宝箱に顔を近づけ、真の宝箱とモンスターとを見分けられないかと挑戦する中。なのだ先輩は広間の宝箱の中にあるであろうマジカルキャンディ収集を指示する。
「え、え?」
と、その時。全身で歓喜を表現しまくっていたフォーチュンテラーが突如立ち止まり、狼狽の声を漏らす。星井ミクが見やると、フォーチュンテラーの顔はわかりやすく青ざめていた。
「フォー、どうしたの?」
「ヤバい、ここモンスターハウスや! はよ出ないと囲まれる!」
星井ミクが尋ねると、フォーチュンテラーは皆に広間から脱出するように叫ぶ。3秒先の未来までを予知できる魔法を使えるフォーチュンテラーが切羽詰まった声を上げることの意味を速やかに悟った星井ミクたちは急いで広間の入り口へ戻ろうとする。が、すでに手遅れだった。カッと広間全体が白く眩しい光に包まれたかと思うと、光がやんだ時には星井ミクたちを取り囲むように大量のゾンビが出現したからだ。ゾンビは素手の者からナイフ、刀と多彩な武器を装備している。
「ごめん、動揺して知らせるの遅うなった。どないしよう?」
「ゾンビがうじゃうじゃしてる光景をいきなり未来視したんだ、仕方ないのだ。フォーはあたしたちで守るから、フォーは魔法で未来の戦況の把握に努めるのだ」
「わかった」
しゅんとうなだれるフォーチュンテラーになのだ先輩はフォローを入れつつ、フォーチュンテラーに指示を飛ばす。ゾンビに囲まれた現状、戦闘経験に乏しく戦えないフォーチュンテラーとファソラを守りつつ、ゾンビを着実に倒すことが残り4人に求められている。
「……来る……」
「うー、どうやって戦おぅ」
ゾンビたちがじりじりと距離を縮めてくる中。ラストエンゲージが静かに槍を構え、ムイムイが魔法で大抵のモノは召喚できるがゆえに戦い方に悩んでいる。他方。できるだろうか、と。星井ミクの心に不安がうずまく。
ゾンビは創作物ごとに雑魚敵から強敵まで強さの振れ幅が大きいモンスターだ。体が腐ってて思うように動かせないとの理由で動きが緩慢で思考も単純なこともあれば、脳の腐敗により体のリミッターが常時外れているとの解釈で人間をはるかに超える身体能力っぷりを発揮することもあるのがゾンビだ。そして今、ここに現れたゾンビの役割は、たくさんの宝箱というエサに引き寄せられた自分たちをリタイアさせるデストラップとして猛威を振るうことなのではないかと考えると、ゾンビが弱いとは思えない。
(怖い、けどやるしか――)
「皆さん、落ち着きましょう」
と、その時。ファソラがいつもと違う、凛とした声色で言い放った。そして、フルートの調べが広間に浸透する。すると。好戦的だったゾンビたちがフルートの音色にポケーッと聞き惚れるのと同時に、星井ミクの中で徐々に勢力を増していた不安が消え去っていくのを感じ取った。
「ファソラ、今のは――」
「ゾンビたちを感動させて足止めしつつ、皆さんから焦りや不安を取り除く音楽ですわ。……心配いりません。わたくしたちならどんな敵さんが相手でも、絶対に負けませんわ」
「何か根拠があるの?」
「わたくしの絶対に外れない勘がそう言ってましてよ」
大量のゾンビに囲まれる中。戦闘経験がないにもかかわらず、ファソラは欠片もあせる様子を見せず、通常運行だ。何がファソラの精神を安定させているのか。何か現状を確実に切り抜ける切り札でもあるのか。気になって星井ミクが尋ねると、ファソラがエッヘンと胸を張って、何も確証がないとはっきりと主張した。
(勘、勘って本気で……本気で言ってるんだろうなぁ、ファソラは。天然だもんね)
変な所で揺るがぬ自信を見せつけるファソラと接した影響か、星井ミクはついさっきまでゾンビの強さに関して無駄に考えすぎていたのがバカらしくなっていた。ファソラの音楽による感動効果はもうすぐ切れるだろう。ゾンビが強いか弱いかなんて関係ない。まずは戦うのみだ。倒せそうなら倒す。無理そうなら逃走方法を探す。それだけだ。
「ファソラ、助かったのだ」
「あらあら。どういたしまして」
「皆、聞くのだ。あたしたちは今、ゾンビに包囲されている。逃げ道がない以上、戦うしかない。できるならゾンビを殲滅し、厳しいようなら逃走する方向に切り替える。皆、連携して切り抜けるのだ! リタイアなんて許さないのだ!」
星井ミクと同じ結論に至ったらしいなのだ先輩は冷静に考える機会をくれたファソラにお礼を述べた後、リーダーとして皆にやるべきことを簡潔に伝えた。皆がなのだ先輩の言葉にしかとうなずく。同時にファソラがパーティーの戦意を後押しする勇壮な音楽をフルートで奏でたことで、大量のゾンビに立ち向かう準備が完全に整った。
「ガァアアア!」
「コォオオ!」
「これでも喰らえなの!」
ファソラの歌にのぼせていたゾンビたちが我を取り戻し、襲いかかってくる。その動きは素早く、このゾンビが雑魚敵でないことが明らかとなった。だが、星井ミクは慌てずに眼前に次々と岩石級の大きさと硬さを誇る流れ星を次々と落とし、流れ星の重さでゾンビを頭から潰していく。が、それで機能停止したゾンビは半分に満たない。頭を潰されても、胴体が完全に粉砕しても、ゾンビたちは残る体のパーツを動かし、星井ミクを武器で傷つけようとする。
「ひゃっはぁ! ゾンビは消毒だぁ! ふぁいやぁぼぉる!」
しかし、ゾンビたちが星井ミクに攻撃を届けるより早く、ムイムイが直径1メートルサイズの火の球を召喚し、ゾンビたちに直接ぶつける。ゾンビと接触した瞬間、火の球は盛大に爆発し、ゾンビたちを星井ミクから遠く離れた所へと吹っ飛ばした。
「ありがとなの、ムイムイ」
「えへへぇ。まだまだぁ! さんだぁれいん!」
星井ミクが自分を守ってくれたムイムイに感謝すると、ムイムイは照れ顔とともに今度は周囲一帯に雷を召喚し、今度はなのだ先輩とラストエンゲージが相手をしていたゾンビたちを雷撃で焼き焦がす。
「ふむ。特性がわかってきたが、厄介なのだ。このゾンビは体の体積が一定以下にならないと活動停止しないようなのだ。だから、頭を潰しても動くし、腕や足を斬り飛ばしても動く」
「……わたしたちと相性悪い……」
「あぁ、だがやるしかないのだ」
雷に打たれ、全身が焦げてもなおナイフを突きつけようとするゾンビたちを前に、なのだ先輩はゾンビを考察しつつ、短剣でゾンビの体を切り刻む。頭部なら3分割、腕なら3分割、上半身や下半身なら6分割と丁寧にゾンビを切断していく。ラストエンゲージはなのだ先輩の戦い方を参考にした上で、武器が槍ゆえにゾンビとの距離感に人一倍気を遣いつつ、ゾンビに両断に両断を重ねていく。
「あらあら。順調に数が減ってますわね。さすがはわたくしたちですわ」
「まだや! ゾンビの第二陣が召喚される!」
星井ミクたちの落ち着いた迎撃により次々とゾンビたちは粉になり、ゾンビの総数が減っていく。戦う4人の魔法少女に守られながら戦況の動向を見守っていたファソラが安堵するも、ここで数秒先の未来を見たフォーチュンテラーが皆に警戒を呼び掛ける。直後、白い光で広間全体が塗りつぶされ、光がやんだ時にはまたも大量のゾンビが補充されていた。加えて、第二陣として現れたゾンビは皆、ロケットランチャーを構えていた。
「はぁ!?」
「ちょぉお!?」
「……え……?」
第二陣のゾンビが当然のようにロケットランチャーを装備していることに星井ミク、ムイムイ、ラストエンゲージが驚愕の声を漏らす。が、ゾンビたちは星井ミクたちの反応など知ったことかと一斉にロケット弾を射出した。
(マズいって、これ!)
星井ミクはすぐさま前方に壁としての流れ星を何重にも落とし、ロケット弾を防ぐ。自分の目の前はどうにかなった。だが、他はどうなった。星井ミクが目だけを背後に向けると。「うおおおお!」とムイムイが己の目の前に巨大な盾を生み出して遮蔽を作成していたが、遮蔽を用意できないなのだ先輩とラストエンゲージの元に、今まさにロケット弾が命中しようとしていた。
「あたしはいい! ラストを守るのだ!」
星井ミクが視線を向けてきたことを即刻察知したなのだ先輩が星井ミクに指示した後、手乗りサイズにできる魔法で己の体を小さくした。ただ己の体を10センチ程度の手乗りサイズにしただけでは、なのだ先輩自身はロケット弾を避けられても、なのだ先輩の背後のフォーチュンテラーとファソラがタダでは済まない。ゆえに、なのだ先輩は己の真上をロケット弾が通過するまさにその瞬間に己の体を元のサイズに戻した。結果、ロケット弾がなのだ先輩の胴体を貫通した状態でめり込んだ、なんてことはなく、音もなくロケット弾が消滅した。
「え!?」
今、なのさんの身に何が起こったのか。わけがわからないが、現状で星井ミクに棒立ちは許されない。星井ミクはなのだ先輩の要求通りにラストエンゲージの目の前に流れ星を次々投下する。が、流れ星を落とすタイミングが少々遅かったため、流れ星がロケット弾を直接叩き潰し、ロケット弾が起爆。爆炎がラストエンゲージを呑み込んだ。
「ラスト! 大丈夫なの!?」
「……何とか。肉盾覚悟してたから、命拾いした……」
星井ミクが呼びかけると、爆炎を槍で振り払いながらラストエンゲージが返答する。服は焼け焦げ、体のあちこちから出血しており、リタイア一歩手前のように星井ミクの双眼に映った。
「さっきのお返しだよぉ! ふぁいやぁぼぉる ×8!」
「これは、撤退なのだ! これ以上は危険なのだ!」
ムイムイが火の球を続々と召喚し、ロケットランチャー装備のゾンビのロケット弾に向けて射出し、ロケット弾が放たれる前に爆発させて第二陣のゾンビを倒していく中。なのだ先輩は広間からの戦略的撤退を決断した。仮に第二陣のロケットランチャー持ちのゾンビを一掃できたとしても、さらに強力な武器を抱えた第三陣、第四陣のゾンビが一斉召喚されても何らおかしくない。なのだ先輩の判断に異存はなかった。
「ミクはあそこの広間の壁を流れ星でぶち破るのだ!」
「わかったの」
「ムイムイはそこら中にダイナマイトを撒くのだ!」
「あぃ」
「ファソラはゾンビを足止めできるような音楽を演奏するのだ!」
「はいですわ」
なのだ先輩の指揮の元、星井ミクは流れ星を壁にぶつけ始め、ムイムイはひたすらダイナマイトを広間に召喚しまくり、ファソラはゾンビが自分以外のあらゆる存在を攻撃対象にするように混乱させる激しい音楽を奏でていく。多くのゾンビが近くにいたゾンビと同士討ちを繰り広げる中。星井ミクの呼び出した、とにかく硬い性質にした流れ星はぶつかる度に壁にひびを生じさせ、ついには壁を崩壊させた。壁の先からは光が注がれている。遺跡の外と中とを隔てる壁だったのだろう。
「なのさん! 開いたの!」
「よし! 皆、脱出するのだ!」
星井ミクの報告を受けて、なのだ先輩がビシッと逃げ道を指差す。ファソラの音楽のおかげで星井ミクたちに追撃を仕掛けるゾンビの数が少なかったため、星井ミクたちは順調に壁の外へ退避できた。
「さて、仕上げだ! ムイムイ、ファイヤーボールを打ち込むのだ!」
「うん! これがトドメのふぁいやぁぼぉる!」
星井ミクたちを追うべく、今にも壁の外に乗り出そうとするゾンビたちをラストエンゲージが槍の柄で貫いて広間の中に押し戻す中、なのだ先輩の指示にムイムイはノリノリで応じ、直径2メートルほどの特大サイズの火の球を召喚し、広間の中に放り込む。同時に、何が起こるか察した星井ミクは自分たちと広間の間にいくつか遮蔽としての流れ星を落とした。
「ぐッ……」
直後。火の球にダイナマイトの導火線が引火し、空間をつんざく爆音が周囲一帯に轟く。鼓膜を平然と壊してきそうな音の振動に、大きさに、気休めだとわかっていても誰もが耳を両手で塞がずにはいられない。星井ミクもまた必死に耳を塞いでいると。十数秒後。ダイナマイトの盛大な連鎖爆発は終わりを告げた。見ると、遺跡はすっかり崩壊しており、ゾンビは影も形も見当たらない。
「……あんなに大きかった遺跡がこうもあっさり崩壊するなんて」
「え、ダイナマイトってこんなに破壊力凄かったの?」
「いや、ダイナマイトに遺跡1つを消し飛ばすほどの威力はないのだ。きっとムイムイのイメージしたダイナマイトの威力が凄まじかったからなのだ」
「えへへぇ」
フォーチュンテラーや星井ミクが見事にぶっ壊れた遺跡に呆然としていると、なのだ先輩が、ムイムイが魔法で実物より何倍も威力の高い特別なダイナマイトを召喚したのではとの考察を述べる。すると、褒められたと解釈したムイムイが頬を緩ませた。
「……何とかなった……」
「痛そうですわね。今、痛みを抑える音楽を奏でますわ」
「……ッ、よろしく……」
一方。ラストエンゲージが動揺の色を表に出さずに遺跡のなれの果てを眺めていると、ファソラがフルートで穏やかな音楽を奏で始める。ラストエンゲージは立っているのも限界だったらしく、ファソラの音楽で力が抜けたのを機にその場にへたり込んだ。
「この遺跡から少し距離を取って、そこで休憩するのだ。皆、よくやったのだ」
なのだ先輩がラストエンゲージをお姫さま抱っこにしつつ、休憩を提案する。そして、なのだ先輩の最後の一言により、星井ミクにようやく皆で力を合わせて窮地を脱した実感を得ることができた。
(怖かった。でも、終わってみれば楽しかった、かも。ラストには悪いけど……)
星井ミクにα版を真剣に攻略するつもりはなかった。が、此度の濃厚な経験を通して、星井ミクの中でもっと積極的にテスターの役目を全うしてみたいとの気持ちが生まれていた。
かくして、星井ミクたちは草原地帯でラストエンゲージの怪我の自然回復と、精神的な疲れを癒すための休憩を行った。その後、探索を再開した星井ミクたちは高威力の爆撃に晒されてもなお健在だった広間跡の宝箱群を回収した。そして、見晴らしの悪い濃霧地帯やいつ落雷を喰らうかわかったものではない轟雷地帯を探索しきる形でVRMMO版の魔法少女育成計画の世界での1日目を過ごすのだった。
絶望「 ⊂( ゚д゚ )
ヽ ⊂ )
(⌒)| ダッ
三 `J 」
ふぁもにか「今はまだ君が動く時ではない。ゴーバックホーム!」
次回【10.2日目 合流&作戦会議】
※次回更新は8月30日です。
~おまけ(休憩中の会話)~
星井ミク「なのさん。さっきはどうやってロケット弾を消したの?」
なのだ先輩「……うむ。あたしの魔法は体を手乗りサイズにできる魔法だが、一度小さくなった後、元のサイズに戻る時、場所によっては大惨事になると思わないのだ?」
星井ミク「大惨事? ……あ、『いしのなかにいる』みたいな?」
なのだ先輩「正解なのだ。それゆえに、あたしの魔法は術者を守るために元のサイズに戻る際、邪魔なものがあるのならそれを空間ごとえぐり取って消滅させる仕組みになっているのだ。10センチなあたしのすぐ上に天井がある時に元のサイズに戻っても、『いしのなかにいる』にはならず、あたしの身長分の天井が消えるようになっているのだ。さっきロケット弾を消したのはその応用なのだ。ロケット弾が真上に来た時に元のサイズに戻れば、ロケット弾の存在が元のサイズに戻る際の障害となり、結果として消滅させることができる。そういうわけなのだ」
意外となのだ先輩の魔法の汎用性は高いという話。