■魔法少女育成計画あるある
『物語序盤に死んでた方が精神的にはかなり幸せな部類に入ることが多い』
どうも、ふぁもにかです。絶望とは安易に排出するのではなく、じわじわと盤面を用意した上で畳みかけるものとの私の認識の下、今回も張り切って絶望展開を投入させてもらいます。いやはや、この手のシーンを執筆していると罪悪感と愉悦を同時に体感できてとにかく新鮮ですね。
☆ミラクルシャイン
西田中学校からかなり離れた、R市の廃ビル屋上にて。
数メートル先もしっかり見えないほどの記録的なゲリラ豪雨がR市を襲う中。
「とにかく、ビルの中で雨宿りしつつ、状況整理をするのだ」
星井ミクの流れ星により西田中学校に登場した3名の敵意ある魔法少女を撒くことに成功した事実を受けて、なのだ先輩は廃ビルの中での状況整理を提案する。
多くの建物が倒壊し、人気もなく、すっかり変わり果てたR市。西田中学校にたくさん打ち捨てられていた死体の数々。唐突に表れた魔法少女により殺されたメタ☆モン。こうも尋常でない事態が畳みかけてきたこともあり、ミラクルシャインもなのだ先輩の考えに全面的に賛成だった。
「そうだね、じゃあ早くビルの中に――」
「くふ、あっははははは!」
「うふふ、ふふふふふ!」
ミラクルシャインがなのだ先輩の意見に同調しようとした時。不意にユウキとファソラが大声で笑い声を上げる。お腹を抱えて、目尻の涙を拭いながら、爆笑し始める。
「え、急にどうしたの? ユウキ? ファソラさん?」
「ふふふふ、あらあら。ユウキさん。ぷぷ、最高に愉快で笑える、ふへ、顔になっていますわよ? そんな面白い、ひひ、顔芸があるのならバーベキューにでも、くくふ、やってくれればよかったのに」
「ぷっくくく、ファソラさんこそ! その顔反則だってば! あっははははは! ヤバい、死ぬ! 笑い死ぬってぇ、きゃははははは、これ!」
何か笑われるようなことを口走ってしまっただろうか。ミラクルシャインが不安そうにユウキとファソラに尋ねるも、当のユウキとファソラは互いの顔を見ながら呼吸困難になりそうなほどに爆笑を続ける。そして、爆笑に震える体を支え切れなくなったのか、ついに屋上に倒れ、お腹を丸めてずっと笑い続ける。
「なんで2人とも笑ってるのぉ? ムイムイは今、特に楽しくないよぉ?」
「ミク、何やってるんだろ。なんでこんなわけのわからない目に……まぁどうでもいいの。どうせ人間、結局は生きるか死ぬかなの。考えるだけ時間の無駄なの。はは」
「……ふぁぁ、眠い。おやすみ……」
ムイムイが純粋に不思議そうにユウキとファソラに問いかける傍ら、星井ミクの両眼からフッと生気が消え失せ、ボーッと人形のように立ち尽くしながらブツブツと早口に呟き始める。同時に、ラストエンゲージの黒と赤のオッドアイな両眼が、とろーんととろけたかと思うと、ラストエンゲージも屋上に横になり、腕を枕にして熟睡モードに突入した。
「ミクさん、ラストさん? どうしたのです? しっかりしてください!」
「うぅ、お腹すいたッス。もう一歩も歩けないッス。何か、何か食べ物転がってないッスか?」
「……ダメなのだ。のどが渇いたのだ。水分補給が急務なのだ」
星井ミクとラストエンゲージの様子の変化にいち早く気づいたコットンがラストエンゲージの体をゆさゆさ揺らしつつ星井ミクにも声をかける中。サンタマリアが苦しそうにお腹を押さえて、切なさに満ち満ちた眼差しでフラフラと屋上を徘徊し始める。なのだ先輩がバタリと屋上に仰向けに倒れ、口を大きく開いて雨を口の中に溜めて飲み始める。
「あはは、何や何や! ここメッチャ絶景やん! 一面色鮮やかな花畑やし、ええなぁR市! こんな観光名所があったんやなぁ! いやはや、無知ってホンマ損やな!」
また、フォーチュンテラーが突如、グルグル回転しながらキラキラとした笑顔で周囲に視線を注ぎ始める。花畑なんて見える範囲にはどこにもないのに。相変わらずR市の景色は倒壊した建物が主なのに、フォーチュンテラーの興奮は止まらない。
「ひ、ひいいぃ。く、来るぅ! ささささっきの怖い魔法少女たちが来る! だだだだってこっち見てるもん! ししし死にたくない、死にたくないよぉ!」
「メトロノームちゃん!? 大丈夫、誰も見てないよ! だから落ち着いて!」
「たたたた助けて! いや! いいいい痛いのはもういやぁああああああ!」
一方、ミラクルシャインにおんぶされていたメトロノームがミラクルシャインの背中にしがみついてガクガクと震え始める。その怯えようは尋常でなく、ミラクルシャインの励ましの声に一切耳を傾けずにメトロノームは涙をボロボロ流して震え続ける。
「なに、何なの? 皆、どうしちゃったの!? こんなのおかしいよ!」
「無事っぽいのはぁ、ムイムイとミラクルちゃんとコットンちゃんだけみたい?」
「……この状況。もしかして、雨のせいなのです?」
「え? 雨?」
「もしかしたら、あの襲ってきた魔法少女の中に、雨で人をおかしくする魔法みたいなものを使える人がいたかもなのです」
ガクブル震えるメトロノームをうっかり床に落とさないようにメトロノームを背負い直しつつ、ミラクルシャインは皆が一斉におかしな行動に走り出したことに得体の知れない恐怖のままに声を上げる。ムイムイが平静を保っている面々を確認する一方、コットンはしばしの思考の後、皆がおかしくなった原因を雨に見出した。ミラクルシャインが全く想定しなかった可能性にきょとんとしていると、コットンはさっき襲ってきた魔法少女の仕業ではないかとの説を提示した。
「……ということは、私たち今も攻撃されてるの!? あんなにミクの流れ星で遠くに逃げたのに!?」
「確証はないのです。でも、これ以上雨に体を晒さないように、皆をビルの中に運んだ方が良さそうなのです。急がないと、僕たちまでおかしくなるかもしれないのです」
「雨に当たるのがマズいって話なら、これ使ってぇ」
まだあのメタ☆モンを殺した魔法少女たちの魔の手から逃れられていないのかとミラクルシャインが戦慄する中、コットンはおかしくなった面々をビル内に運び込む方針を示す。すると、ムイムイが3人分の黄色のフード付きレインコートを召喚し、ミラクルシャインとコットンに手渡した。
「これはとても助かるのです」
「ありがとね、ムイムイ」
「どういたしましてぇ。3人で分担してちゃっちゃと運ぼっかぁ。えいえいおー!」
ムイムイから現状で非常に有用な物をプレゼントされたコットンとミラクルシャインはムイムイに感謝し、ムイムイはおかしくなった面々の運搬への意気込みを拳を天に突き上げる形で表現する。その後、ミラクルシャイン、コットン、ムイムイは様子のおかしい8人の魔法少女を廃ビル内にテキパキ運んだ。廃ビルは元々5階建てのテナントビルだったため、ミラクルシャインたち3名はひとまず皆を5階のテナント募集中の何もない広々とした一室に運び込んだ。
「水、水なのだぁ……!」
「……」
「ひぃーひひひひ!」
「うふ、ふふふふふ!」
なのだ先輩は、ムイムイが召喚した水入りピッチャーにそのまま口をつけてグビグビ飲み。サンタマリアは無言で、これまたムイムイが召喚した焼きそばパンの山を1つずつ頬張り。ユウキとファソラは一向に笑い疲れることなく床に倒れた状態で爆笑を続け。
「あー、呼吸するのもいっそ面倒なの」
「わた、私を食べてもおいしくないよぉ! だだだだから来ないで! 食べないでぇ!」
「ええな! ここもホンマ素敵な花畑やわ! カラフルな花畑もええけど、色調を青と紫に統一した花畑ってのも魅力いっぱいやなぁ!」
「……んん……」
星井ミクは死んだ魚のような目で体育座りをし。メトロノームは、さっきミラクルシャインが使用したレインコートを頭から被ってガクブル震え。フォーチュンテラーは何もない廃ビルの5階に花畑を幻視し。ラストエンゲージは静かに寝息を立てている。
「これ、どうしよう? この状況であの魔法少女たちが攻めて来たら、マズいよね」
「皆、戦うのも逃げるのもできそうにないしぃ。ムイムイたち、大ピンチだよねぇ」
「僕の魔法で上手くあの魔法少女たちを勘違いさせられたらいいのですが……僕の魔法は性質上、ウソを一度相手に言い聞かせる必要があるのです。僕がユウキさんに魔法を使う所を見られている以上、僕がウソを話し終えるまでの隙を相手は許さないでしょう」
他方。ミラクルシャイン、コットン、ムイムイは部屋の隅で輪になって話し合う。ミラクルシャインの認識にムイムイも同調する中、コットンは己の魔法で自分たちを狙う魔法少女たちに対処することは困難だとの見解を示す。
「どうにかして、皆の症状を治さないとってことだね。……コットンちゃんの魔法で皆を正常な精神状態に戻せない?」
「ウソのつき方次第で症状をごまかすことは多分できますが、それでは根本的な解決にはならないのです。……それに僕の魔法は、僕が死んだら解けてしまい、結果、また皆が今の状態になってしまうのです。だから、別の方法で症状自体の治療をするべきなのです」
「死んだらって、コットンちゃん」
「あくまで例えばの話なのです。僕に死ぬつもりは毛頭ありません。とにかく、僕の魔法を使うのは最終手段だと思うのです」
ミラクルシャインは必死に頭を働かせて現状打開の策を考え、コットンの魔法でおかしくなった8名を元に戻せないか確認する。だが、コットンは己の死などの要因で魔法が解けたら8人の症状が再び発生することを理由にミラクルシャインの案を却下する。ミラクルシャインはコットンの己の死を前提としているような口ぶりを咎めようとするが、ミラクルシャインの発言を想定済みなコットンはただちに会話を切ることで、ミラクルシャインの追求を回避した。
ミラクルシャインは改めておかしくなった8人を元に戻す解決策を考える。ミラクルシャインの己の体を光り輝かせる魔法、コットンのウソをホントと思い込ませる魔法、ムイムイのイメージした物を何でも召喚できる魔法で何ができるかに視点を定めた時、ふとミラクルシャインは閃いた。
「あ、そうだ! ムイムイの魔法ってさ、別に物しか召喚できないわけじゃないんだよね?」
「え、うん。イメージさえできたら、生き物以外は召喚できるよぉ。前に光の球を召喚したこともあるしぃ」
「ならさ、混乱の回復魔法とか召喚できない?」
「こ、混乱の回復魔法?」
「ほら、混乱の状態異常を治す魔法って色々あるよね。ドラクエのキアラルとか、FFのエスナとか! あ、魔法じゃなくても、FFの万能薬とかを召喚できれば、皆を治療できるんじゃないかな?」
「……んー。ムイムイはドラクエもFFもやったことないから、イメージを固められないかもぉ。何か参考にできる画像や映像、なぁい?」
「探してみる」
ミラクルシャインは、ムイムイがしっかりとイメージさえできれば、現実世界に存在する物体に限らず、回復魔法やゲーム世界のアイテムも召喚できるのではないかとの発想に至り、ムイムイに確かめる。すると、ムイムイが具体的な画像や映像資料を求めてきたので、ミラクルシャインはマジカルフォンを通してネット検索を行う。
「あった、万能薬の画像!」
「見せて見せてぇ。……ふむふむ、ちょっとやってみるぅ」
10秒もかからずに早速画像を発見できたミラクルシャインはマジカルフォンの画像をムイムイに見せる。すると、ムイムイはジッと画像の中の万能薬を凝視しながら魔法を行使した。結果、ムイムイの手のひらに、紫色の球形の錠剤タイプの万能薬がたっぷり入った巾着袋が顕現した。
「おおおおおお! できたぁ! 本当に召喚できたよぉ!」
「まさか現実にない物まで召喚できるなんて……ムイムイさんの魔法の可能性は無限大なのです」
「エッヘン! これからは†
現実世界に実在しないはずの万能薬を具現化できたことに魔法を行使した張本人たるムイムイが一番興奮に沸く。コットンはムイムイのように叫びはしないもののムイムイの魔法の汎用性の高さに驚愕し、ムイムイはコットンの反応に対し、興奮冷めやらぬままに胸を張った。
「とにかく、これを早く皆に飲ませよう! あ、念のために私たちも飲もっか。私たちも雨をたくさん浴びちゃったからね」
「そだねぇ」
ミラクルシャインの言葉を受けて、ミラクルシャイン、コットン、ムイムイの3名は万能薬を各々1錠ずつ飲み込んだ。万能薬は嚥下するのにちょうどいいサイズだったため、水の力を借りずとも簡単に飲み込むことができた。
「……あー、うん。皆に万能薬を飲ませるのぉ、大変そう」
「そのことについては僕にお任せなのです」
その後、相変わらずおかしいままの8名にも万能薬を飲ませようと彼女たちに視線を向けたムイムイは、大人しく自分たちの言うことを聞いてくれなさそうな彼女たちの様子に、自分たちの未来の苦労を察してため息を吐く。が、ここで。コットンがポンと軽く胸に手を当てて自信満々に言葉を紡ぐと、万能薬入りの巾着袋を片手に様子のおかしい8名の前に立つ。
「メトロノームさん、サンタマリアさん、ユウキさん、なのさん、ミクさん、ラストさん、フォーさん、ファソラさん。皆さんは今、この万能薬を1錠、服用したくて仕方がない。そうですよね?」
「「「アッハイ」」」
コットンの問いかけに8名の魔法少女は即答し、万能薬を持つコットンの元に群がっていく。ぐっすり眠っていたはずのラストエンゲージでさえもガバッと起き上がり、万能薬を欲してコットンに接近する。コットンは8名に万能薬を手渡し、8名はすぐさま万能薬を飲み込んだ。ずっと笑い続けているユウキとファソラは万能薬を飲み下すのに少々時間がかかったが、のどに詰まらせて窒息なんてことはなく、2人も無事に万能薬を服用できた。
「あ、その手があったね。さすがはコットンちゃん」
「コットンちゃんの魔法も何気に無限大の使い道がありそうな気がするなぁ」
「……今度、2人で無限大コンビでも結成して活動してみるのです?」
「いいねぇ、面白そう!」
コットンが効率的に皆に万能薬を服用させる様子にミラクルシャインはコットンの聡明さを褒め、ムイムイはコットンの魔法も汎用性が凄いとの感想を抱く。一方のコットンがふとした発想からムイムイとまたの機会に一緒に活動することを提案すると、ムイムイはワクワクを胸にコットンの提案に飛びついた。
「あ、あれ? あたしは一体……」
「……んん。なんでわたし、寝てたんだろ……?」
「あれ? ここどこッスか?」
「よかった、治ったんだね。ナイスだよ、ムイムイ」
「ミラクルちゃんのアイディアのおかげだよぉ」
8名の魔法少女が万能薬を服用してから約10秒後。今まで各々奇行に走っていた8名の瞳に正気の光が戻り、なのだ先輩やラストエンゲージ、サンタマリアを筆頭にそれぞれ困惑の心境を顕わにする。8名の理性的な様子に万能薬が効いたと確信できたミラクルシャインとムイムイはお互いを称賛し合った。が、その時。ミラクルシャインの視界が突如、ぐにゃりとブレた。
「え?」
あまりの視界の歪みっぷりに思わず膝をついたミラクルシャインはめまいの理由に見当をつけられないまま、とりあえず立とうとする。しかし、視界の歪みは留まる所を知らず、ミラクルシャインは上下左右の感覚を見失ってしまう。ミラクルシャインの視界の端には、自分と同様に床に膝をつき頭を押さえる皆の姿が映っていた。
(何が、起こって――な、なに!? この映像!?)
ミラクルシャインたちを襲う謎の現象にミラクルシャインの思考が混乱をきたし始める中。歪み捻じれる廃ビル5階の景色の代わりに、別の映像がくっきりと視界に表示される。
映像の中で、ミラクルシャインは6人パーティーで行動していた。森林地帯をミラクルシャイン、コットン、メトロノーム、サンタマリア、メタ☆モン、ユウキの6名で突き進んでいく。その際、頻繁に現れるリザードマンや触手を生やす植物や巨大カマキリを倒していく。ミラクルシャインがテスターとして行動を開始した初日の映像だ。
が、ここで映像は切り替わる。森林地帯から、ミラクルシャインの見覚えのあるR市の街並みへと。ミラクルシャインたちはR市の商店街を白昼堂々、魔法少女のコスチュームで歩き進める。そして、目についた人を手当たり次第に殺していく。ミラクルシャインの杖で。コットンの木刀で。サンタマリアの盾で。ユウキと、ユウキに変身したメタ☆モンのビームで。
ミラクルシャインたちの凶行を前に、商店街は静まり返っている。やがて、編隊を組んで意を決した商店街の大人たちが、包丁やさすまたなどを用いてミラクルシャインたちを例え殺してでも止めようと集団で襲いかかるも、魔法少女とただの一般人との身体能力の差は絶対ゆえに、瞬く間にミラクルシャインたちに返り討ちにされていく。
当のミラクルシャインたちは殺した人の財布から手慣れた動作でテキトーにお金を奪い、「マジックキャンディが○○個増えた」などと笑いながら商店街を練り歩く。ミラクルシャインたちの背後には、数多くの人間の死体が散乱している。
(……な、なに、これ?)
視界にくっきりと上映される凄惨な光景にミラクルシャインが呆然としていると。映像にジジッと耳障りな音とともにノイズが走り、映像が別のシーンへと切り替わる。
映像の中で、ミラクルシャインたちはレンガ街でバーベキューを楽しんでいる。サンダードラゴンの極上肉を各々の好みの焼き加減で楽しみ、色とりどりのカラフルでこれまたおいしい飲み物で喉を潤し、テスターとしてたまたま招集された偶然の出会いを祝っている。これはミラクルシャインたちがテスターの役目を終える直前の映像だ。
が、ここで映像は再び切り替わる。レンガ街から、ミラクルシャインの通う西田中学校へと。ミラクルシャインたちは西田中学校に大量に打ち捨てられている死体を魔法少女の並外れた力で食べやすいサイズへと引きちぎり、たき火の炎で焼いて食べている。「おいしいおいしい」と目を輝かせて人肉を頬張っている。また、人間の死体を引き絞り、滴る血を当然のようにごくごく飲んでいる。
(は、は? え?)
正気の沙汰とは思えない光景にミラクルシャインの脳は明確に拒絶反応を示している。気づけば、カチカチとミラクルシャインの歯が鳴っていて、止められそうにない。もう、いやだ。見たくない。何も見たくない。ミラクルシャインの願いをあざ笑うように、映像にノイズが生じ、また別のシーンの映像へと切り替わる。
映像の中で、ミラクルシャインは1人だった。延々と広がる草原に廃墟しかない場所でわけがわからず立ち尽くしていたミラクルシャインはやがて慎重な動きで廃墟へと足を踏み入れ、1階の捜索に入る。ミラクルシャインがVR空間に転送させられたことを知らない時の、テスターとしての適性を判断するためのチュートリアルの映像だ。が、ここで映像は再び切り替わる。廃墟から、ミラクルシャインの、後藤光希の2階建ての家へと。
(え? 私の、家?)
酷く、嫌な予感がする。体の震えが止まらない。寒い。寒い。寒い。しかし、ミラクルシャインの精神状況なんて知ったことかと映像はミラクルシャインの視界に貼りついている。目を瞑ったって、映像はミラクルシャインの脳にしかと焼きつけられていく。
映像の中で、ミラクルシャインは興味津々で自宅の1階で食器棚や洋服タンスの中身を確認している。そして、2階への階段を登ろうとした時。後藤光希の母がいた。そばかすだらけの光希とは違い、もう40代なのに未だに20代前半レベルの若さと美貌を維持している母がいた。
(お、母さん?)
「……ふぁぁ。光希、じゃないわね。誰よ、貴女。人の家にインターホンもなしに入ってくるなんて非常識ね。通報されても文句は言えないわよ? で、貴女は誰? 光希の知り合い?」
たった今目覚めたばかりらしい光希の母は盛大にあくびをしつつ、眠気で上手く稼働しない頭を働かせながら、金ぴかでひらひらなドレスを着た金髪金眼のミラクルシャインに不思議そうな眼差しを注ぐ。まるで現実と二次元の区別のつかない痛い子を見るような視線だ。
(や、ダメ。やだ、やだ! やめて! お願い!)
チュートリアルの時、己が何をしたのかを知っているミラクルシャインは映像の中のミラクルシャインに動きを止めるように必死に願う。だが、映像の中のミラクルシャインは止まらない。
階段を下り終えた光希の母に、ミラクルシャインはミラクルフラッシュで目潰しをした。そして、片手で両目を押さえ、隙だらけの光希の母目がけて。ミラクルシャインは装備している杖で、光希の母に唐竹割りをお見舞いした。魔法少女の力をふんだんに込めた渾身の一撃で、光希の母の頭が潰れる。ミラクルシャインの杖の威力は光希の母の背骨にまで及び、ボキッと背骨の折れた光希の母は、力なくうつ伏せに倒れた。ミラクルシャインが殴り潰した光希の母の頭から、ダクダクと血があふれていく。間違いなく、光希の母はミラクルシャインの手によって死亡した。
「あ、ああああ……!」
ミラクルシャインの視界に否が応でもこびりついていた映像がかき消えた時。ミラクルシャインの本能は理解した。今の映像は全て、紛れもなく、己のウソ偽りのない本当の記憶だと。今まで、ミラクルシャインはVRMMOな魔法少女育成計画のα版のテスターとして、VR世界を攻略してきたつもりだった。でも、実際は違ったのだ。VR世界なんてなかった。ミラクルシャインはいつの間にか現実世界をVR世界と思い込んでいたのだ。
チュートリアルの骸骨の正体はたった1人の大切な肉親だった。
今まで敵モンスターとして殺してきたのはR市の住民だった。
攻略の邪魔になるからと時折攻撃して壊した地形は、R市の建物だった。
バーベキューと称していっぱい食べていたのは、R市の住民の死肉だった。
「や、ひゃ、ちがッ、私、そんな、そんなわけ! 違う違う! あり得ない、違う! ウソだ、こんなの! いや、いやぁああああああああ!!」
血生臭い世界と縁のない、ただの14歳の少女が受け止めるにはあまりに重すぎる残酷な現実に、ミラクルシャインは錯乱する。正義の魔法少女というミラクルシャインの設定など忘れて、頭を抱えて、声を張り上げて、涙をボロボロ流して、必死に否定できない真実を拒絶しようとすることしか、今のミラクルシャインにはできなかった。
絶望「(0゚・∀・) イイ! スゴクイイ!」
ふぁもにか「何かメッチャてかてかしてる……」
次回【17.暗躍する影】
※次回更新は10月4日です。