どうも、ふぁもにかです。今回で第3章は終了です。つまり、残すは終章のみ。いやはや、第3章は長かったですねぇ。何せ、第3章だけで約10万文字ですからね。終章はそこまで文字数過多にはならないと愚考中ですが、はたしてどうなることやら。
☆ムイムイ
「……あと2人かぁ」
R百貨店3階、メンズファッションエリアにて。床に鏡の破片が散らばり、壁や棚や床の至る所に弾痕が刻まれ。一角に血だまりの範囲を着々と拡大させるルディウェイ、もとい宵村瑠璃の首ちょんぱな死体が転がる中。ルディウェイの殺害に成功したムイムイはマジカルフォンで生き残っている敵の魔法少女の数を確認した。ムイムイはせっかくできた魔法少女の友達を強引に奪い去ろうと画策する存在への怒りを募らせている。ついさっきまでは単独行動は危険だと考え、仲間との合流を第1に考えていた。が、今は。
(敵の魔法少女は手練れだってなのちゃんが言ってたぁ。でもぉ、ムイムイなら1人でも勝てる。実際に勝てた。なら。これ以上皆が殺される前にぃ、ムイムイがもっと敵を殺さないとぉ……)
ムイムイのマジカルフォンから最も近くにあるマジカルフォンの居場所をナビゲートしてくれる機械:マジカルフォンサーチャー(※以後、MS)で他の魔法少女の居場所を把握するために、宵村瑠璃の死体を軽く物色し、ルディウェイのマジカルフォンを破壊する。その後、改めてMSの画面を覗くと、『R百貨店2階エスカレーター前』と表示されていた。
(あれ? 近くに来てるのぉ? もしかして戦闘音を聞きつけてやってきたのかなぁ?)
味方と合流できるのならそれに越したことはない。が、敵なら敵で構わない。ルディウェイを殺したように、次なる敵もムイムイの全力で撃破するだけだ。
「えっと、ガラスの割れる音は本当にこの辺から鳴ったの?」
「うむ。豪雨がうるさいとはいえ、聞き間違えたとは思えないのだ」
ムイムイがエスカレーターの元へ近づくと、聞き覚えのある2人の声が聞こえてくる。彼女たちとムイムイは同じパーティーとして丸2日行動を共にしてきたのだ。声の正体にムイムイはすぐに気づき、即座に声をかけた。
「なのちゃん! ミクちゃん!」
「「ッ! この声は!」」
ムイムイの発言に階下の2名はすぐに反応し、エスカレーターを駆け上がってくる。はたして、ムイムイの元に姿を現したのはなのだ先輩と星井ミクだった。2人は廃ビルから吹っ飛ばされた後、上手く合流していたようだ。見た所、2人はどこも怪我をしていない。ひとまず、ムイムイの心は安堵の念に満たされた。
「ムイムイ、無事だったの。本当に良かったの」
「ミクちゃんも元気そうだねぇ。ムイムイ、安心したよぉ」
星井ミクはムイムイの存在を確かめるようにムイムイの手を握り、安堵の旨を伝える。ムイムイも星井ミクの手を握り返し、ニヘラと微笑みを浮かべる。
「やれやれ。ムイムイ、君だったか。警戒して損したのだ」
「ごめんねぇ。さっきまでここで派手に戦ったからぁ」
「む、戦ったのだ? して、その相手はどうしたのだ?」
「あっちにいるよぉー」
一方。いつ敵に戦闘を仕掛けられても対応できるように人一倍神経を尖らせながらエスカレーターを上っていたなのだ先輩のため息を零す様子を前に、ムイムイは軽い謝罪を返す。その後、ムイムイの言葉に疑問を抱いたなのだ先輩に対し、ムイムイは瑠璃の惨殺体の転がる方向を指差す。この時、死体がかなりグロめだから見せないようにしようといった類いの配慮は、ムイムイに存在していなかった。
「……これは中々にスプラッタな死体なのだ。少しやりすぎじゃあないか?」
「首と胴体が離れ離れなの。凄くエグいの。これは、敵ながらちょっと同情しちゃうの」
「ムイムイがやったんじゃないよぉ。ムイムイはただ、敵を自分の魔法で自滅させただけだもん」
首と胴体の乖離した瑠璃の死体を直視することとなったなのだ先輩と星井ミク。なのだ先輩はこのオーバーキルな死体を作り上げたであろうムイムイの精神状態を心配し、星井ミクは瑠璃の死に様をつい想像してしまい、少々青ざめる。せっかく敵の魔法少女を倒したのに称賛されるでなく、引かれることに納得のいかないムイムイは頬をぷくーと膨らませて不満を表明した。
「……でも、敵を殺しても、既に殺された皆はもう帰ってこないんだよねぇ」
「「……」」
その後。改めて瑠璃の死体を見下ろしたムイムイは、ふと胸に去来した虚しさをそのまま口に出す。結果、なのだ先輩や星井ミクが沈黙し、場の空気が急速に重くなる。己のふとした一言で雰囲気を大いに沈ませてしまったことに、ムイムイは慌てて2人の気を紛らわせられるであろう話題を探し始める。が、ムイムイよりも早く、なのだ先輩が言葉を切り出した。
「しかし、ムイムイと合流できたのは僥倖なのだ。ムイムイ、君にしてほしいことがあるのだ」
「ムイムイにぃ?」
「あぁ。フォーの盗み取った情報に、『時間無制限かついかなる生命体も通過させへん結界』って言葉があったのを覚えているか? その結界を、ムイムイの魔法なら突破できないものかと思ったのだ。というわけで、何か……そうだな。例えば、結界を切り裂ける短剣みたいなものを召喚できないのだ?」
「んぅ。厳しいかなぁ。ムイムイの魔法はイメージがしっかりしてないとダメだからぁ。何かのゲームで結界を切り裂くアイテムとかないのぉ? その画像があれば、召喚できるかもぉ」
「ミク、探してみるの」
なのだ先輩から結界を突破しうるアイテムの召喚を頼まれたムイムイは難色を示す。例えば万能薬はまだ状態異常を治す物だとわかりやすく、イメージしやすかったが、『結界』や『切り裂く』といった概念的な要素を多く含んだアイテムをしっかりイメージして召喚できる気がムイムイにはしなかったのだ。とはいえ、結界を破る系のアイテムの画像があれば、召喚に成功するかもしれないとムイムイが可能性を提示すると、星井ミクが早速マジカルフォンで検索を開始する。
――と、ここで。ムイムイ、なのだ先輩、星井ミクの3名の頭の中に。突如、声が響いた。
☆ミラクルシャイン
時は少々さかのぼる。
自宅にて。ミラクルシャインは呆然と母の亡骸を見つめ続けていた。刻々と、時間が経過していくのも構わずに。ミラクルシャインはただ呆然と立ち尽くしていた。
そんなミラクルシャインが我を取り戻したのは、ミラクルシャインが着ている金色のドレスからふとマジカルフォンが滑り落ち、マジカルフォンの画面がミラクルシャインの視界に入ったことがきっかけだった。サンタマリアが、ラストちゃんが、フォーが、ユウキが。私が現実にショックを受けている間に、魔法少女の友達が1人。また1人と減っていく。このまま何もしないでいいわけがない。例えミラクルシャインがもはや正義の魔法少女でないとしても、それでも殺されていく友達を放っていいわけがない。
ミラクルシャインは焦燥感に駆り立てられるままに自宅を飛び出す。派手に移動すれば敵の魔法少女に見つかり、戦闘になりかねないことなど今のミラクルシャインの頭にはない。ミラクルシャインは走る。豪雨に体力を奪われようとも、水たまりでの踏ん張りがきかずに転びかけても、知ったことかと走る。走って、走って、走り続け。これ以上、友達が殺されないように、皆との合流を最優先に据えて崩壊したR市を疾走する。と、ここで。ミラクルシャインがマジカルフォンを見ると、メトロノームの死亡通知が履歴に更新されていた。
(そんな!? メトロノームちゃんまで……!)
あんなに私を慕ってくれていた子まで殺されてしまった。私が自宅で棒立ちにならずに行動していたら助けられたかもしれないのに。ミラクルシャインの中の罪悪感は加速度的に膨れ上がっていく。早く、早く皆を見つけないと。合流しないと。残っている皆も殺されるかもしれない。そのような焦りが、ミラクルシャインの走る動力源と化していた。
そして、ミラクルシャインがR市中を走ること20分。限界を振り切ってもなお気力で走り続けてきたミラクルシャインだったが、さすがに魔法少女のスペックをもってしてももう走れそうにないほどに疲弊したミラクルシャインは休憩のためにショッピングモールに入り、ベンチに仰向けに倒れる。
(うぅ。早く体力を回復して、皆を見つけないといけないのに……!)
ドッドッドッとの心臓の鼓動音が、ハッハッハッとの浅い呼吸音が。今は非常に煩わしい。が、だからといって。いくら体に力を入れても、体が鉛のように重く、起き上がることすらままならない現状ではベンチに倒れていることしかできない。また、自宅の時のように、何もしないままいたずらに時間を浪費するのか。今、この瞬間にも誰かが殺されているのかもしれないのに。無力な自分に嫌気が差した所で、ふとミラクルシャインの上から聞き覚えのある声が落とされてきた。
「ミ、ミラクルさん!? そんなに息を切らせて、どうしたのです!? まさか敵がすぐそこまで来ているのですか!?」
声の正体は、黒い羽織に木刀を装備した、青髪碧眼の魔法少女ことコットンだった。ミラクルシャインの尋常でない様子をショッピングモールの2階から目撃したコットンはその場から1階へと躊躇なく飛び降り、ミラクルシャインに声を掛けつつ、入り口の自動ドアからの敵の襲来を警戒する。
「コットンちゃん! 良かった、無事だったんだね!」
さっきまで体を起こすことが相当に困難な動作だったはずなのに、コットンの姿を視界に捉えた途端にミラクルシャインの体は羽のように軽くなったため、ミラクルシャインはガバッと起き上がり、コットンの両肩をガシッと掴む。マジカルフォンで各魔法少女の生死はわかる。だが、怪我の状況はわからない。ゆえに、ミラクルシャインの友達第1号&魔法少女の後輩たるコットンが怪我1つないことにミラクルシャインは心から安心する、
「はい、僕は大丈夫なのです。それより敵は――」
「――大丈夫、敵から逃げてたわけじゃないから」
「そうなのですか」
対するコットンはミラクルシャインとの再会を喜ぶよりも敵の魔法少女が周辺にいる可能性に気にかける。が、ミラクルシャインの発言により無用な心配だとわかったコットンは握っていた木刀を帯に差した。
「……ミラクルさん。僕たち、このまま殺されるのでしょうか?」
「コットンちゃん?」
「だって皆、どんどん殺されていくのです。皆とバラバラになってからまだ1時間も経っていないのに、もう6人も殺されたのです。きっと、僕たちの命ももう長くは――」
ミラクルシャインと合流できたことでようやく胸の内に秘めていた思いを吐き出せるようになったコットンは、曇った表情でポツリと呟く。困惑するミラクルシャインをよそに、コットンの口調はどんどん早くなり、切羽詰まった表情を浮かべ始める。
「――させない」
「え、ミラクルさん?」
「絶対にさせない。コットンちゃんは私が守るよ。友達だからね」
このままではコットンが死の恐怖に押し潰されてしまう。ミラクルシャインはコットンの発言を遮るようにして言葉を紡ぐ。そして。コットンの両眼をしかと見据え、コットンを守り抜くと断言し、コットンをギュッと抱きしめた。
上手く生きられない後藤光希を否定して正義の魔法少女:ミラクルシャインに逃げて。
だけど、人を殺したミラクルシャインはもう、正義の魔法少女じゃなくなって。
もう、ミラクルシャインには何も残っていない。さっきまでそう考えていた。
でも、私にはまだ友達がいる。コットンちゃんがいる。まだ空っぽなんかじゃない。
守るんだ、コットンちゃんを。せめて、コットンちゃんだけでも――
『こんちゃーす、魔法少女諸君!』
その時。ミラクルシャインの脳内に直接、声が響いた。それは、いかにもチャラついてそうな男の声だった。眼前のコットンも当惑の表情で周囲をキョロキョロ見渡していることから、おそらくコットンもミラクルシャインと同様に脳内に声が聞こえているのだろう。
『さてさて。今は亡きメトロノームの【私たちがゲームと勘違いをしていっぱい人殺しをしてしまった原因を私たちに教えて】って願いを叶えるため、今から俺が当事者の皆の頭の中に真相を直接伝えるぜ! 君たちがVRMMOの世界だと思い込んで家族やR市の住民や建物を壊しまくったのは、コットンとファソラが共謀して罠を仕掛けたからだ! 要はその2人が君たちを襲った一連の悲劇の黒幕ってわけだ! ついでに、君たちの居場所や魔法の情報を外部に流していた内通者の正体もファソラだぜ! 以上!』
男は一方的に言いたいことを言い終えると、言葉を打ち切った。
ミラクルシャインと言葉を交わす意思は欠片もないようだ。
「……え?」
(コットンちゃんとファソラさんが、黒幕? それじゃあ、私が人殺しをしたのは、お母さんを殺したのは、コットンちゃんとファソラさんが仕組んだから? え、え? 何それ? 冗談、だよね?)
脳内に響いた男の爆弾発言に、呆然としたミラクルシャインの口から戸惑いの声が漏れる。男の声が届けられたのは、メトロノームの『事の真相を皆に知らせたい』との願いが叶ったかららしい。メトロノームの願いが叶う魔法は、メトロノームの願いを忠実に叶えるタイプの魔法だ。どこぞのジュエルシードみたく、願いを曲解なんてしない。となると、メトロノームの願いに準じた男の発言内容に偽りはないはずだ。
でも、コットンちゃんとファソラさんが黒幕だなんて、そんなことあり得るのだろうか。ファソラさんとは別のパーティーだったから、ファソラさんがこんな酷いことを仕掛けるような人となりなのかどうかの判断はできない。でも、コットンちゃんのことは私がよく知っている。たまにいたずらを仕掛けてくることはあるけど、優しくて、しっかりしていて。少なくとも、私たちに人殺しをさせるような子じゃないはずだ。
それに。もしも、もしも本当にコットンちゃんが全てを仕組んだ黒幕だとして。私たちを酷い罠に嵌めたのだとして。今、目の前にいるコットンちゃんはどうなるのだ。さっきまで、コットンちゃんは追っ手の魔法少女に殺されるのではと怯えていた。あの言動が全部ウソだとはどうしても思えない。とはいえ、男の発言が全部ウソ、にしては真に迫っている。メトロノームちゃんが真相を皆と共有したいと願うのも、彼女の性格からして違和感がない。
何が正しいのか。何がウソなのか。どこまで信じればいいのか。どこまで疑えばいいのか。
わからない。これは、私1人がいつまでも考え込んでいても袋小路に入るのみだ。
今、目の前には。すぐ側にはコットンちゃんがいる。なら本人に黒幕かどうか聞けばいい。
「えっと、コットンちゃん。あのさ――」
ミラクルシャインは熟考の後にコットンへと視線を移す。どう言葉を選んで尋ねたものかと悩みつつミラクルシャインがコットンの両眼を見つめた時。コットンのエメラルドグリーンの眼には明確な陰りがうかがえた。
「――僕とファソラさんは黒幕じゃないのです。そうですよね?」
「アッハイ」
一言。コットンの淡々とした主張はミラクルシャインの心にするりと入り込み、核を形成する。結果、ミラクルシャインの中からコットンやファソラを疑う一切の思考が排除された。
「そうだよね。コットンちゃんが私たちに人殺しを強制させるわけないよね。ごめんね、コットンちゃん。私、少し疑っちゃったよ。友達なのに、最低だよね。疑うべきなのは、いきなり私たちの頭の中に声を届けてきた誰かなのにさ。それに、メトロノームちゃんなら真相究明よりも、私たちが殺した人たちを生き返らせることを望みそうだし、ますますコットンちゃん黒幕説なんてあり得ない話だよね。本当にごめんね、コットンちゃん」
「いえ、気にしないでください」
「そう言ってくれると助かるよ。にしても、今頭の中に響いたのは誰の声だったのかな?」
ミラクルシャインはコットンにぺこりと頭を下げて謝罪する。ミラクルシャインに疑われたことを気にしていない旨をコットンが伝えると、ミラクルシャインはホッと胸を撫で下ろしつつも、ふとした疑問を口にする。
「それはわからないのです。ですが、僕たちに声を届けたのは敵かもしれないのです。敵の魔法少女が僕たちを混乱させるために策を弄した可能性があるのです」
「……もしそうなら、特にファソラさんが危ないかもね。あの声に黒幕だって断定されてたし。このままだと誤解が解けないまま、ファソラさんが仲間から命を狙われかねないし、早くファソラさんと合流しようか。もうショッピングモールは探索したの?」
「はい。隈なく探しましたが、誰もいなかったのです」
「了解。なら、外を探さないとね」
コットンが示した推測を前に、ミラクルシャインはファソラの身が危ないかもしれないとの可能性に思い至る。そのため、ミラクルシャインはコットンとともにショッピングモールから外へ向かおうとする。
――騙されちゃダメッス! ミラクルシャイン!
その時。ミラクルシャインの頭の中に、再び声が反響した。
今度は信憑性に乏しい男の声ではなく。サンタマリアの声だった。
(今の、サンタマリアの声?)
なぜか己の頭の中に直接、サンタマリアの声が届いた。マジカルフォンの情報によれば、サンタマリアは30分以上も前にルディウェイに殺されたはずなのに。
「ミラクルさん?」
奇妙な現象に見舞われたミラクルシャインはつい、その場に立ち止まる。
突然歩みを止めたミラクルシャインへとコットンが振り返り、不思議そうな眼差しを注ぐ中。ミラクルシャインは『ぴかぴかに光り輝く』魔法で己の全身を発光させた。ミラクルシャインに魔法で体を光らせるつもりなんてなかったのに、体が勝手に魔法を行使したのだ。
ミラクルシャインが光った際、不思議な感覚に満たされた。胸元がぽかぽかと、太陽の穏やかな光で優しく温められているかのようで。非常に心地いい。今までの3日間の悲劇ですっかりすり減り摩耗していた精神が、元の形を、輝きを取り戻していく。精神の癒しに特化したマッサージ器に包まれているかのような、とにかく不思議としか表現しようのない感覚で、しかしこの胸の心地よさに身を委ねることこそが正解のように感じられ、ミラクルシャインは本能の望むままに心地よさを堪能する。今まで何度も魔法を活用してきたが、このような感覚は初めてだ。一体、何がどうなっているのだろうか。
心地よさにとろけそうになりつつも、浮かんだ疑問に対してミラクルシャインが思考を回していると。その瞬間、ミラクルシャインの思考が急速に冴え渡るようになった。コットンとファソラが黒幕でないという盲信から抜け出し、再びコットン黒幕説を疑える思考状態に至った。
ミラクルシャインに何が起こったのか。答えは簡単、サンタマリアがミラクルシャインに力を貸与したのだ。サンタマリアは己の命が尽きる直前に、少なくともミラクルシャインだけは信じられるとして、ミラクルシャインに力を託したのだ。結果、ミラクルシャインの魔法は強化され、魔法の効果範囲が広がった。今まではミラクルシャインの体しか輝かせられなかったが、サンタマリアの強化により、ミラクルシャインは己の心をも輝かせられるようになった。
心を光り輝かせられるとなるとどうなるか。一見、心をぴかぴかに光らせた所で無意味に感じられる。だがしかし、心を光らせることで、ミラクルシャインの心に蓄積された負の感情を丸ごと浄化し、正常な精神へと回帰できるのだ。それだけじゃない。ミラクルシャインの心に作用するあらゆる魔法を取り払う効果も発生する。コットンの『ウソをホントと思い込ませる』魔法という名の洗脳も当然ながら効果の範囲内である。そのため、ミラクルシャインは心を体ごと光らせることで、コットンの洗脳を消し飛ばし、正気を取り戻したのだ。
なお、ミラクルシャインが無意識に魔法を行使したのは、力とともに己の残留思念をもほんの少しだけミラクルシャインに与えたサンタマリアが、コットンの術中に嵌まり、コットンに黒幕の疑いを抱けなくなったミラクルシャインを救うために一瞬だけミラクルシャインの体の使用権を奪ったがゆえの結果なのだが、ミラクルシャインにはあずかり知らぬことである。
「ミラクルさん? 急に光って、どうしたのですか?」
「……ねぇ、コットンちゃん。さっき魔法を使ったよね?」
「え? 待って、え? まさか? な、なんで僕の魔法が解けているのですか!?」
「コットンちゃんの魔法が発動したってことは、『僕とファソラさんは黒幕じゃない』って発言がウソってことだよね? それって、さっき頭に響いてきた声が真実ってことだよね?」
「…………」
コットンが首をコテンと傾けて、いきなりミラクルシャインが光った理由を尋ねてくるも、ミラクルシャインはその問いを無視して質問を飛ばす。ミラクルシャインの様子から確信を抱いた上での質問だと理解したコットンが己の魔法をいともたやすく攻略したことに目に見えて動揺する中。ミラクルシャインは己の推理を敢えて声に出し、コットンに聞かせる。対するコットンは、ミラクルシャインの問いかけに答えない。ただ、沈黙するのみだ。
ミラクルシャインの中で答えはもう出ている。その上で、ミラクルシャインはコットンの言葉を待つ。コットンの告白をもって、真実を確定させたいからだ。状況的には完全にコットンが黒幕だが、もしかしたら。もしかしたらコットンが黒幕でないとの一縷の望みも残っているかもしれないからだ。
「……まさか、こんな想定外な形でバレるとは思わなかったのです」
「本当にコットンちゃんとファソラさんが黒幕なんだね」
「はい。その通りなのです」
だが、沈黙を破ったコットンの発言は、己が黒幕であると自白したも同然な内容だった。信じたくない可能性が現実となったことにミラクルシャインが沈痛な面持ちを浮かべる一方、コットンはミラクルシャインを敵意の眼差しで睨みつけるのだった。
☆ムイムイ
R百貨店3階、メンズファッションエリアにて。ムイムイはなのだ先輩と星井ミクとともに、直接脳内に響く男の声を聞いた。男の話す内容は、ミラクルシャインが聞いたのと同様に、コットンとファソラが一連の悲劇の黒幕だと暴露するものだった。
「今の声はぁ、一体……?」
「……コットンとファソラが黒幕で、ファソラが内通者でもあるって、どういうことなの? いきなりそんなこと言われてもわけがわからないの」
「……なるほど、そういうカラクリだったのだ。あたしたちはあの2人にまんまと嵌められたわけなのだ」
いきなり突拍子もないことを告げられたムイムイと星井ミクは、謎の声によってもたらされた情報を素直に信じ切っていいものかわからずに、困惑を顕わにする。一方、なのだ先輩は思い当たる節があったのか、謎の声を信じる前提で考察を進めていく。
「ちょッ、なのさん!? 今の声を信じるの!? ウソだとは思わないの!?」
「もしかしたら、敵の魔法少女がムイムイたちに精神攻撃を仕掛けてきたのかもよぉ?」
「仮に今の声が、あたしたちを混乱させるために敵が仕組んだことだとして、それでもあたしはコットンとファソラが黒幕だとの情報は信憑性が高いと考えているのだ」
星井ミクとムイムイは謎の声をそう易々と信じていいものかとの観点から指摘を入れるが、対するなのだ先輩はコットンとファソラが黒幕との説に確信を抱いているため、謎の声の発言内容を全面的に信じる構えを崩さない。
「実際、あの2人が協力して魔法を使えば、あたしたちに現実をVRMMOの世界だと勘違いさせることも、敵にあたしたちの情報を告げ口することも不可能ではないのだ」
「え、そうなの?」
「あぁ。だが、ここは直接本人に聞いた方が正確にわかるのだ」
「本人にぃ? ファソラちゃんかコットンちゃんかにってことなの? そりゃあ、見つかるならその方が手っ取り早いけどぉ――」
「――聞こえるのだ。2人には聞こえないか?」
なのだ先輩の意味深な言葉に星井ミクが食いつくも、なのだ先輩は自分の口から推測を聞くよりも、当の黒幕から事実を聞き出した方が良いとして、己の推理を表に出さない。R市はかなり広く、目的の人物と狙ってエンカウントするのは難しいことを前提に、ムイムイがなのだ先輩の意見に難色を示した所で、なのだ先輩は目を瞑り、ムイムイと星井ミクに耳を澄ませるよう示唆した。
なのだ先輩には何が聞こえているのか。ムイムイもまた耳を澄ませてみると、かすかに音が聞こえた。とても清涼で、まるでムイムイたちが花畑の中心にたたずむお姫さまなのではないかと錯覚するほどに秀麗で、洗練されたフルートの音色だった。ファソラはフルートを使って魔法を行使していたため、ムイムイはフルートから即座にファソラを連想した。
「フルートの音、まさかファソラちゃんが演奏してるのぉ?」
「多分、ファソラにもあの声が聞こえたはずだよね? なのに、なんで呑気にフルートを吹いてるの? もしかして、ミクたちを誘ってるの?」
「きっとそうなのだ。メトロノームの願いによりあたしたちに正体がバレた今、もう潜伏の必要はないということなのだろう。……皆、行くのだ。行って、真相を知るのだ」
「「……」」
ムイムイが素朴な疑問を口にし、星井ミクは今のタイミングでフルートを演奏するファソラの意図に思考を巡らせる。なのだ先輩は星井ミクの予測に同意を示した後、ファソラの誘いに3人一緒に応じる方針を提示する。ムイムイとしても、真実が知りたい。ファソラとコットンがムイムイたちに大量殺人をさせた理由を知りたい。ファソラの元に出向かない選択肢なんてなかった。星井ミクも同様の心境なのだろう。ムイムイと星井ミクはなのだ先輩の方針に無言で首肯した。
「……と、その前に。ムイムイ。その前に1つ召喚してほしい物があるのだ」
が、いざファソラの元へ向かおうと意気込むムイムイに水を差すように、なのだ先輩がムイムイに魔法でとある物の召喚依頼を出す。召喚できるかどうか少々怪しい内容だったが、試しに魔法を行使した所、実際にそれは召喚することができた。結果、ムイムイたち3人は、ムイムイの召喚したアイテムを各々使用した上でフルートの音源へと歩を進めていく。はたして。たどり着いたのは、R百貨店からほど近い、広々としたアーケード商店街だった。
「あらあら。メトロノームさんはとっても面倒なことをやらかしてくれましたわね。皆さんもそう思いませんか?」
ステンドグラスな天井が、豪雨がムイムイたちの体に降り注ぐのを防ぐ中。ムイムイたちの到着に気づいたファソラはフルートの演奏をやめて、拱廊の真ん中で妖艶な笑みを形作る。そんなファソラの背後には、まるで主に仕える忠実な下僕のように、EFBとぽむらちゃんが控えているのだった。
第3章 残虐な正義と被害者面な悪 END
→ NEXT 終章 手遅れでも前を向く
絶望「 役 者 は そ ろ っ た 」
ふぁもにか「 い ざ 終 幕 へ 」
次回【25.明かされる動機】
※次回更新は11月13日です。