【完結】オリジナル魔法少女育成計画 罠罠罠   作:ふぁもにか

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 どうも、ふぁもにかです。今回から終章に入ります。起承転結の『結』に差し掛かったため、物語にラストスパートがかかります。現状、死んでいない魔法少女は、ミラクルシャイン、コットン、なのだ先輩、星井ミク、ムイムイ、ファソラ、EFB、ぽむらちゃんの計8名。はたして、最終的に生き残るのは何名になるのか。誰になるのか。是非、お楽しみください。



終章 手遅れでも前を向く
25.明かされる動機


 

 

 ☆ミラクルシャイン

 

「本当にコットンちゃんとファソラさんが黒幕なんだね」

「はい。その通りなのです」

 

 ショッピングモール1階のエントランスにて。サンタマリアにより強化されたミラクルシャインの魔法で己の心を光り輝かせ、心に仕掛けられたコットンの洗脳魔法を晴らし、正気を取り戻した上でのミラクルシャインの問いに、コットンははっきりと首肯する。今までの先輩を慕う眼差しではない、まるで仇を睨みつけるかのようなコットンの視線に、ミラクルシャインは戸惑いが隠せなかった。

 

 

「……どうしてって、聞いてもいいかな?」

「いいですよ。もとより話すつもりだったのです」

 

 どうしてコットンちゃんが私に敵意を向けてくるのかがわからない。だから、聞くしかない。いつになく刺々しい雰囲気を纏うコットンにミラクルシャインがおずおずと申し出ると、元々自分語りをする予定だったらしく、コットンはあっさりと了承してくれた。

 

 

「僕は、貴女が憎いのです。貴女のような、偽りの正義を振りかざして悦に浸り、救えたはずの命をポロポロ零すような、偽善者な魔法少女を殺したくて仕方ないのです」

 

 コットンは怒気を孕みつつも淡々とした口調で語り始める。

 どうして此度の悲劇を巻き起こしたのか。その核心に触れ始める。

 

 

 

 ☆コットン

 

 コットン、もとい宇曽麻(うそま)(こと)はごく一般的な家庭の次女としてこの世に生を受けた。優しい両親、頼りがいのある姉。琴は家族の愛情を受けてまっすぐに育っていった。順調な人生だった。幸せな日々だった。

 

 が、琴が11歳の時、悲劇が訪れた。母の実家に帰省するため、一家そろって高速道路を活用して自家用車でR市へと移動していた時に、震度7の地震が襲ったのだ。

 結果。高速道路では大規模な交通事故が発生した。高架に作られた高速道路は真っ二つに分断され、急には止まれない車が次々と15メートル下方の地面へとダイブし、爆発していく。地震にいち早く反応しブレーキを踏めた運転者と対応が遅れた運転者とに二分されたために、幾多の車が追突、衝突し合い、横転。爆発。負の連鎖が連綿と続き、高速道路上では阿鼻叫喚の図が展開された。当然ながら、琴の父親が時速80キロで飛ばしていた車で、震度7クラスの大地震に端を発した一連の大事故を華麗に回避できるはずもなく。琴の乗る車もまた、どこからか凄まじい衝突を喰らい、琴は激しい衝撃を受けて気を失った。

 

 

「……ぁれ? ここ、は?」

 

 琴が意識を取り戻した時。琴の体は車の外に投げ出されていた。何が起こったのかわからないまま、琴はその場に立ち上がり、周囲を見渡そうとする。が、ここで初めて頭が割れるような痛みを認識し、「あう!?」と頭を押さえてしゃがみ込む。

 

 

「ぇ?」

 

 琴が頭を触った時、温くてぬるぬるとした感触がした。何だか気味が悪かったため、ポケットの中のハンカチで拭い取ろうとして、目に入った。琴の手のひらにべったりと赤い液体が付着していた。

 

 

「これ、血? ッ! うぅぅ!」

 

 血を認識した直後、ますます頭の痛みが激しさを増し、琴は目をギュッと瞑って痛みが消え去るまで待機することしかできない。音が、琴の鼓膜を穿つ。泣き声。うめき声。助けを呼ぶ声。が、事故に遭った人々の声のほとんどは事故車の爆発や、あちこちで燃え広がる炎のせいでかき消されていく。

 

 

「琴? 琴? 生き、てるの? 返事、して。お願い、琴。琴ぉ……」

「だ、誰?」

 

 その時。琴の耳にかすれた声が届く。地獄の様相を呈している事故現場で、すがるようにして自分の名前を呼ぶ者がいる。琴の知り合い以上なのは間違いない。が、酷い頭痛の影響で声から正体を察知できない琴は不安を顕わに、ふらふらとした足取りで声の元に向かう。声の正体は、琴の姉だった。姉は上半身に酷い火傷を負い、顔も焼けただれている。両足もあらぬ方向へ折れ曲がっている。こうして正気を保ち、琴の身を案じて声を上げ続けられていることが奇跡に思えるほどの怪我の状況だった。

 

 

「良かった、生きてる」

「お姉、ちゃん」

「お父さんと、お母さんは、あの車の、下敷きに、なってる。生きてる、はず。さっきまで、私を励ます声が、ちゃんと、聞こえてたから。でも。ごめんね、琴。お姉ちゃん、もうダメみたい……」

「え?」

「琴に、寂しい、思いなんて、させたく、なかっ、たのに……」

 

 姉は琴に両親の居場所を指差して伝えた後、まるで死を悟ったかのような言葉を並べていく。琴の目の前で。見る見るうちに姉の息が細くなっていく。姉の生気が目に見えて抜けていく。姉の命が尽きていく。

 

 

「や、やあッ。やだよ、お姉ちゃん……!」

「ッ! ダメ! あぶ、ないッ!」

「え?」

 

 姉を失いたくないあまりに、琴は衝動のままに姉の元に駆け寄り、ボロボロ涙を零す。が、その時。姉が琴を突き飛ばす。ゴボッと血を吐きながらも、それでも唐突に姉は琴を自分から遠ざける。なぜ拒絶するのか。尻もちをついた琴が再度立ち上がり、おもむろに姉に近づき尋ねようとした直後、姉の隣に横転していた車が爆発した。姉の体が爆風に呑まれ、土煙が消えた時には、そこには姉の姿はなかった。

 

 

「え? ……お姉ちゃん、どこ?」

 

 琴は爆風の突き抜けた先を見やるも、姉の姿はどこにもない。琴は相変わらず酷い頭痛に屈したくなる己を叱咤しつつ、周囲をふらふらとさまよう。と、今度は琴の背後で別の車が爆発する。爆風を背中からモロに受けた琴の体は爆風に煽られ、しばし宙を飛んだ後に、琴は頭から勢いよく高速道路に打ち付けることとなった。

 

 

「ぇ、ぅぅ……!?」

 

 頭が割れる。壊れる。琴は声なき声で叫ぶことしかできない。今、自分がどんな体勢なのかがわからない。どこが上で、どこが下なのか。前後感覚がわからない。体も言うことを聞かず、指1本動かせない。視界が血の色に染まる。体が異様に熱い。音がガンガンうるさい。この瞬間。琴は死を予感した。大地震という自然災害に端を発した一連の大規模な交通事故に為すすべもなく、死ぬ未来を感じ取った。しかし。そこで、何者かが現れた。災害現場には非常に場違いな金ぴかのひらひらドレスを身に纏った、金髪金眼の少女だった。

 

 

「R市の平和を守る、正義の魔法少女:ミラクルシャイン参上!」

(……え? 魔法、少女?)

 

 高架に建設された高速道路上に、ミラクルシャインは現れた。自衛隊やレスキュー隊よりも早く、ミラクルシャインは災害現場に登場した。いきなりの超展開に琴が呆然とミラクルシャインを見つめる中。ミラクルシャインは近場の車を細腕で軽々持ち上げ、下敷きになっていた怪我人を外へと移動させる。車のドアを当然のように筋力で壊し、車に閉じ込められていた怪我人を外へと運び出す。普通の女の子にはとてもできない芸当を軽々こなすミラクルシャイン。琴は自然とミラクルシャインが本物の魔法少女だと認識した。

 

 

「くッ、なんて酷い事故なの!? でも、大丈夫! 皆の命は、希望の光は私が必ず救ってみせるから!」

「ぁ、くぁ……!」

 

 ミラクルシャインが目に入った怪我人を次々と1か所に集めつつ、犠牲者が1人でも減るように事故に巻き込まれた被害者たちを励ましにかかる中。琴は必死に声を上げる。口が動かないが、かすれた声しか出ないが、琴はひたすら声を上げる。お願い、ミラクルシャインさん。どこかの車の下敷きになったお母さんを、お父さんを助けて。爆発でどこかに飛ばされてしまったお姉ちゃんを助けて。が、琴の声は届かなかった。ミラクルシャインは、より大声で助けを呼べる者の元へと駆けつけていった。

 

 

(なんで、なんでお父さんを、お母さんを、お姉ちゃんを助けてくれないの?)

 

 すぐにわかるはずなのに。あんなに太くて大きい声を出せる人は大抵軽めの傷で済んでいて、一刻を争うような重傷じゃないって判断できるはずなのに。このままじゃ。皆。

 

 琴の心が徐々に絶望の闇に浸食されつつあった、その時。いつの間にか、琴の目の前に求めていたミラクルシャインがいた。ミラクルシャインは倒れる琴を「よっと」とお姫さま抱っこにして、怪我人を1か所に集めている地点へと駆けていく。

 

 

「み、ぁ……!」

 

 チャンスは今しかない。琴は改めて叫んだ。家族の居場所を。相当に重い怪我を負っていることを。もはや一刻の猶予も許さないかもしれないことを。お願い、伝わって。琴はわらにもすがる思いで口を動かす。すると、ミラクルシャインが、琴が何かを伝えたがっていることに気づき、顔を向けてくる。伝わった。これで皆、助かる。琴は安堵した。だが。

 

 

「もう大丈夫だよ。助けに来たからね」

 

 ミラクルシャインは琴にニコリと微笑みかけるだけ。琴の家族のことなど、ミラクルシャインには一切伝わっていなかった。ミラクルシャインは琴を他の怪我人の下に一旦置くと、真下の道路のヒビに両手を突っ込む。そして、「うあああ!」との気迫のこもった声とともに、ミラクルシャインは道路の一部分を胸元まで持ち上げた。ミラクルシャインが持ち上げた一部分の道路には10人の重傷者が乗っている。

 

 ミラクルシャインは持ち上げた道路とともに高架からビルの屋上へと飛び降りる。ビルからビルへと軽々と跳躍していく。待って、どうしてお父さんから、お母さんから、お姉ちゃんから離れていくの。早く、助けてよ。いじわるしないで、助けてよ。

 

 

「ふ、ぃ……!」

「近くの災害拠点病院に連れてくね。大丈夫、助かるよ。きっと、顔の傷痕だって残らない。だから。もう少し、もう少しだけでいいから、頑張ってね。我慢してね」

 

 視線にありったけの気持ちを込めて琴はミラクルシャインを見つめる。すると、ミラクルシャインは相変わらず琴の伝えたいことをまるで察しずに、見当違いの励ましを繰り出すのみだった。

 

 結局。琴は近くの災害拠点病院で応急処置を施されたため、一命を取り留めた。

 が、家族は、皆死んだ。両親に、姉に、ミラクルシャインの救助は届かなかった。

 僕の身柄は、R市にある、母方の祖母の家に預けられることとなった。

 

 僕は忘れていた。魔法少女、ミラクルシャインのことを。

 魔法少女が一般人の前に姿を現した時、当の魔法少女が望まない限り、接触した人間の記憶は曖昧になるとの仕様が、魔法少女には備わっていたからだ。

 

 だけど。琴が12歳になり。スマホのアプリゲームの魔法少女育成計画にのめり込んでいた所で。唐突に本物の魔法少女:コットンに変身できるようになった。そして、魔法少女になったことで琴は思い出した。1年前の悲劇のことを。大地震による大規模な交通事故により、両親と姉を失ったあの日のことを。

 

 

「……」

 

 琴は毎晩、コットンに変身してR市を駆け回った。ミラクルシャインに会いたかったからだ。はたして、ミラクルシャインにはすぐに会うことができた。ちょうど、ミラクルシャインは迷子の子供の手を繋いで自宅まで案内し終えた所だった。ミラクルシャインはマジカルフォンに表示されたマジカルキャンディの数を見て、ニヤニヤ笑顔を浮かべていた。己の体を抱きしめて恍惚に浸っていた。

 

 

「初めましてなのです。僕は、コットン。つい数日前に魔法少女になったばかりなのです。正直、何をすればいいのかわからないので、先輩の今までの活動をたくさん聞かせてほしいのです」

 

 このような言い回しでコットンはミラクルシャインと接触した。ミラクルシャインは同じ魔法少女が自分以外にいることに歓喜し、進んで自らの魔法少女活動を赤裸々に明かしていった。そして、1年前の大地震の話題になると、ミラクルシャインはより一層嬉々として語り始めた。

 

 当時、大事故に発展した高速道路に、救急車やレスキュー隊、自衛隊などの到着は遅れていた。他の被災地域の対処で手いっぱいだった。本当ならあの大事故でほぼ全員が亡くなっていた。でも、私のおかげで、41人もの人を救うことができた。まるで誇るべき武勇伝のように。ミラクルシャインは己の功績として自慢げに当時の活動を語る。

 

 

「あの高速道路の辺りは家からかなり遠くて普段は行かないから、あの日は気まぐれでパトロールをやってたんだけど、ちゃんとパトロールをしててよかったって心から思ったよ。おかげで、1人でも多くの人を救えたんだからね。ホント、魔法少女をやっててよかったよ」

 

 ミラクルシャインは高台から愛おしそうにR市を見下ろしながら、微笑みを零す。

 ふざけるな。コットンはのどまで出かかっていた怒声を、どうにか呑み込んだ。

 

 

 確かに、ミラクルシャインの活躍で41人もの人が救われた。

 でも、あの大事故で216人が命を落としている。僕の家族も全員死んだ。

 なのに。ミラクルシャインはほんの欠片も後悔の様子を見せない。

 己の功績ばかり掲げて、あの日亡くなった大勢の存在をスルーする。

 

 許せなかった。あの時、ミラクルシャインが。無駄に前口上なんて述べてないで、1人でも多くの人を助けるべく動いてくれれば。より重い怪我を負った人の救助を優先してくれれば。お父さんは、お母さんは、お姉ちゃんは。助かったかもしれない。

 

 でも、現実には僕の家族は全員死んだ。

 地震のせい? 交通事故のせい? 確かにそうだ。

 でも。死因の決定打になったのは、交通事故の現場に舞い降りた魔法少女がミラクルシャインだったからだ。正義を為す自分が大好きな、正義を装った偽善者な魔法少女だったからだ。

 もしあの場に現れたのが本物の完璧な正義を心に宿す魔法少女だったなら、非効率的な動きの一切を排除して、全力で救助活動に当たったはずだ。僕の家族も、誰か1人くらいは助かったはずだ。

 

 ミラクルシャインが偽善の魔法少女だったから、僕の家族は助からなかった。

 善行を積む自分という存在に酔いしれる程度の、俗物魔法少女だったから。

 許せない。許せるわけがない。中途半端に救いをぶら下げてくるぐらいなら、助けに来なくて良かったのに。僕のことにも気づかずに、死なせてしまえばよかったのに。

 

 

 コットンの中で、ミラクルシャインへの殺意が深まっていく。が、コットンはミラクルシャインと、先輩後輩として、魔法少女の友達として距離を縮めていった。ミラクルシャインとしては本気なのだろうが、コットンとしては表向きの態度である。

 

 コットンの中で、ミラクルシャインを殺すことは確定事項だった。ただ、殺すだけでは意味がないのだ。ミラクルシャインのような偽善者な魔法少女には、あの時の僕の恐怖を、恨みを、苦しみを、絶望を、存分に味わってほしかった。だから、いずれ裏切ってミラクルシャインに精神的ショックを与えるために、コットンはひとまずミラクルシャインと仲良しな演技を始めた。

 

 同時に。ミラクルシャインだけを殺しても意味がないとコットンは考えるようになった。ミラクルシャインのような半端な正義をぶら下げた者が魔法少女として善行を積んだ所で、別の形で悲劇が生まれるだけだ。それが世界の真理だ。コットンが経験したことだ。だから、この世には完璧に正義を実践する真の魔法少女のみが必要で。偽善者な魔法少女はこの世に不要で。皆、殺さないといけない。皆、皆。絶望させて、苦しませて、心をぶっ壊した上で、殺さないといけない。

 

 ミラクルシャインと交流を重ねる一方で、コットンの胸の内の復讐心は膨らんでいく。だが、肝心の方法を思いつかず、コットンはただ物騒な感情を溜め込む一方だった。

 

 そんなある日。コットンはファソラと出会った。

 ファソラは肉体的、精神的に痛めつけられた人間が、特に可愛い女の子が、絶望の果てに無駄にグロテスクに殺される一連の流れをこよなく愛する猟奇的嗜好を抱えた精神異常者だった。

 そんなハードリョナ好きなファソラはコットンに語りかけた。

 

 

「あらあら。貴女とは同類の匂いがしますわね。わたくしはファソラ。魔法少女の力で、可愛い魔法少女たちを苦しめて、苦しめて苦しめて苦しめて。散々絶望させた後に残酷に殺す、最高に痛快で愉快で快感な活動を近々始めるつもりですの。……貴女も、一枚噛みませんか?」

 

 ファソラがコットンに手を差し出す。ファソラの考えは、全く理解できなかった。

 ファソラのようなサイコパスとは、まるで相容れなかった。正直、ファソラが気持ち悪かった。

 が、コットンには好都合だった。コットンは偽善者な魔法少女を苦しませた上での全滅を望む。ファソラは可愛い魔法少女の絶望顔からの凄惨な死を望む。利害は、一致していた。

 コットンはファソラの手を握った。

 

 

 その後。コットンとファソラは綿密に計画を詰めていった。

 どの魔法少女を標的にするか。どうやって残酷に殺すか。どのようにして絶望させるか。

 しっかりと時間を重ねて計画を煮詰め、そして。ついに実践した。

 

 

 

 ☆ミラクルシャイン

 

「……」

 

 コットンの話した内容は、ミラクルシャインたちを悲劇に陥れた動機は、非常に衝撃的なものだった。1年前にR市の端を襲った局地地震。その自然災害にコットンが巻き込まれていたこと。現場にミラクルシャインが居合わせていたこと。コットンは救えたが、コットンの家族は救いきれなかったこと。そのことが、今の復讐心をたぎらせるコットンを生んだこと。ミラクルシャインは、言葉が見つからなかった。

 

 

「改めて言いますが、僕はミラクルさんのような、偽善者な魔法少女が嫌いなのですよ。半端な救済は、別の悲劇しか生まないから。……ミラクルさん。最近、幼い女の子を変質者から助けましたよね?」

「え? えっと、もしかして路地裏でのこと?」

「それです。あの女の子ですが、死んだのです」

「……え?」

 

 コットンからの問いかけを受けて、ミラクルシャインは脳内の記憶を軽く漁り、VRMMOに参加する前夜の己の魔法少女活動のことを思い出す。しかし、ここで当時助けた女の子が死亡したとのコットンの淡々とした言葉に、ミラクルシャインは絶句した。

 

 

「ミラクルさんが女の子を家に送り届けてから3時間後に、あの変質者に殺されましたよ。あの男はとっくに女の子の自宅を知っていたのです。魔法少女の記憶はあいまいになったけど、何者かに妨害されたとの認識だけが残ったあの男は、逮捕まで時間がないと思い込み、女の子の家に強硬的に乗り込んだのです。そして。女の子を、女の子を守ろうとする家族を、あの男は殺害し、女の子を死姦し始めました。……見るに堪えなかったので、僕が魔法で男に自殺させましたけど」

「そん、な……」

「あの時。ミラクルさんがきちんと変質者をしっかり痛めつけるなり、殺すなり、対処しておけば、女の子は死ななかったのです。でも、実際には死にました。それはなぜか。女の子を助けようとした魔法少女が、偽善者だったからなのです。これが世界の真理なのです」

「……」

「どうですか、今の気分は? 貴女はもう正義じゃない、ただの人殺しの極悪人なのです。もう正義に酔いしれられない、正義を全うする自分に没頭できない。さぞ、絶望的な気分なんでしょうね。……ぜひ、そのままの気分で死んでください。自らの手で家族殺しを、大量殺人を犯した罪を抱いて、地獄へ落ちるのです。偽善者の権化、ミラクルシャイン!」

 

 何を言えばいいのか、どう反応すれば正解なのかわからずに、黙るしかないミラクルシャインに、コットンは言葉を畳みかける。コットンの発言は徐々に激しさを増し、全てを言い終えた後にコットンは殺意の存分にこもった眼差しをぶつけてくる。コットンちゃんは、本気だ。本気で私を殺そうとしている。でも、動こうとしないのは。私の反応を待っているからだ。全てを知ったミラクルシャインの発言を心に刻もうとしているからだ。

 

 

「……そっか。私、満足しちゃってたんだね」

 

 ポツリと、ミラクルシャインは呟く。さっきまで何を話せばいいのかまるでわからなかったはずなのに、一度言葉が口から零れると、次々と言葉が口からあふれ出ていく。

 

 

「地震がきっかけで発生した大規模な交通事故で、私が現場にいち早く到着できたことで、本来なら死んでいたかもしれない命をたくさん救えたって満足した。初めての魔法少女の友達ができたって満足した。満足して、浮かれて、思考放棄して。コットンちゃんのこと、もっとわかってあげられなかった。コットンちゃんがどんな気持ちを抱えているのか、理解しようとしなかった。もっとコットンちゃんのことを思いやれていたら、コットンちゃんがこんなことをしなくてよかったかもしれないのに。私は、気づけなかった」

 

 気づける機会はいくらでもあったはずだ。私はコットンちゃんと交流を深めてきた。何度も会って、話して、一緒に魔法少女の活動をして、お互いの力を高めるために模擬戦をして。コットンちゃんは12歳の女の子だ。私が憎いなら、憎しみを抱いているのなら、どこかに兆候があったはずだ。少しぐらい表に、態度に出ていたはずだ。なのに、私はコットンちゃんの本心に気づけなかった。抱えている闇を知らないままだった。いや、例え気づけたとしても。きっと私は見て見ぬフリをしたはずだ。だって、コットンちゃんは私の最初の、唯一の友達だったから。友達を失いたくない、嫌われたくないと、必死に目を逸らしていたはずだ。

 

 

「……私のせいだったんだね。これは、私が招いた悲劇だったんだね」

 

 この悲劇は、今のR市の惨状は、起こるべくして起こったものだった。私がどうしようもなくダメダメな後藤光希である限り、回避不可な惨劇だった。ミラクルシャインは静かに息を吐く。そして、まっすぐな眼で、コットンを見据えた。

 

 

「……ねぇ、コットンちゃん。今回は私たちにいっぱい人を殺させて、R市を壊させたわけだけど、これからも同じようなことを続けるの? それとも、元凶の私を殺して復讐を遂げたってことで、これっきりで終わらせるの?」

「続けますよ、当たり前なのです。ミラクルシャインはきっかけに過ぎません。この世から偽善者な魔法少女が1人残らず消え失せるその時まで、僕は止まらないのです」

「そっか。……それは間違ってるよ。コットンちゃん。だって、コットンちゃんが私たちと一緒にVRMMOをやってたってことは、コットンちゃんもいっぱい人殺しをやってたってことだよね? こんなこと続けてたら、むやみやたらに人の命を奪ってたら、きっといつか後悔する。だから、コットンちゃんを止めるよ」

 

 もしもコットンが今回だけで終わらせるつもりなら。コットンのために殺されるのもやぶさかではなかった。が、コットンが今後も偽善者な魔法少女の殺戮を続けると聞き、ミラクルシャインはここで大人しく死ぬわけにはいかなくなった。コットンがミラクルシャインを友達だと思っていないのなら、嫌われたくないからとコットンの間違いを無視する必要はない。ゆえに、ミラクルシャインは正面から、コットンの過ちを指摘し、金色の杖を構える。力づくででもコットンの凶行を阻止する覚悟を表出させる。

 

 

「この期に及んでまだ正義面を続けますか。醜いのです」

「確かに私はもう正義を名乗れない。主張できない。でも、それでも関係ない。コットンちゃん。貴女を絶対に助けてみせる。貴女の心を救ってみせる。今度こそ、今度こそ!」

 

 後藤光希を私は捨てた。私の理想を投影した正義の魔法少女:ミラクルシャインは消滅した。コットンちゃんとファソラさんの仕掛けた罠により、家族も、故郷も全部私が壊してしまった。もう、私には何も残ってない。だから、せめてミラクルシャインとしての生き様だけでも、守るんだ。ミラクルシャインの言動が非常に気に入らないのか、苛立ちを募らせるコットンの物言いに、ミラクルシャインは毅然と言葉を返す。己の強固な意思を顕わにする。

 

 

「……ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな! 偽善者のくせに、いつまでも気取ってんじゃねぇよ! 取り繕ってないで、とっとと醜い本心を曝け出せよ!」

 

 一方。コットンは血走った眼でミラクルシャインを凝視し、声を荒らげる。コットンの考える偽善者のイメージと今のミラクルシャインとが合致しないがゆえの反応だろう。お互いの衝突の時は近い。今までのコットンちゃんとの模擬戦は魔法の使用禁止の上での戦いだった。なぜかコットンちゃんの魔法が効かなくなっている以上、光り輝ける私の方が有利なはずだ。しかし、油断は許されない。絶対に、絶対にコットンちゃんの凶行を止めて、過ちに気づかせないといけないのだから。ミラクルシャインはギュッと杖を握りしめた。

 

 




絶望「結局、どうやって皆にVRMMOの幻覚を見せてたん?」
ふぁもにか「種明かしは次回で!」

次回【26.どうしようもない女】
※次回更新は11月18日です。
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