どうも、ふぁもにかです。終章ではミラクルシャイン&コットンサイドと、なのだ先輩たちサイドとで同時並行で描写を進めていきます。それゆえに、時系列が前後することもありますが、あしからず。ではでは、今回はなのだ先輩たちサイドのお話をどうぞ。
☆星井ミク
豪雨の届かない、R市のアーケード商店街にて。星井ミクはなのだ先輩、ムイムイとともに、此度の惨劇の黒幕たるファソラの元に出向いていた。当のファソラは背後に2人の魔法少女を従えて、優雅に微笑んでいる。軍服の魔法少女に、うさみみ帽子の魔法少女。この服装はフォーチュンテラーがもたらした敵の魔法少女ことEFBとぽむらちゃんと合致している。そして。当のEFBとぽむらちゃんは沈黙している。顔色一つ変えず、ハイライトの抜けた目で、ただファソラの背後に控えている。
「……」
星井ミクは己が大量殺人を犯した元凶たるファソラを無言で睨みつける。
一方、星井ミクの心は改めて、後悔で満たされていた。
あの時、私はテスターの話に『うまい話には裏がある』と疑っていた。
だからこそ、多くの質問をマスコットキャラクターの小人にぶつけた。
が、結局。怪しい要素を感じず、星井ミクはテスターの提案を受けた。
もしも過去に戻れるのなら。節穴だった過去の私を殴り飛ばしたい所だ。
お父さんは、お母さんは、正直好きじゃなかった。嫌いだった。
私の意思なんて関係なしに、私を万能の超人にさせようと、無駄に努力を強要する両親は、大嫌いだった。だって、私はテキトーに努力を切り上げて、ダラダラと怠惰に過ごす方が幸せだったから。
でも、だからって。殺したいだなんて思ってなかったのに。
だから家出を、失踪を考えていたのに。なのに、殺された。私が殺してしまった。
「さて、答え合わせといくのだ」
「あらあら。その前に、わたくしに少々自分語りをさせてくれませんか? それでなのさんたちの疑問は粗方解消されるでしょうから。その後で、質問を受けつけますわ」
「ふむ。なら、よろしくなのだ」
暗たんたる感情を抱え込む星井ミクをよそに、早速なのだ先輩が事の真相の話題に触れる。すると、ファソラはあらかじめ話を用意していたらしく、ひらひらと手を挙げながら提案をする。特に断る理由はないため、なのだ先輩はファソラの案を受け入れる。
ファソラはいつも通りだ。何も変わらない。一緒にパーティーを組んで行動していた時と同じ所作で、言動で。言葉を紡ぐ。自然体の雰囲気を醸し出す。その様子が、星井ミクには異様に映った。まるで、自分たちに家族殺しを、大量殺人をさせたこと自体に、まるで罪の意識を抱いていないように、何とも感じていないように見えたのだ。
星井ミクがこっそりファソラに戦慄していることなど知るよしもなく、ファソラはゆるやかに語り始める。自分の本質をより知ってもらうべく、ファソラはにこやかに話し始める。
☆ファソラ
始まりはヒーローもののアニメだった。凛音は毎週早起きをして、食い入るようにアニメを楽しんでいた。その中で、主要キャラが敵に痛めつけられる様に、非常にワクワクした。洗脳、調教、改造、寄生、絶望などの過程を経て主要キャラが悪堕ちする様に、とりわけゾクゾクした。大層そそられた。
一方、ヒーローが華麗に敵に捕らわれたキャラや悪堕ちキャラを救済する度に凛音は残念がった。余計なことをするなと不満たらたらだった。
しかし、その旨を同い年の子供に話すと、気味悪がられた。どうしてかはわからなかった。
だが、自分が少数派であり、少数派が声高に己の感性を主張するのはよろしくないことなのだと察した凛音は、他者に共感を求めなくなった。ただ、己の気持ちを内に溜め込むのみだった。
理由がわかったのは中学生になってからだ。小児性愛や露出症、性的サディズムなど性的倒錯の知識を得たことにより、凛音は己が異常な性癖を持っていることに気づいた。
おそらく。己がハードリョナを愛する人間なのだと、己の立ち位置を初めて把握できた。
凛音は人間が肉体的、精神的に打ちのめされ、絶望し、非業の最期を遂げる。その流れ全てが大好きな自分を認識した。人間が痛めつけられていれば老若男女関係なしで興奮できるが、特に、成人に満たない、容姿に恵まれた少女がハードリョナの対象だと一番興奮する自分を感知した。
以後、凛音は己の猟奇的欲求を解消するため、ハードリョナを扱う小説、イラスト、漫画、動画などの媒体を消費してきた。段々他者の作品で満足できなくなると、その手の作品を自作し、ネットを介して世の同志に供給するようになった。
が、それでもなお、次第に凛音は満足できなくなった。二次元では満たされなくなった。
ゆえに。凛音の中ではむくむくと、実際に女の子を誘拐して、手足をへし折り、叩き潰した後に切断したり。全身を隈なく焼き焦がしたり。獰猛な肉食動物と一緒に閉じ込めて、捕食シーンを鑑賞したり。全ての骨を一本一本丁寧に折ったりと。現実の女の子を散々傷めつけて、絶望させた後に殺したい願望が膨らんでいった。
だが。凛音は実行に移さなかった。実際に女の子を誘拐&監禁して楽しもうにも、資金や監禁場所、及び未来永劫警察の捜査をかいくぐり抜け続ける必要性といった問題が生じてしまう。凛音は以上の問題を解決できるアイディアを思いつけなかった。ゆえに、犯罪行為に走らなかった。凶悪犯罪を起こせば、自分だけでなく家族や親戚の人生まで破壊しかねないからだ。
三次元の女の子にあんなことやこんなことをしたい。
でも、警察に捕まって家族など、自分と関わりを持つ者たちに迷惑を与えたくはない。
衝動と理性。その板挟みに凛音は苦悩し続けた。
凛音の悩ましい日々に転機が訪れたのは、凛音が18歳になった時。
ほんの気まぐれでプレイしていたスマホのアプリゲームたる魔法少女育成計画を介して、凛音は本物の魔法少女:ファソラに変身できるようになった。
魔法少女の身体スペックや己の魔法、その他魔法少女に関する各種仕様を知った凛音は歓喜した。魔法少女ファソラなら、実在する女の子にハードリョナを実践できると。
魔法少女の身体スペックなら。己が望まない限り、一般人に見られても記憶があいまいになる仕様なら。ファソラの『あらゆる音楽を自在に奏でられる』魔法なら。標的をさらうのも、人のまるでいない山奥にでも監禁するのも、魔法で標的の感情を誘導しつつ充実したハードリョナライフを楽しむのも、何でもありだ。
ファソラの他にも魔法少女が存在すると知った後は、どうせなら一般の女の子よりも遥かに可愛い魔法少女を標的にしたい欲求が膨れ上がってきた。そんなある時。ファソラはコットンを見つけた。しばし遠くから観察していると、コットンが表面上ではミラクルシャインと和やかに会話をしているが、瞳の奥でミラクルシャインを苦しめたいと、復讐したいとの暗い感情の炎を静かに燃やしていることにすぐに気づいた。
ゆえに。ファソラはコットンが1人の時を見計らって接触した。
己の性癖を赤裸々に語り、一緒に魔法少女にハードリョナを仕掛けようと提案した。
コットンはファソラが差し出した手を握った。ハードリョナの対象を、半端な正義を振りかざし、悲劇を生んでいるくせに正義を達成したと勘違いして酔いしれるような偽善者な魔法少女に限定することを条件に、コットンはファソラとの共謀を良しとした。
その後。コットンとファソラは綿密に計画を詰め、ついに実践した。
まず宅配業者に扮したファソラが標的に定めた魔法少女の家を訪問し、標的がドアを開けた所でファソラの『あらゆる音楽を自在に奏でられる』魔法で、標的を泥酔レベルに意識があいまいな状態にする。その後、コットンの『ウソをホントと思い込ませる』魔法で、標的がいつの間にかファンタジーな草原地帯に転移したかのように勘違いさせる。
その他、標的の近しい人が骸骨モンスターに見えるようにも勘違いさせ、しっかり標的の手で殺させた後、再びファソラの魔法で意識をあいまいにした上でコットンの魔法で標的をR市に集合させ、その動きをまた一瞬で転移したかのように勘違いさせる。
以上のように、ファソラとコットンの魔法を重ね合わせることで、標的が違和感なく現実世界をVRMMOの世界だと誤解させたのだ。
ちなみに。マスコットキャラクターの小人の声はコットンがあらかじめ収録したものだ。
標的のあらゆる反応を事前に予測した上で魔法を行使しつつ収録した声を、さも小人が喋っているかのように再生することで、皆にウソでしかないVRMMO関連の設定をホントだと思い込ませたのだ。
そして。50時間が経過したのを機にコットンの一部の魔法を解除し、標的の見える景色をVRMMOから現実世界へと切り替える。同時に、魔法の国からR市を破壊しまくった標的たちを封印刑にするために派遣された優秀な4人の魔法少女をも同様に、ファソラの魔法で意識をあいまいにさせ、コットンの魔法で1人1人に偽りの過去や信念をホントだと思い込ませることで4人を、正義をやりすぎなまでに追求し、標的の殺害を当然と考える手駒に変える(※コットンとファソラは正義執行の例外)。その上で、R市に解き放ち、標的を着々と殺してもらう。
そうして。ファソラとコットンの魔法をフル活用することで。標的に近しい人やR市の住民を虐殺した罪悪感による絶望を抱えた状態で、4人の残虐な正義を追求する魔法少女たちに残酷に殺されるとの盤面を整えたのだ。
見目麗しい魔法少女たちのハードリョナの舞台を整えた後は、ぽむらちゃんのボムに乗じて標的とともに行動することをやめ、R市に設けた秘密基地のモニター室から、魔法の国から購入した無色透明の追尾カメラで、魔法少女たちが次々と殺される様を録画し、何度も再生し、己の欲求を満たす。
ハードリョナに耐性のなかったコットンはサンタマリアが首をねじ切られるシーンを最後にモニター室を後にしたが、ファソラはひたすら魔法少女たちの壮絶な末路のラッシュをひたすらに楽しんだ。今まで溜め込んでいた分、抑圧された感情を解放する快感に浸っていた。
だが、メトロノームに告発されたせいで、せっかく整えた舞台がぶち壊しにされてしまった。情報不足、原因不明。絶望を際立たせるこれらのスパイスがメトロノームの反則技に近い手段で無効化されたことは非常に残念だった。
だが、黒幕として堂々と登場することで、皆の揺れる感情を直に楽しみたいとの気持ちもあった。ゆえに、ファソラは皆をフルートの音色で誘った。そして、今に至る。
☆星井ミク
「……ふぅ」
自分語りを終えたファソラが軽く息を吐く。一方、星井ミクが第一に抱いたのは、己がまるで理解できない領域にどっぷり浸かっているファソラへの拒絶感。次に、ファソラとコットンの個人的な衝動に、欲求に理不尽に巻き込まれたことへの憤り。そして、こうも盛大にネタばらしを行うファソラが何か別の企てを進行させていないかとの警戒心。
「あらあら。少しだけのつもりが、長話になってしまいましたわ。申し訳ありません」
「気にしなくていいのだ。おかげで、ファソラがいかに狂っているかが理解できたのだ」
「あらあら。わたくしの歪んだ嗜好を目の当たりにして、目に見えて拒絶感を示すミクさん&ムイムイさんと違い、平然としているなのさんにだけは言われたくありませんわ。貴女も同類でしょう? わたくしにはよくわかりますわ」
「残念ながらその手の趣味は前世でおしまいにしたのだ。今は純粋無垢な魔法少女なのだ」
「ふふふ。面白い言い訳ですわね。では、そういうことにしておいてあげますわ」
ファソラはペコリと丁寧に頭を下げ、なのだ先輩は侮蔑の眼差しでファソラを見据える。当のファソラは口角を吊り上げつつ、なのだ先輩の本性を敢えて声を大にして指摘するも、なのだ先輩は欠片も動揺せずにニヒルな笑みで返答した。なのだ先輩、星井ミク、ムイムイ。この3人の団結力を削ぐ狙いの発言をあっさり交わされたファソラはなのだ先輩をますます興味深く感じ、それゆえになのだ先輩の絶望する様を鑑賞したいとの衝動を強めていく。
「……ファソラ。質問、もうしていいの?」
「もちろんですわ。どうぞどうぞ」
「ファソラはミクたちに人殺しをさせるために、いっぱい魔法を使ってきたんだよね? でも、ファソラの魔法はフルートで演奏しないと効果がないはずなの。だけど、宅配業者に扮して魔法を使った時とか、フルートの音色なんて聞かなかったの。それなのに、どうやってミクたちに魔法を使ったの?」
「……ふふッ、なのさん。答え合わせ、してみます?」
「あぁ、これに関しては少々自信があるのだ」
ファソラとなのだ先輩とが何人をも寄せがたい2人だけの空気を醸成する中。星井ミクはおずおずと手を挙げてファソラから質問の許可を取る。その後、星井ミクが気になっていたことを尋ねると、ファソラは回答をなのだ先輩に委託した。
「魔法少女の魔法は存外、応用が利くものだ。ミクの魔法は金平糖から巨大隕石まで自由に落とせるし、ムイムイの魔法は身近な道具からこの世に存在しない光の球まで具現化できるのだ。そして、当然ながらファソラの魔法にも応用できる余地があるのだ。……音楽には器楽と声楽の2種類があるのだ。器楽とは、ファソラがフルートを用いたように、楽器を用いた演奏なのだ。だけど、音楽には己の声を用いる声楽もある。つまり、フルートを使わずとも、歌でも、ファソラは人の感情に作用する魔法の音楽にできるのだ」
「でも、それでもおかしいの。ファソラとは同じパーティーだったけど、ファソラが歌ってる所なんて見たことないの」
「ムイムイもぉ、ファソラちゃんの歌は聞いたことないよぉ?」
「それは、ファソラの魔法が変化した結果なのだろう」
「「変化?」」
なのだ先輩は星井ミクやムイムイが理解しやすいよう1つ1つ順を追って言葉を紡ぐ。ファソラの歌う姿を視認していないと星井ミクとムイムイが主張すると、なのだ先輩は魔法には応用の他にも変化の要素があると告げる。
「そう、あたしたちの魔法は変化するのだ。魔法を使う本人の戦い方、信念、特訓などの要素を経て、魔法は使用者の意図に沿った形へと変化するものなのだ。結果、魔法はさらに応用性を深めていく。……ファソラの魔法はフルートも歌もなしに魔法を行使できるよう、変化しているはずだ。進化、と言ってもいい。きっと歌でなくとも、ただ話すだけで、口調や抑揚、メリハリ、イントネーション次第でファソラは魔法を行使し、あたしたちの感情を誘導できるのだ。内通者の件も、特殊な話し方で魔法を用い、遠くの魔法少女たちに直接声を届かせたのだろう。あたしたちの耳に届かず、遠くの魔法少女のみに聞かせる話し方なんて非現実的だが、魔法に科学の常識を当てはめようとしても仕方ないのだ。……そう、あたしは愚考しているが、採点はどうなのだ?」
「満点ですわ。さすがはなのさん。わたくしの魔法はもはや『あらゆる音を自在に操れる』魔法と改名した方が良い領域に達していますの」
「じゃあ、本当に話すだけで魔法を使えるんだ。汎用性が高いってレベルじゃないの」
「あらあら。お褒めいただき、光栄ですわ」
なのだ先輩の提示した考察が満足のいくものだったのか、ファソラは手を合わせ、ニコニコ笑顔でなのだ先輩を称賛する。一方で、星井ミクのファソラへの警戒度は急上昇した。何せ、今こうして会話をしている中でも、ファソラはいくらでも魔法を行使できるのだから。
「じゃあ、ムイムイからも質問。どうして、ムイムイたちに人殺しをさせたのぉ? ムイムイたちが、コットンちゃんの考える、偽善者な魔法少女だったからぁ?」
「その通りですわ。より具体的に言うと、魔法少女という立場を自分本位で利用しているか否かですわ。……皆さんも、心当たりがあるでしょう? コットンさん曰く、真の正義とは自己犠牲。知り合いでもない他者のためだろうと、自分に害しかもたらさないようなクズ人間のためだろうと、大好きな人を助けるのと同様のモチベーションで、効率性を追求して活動に勤しむ。それが最善ならば例え己の命を差し出してでも善行を積む。そのような真の正義を執行できる者にのみ魔法少女にふさわしく、それ以外の偽善者な魔法少女は総じて害悪であり、存在に値しない。と、考えているそうですわ」
「なるほどぉ。まぁ、ムイムイも魔法で自室の小物をいっぱい召喚して充実ライフを送ってたしねぇ。コットンちゃん的にはムイムイみたいなタイプは地雷だったのかなぁ?」
「そのようですわね。わたくしにはコットンさんの考えていることは難しくてよくわかりませんが」
続いて、ムイムイがひらひらと手を挙げつつ、ファソラに質問を投げかける。対するファソラは目を瞑って過去のコットンの発言を1つ1つ思い起こしながら返答する。そのようなファソラの回答に納得したムイムイはポンと手を打った。
「……完璧に正義な魔法少女など、幻想なのだ。まず完璧な人間などどこにもいないし、人が善行を積む時、多かれ少なかれ『自分のため』との理由が絡むのだ。他人のために己の命を投げ捨ててまで無償の奉仕をできる精神異常者な魔法少女なんて、きっとほんの一握りなのだ。……ならば、コットンの主張を押し通すとなると、ほぼ全ての魔法少女を滅ぼすことにならないか?」
「さぁ、どうでしょう? その辺のあんばいはコットンさんのみぞ知ることですわ。魔法少女をどこまで滅ぼすかは、コットンさんがどこまでで満足できるかに依存することでしょう。コットンさんの雰囲気からして、今回だけで終わらせるつもりではなさそうでしたが……わたくしはただ、可憐な魔法少女たちが苦しみ、絶望の果てに無残に死ぬ様を鑑賞したいだけですので、その辺の話は正直どうでもいいですわ」
「そうか。……ところで、ファソラ。まだ何かを隠しているのだ?」
「はい?」
「あたしにはわかるのだ。ファソラ、君はウソこそ言っていないようだが、まだ大事なことを隠しているのだ。ウソを吐かずとも、人は騙せる。言いたくない事実を尋ねられないように会話を誘導し、相手に誤解させればいいだけなのだからな。だが、その程度の工作ではあたしは出し抜けないのだ。……で、もう一度聞くが、何を隠しているのだ? この期に及んで、まだ隠さねばならない事実が何かあるのか?」
なのだ先輩がどこまで偽善者な魔法少女の殲滅を続けるのかを尋ねると、その手の方針を全てコットンに丸投げしているファソラは涼しげに言葉を返す。と、そこで。なのだ先輩が一歩踏み込んだ。なのだ先輩の真意がわからず首を傾げるファソラに、なのだ先輩はファソラが秘匿する何かをつまびらかにしようと言葉を畳みかけていく。
「ふ、ふふふふふ!」
ファソラはしばし、呆然とした表情を浮かべていた。が、我を取り戻すとおかしくて仕方ないと言わんばかりに口角を吊り上げて盛大に笑い声を零した。
「あらあら。本当に素晴らしいですわ、なのさん。今、わたくしの中にはなのさんを徹底的に痛めつけて絶望させたい気持ちと貴女を殺してはもったいないとの気持ちが拮抗していますの。……もしよろしければ、わたくしたちとともに世の魔法少女たちに圧倒的で、理不尽で、抗いようのない絶望を振りまきませんか? なのさんならきっと、狂おしいほどにハマると思いますよ?」
「え、ちょっと、ファソラ!?」
「お断りなのだ。今世のあたしは善良な女の子で一生を生き抜くと決めたのだ」
「…………そうですか。残念ですわ」
その後、ファソラはなのだ先輩を同志として自陣に引き込もうとする。ファソラのまさかの申し出に星井ミクが動揺に目を見開く中、なのだ先輩は速攻で拒否を示す。結果、ファソラは少々の沈黙の後に、しょんぼりとした面持ちで己の正直な心境を吐露した。
「で、さっきの質問の答えはまだか?」
「ふふふ。話したくないのでノーコメントですわ。……皆さん、さすがにずっと棒立ちでは飽きましたわよね。いつまでもEFBさんとぽむらちゃんさんを物言わぬ傀儡のままにしているのもかわいそうですし、そろそろ彼女たちの正気を戻した上で、お互いの命を賭した3対3の戦闘といたしましょうか」
なのだ先輩の催促に対し、ファソラは返答を拒否する。次いで、ファソラはこれ以上追求される前にと星井ミクたちからの質問を打ち切り、爛々とした眼で星井ミクたちを見据える。
「……名前は忘れましたが、とあるゲームキャラが言ってましたわ。EXPとはEXECUTION POINTS、他者に与えた痛みを数値化したものだと。……この度、皆さんは家族やR市の市民やヤクザ、警察、自衛隊、在日米軍などの方々をぶち殺しまくって多くの経験値を獲得し、レベルを着々と積み上げてきましたわ。その経験を存分に活かし、ぜひともわたくしと傀儡たちを血祭りにあげてくださいまし。……できるなら、ですけど」
ファソラは長々と言葉を綴る。が、ファソラには一切の隙が見えない。不意打ちを仕掛けようにも成功のビジョンがまるで見えない。星井ミクがファソラの底知れぬ実力の一端を知る中、ファソラの口が弧を描く。戦闘が始まる。星井ミクはそう判断した。が、場は何も動かない。相変わらず、星井ミク&なのだ先輩&ムイムイが、ファソラ&EFB&ぽむらちゃんと対峙している構図に変化はない。
「どうしたのぉ、ファソラちゃん。始めないのぉ?」
「……えーっと、先ほどからわたくし、皆さんに向けて色々と魔法を行使しているのですが、なぜ皆さんには全く通じていないのでしょう? わたくし、とっても気になりますわ」
「ファソラの魔法のカラクリに大体目星がついているのに対策なしでのこのこと姿を現すわけがないのだ。その程度のことも想定していなかったのか?」
ムイムイの純粋な問いにファソラは頬を指で軽くなぞりながら星井ミクたちに問いで返す。そんなファソラをなのだ先輩はジト目で見つめながら最小限にネタバレを行った。
そう。なのだ先輩はファソラの魔法の対策を思いつき、実行していた。ファソラに会うためにR百貨店から離れる直前に、なのだ先輩はムイムイにあるアイテムを人数分召喚してもらい、皆でそのアイテムを使用してからファソラの元へ出向いたのだ。
そのアイテムとは、飴玉タイプの万能薬。口に含んでいる間はずっと、あらゆる状態異常を無効化し続けられるという代物だ。この万能薬のおかげで、星井ミクたちはファソラの魔法で感情や意識などを操られずに済んでいる。
(でもこの万能薬、おいしくないのが難点なの……)
会話の流れから口内の飴玉タイプの万能薬の存在に意識が向いたことで、星井ミクの舌にまるですっかり味の抜けきったガムのような、何とも評価しがたい微妙な味わいが改めて絡みつく。せっかく意識しないように頑張っていたのに。星井ミクは眉を寄せる。
「あらあら。想定はしていましたよ。ですが、実際にわたくしの魔法を完封する手段を見出すとは思いませんでしたわ。……ふふふ、こうも対策をされては、わたくしがこの場に存在し、皆さんと戦う意味がありませんわね。それなら、前言撤回。ここはEFBさんとぽむらちゃんさんに任せて、わたくしは皆さんの見えない所で、皆さんの末路をたっぷりと堪能させていただきますわ。ではでは、ごきげんよう」
「ッ! 逃がすわけにはいかないの! 貴女をここで倒さないと、また多くの魔法少女が被害に巻き込まれるの!」
ファソラは洗練されたお辞儀を残すと、星井ミクたちに背を向けて戦線離脱を図る。ここでファソラの逃亡を許してしまえば、ファソラは衝動のままに今後も他の魔法少女たちに絶望を撒き散らすことになる。そんなふざけた展開を阻止するため、星井ミクは即座にファソラの頭目がけて流れ星を落としにかかる。だが、星井ミクの流れ星は、ひょいと投げられたゴムボール型のボムの爆発により、あらぬ方向へと弾き飛ばされた。
「え!?」
「見つけたぴょん! ここで会ったが百年目だぴょん!」
「一気に3人も見つけられるとは僥倖だな」
己の流れ星の魔法への、見覚えのある対処法に星井ミクがぽむらちゃんの方へと目を向けると。今さっきまで死んだ目で微動だにしていなかったはずのぽむらちゃんとEFBがまるで今まで星井ミクたちの行方を自力で捜索し、ちょうど今発見したかのような発言を繰り出していく。どうやらファソラは自らの発言のついでに魔法を行使し、EFBとぽむらちゃんを正気に戻したようだ。
「くッ、このままじゃあ――」
「――ミク。まずは目の前の敵なのだ。ファソラは後で仕留めるのだ」
「焦るのは禁物だよぉ、ミクちゃん」
「……わかったの」
ファソラの背中がどんどん小さくなっていく。どうしたらファソラを逃がさずに済むか。星井ミクが必死に思考を巡らせていると、なのだ先輩とムイムイがたしなめてくる。二兎追う者は一兎も得ず。そんなことはわかっている。だが、ここで星井ミクたちを悲劇に落とし込んだ黒幕の1人であるファソラを今追えないことが非常に口惜しい。今すぐファソラを追跡することは最善でないと理性では理解しているため、星井ミクはギリリと歯噛みしながらも、攻撃対象をファソラからEFBとぽむらちゃんに変更した。
かくして。ファソラの姿が星井ミクの視界から完全に消え失せ、どこかからファソラが高みの見物をしているであろう中。星井ミク&なのだ先輩&ムイムイと、EFB&ぽむらちゃんとの3対2の戦闘が今まさに火蓋を切ろうとしていた。
絶望「ファソラが悪役やってると、何だか悪役令嬢に見えてくる不思議」
ふぁもにか「さっさと異世界の悪役令嬢さんに憑依させなきゃ!」
次回【27.切り札の使い時】
※次回更新は11月23日です。