このダンジョンに神殺しが居ることは間違っている。   作:みころ(鹿)

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おっランキング乗ってる(心肺停止)

一話から沢山のお気に登録と高評価あざー!


 神殺しのリョナ厨

・・・

 

 

 

とある路地の、とある袋小路。

青い月明かりに照らされた小道は人通りなどあるはずも無く、寝息さえも聞こえない。

生気の感じられない道はどこか恐ろしさすらあり、静寂だけがこの場を支配しているように見えた。

 

しかしその袋小路には男が一人、確かに立っていた。

 

真っ黒なコートを纏った男は、息をひそめているのかピクリとも動かず、音を発しない。

その姿はどこか亡霊の様であり、今でこそ月に照らされているが、影に入ってしまえばその姿形は霧散してしまいそうだった。

 

そして男の目の前、袋小路の脇には教会が建っていた。

 

ツタの生えた壁、尖った屋根、ところどころ剥げた塗装に、はめこまれたステンドグラス。

その全てが青い月光に照らされ、静けさを携えており、どれをとっても神秘的で、夜の魔法はベールのように厚く滑らかにかけられていた。

 

 

…男は教会を見上げ、呟く。

 

 

「…ボっロ…」

 

 

俺は目の前の廃墟のような、いやもう廃墟と言っても差し支えない建物に素直な感想を口にする。

そして鼻白んだような顔を浮かべると、溜息をついた。

 

…豊穣の女主人から出た後。

 

俺はエイナにヘスティアファミリアへの道順を聞き、そこで別れた。

ちなみに家まで送って行こうかと提案したら断られたとかは言うまでもない事だろう。

 

そしてそこまで複雑ではない道を緩慢に、散歩の如く俺はエイナに教えられた通りに歩き、この袋小路に辿り着いたのだった。

既に辺りには一切人の気配は無く、店は閉じ、町全体が寝静まっていた。

…時計を持っていないので解らないが、だいたい二時とかその位だろうか?

 

 

「ここ…だよな?」

 

 

俺はいかにもぼろい教会を見上げ、そう呟くと、先程のエイナの去り際の顔とセリフを思い出す。

 

 

(ちなみにヘスティアファミリアの現在の拠点は教会です…って言ってたもんなぁ)

 

 

目の前の建物は教会のようにも見える。

だがたとえ教会だとしても窓が割れていたり、ツタがはびこっていたりと手入れはされていない様子だった。

故にとてもじゃないが人の住んでいるような環境には見えず、何だかその理由も解るようで、俺は中に入る事をためらっていた。

 

…しかし他にアテがある訳でも無い。

 

俺は諦めとも困惑ともつかない溜息を吐き出すと、教会の敷地内に足を踏み入れた。

 

 

「…!?」

 

 

その時、またも血が滾った。

言いようのない衝動に、俺の身体は疼き始める。

…が、この感覚は二回目だ。俺は荒く息をつくと、何とかそれを抑え、先程のように沈静化させる。

そして同時にふと視線を上げると、気がついた。

 

――神は、当たり前のようにそこに立っていた。

 

美しい。そう形容するしかない少女が、俺を見上げていた。

黒いツインテールは美しく流れ、目は澄みきっている。

顔の造形もそうだが、雰囲気からして人ならざる気配が漏れ出ており、思わずハッとするような、背筋を正してしまうようなものが少なからず感じられた。

それは所謂「神気」という奴であり、人にとっては不思議と心地よいものだった。

 

月明かりに映し出された少女はまるで光り輝くように、美しく、奇跡そのものを体現していた。

 

 

(こいつが神か)

 

 

思ったよりもずっと身長が低い。

下手すればベル君よりも低い身長をした神様は、教会のぼろい壁に背を預け、不審者でも見るかのようにこちらを見上げていた。

一見すると少女のようにしか見えない彼女だったが、俺は神だと直感すると、少しばかり緊張する。

 

流石に神と直接会話するなど初めてだし、衝動的なものがいつ出てくるかも解らなかったからだ。

 

 

「なんだい君は?…こんな夜中に」

 

 

しかし怪訝そうな顔をした神、「ヘスティア」が、彼女から尋ねてくる。

なるほど、確かにこんな真夜中に自宅を訪ねる人間がいれば不審に思うのは当然だ。

事実ヘスティアは不安そうな、怪訝な顔をしており、突如現れた俺の事を見ていた。

 

だがてっきり俺から喋りかけるつもりでいた俺は、少し口ごもる。

 

それを見たヘスティアは顔の怪訝さを強めると、ふっと疲れたように溜息をついた。

そしてひらひらと手のひらを振ると、首を振った。

 

 

「何にせよ今はやめてくれ。僕の大事な眷属がまだ帰ってきてないんだ…僕はここで待っていなきゃいけないから用事があるのだとしても聞いてやれないよ」

 

 

ぶっきらぼうなその言い方に、少し我に返った俺は尋ねる。

 

 

「…その眷属はもしかしてベル・クラネルって名前じゃないか?」

 

「何、君もしかしてベル君が今どこにいるか知っているのかい!?」

 

 

まさか俺の口からベルの名前が出てくるとは思わなかったのだろう。

驚いたヘスティアは目を見開くと、身体を預けていた教会の壁から身体を離し、俺に掴みかからんばかりに詰め寄ってきた。

…幼い身体にはやや不釣り合いともいえる巨乳がバインと揺れる。

 

だが焦った様子のヘスティアとは対照的に冷めた俺は、ゆっくりとヘスティアの質問に答えた。

 

 

「今どこにいるかは解らんが、なんでここ…つまりは自宅に帰ってないかの理由は解る」

 

「…!」

 

 

ヘスティアは悔しそうな顔をした後、緊張と悲しみ入り混じったような複雑な顔をする。

俺は特にそれに何の反応も示さず、続けた。

 

 

「馬鹿にされた」

 

「…は?」

 

「弱いって馬鹿にされたんだ」

 

 

そう言って肩を竦めるて見せるとヘスティアは軽く俯くと、まず怒りの感情を瞳に浮かべ、すぐ消した。

そして「じゃあダンジョンに…?」と呟くと、再び心配を顔に表した。

 

俺は欠伸をしながらその工程がすむのを待つと、ヘスティアが顔を上げるのを待つ。

 

そして再び顔を上げたヘスティアは怪訝そうな視線を俺に向けた。

 

 

「じゃあ…君は何者なんだ?」

 

 

なぜそんな事を知っている、と続けるヘスティアに俺は軽く笑うと答える。

 

 

「たまたま命を救ってもらって、たまたま食事の席で一緒になった者だ」

 

「…はぁ…」

 

 

ヘスティアは冗談のようなそれに、困惑気味に頷く。

…が、俺は畳みかけるように用事を述べた。

 

 

「そしてヘスティアファミリア志望者だ」

 

「…へぇー…え?今何て?」

 

 

興味無さげに再び下を向いていたヘスティアだったが、俺の一言にバッと顔を上げる。

俺は若干タイミングが悪かったか?という思いを軽く流すと、もう一度言う。

 

 

「ヘスティアファミリアに入りたい」

 

「…!」

 

 

驚きと、若干の嬉しさを顔に浮かべたヘスティアは俺の事をマジマジと見つめ――

 

――首を振る。

 

 

「…ダメだ、さっきも言った通り今僕はベル君の帰りを待っている。今君を相手している暇はないんだ…何にせよ今はタイミングが悪い、また明日来てくれ」

 

「あー…」

 

 

やはり、タイミングが悪い。

俺を見る視線や、僅かな喜色からして前向きには検討してくれているようだが、それ以上にベルの事が心配なのだろう。

そりゃ見ず知らずの人間より、恐らく仲の良い自らの眷属の事を気にかけるのは当然だと言えた。そして心配な時に他者に構っている暇など無いだろう。

 

だがそれだと問題が一つ。

 

 

(今晩どこで寝りゃいいんだ、ってことになる)

 

 

出来るならば汗や土で汚れた服を洗濯し、身体を洗い、フカフカのベッドに眠りたい。

野宿もとい道の上で眠ること自体はできるが、身体が痛くなるし、何より外で眠ると寒い。

それにクタクタに疲れた体は柔らかいベッドを欲しており、安眠を求めていた。

 

案外さっくり入れると思っていた俺は、完全に計算違いだと内心舌打ちすると、もはや話はここまでといった風に俺から視線を逸らして足元の石を見始めたヘスティアに()()()()

 

 

「もし…実は今晩の宿がなくて困っているのです」

 

「…」

 

 

まだいたのかという様子のヘスティアは、少し面倒くさいふうに俺を見上げる。

俺はコートの内ポケットをまさぐると、かなり使ってもまだ一万ヴァリスの入った袋を取り出した。

 

…ヘスティアはまるで説教をするように、目を閉じ、指を振る。

 

 

「いいかい?いくらベル君の知人だろうが何だろうが今日知り合ったばかりの君を、誰もいないホームに入れてあげる事はできない。それに――」

 

「これ少ないかもしれないですが、僅かばかりの俺の心です」

 

「――ホアア!?」

 

 

何やら述べていたヘスティアだったが、突如として現れた袋の中の大量の金貨に驚愕する。

そして何やら計算し始めると、またも突拍子の無い声を上げた。

 

 

「一万ヴァリス!?」

 

 

今日稼いできたのが十万五千ヴァリス。そのうちの9万は(まぁ今日は特に食べたが)食費に消えた。

なので残ったのは一万ヴァリス。最初あったうちの十分の一ではあるが、普通の一皿がだいたい600~900ヴァリスなのを見るにそれでもかなりの金は持っていると言えた。

 

ヘスティアは目を白黒とさせて、一万ヴァリスの入った袋を見つめたまま固まる。

俺はそれを内心鼻で笑うと、慣れない丁寧口調で続けた。

 

 

「できればー、一晩だけでもお部屋をお借りできればと思っているのですがー」

 

「う、ぐぐぐぐぐ…!」

 

 

何やら辛そうな顔をしているヘスティアは、うめき声をあげ、考え込む。

どうやら先程言ったこととの矛盾や、金で買収されることへの抵抗感があるようだったが、結構心は傾いているようだった。しかし顔は辛そうでも片腕はギギギと袋を掴む方へと動いており、指はワシワシと開いたり閉じたりしていた。

 

そして若干恨めしそうにヘスティアは、袋を受け取る。

 

 

「…どうやら君は信用に値する人間のようだ。全く持って遺憾だが、特例だが、君がとりあえずここで休むことを許そう…!」

 

「ふっ、金で買える信頼ですか」

 

 

そう言って鼻で笑ってやると、ヘスティアはとても悔しそうな顔をし、涙目ながら声を荒げ教会の扉を指さした。

 

 

「教会を入っていくと奥に地下に続く階段がある!そこを好きにするといいさ、汚さないようにね!」

 

 

こう見ると神には全く見えないものだ。

俺は身長の低いヘスティアが顔を赤くしてまくしたてるのを思いっ切り見下ろした後、その脇を通り、教会の今にも外れそうなドアを押した。

ドアはギィーという音を立てながら開かれ、立て付けが悪いのか勝手に戻り始める。

 

俺は扉が閉じきる前にするりと中に入ると、後ろでドアがぱたりと閉じた。

…閉じる前に後ろから「ベル君…僕はお金には勝てなかったよ…」という声が聞こえた気がした。

 

…中の様子は外とそこまで変わらない。

敷かれたカーペットは所々裂け、幾つも置かれた長椅子は転がったりバラバラになっていたりと散乱しており、外から見て割れていたのだから当たり前だが窓は割れていた。

そしてその割れた窓からは風が入ってきており、僅かだが部屋の温度を下げてしまっていた。

 

 

(ここで生活できる訳はないが、なるほど地下か)

 

 

…納得した俺は乱雑に放置された長椅子の合間を通り、奥に向かう。

 

するとそこには確かに開かれた扉と、地下へと続く階段があり、そこからは生活臭がした。

つまり教会はあくまで玄関なのであって、教会自体では生活している訳ではないので別にぼろくても構わない…という訳だろう。

 

 

(どちらにしてもだ)

 

 

俺は地下へと続く階段を前に、一度振り返る。

そこにはまるで荒らされた跡のような散乱具合と、全く手入れされていない物の汚れが蓄積されていた。

一般人が見れば、いや誰もがこの景色を見ればこう思うだろう…「直せばいいのに」。

 

しかしそれをしないという事は、出来ない理由があるという事になる。

 

そして先程の神であろうはずのヘスティアの一万ヴァリスを見た時の反応、そして今は誰もいない本拠地(ホーム)という言葉、それらを集積するに…。

 

――俺の思いは、確信に変わる。

 

 

「…もしかしなくても一般以下なんじゃないだろうか?」

 

 

俺は――ヘスティアファミリアが貧乏なのだという事を知った。

 

 

 

・・・

 

 

 

階段を降りるとそこは狭い一部屋、いやどうやら奥に簡素ながらもシャワールームのようなものも見えるので二部屋の本拠地があった。

 

見える限りにはひとまず欲していたベッドと、ところどころ中身が出てしまっているソファ、そして本棚と洋風の机がある。

奥には台所なのか水回りと、棚があり、その手前には小さな洋服ダンスが設置されているようだった。

 

 

(まずは身体洗うか…)

 

 

正直今すぐにでも寝てしまいたい。

だが身体に張り付いたシャツの感覚は気持ち悪く、何やら自分の身体から異臭がしているような気がした。

…風呂にも入りたいくらいだったが、流石にそこまでの贅沢は言っていられないだろう。

 

俺は重い脚を引きずり、部屋を横切るとシャワールームに辿り着く。

 

そして丁度良さそうな何も入っていない桶を見つけると引っ掴み、それを持って中には入った。

 

 

(うわせま)

 

 

何とか二人入れるかどうかの広さしかないシャワールームに俺はとりあえず服を着たまま入る。

そして桶を置くと、しゃがみこみ、流石に置いてあった石鹸を蛇口を捻って水を流し込みながら桶に溶かした。

 

 

「よし…」

 

 

俺はちゃぷちゃぷと石鹸水の入った桶の中を軽くかき回し、頷くと腰に付けてあったグローブを外した。

そしてひとまず足元にカチャリと置いておくと、立ち上がり服を脱ぎ始めた。

 

 

「おー…きったねぇな」

 

 

モンスターの体液や土埃もそうだが、それ以前から元いた世界でも失踪していたのだ。

服は痛みこそしていないようだが見かけでも大分汚れており、汗のせいでか臭っていた。

 

俺はすぽぽんと全裸になると、服をまとめて桶の中に入れる。

そして水を流しながら一つ一つ手で洗い始めた。

 

…一回こする度に茶色い土が流れ、水を染める。

 

そして何とか綺麗にした服は水でゆすぎ、設置したグローブから伸ばしたワイヤーに(切れないように)吊るした。

 

 

「腰いった…」

 

 

30分後。

何とか全て洗濯し終わった俺は立ち上がり伸びをする。

そして長らく動いていなかったせいで凝り固まった身体をほぐすようにさすると、痛みを和らげた。

 

 

「ふぅ…」

 

 

やっと身体が洗える。

正直疲れ切った身体は今すぐ眠る事を推奨していたが、軽く頭を振り、眠気を頭から追い払った。

 

俺は熱いシャワーを全身に浴びながら、石鹸を泡立たせると身体に擦り付けていく。

 

できれば手ぬぐいなんかも欲しかったが、見たところ周囲には身体を拭くためのタオルしかない。

俺は手で全身を擦ると、地肌から汚れを取り除いていく。

 

そしてその全ての泡を汚れごと洗い流すと、タオルで全身を拭いた。

 

 

「はー…」

 

 

だいぶ、というかかなりスッキリした。

朝も噴水の水で顔は流しこそたが、やはり温水の方が効果が格段に良い。

 

体中の汚れを落とせた俺は満足し、身体を拭き終えるとタオルも軽く水で洗い、絞り、ワイヤーにかけた。

そしてシャワールームから出ると――気がついた。

 

…替えの服が一切ない事に。

 

 

(…)

 

 

常識的に考えれば、仮にも神とはいえ女性が生活している空間で全裸でいるというのはよろしく無い。

しかし俺の思考は強烈な疲れによる眠気で鎖がかかったようになっており、そんな事を思っている余裕など無かった。

 

俺は一応フラフラとタンスに近づくと、空ける。

 

すると中には女ものの服が何着かと、男物とはいえ明らかにサイズの足りない服が一着入っていた。

着れるものは無いと悟った俺はタンスをバタンと閉め――

 

――迷いなくベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。

 

 

(ねむ…)

 

 

そして俺は、割と何もかもがどうでも良いと思いながら、柔らかなベッドで眠りについたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「おい、起きろリョナ君!」

 

「んー…」

 

 

誰かの呼ぶ声が聞こえる。

声の高い女の子の声だ。

一番近いのは妹なのだろうが、妹は俺をあだ名で呼ばないし君付けする事も無かった。

 

正直言ってもう少し眠っていたい俺は、身体を動かさない。

 

…しかしいつうつ伏せになったのだろうか。

普段はあおむけで寝ている俺は息苦しさを感じ、無意識ながらを寝返りをうとうとした。

 

 

「わ!?寝転がっちゃダメだリョナ君、ただでさえ見えそうなんだから!!?」

 

 

背中を抑えられる。

柔らかい手からのじんわりとした温もりに俺は心地よさを感じ、同時に欲望が沸きあがるのを感じた。

 

意識が急に覚醒する。

 

目を開くとそこには見慣れない景色。

 

 

(そうか、異世界だった)

 

 

なんだか異世界もののテンプレートを辿るようだが、俺は異世界に来てしまっている事を再確認する。

そして眠気から解放された俺は柔らかなベッドに腕を突き立てると、立ち上がろうとした。

 

 

「わ!あわわ…」

 

「ん…?」

 

 

そして気がつけば隣には何とベル君が寝かされていた。

頭には包帯が巻かれ、顔色も悪く、死んだように眠っていはいるが無事のようだった。

 

俺はベッドの上に座ると、目を細めてベルを見る。

 

恐らく弱いと言われ、命がけの特訓でもしてきたのだろう。

そして怪我をして、帰ってきたのだろう。

 

…若くて、青い。

 

だが嫌いじゃない。

死んでしまったら何もかも無駄になってしまうが、努力の出来る人間というのは好きだ。

最初から何もかも諦めた人間を殺すのは余り楽しくないからだ。

…まぁ最初無抵抗だったのに、身体の一部を失ってからの泣き叫び方のギャップを楽しむのは悪くないが。

 

まぁ何にせよ生きて帰ってこれたのだ、それだけ充分だろう。

 

 

俺はベッドの上で胡坐を掻き、思い切り伸びをすると――ベッドの脇で硬直したヘスティアに気がついた。

 

 

ヘスティアは驚いた状態(何故か髪の毛も飛びのき空中で硬直している)で、目を丸くし、これ以上ないという程驚き…いや、唖然という顔を浮かべていた。

 

俺は首を傾げ、なぜヘスティアが驚愕していたのかを確かめる為、彼女の視線を追うと――

 

 

「あっ」

 

 

――自分がまだ全裸である事に気がついた。

…そしてもう何もかもが彼女には見えているということも。

 

 

「きゃあああああああああああああ!!?」

 

 

結局俺は彼女の悲鳴と同時に出された「神の恥じらいビンタ」とでも言うべき代物を、余裕で避けたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「…まったく。貸すとは言ったけど何で全裸で寝てるんだい君は!」

 

 

ヘスティアは(まぁこちら側からは見えないのだが)不機嫌な顔をして、何とか乾いた服をワイヤーから下ろしている俺に背を向けながら説教を垂れていた。

俺はまだまだ生乾きの肌触りの悪いTシャツに袖を通すと、ひとますコートを残し、ジーンズとTシャツという姿になった。

 

そして伸びをした後、グローブを回収し腰に付け、コートをソファの背に投げ置いた。

 

 

「…着ましたよっと」

 

「まったく!まったくだよ君は!」

 

 

俺が告げると、未だご立腹な神様は顔をしかめたまま振り返る。

そしてムスッとした様子でベル君の寝ているベッドの端にこしかけ、ソファに座った俺と少し離れてはいるが対面する形になった。

 

 

「ふぁ…」

 

 

俺はソファにくつろぎ足を組み、大きく欠伸をすると、首を傾げるようにヘスティアを見る。

ヘスティアも特に臆する事も無く俺を眺めると、真面目な顔をして俺の全身を眺めてきた。

 

そして数分ぐらい眺められてから、昨晩の続きを尋ねてくる。

 

 

「それで君は…冒険者になりたいんだよね?」

 

「んー…まぁそうなりますかね」

 

 

俺は特に偽る事も無く頷く。

するとヘスティアは少し嬉しそうな笑顔を見せた後、すぐ我に返ったように真面目な顔に戻った。

 

そして指を二本立てる。

 

 

「じゃあ…君がこのファミリアに入るために、僕が君に求めるものは二つだ」

 

「…それは?」

 

 

入社試験のようなものだろうか。…まぁどんな人間かを見極める為にはそうするのが一番なのだろう。

俺が内容について尋ねるとヘスティアは得意げに、指を折りながら答える。

 

 

「なぜ冒険者になりたいか、それと君自身のことについて自己紹介をしてもらおうと思うんだ!」

 

 

そう言うとヘスティアは少し落ち着き、神秘的な笑みを浮かべ、ベッドに座りなおすと、ゆっくりと質問を始めた。

 

 

「じゃあ早速…君はなぜ冒険者になりたいんだい?」

 

 

ヘスティアはそう言うと軽く首を傾げた。

俺はいたって単純で、平凡で、簡単な答えを即答する。

 

 

「生きる為…いや、この場合金を稼ぐため、と言った方がいいですかね」

 

「…まぁ、そうだよね。うん」

 

 

俺は神の恩恵や、ダンジョンへの憧れなどというものに興味は無い。

故に俺はただの目に着いた職業としてか冒険者というものを見ていなかった。

現状では冒険者という仕事が割に合った仕事なのかは解らないが、モンスターを倒すこと自体はそこまで重労働でも苦痛でも無かった。

 

その答えを聞いたヘスティアは表情を変えずただ頷き、またも尋ねる。

 

 

「じゃあ次に…君は何者だい?」

 

 

二個目だ。

何だか随分と曖昧な質問だが、普通に自己紹介するのでいいだろう。

…とはいえ俺はどこまで言っていいものかと考え、答えようとした。

 

 

「言っておくけど」

 

 

――だがそれよりも先に、少し小悪魔的な顔をしたヘスティアに釘を刺される。

 

 

「僕に嘘は通用しないよ」

 

 

その瞳に宿るのは知性だ。

創世より存在する神に、ちっぽけに生きる人間程度知性では嘘など通用しないだろう。

 

とはいえ最初(はな)から嘘をつく気も無かった俺は軽く笑うと、自己紹介…というか身の上話をし始めた。

 

 

 

・・・

 

 

 

「なるほどなるほど…実は君は異世界人で、飢えて倒れてたらベル君が助けてくれて、とりあえず日賃を稼ぐために神の恩恵も無しにダンジョンに潜って、実際結構稼いで、ご飯を食べに行ったらベル君に会って、丁度ベル君に誘われたから僕のファミリアに来たと…」

 

「おお、そうですな」

 

 

俺が何の躊躇いも無く頷いたのを見ると、ヘスティアは唖然とした表情を浮かべる。

そしてそれが嘘ではないという事が解ると、ツインテールを大きく振り、唸った。

 

…嘘が解るという事はつまり、俺の話した内容が全て真実だという事が解るという事なのだから。

 

 

「うぅ…異世界は存在自体は知ってたけど、まさか僕たちの知らない子供たちがいるなんて…!」

 

 

ヘスティアはぐだりと上半身ごと項垂れると、プルプルと震ながら、両目をきつく閉じて何やらぼやいていた。

だがすぐに上半身を起こすと、俺のことを睨む。

 

 

「だけどそれはこちらに来てからの事で、君自身の事についての説明では無いだろう!?」

 

「あっ…」

 

 

確かに考えてみれば、自己紹介だというのにこちらに来てからの事ばかりを話していた。

ヘスティアが聞きたかったのは、つまり俺がどういう人間なのかという事であり、経緯ではなかったはずだった。

 

俺はため息をつくと、少し()()()()

どうせ嘘が通じないのならば、そして俺自身を「神様に紹介にする」ならば、「絶対に欠かしてはならない要素」がそこにはあった。

 

 

そして俺は――()()()()を語り始めた。

 

 

「…むかしむかし、かつてある神様がきまぐれで人間を一人、創り出しました」

 

 

俺は子供の頃聞かされたおとぎ話を、いや英雄譚を思い出しながらなぞる。

そして突然始まったお話に、ヘスティアは困惑と共に興味を示した。

 

俺は言い聞かせるように、ゆっくりと語る。

 

 

「だが気まぐれで創られた人間は何を思ったか、一瞬だけ背中を向けた神様を背後から一撃で殺してみせました」

 

「…親殺し!?」

 

 

少し訝し気に話を聞いていたヘスティアだったが、神を殺したという単語に、流石に深刻そうな顔になり、驚愕の声を上げた。

そして次をせがむように、片手をついて前かがみになる。

 

俺はあくまで表情は変えず頷くと、続ける。

 

 

「そしてその人間は瀕死の神の身体を喰らい、異形の権能と――」

 

 

俺は一度言葉を切ると息を吐き出し、思い出すようにして言った。

 

 

「――()()()()()()()()()()()

 

「…!」

 

「そして神を食った人間に称号…いえ、その()()はすぐに人間の全身を廻り、骨髄にまで染みわたりました」

 

「ただの人間にはそんな…!」

 

 

ヘスティアの言う通りだ。

 

――それは余りにも残酷な結果をもたらす「(しるべ)」となるのだから。

 

俺はその結果を伝える。

 

 

「しかしその結果、その人間は神様から目をつけられ、命を狙われるようになりました…それはそのはずです、神殺しなどという不名誉な称号と、()()()()()()()()を放っておく理由などないのですから」

 

 

それは恐怖によるものだろう。

自らを殺しうる存在があるなら、それを恐れるのは神だろうと人だろうと変わらない。

…そして殺されるくらいなら、先に殺してしまおうと思うのは当たり前だろう。

 

しかし――述べる。

 

 

「だが神々に命を狙われた我々一族は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…まぁ時間はかかったし、結構犠牲は出たらしいですけどね」

 

「…いや、待てその言い方じゃ!?」

 

 

ヘスティアが驚愕の色を浮かべるのを無視して、俺は続ける。

 

 

「それでも何とか殺して殺して…俺より四世代だったか五世代前だったかの先祖様が最後の神を追い詰め、神殺しの称号でもって、殺しました」

 

「…」

 

「そこから世界は人間だけのものになって、俺達の世代での神様はおとぎ話の中だけの存在になりましたとさ」

 

 

かつて俺達の先祖は神を殺し、恨まれ、逆に殺し返した。

「神殺しの称号」は今でもこの血には流れてこそいるが、元の世界には肝心の神がいない…それはつまり、命を狙われるという事が無くなったという事でもある。

 

故に今まで「神殺しの称号」が疼くことは無かった。

 

…しかしこの異世界では、この神の降りてきた世界では、「神様(殺さなければいけない存在)」が目の前にいる、目の前に座っていた。

 

 

…神殺しの称号は俺の殺意に息を吹きかけ、衝動を加速化させ、欲望の毒で思考を支配しようとする。

もはや標的がいなくなり、血の奥底に眠っていた神殺しは、異世界の神を前にして、まるで子供が新しいおもちゃを手に入れた時のように歓喜して、吼えていた。

 

 

――俺はヘスティアを眺め、神を殺したいという渇望が全身を滾らせるのを感じながら、自己紹介を終える。

 

 

「つまり…俺は、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

・・・

 

 

 

「さて?俺の自己紹介は以上ですけどいかがでしょう?あ、それとも基本的な名前とか趣味とか好きな物とか言った方がよろしいですかね?」

 

「うん…まぁ、それはいいよ」

 

 

ヘスティアは少し暗い顔で頷き、悩む。

余計だったかなと俺は内心思いながら、お腹が減り始めているという事に気がついた。

 

…ヘスティアは少し考えた後、笑顔を見せる。

 

 

「まぁ…いいんじゃないかな?」

 

 

正直意外だ。

この世界での神殺しの意味は向こうとは違うかもしれないが、神様が「神殺し」を身近に置いておきたいわけが無い。

…少なくとも話しながら地雷を踏んだかと後悔していた俺は、そう思っていた。

 

ヘスティアは少し神気を漂わせながら、手を差し伸べる。

 

 

「別に君自体が何かしたわけじゃあないんだろ?なら問題ないさ」

 

「…」

 

 

何か神殺しの称号を持っていて、今まで困った事は無かった…それは俺のご先祖様方が向こうの世界の神々を全て撃ち滅ぼしてくれたおかげだ。

だが許されるという行為は神の専売特許であり、人は何だかそれで救われるような気がする。

俺は何故か感動したような気持ちになった。

 

そしてヘスティアは立ち上がり、俺の近くまで歩くと宣言する。

 

 

「じゃあリョナ君。君はこれからヘスティアファミリアの一員。そして…僕の眷属だ!」

 

「アザース」

 

 

一応軽く頭を下げる。

そしてヘスティアが神らしいポーズを決めるのを無視して、またも欠伸をした。

 

…それに気がついたヘスティアはムスッと不機嫌そうな顔をする。

 

 

「リョナ君!君は異世界から来たんだろ、まず敬意とかそういう常識から覚えてもらおうか!?」

 

「えぇ…あぁいや必要か」

 

 

――ヘスティアに認めてもらえた俺は、ファミリアに入れてもらえることになった。

 

…これで一応地盤を固めることが出来るだろう。

 

しかしまだまだこの世界の知識が足りない。

そしてそれを教えてくれるというのであれば、やぶさかでは無かった。

 

だが――

 

 

ゴギュルル。

 

 

――それよりもまず、腹が盛大に鳴る。

 

 

「…お腹、減ってるのかい?」

 

「えぇ、まぁ、はい」

 

 

ヘスティアが微笑みかける。

俺は素直に頷くと、ヘスティアは少し考え、力こぶをつくると自信満々に言った。

 

 

「じゃあまずは僕が朝ご飯を作ってあげよう!」

 

 

…そして俺は神様お手製の朝ご飯を振舞われることになったのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「なるほどなるほど不味いつまり神様は天界に不味い飽きて地上に不味い降りてきたと」

 

「そんなに不味いのかい!?」

 

 

俺はヘスティアの作った芋のスープを飲みながら、ヘスティアからこの世界のことについて教えてもらっていた。

…が塩を入れ過ぎであり、けっこう、だいぶ、いやかなり不味かった。

 

とはいえ栄養だけ回収できれば良い俺は()()()()出さず、ヘスティアからの話を聞いていた。

そして食べ終わる頃には神の恩恵や、この町、ダンジョン、ギルドについての基本的な事を教えてもらっていた。

 

 

「ふぅ…ご馳走不味い様でした」

 

 

俺は両手をあわせると立ち上がる。

…まぁ正直足りないが、昼までは持つだろう。

 

ヘスティアは不機嫌そうな顔をすると、自らのスプーンを皿に置く。

 

俺は立ち上がるとついでにヘスティアの皿を回収し、台所の方に持って行き、水回りにとりあえず置いておいた。

そしてソファに戻ると、ヘスティアの隣に座る。

 

するとヘスティアは逆に立ち上がると、リョナを見て、片目を閉じて手で隠しながら欠伸した。

 

 

「ふぁ…じゃあそろそろ神の恩恵をあげようか」

 

 

だいぶ眠そうではあるが恩恵をくれるらしい。

 

 

「はいじゃあ上半身脱いで」

 

 

俺は頷くと、Tシャツを脱ぐ。

するとその下からは鍛えられた上半身が現れ、割れた腹筋や、服の上からでは解らない厚い胸板が硬くそびえたっていた。

…やはり拉致や切断にはそれなりの筋肉が必要であり、普段から鍛えている。

自分で言うのもなんだが「筋骨隆々」という言葉が相応しかった。

 

 

「そこでうつ伏せに寝てくれ」

 

「あぁ」

 

 

俺が寝転がるにはこのソファは少し小さいが、何とか片腕を垂らしながらうつ伏せに寝る。

 

 

「よっ…と」

 

 

するとヘスティアはまるで少し大きい段差を乗り越えるみたいに腰に手をかけると、俺のお尻の上に乗っかった。

…柔らかな太腿の感触などもそうだが、神と直接触れる事で俺の<神殺し>は反応し、結構な我慢が必要となる。

 

 

「じゃあ始めるよ」

 

 

ヘスティアは俺の上で、どこから取り出したのかナイフを手に持つ。

そして鞘から引き抜くと、現れた刀身で自らの人差し指を軽く刺した。

 

つぷり、と血が出る。

 

雫となった血をヘスティアは俺の背中の中心、背骨の真上に持っていくと…唱えた。

 

 

「今ここに…君が神ヘスティアの眷属であることを認め、神の恩恵を授けよう」

 

 

唱え終わると同時に雫が垂れる。

緋色の雫は重力に抵抗することなく落ちると、背骨に当たり黄金色の波紋を現した。

そして青く輝くと、黒色の文字の羅列が幻想的に、神秘的に浮かび上がってくる。

 

俺は今まさに俺の背中で行われている奇跡に、興味を示しながら、少しだけ始めて注射をされる子供のような不安感を抱いていた。

 

…そしてそれらはすれ違い、入れ違うと、文字列となり――最後には「ステイタス」となる。

 

 

「はい終わったよ!」

 

「ふぅ…」

 

 

実際は短かったのだろうが、とても長い時間弄られていた気がする。

俺はため息をつくと、立ち上がろうとする。最初はみな恩恵の「ステイタスの値」は変わらないというし、強くなれるのはまぁ嬉しいが、それよりも今は身体を仰向けの姿勢から逃れたかった。

 

 

「…あぁ待って。一応最初は記録しておかないと」

 

 

そう言ってヘスティアは何やら一枚の綺麗な紙を取り出し、俺の背中にピッタリと貼り付けた。

そして剥がすと、今度こそ俺の背中から立ち退いた。

 

俺は上半身を起こし、腕を回すと、すぐにTシャツを纏う。

そしてチラと背中を見ると、Tシャツの首元からまるでタトゥーのような、ステイタスの黒い線が僅かに見えている事を確認した。

 

 

「一応見るかい?」

 

 

ヘスティアが紙を渡してきた。

俺はそれを受け取る。

 

 

(…何語?)

 

 

やはり文字が解らない、紙には何かの文字の羅列が何個か並んでいる。

数字ならば1とか0とかは解るのだが、俺にはそれ以外は皆目見当もつかない文字がバラバラに配置されているようにしか見えなかった。

 

 

「あぁそういえばステイタスの説明はまだだったね。上から力、耐久、器用、敏捷、魔力。その下が魔法で、そのもう一個下がスキルの欄だよ」

 

 

確かに言われてみればそういう風に見えなくもない。

一番上のが題字のようなものだとして、その下の数字の横にあるのが力や耐久なのだろう。

全て10で統一されており、初期パラメータであることを覗わせた。

 

そしてその一個下の空欄があるのが魔法で、その更に下が――

 

――思わず見入った俺に、ヘスティアは優しく微笑む。

 

 

「何てことはないさ!君は体格が良いし、今はステイタスの値は低いけど順番通りにやっていたらすぐに強くなれるよ!」

 

「…あの、ヘスティア様…」

 

「ん?何だい改まって」

 

 

そう言って首を傾げるヘスティアに、俺は紙を見せるとスキルの欄の下を指さした。

 

 

「じゃあこれは何の欄です?」

 

「何々…えっ」

 

 

ヘスティアは覗き込み、改めてマジマジと俺の指さした一点を見るとパチクリと瞬きをする。

そして唖然とし、俺の手から紙をひったくると、スキル欄に書かれたそれを見て驚愕の声を上げた。

 

…俺が指さしたのはスキル欄の下。

 

そもそも何もはいっていないはずのその場所には、俺には読めない一文が追加されており、空白では無くなっていた。

 

書き間違いか、あるいはまだ説明されていない項目かと思った俺はそういう意味で尋ねる

 

 

だがヘスティアの目に映ったそれは――

 

 

「――何でもうスキルを持ってるんだ!!?」

 

「ヘスティア様、ベル君起きますよ」

 

「あっ…うん、そうだね」

 

 

仮にも怪我人が寝ている部屋だ。

俺があくまで冷静に諭すと、ヘスティアは首を縦に振る。

 

が興奮冷めやらぬと言った感じで俺のステイタスの書かれた紙を穴でも開けるかのように凝視すると、突然「物凄い良い笑顔で」振り返った。

 

 

「リョナ君」

 

「はい?」

 

「きっとこれは写し間違いという奴だよ、いやぁ流石の僕もミスしてしまう時くらいあるからね!とはいえもう一度写し直したいから、服を脱いでくれ!」

 

「はぁ…」

 

 

俺は何故かとても良い笑顔のヘスティアに首をかしげつつも言葉に従い、もう一度Tシャツを脱ぐ。

そして背中を見せた。

 

 

「そもそもスキルというものはモンスターを倒した時に得られる経験値を、僕たち神が形にするものであって、人が最初から持ってる訳――持ってるぅぅぅ!?」

 

「ベル君が…」

 

「あっうんごめんね…」

 

 

またもヘスティアは素っ頓狂な声を上げる。

そして諫められつつも興奮気味に俺の背中に張り付いた。

 

 

「いやでもなんでこれ…?」

 

 

立ったまま向けた背中を、ヘスティアに指でなぞられる。

俺は「ステイタス」の写された紙の方で、「スキル」と思わしき欄の下を眺めた。

…確かにそこにはヘスティアの説明した分より多い一文が追加されているように見える。

 

だがその一文は俺には読めない。なのでその内容を尋ねようと――

 

――それより先に、ヘスティアは呟いた。

 

 

「…切り裂き魔の高揚(リッパーズ・ハイ)…?」

 

 

聞きなれない単語に、俺は首だけ振り返ると驚愕の顔をして背中のステイタスを読んでいるヘスティアを見下ろすようにして尋ねる。

 

 

「それがスキル名ですか?」

 

「…うん」

 

「効果は?」

 

 

少しの合間の後、頷いたヘスティアは更に視線を下げる。

そして指で辿り、読み上げた。

 

俺のスキル――切り裂き魔の高揚(リッパーズ・ハイ)の効果を。

 

 

「…斬りつければ斬りつけるほど鋭さを増し攻撃力が高まる。しかしその効果の持続力は一日で失われてしまう、そして――」

 

 

ヘスティアは一際、困惑した声音を見せる。

 

 

 

「――そして、それはやがて神を屠る刃となる…?」

 

 

 

・・・

 

 

 

結局「なぜそれを持っているか」や、「どんな能力なのか」は考えても解らないので、仕方ないという事で会話が終了してしまった。

俺としてはスキルの内容の方には多少心当たりはあったが、それ以上にヘスティアは眠そうであり、困惑しており、半ば強引に話を切られてしまったという方が正しかった。

 

 

「ふぁ…僕はこれからひと眠りするけど、君はどうするんだい?」

 

 

大欠伸を浮かべたヘスティアは髪止めを解くと、ベル君の眠っているベッドに近づきながら俺に尋ねてくる。

Tシャツを着て、少し考えた俺は答えた。

 

 

「とりあえずギルドの方にいって…それから町でも探検しようかなと」

 

「まぁまずはこの町に慣れるところからだろうね…あ、そうだ」

 

 

答えを聞いて頷いたヘスティアは、胸元から何かを取り出す。

そして俺に向かって投げてきた。

 

俺はずっしりと重いその「袋」を片手で受け取る。

 

 

「昨日君に貰った一万ヴァリスだ、それでお昼ご飯とか欲しいものを買ってくるといい」

 

 

確かに色々と必要だろう。

俺は(元々は自分のものなのだが)それをありがたく受け取ると、腰のグローブの隣に結び付けた。

 

 

「ふぁ…じゃあおやすみ」

 

 

そう言ってヘスティアはボスンとベル君の隣に倒れ込む。

そして抱き着くようにして、眠り始めた。

怪我人の寝ているベッドに一緒に入るのはどうなのか、とか、抱き着いたら傷口が開くんじゃ、みたいな倫理的な疑問はあるが、もう既に可愛らしい寝息を立て始めたヘスティア様に俺が思う事はただ一つだった。

 

凄く…無防備だ。

 

 

「…行くか」

 

 

――今ならば、という思いが頭をよぎるが俺はそれを抑え込む…何よりその隣には命の恩人が寝ていたからだ。

 

俺はソファの背にかけていたコートを掴むと、立ち上がる。

 

そしてバサリとはためかせ羽織ると、ぴったりと落ち着くような、身体に馴染むような感覚に少し微笑んだ。

 

 

「まずは…飯だな」

 

 

俺はだいぶ減ってきた腹をさすると、教会に通じる階段を伸びり始める。

 

――時刻は十二時を回ろうとしていた。

 

 

 

・・・

 

 

 




まぁ今後書いていくかは解りませんが、リョナのステイタスをば。

力  0→I10
耐久 0→I10
器用 0→I10
敏捷 0→I10
魔力 0→I10

<魔法>

<スキル>
[切り裂き魔の高揚]
・斬れば斬るだけ、武器の鋭さと攻撃力が増していく。
・増加された攻撃力は日が変わると共に初期化される。
・そして神を屠る刃となる。

では次回もー

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