このダンジョンに神殺しが居ることは間違っている。   作:みころ(鹿)

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あぁ~穏やか~
つってもシリアス+日常の半々みたいな感じなんですが。これからの日常を送る前に書いておきたいことを詰め込んだらこんなんなりました。
ゆっくり見れるかなぁ…ではほんへ


 特に何も無い日に

 

・・・

 

 

 

あれから数日が経った。

大怪我を負った俺はポーションを使いながら傷を治すことに努め、ほぼ死にかけていた身体は回復に向かっている。

弓を放つ時に無理をしたのが祟ったのか今でも右腕を動かすことは少し難しいが、まぁ時間をかけて安静にしていれば治るはずだ。

 

そして少女…いや「ハティ」もまた元気だ。あの日から俺は世話をしながら絶えず声をかけ続け、それでも時折母親を思い出して泣いてしまう夜もあったがそんな時は抱きしめたまま一緒に寝た。

むしろ気になるのは別け与えた蒼炎の後遺症がないかだったが、今のところ何か異常を感じたりはしていないらしい。火種自体はまだ残っているはずなので不安だが、穏やかな生活を送っていく分には問題無いだろう。

 

 

「~♪」

 

 

鼻歌を歌いながら俺はハティの長髪にシャワーをあてていく。

銀色の髪に指を梳き、手にした毛先に勢いを緩めたお湯をかけていくと洗い流された大量の泡がゆっくりと排気口に集まってふわふわと揺れていた。

ヒノキの爽やかな薫りに包まれた浴室内は濃い湯気が立ち込めており、浴室に膝をついた俺は目の前に座らせた少女の身体を隅から隅まで洗っている。

 

 

「んー……」

 

 

頭皮を流れていく温水の感触に目の前に座らせたハティが声を漏らす。

指でマッサージするように泡を落としていくと、目を閉じたハティはその度気持ちよさそうな声を漏らし、リラックスした気の抜けた声を出した。

 

 

「かゆい所ないかー?」

 

 

泡を流しながらハティに声をかける。

反響するような俺の声にハティはピクリと反応すると、軽く首を傾げてみせた。

 

 

「かゆ……?」

 

「ん。あぁ、痒いってのは…むずむず?というか、掻きたく…さわりたくなる事というか場所というか」

 

 

知らない言葉をすぐに質問をしてくれることは良いのだが、感覚的な事をハティの解る言葉で説明しようと途端に難しくなる。

とりあえずハティの頭をくすぐるように掻きながら説明すると少し考えるようにハティはぺたぺたと自分の体を触り、最後に自分の両耳をぺたんと押さえつけた。

 

 

「耳の裏か?」

 

「…」

 

 

コクコクと頷くハティの耳裏に手を伸ばし、その獣耳の後ろ側をくすぐるようにして掻く。シャワーノズルを向けて温水をかけるとハティは満足げな鼻息をフスーと漏らし微かに緩んだ笑みを浮かべて見せた。

未知の感覚の方が多いこの子の反応は面白いし可愛い。少し前まで全くの無反応だったことのギャップもあり、ハティが嬉しそうな顔をしていると俺まで幸せな気持ちになれた。

 

暫くお湯をかけていると長い銀髪から真っ白な泡が殆ど落ちる、顔や体にも一通りシャワーを流していくと小さな身体を綺麗に洗い終えた。

 

 

「よし、もう目を開けていいぞハティ」

 

「ん…」

 

 

声をかけながら合図のようにぽすぽすとハティの小さな頭を撫でると、見下ろしたハティが手の甲で目元をゴシゴシと擦り始める。

手を伸ばした俺は元栓を閉めシャワーヘッドを収納しまだ軽く違和感のある右手をさすると、目を擦り終わったハティの紅く垂れた瞳と丁度目が合った。

 

 

「じゃあお風呂行くかー」

 

「んー…だぁー…」

 

「おー、だっこな」

 

 

気だるげに両手を伸ばしてくるハティの細い身体を抱き上げる。

慣れた形に少女の身体を持ち直すと白い肌が密着し、体重を預けてくるハティの濡れた長髪が足にかかった。

 

ハティと共に湯船に向かう。微かに痣の残った小さな身体と共に檜風呂へ足をつけると順に肩までつかり、脚の上に小さな身体を乗せて水面から首が出るように高さを調整した。

長い髪が浮いて水蓮のように広がる、首から上だけ見えるハティの後頭部を見ながら俺は息をつく。

ヒノキの薫りの暖かさが傷だらけの身体で染みる、湯治というほど効能のある水ではないが建築系ファミリア「オオヤマ」に特注した風呂はかなり品質が良く居心地良い。

ハティも最初こそ少し風呂というものに難色を示したものの今ではお気に入りだ、頭が出ないので座れないというのは難点だがまぁ俺が一緒に入っているうちは問題ないだろう。

 

 

「……あぅー」

 

「ん」

 

 

膝上に乗ってくつろいでいたハティが何か見つけたらしく手を伸ばす。

その視線の先には湯船から島のように出ていた膝に乗せた俺の左手があり…どうもハティは左手が御所望なようだ。

試しに左手をハティに預けてみる。すると自らよりも何倍も大きな手を掴んだ少女は興味津々といった様子で鼻息を漏らし、俺の指先で遊び始めた。

小さな手で掌を弄ぶ少女は無邪気に俺の手を観察する、そしてぐいと弱い力で自らの顔の前に引き寄せると大きく口を開き――そのまま、ぱくりと咥えこんだ。

 

 

「んむぅ……」

 

 

ハティに指を甘噛みされる。弱い力に加え乳歯なのでそこまで痛いわけではない、とはいえいきなりのテイスティングに少し驚いた。

あらゆるものに興味津々な年頃のハティは時折こうやって口にして確かめる。子供はそういうものではあるが、暫くは小さいものを飲み込んでしまわないように気をつけなければならないだろう。

 

 

「んー……むー!?」

 

「ははははっ」

 

 

時折ハティの小さな口内に指先で悪戯しながら穏やかな時間を過ごす。

その頭をゆっくりと撫でていると自然と微笑みが漏れ、ちゃぷちゃぷという水音だけがゆっくりと湯船を揺らしていた。

 

とはいえハティもそろそろのぼせてしまう頃合いだろう、お湯の中から右腕を持ち上げるとハティの頭の上に乗せた。

 

 

「…そろそろ出るか」

 

「……んぅ」

 

 

頷いたハティの口から解放された左手はべたべたになっていた。

左手を軽く湯につけ涎を取りながら、俺は脚の上に乗せたハティの身体を抱き上げる。

檜風呂から立ち上がると僅かに頬を赤く染めたハティは眠たげにうつらうつらとしており、どうやら温かさの中で眠くなってしまったらしい。

 

 

「髪乾かしてから寝ようなー」

 

「……」

 

 

もう夜も遅い。

反応の薄いハティに声をかけながら俺は湯船から上がる。眼を閉じた少女の穏やかな表情に微笑むと左手で撫でる。

抱き上げた眠り姫と共に浴室を出ると、軽く上体を逸らした俺は小さな欠伸を噛み殺した。

 

 

 

・・・

 

 

 

次の日、豊穣の女主人の休憩室にて俺はミア母さんに頭を下げていた。

 

 

「――というわけで俺がダンジョンに行っている間、豊穣の女主人でハティを預かって頂けませんか?」

 

「…」

 

 

椅子に腰かけたミアは太い腕を組み、目を閉じている。

置かれた机の上には俺の買ってきた菓子折りが置いてあり、道すがら茶毛の猫に半分ほど奪われたが…まぁ手土産としての体裁は一応整えていた。

 

今日俺が豊穣の女主人に来た理由は「託児が出来ないかの相談」…と、謝罪。

もう何か月も前の出来事のように感じるが数日前、シルの弁当によって起こされたバイオテロ、その最中にアルバイトとして助太刀した俺は店内の風紀を乱したとしてミア母さんに処刑されている…まぁあの時は別に俺が悪いわけでは無かったのだが。

 

とはいえ今日豊穣の女主人に来た主な目的はあくまでハティを預かれないかの相談。

俺がダンジョンに行っている合間まだ幼いハティが家で一人きりでは不安だ。もう意図的にハティを狙う人間はいないとはいえダイダロス通り周りの治安は良いとは言えないし、何より寂しい思いをさせたくはなかった。

 

 

「フン…」

 

 

頼み込む俺に腕を組んだ机を挟んで対面したミアは気難しく表情をしかめ、細く開いた瞳で俺のことを睨みつける。

豊穣の女主人的には特にプラスではない完全に業務外の頼み、特段無理な願いでは無いと思うがミア母さんが受ける理由もまた無かった。

 

まるで蛇に睨まれた蛙のように感じながら俺は真剣な表情で見返す、鬼のようにどっしりと椅子に座ったミアは太い腕を組みゆっくりと考え始めた。

 

(ほかの場所は…やっぱ無いよなぁ)

 

一応色々考えはしたのだが、頼れるような場所はここ以外思いつかなかった。

ヘスティア様はバイト漬けなのでこれ以上負担をかけるわけにはいかないし、神殺しの因子を持ったハティが長時間一緒に居ることで起こる双方への悪影響は充分に考えられる。

それ以外の知人と言えばエイナかミアハファミリアだがどちらも日中は仕事があるわけだし時間的余裕は無いだろう。

 

その点、豊穣の女主人ならば常に人の目もあるしハティが寂しい思いをしないですむ。

時間的にも俺がダンジョンに行っている昼間と営業時間は合うし、色々な人間と接することはハティの刺激にもなって良いはずだ。

 

…とはいえそれはあくまでこちらの都合であって、豊穣の女主人側には何のメリットも存在しないのだが。

 

 

「…」

 

 

長い沈黙が流れる。

穏やかな日光の入り込む休憩室。どこかから「きゃー何この子可愛いぃー!」みたいな女達の嬌声が聞こえる中、品定めするかのようなミアの視線がゆっくりと俺の事を観察すると、ついに口を開いた。

しかし次にミアの放った重苦しい言葉は俺にかなりの衝撃を与えることになった。

 

 

「…なぁリョナ、アンタ――――冒険者を辞める気はないかい?」

 

「ッ!?…それは…」

 

「目を見りゃ本気だってことは解る。だが、そんなにあの娘のことが大事だってんなら、いっそのこと冒険者を辞めるってのも一つの選択さね」

 

 

ハティのために冒険者を辞めるという選択を考えなかったわけじゃない、そう言って俺の事を見つめるミアの瞳には強い思いが見えた。

ミアは組んでいた腕を机の上に乗せる、ふぅ…と長く息をつくと少し目を伏せ再度喋り始めた。

 

 

「…あたしゃね、地上に大切なもん残したまま帰ってこなかった大馬鹿を何人も知ってる。あくまでこれはあたしの考えだがね、死ねない理由のある奴はダンジョンに行くべきじゃあない」

 

「…」

 

「それにリョナ、あんたは…大金とか名声が欲しくて冒険者をやってる輩とは違うんだろう?」

 

 

少し考えた後慎重に頷く。そもそも俺が冒険者になったのは手早く金を稼ぐため、だが貯金もかなり残っている今金銭的な理由で冒険者という職業を続けていく理由は無い。

それにミアの言う通り俺が死んだらハティは再び一人になってしまう、絶対の無いダンジョンで必ずしも帰ってこれるとは限らない。

それに…神殺しの獣をこれ以上成長させないためにも、これ以上戦闘をするのは避けた方が良いのかもしれなかった。

 

 

「選ぶのはあんたさ、だがあの子の親だってんならその選択にはあの子の命の責任が乗る。満足に食べさせてやるには金が必要だ…といっても娘一人養うためだけに冒険者って仕事をやる理由も必要もない」

 

「…仕事、か」

 

「――それに」

 

 

そう言ってミアは再び腕を組む、瞳を閉じ少し口を閉じると厳めしい顔のまま…少しバツが悪そうに片目を開いて俺の事を見た。

 

 

「…それに、あたしがいない日に店を手伝ってくれたそうじゃないか。カウンターと厨房を掛け持ちして」

 

「?…まぁ、はい」

 

「で、どうにもその時の馬鹿連中が口を揃えてあんたのことを褒めててね。聞いた限りじゃ能力的には問題ないし、いい加減カウンターの出来る奴が他にいないと困るからね」

 

「……何の話です?」

 

「フン、解らない奴だね。うちで雇ってやるって言ってるんだよ」

 

「…!」

 

 

俺は少し動揺しつつミアがくいと顎で示した背後に振り返る、すると休憩室の入口には菓子を齧りながら室内を覗き込んでいた猫女と赤毛ロリと男性恐怖症が慌てて逃げていくところだった。

 

 

「そっちの方があんたにとっても都合が良いんじゃないかい?冒険者ほどの稼ぎは無いが、二人ぐらいだったら充分食っていける。命を落とす心配は無いし、あのおチビを休憩室(ここ)に置いておけばすぐ様子を見れるさね」

 

 

まぁ女しかいないってのは辛いかもしれないが、と続けたミアは笑う。

料理人という職場、ダンジョンほどじゃないが安定した稼ぎ、ハティとの穏やかな生活。

それだけで十分幸せだ、多くを望む必要は無かった。ミアの言葉はぶっきらぼうだがその提案は確かな思いやりに満ちていた。

 

 

「俺は…」

 

「…どうする?それでもダンジョンに行く理由があるってんなら話は別だ、無理に引き留めはしないよ」

 

「…」

 

 

考える俺にミアはゆっくりと声をかける。

ダンジョンに行く理由、金以上…何よりハティ以上の何かがあるのか。

死ぬリスク、神殺しのリスク、オッタルに命を狙われるリスク、考えれば考える程ダンジョンに行く必要は無いように思えてきた。

 

(…)

 

だが――

 

 

「俺は…あの子が大事だ、世界で一番大事だ」

 

「なら?」

 

「――だけど先約があってな。一緒にダンジョンに行く約束した奴がいる」

 

「…あぁ、あの小僧か。なるほどね」

 

 

このまま冒険者を辞めてもベルは別に文句を言うことはないだろう、だがだからといって約束を反故にしていい理由は無い。

パーティでダンジョンへ。あれだけ楽しみにしていたベルの気持ちを無駄にはしたくはない、その思いを裏切るわけにはいかなかった。

 

(それに…)

 

神殺しの獣の影響なのか、最近ダンジョンに何か感じるものがある。

それはきっと俺の能力と何か関係があるのだろう、きっとダンジョンには何かある…自らを解き明かす何かが。

 

 

「…フン、まぁ良い。アンタの気がすまないってんなら満足するまでやりな、ダンジョンに行ってる合間あの娘を預かってやるさ!……その代わり絶対に死ぬんじゃないよ!!」

 

「承知!」

 

「あとあの子の為にも三日にいっぺんはちゃんと休む!それと代金代わりにこきつかってやるから時々バイトしていくこと!解ったかい!」

 

「応!…おぅ」

 

 

頷いてから渋い顔になった、ミア母さんのこき使うは本当に容赦がない気がする。

まぁハティを預かってくれると考えれば安いものだ、俺は笑みを浮かべながら休憩室に来て初めて安堵のため息を吐いた。

 

 

「ぱー…!」

 

「ん、どうしたハティ?」

 

 

振り返り見れば、ハティがいた。

白いワンピースと麦わら帽子を被った少女は両手を伸ばし、紅い瞳を少し泣きそうに潤ませながらふらふらとこちらに歩いてきていた。

 

立ち上がった俺の足にハティが小さな手でしがみつく、太腿に顔を押し付けるとくぐもった声を漏らした。

その頭に手を乗せ撫でる、ミアと話している合間従業員たちに預けていたのだが何かあったのだろうか。

 

 

「ハティちゃーん!絶対可愛くなれるから全部お姉ちゃんたちに任せて――あ」

 

「おい」

 

 

満面の笑顔を浮かべたシルがどこから持ってきたのかきわどい洋服や櫛などを両手で山ほど持ちながら休憩室を覗き込む、だが俺の事を見た瞬間にその動きを止める。

確かに見ておいてくれとは言ったが玩具にしていいとは言っていない、何よりハティを泣かせた奴に容赦する理由があるわけなかった。

 

 

「てめぇら俺の娘に手ェ出してんじゃねぇえええええええッ!」

 

「のわぁあああああああああああッ!?」

 

 

抱き上げたハティと共に逃げたシルへと報復に向かう。

俺が部屋から走り出ていった後、休憩室であきれ顔を浮かべたミアはため息を漏らす。

銀髪の揺れる昼下がり、結局この後奪われたハティが従業員たちと仲良くなるまでにそう時間はかからないのであった。

 

 

 

・・・

 

 

 

道を歩いていると、エイナと会った。

 

 

「あっ」

 

「おっ、久しぶり」

 

「ほんと久しぶりですね」

 

 

いつもと変わらないギルドの制服、何やら手に持った紙を覗き込みながら早足にせこせこ歩いていたエルフと曲がり角で出会う。

少し疲れたような表情を見せていたエイナは俺の顔を見ると笑みを浮かべ、足を止めた。

同じように足を止めた俺は行き先が途中まで同じだと気が付くと一緒に歩くように促した。

 

人気(ひとけ)の少ない路地を輝く木漏れ日が彩る。

微かにそよぐ春終の風が温かく髪を揺らし、石造りに造られた町は歩くたびに新しい発見がある。どこか彫刻のような街を散歩するように穏やかに歩きながら息をつき、出来るだけ身体を揺らさないように気をつけながら俺はエイナと歩幅を合わせた。

 

 

「確かその子って…?」

 

「ん、あぁ遊び疲れて寝ちまってな。名前教えてなかったよな、ハティってんだ」

 

「へぇー…ハティちゃん、っていうんだ」

 

 

腕の中の少女を軽く持ち上げながら答える。

体力の無いハティは豊穣の女主人で一時間ほど遊んだらすぐに疲れて眠ってしまった。初対面で押しの強い従業員達をハティは怖がり俺の側から離れようとしなかったが、次第に慣れたようで最後は笑顔で遊んでいた…その様子は少し涙が出るくらい幸せだった。

 

 

「ふふ、可愛い」

 

 

穏やかなハティの寝顔を覗き込んだエイナは笑顔を浮かべる。

実際ハティは可愛い、その子供特有の愛くるしさは庇護欲を駆り立てられるものがあり、母性をくすぐられるあどけなさは思わず抱きしめたくなる魔性があった…まぁ親バカ補正かもしれないが少なくとも俺の中では世界で一番可愛い。

 

眠っているハティを起こさないように気をつけながらエイナと歩く、穏やかな寝息に幸せを感じながら軽く背筋を伸ばすとエイナに視線を戻した。

 

 

「それで、最近はどうだ?」

 

「それはむしろ私が聞きたいんですが。リョナさん最近ギルドに顔も出してないし、ダンジョンにも行ってないですよね?」

 

「ん、まぁな」

 

 

ここ数日は傷を癒すことに専念していたし、あの家を買った日からはギルドに顔を出していない。

日にちにして二週間ほどだろうか、ダンジョンには入ったがギルドに顔を出してはいなかった。

 

 

「あでも、ベル君から聞きましたよ。朝に稽古してもらってるって」

 

「あぁ、俺の知ってる技を教えてやってるんだが、あぁ楽しそうにやってもらえるとこっちもやる気出てな。今まで人に教えるなんてこと無かったが、他人の成長を見るのも思ったよりも楽しいかもしれないな」

 

「へぇーそれは良かったですね!…あ、じゃあ私でも使える技とかありませんか?出来るなら自分の身は自分で守りたいですし!」

 

「チンコを蹴れ」

 

「はーなるほど、試していいですか?」

 

「待って」

 

 

今エイナはヒールのある靴を履いている、弱点特攻だ。

逃げるのが一番だと言い直してから再び歩き始めると楽し気なエイナが少し距離を詰めてくる、軽口を交わしながら歩く路地は建物に隠れ徐々に影がさしてきた。

隣同士で歩きながら俺はエイナが胸に抱えた書類の束を見る、進行方向的に考えてもギルドへ向かう途中だろうし、おおよそ外回りからの帰りだろうか。

 

 

「仕事の帰りか?」

 

「あ…えぇ、まぁはい」

 

「…何かあったのか?」

 

 

明らかに表情の曇ったエイナに俺は少し尋ねたことを後悔しながら、どこか彼女の匂いに覚えがあることに気が付いていた。

それは焼け跡の匂い、俺は極めて平静を装いながら尋ね直すとエイナはちらりと手元の書類を見下ろし薄くため息をついて見せた。

 

 

「まぁリョナさんなら良いかな…えっと、マーニファミリアが崩壊したっていう話は知っていますか?」

 

「あぁー…確かにそんな噂どこかで聞いたかもな、大きいファミリアなのか」

 

「えぇ、といっても武闘派ではなかったんですが。それでも一晩で全滅させられるようなファミリアじゃなかった」

 

「……闇討ちか」

 

「…恐らくですが」

 

 

ファミリア間同士の抗争、やはりギルドはその線で調査しているらしい。

再びため息をついたエイナは手にした紙を軽く手で整える、俺の顔を見上げ少しの合間見つめると肩をすくめ笑みを浮かべて見せた。

 

 

「それで今ギルドが原因を調査してるんですけど、私連絡係としてギルドとファミリア跡を凄い往復させられることになっちゃって。もう足とかパンパンだし、書類処理とかで残業続きでろくにご飯も食べられてないし…」

 

 

そう言いながら笑うエイナの顔色は確かに悪い。

焼け落ちた廃墟、隕石でも落ちたかのような破壊痕、直接見たわけじゃなくとも素人であるエイナにとってあの現場はかなり衝撃的だったことだろう。

となれば疲労の原因は俺だ、いくら仕方なかったこととはいえエイナの激務は俺のせいとも言い換えられなくともなかった。

 

 

「無理すんなよ?」

 

「えっ…あ、ありがとうございます」

 

 

責任感から声をかけると困惑気味にエイナが頭を下げた、だが言葉だけでは彼女の体調は回復していなさそうだった。

何か埋め合わせをした方が良いだろう、責任感を感じながら俺は何か出来ないか考える。

 

 

「確か飯食えてないって言ってたよな、なんなら俺が晩飯作ってやろうか?そういやあの家を紹介してくれたお礼してなかったしな」

 

「…へっ?そ、そそそそれって…私がリョナさんの家にお邪魔するってことですか!?お一人様ってことですか!!?」

 

「あん?…いやハティもいるし、何ならベルとかも呼ぶか?」

 

「あ…」

 

 

少し頬を赤らめたエイナは足を止めて前髪で顔を隠す、だがその僅かに高い耳は隠せておらず真っ赤に染まっているのが見えた。

もしかすると風邪だろうか、体調も良くないと言っていたし何か温かいものを作ってやった方が良いかもしれない…うどんとか食べたくなってきた。

 

 

「い、いえやっぱり私だけで!手間増えちゃいますもんね!」

 

「ん、そうか?…まぁいいや。仕事終わったら家来いよ、奢ってやるから」

 

「はい、よろしくお願いします!じゃあ私はこのあたりで!」

 

 

そう口早に言うとエイナはぺこりと頭を下げて違う道へと走り去る。

やっぱり元気なのかと困惑した俺は、陽の照らす道へと元気よく走っていくエイナの笑顔を見送りながら安堵のため息を吐き出した。

そして片腕で抱き寄せたハティの身体を揺らさないように気をつけながら、今夜の献立をゆっくりと考え再び歩き始めたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 




まぁまとめると
冒険者は続行、ダンジョンに行っている合間はハティを豊穣の女主人に預ける。
時々豊穣の女主人でバイトすることになった。
エイナはうどんで眼鏡が曇った
これだけ

あぁあと感想返信しなくなるかも…いや今の気分だから全部返す可能性もあるし、絶対返すわけじゃないってことね?
でも感想貰うのはメチャクチャ嬉しいのでくだしぃ…(乞食)

ではでは次回ー
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