このダンジョンに神殺しが居ることは間違っている。   作:みころ(鹿)

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下ネタの鐘の音
まぁ色々と実験を兼ねて色々した結果がこれですね(言い訳)
うーんとりあえずハティ回ではない、前回可愛い言ってくれた方アリガトウ…ウレシイ…ウレシイ…

ではほんへ


 ラブコメが夢の跡

・・・

 

 

 

「狼騎士」

 

 

呟きと共に左手のナイフから装甲が溢れ出す。

鋳造された鎧、視界を覆う蒼炎、濃い神殺しの力は形を成し全身を纏った。

背負った直剣が重さと長さを増す、肉体を包み込んだ鋼鉄は鈍色に冷却されると蒸気を噴き出しながら廃材の鎧へと変化した。

 

その手には巨剣、揺蕩う濃霧の中で青い焔が明滅する。

狼騎士、神殺しの獣は熱気を帯びた息を吐きだすとその鉄製の身体を伸ばした。

 

 

『「…ふぅ」』

 

 

とある日の11階層、霧に覆われた湿地帯に獣は立つ。

周囲には灰化した枯樹、一寸先も見渡せない濃霧の中で狼騎士になった俺は拳を握る。

今日の目的は肩慣らしだ、怪我明けのリハビリを兼ね一人でダンジョンに来た俺は久しぶりとなる狼騎士の力を試していた。

修繕したぎゅるぎゅる丸を使ったカウント稼ぎは極めて捗り、ここに来るまでに相当数の魔石も集まった。

 

(浸食は…まだ、耐えられるレベルか)

 

アルテミス殺害後初めての変化。進化した狼騎士の力を使うことに躊躇いはあったが、万が一の時に使えなくては困る。

見下ろした左手には以前よりも遥かに濃く深い刻印が広がっている、甘い神殺しの誘惑は更に強くなっているが耐えきれないほどではなかった。

 

 

『「…」』

 

 

掌で蒼炎を遊ばせながら俺は背負った巨剣を握ると、ざりざりと背中に擦りながらゆっくりと構えた。慣れた獲物の負荷を確かめながら俺は再び息をつくと、全身から強く炎を強く噴き出した。

ハティは豊穣の女主人に預けているが、夕暮れまでに帰らないと心配されるので長居は出来ない。ここは霧が濃いので目撃される心配は少ないし、まずは匂いで索敵してモンスターを狩っていくのが良いだろう。

狙い目は群れ、色々と試してみたい事があるので手ごたえのある奴が良いのだが――

 

 

『「――!?」』

 

 

吸い込んだ俺の鼻孔に、知らない臭いが()()()()から届く。

振り返った視界、霧に覆われた階層の中でぼんやりと影が浮かび上がる。

それは見上げる程高い巨影、人外の匂いは濃く漂い、そして濃霧を切り裂き地響きをたてて目前へと迫った。

 

翡翠色の堅鱗を纏う鋭い爬虫類種の爪が大地を震わせる。

現れたのは巨大なトカゲ、黄土色の瞳は眼下の狼騎士を睨みつけるように見据え、鋭く長い牙からは長い赤銅色の舌を蛇のように覗かせている。

 

――インファントドラゴン、霧の中に潜む希少な竜種は確かにそこにいた。

 

巨剣を構えた狼騎士は龍を見上げる、階層主ほどの力を持った化け物は本来低レベル冒険者が束になってかかっても勝つことは出来ず、一級冒険者のパーティでしか勝つことは叶わない。

だがこちとら都市最強とほぼ互角だったのだ、鼻で笑った狼騎士は濃い蒼炎を滾らせる。

 

 

『「…肩慣らしには丁度いい、試したい技あるからちょっと耐えろよ?」』

 

 

咆哮する緑龍がそのかぎ爪を振り上げた。

向き合った狼騎士は巨剣から蒼炎を走らせインファントドラゴンに向かう、狼と龍の殺し合いは鉄と爪から生じる火花と共に始まったのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

豊穣の女主人、ダンジョン上がりに夕飯を食べに来た俺は酒を飲む。目の前には料理が三人前程度、神殺しの力が最適化(フォーマット)されてきた影響か知らないが最近は腹持ちが随分と良い。

 

 

「あっはっはっはっ!」

 

「むふー!?むふふふぁー!!?」

 

「ごめんねリリ…ごめん…」

 

 

そしてその隣には謝罪をし続けながら食事をとるベルと、何故か縄で縛られ猿轡までされたリリが転がされている。対して向かいの席にはハティがリューに手伝われながら食事をしていた…リューからの申し出で、半ば強引に。

 

さて事の発端に至るには数十分前まで遡る。

ダンジョン帰りのリョナがベルとリリに出会い、夕飯を一緒に食べようと提案したところベルは快諾してくれたのだがリリにはいつものように断られてしまった。

…ので縛って持ってきた、特に意味はない。

 

 

「何だか今日のリョナさん上機嫌ですね、何かあったんですか?」

 

「酒」

 

「いや、会った時点で相当テンション高かったとおもうんですけど…リリも縛ってきちゃうし」

 

「むぐ~っ!!むごごごご…!」

 

「あっはっはっはっは!」

 

 

縄から逃れようともがいて赤くなったり青くなったりするリリの様子を肴に爆笑しながら酒を飲む、いや別にそういう目的で縛ったわけではないのだが。

グラスを机の上に置いた俺は脱力する、息をつき頬の熱さを感じながらリリを見下ろすと猿轡を外しながら肩をすくめた。

 

 

「はー…まぁ何だ、たまには付き合えよ。これからパーティ組むんだし」

 

「ぷはっ!?ならこんな方法とらないでくださいよ!リリにも色々都合ってもんがあるんですから!!」

 

「まぁまぁ。その代わりといっちゃあなんだがここの代金は俺が持つ、それなら問題ないだろ?」

 

「む…まぁそういうことでしたら、ちょっとくらいいいですけども?」

 

 

貸しを作りたくないリリは奢りを避ける、だが慰謝料という事なら話は別なようだ。

縄を解かれたリリは軽く身体を回し解りやすく俺の事を睨みつけ、そしていそいそとベルの隣に軽く触れるように座ると自らの食事をとり始めた。

俺は再びグラスに口をつける、自己満足を鼻で笑うと肉の切れ端を口に入れた。

 

 

「ハティ、あーん」

 

「あー…むっ」

 

 

向かいの席ではハティがリューにご飯を食べさせてもらっている。

休憩中だった彼女が何故そこまで献身的なのかは解らないが、ハティの分の夕食を息で冷ましたり食べさせてくれたりと中々にありがたかった。

 

(何でだろ…まぁ良いけど…)

 

余り子供が好きなタイプではないと勝手に思っていたのだが、実は世話好きだったりするのだろうか。まぁハティの可愛さはヤバい級なので単純に堕ちた可能性もあるのだが。

何てぼんやりと考えていたら不意に尿意を催した。

 

 

「トイレ…ハティはおしっこ大丈夫か?」

 

「むー…だぃー」

 

「ん、いつでも言っていいからな。てわけでリューさんハティのこと見ててくれますか?」

 

「……はい」

 

 

立ち上がった俺は少し酔いの回った頭を振ると歩き出す、バックヤードに続く暖簾へふらつく身体で歩いていくと通り抜けた。

そしてトイレの前までやってくると中に誰もいない事を確認しドアを開け、中に入ってから後ろ手にぱたんと閉じると便座をあげてジーンズのチャックを下ろした。

 

 

「なるほど、それはそういう仕組みになっているのか」

 

「そうなんすよ~何とか再現しようとはしてるんですけど結構難しくて、やっぱりもっと鉄への見聞を深めていかないと…えっ」

 

「あぁ私にはお構いなく、何なら用を足しながらでも構わない」

 

「いやいやいやいや」

 

 

狭い個室の中、気が付かぬうちに一緒に入ってきていたリューに俺は首を振る。緑髪のエル

フはいつものように澄ました顔で目と鼻の先に立っており、狭いトイレの中で膝先が触れる程の至近距離で俺の事を見つめていた。

 

(いつのまに…)

 

いくら酔っていたとはいえ全く気が付かなかったが、そもそもここはトイレであって、お一人様専用の個室である…まさかついてきているとは思わない。

 

 

「あの…ハティは?」

 

「大丈夫です、残った二人に任せた」

 

「あぁまぁそれならいいんですけども…」

 

 

疑問は残る。

至近距離に立つリューから半歩離れようとした俺の(かかと)にトイレがぶつかった。

綺麗な肌が近い。かなり非常識な行動をとっているリューは動揺した様子も無く俺の顔をサファイア色の瞳でまっすぐに見上げてきており、リューの甘い匂いと酔いで何だか頭がクラクラしてきた。

 

 

「それで、何故ここに?」

 

「…実は折り入って話したいことが」

 

 

トイレで、折り入って。

出来ればもう少し場所を選んでほしかった…あるいは本当にトイレのお悩みなのだろうか、水のトラブル的な。

 

(詰まりが悪い…つまりリューさんのお水トラブル?)

 

トイレと結びつけて考えるとどうしても下ネタになってしまう摂理。

多少呆れながら俺はリューを見下ろす、表情の変わらないエルフは重く口を開くと遂に要件を告げる。

 

 

「端的に言おう」

 

「はい」

 

「――あなたには、()()()()()()()()()()()()手助けをしてほしい」

 

「…はい?」

 

 

予想外なのが来た、少なくともトイレとは関係なさそうだ。

 

(あー…?)

 

見ていればシルがベルの事を好きなのは解る、だがそれをリューが手助けしてほしいと言ってくるのはおかしい。

リューを見下ろした俺は眉を顰める、正直事態は全くと言っていい程飲み込めていなかった。

 

 

「というのもシルはいわば私の恩人でして、何とかして彼女の恋愛を応援してあげたいのですが…生憎と、私は今まで異性と付き合ったことがない。恋愛経験のない私では力不足だ」

 

「…つまりリューさん、今まで一度もの男性経験がないと?」

 

「はい。今まで言いよられたことは少なからずあるのですが、知らない方と付き合うつもりは無かった」

 

「へぇー」

 

 

つまりシルとベルの恋愛の手助けをしたいが自分は恋愛経験がないためどうすることも出来ず、まずは自分が恋愛について知ろうと思ったと。

 

(…んー)

 

二人の関係、というかベルの周りの女性関係は複雑だ…具体的に言うとフレイヤファミリアあたりが。

まぁアドバイス程度なら問題ないと思うが、もし介入するならば慎重な立ち回りが要求される、下手をすればまたオッタルとの戦闘になりかねない。何より見下ろしたリューさんの表情を見れば相当困っているようだし、断ることもしづらかった。

 

 

「…ん、でも何で俺なんだ?恋愛ってんなら他の従業員連中に聞けば俺より断然詳しいと思うんだが」

 

「いえ彼女達には明かせません、このことはシルの秘密ですから。その点あなたならば口は難いでしょう?」

 

「そりゃご信頼どうも」

 

「…それに私にとって初めて興味を持った異性の友人だ、あなたなら信頼できる」

 

「おぅ」

 

 

それだけ信頼されていると知ると少し嬉しい、肩を降ろした俺は苦笑を浮かべる。予想外の相談ではあったが困っているというのなら手助けするのもやぶさかではない…まぁ俺も別に恋愛マスターではないのだが、一般常識からアドバイスくらいは出来るだろう。

俺は上目遣いのリューに笑む、ハティの世話をしてくれている彼女に何か恩返しが出来るのならぜひ返したかった…トイレだとか色々とツッコミ所は多いのだが。

 

 

「お願いだリョナさん、私に協力していただけないだろうか?」

 

「まぁ俺でよければ」

 

「ではさっそく」

 

「ん~!?」

 

 

リューに腕をガシリと掴まれる、狭い個室の中では逃げることも出来ずそのまま力強く押し倒されると俺は強引に便器に座らされた。

物凄い握力に押し倒されたことに驚く間もなくリューの細い脚が俺の膝の上に乗ってくる、柔らかな感触が太腿を覆い、胸板に掌が乗せられると同時にその顔がぐっと近くなった。

 

 

「な、何をするおつもりで!?」

 

「性交渉ですが?」

 

「ド直球(ストレート)!」

 

 

いっそ漢らしい。

まさか俺が女に犯されそうになる日が来るとは思いもしなかった。

というか展開が飛躍しすぎて流石の俺もついていけない。回される腕が首筋を撫で、至近距離から見える唇の桜色がやけに鮮やかに映えていた。

 

 

「何故っ!?」

 

「何故と言われても…愛を育む行為と聞いたのですが?」

 

「確かに育まれるけども!取り返しのつかないものも育まれちゃうから!」

 

「つまり愛は取り返しのつかないものだと…なるほど、深い」

 

「納得しないで!?」

 

 

首を傾げるリューにツッコミを入れる、どうやら本格的に恋愛偏差値と性知識も無いらしい。

膝上に美女を乗せたまま俺は呻く、自分の中にあった彼女のイメージが音をたてて崩壊していった。

両腕を拘束されたまま俺は息をつく、多少の呆れを感じながら眉を顰めているリューを見下ろすと困ったような表情を浮かべて見せた。

 

 

「というか愛を知るために性行為って…」

 

「やはり実践して学ぶことが最善だと思いましたので」

 

「それ最終実技!というかシルにはそんな生々しい手助けじゃなくて、お付き合いするまでの手助けを考えれば良いのでは!?」

 

「はっ……なるほど勉強になる、流石ですねリョナ。では性行為をする必要もない」

 

「ないわ!」

 

 

何とか解ってくれたらしい、やっとリューの拘束が外され腕が自由になる。

そりゃ美人を抱けるというのなら男としては据え膳だが、ハティもいる中できちゃった婚とか最悪だし、手を出したとか知れたらミア母さんからぶち殺されるし…口ぶり的に初めてなのにトイレじゃまずいだろう。

 

(人は見かけじゃねぇな…ホント)

 

アイズ然り、ヘスティア様然り、残念美人しかいないのだろうかこの町は。

膝上に乗せたリューを見ながら俺はやっと肩の力を抜く、お尻と太腿の感触は変わらず危険だが少なくとも貞操の危機は去ったようだ。

 

 

「んっ…」

 

 

膝先がリューの股下を通り抜ける、その細い肩がピクリと反応し声が漏れた。

…動き辛いし降りてくれると有難いのだが、膝先に乗った彼女は顔を上げる。

 

 

「しかしシルの手助けをしたいというのは本当なのです。リョナさん、私に男女の恋愛についてご教授いただけないだろうか?」

 

「…いやまぁだから、俺で出来る範囲でなら手助けしますけど」

 

「本当ですか!では明日からよろしくおねがいします、リョナ!」

 

「…明日から?」

 

 

そう言うとリューは笑う。

どこかその笑みは微かな朱を帯びており、自然と握られた拳が自分ですら気が付かないほど小さく高鳴る胸の前に持ち上げられたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「じゃあハティ、行ってくるな」

 

「んぅ…」

 

 

とても辛い。

次の日、豊穣の女主人。俺は休憩室のドアでしゃがみ、くまのぬいぐるみを抱えた少女の頭を撫でる。

普段は嬉しそうにしてくれる頭撫でも、今のハティ悲しそうに俯き太い尻尾もしょんぼりと垂れさがってしまっている。

 

(あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?)

 

少女の影った顔を見ているだけで物凄く辛い、吐きそうだ。

ハティを預ける時はいつも悲しい、誰が好んでこの子に寂しい思いをさせるか。

願わくばずっと一緒に居てあげたいが、そういうわけにもいかない。

それでもこの子を不安にさせないよう笑顔を浮かべて見せる、最後にその小さな身体をぎゅっと抱きしめると後ろ髪を引かれる思いで立ち上がった。

 

 

「じゃあ頼む、アーニャ」

 

「らにゃ!さーぁハティ、向こうでおねえちゃんと一緒に遊ぶにゃー!」

 

「んむ…にゃー」

 

 

休憩室の中にふらふらと歩いていくハティの背中を見送ると俺は振り返る。一歩ごとに激痛を覚えながら何とか店内を横切ると、カランコロンと音をたてて入り口から外に出た。

昼間、街道には多くの人々が歩いている。生憎と今日は白く曇っており、ダンジョンには関係ないが何だか一雨降りそうだった。

歩き出した俺は重く息を吐く。ただでさえハティの別れは辛いというのにこれから行くのは()()()()()()()()()、まるで騙しているようで俺の気持ちは重く沈んでいた。

 

 

「はぁ…」

 

 

人の流れに沿って道を歩いていく。

以前よりもはるかに良くなった嗅覚で町の匂いを嗅ぎ分けながら俺は菓子の売られている露店を眺め、知らない道に踏み込んでは新しい景色に瞬きした。

暗い路地裏を通り抜けると街道に出る。人通りの少ない並木道は明るく、風にざわめく広葉樹の緑色が濃く雑音を鳴らしていた。

 

 

「…」

 

 

石造りの街並み。見渡した視界の彩は鮮やかで、丁度道の交差点にあたるところには噴水がある。

静かに水を噴き上げている円形のアーチは薄い光を反射させており、水しぶきの中には微かに虹色が浮かんでいた。

 

噴水を背に設置されたベンチに緑髪のエルフが一人姿勢よく座っている、手のひらサイズの小さな書籍を片手にした彼女は縁の広い黒眼鏡をかけておりその頭にはベレー帽を乗せていた。

そのコーディネートは袖をまくった白いオーバーシャツと白黒ストライプのインナー、脚のラインが良く解る黒く細長いパンツ、ラフなスニーカー。

眼鏡をかけたその装いはどこか知的で、涼し気なその衣装は美しい石の町の中で一番鮮やかに見えていた。

 

 

「どうも」

 

「あぁ、リョナ」

 

 

声をかけるとリューは手にした小説から視線を上げる。

文庫本をぱたんと閉じた彼女は立ちあがる、薄い小説をポケットの中に入れて上体を逸らした。

 

私服なのか、いつもと雰囲気の違う気の抜けたリューは息を漏らす。

眼鏡の位置を直したエルフは俺の事を見上げ、いつも通りの凛とした表情で姿勢を正した。

 

 

「…待たせたか?」

 

「いえ、今来たところです…こう言えば良いのですか?」

 

「普通は男が言うもんかと」

 

 

俺は再びため息をつく。

今日はリューさんとデートだ、ダンジョンに行くふりまでして作り出した時間は苦しみで出来ている。

約束した手前断れなかったデート。ハティを豊穣の女主人に預け、休みをとったリューと待ち合わせた俺は恋愛について教えることになっていた。

というのもいきなり性交はありえないが『実践して学ぶ』ということは存外間違っていなかったりする。恋愛というものを知るためにデートをしてみるというのは、まぁ経験として悪いことではないだろう。

そんなこんなで遊びにいくことになった。

 

 

 

「…」

 

「…ん?あぁ…」

 

 

碧眼にジッと見つめられ気が付く。

このデートはあくまで勉強なのだ、よっていわゆる『テンプレ』と呼ばれるものをしていかなければならない。

俺にラブコメの知識など毛ほどしかないが、デートで男が女の服を褒めるということぐらい知っている…というかかなり気合を入れているようだし、わざとらしく服の端を振ってみたり普段はしないような露骨なアピールを俺にしてきていた。

 

 

「あー…リューさん今日は私服かー、可愛いなー」

 

「ふふ、ありがとう。…なるほど、服程度と思っていましたが褒められるとそれなりに嬉しい」

 

「まぁ、相手にもよるけどな。俺の妹曰く好きでもない奴に服を褒められても全然嬉しくないらしいし…まぁ当たり前っちゃ当たり前だけど」

 

「ほう、妹がいるのですか」

 

「…だいぶ変人だけど一応」

 

 

変人というか変態だが。

満足したらしいリューは笑みを浮かべ軽く俺の肩に触れる。ずれていたコートの端を丁寧に持ち上げ直し、軽くぽんぽんと叩いた後腕を下ろす。

 

 

「では行きましょうか、リョナ」

 

「はいよ」

 

 

彼女と共に歩き始める、こうして心なしかテンションの高いリューとのデートは始まったのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「時に質問なのですが」

 

「あん?」

 

「ハティもコウノトリに運ばれてきたのですか?」

 

「…あー」

 

「冗談です」

 

 

隣に歩く彼と雑談を交わしながらリューはふと男を見上げる。

渋い顔をしている彼は背が高い、身に着けているコートの下にある身体はちゃんと戦うための身体をしていた。

着痩せして見えるが自分よりも一回り大きい肩幅は男らしい…のだろうか、この前イーミンが熱く対格差の良さについて語っていたがリューには良く解らなかった。

 

 

「ところでどこか行きたい場所とかあるんです?」

 

「えぇ、一応私の方でも勉強して幾つかの候補は決めてきました」

 

「…もしかしてさっきの本」

 

 

ポケットには恋愛小説が入っている、創作の中の恋愛ではあるが男女のデートスポットは幾つか把握できた。

 

 

「まずはここです」

 

「あぁ、本屋」

 

「はい、互いの趣味を知ることもできるし実用的でもある」

 

 

暫く歩き辿り着いたのは小さな古書店、開け放たれた店内に並べられた本棚にはひなびた本が幾つも並べられており、おすすめなのかたてかけられた一部の本は表紙の挿絵が見えていた。

二人が店の中に入ると静かな古紙の匂いに包まれる、店奥のカウンターにはエプロン姿の女性店員が一人腰かけ本を熟読しているようだった。

 

 

「…何か気になる本はありますか?」

 

「そうだなぁ、ハティに新しい絵本でも買っていこうかな」

 

 

無数に並ぶ本の中をゆっくりと彼と歩きながら言葉を交わす。

気になる本の前で立ち止まったり、時折手に取って確かめたりした。並んで本を読む、肘が触れたような気がしたがお互い何も言わなかった。

 

 

「読み聞かせたりはするのですか」

 

「寝る前に少しだけ。面白そうに聞いてくれるんだが、くてんって感じですぐ眠っちゃうんだよなぁ」

 

「ふふ、それはまた可愛らしい」

 

 

共通の話題はおのずとハティについてのことになる。

豊穣の女主人でのハティや、逆に家でのハティの様子を尋ねながらページを捲り文字に目を通していく。

 

 

「お、この本とか面白そうだな」

 

「何という本です」

 

「鬼将軍ノッブvs痴将ミッツン!真夏の本能寺裏徒競走対決!」

 

「…それ本当に面白いのですか?」

 

「パッと見た感じラストは涙無しには見られませんね、特にノッブが溶鉱炉に落ちかけたミッツンを助けたところは最高だった」

 

「溶鉱炉?」

 

 

とはいえ買わないらしく本棚に絵本は戻される、結果的にはそっちの方が良いのではなかろうか。

結局何も買わずに店を出る、冷やかしになってしまったが店員は私達が店に入ったことにも気が付いていなさそうだった。

 

 

「さて、本屋はどうでしたか?楽しかったですか?」

 

「まぁ刺激的かって言われると微妙かもしれんが普通に楽しかったかな、ベルも最近本は読んでるらしいし候補としてはアリかと」

 

「なるほど」

 

 

再び歩き出しながら評価を聞く。

少し道を眺めながら考えると尋ねた。

 

 

「刺激と言いましたが、やはり必要ですか?」

 

「まぁそりゃあ相手に意識してもらうためにはドキドキしてもらう必要がある。魅力のアピール然り、ときめかせるってことも重要になってくるのでは」

 

「ときめき…具体的には?」

 

「んー…軽めのボディタッチとか、ふとした瞬間の優しさとか。でもまぁそれは人によると思うし、ある程度演出できるもんかと…あぁそういえば壁ドンなんてもんもあったな」

 

「…壁ドン?何です、それは」

 

 

彼から話を聞く、何でも壁ドンというものは意中の相手を壁に押し付け顎を持ち上げ告白する手法らしく、多少強引な手段ではあるが密着度が高くなり、顔も近づくためときめき指数も高くなるらしい。

 

 

「そんなことでときめくのですか?」

 

「まぁ一部人間は」

 

「では試してみましょう」

 

 

そう言って民家の壁を背に立つ。

姿勢を正し、まっすぐにリョナの事を見つめると私は気合を入れた。

 

 

「さぁ、私に壁ドンをしなさい!」

 

「えぇ…言われてやるもんじゃ…」

 

「早く、時間は有限だ」

 

「あっはい…」

 

 

困惑していた彼だったが渋々といった様子で近づいてくる、そしてゆっくりと息を吐きだし視線を合わせるとドンと壁に左手をつき身体を寄せてきた。

顔が近づき自然と肩がビクンと跳ねる、真剣なその目線はまっすぐに自分のことを見つめており、両足の合間に挟み込まれた固い膝先に下半身が捕まえられてしまった。

右手が伸びてくる、露骨過ぎず肩に触れた指先がつー…と首筋をくすぐったく撫でてから顎先をくいっと持ち上げられた。

 

 

「…俺のものになれよ」

 

「なりませんが?」

 

「ですよねー」

 

 

耳元で囁かれた言葉を断ると、密着していた彼は身体を離しがっくりと肩を落とした。

若干乱れた服を戻した私は息をつく、それでも心臓は今更になって自分でも解るくらい動悸を速めていた。

 

(一瞬…ですが)

 

逃げようと思えばいつでも振りほどけただろう、だが顎を触られ視線を合わせられた瞬間私は身体の動かし方を忘れてしまったかのように立ち竦んでしまった。

それが触れ合わんばかり近い顔のせいか、あるいは顎を触られ勝手に持ち上げられるという行為によるものかは解らないが確かに動揺したし、彼の言うようにときめいたのかもしれなかった。

 

少なくとも壁ドンというものが何かは解った私は頭の中で情報をまとめる、赤面を隠すように口元に手を当てると俯きがちに歩き出すと小声で呟いた。

 

 

「…なるほど、確かにこれは効果的なようだ。シルにも教えねば」

 

「あっ、ちょっ速っ!?」

 

「行きますよリョナ、次はお茶を飲みに行きましょう」

 

 

次の目的地へ向けて早足に歩き出した私は彼の足音を背後に聞きながら、頬の熱が引くまで逃げ続けたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 




リューさんと何か関係結ばないとなーって思ったらこれしかありませんでしたわ
結構中途半端な終わらせ方しちゃいましたが後のデートはご想像にお任せします

では!
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