このダンジョンに神殺しが居ることは間違っている。 作:みころ(鹿)
というかデータが飛んで若干萎え気味なのはある、おのれマイクロソフトいつもありがとうございます絶対に許さんからなお前()
ではほんへ
・・・
「最近うちの娘が可愛すぎて辛い」
「ハティちゃんですか?」
「聞いてくれよ…今朝なんて起きたら俺の胸の上で涎垂らしててさ、頭撫でてあげたら幸せそうな寝顔でぎゅって抱き着いてきてさぁ!
ダンジョンを歩きながら隣のリリと会話する。
目の前には索敵しているベルが警戒しながら先行しており、第9階層の通路を降りながら下の階層を目指し歩いていた。
今日は初めて組んだ三人パーティでの試運転だ、中層である13階層の一歩手前まで行く予定だった。
「ハティ可愛いよハティ…」
「はいはい可愛い可愛い」
「今日は何か買ってってやろうかな…いや早く迎えにいってやったほうがいいのか…」
「ちょっとリョナさん、ぼっーとしてると危険ですよ。いくらベル様が警戒してくれているからと言ってそんな調子じゃ…」
「大丈夫だって、そんな不意打ちとか滅多にな――ゴブォッ!?」
「ほらー!油断してるからー!」
その横腹に何かが勢いよく激突する、ベルなどと違って鎧を着ていないリョナは体内の空気を全て吐き出さされた。
やけに勢いの良い物体はそのまま男の身体を吹き飛ばす、尻餅をついたリョナは激痛に呻くと声を漏らしながら転がり始めた。
「敵ですか!?」
先行していたベルがナイフを構えながら戻ってくる、そしてリョナにぶつかったそれを見下ろすと困惑した表情を浮かべ刃先を下ろした。
そこにいたのは…何か良く解らないどこかウサギのような形をした肉の塊だった、血を流しているそれには短い手足と小さな目がリョナのことを見つめており、他二人が見る前に蒸発してしまった。
そして一瞬の逡巡の後ベルは振り返ると、倒されたリョナをリリが介抱しているところだった。
「ちょっとリョナさん、傷は浅いですよ。早く起き上がってください」
「…よっと。ゴラァ!どこ見て走ってん…ってあれ、ベル今ここに何かいなかったか?」
「え、あー…いたんですけどすぐ逃げちゃいました、何かまではちょっと」
「ん、そうか…」
見たことも無いモンスターの説明しようがなかったベルは咄嗟に嘘をつく、どこか兎のようにも見えた肉塊の姿を思い返し首を傾げると、痛そうに横腹を抑えたリョナを見た。そんなベルにリリが小声で喋りかける。
「…あの、ベル様」
「何、リリ?」
「リョナさんについて何ですが、明らかにおかしいです」
「…何が?」
そう言うリリの表情は深刻だ、ベルは再びリョナの事を見ると別に普段と何も変わらないように見えた。
「見ていて解らないのですか、さっきの体当たりだって以前のあの人だったら絶対に避けれていたはずです」
「う、うーん…リョナさんでも油断することはあるんじゃないかな?」
「それはそうかもしれませんけど…この前だって私を縛ったり…何というかそのテンションがおかしいんです、いつもどこか上の空というか」
なるほど確かに、言われてみればテンションが高かったりぼっーとしてみたりと以前とは違う。時折ふざけることもある人だったが、ここまで気の抜けたような雰囲気は無かったはずだった。
「でも何でだろ、リョナさんがおかしくなっちゃう理由か…」
「いや理由自体は明らかだと思うのですが…」
「神様だったら解るかな」
「あぁ…まぁ確かにあのお方ならぬるっと解決してくれるかもしれませんね」
「おい二人とも、何喋ってるかは知らんが――来てるぞ」
先程何かが突っ込んできた通路をリョナが指さす。暗いその通路には何もいるようには見えなかったが、耳をすませば確かにモンスターの蠢く足音が遠くから聞こえてきていた。
瞬く間に大量のキラーアントが通路に溢れ出す。ガチガチと牙を打ち鳴らす蟻たちは敵意を剥き出しにしてまっすぐにこちらを睨みつけており、かつて多数のキラーアントに襲われたリリがビクンと肩を震わせたのが解った。
迫る蟻たちを前に全員が自らの得物を構える、直剣を肩に構えたリョナが指示を出した。
「前線はベルと俺、リリは下がって援護。俺は下がって戦うから背中は任せろ、暴れてこいベル!」
「はいっ!行ってきます!」
白兎が弾丸のように駆けだす、迷いなくキラーアントの群れに中に突っ込むと蟻の反応速度を遥かに超えた動きで食い破った。
無駄の消えたその疾風迅雷の如く動きは両橋夏目に師事したことが大きい、自己流ということに変わりないが細部を見直され、加えてレベル2となった彼は今では中層までのモンスターでは敵なしとまでになっていた。
キラーアントたちに囲まれながら少年はナイフを振るう、その度蟻の悲鳴と共に粘液が飛び散った。時には蹴りや跳躍を駆使したその闘法は以前よりか様になっており、一切の油断のない真剣さも相まってか鬼神のような働きに見えた。
一切攻撃の当たらない、逆にどんどんと仲間が殲滅されていることに恐怖したキラーアント達の数匹が白兎以外の二人を見つけ近づいてくる。
リリがクロスボウに重矢を装填するのを横目に、リョナは一歩を踏み出した。
「フンッ!」
『ギシャッ…!?』
振り下ろされた直剣がキラーアントの硬皮を切り裂き、叩き潰す。
その巨躯から繰り出される一撃は重く、アルテミスを殺したことで更に進化した肉体は例えカウントを稼がなくても人間という枠組みを遥かに超えていた…その恩恵を別にしても。
駆けてきていたキラーアント達が仲間の死に足を止める、死骸から直剣を持ち上げる男の姿を見上げると流れるような動きで白刃が振るわれた。
最効率の斬撃が蟻達を纏めて数匹葬る、白兎よりは遅いが力に重点を置いた連撃は次々とキラーアントを駆逐していった。
――ズドンッ!
リリから放たれたボルトがリョナの背後を飛びかかろうとしたキラーアントの腹を貫き弾き飛ばす、深く背中に矢が突き刺さった蟻は数メートル吹き飛ぶと痙攣の後絶命した。
目の前に迫った蟻達を手早く殲滅したリョナがベルに追いつく、強靭な顎で少年の足に噛みつこうとしていた一匹の首を刎ねとばした。
「呼吸が乱れてるぞ」
「はっ…はぁっ…まだまだっ!」
「はっはっは、無理すんな」
ベルの動きは良くなったがそれに体格と呼吸と言った基本的なところが追い付いていない、今以上の戦いをするならばもう少しスタミナが必要だろう。
それでもリョナのフォローが入り負担が減る、交差し輪を描いた二人の斬撃は小人族の慎重な援護の中蟻達を狩っていった。
瞬く間に蟻達の数が減っていく、そして最後の一匹、築き上げた魔石と虫の死骸の山の中で一際大きな個体にリョナから伸びたワイヤーの先端が蟻の身体を貫いた。
「ベル、トドメッ!」
「っ…!」
鋭利なワイヤーをスライディングで通り抜け飛んだベルがそのナイフを蟻の身体にねじ入れる、力を込めて回すと蟻は弱々しく痙攣した後絶命した。
少年が蟻の身体からナイフを引き抜く、霧散した肉体から転がり落ちた魔石を拾い上げたベルは振り返る。
良い連携だった、初めてのパーティは確かな確信と共に次の階層へと再び進み始めたのだった。
・・・
「あー…親の自覚ってやつじゃないかな?」
「親の自覚?」
昼下がりのヘスティアファミリア本拠地、地下室のベッドにうつぶせになったベルは腰の上に乗ったヘスティアに最近どうも様子のおかしいリョナについて相談していた。
その背には赤いステイタス画面が浮かび上がっており、ヘスティアが両指で操作するたび数値が激しく変動しているように見えた。
「ほら、リョナ君っていきなり親になったじゃない?だから本来親として感じる自覚ってやつがまとめてやって来ちゃったんじゃないかな、いわゆる親バカってやつだね」
「…それで、どうすれば良いんでしょうか?」
「んー…愛情が暴走してるともとれなくはないけど別にそれ自体は悪いことじゃあないからなぁ。まぁ一時的なものだと思うし、放っておけばそのうち収まるとは思うけど…っと、ステイタス更新終わったよ!今日も良く頑張ったね!」
腰の上からヘスティアが降り自由になったベルは身体を起こす、シャツを着た少年はヘスティアからステイタスを写された紙を受け取ると眺め始めた。
「次、リョナ君!君ここ数週間ステイタス更新してないんだからちゃんとしていきな!」
「はいよ」
振り返ったヘスティアはソファの上でハティと遊んでいたリョナに声をかける。立ち上がったリョナに続いてハティが床の上に降りる、ベッドに向かうリョナに追いつこうと小さな歩幅で走り始めた。
上着とシャツを脱いでリョナはその傷だらけの身体をうつぶせに横たえる、その後ろをトコトコとついてきていたハティもベッドによじ登ると上裸の背中を見下ろした。
そしてヘスティアの真似なのかリョナの腰の上に座ると、ぺたぺたとその筋肉質な背中を触り始める。
「ハティちゃんも手伝ってくれるの?」
「おー…」
「そっかぁありがとう、じゃあお姉ちゃんと一緒にやろうか!」
ヘスティアもハティの真後ろに腰かけるとその小さな頭越しに
目の前に広がった光の文字列にハティは目を瞬かせる、行使されている魔法に興味津々といった様子で手を伸ばすが赤い粒子は指の合間をすり抜けてしまいホログラフのように触れることは叶わなかった。
「…なー?」
「えっとこれは僕の与えた恩恵だよ。これがあるおかげで眷属はダンジョンでも生き残れる力まで成長…を…」
ハティへ恩恵を説明しながらステイタスの更新作業を行っていたヘスティアが言葉を詰まらせる、見下ろした神聖文字を凝視したままその指が止まった。
確かめるように何度も文字を目で追い間違いがないことを確認すると、考えるように遠くを見つめた後再びステイタス画面の操作に移った。
そして微かに震える手でステイタスを紙に写し取ると、立ち上がる。
ステイタス画面の消えた背中にハティが飛びついた、そのまま起き上がるリョナにおんぶされた少女は嬉しそうに尻尾を振っていた。
「それで、結果はどうでした?」
「…これ」
「…!」
手渡された紙を覗き込んだリョナが目を見開く、そこにはヘスティアが言葉を失うのも納得の理由があった。
――ランクダウン、消えることのない神と眷属の絆は変調をきたす。
大幅なステイタスの減少、以前と比べ二分の一になった数値は駆けだし冒険者のそれと変わらない。
神殺しとしての成長は以前よりも強くなった肉体はつまり、恩恵さえ消しさる。
両橋夏目、レベル1、神殺しの獣。例え偉大な冒険をしたとしてもそれは神に捧げられることは無い、あるのは化け物としての成長のみ。
繋がったパスさえも食い潰すその力は…確執の証明であった。
「…さては、サボりすぎたんじゃない?リョナ君にはもっと頑張ってもらわないとなぁー!」
「…そうかもな、最近ダンジョンには入ってなかったし」
「もー!ハティちゃんだっているんだからしっかりね、最近気が抜けてるんじゃないかい!」
それでもヘスティアは変わらず笑う。
それは両者とも事実から目を背けているだけなのかもしれない、それでもこの縁だけは変えたくなかった。
ふっとヘスティアの表情が悲し気な微笑みに戻る、見上げたリョナを数秒見つめるとゆっくりと言葉を紡いだ。
「君は…君なんだから、それで良いんだよ」
「…えぇ、解ってます」
…それだけではすまない運命は、既に絡まり始めていた。
蒼い火は自らを鎮めようと努める、それはその力で大切な存在を傷つけないようとするため。
それでも神殺しの成長は止まらない、例えその先に待つ運命が黄昏であったとしても決して止まることは無いのだった。
・・・
というわけでレベル2にはならないです(二つ名考えたくなかったわけじゃない)
とはいえ身体能力的にはレベル2、3相当ということで人間は辞めてる。
まぁ今回は未来への布石だからボリューム少なくても仕方ないね、その代わり次回は…次回は真冬に夏回だ!海行くべ海!
ではでは