このダンジョンに神殺しが居ることは間違っている。   作:みころ(鹿)

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秘密結社と聞くとズヴィズダーが出る今日この頃、皆さんはどうでしょうか。
そういえばスマブラsp買ってました、今作からの初心者ですがダークサムスでVIP行きました(自慢)
それと一週間投稿できてるけど次は期待しないで…

ではほんへ


 秘密結社

・・・

 

 

 

「俺の名前はヴェルフ・クロッゾ、よろしくな!」

 

「おう、ヴェルフで良いか?」

 

「あぁ呼び名は何でも構わない、クロッゾ以外ならな」

 

 

ヴェルフと名乗る赤髪の青年とガシリと握手を交わす、鍛冶師だという彼の掌は厚く力も強い。

これならば十分戦えるだろう、ベルが知り合いを連れてきたと言った時には大丈夫かと思ったがこれなら中層手前くらいでも余裕なはずだ。

朝の冒険者通り、人通りの多い噴水の側で手を離した俺は黒い作務衣を着たヴェルフを見る。軽装に巨剣…というか大刀を構えた青年は若さと気概に満ち溢れており、何だか志願兵を見ているような気分になった。

挨拶を終え俺は噴水縁に腰かけ鎧の位置を直しているベルに視線を向ける。

 

 

「…でベル、今日は何階層まで行くんだ?」

 

「いつも通り十二階層まで、今日はヴェルフさんもいますし無理しない範囲でモンスターを狩りましょう」

 

「おいおい、さん付けはやめてくれよくすぐったい」

 

 

曰くベルが今着ている鎧を作ったのはこのヴェルフという男らしい、その関係で知り合ったという二人は意気投合し共にダンジョンへ行くことになったとか。

何でもヘファイストスファミリアの鍛冶師である彼はパーティが組めていないらしく、今まではダンジョンでの経験値稼ぎや自分の作った武器の試し切りが出来なかったそうだ。

またベルのお人好しが暴発しパーティーメンバーが増えた、とはいえ悪い奴には見えないし何かしてからでも十分対応できるだろう。

 

 

「じゃあ早速行きましょうか!」

 

「おう、足を引っ張るつもりはないから背中は任せろ!」

 

 

ベルの掛け声と共に噴水広場からバベルに向かって歩き出す、装備を確かめた俺は少し遅れてついていくと、既に二人が話しており必然残ったリリの隣になった。

大きなバッグを背負ったリリのフード下を覗き込む、身長差があるので解らなかったが小人族の少女は極めて不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

 

「…一応聞くが、どうした?」

 

「…まぁ別にリョナさんが悪いわけじゃあないんですよ?いつも一人で歩いてくれますし、ベル様の隣を奪いませんし」

 

「嫉妬かぁ」

 

「そういった解りやすい言葉でリリのこの感情(センチメンタル)分別(カテゴライズ)しないでくださいっ」

 

 

反抗期も併発しているらしい、年頃の乙女だしこの程度で怒るほど器は小さくない。

ぷんすこと怒り始めたリリの隣で苦笑しながら俺は前方のヴェルフに目を向ける。これで前衛が二人、バランス的に次は後衛がほしい所だ。

ぎゅるぎゅる丸は便利ではあるが集団の戦闘には向かない、味方を巻き込んでしまう危険性を考えるとそろそろ次のものを作る必要があるかもしれなかった。

見上げたバベルの下、青空を仰ぎ俺は汗ばんだTシャツをあおる。とりあえず火薬から調達するかと頭の中で算段をたてながら、いつも通りダンジョンに潜るのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

肌が湿るほど濃い霧の中、駆けた俺は枯木を踏み台に宙へ飛ぶ。

 

 

「ラストォ!」

 

 

一瞬の浮遊感、背を向けたオークの頭に俺は思い切り振りかぶった直剣を叩きつける。

頭蓋骨を砕く感触と共にオークの身体が黒い靄と消えた、着地した俺は剣に着いた体液を払うと息をつき仲間達に向き直る。

 

 

「すまねぇ助かった、囲まれるときついな…」

 

「そのためのチームメイトだ、まぁとろいオークに背中をとられるのは注意力散漫だが」

 

「あぁ、次からは気をつけさせてもらう」

 

 

大刀にもたれかかり荒く息をついているヴェルフは片膝をついて汗を拭いていた。

第十三階層、霧の立ち込めるいつもの階層は視界が悪いので比較的モンスターに囲まれやすい。

ヴェルフをキャリーしながらの戦闘は今のところ順調ではある、まだ四人での連携こそできていないが特殊な戦況じゃない限り一人増えたアドバンテージは充分大きい。

 

 

「魔石回収行ってきます、二人は休んでいてください」

 

「おう、気をつけろよー」

 

 

霧の中では奇襲されやすいのでリリの魔石回収にベルが付きそう、リリに限らず一人で霧の中にいることはかなり危険だ。

魔石を回収しに行ったベルとリリを見送る。残された俺はパープルモスにだけ注意を払うと息をつき、やっと立ち上がったヴェルフに視線を向けた。

 

 

「ふぅ…いや本当に強いんだなアンタ、正直そんな差は無いと思ってたが戦闘技術に関しちゃ俺はまだまだだ」

 

「まぁ前線でモンスター何匹か相手にしてくれるだけでも相当助かるけどな、それに何匹か倒せてただろ?」

 

「そりゃあそうだが…」

 

 

実際その大刀の威力は高くヴェルフ自身何匹かはモンスターを倒している、地面に突き刺したままの太刀は鋭く中々の業物に見える。

他で見たことの無い形状をしているし恐らく自作だ、鍛冶師という話だったがどれほどの腕前なのだろうか。

ヴェルフと暫く会話を交わす、若い青年は向上心が強く鉄や鍛冶の話題には熱が入った。

 

 

「…ところであんたは防具をつけないのか?見たところその篭手だけに見えるが」

 

「ん」

 

 

少し前までは俺も鎖帷子ぐらい装備しようと思っていたのだが、ヘイトはベルが稼いでくれるし、結局当たったら鎧があってもどうせ怪我は避けられないので躱すことを優先させた。

それにいざとなったら狼騎士があるし防御も問題はない、利用できる鉄が増えるのは良いのかもしれないが手入れや重さを考えたらむしろ持たない方が良かった。

 

 

「これも何かの(えん)だ、良ければ俺があんたにあった鎧を作らせてもらうが…」

 

「いや遠慮するわ、こいつさえあれば大丈夫だし」

 

「そうか、出来るだけ多く造りたいからもし機会があれば是非声をかけてくれ。絶対に後悔はさせないからよ」

 

 

そう言って笑うヴェルフは確かに好青年である。

笑みで返した俺は彼に対しての警戒を緩めると、改めて新しい仲間として認めた。

その時である、霧の中からリリの声が強く聞こえてきた。

 

 

「オークとインプの混成パーティです!お二人ともサボってないで早く来てください!」

 

 

どうやら運悪く敵と遭遇してしまったらしい。

先程二人が消えていった方向からの声に直剣を引き抜いた俺はヴェルフを見る、赤髪の鍛冶師は地面から大刀を抜いているところであり丁度目が合った。

 

 

「しゃあねぇ、行くぞヴェルフ!」

 

「あぁ、背中は任せた!」

 

 

互いに得物を構えた俺達は、共に霧をかき分けながら走り出したのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

ダンジョン帰りの倦怠感を感じながら陽が落ちた通りをベルと歩く、既に稼ぎを分配したリリとヴェルフとは解れ俺は豊穣の女主人に向かっていた。

やがていつもの店の外観を見つけると息をつく、ベルと共に店のドアを開けるとカランコロンと鈴が鳴った。

 

 

「らっしゃせー…ってお得意様にゃん」

 

「おう」

 

 

既に喧しい店内に入ると熱気とアーニャに出迎えられた、給仕の途中だった猫人は特にじゃれついてくることもなくそのまま去っていく。

今日は腹が減った、まずはハティを迎えに行ってからメニューを頼もう。

 

 

「ちょっと待ちな、リョナ」

 

 

ベルと別れハティの待つ休憩室に向かおうとした俺をカウンター越しにミアが呼び止める、疲労した身体で振り返りながら俺は嫌な予感のまま目を細めると腕を組んだミアがエプロンを外しているところだった。

 

 

「カウンターやりな」

 

「うげぇ…こちとらダンジョンあがりなんですが?」

 

「夕飯タダにしてやるからつべこべ言わずにさっさと着替えてくるさね、まだ余裕は残してんだろう?たまにはあたしを休ませるくらいの男気みせな」

 

 

お見通しである、ただ早くハティと戯れたかっただけだった。

はぁ…、と長くため息をついた俺はバックヤードに向かうドアを開ける。誰もいない暗い廊下を進み、とりあえず右側ドアから休憩室を覗き込むととりあえずハティに顔を見せることにした。

 

 

「ただいまー、ハティ」

 

「ぱー!」

 

 

声をかけると座っていた少女がぱっと表情を輝かせる、椅子から飛び降りたハティはくまぬいぐるみを片手にとことこと近寄ってくるとそのままポスンと膝先に抱き着いてきた。

とてつもなく可愛い、膝に抱き着き嬉しそうに尻尾を動かしている愛娘の姿に癒されながら俺はそのふさふさの頭を撫でる。

ふと何かに気が付いたのかハティが足から離れた、そのままUターンで机にまで戻り何かを取ってくると俺の前でそれを広げた。

 

 

「これ、ぱー!」

 

「おっ似顔絵かぁ、頑張ったな嬉しいよハティ」

 

「むふー」

 

 

掲げられた紙の上にはハティが描いたであろう似顔絵がミミズののたくったような線で描かれている、まるで鏡餅のような顔をしたお絵かきだが嬉しいことに変わりない。

満足げなハティがそのままだっこ要求してくる、腕を伸ばした少女をいつもなら抱き上げるところだが今日はカウンターに行かなくてはならなかった。

 

 

「ごめんハティ、俺まだカウンターの仕事あって…」

 

「だー…」

 

「また後でな」

 

 

両腕を伸ばすハティは悲しそうな顔をするとしょんぼりと尻尾を垂れ下げてしまった。

毎度のことだが心が痛い、最近こそダンジョンに行くときはそこまで悲くなくなったハティだがこういう延長が入るときは期待もあってか落差が大きい。

ぽんぽんとその頭を撫でる、くまぬいぐるみとお絵かきを描いた紙を持って机に戻るハティを心苦しく見送ると俺は廊下に戻り隣の更衣室の前に立った。

 

部屋のドアをノックする、今の時間は誰もいないはずだがもし他の店員と遭遇したら袋叩きにあってしまう。

誰もいない事を慎重に確認すると俺は部屋のドアを開け中に入る、そして手早く衣類を脱ぎ自分のコック服を着ると指先で襟元を直した。

 

 

「よし」

 

 

身だしなみを整え更衣室から出た俺は廊下を通り抜けると、今度は休憩室ではなく厨房に入る。

厨房では通常シフトの面々があくせく働いている、見知った同僚達と二言三言挨拶を交わしながら厨房を通り抜けカウンターに続く腰の高さほどのドアを開けた。

丁度ミアとすれ違う、エプロンを肩にかけたミアは男らしくただ拳を天に向けて言葉なく去ると俺とバトンタッチした。

店に出ると一気に喧騒が近づく、音の落差に慣れながら俺は息をつくといつもミアが立っている位置に立ちとりあえず酒の注文票に目を通す。

 

 

「おっリョナじゃねぇか、酒早くしろよ」

 

「今来たばっかだ、ちょい待て」

 

 

冒険者達のヤジを受け流しながら早速カウンターの仕事を始める、酒をつくり提供し時折見知ったゴロツキ達とコミュニケーションを交わしながら働く。

正直腹が減ったがこの仕事にも慣れたものだ、すっかり知り合いとなった冒険者達の愚痴を聞いたり相談に乗ったりして仕事をこなした。

 

 

「でよ~、その女がまた生意気なもんで…」

 

「まぁ明らかに本気じゃねぇっぽいしな、一回距離置いてそれでノーリアクションだったら諦めるってのも手だぞ」

 

「なるほど?」

 

 

恋愛相談なんかも時折受ける、客観的にアドバイスしているだけだが今のところ評判はいい。

息をついた俺は暫く仕事をこなした。喧騒を管理しながら酒を造る仕事は退屈だが自分に合っているとも思う、華が無いのが残念だが冒険者達との出会いは面白い。

 

 

「おーいリョナ、この子なんだが」

 

「ん?」

 

「ぱー…」

 

 

仕事の最中、振り返ると厨房から顔を出したイーミンが困ったような表情を浮かべていた。

その足元からハティが出てくる、どうやら我慢できずに休憩室から厨房に来てしまったらしい。

どこか神妙な面持ちのハティは厨房から顔を出したままじっとこちらを見ている、仕事中に来てはいけないとは言ってはいないがもしかして気をつかわせてしまっただろうか。

 

 

「よし、おいで」

 

 

腕を広げ膝を落とす、寂しい思いをさせるのもそうだが俺の都合でこの子に我慢とかさせたくはなかった。

笑顔を花開かせたハティが駆け寄ってくる、飛びついてきた小さな身体を抱きあげるとそのままいつものように頭を撫でながら軽くゆすった。

胸の中のハティはコック服を掴み大きく呼吸している、安らぎを得てくれているなら良い。

 

 

「お?リョナどうしたんだよその子」

 

「俺の娘」

 

「はぁお前子持ちだったのかよ!?」

 

 

ハティを抱え歩いていると荒くれ達に見つけられる、この子の可愛さは下劣な男共には余ると思うがまぁ多少は良いだろう。

試しにカウンターの上にハティを座らせてみる、だっこしたからか少しお眠なハティは赤い垂れ目でふわりと銀髪を垂らした小首を傾げている。

超絶に可愛い、もはや浄化に近い圧倒的美少女力に普段は口数の減らない冒険者達も目を奪われ唖然とし、あるものはそのまま心を浄化され自分の存在を改め、またあるものは天使の降臨にむせび泣いた。

 

 

「…嬢ちゃん、お名前は?」

 

「んぅ…はてぃ」

 

「ハティちゃんだね、俺の人生をあげよう」

 

 

重いのが来た、初対面でこいつはハティに対して人生に足る何かを見つけたのだろうか…いやまぁ絶賛人生を捧げている俺が言うのもなんだが。

そして意外にも俺も俺も!とその威光に触れた殆どの男共が殺到した、一様に魅了された男たちはむさくるしく(ただ手は出さない)ハティもうるささに寝ぼけながらちょっと不機嫌気だった。

殺到した人混みの中から一つ影が抜きんでる。その人影は俊敏かつ鋭い足技で一閃を繰り出すと冒険者達を退け、覇気と共に吼えた。

 

 

「身の程を知れ愚か者ども!ハティに触れることはこの私『ハティファンクラブ親衛隊隊長リュー』が許さないッ!」

 

「「「は、ハティファンクラブっ!?」」」

 

「ハティを遠くから見守り、時にバレない範囲で手を貸す!極めて健全な善意でなりたつ秘密結社!!その名もハティファンクラブ!!真にこの子を愛でるならば参加しその身を挺してハティを守れ、全てはハティの為に!!」

 

「「「おおおおおおっ!全てはハティの為にぃぃ!!」」」

 

 

勝手に盛り上がっている、何故か熱のこもったリューの演説に群衆はまとめ上げられ一様に拳を振り上げた。

その中心で当の本人であるハティは興味なさそうにうつらうつらとしていた、俺はただ呆れと共にその光景を見送る。

今宵ハティファンクラブは勝手に設立され、後に新選組ばりに堅い掟で縛られた巨大組織になるのだがそれはまた先のお話。

 

 

 

・・・

 

 

 

悪夢を見る。

メレンに行ったあの日から俺の繰り返される夢は変質した。

沈む…纏わりつく蒼い泥濘の中で落ちていく俺を、途方も無く巨大な化け物がこちらを見つめている。

 

災厄、その黒龍は鯨の何十倍か。まるで仏掌の中にいることに気がつけなかった猿のように、ただ無限に続くかのような指の隙間を濁った翡翠色の瞳に見つめられながら俺は海中を落ちていく。

あの日から黒龍は一言も喋らない、ただ俺の事を見守るように同種の化け物は掌の中を落ちていく俺を静かに見下ろしていた。

 

(…)

 

こいつは何者なのだろうか。

飽きもせず龍は俺が落ちていく様を見つめている、きっと俺が夢を見ていない合間もずっと。

もしかして暇なのだろうか。

それもそうか、もしこいつの本体がどこかにあるとしてこのレベルの化け物に喋り相手がいるとは思えない。大きくなり過ぎたせいだ、共に在ることが出来ぬほど力を持ち過ぎた化け物は究極の孤独に至った…それはつまり俺の未来でもあった。

 

その瞳から意図を汲むことはできない。所詮孤独も俺の推測に過ぎない、孤独を感じる程の理性が残されているかも解らなかった。

しかしもし喋れたなら…いや一回は喋ったし期待は大きい、こいつは何か神殺しの獣について知っていることは無いだろうか。

どうやら俺よりも成長した個体のようだし、そもそも俺以外に神殺しの獣がこの世界にいること自体が謎なのだ。

異世界について、あの母神について、そして俺の存在理由について。疑問は尽きない。

 

 

『「…ァ」』

 

 

試しに問いかけようと喋ってみるが口から漏れるのは泡とうめきのみ。

早々に諦めた俺はただ龍を見つめ返す、やがて酸欠が訪れ意識が遠のくといつも通りの夢の終わりを迎えたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

ハティファンクラブ創設以降ハティが店内に出没するようになった。

くまぬいぐるみを手にふらっと現れてはとことこと喧騒の中を渡り歩く少女の姿は実に愛らしく、時に知り合いに声をかけ、時に客の持つ知らないものを見つけてはジッと観察したりしてリョナの仕事を待つ間を有意義に過ごしているらしい。

そしてそれをハティファンクラブの面々は一様にほっこりとした表情でそれを見守り、時に荒くれには似合わない誠実さで少女とコミュニケーションを図ったりしていた。

後に会員NO.003になった男曰く。

 

 

「あぁ…俺は元々ミア母さんと喋るのが楽しみで通ってたんだけどよ、最近は楽しみが一つ増えちまったよ」

 

 

ちなみに俺は名誉会長としてNO.001になっているらしい。

まぁ拉致とか犯罪めいたことは無く親衛隊みたいな感じで見守ってくれているだけなので問題ない、むしろまだまだ危なっかしいハティを見ていてくれることはありがたいことなのかもしれないが人の娘で何勝手にファンクラブ作ってんの?という呆れは強く残っていた。

まるでアイドルである、確かにハティは世界で一番可愛くはあるが祀り上げて勝手に盛り上がるのは…何だか面白くない。

とはいえそもそも俺が店にいないときは干渉できない、これは俺がダンジョンに行っている合間の出来事だ。

 

今は夕暮れの豊穣の女主人休憩室、椅子に座ってお絵かきをしているハティは絵の完成に合わせ尻尾をピンと立ち上がらせる。

自分のイメージをそのまま表現したそれが描かれた紙を少女は両手で持ち上げるとまるで一流画家の如く出来栄えを確認し、息を漏らした。

 

 

「んふー…?」

 

 

緑と茶で描いたそれは少し前に庭で見たあの生物、俗にバッタと呼ばれるその虫の名前をハティはまだ知らない。

最初こそ「ぱー」に言葉で伝えようとしたのだがハティの言語能力ではまだまだバッタの特徴を言うのは難しく、今度は実際に捕まえて見せてみようとしたのだがバッタのジャンプ力の前に惨敗…小一時間程格闘したが触れる事すら叶わず、ハティの体力切れでゲームオーバーとなった。

 

そこで絵に描くという方法、これならば言葉はいらないしわざわざ捕まえなくともどんな生物なのかを尋ねられる。

…ただ問題は描いた絵がとてもバッタには見えないということ、うねった緑と茶色の集合体は良くてアメーバか何かであり十中八九バッタと見分けられる人はいないだろう。

 

 

「うん!」

 

 

とはいえ自らの絵の出来に満足したハティは大きく頷くと、紙を持ったまま椅子からぴょんと飛び降りる。

まぁ子供の絵だしこんなものだろう。自信満々といった様子のハティは絵を掲げたまま休憩室から飛び出ると、とりあえず「ぱー」が帰ってくるまで他の面々に絵を見せることにした。

 

まずハティは休憩室向かいの厨房に向かう。コック達が働いている厨房は調理音と美味しそうな匂いで満ちており、入る度意識と関係なく鼻がぴくつく。

忙しないコック達の仕事の邪魔をしないように気をつけながらハティは厨房内を横断する、まだまだ背の低いハティにはテーブルの上で何が行われているか見えないがそれが料理だということは何となく解った。

そんな中、イーミンがハティに気が付く。赤髪をおさげにしたロリは料理の片手間に膝を折ると自然な笑みを向けた。

 

 

「おっハティ、どうした腹減ったのか?」

 

「おー」

 

 

ひねくれている彼女だが子供に対してはそうではない。

優しい年上の気遣いをスルーしてハティは持っていた絵を掲げる、広げられた紙に描かれた緑茶の線を見下ろしたイーミンは眉を顰め困惑した声をあげた。

 

 

「なー?」

 

「あー…えっと、ミア母さんなら知ってるんじゃないかな」

 

 

名状しがたい絵からイーミンは目を逸らす、尋ねられてもそれが何かは彼女には解らなかった。

仕事に戻っていってしまったイーミンの後ろでハティは不満げに頬を膨らませる、紙を持ったまま厨房を抜けた少女はそのままカウンターに入ると、客と談笑していたミアの近くまで歩きその制服をくいくいと引っ張る。

 

 

「む、どうしたんだいおチビ」

 

「これー」

 

 

再びハティは頭の上で紙を広げる、相変わらず緑と茶色がのたくったようなその絵をミアはじっと見つめるが流石に理解することは出来ず目を閉じるといつも通りのしかめっ面でカウンターの上に手を伸ばした。

つまみのピスタチオから数粒取り出すとミアはその太い指で殻をパチパチと外していき、実だけにしてからハティに手渡した。

 

 

「…とりあえず、これでも食っときな」

 

「ん、おー?」

 

「しっかり噛むんだよ」

 

 

誤魔化された感じだがミアから渡されたピスタチオにハティの興味はそれる。少し緑っぽい豆からは香ばしい匂いが漂っており、早速口の中に入れてみると若干塩みのある甘さが広がった。

もぐもぐと咀嚼しながらハティはカウンター横から店内に出る、すっかり紙の事を聞くことを忘れていた少女だったが特に気にすることも無くピスタチオを楽しみながら手元の絵を見下ろした。

 

 

「…ん!」

 

「にゃ?エンドウ豆かにゃ?」

 

「んー!」

 

 

通りすがりのウェイター猫人に紙を見せる、エンドウ豆が何を言っているかは解らなかったが豆という言葉に聞き覚えはあるしきっと違うだろう。

首を振ったハティはぶらぶらと歩きだす、既に騒がしい店内はハティにとって広く色々な客達が酒を飲んでいる。紙を持ったハティは時に酒を飲んでいた冒険者達に絵を掲げ、仕事中のウェイターを呼び止める。

しかし誰も何が描かれているか解らずてんでバラバラな回答ばかり、満足いかないハティは僅かに眉を顰め垂れた瞳でバッタの絵を見下ろす。

テーブルの間を通り抜けると座っていた棒検査の男が気がつき、久しぶりに会った親戚のおじさんみたいな感じで喋りかけられた。

 

 

「おっハティちゃん、どうしたんだい?」

 

「これー、なー?」

 

「…うーん、おいテメェらハティ嬢が――」

 

 

召集をかけ始めた男を見上げハティは首を傾げる、手持ちぶさたに歩き回りながら尻尾を揺らしていると尻尾の先が誰かの足にぶつかった。

振り返ると反対のテーブルに座った若い男がこっちの事を睨みつけていた、どうやらこの人にぶつけてしまったらしい。

 

 

「…チッ、ガキかよ。いったいいつからここは託児所になったんだ?」

 

「あん?あぁ最近話題の…でもよく見りゃけっこう可愛いじゃねぇか」

 

「お前こんなんがいいのか?まぁ良い、ぶつかった落とし前はキッチリと…」

 

 

座った二人の男の片割れが手を伸ばしてくる。

怖い、恐怖の感情が膨れ上がり立ち竦む。逃げる事が頭に浮かばず少女は肩を震わせ、ただじんわりと涙を浮かべた。

同時に身の危険に反応し少女の魂に絡みついた蒼い種火が鎌首をもたげる、感情を糧にした炎はやがてその紅い瞳を縁取り始めた。

ハティに男の手が近づく。炎が爆発するかというその瞬間、横から伸びてきた手がそれを止めた。

 

 

「おい」

 

「あぁ?今度は何だ…よ……?」

 

 

男の手を止めたのは勿論ハティファンクラブの会員、レベル3というその男ははちきれんばかりの身体に上裸サスペンダーという威圧的な出で立ちであり、鬼神が如く表情でハティに手を出そうとした男に殺意を向けていた。

腕を掴まれた男は怒髪天の格上に完全に委縮する。レベル3の男の脇には同じ出で立ちの男がもう一人控えており、櫛で髪を整えながら舐めるように二人を見ていた。

まぁ普通に考えて敵う訳がない、今度は涙を浮かべる番になった男にレベル3の彼は強い鼻息をと共に問いかける。

 

 

「お前も…ハティちゃんの事が好きなのか?」

 

「なっ!?いやその」

 

「丁度良かった、俺もハティちゃんの事が好きなんだわ…なぁ、ハティファンクラブの先輩として色々と教えてやるからよ、ちょっと面ァ貸してもらおうか」

 

「連れのアンタも」

 

「えっ!?いや俺関係なッ」

 

 

有無を言わさぬ筋肉量。

掴んだ腕をそのまま持ち上げた巨漢は最後にハティへにっこりとした笑みを見せると、男を担いだまま店外へ消えた。連れの男も巻き添えで連れていかれる。

ハティファンクラブの掟は堅く、構成員の中には上級冒険者すら含まれている…このようにハティの身が脅かされる時、過激派によって連れていかれた不埒者には定められた作戦規定通り粛清と洗脳処理が施されることになる。これほどのシステムが瞬く間にハティファンクラブ末端にまで監視網が徹底されたのはひとえに親衛隊隊長過激派筆頭NO.002リュー・リオンの指示のおかげだろう。いや幼子一人に本気を出し過ぎな気もするが、増えすぎた会員の統制を図るためには掟で一体感を出すことはそう悪いことでは無かった。

 

残されたハティはぽかんとしつつ、助けられたことに感謝すると驚きが勝って恐怖も薄れたのか出かかっていた炎もスッと引っ込んだ。

 

 

「おーいハティちゃん」

 

「んぉ?」

 

 

先程絵を見せた冒険者のおっさんに呼ばれハティは近づく、するっと怖い思いをしたことは忘れた。切り替えは速い。

迎えられるように集まった大人たちに近づいたハティは紙を掲げると絵を見せる、男たちの視線が集中し一様に困惑した。

 

 

「解ってるなテメェら、ハティちゃんはこれをお望みだ!」

 

「おー」

 

「命を賭して持ってこい!ハティファンクラブのファーストミッションだ、総員かかれ!」

 

 

召集した男の言葉にハティが頷き、それを確認したおっさんの号令と共に「全てはハティの為に!」と叫ぶと既に酔っている会員達は猟犬が如く勢いで店から飛び出していった。

一種の借り物競争みたいなものだろうか、ハティのお絵かきを頼りにしたレースは熾烈を極めることになる。

数分後、戻ってきた一人が椅子に座ったハティの前で荒く息をつきながら持ってきたそれを差し出した。

その手にあったのは緑色の表紙で背が茶色の本、とてもじゃないがバッタには見えない。

 

 

「はぁはぁ…これ…じゃないか?」

 

「ハティちゃん、どうだい?」

 

「んー!」

 

 

いつしか司会となって脇に立っているおっさんの問いかけに、これじゃないとハティが不機嫌気に首を振ると本を持ってきた男はがっくりと肩を落とした。

それから男たちが様々なものを持ってきた、手がかりは緑と茶色という断片的な手掛かりのみ。

 

 

「キャベツ!」

 

「んー!」

 

「茶色の鍋!」

 

「んー!」

 

「魔石!」

 

「ん?…おー?」

 

 

単純な興味で魔石を受け取ったが違う、暫くその妖しい輝きを手の中で転がした後改めて首を振ると期待に胸を膨らませていた冒険者がまた一人崩れ落ちた。

気が付けば最初に参加した男達以外もゲームに参加している、ハティファンクラブの面々は勿論の事一般の参加者もハティの絵を頼りに店外へ駆けだし、様々な物を持ってきては首を振られる。

いつしか店全ての人間を巻き込んだレクリエーションはハティを中心に今宵のメインイベントになっていた。参加者は必死になって物を探し、それ以外のものはヤジや歓声を飛ばしながら酒のツマミにしていた。

騒ぎの中、仕事中の店員さえも便乗し物を持ってき始めた。カウンターのミア母さんは起こるに怒れずただ借り物競争大会と化した店内を呆れと共に見ていた。

バックヤードからリューが出てくる、すっかりお祭りのようなどんちゃん騒ぎの店内に彼女は眉を顰めると手近にいたハティファンクラブ会員に声をかけた。

 

 

「これはいったい何が起こっている?」

 

「隊長殿!ハティちゃんが何か絵に描いたってんで今はそれを全員で当てようとしているところであります!」

 

「ふむ…報告ご苦労」

 

「ハッ!」

 

 

正規軍のような敬礼を受け取った後、リューは騒ぎの中心にいるハティとその傍に積み上げられた不正解の山を見る。その一連の流れを確認し理解すると、司会のおっさんが持った絵を遠目から確認し目を細めた。

どうやら次の回答者は魔術師の女らしい、グラマラスなボディラインの彼女はローブ下の懐から何か取り出す。

 

 

「これとかどう、エメラルド。欲しくない?」

 

「おー?」

 

「そうだなぁ、ハティちゃんがもしおねぇさんと一緒に来てくれたら――」

 

「違反者だ!」

 

「粛清しろ、再教育だ」

 

「いやぁぁ!ちょっと魔が差したんですぅぅぅッ!」

 

 

ハティを光るもので釣る行為は禁止されている、魔女風の女は泣きながら過激派の男二人によって引きずられていった。彼女はこの後ハティファンクラブ鉄の掟を暗唱できるまで正座することになる、全101項目まで。

次の回答者が来る、凛としたその人物は何かを引きずりながら静かな所作でハティの前に立った。

 

 

「次は私です」

 

「おぉ、隊長殿だ」

 

「いったい親衛隊隊長はどんなものを…」

 

 

注目の集まる中リューが差し出したのはとある猫人、確かにアーニャは茶色の毛と若草色の制服を着ており配色的にはハティのお題に沿っている。

気絶させられたその猫人は白目をむいたまま床に転がる、確かに出来はともかく似顔絵というのは可能性として高い。

全員の視線が集まる、集中したリューは自身と共にただじっとハティを見つめていた。

 

 

「……ハティちゃん、判定は?」

 

「…んー!」

 

 

ハティが首を横に振り、張り詰めていた緊張がほどけるとともに落胆の声が上がる。

何の意味も無く気絶させられた猫人が撤去され、外したリューは潔く結果を受け入れると再び絵を見つめ何が該当するかを考え始めた。

 

 

「しっかし当たらねぇなぁ」

 

「うーん結構数は揃ってきたんだがな…」

 

 

それから何人もチャレンジするが当たらない。緑と茶色が揃ったものなんてそうないし成果を得られず帰ってくる回答者も増えてきた。

万事休すか、そろそろお開きが見えてくる。結局絵の内容は解らないまま、ハティも残念そうな顔で自分の絵を見下ろしていた。

そんな倦怠感の流れ始めた頃、店のドアがカランコロンと鳴って開いた。

 

 

「んー…今日も頑張った」

 

「ぱー!」

 

「おーハティ」

 

 

肩を回しながらリョナが店に入ってくる、全体的に黒い青年はやっとダンジョンから帰ってきたらしい。

椅子から飛び降りたハティがリョナに駆け寄る、柔らかい微笑みを浮かべたリョナは慣れた動きで腰を落とすと少女の身体を抱き上げゆする。

羨望の視線が集まる、ハティを抱いたリョナはふと視線をあげ集まった人間たちと山のように積まれた緑と茶色という普段とかけ離れた光景を見ると眉を顰め、少し考えた。

 

 

「…遊んでもらってたのか?ハティ」

 

「ハティちゃん、ぱーにはこの絵見せなくて良いのかい?」

 

「!」

 

 

リョナの腕の中でハティがパタパタと暴れる、その小さな身体を床に降ろしてもらうと急いで司会おっさんの元まで戻り絵を受け取った。

今度はリョナから近づく、紙を持ったハティは今日一番の期待を込めて絵を掲げてみせた。

 

 

「ぱー!これー、なー?」

 

「ん、どれどれ…」

 

 

そこに描かれていたのは緑と茶色がぐっちゃになった落書き。顎に手を当てたリョナは目を細めその絵を見下ろすと、すぐにあぁと頷いた。

 

 

「バッタだな、庭で見たんだろ」

 

「「「!?」」」

 

「ぴょんぴょん跳ねて、こう…触角のある、指先くらいの」

 

「っ…ん!」

 

 

リョナが手ぶりで伝えるとハティが初めて首を縦に振る。

周囲の人間は唖然とそれを見ていた、合っていることも驚きだがあの絵から何か読み取るという発想がそもそも彼らには無かった。

 

 

「よし解って良かったな、じゃあ夜ご飯食べるか」

 

「うん!」

 

「おーい注文良いかー」

 

「はーい」

 

 

アッサリと空いた机に座り注文を始めた親子を参加者全員が見送る、呆気なく勝利をもぎ取っていった男はハティの事に関しては紛れも無く一流だった。

圧倒的なハティ力の差を見せつけられ、人々は驚愕と共に尊敬の念を抱く。

 

 

「信じらんねぇ…なんてハティ愛だ、奴は化け物か…!」

 

「名誉会長…その名は伊達じゃない…!」

 

 

そんなこんなでハティファンクラブでもリョナは一線を画す存在として畏怖の念と共に見られることになるのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 




まぁ思いついたネタです、あとはホモ要員…じゃなくてヴェルフが仲間になったと、それだけだと短すぎたんでハティファンクラブを作りました。
とはいえあくまでフレーバーなんでリョナが冒険者達に命令が出来るようになったとかではないです、ハティの安全性が増した程度ってことで。

ではでは次回!そろそろシリアスさんがアップを始めますよ~
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