このダンジョンに神殺しが居ることは間違っている。   作:みころ(鹿)

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シリアスさんの影が伸びる。
遂に物語は佳境へ、ここからが神殺しの獣としての分岐。そして作者が一週間投稿を続けれるかの分岐…クオリティ重視したいんで時間はあまり気にしないでくだち。
ではほんへ



 予兆

・・・

 

 

 

ぐらりと地面が揺れる。

思いのほか強い振動に俺は壁に手をつき耐えると、パラパラと落ちてくる砂埃が頭にかかるままにした。

 

(強いな…)

 

ダンジョン中層のとある回廊、誰もいない通路にて俺は一人地震を凌ぐ。落石に注意しつつ感覚を研ぎ澄ますと、揺れが過ぎるまで待った。

跳ねるような振動と轟音が長く続く、微かな余震の末に地震は消え去っていき完全に消え去るまではだいぶ時間がかかった。

立ち上がった俺は安全を確認すると息をつく。最近やけに地震が多い、地下であるダンジョンもそうだが地上でも一週間で何回か地面が揺れ、その度にハティなどは飛び上がるように吃驚していた。

 

 

「ふー」

 

 

何故こうも地震が多いのか。その原因までは解らないがまぁ地下にこんな巨大な空間があるのだからこれだけの頻度で地震が起きてもおかしくないのかもしれない。

ただ生き埋めになると困る、あと落ちた食器が一枚割れた、ハティが怖がる等々色々と問題があるので正直やめてほしい…思ってどうにかなる問題でもないが。

ともかく注意しておくにこしたことは無い、戦闘中に揺れないことを願うばかりだ。

 

 

「スー…」

 

 

無駄な戦闘を避けるため、俺は匂いでモンスターが近づいていないか確認する。獣臭はしない、どうやら近くにモンスターはいないようだ。

数日前、ベルと話した結果遂に中層に行くことに決まった。レベルも上がり、新しい仲間も増えた今前々からの目標だった中層へ行きたいとベルが言い出すのはまぁ必然ではあった。

何より中層経験者である俺とリリの存在が大きい、一人で中層に行っている俺が引率すれば比較的楽に探検できるし、知識面でリリがカバーしてくれればかなり安全に進行できるはずだ。

 

今日の目的はルートの確認、明日は早速中層に行く手筈になっている。とりあえず中層の雰囲気を確かめるだけではあるが数階層は降りてみようという話になった。

とはいえいつも通り連携すれば余裕だろう、モンスターの種類が変わるとはいえ実力自体は足りているはずだった。

 

 

「ここあたりか…」

 

 

来られるかは解らないが十六階層のとある地点に俺は目星をつける、今までの経路は比較的解りやすい道を選んできたし迷うことも無いだろう。

広く高低差のあるT字路、敵の見当たらない鍾乳洞の通路で俺は背を逸らし腕を伸ばした。

 

――おいで。

 

振り返ると蒼い髪が軽やかに通路の曲がり角へ消えていくのが見えた、一瞬にして心臓が早鐘を打ち始めるのを感じながら俺は通路を走り抜けると曲がり角を可能な限り早く覗き込む。

そこには誰もいなかった、微かに見えた蒼い残滓は幻のように消えていた。

 

 

「…」

 

 

ざらつくような不安が押し寄せる、確かに自分に対して向けられた言葉は聞き覚えのある声だった。

強く波打つ心臓が収まるのを待つ、幻覚は余りに美しく脳裏に瞬いた。これもまた深度の影響だろうか、カウントの弊害は何かの予兆のように訪れる。

神殺しの獣、女神を殺したあの日からもう戻れないと知っていた。俺の力は止まらない、いつかはあの黒龍のような孤独な化け物へと変化する。

 

それでも今を享受するために俺は不安を押し殺す。

深く息をつき振り返ると、いつも通りの日常へ帰るために足を向けたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

風呂場の中で穏やかに息をつく、膝の上で遊ぶ少女の水音が反射した。

長い銀髪が浮いている、毛先が当たるくすぐったい感覚にももう慣れた。

 

 

「~♪」

 

 

ハティがたどたどしく鼻歌を歌う、最初はどんな歌なのか解らなかったが何度も聞いているうちに俺の鼻歌を真似しているのだと気が付いた。

パシャパシャと水面を叩く少女の後姿を微笑み見ながら俺はくつろぐ、刺激の無いただの幸せを感じて息をついた。

 

ふと手を伸ばす、少女の隣から腕を伸ばすと先程まで遊んでいた辺りで指を組み合わせた。

ハティが見ている前で俺は水鉄砲を飛ばす、びゅっと鋭く放射されたお湯がアーチを描き壁にまで届くと撥ねた。

ただ水を叩いたりすくってたりしていたハティには革新的な出来事だっただろう、後姿から解るほど驚いたハティは興味津々といった様子で俺の手をぺたぺたと触ると見よう見真似で水鉄砲を作る。

とはいえ少女は自分の手に圧力を加えて水を放とうとするが、僅かな水がちょろっと零れただけだった。

 

 

「…?」

 

「…」

 

 

まぁ子供の手だとちょっと難しいかもしれない。

俺はハティの身体を持ち上げるとこちら側に向き座らせ直す、手元を見下ろし試行錯誤しているハティの手を取ると正しい形に直した。

もう一回と促すと今度は水が先ほどよりかは勢いよく出た、ぱっと表情を輝かせた少女は何度も水鉄砲を放った。

いたずら心が湧いて出る、今一度水鉄砲を作った俺は勢いを緩めて今度はハティの胸に水をかけた。

吃驚した少女は痛みが無いことに気が付くと俺を見る、次に自分の小さな水鉄砲を見下ろしどういう遊びなのか理解したのか今度は俺の胸に水をかけてきた。

それからは水鉄砲合戦だった。ハティがのぼせる寸前まで続いた遊びの中で俺は終始笑っていた気がする、少女との楽しい時間は何よりも幸せで瞬く間に過ぎていった。

 

 

 

・・・

 

 

 

悪夢。

水圧に抱かれた俺の身体は黒龍に見つめられながらゆっくりと沈む。あれから何度か意思疎通を図ろうとしたがそもそもこの液体の中では声を出す事すら叶わず、ただ苦しくなるばかりだった。

前足で粘性の液体を掻く、全身の体毛が乱れてクラゲのように揺れる。

黒龍の掌の中、もがきながら俺は気泡を吐き出した。今日もいつも通り終わるのだろうか、薄くなっていく意識は酸欠に喘いだ。

 

 

『…マダ』

 

 

その時だった、巨龍が一つ身動ぎした。

掌の中に生まれた強すぎる対流に引き千切られそうになりながら俺は黒龍の瞳を見る、その何を見ているか解らなかった瞳にはいつのまにか真剣さが籠っている。

苦しげに言葉を紡ぐ黒龍に余裕は感じられない、俺と同じようにもがき黒龍は海溝のような口を動かすと轟くような声を出した。

視界が暗転する、ただ爆音のような声が脳裏に焼き付いた。その痛みに満ちた声は確かに俺への想いが乗せられていた。

 

 

『マダ、マニアウ…ダンジョン二、イクナ』

 

 

 

 

・・・

 

 

 

「じゃあ行ってくるな」

 

「おー」

 

 

豊穣の女主人、笑顔で手を振りハティに別れを告げると歩き出す。今日も空は晴れていた、まだ微かに暑さの残る夏空を見上げて俺は一人街道を抜ける。

やがていつもの噴水広場が見えてきた。その傍では既にベルとリリが待っており、何故かいるヘスティア様も交えて談笑しているようだった。

近づくとベルがこちらに気が付く、俺は軽く手をあげてそれに反応すると合流した。

 

まだヴェルフは来ていないらしい、装備を確認しつつ俺は何故ヘスティア様がいるのかを真っ先に尋ねると初めて中層に行くからその見送りだと返された。

子供の見送りは親の務めらしい、そういって笑う彼女は心配していることをおくびにも出さない…何とも彼女らしい気の使い方だ。

 

コンデションや道順についてベルとリリの三人で相談しているとやがてヴェルフがやって来る。慌てた様子の鍛冶師はその手に大きな風呂敷を持っており、到着しまずは遅れたことを詫びると早速風呂敷を広げた。

他全員の視線が集まる中、風呂敷の中に入っていたのは赤い外套、「サラマンダーコート」というこの装備は使用者の火炎耐性をあげてくれるらしい。

ヘファイストスファミリアのコネで安価で手に入れてきたと語るヴェルフはどこか得意げだ、俺のサイズに合うものが無くて探しているうちに遅れてしまったらしい。

 

手渡されたサラマンダーコートにそでを通す、いつも着ているコートの上に着るとかなり暑いが地下に潜れば関係ない。

見た目はともかく着心地を確かめた俺は肩が回せることを確かめる、見れば他の三人も同じようにサラマンダーコートを慣らしていた。

 

 

「行ってらっしゃい!頑張ってね!」

 

 

ヘスティアの見送りに応え俺達はダンジョンへ歩き出す。

装備は万全、下見を終えた俺は慎重に、隣を歩く少年はまだ見ぬ階層への期待と緊張で瞳を燃やしていた。

微かな余震が足の下で起きる、それに気がつかないフリをして俺はベル達と共にダンジョン内へ入ったのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

霧を割るような踏み込みと共に直剣を振り下ろす、重さを乗せた刃がモンスターの身体を切り裂き黒く蒸発させた。

残りの敵は少ない、一瞬だけ息をついた俺は再び動き出すと直剣を振るう。

瞬く間にモンスター達は殲滅されていった、やがて最後の一匹をベルが仕留めると全員が緊張を解き肩を撫でおろした。

 

中層直前。12階層での戦闘、もうここらのモンスターでは相手にならない。

ここまで戦闘を幾つかこなしてきたが全て数分程度で終わらせている、消耗も僅かで済んだ。

とはいえ魔石は回収していない、時間がかかるというのもそうだが初めての中層に向けてなるべく荷物は増やさない事に決めた…精々余裕があれば帰り道に拾っていく程度だろう。

 

 

「よし、行こう」

 

 

次の階層に向けてダンジョン内を歩く、俺を先頭に四人で中層に向かう道中は平坦なものではなかった。

濃い霧の中では匂いでの索敵にも限度がある。とはいえ気が付いた範囲で俺は他三人に指示を出しモンスターを迂回しながら霧の中を進んだ。

やがて浮き上がるように白霧から岩壁が現れる。黒い岩の集合体のような壁には下の階層へと続く巨大な穴が口開いており、四人の事を待ち構えていた。

振り返った俺はベルを見る、辿り着いた中層への入り口を少年はジッと見つめたまま固まっていた。

 

 

「…ここから先が中層だ、心の準備は良いか?」

 

「っ!…はい!」

 

 

緊張した様子のベルが頷く、笑みで返した俺は軽く肩を竦めた。

既にサラマンダーコートを全員が着ている、コンデションも良い。準備を終えた俺達は中層に足を踏み入れたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

高低差の多い鍾乳洞の洞窟、水っぽい匂いが充満する中層を歩く。

緩やかに続くアーチから下を覗き込むと、角の生えた兎型モンスターが闊歩しているのが見えた。

 

 

「いやぁ今日はベルが多いな」

 

「そうですね、ベル様が…三匹も!」

 

「…」

 

 

初めての中層探索はアルミラージを前に冗談を言えるくらいには余裕だった。

今までミノタウロスが二回、ヘルハウンドが一回出てきたがどちらも危なげなく倒せている。少なくとも戦闘においての不安は消え去ったと言っていい、気を抜いているわけではないが当初感じた嫌な予感は徐々に薄らいでいた。

 

探索は順調である、足を止めた俺達は言ってしまえば観光気分で下のアルミラージが跳ねているのを高い位置から見下ろす。

角が生えていることと武器を持って襲ってくることを除けば普通の白兎と変わらないアルミラージは中層でも比較的安全なモンスターであり、その小動物っぽさは色合い的にもベルと似ていた。

 

 

「…そんな似てます?」

 

「倒すのを躊躇うくらいには」

 

「あー解ります、ちょっと罪悪感ありますよね」

 

「えぇー…」

 

 

ベルを揶揄して談笑しながら中層内を進む。

霧の濃かった12階層とは違い本格的な洞窟なような中層には横穴やルームが多く、全体的に湿った空気が漂っている。地割れを飛び越え、高い段差で不機嫌なリリを引っ張り上げ、幾つも連なった水たまりの隣を抜けるとまた横穴に入った。

 

コケの生えた通路を歩いている途中モンスターの匂いに気が付く、前後を挟まれたこの狭い通路では迂回することも出来ないだろう。

首だけ振り返った俺は合図を出す、匂いでの索敵を詳しく伝えているわけではないが今のところ誤魔化せているだろうか。

 

 

「敵だ、前と後ろで挟み込まれてる。俺が前で足止めするから後ろのは三人で頼んだ」

 

「それだとリョナさんの負担が大きくないですか?」

 

「前の方は数が少ないから大丈夫だ、来るぞ!」

 

 

直剣を引き抜き通路の前方へ向き直る、雄叫びをあげたミノタウロスがその膨れ上がった肉体で突っ込んできているところだった。

突進に合わせ地面が揺れる、直剣を構えた俺はあくまで落ち着き息をつくと切っ先を角の先端に合わせた。

 

 

『ブモッ!?』

 

「っ…」

 

 

全身にかかる高負荷、若干後ずさったが俺はミノタウロスの突進を止める。

オッタルに比べればたいした重さじゃない、支えた直剣を切り払った俺は体勢を崩したミノタウロスの首筋を斬り落とした。

既に後方での戦闘は始まっている、前方の敵数体を見据えた俺は息をつくと気合と共に走り出した。

 

ミノタウロス二体とヘルハウンドが一匹。

火を吐くヘルハウンドを先に倒したいがその行く手をミノタウロスが塞いでいる、が狭い通路ではミノタウロスの身体が射線を切っていた。

それでも巨大な牛二体を同時に相手しなくてはならない、逃げ道の無い通路の中で俺は直剣を振るった。

 

 

「オラァッ!」

 

 

幾度かの鋳造を経て鍛えられた直剣は微かに蒼く、以前よりも遥かに鋭くなっている。

踏み込みと共に弧を描いた刃が伸ばされたミノタウロスの剛腕を切り払う、身体を掴まれるとかなり危険だ。

剣の間合いを測りながらミノタウロスの攻撃を避ける。二体のミノタウロスから放たれる攻撃は強烈かつ粗雑であり、隣をすり抜ける事の出来ない通路では普段よりも慎重さが求められた。

 

振るわれる巨拳が頬を掠める。殺意の込められた塊が勢いよくそれが通り抜けるのをちらりと見送った俺は呼気を吸い込むとともにミノタウロスの間合いの中に飛び込むと、獣臭い息を吐く牛の顔面を下からアッパーで突き上げた。

確かな感触と共に篭手の内部に仕込まれた針が喉奥を貫く。苦し気な声をあげたミノタウロスから拳を引き抜くと、ドシンと音をたてて巨体が崩れ落ちた。

 

 

「…」

 

 

残りはミノタウロスとヘルハウンド、左拳からぬめった血液が零れ落ちていく。

目を細めた俺は直剣を構え直し、流動的に間合いを取りながら化け物の様子を観察する。スペースが空いたことでノシリと前に出てきたヘルハウンドは灼熱の炎をその牙に湛えており、憎悪に染まった瞳でこちらを睨みつけながら低く唸り声をあげていた。

モンスターが連携して行動することは殆ど無いが、今の状況では敵の前衛後衛が決まってしまっている。ヘルハウンドを先に狙った方が良い、あるいは無理せずミノタウロスを削ってベル達を待つか。

 

 

『ブモォォォッ!』

 

 

そんな暇はなさそうだ。突っ込んできたミノタウロスは軽い跳躍と共に固く握りしめたアームハンマーを振り下ろしてきた。

迫る二つの拳を横に避ける、同時にその横腹を剣で斬りつけようとしたが浅く表皮を裂いただけだった。

 

 

「ッ!」

 

 

同時に火焔が飛んできた、ヘルハウンドの口から放たれた熱塊はダンジョン内で輝く。

当たれば大火傷は免れない、それに狭い通路の後方ではベル達が戦っている…ここで俺が躱せば彼らに流れる可能性がかなり高い。

直剣で受けることにした俺は覚悟を決める、炎弾といっても切れなくはないしちょっとくらい当たっても軽傷で済む。

 

飛んできた炎が剣の腹で炸裂した、瞬間飛散した火の粉が目の前で拡散した。

だが俺の身体に届いた炎はそのまま霧散する、身に着けたサラマンダーコートが俺を火から守ってくれていた。

痛みが無いことの処理を後回しにした俺はミノタウロスに直剣を振り下ろす。今度こそ致命傷を与えると暴れ牛の息の根を止め、そのままヘルハウンドに向かって一歩を踏み出した。牙を剥いたヘルハウンドは火が効かないと悟ったのか飛びかかってくる、攻撃を読みあった互いに一閃を交わした。

リーチ差で勝つ、牙が届くより早く直剣でその身体を切り裂く。着地と共にふらりと倒れたヘルハウンドはそのまま動かなくなり、息をついた俺は直剣を肩に引っ提げ一瞬だけ休む。

相手はそうでもなかったが地形が良くない、近道ではあったが帰りには使わないことにしよう。

 

 

「掃討戦です!リョナさんもこっちを手伝ってください!!」

 

 

リリに呼ばれる。

直剣を肩から降ろした俺は短い休暇を終え、振り返ると後方の戦線に加勢したのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 

「チッ…結構長引いてんな、おいベル体力はまだ持つよな?」

 

「ふー、まだまだいけます!」

 

 

 

巨大なルーム、見上げる程高い空洞内は段差と横穴が多く存在している。

周囲を囲んだモンスターの群れの数は多い。上段からはヘルハウンドが炎球でスナイプしてきており、周囲には溢れんばかりのアルミラージが押し寄せる勢いで襲ってきていた。

アルミラージは大した相手ではない。ただその呆れるくらい多い数と地形を利用した上からの炎によって徹底防戦を強いられることになり、五分以上も膠着状態が続いていた。

 

 

「あぶねぇ!」

 

「っ…すいません!」

 

 

リリに迫っていた炎を直剣で切り落とす、すんでのところで小爆発を起こした火球は火花を散らしながら霧散した。

感謝する余裕も無く戦闘に戻る、互いのフォローをしている暇もないほど俺達は囲まれている。

 

呆れるほど数が多い、モンスターの群れ。

彼女にはクロスボウで頭上のヘルハウンドを狙ってもらっているが今のところ効果は出ていない、射角の厳しさからリリはボルトを外す度に悪態をついていた。

突破するにも先にヘルハウンドを倒さないと背中を狙われる、サラマンダーコートを着ているとはいえ直撃すればただではすまないだろう。

 

(…)

 

状況は良くない、高所に陣取ったヘルハウンドを倒さなければ危険だ。

今のままではいずれ周囲を溢れんばかりに囲んだアルミラージに削り切られることは明らかだ。とはいえ防戦でアルミラージの数はかなり減ってきており、まばらに空いた空間から強引に突破すること自体は可能そうではあった。

時間が経つほど危険になる、背中合わせになったベルと俺は言葉を交わす。

 

 

「ベル!お前一か所突破出来るか!?」

 

「ッ…出来ます!」

 

「よしベルを先頭に突っ切る!カウントしたら走り出すぞ!5…4…」

 

 

最善の選択に他二人も頷き、俺は大声で数え始める。

殿は俺だ、もし火球がふってきても少なくとも三人に当たることはないはずだ。それにサラマンダーコートを着ているところに当たれば軽傷で済む。

 

 

「3…2…」

 

 

襲ってくるアルミラージの一匹を直剣で吹き飛ばし俺は息を吸い込む。

走るのはベルの正面、最も薄くなった包囲網の先には横穴が続いている。

引き離すためにはかなり走らなくてはならないだろう、サポートすることを考えれば普通以上に体力を使うはずだ。

 

 

「1……ッ!?」

 

 

知らない匂いが視界端で動く。

振り返った先で見知らぬ一団がルームの中に走り込んできていた。

薄紫の和装、黒髪の冒険者達はヘルハウンドを引き連れながらこちらに全力疾走してきており「なすりつけ」ようとしていることは明白だった。

 

(タチわりぃ…が!)

 

いわゆるパスパレード。

しかしどうせこっちも逃げるつもりだったのだ、腹は立つが逃げてしまえば擦り付けられようが関係ない。殺意を漲らせたベルは既に走り始めている、俺もそろそろ動きださなければ遅れてしまうはずだ。

 

走り出そうとしたその時、地面が揺れた。

ここ最近でも一番強い地震が身体を浮かす、驚愕を覚える間もなく俺は三人についていこうと次の一歩を踏み出した。

 

――(ゼロ)、と共に再びダンジョンが鳴動する。

 

大地の擦れる音が響き渡った。

それは自然の爆発的なエネルギーによってもたらされた破壊、巨大なルームはまるで圧縮されるかのように割れる。

全てが崩落を始めた、地割れが走り天井からは大小様々な岩塊が落ちてきた。当たれば即死しかねない石が幾つも降り注ぐ、何匹ものモンスター達がそれに巻き込まれ絶命した。

命の危機を感じながら走る、立ちこめる土煙の中俺は前三人についていこうと何とか崩れゆく地面を踏んだ。

 

 

「…っ!?」

 

 

モンスターパレードをしてきたパーティの殿に目がいった。黒髪を一つに結わいたその女子は後姿しか見えなかったが、その頭上に巨石が迫りつつあった。

見ず知らずの他人、しかもモンスターをなすりつけようとしてきた相手。だがみすみす命を見捨てられるほどの経験を積んでいない。命の重さを俺は知っていた。

 

とっさに手を伸ばす。

その女の襟首を掴み思い切り引っ張るとすぐ後を巨石が掠め、彼女のパーティとの道を断った。

必死。激しさを増していく崩落の中、俺は破滅の音を聞きながらどうすることもできずに立ち尽くす。

 

 

「リョナさん!?」

 

 

崩落していく景色の中、体勢を崩したベルと目が合う。

かなり離れてしまった彼らの元に向かうことはできない、岩に阻まれていく視界の中俺達はただ意志を交わす。

灰色に狭まっていく視界、死の落石が降り注ぐ絶体絶命の予兆、俺はベルに届くように咆哮をあげた。

 

 

「絶対に死ぬんじゃねぇぞッ!!」

 

 

生き延びればまた会える。

吼えた直後ベルとの視線が完全に遮られた、鈍い音をたてて積み上げられた巨石が地割れを深く刻み込む。

ダンジョンの床が崩れ去り深淵が口開いた。瞬く間に姿勢が保てなくなり、足場が消え去った俺の身体は際限ない浮遊を始める。

翼を持たない獣はただ落ちるしかない。強い重力を感じながら俺の視界が暗転する。高い風切り音の中気の遠くなるような落下時間の後、俺の身体はドポンと深く液体に飲み込まれ、強い衝撃と共に意識は完全に途絶えたのだった。

 

 

 

・・・

 

 

 




水鉄砲って書いたけど正式名称違う気がする、まぁとにかくハティとお風呂で遊んだってことで良いんだよグリーンだよ。あとサラマンダーコートは炎の完全耐性じゃないので消え去る描写は比喩です。
ではでは次回、これからは展開がマックス大変身やぞ
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