内容はまあ、まあね。
早朝。人っ子一人いない町外れの一角を二人の少年が足早に歩を進める。
ストレートの黒髪に、母親に似た美形の少年——うちはイタチはイタチの手を取って先を歩く癖毛の少年——うちはシスイを不思議そうな顔で見ている。
——会わせたい人がいる。
そう言われて手を引かれて来たことから、シスイが今向かっているのはその会わせたい人間である事は察しがつくが、その割にはシスイの顔はすぐれない。何かを覚悟しているような、決意しているようなそんな顔をしている。
だが聡いイタチとはいえ情報のないこの状況では、シスイが何を覚悟しているのかまでは分からない。
ただ、シスイの後を歩くことしか出来ない。それが少し歯痒かった。
一方のシスイは、そんなイタチの心情を察して、それでも何も言えずにいた。
イタチは知らないが、シスイには与えられた使命がある。それはウタカタを誘い出す事。
うちはである事が直ぐにバレることは明白、ならば少しでも警戒を軽くするために子供であるシスイやイタチを使って誘い出す。加えてイタチに何も知らせないことで、少しでも油断させる。合理的である。
だが、それでも誘いに乗るかどうかは五分五分。万一の場合誘いに乗らないことも考えて、腕利きの中でも特に力のあるものがシスイたちの周囲に配置されている。
名目上はそうであるが、聡いシスイは気づいている。彼らの仕事には同情故にうちはを裏切った場合即座にシスイたちを殺すことも含まれているのだと。
だからこそ、下手な事は言えないし出来ない。少なくとも今は。
それに、シスイにはまた別の任務が与えられている。それこそが、現在シスイを苦しめる要因でもあるが。
「ココか」
そこは、言うなれば廃墟に近い。聞いた話によれば、火影からはもっと質の良い宿が与えられたらしいが、人の多いところが苦手故か丁重に断ったらしい。
いや、マダラ撃退の功績を讃えられ里から多大なる褒美を与えられた際も、そんなものには興味はないとでもいうように断ったと聞くことから、ウタカタという忍は謙虚な性格をしていると考える方が自然か。
どちらでも良い。沸き立つ好感を切って捨てシスイは首を振る。
今から自分たちの行うのはただのエゴ。無駄に好意を持っても苦しいだけだと。
一つ息を吐き、呼吸を整えてチャイムを鳴らす。シスイ達の来訪には既に気付いていたのだろう、特に慌てる様子もなく近づいて来ているのが気配でわかる。
そして扉が開かれる。
顔を出したのはシスイと同じか少し高いくらいの身長の少年。年の功はシスイと同じだと聞くが、対峙してみて、言葉に出来ない何かを二人は感じていた。
同時にシスイは悟る、勝てないと。
どう足掻いても、どれだけの戦力を揃えても勝つビジョンがまるで見えない。
圧倒的すぎる。先代火影、猿飛ヒルゼンにすら感じたことのない威圧感にシスイは堪らず後ずさりそうになるが、イタチの手の温もりを思い出し辛うじて堪える。血こそ繋がってはいないが、シスイはイタチの兄同然。不安に揺れる弟の前で兄としての意地を見せた。
「こんな早朝に、何か用か?」
白々しい、何もかもを知っておきながら、二人を試すかのような質問をぶつけるウタカタに苛立ちが募るが、それでもココで怒れば相手の思うツボだと耐える。
「俺はうちはシスイ、こいつは同じくうちはイタチです」
「………うちはだと?」
二人の名を聞いて遠い目をするウタカタだが、その視線の先を追ったシスイは気づいた。ウタカタが目を向けたのはうちはの先鋭たちが潜んでいる場所。つまり、もうウタカタは気づいている。
だがそれでも、敢えて気づかないフリをしてシスイは会話を続ける。道化な自分を他人事のように嘲笑って。
「俺たちに修行をつけてくれませんか?勝手なお願いだというのは百も承知ですが、俺たちもウタカタさんのように強くなりたいんです!」
イタチの手が先程よりも強くシスイの手を握る。きっと不安なんだろう。なんせイタチは何も知らない。何も聞かされていない。それでもシスイを信じて不安を隠すイタチにシスイもまた覚悟を決めた。
「俺は、忍じゃないんだが?」
よくもまあ、これほどの皮肉が出てくるものだ。
シスイの提案を軽くいなしつつ、的確に煽るウタカタに憎しみすら感じる。だが、その表情が嘘を吐いているようにも見えはしない。
(いや、俺程度に見抜けるわけもないか)
あるいはウタカタは本心でそう言っているのかも知れない。推測するなら、自分は忍を超越した神にでもなったというところか。
けどそんなことはシスイにはどうでもいい。
彼は与えられた使命を全うするだけ。全ては、大事な弟分であるイタチのために。
「それでも願いします!」
「お、お願いします」
頭を下げるシスイとイタチ。イタチに関しては何も分かってはいないだろうに、それでもシスイの意を汲み取り同じく頭を下げる。幼い自分が頭を下げれば、相手の同情を誘えるだろうと理解した上で。
「……まあいい。少しくらいなら付き合ってやる。……全部カツユさんに投げればなんとかなるだろ」
最後の方はよく聞こえなかったが、ウタカタが引き受けてくれたのだけは理解できる。
その事実に少し肩の力が抜ける。握られた手が少しだけ緩まる。知らないうちに力が篭っていたらしい。
「じゃあ、演習場まで案内しますね」
「好きにしろ」
その言葉が一体何を意味するのか。シスイにはなんとなく分かるような気がした。
★☆★☆★☆★☆
「ココが第6演習場です」
ウタカタを連れ来たのは、木の葉から最も離れた演習場。背の高い木々に囲まれた見通しの悪い演習場でもある。そして、木の葉が動いた際に出来るだけ時間が稼げるようにとフガクが提案した、決戦の地。もう既にうちは一族の者は待機している。
もっとも、そう考えているのはあくまでも極一部。少なくとも、実際に対峙したシスイには一方的に蹂躙される未来しか思い浮かばない。
「それで、何をする気だ?」
表情一つ変えることなく発せられたその一言にシスイの顔が強張る。その言葉はつまりそういうことだろう。
「うちは程度に何が出来るのか」ウタカタが言いたいのはそういうことだ。
チラリと、イタチの顔を伺う。その顔は不安でいっぱいで、けどそれでも気丈にもシスイを信頼している。
それを見て、薄く笑う。安心したように、幸せそうにシスイは笑ってみせる。
握りあった手を自然に解く。イタチの顔がまた不安揺れる。けど、敢えて見ないふりをする。
「ウタカタさん。貴方ならもう既にお気づきのことと思いますが、敢えて言わせてもらいます。我々うちは一族は貴方を、貴方の中の六尾を利用し木の葉にクーデターを仕掛けるつもりです」
シスイの言葉に、既に隠れていたうちはの忍たちに動揺が走る。シスイのこれからの行動を唯一の知るフガクを除いて。
血が滲むほどに握りこぶしを固め、俯きながらも、シスイはなおも続ける。
顔を上げられなかったのは、ウタカタと目を合わせることが怖いからか、それとも不安げなイタチを見ていられないからか、それを知るのはただシスイのみ。
「その上で、勝手な願いを聞いてください!それが叶うのならば、俺に出来ることは何でもします!殺せと命じるのなら、家族であろうと手にかけます!抉れと命じるのなら、この目を抉り貴方に差し上げます!死ねと命じるのなら、これ以上なく無残にこの命を散らせます!だから、どうか俺の手前勝手な願いを聞いてほしい!イタチを、俺の弟分を救ってやってください!」
シスイは、ウタカタのことなど微塵も信頼してはいない。だが彼が強いことだけは、理解できている。彼がその気になれば木の葉という大国すらも相手取ってしまうことだろうことも理解している。彼ならばイタチを守りきれるだろうことも理解している。
だからこそ、こうべを垂れる。それ以外に何もできない弱い自分が大嫌いだった。バカな一族が大嫌いだった。けどそれ以上にイタチが大事だった。
「最早うちは一族は憎しみでその目を曇らせ、前すらまともに見ることが出来はしない!けど、もう止められない!止まってしまえば自らの弱さを自覚してしまうから、うちははもう止まれない!けど、イタチは関係ない!こいつは何も知らない、ただの子供だ!けど「シスイ!」……イタチ」
イタチの叫びに反射的に顔を上げて、後悔した。今にも泣きそうなイタチの表情がまるで弱いシスイを責めているようで。ただただ怖かった。
「ねえシスイ?何の話をしているの?何でそんな悲しそうな顔をしているの?ねえどうして?」
「………イタチ」
シスイはバカではない。こんな願いが叶うわけないことはこの任務をフガクから聞いた時から分かっていた。クーデターを起こせば、晴れてうちはは一族単位で犯罪者へと成り下がる。それを庇うということは庇ったものもまた犯罪者扱いされるに決まってる。
ならば、誰がそんな馬鹿げたことを引き受けるだろうか。何のメリットもありはしないその提案に、誰が首を縦に振るというのか。それも、初対面の敵の子供なんかのために
シスイは言った、うちは一族は憎しみでその目を曇らせていると。
それはフガクからの受け売り。あの会合の後、シスイを呼び寄せたフガクが言ったセリフの一つ。
だが、そう言うフガクの目もまた狂気に満ちていたことにシスイは気付いていた。
そしてきっと、シスイもまた気付いていないだけで狂っているのだろう。
だが、それでもイタチはまだ違う、それも分かっている。それもきっと時間の問題だ。うちはにいれば、きっとイタチも狂う。
それが分かっていて、無視することなんて出来はしない。
「イタチ……俺は」
その先が告げられることは無かった。
イタチの叫びに冷静さを取り戻したのは、何もシスイだけではない。シスイの告白に動揺していた一族の忍たちもまた、冷静さを取り戻していた。
そうして冷静さを取り戻した彼らはすぐ様行動を開始し、既にシスイを含む三人を包囲している。
その目は誰も彼も狂気に満ちていた。
ああ、狂っている。この一族はどうしようもなく狂っている。男も、女も、年寄りも、若者も。そしてシスイも。
例外がいるとすれば、今は四代目の護衛として五影会談に参加しているうちはオビトくらいだろう。
あとは、何も知らない無垢な子供。
どうしようもない自己嫌悪が、憤りが、気持ち悪さがシスイを襲う。
(せめて、イタチだけは守りたかったな)
最早シスイには何もない。イタチを守る術も、戦う力も何もない。今なお真っ直ぐにシスイを見つめるイタチの目が、まるでその弱さを見透かしているようで怖かった。
「……犀犬」
空気が変わった。
シスイの話を聞いているのかすら怪しかった少年の纏う雰囲気が大きく変わる。
だが、何も感じない。憎しみも怒りも、喜びも。ウタカタからは何も感じない。あるいは彼は一見すれば追い込まれている筈のこの状況でも、うちはを見ていないのかもしれない。
そして、そんなウタカタの雰囲気を感じ取ったうちはに緊張が走る。彼の行動一つとして見逃すまいとその目を
持ち上げられたウタカタの右手が人ならざるものへと姿を変える。赤いチャクラに彩られたその手に、感じたことのない重いチャクラが収縮され、そして
「………【
何が起こったのかは誰にも分からない。それは戦闘になれた先鋭達ですら。うちはをまとめ、万華鏡写輪眼を開眼したうちはフガクだけは辛うじてそれを目で追うことができた。だが、それだけ。反応すらさせては貰えなかった。
一つ確かなことは、ウタカタが差し出した右手の先。木々が生い茂っていた筈のそこから、生命が死に絶えたこと。
何もない。木の一本も、草の一つも、そこには無かった。文字通りその空間だけがくり抜かれていた。
「ば、化け物だ」
誰がそれを口にしたのか、あるいは皆がそう言ったのか。誰にも分からない。誰も彼もが腰を抜かし、武器を下ろし、酷いものだと失禁するものまでもいた。
狂気に染まったうちは一族は、たった一つの攻撃で戦意を奪われた。
憎しみ?狂気?確かにそれは恐ろしい。そんなものに身を捧げた人間はさぞ恐ろしいことだろう。
だがそれがどうした。人間が人間である以上どうしようもできないものがある。いや、生物が生物である以上どうにもならないものがある。
それは恐怖。
純粋な死への恐怖は、どう足掻いたところで克服できるものではない。事実、あれだけ狂っていた一族は、その目を狂気に染めていた筈の一族の目は、恐怖に塗り替えられている。
たった一撃で。たった一度の死で。プライドの高いうちは一族は戦うことをやめた。
戦いなど無い。蹂躙など無い。前を横切るアリの群れを態々踏み潰す人間などいないように。圧倒的強者は弱者と遊ぶようなこともしない。
「イタチとシスイだったか。お前らには伝えておかねばならないことがある」
最早戦う意思の無い弱者になど興味はないのか、二人の目をまっすぐ見つめてウタカタは言う。
「
その言葉に、シスイは唇を噛みしめる。全てを見透かした男の言葉がただシスイを責める
「
イタチもまたウタカタの目を真っ直ぐに見返す。彼の言葉を一語一句聞き逃すまいと、真っ直ぐに純粋に尊敬の眼差しで
「
フガクはただ目を伏せる
「
うちはの者達は虚ろな瞳で虚空を睨む
「お前達が
誰も何も言えない。重い沈黙だけが場を支配する中、ウタカタは音も立てずに姿を消した。
★☆★☆★☆
「それではここに、中立国である鉄の国頭領ミフネが決を下す。
水の国霧隠れ。二つ名霧のウタカタを世界に牙を向く凶悪犯罪者として処分する
異論はありますまいな?」
歯車は狂い出す。
シスイの告白を「うちはが襲いに来る」と言うワードでトリップしていて聞いていなかったウタカタさん。しょうがないね。
ってか感想欄www。主人公はホモじゃないですから!正常ですから!あれ?でもカツユさんに癒し感じて……正常って何だっけ?