世界はシャボン玉とともに(凍結)   作:小野芋子

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これはちょっと意見割れるかもしれませんね。
まあ気楽に暖かくご覧ください


思いとは託すもの

さっきまでの汚い部屋が嘘のように、景色は一瞬にして清潔感溢れる病室へと切り替わる。

正しくは俺が移動した。

 

「さて」

 

まずは感知。周囲に気を向けると半径10メートル以内にいるのは八人、うち一人は目の前で聖母のような笑みを浮かべ、うち二人はその聖母の傍でスヤスヤ眠っている赤ん坊なので除外。実質五人だな

 

「犀犬」

 

『はいよ』

 

右腕を犀犬に預ける。途端に青色に変色するが気持ち悪さは全くない。もう慣れた。

預けた腕から水蒸気が発生し、部屋の外へと向かっていく。因みに水蒸気の正体は睡眠ガス。吸ったら九喇嘛すら眠らせることが出来るとは犀犬談。

その話題を出した時九喇嘛が忌々しそうに舌打ちしてたから、あながち嘘じゃないのかもしれない。

 

「これで暫くは大丈夫かな?」

 

「鮮やかな手口だってばね」

 

拍手しながら笑いかけてくるクシナさんに苦笑いしか出てこない。手口って言うな。いや、間違ってないけど。

 

「話しは九喇嘛から聞いてます。全く、急に話しかけてくるかと思ったらいきなりウタカタが犯罪者にされた、なんて聞かされたからビックリしたってばね」

 

心中お察しします。俺も全く同じ意見ですよ。

一体何をどうトチ狂ったらこんな幼気な美少年を犯罪者に扱いできるんだか。もしかして全員ショタコン?流石に冗談だけど。

だから帰ってきたミナトさんをボコボコにする計画を立てるのやめてください。食事に生姜盛るとか地味な嫌がらせはマズイって。そこは生姜じゃなくてワサビでしょ。

 

おっと冗談を言ってる場合ではないな。外を見る限りまだ日が沈むまでは一時間以上掛かるだろうけど、カツユさん曰くミナトさんもテレポート系の忍術を持ってるらしいからあんまり長居は出来ないんだよね。

 

「さて、それじゃ早速九喇嘛の本体を俺に移し替えます。拳を出して———え?」

 

九喇嘛が言うには、拳と拳を合わせればクシナさんの中の九喇嘛の本体を移し替えることが出来るとのこと。実際には体と体が触れ合っていればそれで良いらしいが、態々足と足を合わせる必要もないし、おでこでおでこを合わせるような少女漫画の安いイケメンかぶれみたいな事もしたくないから拳でいいかと思っていた。……のだが

 

「クシナさん?」

 

何故俺はクシナさんに抱きしめられているんだ?

もしかして浮気?いや、俺人妻に手を出すほど落ちぶれてないよ?ってかまだ体は6歳だよ?

 

「ごめんね」

 

そんな俺の考えなどまるで無視して、さらに抱きしめる力を強めるクシナさん。ちょっと背中が痛い。

 

「こんな小さな体に、いっぱい背負ってるのね」

 

あの、ほんと痛いんで力抜いてもらえます?さっきから滅茶苦茶痛いんです。主に心が。

 

「背負わせてごめんね。何も出来なくてごめんね」

 

ポタポタとすぐ横を雨粒が通り過ぎる。雨だね、まったく水漏れなんて本当にここ病院?お陰で俺のほおも濡れてんだけど。

 

「きっとこれから先も、もっと辛いことがあると思う」

 

でしょうね。だって俺犯罪者認定されてるし。あれ?だとしたらこの状況不味くない?これ見られたらクシナさんの立場も危うくなるよね。あっ、さっき外の奴らは俺が眠らせたんだっけ?

 

「君は優しいから、きっともっと背負うと思うの」

 

頑張って力入れてるけど全然抜け出せない、クシナさん力強すぎでしょ。いや、俺が力抜いてるわけじゃないから。そりゃクシナさん出産してそれほど時間も経ってない状態だから全力で抜け出そうとしてるわけじゃないけど。

 

「世界が君を敵だと思っても、君はそれでも世界を救っちゃうと思う」

 

別に俺そこまで善人じゃないから。そりゃマダラは倒すよ?俺をこんな目に合わせておいてフルフルニィするなんてマジ許せないし。あれ、それって結果的に世界救ったことになるのか?

 

「だからこれだけは言わせて」

 

そこで切って、俺の頰を掴んで強引に目を合わせるクシナさん。その澄んだ青い瞳に(ウタカタ)が映る。

 

「私たち家族を救ってくれてありがとう」

 

何も言えなかった。言葉が出なかったとかでは無く、本当にその一瞬だけはどうすれば喋れるのかも忘れてしまっていた。

ただ、妙に胸がポカポカする。

 

『ウタカタ、終わったぞ』

 

「……分かった」

 

名残惜しいけど、今度はちゃんと抜け出す。クシナさんの目は少し腫れていて、唇に血が滲んでいた。何も出来ないことが悔しいからって、血が滲むくらい噛み締めることは無いと思うですけどね。

それに、クシナさんが死なないように一部チャクラを残したとはいえ九喇嘛という存在が抜けた代償ゆえか、クシナさんの様子はどこか弱々しい。それが見ていて辛かった。

 

「ウタカタくん、お願いしたい事があるんだけど聞いてくれる?」

 

そう言って左右に視線を送るクシナさん。その先には二人の赤ん坊が、って二人?あれ?双子だったっけ?

 

「えっと」

 

「こっちの生意気そうなのが私たちの息子ナルトで、こっちの優秀そうなのがサスケくん。三代目がフガクさんから預かったらしいんだけど、どうせならってナルトの側に置いてもらったの」

 

母親の顔、とでも言えばいいのかクシナさんの顔は先ほど俺に向けていた優しげな表情では無く、慈しむような表情をしている。

なんか、ちょっといいなと少し羨ましく思ったり。

 

「それでお願いっていうのはね、この二人の手を握ってあげて欲しいの。木の葉を救った英雄として、二人の憧れのヒーローとして」

 

木の葉を救ったっていうのはちょっと分からないけど、赤ん坊の手を握るくらいなら吝かでは無い。

これからの未来を切り開く少年達に、パワーくらい与えてやろう。

そうして二人の手を握り。

 

 

 

 

「え?」

 

気付けばまた訳の分からない空間にいた。もう慣れっことはいえいきなりは心臓に悪いからやめてくれませんかね?

取り敢えず現状確認のために周囲の確認。

 

ん?

 

もう一度周囲を、今度は注意深く見回す。

俺の後ろには九喇嘛がいる。だが、逆を言えば九喇嘛しかいない。何処を見ても犀犬がいない。カツユさんもいない

 

「九喇嘛!犀犬や、カツユさんが…………九喇嘛?」

 

返事がないただの屍のようだ。じゃないな、なぜだが前を見たまま固まってしまっている九喇嘛には俺の声は届いていないらしい。

 

もう一回叫ぶか

 

『元気がいいな、少年』

 

へ?

 

声を掛けてきたのはなんて言えばいいのか、ちょっと古い、それこそ弥生時代辺りの人が来てそうな白い装束を身に纏った元気そうな好青年。

笑顔が非常に眩しい。

そして、その背後にはその好青年と似たような服装の美形の青年。目の周囲の隈取りと、巴を描いた瞳が特徴的だ。

イケメンは爆ぜろ。

 

『……アシュラなのか?』

 

『おう、久しぶりだな九喇嘛』

 

九喇嘛とその、アシュラ?は知り合いなのか九喇嘛は珍しく躊躇いがちに、アシュラさんは楽しそうに言葉を交わす。なんか、この笑顔和むな

 

『アシュラ、無駄話はいい、さっさと本題に入るぞ』

 

『そう言うなよインドラ。久々の再会なんだからさ』

 

『チッ』

 

なにこれ気まずい。だってアレでしょ?九喇嘛はこの二人を知ってるんでしょ?そんでもってこの二人も九喇嘛を知っていて、あれ?俺ボッチ?

なに?俺を孤立させるためだけにこの空間に連れてきたの?嫌がらせの度が過ぎるだろそれは。

ってかインドラ?さんとアシュラさんは仲悪いんですね。

 

『まあ時間がないのも事実だし本題に入るか』

 

これ俺帰っていい?ってか出口何処?教えてくれたら俺一人で帰れるよ?

 

『ウタカタ、お前には伝えておかなければならないことがある』

 

あっ、俺に用があったんですかそうですか。だったらあんまり置いてけぼりにしないでくれますかね?俺寂しくて死んじゃうよ?

いや真剣に聞こう。どうやら真面目な話みたいだ。

 

『マダラの言う【月の眼計画】これには裏がある。そうだよなインドラ?』

 

『ああ、今思い出しても忌々しいがな』

 

苦虫を噛み潰したかのような顔で舌打ち混じりに言うインドラさん。正直怖いんで帰って貰っていいですか?無理?そっすか

 

『上手く乗せられた俺が言うのも何だが、この計画には裏で操っているものがいる。名前は知らないし、素性も不明だがな』

 

それって何もわかってないってことじゃ、ごめんなさいごめんなさい冗談だから睨まないで!!

 

『兎に角、マダラの言う計画には別の目的がある。恐らくマダラ自身もただの傀儡でしかない』

 

「え?マダラが傀儡!?」

 

何それ趣味わっる。あんな傀儡を家に置くとかそんなのただのホモじゃないか。

 

『ああそうだ。それを止められるのはお前しかいない。だからわざわざこうして頼みにきたんだ』

 

どう見ても人にものを頼む態度じゃ無いんですがそれは。

 

一方の二人はなんかバレたらジジイがどうのこうのと頭を抱えながら愚痴っている。ジジイって誰だよ。

九喇嘛は九喇嘛で何故か感慨に耽ってる様子だし、俺まじボッチ。どないすれば宜しいんですか。

 

『取り敢えずウタカタ、こっちに来い』

 

アシュラさんは笑顔で、インドラさんはぶっきらぼうにこっちに来いと手招きする。行きたくない。けど九喇嘛は行けって言うし。チクショウ行けばいいんだろ行けば。

 

「なんのよう———-またこれか」

 

今日は厄日か何かなのか、妙に子供扱いされる。今もアシュラさんは手慣れているのかわしゃわしゃと遠慮なく俺の頭を撫でてくる。インドラさんは恐る恐るといった感じで慎重にだが。

不思議と撫でられた頭からパワーのようなものが溢れてくるものだから払いのけることも憚られて、結局俺は為すがままに撫でられていた。

 

ある程度して満足したのか、二人は笑って——若干一名は笑い慣れていないのかちょっと不格好だったけど——『世界を頼む』なんて俺の身に余ることをほざいて消えていった。『見守ってる』とも言ってたから本当に消えたのかは定かではないが。

 

「何だったんだ?」

 

『さあな。お前が認められたということだろ』

 

「さいですか」

 

 

 

 

 

 

 

「ウタカタ?」

 

心配そうにこちらを見るクシナさん。

周囲を見渡すとそこはつい先程まで俺がいた病室。

 

帰ってきたみたいだな。

 

何気なく頭に触れてみる。不思議と、言葉にできない暖かさのようなものを感じた。

 

今日はよく子供扱いされる。今日はよく託される。

 

目の前で不思議そうに首を傾げるクシナさんも、さっき出会ったアシュラさんもインドラさんも。俺に世界を救ってくれと言う。

無責任だと斬って捨てるのは簡単だ、けどそれは子供のすることじゃない。託されたんなら叶える。出来ないならまた別のやつに託せばいい。

 

「ウタカタ様、もうじき五影が到着します。準備を」

 

「……分かった」

 

どこか自分自身フワフワしていたのは分かっていた。マダラを倒すとか世界が敵に回るとか、規模が大きすぎてあまり分かっていなかった。

いや、考えないようにしていた。俺にとってそんなことは二の次で、一番は犀犬達との日常を壊されたくなかった。

 

だから戦おうとした。

 

けど、それじゃダメなんだと気付かされた。知ってしまった。俺が犯罪者になったと聞いても抱きしめてくれたクシナさんの温かみを。アシュラさんのインドラさんの手の温かみを。

 

クシナさんもアシュラさんもインドラさんも俺を子供扱いした。それはそうだ、俺は子供なんだから。

 

ああ、子供だった。敵に回るなら潰す?子供だ。友達を馬鹿にされたから怒る?それはどうだろう、大人でも怒るよな。世界全部敵に回す?子供だ。

そんなことして何になる。何の意味がある。

向こうがクズならこっちもクズな対応をするのか?何だそれは。丸っきり子供じゃないか。

 

殺される気はない。話し合いができるとも思ってない。けど、諦めるつもりもない。

 

向こうがガキならこっちが大人になればいい。話し合いが通じないなら丁寧に言葉を教えてやればいい。それでダメなら、その時はその時だ。

 

「行こう、カツユさん」

 

死ぬ気はない。殺される気はない。俺は……

 




大人だな。マダラの思い通りになんてさせるわけないよね?流石は主人公。

ただし和解ルートに入るとは言ってない

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