嘘じゃないよ!
「それじゃあまた頼みますねアーラシュさん」
「…ああ」
マスターであるくだ子から概念礼装カレイドスコープを渡される。
また一日の始まりである憂鬱な種火周回が始まるのだ。
「よう、アーラシュか?」
「ん?」
振り向くと後ろに職場の同僚である孔明さんが立っていた。
「あ、孔明さんじゃないか。どうしたんだ、そんなにすまなさそうな顔をして」
孔明さんは苦い顔をしていた。一体どうしたのだろう?
「いや、なんていうか。いつも…本当にすまない」
どうやら”いつもの”仕事に対しての謝罪らしい。
”いつもの”ことなのに毎度毎度本当に律儀な人だ。
「何言ってんだよ。これも仕事だよ仕事。気にすんなって」
「いや、しかし…」
「孔明さんも過労死寸前まで頑張ってるじゃないか。俺なんて一瞬だけなんだから全然大した事無いさ」
そう言ってアーラシュは去っていく。これから死ににいくとは思えない気楽な後姿、それはまごうことなき英雄の背中だった。
しかし目の下には隈が出来ており、彼の部屋には常に道具作成で作られた特注の精神薬があるのを孔明は知っている。
「すまない…」
はたから見て無理をしているのは明らかだった。それでも笑顔なのは英雄としての誇りか、あるいは幾千の死に磨耗してもう――
「すまないアーラシュ…ッ!私は最低の屑男だッ!!」
その後も彼は何度も心の中ですまないとアーラシュに謝罪しつづけた。
「それじゃあアーラシュさんお願いしますね」
種火周回が始まる。
孔明はこれから起きる残虐無道の行いを見ていることしか出来ない。
「いいだろう…!」
アーラシュは事も無げに言う。だが内心は震えているのを孔明は知っている。
なぜ己のマスターは自分のサーヴァントが無理をしているのを気づかないのか。
彼はもう限界なのだ。ああ、もしこんな人間に救われるというのなら世界なんて本当に――
「――くだらん」
軍師の指揮、続けて軍師の忠言を発動する。
何百、何千と繰り返されたルーチンワークだが孔明は未だにこの行為がなれない。
これからやる無道な行いに心が軋む。
――私はこの行為を止めるべきではないのだろうか?
この疑問を何度抱いただろう。
だがマスターの命令は絶対服従である。
ガルデアの召還式には絶対に逆らえないように出来ているのだ。
「流星を見せてやるぜ――」
(止めろ!)
孔明はそう叫びたかった。
これ以上心を擦り潰す必要はない。
お前はもうとっくに限界なんだと伝えたい。
今直ぐにでもこんな戦前の日本の様な特攻行為はやめてくれとマスターに言ってしまいたかった。
「『流星一条』ッツ!!」
一筋の星が瞬く。
木っ端微塵に爆発四散する釈明の手。
敵の残骸すら残さないその威力は相変わらず凄まじい。
しかし代償は大きかった。
「お前は間違っちゃいない…」
アーラシュが粒子となって消える。
弱弱しくつぶやいた言葉にぐだ子は――
「――当たり前じゃん、わたし間違ってないし。演出長いんだよ早く消えて」
彼の体に手を突っ込み消滅を促す。
これをすることにより演出を早く消すことができるのだ。
「すまない」
また彼が死んだ。
私はいつも見ていることしか出来ない。
なんなんだ私は…。
大切な仲間が惨たらしく死ぬのを見殺しにするこんな塵屑が本当に英雄なのか?
私は胸を張って我が王に自分はあなたに相応しい臣下だと言えるのか?
「犠牲が少なければ、それでも勝利だ」
孔明は震える声で自分を誤魔化すように言い聞かせる。
犠牲が少ない? 自分の欺瞞に呆れる。
誰かを犠牲にしてなにが勝利なのだ。
本当の勝利とは一人も犠牲にすることなく、全てを救うことではないのか?
「悩むな。考えすぎると壊れるぞ」
エミヤが孔明を見かねて忠告する。
最初期にガルデアに来た彼は知っている。
まだ戦闘に出られているアーラシュは幸せなのだと言うことを。
マナプリ交換されないだけマシなのだ…たぶん、きっとそのはずだ。
「そうだな、気を使わせてすまない…」
「なに気にするな。生前はよく戦場に出ていてな、PTSDに陥いりそうな兵士のメンタルケアも得意だった」
「そうか…お前も苦労していたのだな」
一回目の種火周回が終わる。
そしてこれからも地獄は続くのだ。
なぜなら彼らは地獄の歯車、それも世界を救うための主要歯車なのだから。
「なに職場で喋ってるんですか?ちんたらしてないでよ時間ないんだから。それじゃあ二回目いきますよー」
地獄は続く――これからも彼らが世界を救うまで。