彼女は引き金を愛しすぎている   作:龍流

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厨二ボーダーの更新が遅れているので、代わりの短編を引っ張りだしてきました。以前一人称の練習で書いた女オリ主モノです。結構前に書いたものなので、文章の拙さは千佳を見守るレイジさんみたいな感じで大目にみてください。


「銃を抜いたからには命を賭けろよ」って一度は言ってみたいけど、命を賭けずに銃が撃てるのは最高だと思う

 さて。まずは質問をさせてほしい。

 

 『女の子が好きなもの』といえば、あなたは何を思い浮かべるだろうか?

 アクセサリーや指輪?

 かわいらしいお洋服やお花?

 愛らしい子猫や子犬? 

 それとも、甘くておいしいお菓子? 

 

 人によって、答えは異なると思う。しかし『女の子』という生き物を個人ではなく全体のイメージとして捉えた場合、多くの人は『小さく』て『かわいい』……どこか『ふわふわ』したものを想像するはずだ。

 ではでは、わたしが好きなものは何か? いくつかヒントを出していくので、予想して貰いたい。ひとつ捕捉しておくと、わたしはかわいい18歳の女の子。ピチピチの現役女子高生であることを考慮してほしい。ヒントは四つ。

 

 第一に、それは無機物である。

 第二に、それは中身がなければ使えないものだ。

 第三に、それは大きな音を出す。

 そして第四に、それは人を殺すための道具である。

 

 ここまで言えば、もうお分かりだろう。

 

 わたしは、銃が好きだ。

 

 がっしりと重いグリップ。鈍く光る銃身。小さくてかわいい弾丸。銃口から吹き出す光と、硝煙のフレグランス。それら全てを心から愛している。

 こんなことを口に出して言った場合、大抵の人はどうして女の子がそんな物騒なものを……と思うだろう。初対面の人間に「何が好きなの?」と聞かれて「銃」と答える場面を想像してほしい。間違いなくドン引きである。実際、私は中学の自己紹介でこれをやらかしてかなりひどい目にあった。しかし、好きなものは好きなのだから仕方がない。

 これは極めて勝手な持論なのだが、本当に好きなものには好きである理由は必要ないと、わたしは思う。人間は根本的に理屈っぽい生き物で、とにかく何にでも理由を求めたがるけれど、"なんとなく好き"という感情は、その人の本能に準じた純粋なもの。だからこそ、理由がなくても『好き』という気持ちは、最も尊重されるべきだ。理由がある『好き』は理由がなくなったら消えてしまうけれど、理由がない『好き』という気持ちは永遠に消えることがない。だから尊い。

 わたしは理由を語る必要がないほどに人を殺す鉄の塊が好きで、心から愛していた。言うなれば、生まれた時からひとめぼれ、ってやつ?

 ところが誠に残念なことに、わたしが生を受けた国は日本であった。スーパーマーケットで銃が購入できるアメリカならいざ知らず、日本で銃を手にしたら銃刀法違反でお巡りさんのお世話になってしまう。わたしはべつに刑務所に入りたいわけではなかったので、さすがに両親に銃をねだるようなことはしなかった。駄々もこねなかった。わたしは我慢強い女の子だったのである。

 とはいえ、我慢にも限界があった。これはもう、ハワイにでも行って銃を撃つか、もしくはサバゲーでおもちゃの銃を乱射して満足するしかないのか。生まれた国を間違えた、と嘆き悲しむわたしを、しかし神様は見捨てなかった。

 

 界境防衛機関ボーダー。ある日突然三門市に現れた、異世界からの侵略者『近界民(ネイバー)』と戦うために作られた組織である。

 最初に近界民出現、そしてボーダー登場のニュースをテレビで見た時、わたしは彼らに対してそこまで興味を持たなかった。「ふーん、なんか映画みたいですごいなー」くらいの感想しか抱かなかった。彼らが持っていた武器は日本刀を模したものであったし、そんな危なそうな街にわざわざ行くくらいなら、平和で安全な場所で銃に触れている方がマシだと思ったからだ。だがしかし。今もなお高い人気を誇るボーダーのA級隊員、嵐山准がテレビに登場するようになった頃から、わたしのボーダーに対する印象はガラリと変わることになる。

 画面の中でイケメンかつ爽やかな笑顔を浮かべる嵐山隊員は、明らかにアサルトライフルっぽい銃を持っていた。その時、わたしの全身に電撃がはしる。

 

 ――ボーダーに入れば、好きなだけ銃が撃てる。

 

 ついでにお給料も貰える。あと、一応世のため人のための活動ができる。わたしは銃を撃ててハッピー。三門市民のみなさんは近界民から守って貰ってハッピー。完璧だ、パーフェクトだ。

 

 ――そうだ。三門市に行こう。

 

 ちょうど、そんな決心を見越していたかのように、街にボーダーのスカウトがやって来た。幸いわたしには才能があったようで、そのまま三門市に引っ越し、入隊という流れに。両親は難色を示したが、そこは「みんなの力になりたいの!」と言って乗り切った。決してウソではない。銃を撃つのがメインの目的なだけである。

 まあとにかく、そんなこんなでわたしは遂に、心の奥から待ち望んだ合法的に銃を撃てる身分を得たのであった。めでたしめでたし。

 

 おっと……そういえば、大事なことを伝え忘れていた。

 わたしの名前は、音海綸(おとみいと)。銃を心から愛する、ごく普通の女子高生ボーダー隊員だ。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 さてさて。

 時が流れるのは早いもので、わたしがボーダーに所属するようになってから、はや数年。

 銃が大好きな物騒系女子高生であるわたくしは、今日も今日とて気ままに銃を乱れ撃って……いるわけではなかった。

 防衛任務のシフトを入れておけば、今頃はトリオン兵どもに風穴を空ける名目で撃ちまくれていたはずなのだが、残念ながら今日のわたしは少々面倒な用事を引き受けていたのである。

 その用事とは、後輩の育成である。

 

「はぁ……」

 

 もう何度目かもわからないわざとらしい溜め息を吐くと、目の前のメガネ男子はビクンと体を震わせた。彼の様子は、まるで借りてきたネコのようだ。いや、ニャンコの方が数百倍かわいいとは思うけど。

 

「いい? ろくろーくん」

 

 わたしは改めて、小さく縮こまっているメガネ男子にピタリと指を突きつけた。

 

「もう一度聞くけど、ろくろーくんは強くなりたいんだよね?」

「は、はい」

「…………はぁ」

 

 もう一度。深い深いため息を吐いたわたしは、そこそこ整った顔立ちのメガネ男子――若村麓郎くんのおでこに強烈なデコピンを食らわせた。

 

「おぶっ!?」

 

 クリーンヒット。ろくろーくんは体重を預けていた丸椅子ごとぶっ倒れる。

 まったく……分かってない。このクソメガネは、何も分かっていない。

 間抜け面を晒している後輩に問題のポイントを分からせるために、わたしは改めて問う。

 

「ろくろーくん。キミのポジションはなんだっけ?」

「ポ、ポジションですか……? 『銃手(ガンナー)』です」

「そう。キミは銃手なんだよ!」

 

 その事実を再認識させるために、再びビシっと指を突きつける。

 数ある武器の中から銃型トリガーをチョイスしたというだけで、わたしはこの後輩に対して深い愛情を注ぐことができる。ろくろーくんは自分の部隊の隊長であるヨーコちゃんから才能がないだのなんだのと馬鹿にされているらしいが、コツコツ努力を重ねることができるのも立派な才能だ。銃手を志す後輩達は1人残らず健全に強くなっていってほしい……というのが、わたしの切なる願いである。

 

 それなのに。

 

「『スコーピオン』と『ハウンド』を使いたいっていうのは、一体どういうことなのかな?」

 

 ブレードトリガーとシュータースタイルに浮気するつもりか、このダメガネは。ぶっ殺すぞ。

 

「い、犬飼先輩のトリガーの構成を真似てみようかと思って……」

「ん? マスタークラスの銃手のくせにスコーピオンをトリガーセットにぶち込んでいる裏切り者の構成を……真似る? あんまり笑えない冗談ばかり言っていると、お姉さん怒るよ?」

 

 おっと、ろくろーくんの顔が青ざめてしまった。落ち着け、わたし。クールダウン、クールダウン。

 まあ、確かに……昨今のボーダーにおいて『銃手(ガンナー)』というポジションが不遇職なのは、銃を愛して止まないわたしでも認めざるを得ない事実だ。防御用の汎用トリガー『シールド』の性能が向上しているせいで、銃手はランク戦で中々得点することができない。結局、威力の高いブレードトリガーを使う攻撃手が、トドメを刺すパターンが大半だ。

 

「……ていうか、最近のシールド堅すぎ。開発部仕事しろ」

「え?」

「あ、ううん。なんでもないよ?」

 

 思わず漏れてしまった心の声を、顔の前で手を振って誤魔化す。

 

「いやでもね、ろくろーくん。実際問題、犬飼がスコーピオンやハウンドを使って一定の成果をあげているのは、一応アイツがマスタークラスの銃手だからだよ? まだ銃手でマスタークラスを取れていないろくろーくんが真似しても、うまくいかないと思うけどなあ……」

「……たしかに。先輩の言う通り、銃手でマスタークラスにもなれていないオレが、ブレードやシュータースタイルに手を出すのは間違いなのかもしれません」

「うんうん、そう! そうだよ! わたしにも犬飼からろくろーくんの指導を引き受けた責任があるしさ! 大丈夫、まだ実感はないかもしれないけど、ろくろーくんは少しずつ強くなってるって!」

 

 やっと師匠の気持ちを理解してくれたらしいろくろーくんに、わたしは食い気味に頷いた。

 威力が高い『通常弾(アステロイド)』を使っても、基本的にシールドを弾丸で抜くことはできない。そのため、チーム戦での銃手の役目は、射程を活かした味方の援護と敵の牽制だ。そういう点では、ろくろーくんは既に一定のレベルに達している。お世辞でもなんでもなく、彼は立派なガンナーとして着実に堅実に成長しているのだ。

 

「だからトレーニングはわたしに任せて、一緒に最強の銃手を目指そうよ!」

 

 わたしと契約して銃手になってよ!みたいな感じで、ぐいぐいと弟子に迫る。こういうタイプの男子は総じて押しに弱い。だから、ここは多少強引にでも押していく。これ以上、貴重な『銃手(ガンナー)』人口を『万能手(オールラウンダー)』に取られるわけにはいかないのだ。

 

「……先輩」

「ん? なに?」

「先輩は、この前のオレ達のランク戦を見ましたか?」

「この前のランク戦……? あぁ、玉狛第二の新戦術にボロクソにやられた時の?」

「……はい。そうです」

 

 その対戦の記録(ログ)なら、わたしも観た。玉狛第二は現在ノリにノッている新興チームで、一度は二宮隊と影浦隊にズタボロにされたものの、新たにワイヤーと鉛弾狙撃の新戦法を引っ提げて華麗に復活。手始めにヨーコちゃんの香取隊とザッキーセンパイの柿崎隊を餌食にし、現在はB級上位に返り咲いている。これからの成長が楽しみなルーキー達だ。しかしチームの中に銃手がいないので、わたしは特に興味がない。

 

「あのラウンドで、オレはチームのために何もすることができませんでした」

「いやいや、いやいやいや。言っちゃ悪いけど、あの戦いの敗因は序盤から考えなしに突っ込んだヨーコちゃんにあるでしょ? ろくろーくんに責任はないと思うよ?」

 

 香取葉子ちゃんは実に筋が良い天才肌、才能の塊とも言えるスーパーガールである。しかし残念ながら、彼女は少々飽きっぽい性格をしている。攻撃手から銃手に転向してくれたと思ったら、「やっぱこれからは万能手よね」とか言い出して再びブレードトリガーを手にとってしまい、結局、銃手から万能手になってしまった。ヨーコちゃんに裏切られたわたしの悲しみは、マリアナ海溝よりも深く、東京スカイツリーよりも高かった。だって、ヨーコちゃんはとてもすばらしい逸材だったのだ。あのまますくすくと育ってくれていたら、今頃は蝶のように舞い、ハチのように刺す二丁拳銃使いになっていたに違いない。かわいい後輩を傷つけたくないので口に出しては言わないが、ヨーコちゃんに比べたらろくろーくんの才能はゴミクズみたいなもんである。もちろん、彼には彼のいい所がたくさんあるので、一概に比較はできないけど。

 

「ろくろーくんはよくがんばっていたと思うよ?」

「でも、オレが何もできずにやられたことは事実です。それに引き換え、ヨーコは終盤まで粘って玉狛第二のメガネを落としています」

「それは……」

「あの戦いのあと、オレとヨーコは腹を割って話しました。ヨーコもこれからは、チームのために努力を重ねて、きちんと作戦を練って……全員で力を合わせて勝てるチームになろうって、そう言ってくれました」

「……え、ホントに?」

「はい」

 

 信じられん。

 自己中心的で自信家でワガママの塊、例えるなら大学サークルの姫みたいなヨーコちゃんがそんなことを言うなんて……明日は雪が降るかもしれないし、もしかしたら太刀川さんが試験で満点を取るかもしれない。いや、やっぱり後者は天地がひっくり返ってもあり得ないだろうから、雪が降るだけだな。

 とはいえ、敗北が人を変えるというのは本当らしい。今までは挫折する前に壁から逃げていたヨーコちゃんだけど、ろくろーくんの言葉が本当なら彼女はこれからもっと強くなるだろう。先輩として嬉しい限りだ。これでスコーピオンを放り投げて万能手から銃手に戻ってきてくれたら、もう最高なのに。

 

「あのヨーコが、自分から変わるって言っているんです。だからオレも変わる必要が……いや、変わらなければいけないんです」

「……なるほどね」

 

 熱っぽく語るろくろーくんを見て、わたしは自然と頬が弛んでしまった。

 なんかいい、こういうの。なんというか、こう、青春している感が、すごいビシビシ伝わってくる。今はチームに所属していないフリーのわたしからしてみれば、ちょっと眩しいくらいだ。

 

「よし!」

 

 手を叩いて立ち上がる。

 ろくろーくんの気持ちはよく分かった。そういうことなら、わたしも一肌脱がねばなるまい。いや、一肌脱ぐって言ってもエロい意味じゃなくてね? 練習メニューを三段階くらいハードにして、某戦艦のコックも真っ青になるくらいのハードボイルドガンナーに彼を育てあ――

 

「そのために必要なのは、得点力……ヨーコに頼らず相手を倒せるような、ブレードトリガー。あとは、銃タイプとは違う射手(シューター)タイプの射撃トリガーだと思うんです」

 

 ――ん?

 

 おかしい。わたしの耳の故障だろうか?

 クソブレードトリガーとクソシュータートリガーの話はさっき終わったはずなのに、また話がメリーゴーランドみたいに一周している気がする。

 

「例えば、嵐山隊の木虎は銃手から万能手に転向してエースになってます。この前戦った柿崎隊の巴もまだ銃手ですけど、弧月で近接戦をこなしていました」

 

 ろくろーくんはいやに明るい表情で、万能手の有用性を語る。

 個人での得点力や攻撃の幅を広げるために、銃手から万能手、もしくは攻撃手から万能手に転向するというパターンはボーダー内では珍しくない。むしろ、それが多数派。

 大半の銃手達は、最終的に剣を取る。

 

 銃よりも、剣を選ぶのだ。

 

「オレは自分がヨーコみたいなエースになれるなんて、自惚れた考えは持っていません。ただ、銃手のままでは限界があるのも事実だと思うんです。だから、先輩の下で銃手としてのトレーニングを続けながら、誰か攻撃手の――」

 

 

 

「オイ」

 

 

 

 わたしは極めて柔和な笑みを浮かべたまま、ろくろーくんの口の中に『拳銃(ハンドガン)』をねじ込んだ。

 

「ふっ……ふぐっ!?」

 

 喋れなくなったろくろーくんは、どうして制服姿のわたしから拳銃が飛び出してきたのか、まるで意味が分からないと言いたげな様子で目を白黒させているが、これはわたしが単純に、制服姿のまま『トリオン体』に換装しているだけである。

 

「あー、大丈夫だよ、ろくろーくん。わたしはろくろーくんにちょっと黙ってほしかっただけで、べつに腹の中に一発ぶち込もうってわけじゃないからね」

「んっ!? んんッ!?」

「うん。オーケイオーケイ。ろくろーくんが言いたいことは本当に……ほーんとに、よく分かったよ、うん」

 

 ろくろーくんは「誤解です!喋らせてください!」みたいな顔になっている。腕を拘束しているわけじゃないんだから、普通に自分の手でわたしの拳銃をはたき落とせばいいものを、そんな考えにすら至らないらしい。いやまぁ、わたしの愛銃をはたき落とすような舐めた真似をしようとしたら、その瞬間にぶっぱなすけどね?

 幸いなことにろくろーくんはトレーニング上がり。今は隊服姿のトリオン体なので、万が一わたしの理性が引き金に負けても、何の問題もない。ただ、基地の中で緊急脱出(ベイルアウト)という、ちょっと珍しい体験をするだけだ。

 

「いい? ろくろーくん。わたしはべつに、キミがブレードトリガーを使いたいと言い出したから……シュータースタイルの戦い方をやってみたいと言い出したから、怒っているわけじゃないんだよ」

「ふぐっ……ぐ?」

 

 ろくろーくんは首を傾げた。本当にそう思っていたらしい。

 このニブチンめ。

 仕方ないので、分かりやすく言葉で言って解説してやることにする。

 

「まずわたしは、強くなりたいからといって安直に新しいトリガーやスタイルに頼ろうとしたことに、ちょっとだけイラッとした」

 

 何でもかんでも、新しいものを取り入れればいいってもんじゃない。玉狛に負けて自信をなくすのは分かるが、少しは自分が積み上げてきた時間と努力を信じてほしい。今のろくろーくんの個人ポイントは約7700。もう少しでマスタークラスに手が届くところまできているのだ。

 

「さらに言えば、ヨーコちゃんが心機一転して頑張るからオレも何かやらなきゃ!みたいなスタンスにもすこーしイラッとした」

 

 それは逆だろう。ヨーコちゃんが心機一転して頑張ろうとするなら……例えば自分を軸にした新しい戦法やトリガーを取り入れようとするなら、彼女の脇を固めるろくろーくんやゆうたくんは今まで通りの戦術や個人技をより磨くべきだ。だって、チームの全員が一気に新しいことを始めたとしても、それらがうまく噛み合うわけがない。バスケットで例えるなら、司令塔のPGが中に切り込むドライブを強化する横で、リバウンドを取るべきCが3点シュートを練習しはじめたようなものである。努力の方向性が間違っている。勘違いも甚だしい。

 こんな具合に、理屈はいくらでもこねられるし、理由はいくらでも並べ立てることができる。

 

 でも……

 

「わたしがなによりも許せないのは……キミが自分自身の弱さの言い訳に、わたしの大好きな銃を使ったことだよ」

 

 銃手では限界がある?

 銃には限界がある?

 銃だけでは勝てない?

 

 舐めているのか、コイツは。

 

 人間の歴史の中で、最も簡単簡潔に。人を殺すための道具として洗練されてきたのが銃という武器だ。

 剣は、腕を振らなければ人を殺せない。

 銃は、指先一本を動かすだけで人を殺せる。

 どちらが道具として優れているかなんて、明白だ。

 

「大好きなものをバカにされるのは、誰だっておもしろくない」

 

 後輩にそれを教える立場にあるなら、なおさらのこと。

 

「わかるね?」

 

 ここでようやく、わたしはろくろーくんの口から拳銃を引き抜いた。

 

「……な、生意気なことを言って、すいませんでした」

「ううん。わたしの方こそ、強い言葉を使ってごめんね?」

 

 それにしても……

 

「どうやらろくろーくんは、銃の根本的な強さに疑問を持っているみたいだね」

「いや、それは……」

「否定しなくていいよ。それは、キミに銃の素晴らしさを伝えることができなかったわたしの責任でもあるわけだし」

 

 なので、わたしのやることは一つだ。

 

「本日のトレーニングは中止!」

「……はい?」

「今日はろくろーくんにあらためて銃の魅力を知ってもらうために、課外授業に出かけよう!」

「あ、音海先輩……それはまさか」

 

 ピクピクと、ろくろーくんの表情筋が痙攣する。うむ、流石は我が愛弟子。どうやら、わたしの言わんとしていることを先んじて理解したらしい。

 

「目的地は個人ランク戦ブース! ろくろーくん達がズタボロにやられた玉狛第二のメンバーを、今度はわたしの銃で血祭りにあげてあげるよ!」

 

 弟子思いのこの提案に、ろくろーくんはいたく胸を打たれたらしい。わざわざトレードマークのメガネを外して、目頭を押さえはじめる始末。もう感動して泣き出す寸前だった。

 

 いやぁ……照れるなぁ、もう。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 というわけで、やってきました個人ランク戦会場。

 

「うーん。でも都合よく『空閑遊真』くんが見つかるかなぁ」

「個人戦には頻繁に顔出してるみたいなんで、いる可能性は高いと思うんすけどね」

 

 対戦ブースに溢れかえっている有象無象――失礼、有望なC級隊員達の中に、わたしは見慣れた赤い隊服を発見した。A級5位の広報部隊、嵐山隊に所属している、個人的にお気に入りの後輩の1人である。

 含み笑いを押さえながら、抜き足差し足で彼女の背後へと接近。そのまま、赤いジャージを押し上げている胸を容赦なく両手でわし掴みにした。

 

「あーいちゃん!」

「ッ……キャア!?」

 

 かわいいかわいい後輩隊員、木虎藍ちゃんは、驚きと衝撃で体を震わせた。

 

「お、おおお、音海先輩!?」

「あいちゃんひさしぶりだねー。また大きくなったんじゃない?」

 

 普段の態度からは想像できないようなかわいらしい声を上げて、あいちゃんの頬が朱に染まる。うむ、とってもいい反応だ。実に素晴らしい。

 

「は、離れてください! あなたはそんなだから、女版セクハラエリートだの、中身がオヤジの残念美人だの、好き勝手に言われるんですよ!」

「え~? 迅さんと一緒にされるのはちょっといやだなぁ」

「じゃあさっさと離れてください!」

「はいはーい」

 

 あまりやり過ぎると本当に怒られるので、大人しく離れる。それにしても、中学生でこのボリュームというのは末恐ろしい。トリオン体の時はニセ乳で盛ってるヨーコちゃんや、どう頑張ってもペッタンコなコナミンとは大違いである。ぜひとも、このまま健やかに育ってほしい。

 

「……で、今日はどうしたんですか? 個人ランク戦なら、私はお断りします」

 

 ゴホンと咳払いをして、気を取り直すあいちゃん。そういうところも実にかわいらしいが、いつまでもあいちゃんをイジって楽しんでいるわけにもいかない。わたしは本題を切り出した。

 

「いやいや。個人ランク戦をしたいのは確かだけど、今日はちょっと探している人がいてね」

「探している人?」

「うん。この前のランク戦でヨーコちゃん達とザッキーセンパイをボコボコにした、空閑遊真くんとやらを探しているんだけど」

「ああ、空閑くん目当てですか。それなら納得です。バトルジャンキーの音海先輩らしい理由ですね」

「あいちゃーん。わたしのことそんな風に思ってたの?」

「私だけでなく、あなたを知っている人はみんなそう思っていますよ」

 

 ひどすぎる。太刀川隊のお坊ちゃんじゃないけど、弁護士を呼んでほしい。人権侵害だ!

 

「でもまぁ、そういうことなら探すまでもありません」

「どゆこと?」

「モニターを見てください。ちょうど終わったところです」

 

 あいちゃんに促されるままにモニターを見ると、なるほど確かに。対戦表には『空閑遊真』の名前があった。相手は……

 

「珍しいね~。カゲカゲが個人ランク戦やってるなんて」

「チッ……うぜぇ女が来やがった」

 

 影浦隊の隊長、影浦雅人はわたしの姿を見てあからさまに嫌そうな表情になった。顎にはマスク。そして、相変わらずのボサボサ頭だ。どうでもいいけど、アレは寝癖をそのままにしているのだろうか?

 

「かげうら先輩どうしたの? 知り合い?」

 

 と、カゲカゲの体の影から、白い頭がニュッと飛び出してきた。青を基調とした隊服に、日本ではあまりに目立つ白髪。直接見ると、画像で見るよりもさらにちっちゃい。

 

「キミが空閑遊真くん?」

「そうだけど?」

 

 うわぁ……ろくろーくんにはああ言ったけど、こんな小さい子を蜂の巣にするのは流石に心が痛むなぁ。なんだか、わたしが悪者みたいになっちゃう気がするし。

 だけど、約束は約束だ。わたしは遊真くんににっこりと笑いかけながら、口を開いた。

 

「はじめまして! わたし、音海綸。フリーのA級隊員やってます。キミの活躍は、最近よく聞いてるよ」

「これはこれは、どうもどうも。玉狛第二の空閑遊真です。こちらこそよろしく」

 

 ぺこり、と空閑くんは頭を下げる。うん、ちゃんと挨拶できるし、どうやらふつーにいい子っぽい。

 

「ランク戦に参加してないから、あんまり関わる機会はないかもだけど、キミとは仲良くなりたかったんだ。これからよろしくね」

 

 営業用の0円スマイルと一緒に、手を差し出す。空閑くんが握手しやすいように、少し膝を曲げて屈んだ。わたしは気遣いができる女なのだ。

 ところが、空閑くんはこちらをじっと見詰めるだけで、わたしの手を取ろうともしなかった。

 

 それどころか、

 

「あんた、つまんないウソつくね」

 

 なんか、とんでもない暴言を吐かれた。

 

「…………ハイ?」

 

 いやいや、ちょっと待ってほしい。確かにわたしの笑顔は『ウソくさい』だの『ネコ被り』だのと否定的に言われることが多いが、初対面の人間には概ね好意的に受け入れられるのが常である。

 それがいきなり「つまんないウソつくね」とか……ちょっとひどくないだろうか?

 

「クックク……はっはははは!」

 

 その様子を見ていたカゲカゲが、空閑くんの横でゲラゲラと爆笑する。この野郎、大声で笑うなんて滅多に見せない姿を披露しやがって。そんなにわたしと遊真くんのやりとりがおもしろかったのだろうか? どうせトリオン体だろうし、頭に一発ぶち込んで黙らせてやろうか?

 

「ムダだぜ、音海。空閑はおもしれーサイドエフェクトを持ってるからな。その薄ら笑いじゃ、テメェの本性は隠せねーよ」

 

 本性、とかまたひどい言われ様だ。やっぱり、コイツにも後で何発か撃ち込むことにしよう。

 

 それにしても……

 

「ほーう。なるほどねぇ……」

 

 前言撤回だ。

 ふつーのいい子、ではない。

 

 空閑遊真くん。とってもおもしろそうな子だ。

 

 




多分、全2話か3話になります。
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