彼女は引き金を愛しすぎている   作:龍流

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B級ランク戦編をすっ飛ばして、原作の先に突入。導入だけど大事な回です。


遠征編
「その若さと美貌なら、拳銃より似合うものがあるはずだぜ」って帽子が似合う世界的ガンマンが言っていたけど、わたしは拳銃が似合う女にこそなりたい


 2月も半ばを過ぎて下旬に差し掛かると、少しずつ暖かくなってくる。元々、三門市は気候が比較的温暖なので、街を歩く人達がコートを脱ぎ始めるのもはやい。

 

「とはいえ、まだ春って感じはしないけどねぇ」

「そうっすね」

 

 学校で勉学という学生の義務を終えたわたしは、今日も銃を撃つために(防衛任務のために)、ボーダー本部に向かっていた。今日は香取隊との合同でやるので、ろくろーくんも一緒である。

 隣を歩くろくろーくんは、まだマフラーに顔をうずめているわたしをちらりと見る。

 

「先輩、意外と寒がりですよね」

「意外も何も、女の子は大抵寒がりでしょ?」

「でも、そのわりには冬でも脚出してる女子って多いじゃないですか」

「お? なになにろくろーくん? ろくろーくんは生足が好きなの? いやぁ、それなら悪いことしたなぁ。ごめんね、わたしオシャレとか気にしないからタイツ履いちゃって……」

「違いますよ!」

「あ、でも黒タイツは黒タイツで需要あるよね? そこらへんどう思う? 脚フェチとしては」

「勝手にオレの性癖を決めつけないでくれませんかね!?」

「ほほう。つまり脚以外の拘りポイントがあると?」

「……」

 

 軽くからかってあげると、ろくろーくんは顔を赤らめて押し黙った。こういうところ、なんか母性本能くすぐられてかわいいよね、うん。

 

「まぁ、たしかに実際問題、真冬に生足とかほんと死ねるけどね。あれを貫き通してる人、尊敬しちゃうよ。わたしは絶対無理だもん」

「……前、ヨーコに「寒くないのか?」って聞いたら、セクハラって言われました。納得いかねぇ……」

「あはは! ヨーコちゃんらしいね。でもほら、ヨーコちゃんみたいなタイプは自分がかわいいのわかってるっていうか、男の子に見られるのを計算に入れてるタイプだからさ」

「それも含めてほんとかわいくねぇ……」

 

 なにせ、那須隊の隊服とこなみんの隊服を基に自分のチームの隊服をデザインしてもらって、それでちゃっかり男子の視線を集めることに成功してるくらいだ。時々、壊滅的なセンスの私服(葉っぱマークのTシャツとか)着てくるくせに、香取隊の隊服はSFチックないいデザインで完成されている。あれ絶対ヨーコちゃんが考えたやつじゃないでしょ。

 

「かわいくない、なんて言っちゃダメだよ。ゆうたくんとか、ヨーコちゃんにぞっこんでしょうに」

「アイツはヨーコの外見に騙されてる……って昔は思ってたんですけど、最近はなんかもう、コイツ中身も折り込み済みで惚れてるんだな……と、思うようになりました」

「一途だねぇ」

 

 説明しよう! 香取隊の攻撃手、三浦雄太くんはヨーコちゃんのことが大好きなのだ!

 ちなみにゆうたくんは、ヨーコちゃんとろくろーくんが衝突すると「まあまあ」と言いながら割って入る香取隊のバランサーって感じの立ち位置。戦闘ではあんまり目立たないけどヨーコちゃんをきっちりフォローして守り抜こうといつも頑張ってるし、ゆうたくんがいない香取隊は多分内輪もめで内部崩壊するだろう。

 

「でも、一途なのはろくろーくんも同じか」

「は、はぁ!? なんすかいきなり!?」

「最近、はなちゃんとはどんな感じ? もう告った? ちょうどB級ランク戦も終わってシーズンオフの時期だし、そろそろ攻めてもいいんじゃない?」

 

 説明しよう! わたしの愛弟子であるろくろーくんは、香取隊のオペレーター、染井華ちゃんのことが大好きなのだ!

 ちなみにはなちゃんは、ヨーコちゃんとろくろーくんが衝突すると「うるさい。仕事して」と、両方に釘を差して黙らせることができる、マジメクール系オペレーター。作戦立案能力が高いこともあってある程度指揮もこなせるから、香取隊のメンバーは全員がはなちゃんの言うことには大抵従う。香取隊の影の支配者である。

 

「もうすぐ春だしさ。お花見デートにでも誘って、距離感詰めたら? 春って新しい季節だし、開放的になるし、浮かれた感じになるから、案外ころっといけるかもしれないよ?」

「先輩は、華さんが開放的になって浮かれた感じでオレの告白をころっとオーケーしてくれるって、本気で思ってますか?」

「ううん。欠片も思わない」

「だったらそういう適当なこと言うのやめてもらえませんかね!?」

 

 ガウガウッ!って擬音がつきそうな感じに噛みついてきたろくろーくんは、それから少し考えるようにあごに手をあてて、

 

「ああ、でも……花見はいいですね。去年、オレらそういうの行ってないですし。たまには、いいかもしれません」

「えー? チームのみんなでお花見行っても、ただ遊びに行くの変わらないじゃん。……いや、でもまって。ヨーコちゃんとゆうたくん、はなちゃんとろくろーくんというペアが成立するということは、これはもはやダブルデートなのでは……?」

「先輩、一度恋愛トークから離れましょうか」

 

 ろくろーくんは呆れ顔でそう言ってきたけど……そもそも香取隊って、男の子が女の子好き過ぎるっていうか、もどかしい恋してるっていうか、とにかく青春し過ぎだと思うんだよね。

 

「そのうち、わたしがダブルデートのプランを練って、プロデュースしてあげるよ」

「……お気持ちは有り難く受け取りますが、丁重にお断りさせていただきます」

 

 やれやれ、と肩を落としたろくろーくんは、けれど少し笑って、

 

「でも本当に、花見はほんとにいいと思います。オレ、季節なら春が一番好きなんすよ」

「へー。あったかくなると、女の子が生足になるから?」

「先輩、そっちからもいい加減離れてください……先輩は、やっぱり夏とか好きなんすか?」

 

 質問で強引に会話の流れを変えてきたろくろーくん。前は流されるままわたしの振った話題についてきて、そのままイジり倒すことができたのに、最近はこういう時にのってこなくなってしまった。弟子の成長を感じるなぁ……

 

「うーん、わたしは」

 

 それにしても、好きな季節、か。

 

 

 

 

「冬、かな?」

 

 

 

 

「え?」

 

 ろくろーくんはきょとんとこちらを見て、それから首を捻った。

 

「先輩、さっき寒いの苦手って言ってませんでしたか?」

「うん。言った言った」

「なのに冬が好きって……寒いのが嫌いなのに冬が好きってことですよね?」

「そうだねぇ」

「なんかそれ、おかしくないすか?」

「そうかなぁ?」

 

 今度は逆に、わたしが首を傾げる番だった。重ねて、ろくろーは聞いてくる。

 

「何か、冬が好きな特別の理由があるとか?」

「うぅん……いや、べつにそういうわけじゃないかな。強いて言うなら、こう、なんていうか……雰囲気? 全体的な季節の雰囲気が、好きかも」

「すげぇ漠然としてますね……」

 

 ろくろーくんはいまいち納得していないようだったが、わたしも納得してもらおうとは思ってない。かといって、このまま会話を断ち切るのも違うと思ったので、わたしは少し説明を付け加えた。

 

「例えば、さ」

「はい?」

「ろくろーくんは、はなちゃんが好きな理由をきちんと説明できる?」

「は、はぁ!?」

 

 ろくろーくんの顔が、また赤くなる。

 いやもう、マジで分かりやすいね。かわいいなー、この後輩。

 

「り、理由ですか?」

「そうそう、理由。まー、人を好きになる理由っていろいろあるよね。見た目とか性格とか趣味とか。でもそれってあくまで好きになる要素であって、言葉で表現できる特徴じゃない?」

「えーと、つまり?」

「結論から言っちゃうと、何かや誰かを好きになるのに理由はいらないってことだよ」

 

 恋人を一組用意して「お互いの好きなところ言い合ってください」と、お題を出したとしよう。まあ、もしかしたらそのカップルは超がつくバカップルで、互いの長所を20個も30個もあげる……なんてことがあるかもしれないけど、大抵のカップルは10個もあげられればいいところだと思う。日本人は控えめで奥ゆかしい民族だし。

 わたしが言いたいのは、そうやって言葉にして答えた『好きになる要素』ってやつが、果たしてどこまで本物なのか、という疑問だ。

 

「もちろん、きっかけはあると思うよ。例えであげちゃったから、このまま恋愛を前提に話を続けるけど」

「そこはできれば変えてほし……」

「じゃあ、ろくろーくんのはなちゃんへの想いを前提に話を続けるけど」

「すいません。一般論でお願いします」

 

 頭を下げるろくろーくん。うむ。素直でよろしい。

 

「ほら、人間って、いろいろな要素が集合してできてるじゃん。優しくて、イケメンで、背が高くて、スポーツ万能で、頭がよくて、文武両道、みたいな」

「そいつ絶対にモテモテじゃないですか」

「じゃあ、そこに『女性のお尻が大好きでいつもお尻を触ることを考えている』を付け加えたらどうなる?」

「ただの変態クソ野郎じゃないですか……」

「そう。ただの変態クソ野郎になっちゃうんだよ。」

 

 要素をひとつ付け加えただけで、完璧超人が台無しだ。

 

「ああ…………でも、なんとなくわかる気がします」

「……ろくろーくん。なんで今、一瞬わたしの方をじっと見たのかな?」

「オレは銃が大好きな先輩が素敵だと思いますよ」

「こっち見て言えよ、後輩」

 

 前言撤回。なんて生意気な後輩なんだ……

 

「ま、いいや……続けるけど、イケメンだからその人を好きになって、お付き合いを始めた女子がいたとしよう。でもその子はきっと、ソイツが変態であることを知ったらソイツを振るでしょう? それは結局、ソイツが好きじゃなかったってことになる」

「その場合『イケメンだから』っていうのが、好きだったことの理由になりませんか? あくまでも過去形の『好きだった』ですけど」

「そう。だから、その子が好きになったのはソイツの『イケメン』っていう部分だけなんだよ。『女性のお尻が大好きでいつもお尻を触ることを考えている』まで含めてソイツは1人の人間なのに、その部分が許せなかったから、別れちゃいました。つまり、その子はソイツじゃなくて『イケメン』が好きだったってこと」

「わかるような、わからないような……」

「じゃあ、逆に聞くけどね。その子は、どうして『イケメンが好き』なの?」

「え? そりゃ、不細工よりもかっこいい男の方が……」

「かっこいいってなに? 鼻筋が通ってるの? 目がパッチリしてるの? 着ている服がおしゃれなの? どうして『かっこいいが好き』なの?」

「あー。たしかに、答えられませんね」

「でしょう? かわいいとか美人、とかもそうだと思うよ。外見の価値観って人それぞれ違うからね。定義付けが難しい」

「先輩はかわいいと思いますよ。なんすかね、その……一般的価値観からみて」

「あー、はいはい。そういうお世辞いいから。普段からもっと言いなさい。そして、はなちゃんに面と向かって言えるようになりなさい」

「それは無理っす……」

 

 また顔を伏せるろくろーくん。ろくろーくんも、なかなか男前だと思うけどねぇ……俗に言う多数派の一般的価値観ってやつから見たら。ただ、はなちゃんは嵐山さん押しっていう見かけと性格に寄らないミーハーだからなぁ……ヨーコちゃんも烏丸くんが好きだし、香取隊の女子はわりとミーハーだ。

 

「でも、これはあくまでわたしの持論だからね。そこまで本気にしなくていいよ」

「ここまで語っておいてそれ言います?」

「うん。好きには理由がなくてもいいとは言ったけど、べつに理由があっても構わないでしょ。むしろ、人に共感される明確な理由があった方が、その『好き』っていう感情は理解されやすくなるわけだしさ」

「はぁ……なるほど」

 

 そう。『好き』に理由はいらない、というのはあくまでもわたしの持論だ。ボーダーという組織で過ごしている内に気が付いた……というよりは、手元に残った一つ結論。

 

「でも、わたしは不要だと思うけどね。他人に否定されて揺らぐ『好き』なんて。本当に好きなものには好きである理由は必要ない。理由がある『好き』は理由がなくなったら消えてしまうけれど、理由がない『好き』という気持ちは絶対に消えない」

 

 ろくろーくんは頭が固いというか、理詰めっぽいというか、いろいろと考え過ぎちゃうところがあるから、はなちゃんを好きになった、普通に明確な理由があるんだと思う。あるいは、心を動かされた、何かしらのイベントがあったに違いない。

 でも、それはそれとして。理由がない『好き』という気持ちも自覚するようになったら……ろくろーくんのはなちゃんへの想いは、きっと本物になるんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん。たしかに、おれはどれだけ『お尻好き』を他の人に否定されても揺らがないよ」

 

 つるん、と。

 お尻に、感触があった。

 露骨に指を埋めたわけじゃない。揉みしだいたわけでもない。本当に、なんというかこう、擬音で表現するなら、つるん、と。表面をなぞるように触れただけなのに、そのくせしっかりとお尻の感触と肉付きを確かめるような……ひじょーに嫌な意味でベテランっぽい手つきで、わたしはお尻を触られた。

 ろくろーくんは、わたしの背後を見て「え?」という感じで固まっている。

 

 ……やれやれ。

 

「はぁ……ごめん、ろくろーくん。ちょっと、先行っててもらっていいかな?」

 

 振り向いて、その軽薄な笑みを浮かべている顔に向かって、わざわざ大きく聞こえるようにため息を吐く。

 

「わたし、ちょっとこのセクハラお兄さんとお話があるから」

「どうも。理由や理屈を超えて女子のお尻が大好きな実力派エリートです」

「撃ち殺しますよ? 迅さん」

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