彼女は引き金を愛しすぎている   作:龍流

13 / 15
「銃はいいです。剣やナイフと違って死にいく感触が手に残りませんから」とは言っても、殺したという結果は変わらない

 なんか冴えないメガネだなぁ……というのが、三雲くんに対して抱いたわたしの第一印象だった。

 空閑くんはもう最初から戦える人特有の「あ、コイツやるな」っていう雰囲気を醸し出していたし。例の謎のカナダ人(笑)ヒュースくんも、完全に一般人とは違うオーラみたいなものを身にまとっていた。それに比べて、三雲くんのこの冴えない感じときたら……「ぼくの特徴はメガネです。メガネ以外に特筆すべき点はありません。メガネがアイデンティティです」と言わんばかりのメガネっぷりだ。米屋くんや迅さんから「メガネボーイ」だの「メガネくん」だのと呼ばれても仕方ない。

 実際、ランク戦や選抜試験の記録を見る限り、三雲くん自身の戦闘能力はすこぶる低い。だが、それを補うだけの知恵と度胸を持っている。木虎ちゃんからアドバイスをもらって『スパイダー』を習得したり、やらしい小技もちょっとずつ覚えてきているみたいだから、最低限足手まといにはならないレベルではある……のかな?

 

「……はじめまして。三雲修です。よろしくお願いします」

「ふふっ……どうもどうも。風間さんから話は聞いているよ。初対面だけど、変な気は遣わないでいいからね。わたし、空閑くんとは模擬戦して、大の仲良しになったし。三雲くんとも仲良くしていきたいな」

「あ、はい。こちらこそ」

「騙されるなよ、オサム。その人、いろいろヤバいぞ」

「まーた空閑くんはそういうこと言うー。わたし、べつにウソは言ってないよ? そんなに疑うなら、ご自慢のサイドエフェクトで確かめてごらんよ。わたしは本当に、三雲くんとは仲良くしたいと思っているからさ」

 

 わたしがそう言うと、三雲くんを庇うようにして前に出た空閑くんはじっとこちらを見詰めて、それから少し訝し気に目を細めた。

 

「……ふーん。今回はウソじゃないのか」

「当然じゃん! わたし、空閑くんとも仲良しなんだし」

「それはウソ」

 

 あらあら、残念。空閑くんは相変わらずドライだね。

 

「変なの。おれとやりあう前はあんなわかりやすいウソついてたのに」

「そりゃあ、あれはケンカふっかけにいく前だったからね。戦う前に仲良くなるより、お互いにまっさらな状態でやりあった方がよりフレッシュな状態で殺りあえるでしょ? 友情育むのはそれからでも遅くないよ」

「それなのに、表面上は「仲良くなりたい」なんて言いながら声かけにきたの? やっぱりあんた、タチわるいね」

「おい、空閑。それはさすがに失礼だぞ?」

 

 最初から少しケンカ腰な空閑くんを、三雲くんがあわてて制止する。わたし、べつに礼儀とかそこまで気にするタイプじゃないから別に構わないんだけど……

 

「やめておけ、空閑。そいつとマジメに話していると損をするぞ」

「いやいや、風間さん。質が悪いのは空閑くんのサイドエフェクトの方だってば。人間、生きていれば嘘をつかない機会なんてない。生きること自体が嘘をつくこと、みたいな生き物じゃない? それを全部丸裸にさちゃうんだから、話してる方はたまったもんじゃないよ」

「少なくとも、俺はお前より真摯に誠実に生きているぞ」

「風間さん、マジメだもんねー」

 

 これ以上絡むと後で風間さんからお説教コースになりそうなので、わたしは玉狛第二の面々から一歩引いて距離を取った。やっぱり、デキる女はおしとやかな一面も持っていないとね。

 ついでに、今さら気付いた、という風を装って、空閑くん達の後ろにいる彼に声をかける。

 

「あ、迅さん。こんにちは」

 

 この前、あんな別れ方をしたくせに白々しく自分から声をかけにいくわたしは本当になんというか、つくづく厚かましいとは思うのだけれど。幸か不幸か、あの事件の反省を経たわたしの面の皮は相当にふてぶてしく鍛えられているので、こういったシチュエーションでも気まずい相手に満面の笑みで挨拶をすることができた。

 

「……やっぱり、遠征行くんだ」

「そりゃもちろん。行かない理由がないし」

 

 今回の遠征は、リアルトリオンタンクである雨取ちゃんの参加が決定したことにより、通常の遠征任務よりも人数が大幅に増員されている。部隊での運用に限らず、個人でも優秀な能力を持つ隊員は積極的に動員して、戦力の拡充を図ろう、というのが上層部の意図であるらしい。A級ソロなんていうよくわからないポジションでプラプラしているわたしに声がかかったのも、それが理由だろう。わたしの場合は少し別の事情もあるけど、基本的に『連れ去られたC級の奪還を目指す』という世間へのアピールになるお題目を抱えている以上、即戦力になる隊員はいくらでも欲しいわけで。

 

「逆に、迅さんが行かないのがちょっと意外だったよ」

 

 だからこそ、迅悠一は不参加、という上層部の決定は少々意外だった。

 

「本部を留守にするわけにはいかないからね。こっちの遠征タイミングを見極めた敵が、攻めてこないとも限らない」

「なるほどなるほど」

 

 筋は通っている。信用するしないはともかくとして、迅さんのサイドエフェクトは組織に必要なものだ。迅さんを遠征に参加させるということは、迅さんを失ってしまうリスクも多分に孕む。まさか奪われるリスクのある敵国への遠征に『黒トリガー』を持っていけるわけもないし、遠征部隊と本部に残しておく戦力のバランスを考慮した結果、迅さんは残す、という形に落ち着いたのだろう。

 

「でも、それに素直に従ったのも少し意外だね。迅さん、本当はついて行きたいんでしょう?」

「……そりゃあね。でも、おれはおれのかわいい後輩達を信じているから」

「親バカだねぇ」

「もちろん、いとちゃんもかわいい後輩の内の1人だよ」

「ご期待に添えるよう、努力はするよ」

 

 うん。努力はするつもりだ。一応。

 

「あの……音海先輩」

「ん? どうしたのかな、三雲くん」

「見たところ、まだ音海先輩と風間先輩しかいないみたいなんですが……他の人達は」

「ああ」

 

 もっともな三雲くんの疑問に、わたしは軽く手を打った。

 今回の遠征部隊はいつも通り行われたA級メインの試験に合わせて、B級から優秀な隊員を引き抜く形で選抜している。玉狛第二は試験の参加資格を得た上で、「雨取千佳を遠征メンバーに加える場合、彼女を戦術的に運用できる玉狛第二は有用な戦力になる」と判断されてここにいるのだ。なので、基本的にわたしのように引き抜かれたメンバーを除けば、当然残りの人員は部隊単位で選抜されている。

 まず、A級上位からは太刀川隊。

 

「太刀川隊はまだ来てないよ。ほら、唯我くんいるじゃない? なんかあの子、三雲くんが遠征部隊としての権利を勝ち取ってから「三雲くんが行くならボクも行く!」って聞かないみたいでさ。今、太刀川さんと出水くんが説得してるんじゃないかな」

 

 嘘は言ってない。唯我くんは太刀川さんと出水くんに今頃説得(物理)されているはずだ。彼ではこの戦いについてこれそうにないからね……銃手として、あのおぼっちゃんの育成にはとっても興味があるんだけど、出水くんから「やめてください。綸さんが鍛えたらアイツは死にます。確実に死にます」って言われてるので、あまり鍛えたことはない。残念無念。わたしに一ヶ月ほど時間を頂ければ、遠征部隊に入れてもギリギリお荷物にならない程度に仕上げてあげるのに。死ぬ気でやる、という前提がつくけど。

 

「……それは、唯我先輩らしいというか……」

「あはは。冬島隊はもう着いてるよー。冬島さんは上で理佐ちゃんと遠征艇の調整やってる。当真さんは……多分、どっかで寝てるんじゃないかな?」

 

 次に、冬島隊。当真さんのバケモノ染みた狙撃能力もさることながら、冬島さんがエンジニアとして普通に優秀なので、当然の選抜だね。

 

「……当真先輩らしい、かも」

 

 雨取ちゃんが、ぽつりと呟く。こんないい子っぽい子にまでちゃらんぽらんぶりが浸透しているとは……それでいいのかNo.1狙撃手。多分いいんだろうね、うん。

 

「風間隊の残りの2人も、もうここにいるよ。遠征艇に持ち込む物資の確認してる」

 

 そして、風間隊。『カメレオン』を使った隠密戦闘と近接連携の密度は流石の一言に尽きる。戦場では『偵察』という行為が何よりも重要だし、今回も斥候として存分にその力を奮ってくれるだろう。心強いね。

 

「あと、東さん、二宮さん、カゲカゲ、鋼くんが後からくるよ。わたしも一応、このチーム所属ってことになるね」

「……改めて聞くとすごいメンバーですね」

「ん? チームって基本4人までじゃないの?」

「基本的にはそうだけど、隊長が東さんだから大丈夫だって。忍田さんが言ってた」

「な、なるほど……」

 

 冷や汗を浮かべて、三雲くんが頷く。

 まー、このメンバーを常に5人セットで運用することはないと思うけど。多分、わたしは忍田さんあたりの直援になるか、火力が足りない風間隊や冬島隊の援護に回されるはずだ。

 

「さて、三雲くん達はみんなが揃う前に、まず物資の確認からした方がいいかもね。持ち込める物にいろいろ制限とかもあるし。風間さん、案内頼めます?」

「元からそのつもりだ。行くぞ、三雲」

「は、はい!」

 

 そのまま風間さんについて行こうとする玉狛第一の面々の中から、わたしは一際小柄な肩を軽く叩いた。

 

「ごめんね。雨取ちゃんはこっち」

「え? あ、はい」

「先に、遠征艇の中を案内させてもらうよ。女の子はいろいろと気を遣うこともあるからね」

 

 

◇◆◇◆

 

 

 雨取千佳は、音海綸という隊員のことをよく知らない。

 以前、遊真が彼女と真正面からタイマン勝負をして負かされたという結果や、彼女がNo.1銃手だという記号的な情報は聞いていても、彼女個人の性格などについては全く知る機会がなかった。なので、あまり社交的な性格ではない千佳が気後れしてしまうのは仕方がないことだった。

 とはいえ、

 

「雨取ちゃん雨取ちゃん! こっちが個人部屋だよ! 前はこのスペースだけだったんだけど、雨取ちゃんのおかげでめちゃくちゃ広くなったからねー。あとで上も見にいこうよ」

「あ、ええと……はい」

「あとあれだねー。部屋が狭いのはもちろんだけど、シャワー設備とかそういうのも限られてるからさー。前よりはかなりマシになったって話だけど、シャンプーとか肌のケア用品とか、そういうの持ってった方がいいよ。もちろん、持ち込める荷物の量には限りあるけど」

「そうなんですね」

「うん。あー、でも雨取ちゃんはまだ中学生だからお肌もツヤツヤかな?」

「ひゃっ!? お、音海せんひゃい?」

「おー、マジでほっぺたプニプニだねぇ。一家に一台欲しい柔らかさ……」

 

 音海綸は勝手に距離を詰めてくるので、特に関係なかった。

 後ろから千佳の頬を勝手にプニプニしつつ、綸は個人用の船室のドアを開いた。頬を触られる感触はくすぐったさと暖かさが奇妙に同居していて、正直やめてほしかったが正面から「やめてください」とも言えず。千佳は綸に頬を弄られながら、船室に入った。

 そして、予想を超えるその狭さに絶句する。二段ベッドが左右に分かれて置かれている部屋の中は、本当に予想以上に息苦しく、パーソナルスペースは限られていた。

 

「……ええと」

「思ってたより狭いでしょー? まあ、部屋が増えた分、多少はマシになったとは思うんだけどね。上の区画はまだわたしも見てないから、断言はできないけど」

 

 頬からようやく手を離し、ベッドに無造作に器用に飛び込んだ綸は、限られた面積の中でゴロゴロと寝転がりながら笑う。自分だったら絶対に頭をぶつけてしまうだろうと、千佳は思った。

 

「これで、今回の遠征にもし雨取ちゃんがいなかったらと思うと、ほんとぞっとするね。狭すぎて敵とバトる前にストレスで死んじゃうよ」

「……あ、ありがとうございます。でも、わたしには、トリオン量くらいしか取り柄がないので」

「んー? そんなことないでしょ」

 

 するり、と。まるでネコのようにベッドから抜け出した綸は千佳の肩を掴んで、ぐっと引き寄せた。

 

「お、音海、先輩……?」

「前に空閑くんとやりあった時から、興味はあったし、今回の遠征でも協力することになるだろうから……玉狛第二の戦闘記録には、大体目を通したんだよね」

 

 顔が近い。吐息が触れる。

 

「わたしは狙撃手じゃなくて銃手だから、あんまり専門的なことは分からないけど……でも、雨取ちゃんが狙撃手の基本をしっかり抑えて動いているのは、一目見て分かったよ。ライトニングと鉛弾の組み合わせはおもしろいし、近接防御に使ってる鉛弾ハウンドも、充分有効だと思う」

 

 つらつらと。客観的な分析を並べ立てながら、にっこりと綸は笑って、

 

「だから、雨取ちゃんはトリオン量しか取り柄がないわけじゃない。もっと自信を持っていいと思うよ。それは、わたしが保証してあげる」

 

 裏のない、その率直な賛辞に、千佳は照れ臭くなって顔を伏せた。視線を下げた。目線を、外してしまった。

 

「…………ありがとうございます」

 

 故に、

 

「だから、さ。いや、だからこそ、なのかな? どうしても、疑問に思っちゃうんだよね」

 

 千佳は、綸がそれを口にした瞬間の、決定的な表情の変化に気が付くことができなかった、

 

 

 

 

 

 

「どうして、雨取ちゃんは敵を撃たないの?」

 

 

 

 

 

 

 

「え」

 

 呆けたように、疑問を短く呟いた。けれども綸は、その疑問の声をまるで気にせず……むしろ、最初から返事が返ってくることを期待すらしていないかのように言葉を重ねた。

 

「18回。わたしが観た記録の中で、雨取ちゃんが敵を殺せた数だよ」

 

 肩を掴む腕の力が、少し強まる。

 

「あれだけのトリオン量があれば、何でもできるよね。威力は信じられないくらいに高いし、なにより弾切れを気にしなくていい。雨取ちゃんの長所はトリオン量だけじゃないけど、でも本当にあのトリオンはすごい長所だと思うんだ」

 

 軽く押されて、背中が壁に押し付けられる。

 ひんやりとした冷たさを背中に感じて、千佳は自分の体温が吸われているように錯覚した。

 

 あの先輩には、気をつけた方がいいよ。

 

 遊真の言葉が自然に思い出されて、頭の中で反響する。

 

「そんなに、こわがらなくていいよ」

 

 間近で見ると、彼女はやはり綺麗だった。そして、綺麗だからこそ、美しいからこそ、千佳は彼女がこわかった。もっと分かりやすく、巨大で無機質なトリオン兵のように恐ろしかったなら、まだよかっただろう。事前に危険を察知して、逃げることもできたはずだ。

 しかし、音海綸は違った。彼女は見目麗しく、紡がれる言葉は甘く優しく、それでいて

 

 

「わたしは、雨取ちゃんがうらやましい」

 

 

 中に抱えるソレは、千佳がこれまでの人生で見てきた中で、最も得体の知れないモノだった。

 吐き出される言葉に少しずつ、確実に。熱が籠っていく。

 遊真が言っていた忠告の意味を、千佳はようやく理解した。

 

 

「すごくすごく、うらやましい」

 

 

 雨取千佳と音海綸は。

 そもそも、その在り方から、決して相容れない。

 

 指先が、頬に触れた。

 今度は、冷たかった。




圧迫☆面接

ワールドトリガーの主人公は4人であると葦原先生が明言している以上、綸が全員と接点を持つのは当然というもの。

修→弱すぎてビビる。メガネ。
遊真→殺り甲斐がある。生意気。
迅さん→信用してない。セクハラエリート。
千佳ちゃん→かわいくて有望。中身が欲しい。NEW!


なんだコイツ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。