個人ランク戦用のブースに入ると、なぜかあいちゃんが一緒に付いてきた。
なんだろう? 遂に万能手の道に見切りをつけて、銃手に返り咲く決心をしてくれたのかな?
「どういうつもりですか、音海先輩」
「どういうつもりって……なんだか漠然とした質問だね」
「では、単刀直入に聞きます。音海先輩は、空閑くんを"潰す"つもりですか?」
「つ、潰すってそんな大げさな……わたしは単純に純粋に、期待のルーキーって呼ばれてる空閑くんの実力を確かめたいだけだよ~。それに、カゲカゲだって個人戦してたじゃん。どうしてわたしにだけそんなに目くじらたてるの? さっきおっぱいさわったからおこってるの?」
「ちがいます! お……さっきのセクハラは関係ありません!」
おっぱいって言いかけて、自分から顔を赤くするあいちゃん、イイね!
ニコニコするわたしから目線をそらすように顔をそむけたあいちゃんは、ボソっと呟いた。
「……そもそも音海先輩は、入隊期間中やランク戦シーズンになると、いつも問題を起こすじゃないですか」
「え? 例えば?」
「勝手にC級隊員を集めて公開前の試作トリガーの『試射会』をしたり! 勝手に『銃型トリガーのススメ』とかいう教本を配布したり! 勝手に研修中のC級隊員をつかまえて、銃型トリガーを使わせようとしたり! あげたらキリがありませんがなにか!?」
「ひどいなぁ。先輩の地道な『布教活動』を問題呼ばわりするなんて。銃手人口の増加と育成のためなら、わたしはあらゆる努力を惜しまないよ?」
「……まあ、音海先輩の活動で銃手の全体的なレベルが向上しているのは事実ですし。一概にあなたの活動を否定することはできません。ただ、嵐山先輩から言われているんですよ」
あいちゃんはそこで言葉をためて、
「……音海からは目を離さないように。あいつは時々"やりすぎる"ことがあるから、気をつけろ、と」
これはなんというか、またまたひどい言われ様である。おのれ、嵐山さんめ。わたしのことをそんな危険人物みたいに……
「緑川くんや双葉ちゃんはあなたと戦ったのが軽いトラウマになっているようです。後輩を厳しく指導するのも先輩の役目だとは思いますが、加減はしてください」
「……うーん。それはちょっと保障できかねるなあ。わたし、戦ってるとテンションアガってくるタイプだし」
「音海先輩!」
「まあまあ。そんなにコワイ顔しないでよ」
詰め寄ってくるあいちゃんをなだめながら、取りだしたトリガーを起動する。すぐに再換装がはじまり、制服から戦闘用のコスチュームに服装が変化した。
わたしの隊服は、実用性一辺倒、欠片も色気がないミリタリースタイルだ。身体のラインにフィットした、動きやすい暗色のコンバットパンツとシャツ。上には、三輪隊が着用しているものと同じタイプのジャケット。全身を紺と黒の迷彩で覆っているので、嵐山隊のような華やかさは一切ない。コナミンみたいに生足を出しているわけでもないので、男子が期待する要素はゼロに近い。いやぁ、全然エロくなくて申し訳ないね。
「なーんか、あいちゃんはわたしのことをとんでもない悪者みたいに思ってるみたいだけどさ。それは大きな誤解だよ」
固い表情のあいちゃんに、手を振りながら。
「わたしは、銃が撃ちたいだけだから」
身体と意識は、戦場へと転送された。
◇◆◇◆
転送された空間は、市街地A。模擬戦用にいくつか用意されているステージの中でも、特に標準的な基本地形である。
スタート地点は、住宅街のど真ん中。レーダーを確認するまでもなく、真正面に空閑くんの姿が見えた。
「あれ? 隠れなくていいのー?」
「アンタの戦い方が分からないからね」
勝負の形式は五本先取。一回の敗北は決して軽くはないはずだが、空閑くんは余裕綽々といった様子でそう言った。
「ふーん、そっか。だったら……」
こちらはお言葉に甘えて、
「たっぷり味わってもらおっかな!」
あいちゃんにはああ言われたが、せっかくのお楽しみの時間だ。手を抜く気はまったくない。
わたしが起動した武器に、空閑くんはちょっと驚いたように目を見開いた。玉狛支部ではレイジさんが使っているから、そんなに驚くこともないと思うんだけどね。
「よいしょ、っと」
確かに見た目は派手かもしれないが、所詮はただの『機関砲(ガトリングガン)』だ。
「……デカイね」
「でしょう?」
デカイ銃はロマン。デカイ銃は正義である。連射性能はバカみたいに高いし、当然威力も高い。このガトリングの使用者はもっと増えるべきだ!とわたしは考えているのだけど、残念ながらトリオン消費が大きいので使用者はわたしとレイジさん以外にはいない。あと、デカすぎて取り回しが難しいのが難点かな。
愛用している銃を誉めてもらったのはとっても嬉しいが、わたしは見せびらかすために銃を取り出したわけではない。銃は撃つためにあるのだ。
「じゃ、はじめよっか」
返事は聞かない。さっさとトリガーを引き絞る。
空閑くん目掛けて、わたしは容赦なくガトリングを乱れ撃った。腕に響く振動が、めちゃくちゃ気持ち良い。弾丸をばら蒔くのはいつだって最高だ。
しかし、通常の突撃銃(アサルトライフル)とは比較にならない弾数を撃ち込んでいるというのに、空閑くんは軽々と弾丸の雨を回避する。流石、ちっちゃいから動きがはやい。緑川くんみたいだ。
「グラスホッパー」
「お?」
とか思ってたら、空閑くんはホントに緑川くんみたいに機動戦用オプショントリガー『グラスホッパー』を起動。空中に出現させた2枚の板を踏み込み、鋭角的な動きで一気に距離を詰めてきた。同時に、彼の手から『スコーピオン』が閃く。
これは素晴らしい。相手の弾幕を掻い潜って、ブレードで仕留める。軽量攻撃手のお手本みたいな動き。100点満点をあげてもいいくらいだ。流石、カゲカゲが目を付けただけはある。
「でも、動きがちょっと真っ直ぐすぎるかな?」
「ッ……」
振り上げられたスコーピオンの刃が届く寸前で、わたしはこっそり起動しておいた『拳銃(ハンドガン)』を左手で引き抜いた。すぐ近くまで迫ってる空閑くんがすごくコワイので、情け容赦なく至近距離で連射させていただく。
しかし驚くべきことに、なんと空閑くんはこの攻撃も咄嗟に展開したシールドでガード。恐るべし、期待のルーキー。このままいったら、わたしの首は空閑くんのスコーピオンでチョン切られて、胴体と泣き別れだ。
――だ、け、ど。
「ごめんね。その弾、ガード不可なんだ」
腕に一発、脚に二発で合計三発。空閑くんのシールドを"すり抜けた"弾丸は、着弾と同時に『錘』に変化した。
「……重くなる弾じゃん」
「大正解だよ、っと!」
錘のせいで宙に浮いた状態から身動きが取れず、重力に任せて落下するしかない空閑くん。わたしはそんな彼に向かって、ガトリングガンを大きく振りかぶり、盛大にぶん殴った。
「ぐっ……?」
多分、錘が付いてない状態なら普通に避けられただろうけど、残念ながら今の空閑くんは全身ガチガチの『錘』まみれだ。もろに銃身のビンタを食らって、小さな体は地面に叩きつけられた。
五連装の銃口を彼のお腹に押しつけて、わたしはニッコリと微笑む。正しくは『接射』と言うんだけど、ロマン寄りの言い方をすれば『零距離射撃』というやつだ。
この距離ならシールドは張れないだろ……なーんて。
「はい、まず一本」
回転する銃身がトリオン体を削り取る感覚に恍惚としながら、わたしは少年の体に可能な限りの弾丸をぶち込んだ。
◇◆◇◆
「相っ変わらず、戦い方がクソえげつねぇな」
一本目を先取し、花が咲くような笑顔を浮かべている音海綸。そんな彼女をモニター越しに見ながら、影浦雅人は吐き捨てた。
「離れれば、ガトリングの乱射。近づけば、ハンドガンから飛び出す『鉛弾(レッドバレット)』。トリオン量に恵まれていなければできない戦い方ですね」
「まあ、一本目からあのクソ女に『鉛弾』を使わせたんだ。上出来だろ。そこらへんのザコなら、近づくことすらできずにシールドごと削り倒されてお陀仏だ」
ガシガシと頭をかきながら、影浦は大きく息を吐く。
問題は、
「ここからどう攻略していくか、だなァ」
木虎は再び、モニターの中の音海に視線を戻した。
身の丈に合わないガトリングガンを悠々と構える彼女の容姿は、ボーダー内でも度々話題になる。今はポニーテールに括られているが、薄く波打つ茶髪のロングヘアは"一見、人当たりが良く思える"彼女のイメージにぴったりであるし、濃紺の戦闘ジャケットを着用していながら、起伏に富んだ胸はなおその存在を主張していた。同性の木虎から見ても、音海綸という女性は十分すぎるほどに魅力的だ。大抵の隊員達は、彼女の人なつっこい笑顔に騙される。やわらかい言葉にほだされる。
けれど。
その中身がどこか得体のしれないモノであることを、木虎は知っている。
可憐な容姿にはあまりにも不似合いな、無骨極まる銃器を音海は嬉々として振り回す。それこそが、それだけが自分の生き甲斐だと言わんばかりに。
◇◆◇◆
わたしと空閑くんの戦闘は、足を止めずに走り回る高速戦闘に移行していた。閑静な住宅街の中を、撃って、斬って、飛んで、跳ねて、縦横無尽に駆け回る。
「もうガトリングは使わんの?」
「キミの相手をするには、ちょーっと重すぎるかな~」
軽口を叩きながら、連続で繰り出されるスコーピオンの刃を回避。左手の拳銃で反撃しつつ、腰だめに構えて連射するのは新たに起動した突撃銃(アサルトライフル)だ。我が愛弟子ろくろーくんや犬飼くんが使用する『P90』という実銃をモデルにしたタイプである。短銃身で取り回しやすいので、わたしも愛用している。でもコレ、分類的にはSMG(サブマシンガン)だよね?
「っ……」
「およっ!?」
余計なことを考えていたせいだろう。体捌きだけでかわしていたスコーピオンが避けられない軌道で襲いかかってきた。避けられないので、仕方なく拳銃の銃床で受け止める。
ガギン!と、耳を裂く高音が響いた。
「チッ……」
眉をひそめ、舌打ちを鳴らす空閑くん。
「こらこら。先輩に向かって、舌打ちはよくないぞ!」
お行儀の悪い少年の顎をハイキックで蹴りあげる。爪先に、いい感じの衝撃。人を蹴って気持ち良くなるなんて、わたしは多分本質的にSなのだろう。
と。
蹴りあげられた勢いのまま空中で一回転した空閑くんは、地面に落下する前にスコーピオンを突き刺した。
どこに? 民家の壁に、だ。
空閑くんは『突き刺したスコーピオン』を踏み台にして、あり得ない体勢からわたしに向かって斬り込んできた。
そして、響いたのは――
「……かったいね」
――再びの、高い音。
「わたしの取り柄は、トリオン量の多さだからね」
油断ダメ、絶対。
正面にきちんと展開しておいたシールドが、スコーピオンをがっちりと受け止めた。あまり認めたくないが、本当にシールドは便利なトリガーだ。まったく、弾丸は受け止めずにブレードだけ弾いてくれたらいいのに。
渾身の一撃を防がれた空閑くんはすぐさまグラスホッパーで離脱しようとしたが、そうは問屋が下ろさない。
馬鹿正直に胸や頭を狙うといまいましいシールドで防がれるので、まずは脚を。動きが鈍ったところで、次は肩を撃ち抜いて腕を潰す。これでもう、ろくな反撃はできない。
「二本目、いただきまーす!」
あとはシールドの上から削り切って、はいオシマイ。
「思っていたより、歯応えがないなぁ……」
空中に飛び上がるエメラルドグリーンの光を見上げながら、わたしは呟いた。
そして、三本目。
「…………ありゃりゃ。レーダーから消えちゃったよ」
ぐるりと周囲を見回してみるが、人の気配はない。どうやら空閑くんは、馬鹿正直に真正面から仕掛けるのをやめたらしい。バッグワームを使って、一旦身を隠すことにしたようだ。射程ではわたしが大幅に上回っているわけだから、奇襲メインのヒットアンドウェイを狙うのは当然と言えば当然である。彼、身軽だし。
にしても、やはりあの子は『普通』ではない。
例えば、わたしの『鉛弾(レッドバレット)』に対する一戦目の対応。完璧なタイミングで不意を突いたつもりだったのに、反応されてしまった。
もちろん純粋な反射だけでシールドを展開した、という可能性もなくはないが……どちらかと言えば、彼はわたしがガトリング以外の銃を持っていることを予想していた。そう考える方がしっくり来る。
あの子は、緑川くんのような本能と直感だけで動くワンコではない。相手を殺し切るために、冷静な思考を巡らせることができるタイプだ。
「…………ふっふーん」
玉狛第二にはあまり興味がなかったけど、ちょっとおもしろい。けっこう楽しくなってきた。
「くーがーくーん! 隠れてないで、でーておーいでー!」
声を張り上げて呼びかけてみるも、反応はなし。まぁ、そりゃそうか。
普通のランク戦ならいざ知らず、個人戦でバッグワームを着て隠れられると少々面倒だ。協力してくれる仲間がいないので、人海戦術で探すこともできない。とはいえ、ずっと隠れていたら時間切れでわたしの勝ちだ。空閑くんは、必ず仕掛けてくる。
さぁーて、どこから飛び出して来るのかな……
「……っと!」
注意していなければ気づかなかったであろう、小さな小さな、物音。わたしはそれを、聞き逃さなかった。
音が鳴った方へ、振り向く前に勘と感覚で突撃銃を乱射する。だが、手ごたえはない。咄嗟に振り返って見てみれば、そこに転がっていたのは空閑くんの体ではなくただの『石ころ』だった。
「ずいぶん味な真似を――」
――するじゃん、と言い切る前に。空閑くんは死角から襲いかかってくる。
まったく。油断も隙もありゃしない。
新しく起動した『散弾銃(ショットガン)』を、わたしはぶっ放した。射程は短めだけど、威力と攻撃範囲は大きい。自分から突っ込んでくるおバカさんを迎え撃つには最適だ。
勢いよくばら撒かれた弾丸が、少年の小さな体に喰らいつく。
「くっ……」
緑川くんだったらここで終わりだったけど、そこは流石と言うべきか。微妙に体をひねって致命傷を回避したらしい空閑くんは、片膝をついて地面に着地した。
「いやあ、危ない危ない。今の奇襲はちょっとヒヤってしたよ」
「……ほんとに、つまんないウソしかつかないね」
あきれたようにそう言う空閑くんは、何かを確認するみたいにわたしをじっと凝視する。
「それにしても……もしかしてあんた『アステロイド』しか使わんの?」
「お、気がついた? キミみたいに察しが良い少年は嫌いじゃないよ」
進んで自分から言うことでもないが、べつに隠すことでもない。わたしの『手の内』を看破したらしい彼に、ゆっくりと事実を告げる。
「そう。わたしが使う攻撃用トリガーは『通常弾(アステロイド)』だけ。もっとも、使う銃は四挺あるけどね」
機関砲、突撃銃、散弾銃、拳銃。それぞれの銃の特性と攻撃範囲(レンジ)を活かし、臨機応変に攻め立てる。
それが、点を獲る銃手という理想を突き詰めた、わたしのスタイルだ。
「あー、そういえば、ちゃんとした自己紹介がまだだったね」
バトルの途中だけど、改めて言わせてもらおう。
「ボーダーNo.1銃手(ガンナー)、音海綸。アステロイドの保有ポイントは『19982』。あらためてよろしく、空閑遊真くん」
「……道理で、手強いわけだ」
「そう? わたしは逆に拍子抜けだよ。期待のルーキーって聞いてたのに、実際はこんなものなのかな?」
わざとらしく首をかしげて、軽く煽る。
「まだ三本目だよ。それに、アンタの戦い方は大体分かった」
が、空閑くんは安い挑発には乗らず、おもむろにスコーピオンを構えなおした。
ふーん、こういう場面でちゃんと冷静になれるタイプか……
「イイね」
嗚呼、やっぱりランク戦はサイコーだ。
どんなに引き金を引いても、弾切れがない。どれだけ風穴を空けても、人が死なない。
「あんまり数字に拘る気はないんだけど、ちょうどキリよく『20000』にしたかったところだし……」
とびきり柔らかく、穏やかに。
「ポイント、もうちょっとだけちょーだい」
わたしは、少年に向かって微笑んだ。
つよい銃手を書いてみたかっただけです。