彼女は引き金を愛しすぎている   作:龍流

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今さらながら、更新です。
最近ガンゲイルオンラインを見て「あー、ピトさんと似てるわー」とか思ったり。


「優しさはヌルさだ。そのヌルさは引き金に一時の遅れをもたらす」というけれど、わたしに言わせれば優しさで指先が重くなることなど有り得ない

 わたしのことを『異常』だと言う人達が、ボーダー内にも一定数存在する。

 特に気にしたことはない。

 陰口を叩かれようが、調子にのっていると後ろ指を刺されようが、そんな些末な悪意に対して、意識と時間を割く方が無駄だ。一時期、ほんの少しだけ荒れていた時期に、いい加減煩わしかった彼らに対して『やりすぎて』しまったことがあるが、それ以降はきちんと自重している。

 例えば、犬が大好きなAさんという人がいたとして。

 例えば、犬が大嫌いなBさんから見れば、いつ噛みつくか分からない畜生を可愛がって飼い慣らしているAさんは、ただの異常者だ。

 わたしの場合も、同じこと。

 わたしはAさんで、わたし以外はBさん。そして大変残念というか、癪に障ることに、Bさんは1人ではない。わたしを取り囲む、圧倒的多数派である。基本的に民主主義である人間社会において、何よりも正義足り得るのは『数』だ。大多数の意志に否定されたものは、それだけで社会の中で『異常』と見なされる。

 わたしだって、女の子だ。

 かわいい洋服は好きだし、甘いお菓子も好きだ。恋だってしてみたいし、かっこいい男の人とは、付き合ってみたいなとも思う。人並みの女の子が抱くであろう人並みの願望を、わたしだって持っている。

 

 けれど。

 

 それ以上に。

 洋服よりもお菓子よりもかっこいい男の人よりも、

 

 

 

「アッハハハ!」

 

 

 

 引き金に指をかける、この感触が。

 視界を焼く、マズルフラッシュが。

 腕を強く揺らす、心地よい振動が。

 敵の脳天に、風穴を空ける快感が。

 

 

 わたしの心を、掴んで離さない。

 

 

「イイね!イイねイイね! よく粘るね!」

 

 突撃銃の乱射は、シールドで防御。要所で織り込む散弾銃の斉射は、グラスホッパーを絡めた空中機動で回避。本当に、空閑くんはよく動く。新人とは思えないくらいだ。

 いや、本当に新人ではないのかもしれない。

 とっても、楽しませてくれる。

 

「だったら、シールドをぶち破るまで撃ち込んで……」

 

 突きつけた銃口に、再びの防御姿勢。タイミングと体勢の問題から回避ではなく防御を選択した彼の目の前で、

 

「やるのは、ちょっと芸がないかなぁ?」

 

 わたしは右手の突撃銃を空中に置くようにして、手を離した。

 赤い瞳が、一杯に見開かれる。

 まるで手品のように。わたしはなによりも慣れ親しんできた太もものホルスターから、愛用の拳銃を一瞬で抜き出す。

 

「はい、バァン!」

 

 五発。

 撃ち込んだ『鉛弾(レッドバレット)』が青を基調とした隊服に、がっちりと食い込む。放り捨てた突撃銃を爪先で蹴り上げて、キャッチ。再び散弾銃と合わせて、もう動けない白髪頭にポイントする。

 

「……ほんと、強いね」

「好きこそモノの上手なれ、って諺があるでしょ?」

 

 これが、愛ってやつなのですよ。

 

「よぉし……四連勝!」

 

 吹き飛んだ頭に、はしたないとは分かっていても、思わず舌なめずり。

 さあさあ。記念すべき『通常弾(アステロイド)』2万ポイント達成まで、あともう少し。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「どうして、音海先輩はああなんでしょうね」

「あん?」

 

 木虎がふと漏らした呟きに、影浦はモニターから目を離した。

 

「正直に言って、私は音海先輩を尊敬しています。銃手としての基本は、ほとんどあの人から教わりましたし、わたしが限界を感じた『銃手』というポジションを貫き通して、あそこまで上り詰めていることに、一種の感動すら覚えます」

「かかっ! 珍しいなぁ。オメーが先輩を褒めるなんて」

「事実ですから。わたしは別に、音海先輩のことが嫌いなわけではありません。少し軽薄過ぎるきらいはありますが……明るく快活で、後輩の面倒をよくみてくれる。新入隊員の教育にも積極的な、理想の先輩だと思います。ただ……」

「ただ?」

「……こわいんです」

 

 木虎藍という少女は、よくも悪くもプライドが高い。そんな彼女がここまで人を称賛するのは、かなり珍しいことだ。そして、同時に……ここまで『何か』に対して怯えているのを、そんな自分を他人に対してさらけ出すのも、また珍しいことだった。

 

「音海先輩は、きっと銃が好きなんだと思います」

「知ってる」

「それを使ってトリオン兵を倒すことを、心の底から楽しんでいます」

「知ってる」

「どうして……あそこまで、ひとつの『モノ』に執着できるのか。私には分かりません。影浦先輩は、音海先輩が銃を好きな理由を聞いたことがありますか?」

「……知らねえ」

「私、聞いたことがあるんです」

 

 単純な問いだった。「わたしは〇〇が好きなんだ!」と、嬉しそうに語る相手に対して、その理由を問う、至極真っ当な質問。理由を聞いて、頷いて、共感して、それだけで終わるはずの簡単なやりとり。

 

「音海先輩は、どうして銃が好きなんですか、と」

 

 けれど、単純であるからこそ。それはおそらく、音海綸という人間の本質を突く、最も深い問いだった。

 

「悩む素振りすら見せずに、音海先輩は即答してくれました」

 

 本当に、花が咲くような純朴な笑顔で。彼女は言ったのだ。

 

 

 ――――綺麗だから。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 弾丸の雨が、コンクリートに風穴を穿つ。弾をばら撒く快感に浸るのと同時に、けれどターゲットに一発も命中しない苛立ちが、わたしの脳の裏側を焦がす。

 火事場の馬鹿力、というやつなのか。

 驚くべきことに。この土壇場にきて、空閑くんはさらに戦闘のギアを一段上げてきた。

 

「ははっ!すごいすごい」

 

 照準が合わない。狙いをずらされる。それでいて、愚直に確実に。わたしの懐に飛び込んで、距離を詰めてくる。わたしに、気持ちよく撃たせてくれない。

 さっきよりも、はやくなっている?

 いいや、違う。わたしの動きを、読み始めているんだ。

 

「うっとうしい動きだね! しつこい男の子は嫌われるぞっ! お姉さんからの忠告だ!」

「べつに、きらわれてもいいよ」

 

 うーん……

 

「生意気っ!」

 

 散弾銃を二連射。飛びのいて避けた空中、突撃銃を照準。発砲。これで、空閑くんの選択肢は二択。

 

 防御するか。

 

「そこ」

 

 グラスホッパーで、接近するか。

 

 すごいね。この状況で、選び取る行動がより大胆になっているなんて。

 踏み込んだ半透明の足場で、小さな体がぐんと加速する。突進を勢いを活かした一閃を、紙一重で回避。まったく持って肝が冷える。斬りつけられた頬から、うっすらとトリオンの煙が流出した。

 地面に着地した空閑くんと、わたしの視線が交差する。

 

 

「浅いか」

「お返し」

 

 

 でも、これでおしまい。

 ほぼゼロ距離。押しつけるようにして向けた散弾銃の銃口――――

 

 

「……っ!」

 

 

 ――――に、

 

 

「え」

 

 

 円柱状に形成されたスコーピオンが、突き刺さる。

 

「う?」

 

 軽い衝撃。トリガはもう引いてしまった。

 

 ガキン、と。

 

 異音が鳴って、

 

「うぇええええ!?」

 

 凄まじい衝撃と共に、銃身が弾け飛んだ。

 頭の中が、一瞬だけパニックになる。距離を取れ!と脳ではなく脊髄が。思考ではなく反射が叫ぶ。わたしの体はその命令に従って、背中を地面に転がした。

 

「あっぶないなぁ!もう!」

 

 銃口が歪なラッパみたいになってる散弾銃を放り捨てて、一瞬だけ考える。

 散弾銃を再生成するか。拳銃を抜くか。

 その一瞬、考える時間が欲しかっただけなのに、空閑くんは待ってくれない。追撃してきたスコーピオンを、悩む間もなく抜いた拳銃の銃床で受け止める。

 

「銃口にスコーピオンをぶち込んで暴発させるとか……きみも大概、クレイジーだねっ!」

「アンタにだけは言われたくないかな」

「減らない口だね。穴空けちゃうぞ?」

 

 とはいえ、これはまずい。

 散弾銃を潰された。再生成するのは簡単だけど、それには5秒ほどの時間がかかる。空閑くんほどの相手を前に、5秒の隙は致命的に過ぎる。だから、迂闊に再生成は行えない。

 けれど同時に。空閑くんのようなスピードタイプを相手取るのに、面制圧の散弾銃は生命線。使えないのは非常に痛い。

 

 強引に、距離をとるしかないか。

 

「ちょっと顔近いよ」

 

 鍔競り合いもどきをしていた銃床をぐっと押し込んで、あご先に膝蹴りを一発。浮いた体に横薙ぎの蹴りをもう一発。体が小さい空閑くんは、か弱いわたしの蹴りだけで、あっさりふっとんだ。

 よっし。今の内に散弾銃を再生成……

 

「ぇ?」

 

 ……できなかった。

 全身にをまさぐるような感覚に、鳥肌がたつ。蹴りをくらいながら、体勢を崩されながら、空中に体を放り出されながら。それでも、少年の赤い瞳は、わたしを見ていた。

 

 あ、ヤバい。

 

 瞬間。ブレードが、伸びた。

 まるで鞭のようにしなる光刃があっさりと両断する。わたしの右手首を。それこそ、バターでも切るみたいに。血の如く、勢いよく、トリオンが切られた場所から噴出する。

 

「それ、は」

 

 『マンティス』だ。

 スコーピオンを連結して、リーチを広げる特殊技術。影浦雅人が得意とする、ブレードトリガーの擬似的な『両攻撃(フルアタック)』。

 それを、この土壇場で。こんなタイミングで。あんな崩れた体勢から、やってのけた。

 

「腕さえ、落とせば」

 

 ニィ、と。

 口元が歪む。

 

「銃はもう、使えないでしょ?」

 

 その表情を見て確信する。

 

 この子は、本物だ。

 

 ルーキーなんかじゃない。本物の死線をくぐり抜けてきたこの子は、わたしなんかよりも……きっとずっと『本物』だ。

 理屈ではなく感覚で。そう理解できてしまった。

 

「……ぁあ」

 

 指先が震える。脊髄に沸騰したお湯を注ぎ込まれたみたいに、体が芯から熱くなる。

 

 ――――これは、ヤバい。

 

 この状況が、ではなく。

 わたしが、ヤバい。

 

 忍田さんには、我慢しろ、自制を覚えろと言われてきた。これまではちゃんと、その約束を守ってきた。けれど、これは駄目だ。これは厳しい。これを我慢しろというのは、ちょっと、あまりにも酷だ。

 

 だって、だってこんな……

 

「ごめんね、空閑くん」

 

 噴出するトリオン煙。嘘のようにキレイなその切断面を、わたしは一瞬だけ眺めて、

 

「今、なんて言ったの?」

 

 右足、踏み込み。

 切り落とされたその腕で、空閑くんの顔面を殴り抜いた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 空閑遊真は、父と共に近界の数え切れない戦場を渡り歩いてきた。

 父が死んでからも、父が遺した黒トリガーと共に、やはり戦い続けてきた。

 命のやりとりが行われる、本物の戦場だ。強い相手はいくらでもいた。狂った敵も数え切れないほどいた。時には仲間が『そうなって』、遊真が手を下したこともあった。

 

 だが、彼女は何だ?

 

 日常的に、近界民と戦っているとはいえ。命のやりとりまで行っているわけではない、ただの少女が。

 どうして、こんなにも。

 

「腕さえ、落とせば……銃はもう使えない? 空閑くん、頭大丈夫?」

 

 『ない腕』で顔面を打ち抜かれた遊真は、ほほを拭いながら立ち上がり、前を見る。

 彼女は、笑っていた。

 それはそれは、楽しそうに。

 

「その両目、よーく見開いてわたしをよく見なよ。まだ左腕があるでしょ? それともアレかな? 今の発言は、銃手は腕を落とされたら弱くなる、みたいな感じでわたしを煽ってるのかな? まー、そうだよねぇ。射手だったら、両腕落とされても普通に戦えるもんね。でもさぁ……」

 

 身が竦む。頭が、脳が、本能が、断固として理解を拒む。

 

「わたしに銃を手放させたかったら、両腕をもいで地面に這い蹲らせるくらいはしないとダメだよ。勝ち誇るのは、それからでも遅くない」

「……じゃあ、両腕をとったら、音海センパイは戦うの諦めるの?」

「うーん、どうだろう?」

 

 目の前の怪物は、少しだけ悩む素振りを見せて、

 

「もしかしたら、口で咥えて舌で引き金を引くかもしれないねぇ」

 

 また、笑う。

 

「……こわいね、まったく」

 

 何を考えているのか分からない。

 何をしてくるのか、分からない。

 戦場では、そんな相手が最もおそろしい。

 

(けど……片腕はもらった)

 

 どれだけ強がろうと、凄んでみせようと。腕一本を奪ったことによるアドバンテージは計り知れない。音海が得意とする銃型トリガー二丁の火力押しは、これで封じたといっていい。

 あとは、獲りにいくだけだ。

 

「最後に一本、もらうよ」

「どうぞどうぞ」

 

 その余裕を、

 

「やれるものなら、やってごらん」

 

 引き剥がす。

 

 グラスホッパーを起動。踏み込み、突進して遊真は勝負を決めにかかった。もう彼女は、先ほどまでの強烈な弾幕を張れない。故に、接近は造作もないことだった。

 

「もう飽きたよ、そのパターン」

 

 間合いは、完全にこちらのもの。

 だというのに、届かない。遊真が振るうスコーピオンは、シールドに阻まれ、体捌きでいなされ、全て無力化されてしまう。手応えが薄い。回避と判断の精度が、さらに上がっていた。

 

(まだ、本気じゃなかった……?)

 

 それとも、遊真が音海の攻撃パターンを把握したように。彼女も、こちらの攻撃パターンを理解し始めているのか。

 ぐっとかがんだ体から、ぐんと右脚が伸びる。今まで散々食らってきた、強烈な蹴撃。けれども、足癖が悪いのはもう嫌というほど理解させられた。早々何度も、食らってやる義理はない。遊真はスコーピオンを逆手に持ち替え、下からの切り上げで蹴りを迎撃した。

 

 右腕の次は、右脚も貰う。

 

「それは、さっき見た」

「うん知ってる」

 

 だが、切れない。

 手応えはあった。細く長い脛に確かに食い込んだスコーピオンはトリオンの煙をまき散らす。しかしそれ以上刃は進まず、何故か硬質な感触と共に押し戻されて、遊馬の顔面を彼女のつま先が踏み砕いた。

 トリオン体に痛覚はない。それでも、顔面を打たれたショックはデカい。衝撃に抗わず、体を後ろへ流しながら、遊真は思考する。スコーピオンが止められた。ブレードは途中まで入ったのに、何かに受け止められた。

 なぜ? どうして?

 

「……脚の中に、シールド?」

「大、正、解! そらご褒美だよっ!」

 

 黒い弾丸の連射。避けきれない。そう判断して、腕に数発をもらう。錘が実体化し、うそのように重くなった右腕を、遊真は左手のスコーピオンで瞬時に切り落とした。

 

「あはっはは……いい判断だ」

 

 白い指先が、ハンドガンをくるくると回す。明らかに、先ほどまでとは違う。熱に浮かされているような澱んだ瞳が、遊真を捉えて離さない。

 

「これでお揃いだねぇ」

 

 

 ――――イカレている。

 

 

 これ以上、長引かせるのは危険だ。もうこれ以上、彼女を調子づかせるわけにはいかない。

 遊真は、切り札を切ることを迷わなかった。

 右腕と左腕。両手のスコーピオンを同時起動。二つの刃を繋げ、伸ばし、届かせるイメージを頭の中で描く。手のひらを広げ、左腕を伸ばして、

 

「届け」

 

 マンティス。

 

「あ」

 

 獲物を求める光刃が、獰猛に喰らいつく。

 咄嗟に身を屈め、首筋を刈り取るその一閃を回避しようとした彼女の顔面を、マンティスは見事に抉り抜いた。ぶじゅり、と。何かが潰れるような音を伴って、眼球だったモノが地面に落ちる。

 その瞬間に、遊真は確信した。

 

「両手、使ったね」

 

 己の、敗北を。

 放たれた弾丸は、これまでのどの攻撃よりも正確で。

 たった一撃。たった一発で、遊真の供給器官を正確に撃ち貫いた。

 

『供給器官破損』

 

 膝を突き、前に倒れこみながら、遊真はそれでも前を見る。

 自分を撃ち殺した相手は、潰された片目を抑えようともせず、こちらを見下ろしていた。

 

「はぁ……気持ちよかった」

 

 荒く息を吐いて。

 朗らかに、頬を紅潮させて。

 

「ありがとう。めちゃくちゃ楽しかったよ」

 

 音海綸は、空閑遊真に心からの感謝の言葉を述べた。

 

 

『活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)』

 

 総合スコア、0対5。

 新参のルーキーを一方的に、徹底的に叩きのめすという形で、ある日の午後に行われた模擬戦は、その幕を下した。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「ろくろーくん! 勝ったよー! 圧勝だよ!」

「のわぁ! 音海先輩!近い!近いです!抱きつかないでください!?」

「見てたかい!? 目に焼き付けたかい? このわたしの活躍を! さあさあ!師匠を称えてくれていいんだよ!褒めてくれていいんだよ! かわいくて強い師匠を、崇め奉ってくれちゃって構わないだよ!」

「わかったから! わかりましたから、離れてください!」

 

 もーう、ろくろーくんったら照れちゃってかわいいなぁ。久々においしい勝負でテンション上がってるんだから、ちょっとくらい抱きついたっていいじゃんねー?

 

「おとみ先輩」

「お、空閑くん」

「ありがとうございました。いろいろ勉強になりました」

 

 そう言いながら、戦闘体から私服のパーカーに戻っている空閑くんはペコリと頭を下げた。勝負が終わったあとに負けた相手にお礼を言うなんて、それが礼儀だとしても中々できない。うんうん、感心感心。

 抱き着いていたろくろーくんをほっぽりだして、わたしは空閑くんに向き直った。

 

「こちらこそ。ひさしぶりに有意義な勝負ができたよ。ありがとうね」

「いえいえ。ガンナーで強い人と戦ったことがなかったので、いい経験になりました」

「お? 空閑くんも銃手に興味出てきた? ポジション転向しちゃう?」

「いえ、それはおかまいなく」

「えー、つれないなぁ」

 

 大人げなくぶーたれるわたしに、空閑くんは笑みを崩さないまま、

 

「ねぇ、おとみ先輩。いっこ質問してもいい?」

「なに?」

「なんで最後、一発だけで俺を仕留めたの? マンティス使ってたから、シールドは張れなかったけど……それでも何発か撃ちこんだほうがぜったいにおれを倒せたでしょ?」

「ああ、そんなこと?」

 

 何を言うのかと思えば。

 

「そりゃあもちろん、一発で殺した方が気持ちよかったからだよ」

 

 わたしは撃ちまくるのも大好きだけど。

 洗練された一発で、相手の急所を撃ち抜いてやるのも、大好物なのだ。

 

「……なるほど」

「あー、空閑。悪く思わんでくれ。こういう人なんだ」

「いいよ。それはさっき戦っててよく分かったし」

 

 けど、と空閑くんは言葉を繋げて、

 

「もういっこ、質問いい?」

「どうぞどうそ」

「おとみ先輩はさ」

「うん」

「何のために『トリガー』使ってんの? 街を守るため? 仇を討つため? 近界民を倒すため?」

「……ふふん?」

 

 ほんの少しだけ、興が削がれる。

 それは、よくある質問だった。腐るほど投げかけられてきた、くだらない質問だった。

 

 わたしが思うに。

 人は『異常』であることに答えを求めたがる。

 何か理由があるはずだ。何か答えがあるはずだ、と。理解できないソレを、己の価値観の中に無理矢理にでも押し込めようとする。

 共感することは素晴らしい。理解し合うことは大切だ。言葉を尽くして語りあって、そうして互いを思いやり、支えあうのが人間という生き物なのだから。

 

 だからこそ、やはりわたしはきっと理解されないのだろう。

 

 共感を許さず、理解を拒み、相手を否定するために、弾丸を吐き出して命を奪う。それが、わたしが大好きな『銃』という道具なのだから。

 

 この子に、ウソをついても仕方ない。

 

「そんなの、決まってるじゃん」

 

 わたしは、銃を愛している。

 多くの人間が『守るため』に『仕方なく』と言い訳を重ねながら手に取る銃を、わたしは喜び勇んで握り占める。

 好きだからだ。

 堪らなく、気持ちいいからだ。

 

 多くのものを『殺すため』に『己の都合』を声高に主張しながらトリガーに指をかける。その一瞬の高揚が、何ものにも代え難い快感だからだ。

 

 だから、素直に。正直に。

 わたしは、答えた。

 

「『引き金』を引くためだよ」

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