彼女は引き金を愛しすぎている   作:龍流

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「今どき聖人だってアサルトライフルで武装し、神の愛を説きながらぶっ放す」そうなので、女子高生が満面の笑みで銃を撃っていたとしても、特におかしくはないと思う

「というわけで、昨日はなかなか有意義な1日だったんだよね~」

 

 空閑くんと激しくやった(意味深)翌日。

 わたしは昨日の素晴らしい戦いの一部始終を、目に前に座る男に語って聞かせていた。

 

「そうか。お前も空閑とやったのか……強かったろ?」

「いやぁ、強かったね。最後はカゲカゲの『マンティス』で右目抉られたし。かなり苦戦させられたよ。あの子はこれから、確実に伸びると思うなー」

「俺もそう思う。で、結局何本勝負で、何本取られたんだ?」

「ありゃ? 言ってなかったっけ? 5本勝負でわたしが全勝」

「……このバケモン女が」

 

 非常に失礼なことを言いながら、呆れたように天井を仰ぐコイツの名前は、荒船哲次。B級荒船隊の隊長にして、狙撃手兼攻撃手というボーダー内でも一風変わったポジションに位置する帽子が似合うナイスガイだ。映画好きで、特にアクション映画に精通しているので、基本的に『火薬をふんだんに使って爆発するシーン』がある映画しか観ないわたしとは、とても趣味が合う。

 ちなみに今日は平日。普通に学校がある日であり、ついでにわたしがいるのは荒船の教室で、さらに言うなら昼休み中なので、自慢じゃないけどそこそこ高い顔面偏差値を誇っているわたし達は、

 

「荒船くんと音海さんって付き合ってるの?」

「マジかよー。おれ、音海さん結構タイプだったのに」

「やめとけやめとけ。なんか音海さんって、トリガー持つと性格変わるらしいぜ」

「マジかよこわっ……」

 

 などと好き勝手にコソコソ言われて注目を集めていたが、特に気にしていないので無問題である。

 

「音海。お前、苦戦って日本語の意味理解してるか? 辞書持ってきて引いてやろうか?」

「うっさいなあ。全勝はしたけど、結構危ない場面が何度かあったんだよ」

「で、テンション上がって調子に乗って、またやり過ぎちまった、と」

「……や、やりすぎてないもん」

 

 鋭い指摘に声が上擦った。食後のフルーツジュースを飲みながら、思わず目をそらす。

 

「本当か? ガトリングでぶん殴ったり、顔面に銃口ぶち込んだり、鉛弾(レッドバレット)で動き止めたところに満面の笑み浮かべながら弾丸ぶち込んだりしてないか? 絶対してるだろ?」

 

 ぜ、全部やっちゃった……

 ていうかこうして言われてみると、わたしいろいろぶち込み過ぎ(意味深)じゃない? いや、ぶち込むって言い方がよくないんだね、多分。うん。

 

「お前なぁ。ただでさえ戦い方がえげつねーんだから、ちょっとは自重しろよ。正隊員はともかく、またC級に悪い噂が立つぞ」

「大丈夫だよ! 空閑くんって何か戦い慣れてる感じだったし! 緑川くんの時みたいにそこまでトラウマにはなんないって!」

「空閑とは仲良くなったのか?」

「ううん、全然! なんか面と向かって『つまんないウソつくね』って言われたし、どっちかって言うと嫌われたっぽい!」

「ダメじゃねーか!」

 

 バシーン!と丸めた教科書で頭を叩かれる。

 うう……暴力反対だ。コイツめ、DVで訴えてやろうか。

 

「ったく……どうしてお前は毎回毎回、有望な新人が来たら喧嘩売りに行くんだ?」

「えー。だって、新人の内なら他の武器使ってても、無理やり銃手の道に引きずり込めるかもしれないじゃん。あと、強い子はとりあえず一回戦って味見して、殺しときたいし」

「とりあえず殺すとか言うな。お前の前世はアマゾネスか何かか?」

「いや、アマゾネスじゃ銃使えないし。どっちかっていうと弓じゃない?」

「そういう問題じゃねぇ……」

 

 また頭を抱える荒船は、やれやれと深い溜め息を履く。

 とはいえ、コイツはボーダー隊員の中でも生粋の理論派である。わたしの評判について優等生らしくお小言は垂れるものの、やはり模擬戦の内容には興味があるらしい。

 

「で、今回はどの装備で空閑とやったんだ?」

 

 やっぱり気になるのそこなんだー、と思いつつ、わたしは飲み終えたジュースのブリックパックからストローを引き抜いた。

 

「至ってシンプルな『通常弾(アステロイド)』特化のトリガーセットだよ。ハンドガンと『鉛弾(レッドバレット)』入れてるやつ」

「感想は?」

「んー。やっぱ素早い攻撃手相手だと、どうしても『機関砲(ガトリング)』が死に札になっちゃうかなぁ。火力は高いし、弾をバラまいて面制圧できるからトリオンに余裕あるなら間違いなく強いんだけど、どうしても機動力が死ぬからね。動きを抑えるだけなら『散弾銃(ショットガン)』でいいし」

 

 タバコよろしくストローを咥えこんで底に残っているジュースをちゅっとすすり、両手でパックを解体して畳む。

 

「そっちじゃなくて『全弾銃装(フルバレット)』使えばよかったんじゃないか? 個人で暴れるならアステロイドオンリーの構成より、あっちの方がいいだろ」

「あっちの『トリガー』、この前の襲撃防衛の時に使っていろいろ調整中なんだよね」

「あー、なるほどな」

「そういえば荒船、あの時大丈夫だったの? 犬型のトリオン兵いたけど?」

 

 わたしの何気ない疑問にイヤなことを思い出したのか、荒船の表情が苦いものに変わる。

 話題に出したのは、先日の夜に発生した防衛任務の件。なんでも、大規模侵攻で攻めてきた『アフトクラトル』の属国が性懲りもなく攻め込んできたらしく、手が空いている正隊員を総動員して迎撃する、そこそこの規模の戦闘になった。ちょうど、我が愛弟子ろくろーくんが、玉狛第二の新戦術にランク戦でボコボコにやられている時のことである。

 で、その際。敵が投入してきたトリオン兵の中には『犬型』の量産タイプがいたのだけれど……何を隠そうこの男、犬が大の苦手という致命的弱点があるのだ。

 

「……あれは見た目が犬っぽいってだけだからな。気合いで耐えながらぶった斬った」

 

 それに屋上組は近接やれるやつがいなかったからな……と、どこか遠い目で語る荒船。わたしはそっちの戦場にはいなかったけど、いろいろ大変だったみたいですねぇ。

 

「大規模侵攻が終わったばっかだっていうのに、またすぐに襲撃なんて物騒だよねー。こわいこわい」

「ウソつけ、なに言ってんだ。どうせお前は「敵がきたら戦える機会が増えてラッキー」くらいにしか思ってないだろ」

「すごいどうしてわかったの?」

「……物騒なのはお前の頭の中だな」

 

 焼きそばパンを食べ終えた荒船は、また深く息を吐きながらビニールの包みをゴミ箱に放る。わたしもブリックパックをシュート!して、綺麗に入れた。

 

「まぁとりあえず、お前は嵐山さんや忍田さんにこってり絞られてこい」

「大丈夫。忍田さんにはもう怒られたよ」

「お前それ大丈夫じゃないからな。確実に嵐山さんにも話行ってるじゃねーか」

「大丈夫だって。最近、准さん忙しいし。そんなわたしに割いてる時間ないよ」

「ていうかお前、地味に嵐山さん苦手だよな」

「うーん……准さんには、ボーダー入り立ての頃からお世話になってるからねぇ。なんか頭上がらないというか……ていうか、准さんがわたしに対して厳しすぎるというか……なんでだろ?」

「問題児だからだろ」

「やっぱあれかな? 好きな女の子には思わずいじわるしたくなっちゃう……みたいな、男の子特有のそういうアレかな?」

「お前それ、嵐山隊のファンの前で言ってみろ。袋叩きにされっからな?」

「あっははー。気をつけまーす……ん?」

 

 おっと、ポケットに振動だ。

 

「ちょいと失礼するね」

「嵐山さんじゃないのか?」

「そういう笑えない冗談いらないから」

 

 スマホの画面を見てみると『諏訪さん』の文字が踊っていた。ちなみに、風間さん達とお酒飲み過ぎて顔が死んでる時の写真を登録してある。アホ面過ぎておもしろい。

 それにしても、まだ学校がある時間帯に電話がかかってくるなんて珍しい。今日は夕方から諏訪隊と組んで防衛任務の予定のはずだけど……何かシフトに変更でもあったのかな?

 

「はいはーい。音海でーす」

『おう。今、大丈夫か?』

「ちょうどお昼休みなんで、大丈夫ですよー。今、荒船とご飯食べてます」

『お? なんだお前らそういう関係か?』

「切りますね」

『冗談だよ本気にすんなよ!』

 

 見た目は強面だけど、諏訪さんはからかい甲斐があって楽しいなぁ。

 

「で、ご用件は何です?」

『ああ。わりぃんだけどよー。今日の防衛任務、シフトがちょっと変更になってな。お前と組む隊が代わることになった』

「……どこです?」

『嵐山隊だ』

 

 電話を叩き切った。

 

「オーマイガッ!!」

 

 頭を抱える。

 

「どうしよう!? どうしよう荒船!」

「どうした?」

「防衛任務のシフト、嵐山隊に代わっちゃった!?」

「……ドンマイ」

「そうだ! 今日のシフト代わってよ!」

「悪いな。今日は前から楽しみにしていた作品の封切りなんだ」

「またべつの日でいいじゃん! それともなに? 誰かと一緒に観る約束でもしてるの!?」

「いいや、べつに。本当に好きな作品は最初は1人で観るって決めてるからな」

「このバカ! 映画オタク! それならほんとにまた今度でいいじゃん! わたしという美少女が映画デートに付き合ってあげようって言っているんだよ? その好意を受け取ろうよ!」

「自分で自分のことを美少女とかぬかす女はノーサンキューだ」

「…………今度、犬借りてきて追い回してやるからな。覚えとけよ」

「おいやめろ逆恨みすんな!?」

 

 

◇◆◇◆

 

 

 学校が終わった後。わたしは家には帰らず、直接嵐山隊の作戦室に向かった。

 そろーり、そろーり、と。

 

「……こ、こにゃにゃちはー」

 

 抜き足差し足。小声でご挨拶しながらドアを開ける。すると、ピンとしたきれいな姿勢でデスクワークに勤しんでいた背中が、こちらに振り返った。

 

「あ、綸さん!」

「遥ちゃーん。ひさしぶり」

 

 嵐山隊オペレーター、綾辻遥。セミロングの茶髪が可愛らしい、一般市民にもボーダー男子にも『嵐山隊のきれいなお姉さん』として親しまれているしっかり者だ。遥ちゃんの声で気がついたのか、ソファーの方からもにゅっと頭が伸びる。見事なマッシュルームヘアの彼は時枝充。准さんの右腕的ポジションの、遥ちゃんとはまた別ベクトルに『デキるヤツ』である。

 

「音海先輩。どうも」

「トッキーもおひさしぶりだね。ところで、その……准さんは……?」

「嵐山さんなら、まだ開発部の方に。『テレポーター』関連のテストで、雑務が残っているそうです」

「……そっかぁ」

「よかったですね」

「な、なにが!? わたし、ひさしぶりに准さんにはやく会いたいんだけどな!」

「バレバレのウソなんて吐いても、意味がないですよ音海先輩」

「あ、あいちゃん……」

 

 奥からはいつもの辛口発言と共にあいちゃんが顔を出す。ということは、准さん以外はもう全員揃ってるんだね。

 わたしは、頼れる後輩に早速すがりついた。

 

「あいちゃーん。証人になってよー。わたしはべつに空閑くんをいじめて新人潰ししていたわけじゃないって! ふつうにいい勝負してただけだって!」

「ええ、嵐山さんにはきちんと伝えますよ。音海先輩はルーキー相手にまた一方的なワンサイドゲームを展開していたって」

「そんなぁ……それじゃあ、わたしがまるでとち狂ったバトルジャンキーみたいじゃ……」

「音海先輩。次からは鏡で自分の顔を確認しながら模擬戦してください」

 

 辛い! いつにも増してあいちゃんの皮肉が辛い!

 

「もうダメだぁ……おしまいだぁ……あいちゃん、胸もませて」

「追い詰められているのは分かりますけど、脈絡なくセクハラしようとするのやめていただけませんか?」

「えー、じゃあ遥ちゃんで我慢するよ」

「ダメですよ、綸さん」

「そういえばここに、准さんの機嫌を少しでも取るために買ってきたいいとこのどら焼きがあるんだけど」

「……」

「なんでちょっと悩んでいるんですか綾辻先輩!?」

「そういえば、あいちゃん。わたし、トリマルくんの防衛任務のシフト持ってるんだけど」

「か、烏丸先輩の!?」

 

 まるで氷のように冷たかったあいちゃんの表情に、一瞬で朱が差す。

 ふふーん……まさかわたしが、何の考えもなしに准さんに怒られに来るわけがないでしょうよ。持つべきは賄賂、持つべきは策略! なるべく味方を多く引き込んで、周到に姑息に准さんのご機嫌取りに協力して、

 

 

 

 

「はやかったな、音海」

 

 

 

 

 協力して……もら……いたかったなぁ。

 

 

 

 

 たっぷり10秒。

 後ろを振り向く勇気を振り絞るのには、それだけの時間がかかった。わたしは油が切れたロボットの如く、首だけを動かして背後の声の主を確認する。

 やや癖のついた黒髪に、目鼻立ちがくっきりとした体育会系の爽やかなオーラ。優しいイケメンの権化とでも言うべき人物は、こちらを見詰めてそれはもう本当にコワイくらいにイイ笑顔を浮かべていた。

 

「じゅ、准さん……」

「ひさしぶりだな。音海」

「はい!お久しぶりですね! えっと、その、本日はお日柄もよく……」

「昨日」

「っ!?」

「空閑くんと戦ったらしいじゃないか」

「は、ひゃい……」

 

 やだやだやだやだ!

 絶対怒ってるじゃん!間違いなく怒ってるじゃん!

 

「なんで音海先輩って、嵐山先輩にあんなに弱いんですか?」

「嵐山さん、綸ちゃんが入隊したころからの付き合いだからね~」

「音海先輩に釘を差せる、数少ない人物の1人だし」

 

 ちくしょう!外野が好き勝手言ってる!

 

「音海」

「はい!」

「まずは座れ」

「はい! ……あれ? でも防衛任務は……?」

「ああ。おれ達と防衛任務っていうのは嘘だ」

「え?」

「諏訪さんに一芝居打ってもらった。こうでもしないと、お前とちゃんと話す機会を作れないからな」

 

 また憎らしいくらいの爽やか笑顔で、嵐山さんは悪びれもせず言い切った。

 だ、だましたなぁ!?(小南感)

 

「ん? どこに座ってるんだ。音海」

「え? 座りましたけど……?」

 

 わたしが首を傾げると、嵐山さんはちょいちょいと下を指差して。

 

 

 

 

「正座」

 

 

 

 

 

 やっぱめっちゃ怒ってるじゃないですかやだー!?

 

 

◇◆◇◆

 

 

 嵐山准は、音海綸とはじめて出会った日のことを忘れない。

 遡ること3年前。まだ、今の嵐山隊ができる前。ボーダー設立から約一年……チームに柿崎がいて、時枝や佐鳥が入隊したばかりの頃である。嵐山は入隊募集組の教育に加えて、各地を回って集めたトリオン能力の高い人材……今で言う『スカウト組』の教育も任されるようになっていた。

 

「今回はすごいぞ。かなりの有望株が2人もいる」

「そうなんですか?」

「ああ。なんでも、トリオン量が二宮並みらしい」

「それは……たしかにすごいですね」

 

 当時、後にA級1位となる東隊を率いていた東春秋も、大いに期待を膨らませていた。

 だから嵐山も、彼らの入隊を楽しみにしていたのだ。

 

 自己紹介も兼ねて、彼らが『ボーダーに入隊した動機』を聞くまでは。

 

「えーと……出水公平っす。中学二年生です。あんま難しいこととかは分からないんですけど……まあ、悪い侵略者と戦う才能があるなら、がんばってみるかって思いました。よろしくお願いします」

 

 1人目の少年が至って簡素な自己紹介を終え、その少女は跳ねるようにピョンと前に出た。

 肩まで伸ばされた天然の茶髪に、クリっとした瞳。中学生特有のあどけなさがまだ残っているものの、将来は必ず美人になる……そんな雰囲気を持った彼女が満面の笑みを浮かべれば、その場にいた全員の視線が惹きつけられるのは、もはや必然だった。

 

「ハイ! 音海綸。中学三年生です!」

 

 元気に手を伸ばし、そのまま手のひらを顔の横に持ってきた少女は、おどけたように敬礼をしてみせて、

 

 

 

「銃が撃ちたくてボーダーに入りました! よろしくお願いします!」

 

 

 その、天真爛漫な笑顔に。

 

 

 

 ―――ヤバいヤツが来た、と。嵐山は確信した。




気が付いたら過去編に突入していた。何を言っているかわからねーと思うが、ポルナレフ状態です。
そろそろ短編タグが外れる予感。10話くらいでまとまる気はしてます。
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