彼女は引き金を愛しすぎている   作:龍流

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過去編
ボーダー日記 一発目


 〇月✕日 (月曜日)

 

 今日から、日記をつけようと思う。記念すべき、ボーダーの入隊日。新しい街での、新しい生活のスタートだ。これから一人暮らしも始まるわけだし、自分を律するためにも、一つの節目としてペンを手に取ったわたしである。まる。

 さて。人間という生き物は、テンションが上がると何をするか分からないものだ。

 わたしは大勢の前に出て視線に晒されたとしても、全然緊張しないタイプである。劇の主役になろうが、運動会のリレーでアンカーになろうが、特に緊張というものを感じたことはない。なので、これからご指導を賜るであろう先輩方と、これから共に切磋琢磨していくであろう同期入隊のみなさんに見詰められて、身体が強張ったとか気が動転したとか、そういうことはまったくなかった。

 

「銃が撃ちたくてボーダー入りました! よろしくお願いします!」

 

 ただ、テンションが上がりすぎて本音を口走ってしまっただけなのだ。

 困惑に固まる皆さんの表情を見て、わたしは自分がやっちまったことを確信した、許されるなら、冗談だよ!てへぺろ!ってしたかった。無理だけど。

 

「銃が撃ちたい……?」

「なにあの子?」

「入隊理由がそれかよ」

「なんか不真面目じゃない?」

 

 ハイ、やってしまいましたー。これから高校デビューも控えているのに、完璧にボーダーデビューをミスってしまいました。

 

「くくっ……あっははははは!」

 

 不幸中の幸いだったのは、いや~な感じになりかけていた空気に水を差すように。1人の男の子が遠慮なく笑い声をあげてくれたことだった。

 

「……どうかしたか? 出水くん」

「ははっ……いや、すんません。なんつーか、ちょっとあまりにも理由が直接的で正直過ぎたもんで、ツボに入っちゃいました」

 

 そんなやりとりをしながら、ぺこり、と出水くんは頭を下げて、

 

「オリエンテーション中にふざけてすいませんでした。続けてください、嵐山さん」

「……いや、大丈夫だ。それじゃあ、自己紹介を続けよう」

 

 と、特にわたしの不用意な発言力を追求する流れにならなかったのは、大変ありがたかった。

 結局、その日は自己紹介と簡単な書類の処理を終えて、本格的にトリガーに触るのは次回から、ということに。帰り際、出水くんに

 

「助かったよ~」

 

 とお礼を言うと、

 

「いえいえ。これからよろしくお願いします。音海先輩」

 

 そつなく返された。いい子である。下の名前で呼んでいいよ、むしろそうして?と、わたしが言うと、彼は少し照れながら、

 

「じゃあ、イト先輩」

 

 と、返してくれた。ボーダー入隊初日。同期ではあるけど、かわいい後輩が早速できて、幸先がいいスタートだった。

 

 

 

〇月△日 (火曜日)

 

 

 ヤバい。ボーダー超楽しい。

 入隊2日目。わたし達は早速、ボーダー隊員として戦うための装備……『トリガー』に触れた。事前に説明を受けていたので、戦闘体への換装は滞りなく終わった。体が入れ替わる感覚にはちょっとびっくりしたけど、慣れれば大丈夫そうだ。軽く走ってみただけでも足が軽くて、垂直にジャンプするだけでも生身よりずっと高く跳べる。なんというか「ああ、この体は戦うための体なんだな」と、実感した。

 イケメン指導員の嵐山さんは、好き勝手に走ったり跳ねたりしてるわたしを見て「音海はトリオン体の操作がうまいな。素質がある」って言ってくれた。イケメンに誉められて、嬉しくない女の子はいない。わたしは素直に喜んだ。

 

 さてさて。ある程度トリオン体での運動に慣れたところで……お待ちかねの武器選びの時間だ。

 何でも、訓練生のトリガーは訓練用に出力を落としてあるので、武装をひとつしかセットできないらしい。複数の武器をトリガースロットに装備できるようになるのは、正隊員になってから。しばらく、二丁拳銃とかはお預けですね、残念。

 嵐山さん曰わく、わたし達の訓練用トリガーにはそれぞれの適性を鑑みて、武装が選ばれているらしい。後から自分の好きな武器に変えることももちろんできるけど、まずはその装備を試してみてほしい……とは、嵐山さんの隣に立っているロン毛お兄さんの談。

 

 わたしに用意された武器は、やや大型の『突撃銃(アサルトライフル)』だった。

 

 手のひらにくっきりと吸い尽く、グリップの感触。心地よい重量感。のっぺりとした無骨な黒色。弾装がない以外は普通の銃と大差ないデザインではあったけれど、逆にその如何にも『量産品』的な見た目が、わたしの心を強く撃ち抜いた。

 

 ふぉおおおおおおおお!?と叫びそうになったのを堪えた、己の自制心を、本当に褒めてあげたい。

 

 その後、早速トリオン兵との実戦訓練を行った。近接戦闘用のブレード持ちと、わたしのように銃を持っている人間の比率は、大体半々くらいだった。あとは、何人かふわふわした弾を直接撃っている人がいたくらいだ。たしか射手(シューター)とかいう名前のポジションで、わたしが使っている銃手(ガンナー)用のトリガーの元になったのが、射手のトリガーらしい。そういえば、出水くんもふわふわした弾を使っていた気がする。

 わたしの記録は、12秒03だった。かなり優秀な記録らしく、また嵐山さんとロン毛お兄さんに褒めてもらえた。えっへん。ただ、トリオン兵を倒した後も、好き勝手に連射し続けたので、それについては怒られた。ゴメンナサイ……

 そういえば、出水くんとわたしのトリオン量は、今期入隊の隊員の中でもトップクラスらしい。せっかくだし、明日は出水くんを銃手に誘ってみよう。

 

 

 〇月◇日 (水曜日)

 

 出水くんに「銃手(ガンナー)やろうぜ!」って声をかけてみた。でも、

 

「いや、オレはシューターの方が性にあってるんで大丈夫っす」

 

 と、断られた。悲しい……

 

 

 

 

 

 〇月☆日 (金曜日)

 

 

 出水くんにまた勧誘を断られた。悲しい。

 

 

 

 

 〇月▽日 (土曜日)

 

 出水くんをまた誘ってみた。ダメだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〇月★日 (月曜日)

 

 入隊から一週間。出水くんと明日、タイマンでガチバトルをすることになった。

 あんにゃろう、ハチの巣にしてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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