彼女は引き金を愛しすぎている   作:龍流

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ボーダー日記 三発目

 ■月▽日 (木曜日)

 

 トリオン体での戦闘のコツが、ようやく掴めてきた。

 風間さんとの練習を重ねていく中で(後輩だと勘違いしていたことを素直に謝ったら、カツカレーおごってくれた。意外と優しい)、攻撃手への対応の仕方がなんとなく分かってきたのだ。まず大前提として、なるべく接近されない。当たり前と言っちゃ当たり前かもしれないけど、間合いをコントロールして主導権を握る。銃手の強みは射程だから、これは絶対に必須事項だ。でないと、火力的には分が悪いブレードトリガーに一方的にやられてしまう。

 そう。おかしな言い方だが、わたしが扱う銃型トリガー……というか『通常弾』は『弧月』に火力で負けている。剣には火力もクソもないとは思うんだけど、要するにアレだ。銃弾一発よりも、剣でぶった斬った方がトリオン体は殺しやすいのだ。風間さん曰く、

 

「正隊員になれば、シールドはもちろん、他のトリガーも組み合わせて使えるようになる。射程とトリオン量に甘えた戦い方をしていると、正隊員になった後に足元を掬われるぞ」

 

 とのこと。風間さんのアドバイスはわたしの弱いところを的確に突いてくるので、とても勉強になる。風間さんすごい……わたしよりもちっちゃいのに。

 そんなわけで、風間さんのアドバイスを基にちょっとトリガーを持ち替えてみた。とはいえ、わたしは銃型以外のトリガーには欠片も興味がないので、ブレードトリガーやシュータースタイルに手を出す気は微塵もなかった。ミジンコもなかった。なので、変えたのは銃型トリガーの種類である。

 わたしが新しく使い始めた拳銃タイプは、今まで使っていた突撃銃タイプに比べると、お世辞にも火力が高いとは言えない。連射性能は落ちているし、単発の威力もそこまで変わらない。なんだ、やっぱりハンドガンよりアサルトライフルの方が強いじゃないか……と、そう思ってしまうかもしれないけど、そんなことはない。正式な装備として採用されているだけあって、ハンドガンにはハンドガン特有の強みがきちんとあった。

 まず、小型で取り回しが容易な点。生身よりも大幅に身体能力が上がっているトリオン体なら、装備する武器の重量をいちいち気にする必要はない……そう思いがちだけど、近接戦闘では一瞬の反応の遅れが命取りになる。もちろん、基本的に距離を取って戦うべき銃手は、そもそも攻撃手の接近を許してはいけない。でも現実はそんな思い通りにはいかないわけで、ブレードの間合いまで距離を詰められるシチュエーションはどうしても発生する。そんな時は、大型で取り回しにやや難がある突撃銃よりも、コンパクトにまとまっている拳銃の方が使用に適しているというわけだ。

 さらにもう一点。わたしには関係ないけど、見逃せない大きな利点がある。それは、トリオンの消費量だ。突撃銃は連射性能に比重を置いている分、どうしても早いペースでトリオンを吐き出してしまう。噴進剤やカバー云々といった弾丸の構造のせいで、トリオンの弾丸はトリオンの刃と比べて、非常に燃費がよろしくない。わたしや出水くんみたいにトリオン量に十分な余裕がある人ならいざ知らず、平均より低いトリオン量の人がバリバリと考えなしに連射すれば、普通、トリオンの銃では心配する必要がない『弾切れ』に陥る可能性もある。戦場で弾切れに陥るとか、おそろしくて考えたくもない。死ねって言われているようなものだよ、マジで。

 だけど、拳銃タイプの銃型トリガーはトリオンの消費量が少ない。弾丸を発射するための装置である『拳銃』本体がコンパクトな分、武器生成にかかるコストも突撃銃に比べて抑えられている。要するに、トリオン量が少なくても安心して運用できるのだ。誰でも使えるっていうのは、優れた量産兵器の必須事項。それをきちんと満たしている拳銃タイプは、これから使用者が増えてくるトリガーだとわたしは思っている。例えば、スピードタイプの攻撃手が遠距離でも攻撃可能な武器を欲した時、分割、発射、照準の諸元入力が必要なトリオンキューブの弾丸よりも、重くて扱いにくい突撃銃よりも、片手で引き抜いてそのまま扱える拳銃が最有力候補に成り得る。

 通常弾以外の新しい弾丸も少しずつ開発されているみたいだし、拳銃の利点を活かした銃手の戦い方ってやつを考えた方がいいのかもしれない……などと思考に耽りつつ、ペンを置くわたしであった。まる。

 

 

 

 ■月★△日 (日曜日)

 今日は食堂で、嵐山さんとたくさんお話した。

 わたしが朝っぱらからボーダー訓練用の秘密ノートを書き書きしていると、

 

「本当に熱心だな、音海は」

 

 などと言いながら、わたしの目の前の席に当たり前のように座ったので「これがナチュラル歌のお兄さん系イケメンか……」と、朝っぱらから戦慄する羽目になった。おそるべし、イケメン。

 べつに熱心じゃないですよ、と言葉を返すと嵐山さんは苦笑いを浮かべた。

 

「熱心だよ。平日はもちろん、休日もこんな朝早くから本部にきて。しかも実技訓練だけじゃなく、そうやって学んだことや訓練の結果をきちんと自分からまとめている。誰にでもできることじゃない」

 

 この人褒めるのうまいなー、これは訓練生の監督も任されて当然だなー、なんて。そう思ってしまうくらい、嵐山さんの言葉はしっかりしていた。ていうか、わたしといっこしか違わないのに、しっかりし過ぎでしょ。中身と性格までイケメンとか、この人はどこまでイケメン力を高めれば気が済むんだろうね?

 

「どうして、そんなに一生懸命なんだ?」

 

 当然「銃が好きだからです」とは、答えなかった。ちゃんと満面の笑顔付きで「ボーダーのみなさんの力になって、三門市を守りたいからです」って、答えてやった。わたしは学習能力の高い女だ。同じ失敗を二度もくりかえさない!

 

「ははっ……無理して優等生の答えを返さなくていいぞ?」

 

 一発で看破されました。どうやら、爽やか明るい系JKというわたしの仮面を、この先輩はすでに見破っていたようです。もうやだこわい。

それから嵐山さんは、ほんの少し何かを考えるように、あご先に曲げた人差し指を添えて、

 

「少し注意して音海の様子を見ていれば、あの時自己紹介で言っていたことが本当なのが分かる。音海は、本当に『銃』が好きなんだな」

 

 とある事実を、再確認するように。何でもないことのように、言った。

 

 わたしは、そこではじめて『嵐山准』という人間に対する認識を改めた。

 

 女の子らしくないとか、気持ち悪いとか、理解できないとか。

 直接、面と向かって言われることはさすがにそこまでなかったけど、わたしが銃を愛していることを知った人間は、少なからず言外に『そういう雰囲気』を醸し出すのが常だった。分からない、という不安。普通じゃない、という嫌悪感。言葉にしなくても表情に、仕草に、目線に。それらは表れる。

 けれども嵐山さんは……この年上さわやかイケメンは。本当にどこまでイケメンなのか。そんな雰囲気を少しもわたしに感じさせることもなく、

 

「音海は、昔から銃が好きなのか?」

 

 こちら側に、あっさり踏み込んできた。

 

 ……自分でも、ちょろすぎるとは思うけれども。

 

 少女マンガの主人公かよ、と思うけれども。

 結局、イケメンだから胸がときめいたのかもしれないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしはこの日から、嵐山さんのことが好きになってしまった。

 

 

 

 




なんか感想欄でこの作品の主人公は銃しか愛していないド変態だから恋愛とかありえない、みたいに答えた記憶があるのですが、短編→中編へのワープ進化と、過去編で急に嵐山さんが絡んできたせいでそんな設定はメテオラで粉々に吹き飛びました。
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