戦女神×魔導巧殻 第三期 ~新たなる理想郷~ 作:Hermes_0724
ブレニア内海の西側は「レルン地方」と呼ばれている。七古神戦争から数百年後、アヴァタール地方に先駆けてこの地に王国が誕生した。それが「ベルリア王国」である。東西を結ぶ大陸公路は、ブレニア内海のアヴァタール地方側で二つに分かれる。一つは、セアール地方からオウスト内海西側南部を通り、インフルース王国から西方に入る路である。この路は途中でバリハルト神殿領を通ることもあり「冒険者の路」と言われている。もう一つはブレニア内海を船で渡り、レルン地方のベルリア王国を抜け、マーズテリア神殿領、エリス王国、パルシ・ネイ総本山を通る路である。この道はさらに西方へと続く路と「リガナール半島」へと続く路に分かれるが、その付け根には西方の大国「神聖フェルシス帝国」があり、物流が盛んであった。このため北回りの「冒険者の路」と対を成して「商人の路」と呼ばれている。
ベルリア王国は、商人の路が始まる「西方諸国への玄関口」として古来から栄えていた。ディジェネール地方からはタバコや砂糖などが持ち込まれ、北部の鉱山では鉱業が盛んである。ブレニア内海で取れる塩は、西方の内陸国では高い需要がある。さらにベルリア王国の特産品として「茶」の栽培も行われている。ベルリア王国は亜熱帯気候であり雨も多く、土壌も「チャノキ」の栽培に向いていた。後世では嗜好品としてコーヒーが流行するが、大陸黎明期初頭ではベルリア産の茶が、西方に多く流通していた。こうした産業から、ベルリア王国は豊かな経済力を持っていた。だがその豊かさが万人に広がらなかった点が、ターペ=エトフとは異なると言える。ベルリア王国はマーズテリア教を国教とし、王族と貴族、神殿神官によって統治されている。どれほど豊かになっても満足しないのが人間の
ベルリア王国の王都ランヴァーナは、古来から人間族の街として栄えていた。マーズテリア大神殿を中心として、信義と公正を重んじる騎士団がある一方で、「他者にはそれを口実とするが自らは別」とする特権階級層なども存在している。光側の大国として栄えながらも、その裏では人間の業が蠢いていた。
ファルナ・レギオスは、十八歳になったばかりの「見習い騎士」である。十歳でマーズテリア総本山に入り、神殿内の「教所」で学びながら、やがてマーズテリア神殿の騎士として正式に登用される見込みであった。現在は親元を離れ、ベルリア王国で修行の身である。この夜も、十歳年上の先輩騎士カイルと共に、ランヴァーナの治安維持のために見回り活動をしていた。見習いといっても、その装備は騎士と同じである。鎖帷子を身に着け、剣を腰に下げている。ファルナは剣技の他に、魔術の素質も持っていた。教所内でも、騎士としての将来を期待されている。その自負心と自信を持って、今夜も見回りをしている。このところ、妙な噂も出ていたため、この日は特に、気合を入れていた。
夜もふけ、ランヴァーナの街も眠りにつこうとしていたとき、悲鳴のような声が聞こえた。二人は立ち止まり、顔を見合わせた。
『ファルナ、聞こえたか?』
『はい。女性の悲鳴のようでした。カイル殿!』
二人は頷いて、駆け出した。裏町の一角で、悲鳴の主を見つける。若い女性が男三人に囲まれ乱暴を受けようとしていた。ファルナは怒りの表情で怒鳴った。
『何をしているか!』
男たちは舌打ちをして振り向いた。身なりからして富裕層である。
『マーズテリアの騎士たちか・・・ 俺たちはオルレアン公爵家の一門だ!余計な口出しはせずに、とっとと失せろ』
特権階級層の傲慢であろうか。男たちはマーズテリアの騎士に対しても臆するところがない。だがそれは、ファルナにとって怒りを増長させることでしかなかった。
『王国では、婦女に対する暴行は禁じられている!卿らは貴族の身でありながら、自らを貶めるつもりか!』
『うるせぇっ!』
男が殴りかかってくる。ファルナはそれを躱し、腹部に強烈な一撃を入れた。他の男たちも捕らえ、荒縄で縛り上げる。礼を述べる女を帰し、ファルナは意気揚々であったが、カイルは内心では複雑であった。駐屯所に戻った彼らを待っていたのは、分隊長からの怒鳴り声だった。
『馬鹿者ッ!よりによってオルレアン公爵家に連なる者たちを捕らえただと?公爵殿下は当神殿に多額の布施を収めて下さっているのだぞ!』
『ですが、神殿に布施をしているからといって、婦女を暴行しても良いということにはなりません。マーズテリアの騎士として、見過ごすことは出来ません!』
ファルナもカイルも、内心では苦々しい思いを抱いていた。ベルリア王国が建国されて数百年、大きな戦火も無く繁栄を続けている。だがその内部では腐敗が進んでいた。政事に関わる以上、マーズテリア大神殿もそこから逃れることは出来ない。分隊長は溜息をついて手を振った。二人は一礼し、黙ってその場を離れた。
『カイル殿、これで良いのですか!これでは私は胸を張って「マーズテリアの騎士」と名乗れません!』
酒場でファルナが激昂していた。先輩騎士であるカイルは、ファルナの肩を叩いて慰めるほか無かった。
「一晩、勾留した後に釈放」
これが二人が捕らえた男たちに与えられた罰である。考えられないほどに軽いものだ。ファルナはまだ見習いである。こうした現実を受け入れるには若すぎた。自分も最初は激しい抵抗感を覚えた。だが人間は徐々に慣れてくる。騎士だって人間である。霞を食べているわけではない。こうして酒場で飲む金も、元を正せば「布施」なのだ。生きていく為には、現実との妥協も必要になる。涙を浮かべる後輩を慰めながら、カイルも久々に痛飲したい気分であった。
マーズテリア神殿総本山ベテルーラには、児童保護施設がある。マーズテリアの騎士は国家間の紛争の調停や魔獣討伐に駆り出されることが多い。そのため、幼い子供を遺して生命を落とす騎士たちもいるのである。総本山には、そうした遺児たちを引き取り、育てるための施設がある。こうした施設があることから、騎士たちは命を賭けることができるのだ。
晴れた日の午後、施設の庭先で子供たちの声が響いていた。まだ十歳くらいの子供二人が、取っ組み合いの喧嘩をしている。周りの子供たちは不安げにそれを見ているしか無いようだ。そこに銀髪を短く刈り込んだ中年の男がやって来た。
『コラコラ、君たち。喧嘩をしてはいけません。君らのお父さんたちは、マーズテリア神に生命を捧げた尊い方々です。お父さんたちは無闇に暴力を奮ったりはしませんでした。誇りある騎士だったのです。いたずらに暴力を振るうのは、お父さんの名誉を穢すことになります。良いですか?暴力を奮って良い相手は、魔物と闇夜の眷属に対してのみです』
『アンデルセン先生!』
子供たちが囲む。喧嘩をしていた二人の頭を撫で、優しい微笑みを浮かべて諭す。やがて、子供たちは仲直りをしたようで、笑ってその場を走り去った。アンデルセンは笑顔のまま、後ろ姿を見つめて頷いた。子供たちが来訪者と思しき神官の横を駆け抜ける。アンデルセンの笑顔が消えた。
・・・地は汝の為に呪われ、汝は生涯の苦しみと共に地から糧を得る。地は茨と薊とを生じ、汝は野の草を食すであろう。汗してその日の糧を得て、汝ついに土に帰る。汝は土から生ぜし塵芥、故に汝は塵へと帰するのだ・・・
マーズテリア神殿対魔特務機関長ドレッド・アンデルセンは黒い外套を羽織り、薄暗い地下道を歩いていた。マーズテリア神の教典の言葉を小声で唱えている。その姿は、子供たちを絢していた心優しい神官の姿ではない。その生涯を捧げ、一点の曇りもなく神を信じ切った男の姿であった。やがて地下道を抜け、教皇庁の奥へと入る。一室に入るとアンデルセンは跪礼した。目の前の男が、自分の上司である。
『アンデルセン機関長、お呼び立てをして申し訳ありません。貴殿の力を貸していただきたいのです』
『畏れ多いお言葉です。教皇猊下・・・ 私は主にその全てを捧げし者、故にお気遣いなど無用です。ただ「使命」のみをお与えください』
マーズテリア神殿教皇ウィレンシヌスは小さく頷くと使命を与えた。
『アンデルセン機関長、ベルリア王国首都ランヴァーナにて不可解な事件が起きています。老若男女問わず、夜毎に人が攫われると大神殿からの報告がありました。ランヴァーナのみならず更に東方のディジェネール地方でも、同様の事件が発生しているそうです。現地の「腐海の大魔術師」という奇妙な噂話まで出ているそうです。対魔特務機関にて、その調査にあたっていただきたいのです』
『・・・恐れながら猊下、その手の噂の調査であれば、現地の神殿騎士をもって、その任に就けるべきではないでしょうか』
ウィレンシヌスは頷いた。言葉を選んで事情を説明する。
『当初は、大神殿の騎士たちが調査にあたっていました。ですが二十日ほど前ですが、夜警中に不審者を発見し取り調べようとしたところ、見たこともない魔獣を使役する男が、一人の騎士と女性を攫い消えたそうです。その・・・消えたのは「ファルナ・レギオス」です』
アンデルセンの眉間に血管が浮かんだ。
ファルナ・レギオスは沈んだ気持ちでその日の夜警に出ていた。同僚のカイルも「あの夜」のことは口に出さない。
(何か切っ掛けがあれば良いんだが・・・)
カイルは内心で溜息をついた。少し濃い霧が出ている以外、普段と変わらない夜警であった。だが霧の中で女性の悲鳴が響いた。あの日の夜と同じである。ファルナは脱兎の如く駆け出した。
『止せっ!一人で突っ走るな!』
カイルが止めるのも聞かず、ファルナは疾走った。何回か道を曲がると、やがて声が近づいてきた。予想通り女性が襲われていた。だがあの日の夜と違ったのは、襲っている者であった。大男と小男の二人組のようだが、得体の知れない漆黒の外見をしていた。ファルナは剣を抜いた。
『何をしている!』
『何をしているか?フム・・・「実験材料の調達」としておきましょうか』
振り向いたのは頭から黒い外套を被った魔術師のような外見をした小男であった。口元だけが見えるが、手には魔術状を持っている。手の甲の皺から、相当な高齢者であった。ファルナは剣を構えながらもジリジリと距離を詰めた。「あの夜」とは異なり、眼の前の二人は間違いなく「悪」である。ならば遠慮をする必要はない。斬り殺しても問題にされないだろう。「絶対悪」を前に、ファルナはマーズテリア神への信仰心を自覚した。恐怖心を抑えるように大声を出す。
『貴様らは何者だっ!』
だが目の前の魔術師は口元を歪めて嗤った。
『ヒヒャヒャヒャッ!何者か・・・ 本気で聞いているのですか?お答えするなら「黒い二人組」です』
『そんなことは見れば判る!』
『そうでしょうね。別に貴方の観察眼を疑っているわけではありません。私が言いたいのは「夜中に女性を襲っている者」に対して「何者か」と聞いても、聞くだけ無駄ということです』
ファルナは気勢をあげて斬りかかった。だが小男に振り下ろされる剣は途中で止まった。大男が剣を無造作に掴んでいた。ファルナが呆気に取られた時、小男が顔を上げた。
『先ほどの言葉は少し誤りがありました。「二人組」と言いましたが、私たちは人間ではありませんでした。ヒャヒャヒャッ!』
ファルナは小男の眼を見た。あまりの恐怖に、悲鳴を上げることすらできなかった。
王都ランヴァーナにあるマーズテリア大神殿の一室。若き騎士見習いファルナ・レギオスの同僚であったカイルは、震えを抑えながら答えていた。ドレッド・アンデルセンとマリア・セレンティーヌは黙って話を聞いていた。
『それで、悲鳴を聞いてお前が駆けつけたときには、黒い二人組がファルナを抱えていたんだな?』
『正確には、大男の方です。いえ、あれは人間ではありません。人間ではない「何か」です』
『なぜそう言い切れる?』
カイルは恐怖心を抑えながら、自分が見たものを語った。
『ファルナッ!無事か!』
駆けつけたカイルが見たものは、七尺以上もある黒い大男が、両脇に人を抱えている場面であった。
『気をつけよ。特に女の躰は細心の注意を払うように。妊娠できなくなったら困る・・・』
小男はカイルの姿など眼中に無いようで、大男に指示していた。
『貴様らっ!何をしているか!』
怒声に対してようやく二人が振り向いた。その時、カイルは見た。大男の貌と思しき部分に三つの赤黒い目玉があった。小男は小さく溜息をついた。
『やれやれ・・・さすがに三体も持ち帰ることはできません。見たところ手に入れた材料よりは年齢が上のようですね。若いほうが好ましい。この男は始末しましょう』
・・・グルルッ・・・
大男が唸り声を上げる。小男が首を振った。
『時間がない。お前の餌は後で与えます。さて・・・』
小男は貌を上げて、一歩を踏み出した。その貌を見てカイルは戦慄した。皺くちゃな老人だが瞳が異様であった。白目は一切なく、全てが漆黒に覆われ、その中を紅い点が揺れていた。口元の笑みと相まって「恐怖の化身」のように感じた。真の恐怖に直面したとき、人は悲鳴すら忘れる。身じろぎもできず、ただ震えるしか無い。カイルは正にその状態であった。だがこの時、救いが起きた。別の通りで賑やかな笑い声が響いたのである。自失していたカイルは、それで気を戻した。背を向け、一目散に駆け出した。
『おやおや・・・』
小男の呟きが聞こえたような気がした。
『あ、あれはヒトではない。悪の化身・・・恐怖の化身です。私は逃げました。誇りも、使命も捨てて逃げたのです。あれ以来、私は夜を歩くことすら出来なくなってしまいました。怖い・・・怖いんです・・・』
『それは貴様の信仰が足りないからだ。マーズテリア神に全てを捧げたとき、己と主は一体となる。貴様はその相手に負けたのではない。己自身に負けたのだ』
アンデルセンはそう言うと手を振った。憔悴したカイルを他の騎士たちが支えるように連れ出す。マリアは小さく呟いた。
『彼は、もう駄目でしょうね』
『一度でも恐怖に負けた者は、二度と騎士に戻ることは出来ぬ。ヒトである以上は恐怖心を消すことは出来ぬ。主に対する信仰心こそが、恐怖に打ち勝つ力となるのだ。あの男はその信仰心が弱かった・・・』
『猊下も気にされていましたが、確かにこのランヴァーナは「俗」が強い街ですね。彼も、その「俗」に汚されたのではないでしょうか。いずれこの神殿に、総本山から審問官が派遣されるかもしれません』
アンデルセンは立ち上がり窓際に立った。空は分厚い雲に覆われている。アンデルセンは初代聖騎士ルクノウ・セウの言葉を呟く。
・・・過酷なる試練に相対せし時、汝の本性が試されよう。石をもて己を打ち、刮目して相対せよ。己が心と向き合え。己が声を聞け。試練とは「練る試み」に他ならぬ。故に克服できぬ試練など与えられぬ。向き合うことそのものが「練る試み」なのだから・・・
『今夜は雨になるな・・・ 夜警に出るぞ。この様な夜こそ、魔が蠢くときだろう』
マリアは頷いた。
降り始めた雨は、やがて雷雨となった。ドレッド・アンデルセンとマリア・セレンティーヌは獣皮の外套を頭から被り、夜の街を歩いていた。手にはランタンを下げていが、暗黒に近いほどに暗い。二人は意図的に裏道を歩いた。二人以外には人気は全く無い。人攫いにはうってつけの夜であろう。やがて二人は袋小路に入った。行き止まりの前でアンデルセンは立ち止まった。
『そろそろ出てきたらどうだぁ?先ほどから穢れた気配を撒き散らして騒がしいわ・・・』
『おやおや、やはりお気づきでしたか』
コツコツと音が鳴る。やがて漆黒の闇の中から黒い小男が姿を現した。だが大男はいない。
『こんな雨の夜でまるで襲ってくれと言わんばかりの行動・・・私を待ち受けるためのものでしたか』
『解っていて出てくるとは、存外、愚か者のようだな』
『ヒヒョヒョッ・・・まぁ普通ならやり過ごすのですが、貴方がたの気配が面白い』
小男は嗤いながらアンデルセンを指差した。
『貴方・・・神格者ですね?それにそちらのお嬢さん、貴女はエルフ族の血が流れていると観ました。こんな貴重な素材は滅多にお目にかかれません。神核とは体内の何処にあるのか、どのような形状なのか、ぜひとも解剖して調べたいものです。そちらのお嬢さんには「生命誕生」の謎解きにお付き合い願いたいですね』
『フンッ、そういう貴様こそ人間ではあるまい。鼻を抓みたくほどの邪の気配。魔人だな。最早、貴様に救いはない。塵芥と化すがよい』
アンデルセンは背に刺した二振りの剣を抜き構えた。マリアも魔術杖を構える。小男は更に一歩を踏み出した。ランタンの薄明かりがようやく顔を映し出す。白目のない暗黒の瞳が浮き上がる。カイルが恐怖した瞳であったが、アンデルセンは怖じけることなく斬りかかった。剣が十字に交差する。だが手応えがない。小男は嗤いながら消えた。
『幻術か?マリア、本体はどこだ?』
『解りません。今のが幻術なのかどうかも・・・魔術を使っていた気配そのものがありませんでした。見たこともない術です』
舌打ちしたアンデルセンに強い力が襲いかかった。いきなり足元が膨れ上がり、爆発したのだ。紅い三つ目をした大男が地中から飛び出してきた。下から右拳を突き上げてくる。アンデルセンは剣を交差させてそれを防いだ。吹き飛ばされたが空中で一回転し、そのまま地面に降りる。アンデルセンの口元が歪み、瞳が輝いた。
『主は仰られた。生きとし生けるもの、みな親兄弟がある。たとえ魔物であろうとも慈悲を持って接すべしと・・・また主は仰られた。それでもなお「邪なる者」も存在する。たとえヒトであろうとも羅刹となりて屠るべしと・・・』
アンデルセンの姿が消えた。次の瞬間、大男の両腕が肩から切り落とされた。悲鳴のような声が響く。そこに鋭さを持った雷が落ちた。通常なら感電するはずだが、その雷は刃のように大男を頭頂から切り裂いた。真っ二つになって割れる。死体から漆黒の炎が立ち上り、灰すら残さずに消えた。パチパチと手を叩く音が聞こえた。いつの間にか先ほどの小男が立っていた。
『素晴らしい・・・ お二人とも超常の力をお持ちと思っていましたが、どうやら魔神級のようです。今の私では二人同時を相手にするのは骨ですねぇ』
『口を開くな
アンデルセンとマリアは同時に攻撃を仕掛けた。だが小男は両手から別々の魔術を繰り出した。自分の周囲を炎で取り囲むと同時に、マリアには目に見えない拘束魔法を掛ける。炎に飛び込んだアンデルセンが斬りつけるが、その時は既に小男は残像となっていた。いつの間にか拘束されたマリアの横に立っている。有り得ないことであった。自分の横を通り過ぎたはずがない。まるで一瞬で転移したかのようであった。
『中々の魔力を持っていますし、人間より躰も強そうです。これなら「良い子」が産めるでしょう』
自分の下腹部を撫でる小男に、マリアは唾を吐きかけた。だが小男は気にする様子もなく肩を掴んだ。再び斬りかかってくるアンデルセンに笑みを浮かべる。足元がいきなり無くなったかのように感じた。次の瞬間、マリアの視界は暗くなった。
『ガァッ!』
アンデルセンは怒りのあまり大地を踏み鳴らした。二人の気配は完全に消えている。力づくで襲い掛かってくる魔獣とも強力な魔力で周囲を破壊する魔神とも違う。これまで全く戦ったことがない手合であった。
『奴の巣は何処だ?地脈魔術を利用して逃げたのなら、それほど遠くには行っていないはずだ・・・』
『いや、その前に考えるべきだ。何故、奴は転移ではなく地脈魔術で逃げたのかをな』
上空から声が掛けられた。見上げたが暗くて朧気にしか見えない。雷が疾走った。そこには自分と同じく黒い外套を纏った男が浮いていた。
【次話予告】
「この男のことは知っている。顔を見たわけではないが、気配だけでも解る・・・」
目の前に出現した「黒衣の男」にアンデルセンは殺意を向けた。数歩離れた二人の間が歪む。「屠るか」「言葉を交わすか」 正義の神に仕えし使徒は、選択を迫られた。
戦女神×魔導巧殻 第三期:第七話『奇妙な共闘』