原作通りにならない僕アカ   作:オリオリ

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お待たせしました。
今回は少しシリアス……になるのかな?
神綺がなぜ個性を使ってヴィランを排除しないのか、彼女の内面的な話をオールマイト視点でお届けします。

今回も楽しんでいただけると幸いです。

追記
このお話は神綺の日記の▼月▽日の出来事です。


第七話 アリスの叫び

 走る。

 口を思いっきり噛み締めながら、今までにないくらいの速度で私は走っている。

 そのはずなのに、いつもよりも遅く感じる。

 いつもの笑みすらも浮かべることができず、気が付かなかった自分への怒りが募る。

 

 なぜ気が付かなかった。

 何という失態!よもや頭を潰されて生きているとは……!!

 

 だが今、そんなことはどうでも良い。

 今はなによりも早く神綺君の元へ行かねば!!

 

「待っていてくれ、神綺君!!」

 神綺君の異変に気が付いたのは、情けない事に私がいつものように電話をかけてからだった。

 

 

 

 いつものように私は神綺君へ電話をしていた。

 今日は忙しいのか、珍しく電話に出るのに時間が掛かっている。

 これ以上のコールは迷惑だなと思い、電話を切ろうと思ったら通信が繋がった。

 

「やぁ、神綺君。今日は忙しいのかい? 忙しいならまた今度電話するが」

『…………』

「神綺君?」

 

 通話口の向こうで、神綺君の雰囲気がおかしいのに気が付いた。

「神綺君、どうした? なにかあったのかい?」

『……おー…る、まいと……』

 ようやく聞こえた声は、弱々しく怯えと不安にまみれた泣き声だった。

 その声に、私は思わず走り出していた。

 

「神綺君、私の拠点に来られるかい?」

 できるだけ優しく、ヒーローオールマイトとして力強く声を掛けた。

『……や、だ……いま、あいたく、ない……』

「駄目だ。こないなら私が向かう。今どこにいるんだい?」

『…………』

 神綺君は黙り込んでしまった。

 

 あの彼女がこんなにも怯えるとは……一体何があったと言うのだ。

 彼女がどこにいるかわからない。

 もし海外なら空間移動系ヒーロー事務所に出向いて、転移させてもらおう。

 それなら、一度私の事務所に向かった方が良いな。

 

 何があってもすぐ動けるように頭で次の行動を纏めつつ、神綺君に声を掛けようとし、聞こえた言葉に考えていたことが全て吹っ飛んだ。

『……おーる…ふぉ、わん……に、あった……』

「……生きていたか……ッ!!」

 思わず携帯を握りつぶしそうになったが、何とか湧き上がる気持ちを抑える。

 オールフォーワンの事も一大事だが、今は神綺君をどうにかしなければと言う思いが強かった。

 

『わたしの、せいで……ひと、がしん……じゃった……ッ!!』

 嗚咽交じりのその言葉に、頭をガツンと殴られた気分になった。

 オールフォーワンは恐らく、自身の体を治すように神綺君に迫ったのだろう。

 そしてそれを断った神綺君への報復として、どこかに襲撃を掛けたか!!

『もっと、よくかん、がえていれば……きっと、しな、せない、です、んだの、に……っ……ご、めんな、さいッ……ごめんなさっ……』

「神綺君! 今どこにいる!? 今一人になってはっ……クッ、通話がっ!!」

 私が言葉告げる前に、通話が切れた。

 このまま彼女を放っておいたら、取り返しのつかないことになる。

 

 そんな予感に駆られて、私はすぐさまナイトアイへ秘匿通信を繋いだ。

『どうしました、オールマイト』

「すまない、私の通話記録から神綺君の居場所と転移できる空間操作系ヒーローを調べてほしい」

『わかりました。少し待ってください』

 少しの無言の後、再び彼の声が聞こえた。

 

『それで一体どうしたんです?』

「オール・フォー・ワンが神綺君に接触した様だ」

『なっ!? 奴は2年前に倒したはずでは!?』

「どうやら生きていた様だ。ナイトアイ、何処かでヴィランの襲撃があって死傷者が出たと言う情報は上がってないかい?」

 

『あの糞共がッ……少し待っていてください…………ありました。広島の病院がヴィランの襲撃を受け、死者が5名負傷者が多数出ています。負傷者は、襲撃直後に駆け付けた神綺さんによって治療済みの様です。その後、神綺さんは姿を消したようですが……』

 

「……そうか、やはり……」

『オールフォーワンが絡んでこれだけの被害で済んだのは奇跡的だ。彼女はよくやったと思います』

「私もそう思うが、神綺君は大分ショックを受けた様だ」

 

 死者五名

 オールフォーワンによるヴィランの襲撃を受けたにしては、被害は少ないほうだ。

 恐らく、神綺君は死んでいく様を見せつけられたのだろう。

【これは貴様の選択の所為だ】と言わんばかりに。

 

『発信場所がわかりました、データを送ります。この距離なら、転移系ヒーローを呼ぶより、貴方が走った方が速い』

「ありがとう、ナイトアイ」

『これくらい当然の事です。神綺さんをよろしくお願いします』

「あぁ!」

 

 通話が切れて、すぐさまデータが送信されてきた。

 その住所を確認した私は、高く跳躍して空中を蹴って走り出す。

 一人で抱え込まないでくれ、神綺君!!

 

 会いたくないと言っていたが、確かに聞こえたのだ。

その言葉に隠れていた【救けて】という君の声が!

 大事な人一人救えないで何がヒーローか!

 十数分で私は彼女がいる拠点へと駆けつけた。

 

 すぐさま扉を開け放ち、笑顔を意識して暗い部屋の隅で蹲っている神綺君を見て、いつものセリフを言い放つ。

「もう大丈夫! なぜかって? 私が来た!」

「……なんで、きたのよ……ばか……あいたくないって言ったでしょ……」

 顔を上げずに、弱々しい憎まれ口をたたく神綺君に笑って見せる。

「HAHAHA! もちろん聞いたさ! 君の救けてっていう声をね!」

 

 神綺君が膝に押し付けていた顔をわずかに上げた。

 彼女の瞳は感情を良く映す。

 その涙に濡れた瞳に映る感情は、後悔、恐怖、怯え、不安、罪悪感、苦しみが見える。

 

「神綺君」

「……あ、いや、ちかづか、ないで……」

 神綺君へ歩み寄ると、私から離れる様に動くが、それよりも早く神綺君の手を取った。

「……おねがい、さわら、ないで……あなたが、よごれちゃう……」

 弱々しい力で、離れようとする神綺君の手を痛くない程度に強く握った。

 

「神綺君、君は汚れていない。悪いのは全てオール・フォー・ワンだ」

「…………」

「話してくれないか? 君に何があったのか」

 神綺君は私から目を逸らすと、小さく語り始めた。

 

「病院に爆弾を仕掛けた、爆破されたくなければ指定の場所へ来いって手紙を渡されたの。そこに行くと、黒霧っていう転移系個性を持ったヴィランにオールフォーワンのいる場所へ送られた」

 何故大人しく着いて行ったのだろうか?

 彼女の本来の個性なら、それだけの時間があれば爆弾解除など容易だっただろう。

 

「……馬鹿だったの。私は自分の個性を過信しすぎてた。いくら個性が強くても、私自身は強くないのに、強くなった気でいたんだ。オールフォーワンのいる場所についてから、私は酷く精神的に追い詰められて……もしかしたら、精神干渉系の個性持ちに攻撃を受けてたのかもしれない。今なら冷静に回る頭も、その時はまともに動いてなかった」

 ギリィと歯を噛み締める音がする。

 

「オールフォーワンはオールマイトを治療したのが私だと知っていて、同じように治療をさせようとした。私はそれを咄嗟に拒んだ。そしたら、病院の看護師の頭が吹き飛ばされる映像を見せられて、よりにもよって思考を止めてしまった」

 握っている手に力が入るのを感じた。

 私は黙って神綺君が続きを語るのを待つ。

 

「私が呆けてる間に二人、三人と殺された。そこで正気に戻った私は、すぐさま映像の病院に転移して、場に干渉、病院関係者123名に埋め込まれていた小型爆弾を即座に無効化して、襲撃してきたヴィランを撃退。負傷者を治療して今に至るっていう訳……そして……死んだ人は生き返らせなかった」

「……そうか」

 私の言葉にビクっと震えた。

 

「軽蔑したでしょ……私は……死者の蘇生は絶対にしないっていう私のルールを守るために、私の所為で死んだ人たちを見殺しにしたの……いいえ、私が……殺したようなものよ。今考えれば、連れていかれる前に本来の個性で病院を調べるべきだった。爆弾を無力化しておくべきだった。なのに私の慢心はよりにもよって最悪な形で思い知らされた! 私本人ではなく、他の人たちの命によって!!」

 彼女は顔を上げて、悲痛な叫び声をあげて私を見る。

 

「オール・フォー・ワンが憎い。私本来の個性を使えば今すぐ殺すことができる。消すことができる! それなのに、私は自分で誰かの存在を消すのが怖いなんて思ってる!! ばかだ……大馬鹿なんだよ私は!! なんでこんな個性を持って生まれてきたのって! この個性のおかげで、私はこうして生きてきたのに、この個性がなければなんて思って、責任転嫁して現実逃避して! 今から私の個性を消し去ったって、私は絶対に後悔する。今までの自分を作ってきたのは、この個性だ! 多くの命と人生を助けて来れたのもこの個性のお蔭で、オールマイトを助けたのもこの個性、イズくんを強くできたのもこの個性!! ()()()()()()()()()()()! ルールを曲げることで理不尽に奪われた命を、人生を救う事ができるのに! ……それなのに……私は……自分で決めたルールを曲げられない……曲げたくない……」

 

 その叫びは、神綺君の心の吐露だった。

 大きすぎる力に振り回され、彼女は叫んでいるのだ。

 ヒーロー神綺ではなく、想現アリスが苦しんでいるのだ。

 個性で何かをなすのではなく、想現アリスが何かをなしたいと。

 

 彼女は疲れたように、項垂れる。

「……私の……いえ、個性の力を使えば、オール・フォー・ワンはいなくなる。ヴィランによる犯罪も、世界から戦争だって消せるわ。争いのない平和な世界。『悪』がなく『善』しか存在しない、そんな荒唐無稽(こうとうむけい)の理想郷を作ることができる。……ねぇ、オールマイト……そんな世界になってほしい?貴方が願うなら、それを叶えてあげる……私はもう、疲れた……」

 儚く笑いながら言う彼女の言葉に私は……。

 

 

 

「HAHAHAHAHA!!」

 大きく笑って見せた。

 突然笑い出した私を、神綺君はぼーっと見ていた。

 私はトゥルーフォームへと戻り、そんな神綺君……いや、想現アリスを私は抱きしめた。

 

 

「アリス君……これはオールマイトではなく、八木俊典として言わせてもらうよ」

 腕の中にいるアリス君がビクッと震えた。

「オールマイトの人生は確かにアリス君の個性に救われた。だけど、私は個性だけに救われたわけじゃないんだ」

 あの時を思い出す。

 確かに彼女の個性はオールマイトとしての私の人生を救ってくれた。

 だが、その個性だけではできないことだってあった。

 

「私はアリス君の言葉にも救われてるんだ」

「……うそ……わたしはそんなことしてない」

 即座にとんできた否定の言葉に思わず苦笑する。

 そんな彼女をなだめるように、髪を撫でた。

 

「『貴方の人生を救けてあげる』そういってくれたじゃないか」

「だから個性で救けて「違うんだよ、アリス君」……何が違うの……?」

 アリス君が私を見上げてくる。

 

「私の『心』を救ってくれたのは『君の言葉』だ」

「……」

「私だけじゃない、緑谷少年だって『君の言葉』を受けたからこそ、強く強靭な『心』を持つ事ができた。それは君の個性は関係なかったはずだ」

「……そう……かも、しれない……けど……」

 私の言葉に彼女は戸惑ったような顔をし、私はそれに苦笑した。

 

「だから、改めて言わせてくれ。私を助けてくれて、ありがとう。アリス君」

「…………」

「そして、理想郷の事だが」

 何も言わないアリス君にそのまま言葉を続ける。

 

「君一人で世界を背負う必要はない! 私がいる! 緑谷少年がいる! 他のヒーローたちもいる! 君一人でも世界を変えられるかもしれない。だが私達だって力を合わせれば世界を変えることができる!」

「……でも、私一人の方がずっと早く……」

「それは否定しない、いやできない」

 確かに彼女が力を使えば、一瞬で平和になるだろう。

 

 私はヒーロー失格なのかもしれない。

 たった一人の心を救うために、犠牲者が出るかもしれない未来を容認するのだから。

「だからアリス君、私達がより早く理想を実現できるようになるために、サポートしてくれ。君がオールマイトの人生を救け、より強く立ち上がれるようにしてくれた。緑谷少年が不屈の心を手に入れ、立派なヒーローになれるように導いてくれたように」

「……おーるまいと……」

「君一人で辛い思いをしなくていい。君一人で世界を背負わなくていい。私達にも世界を背負わせてくれ」

 

 私の言葉を聞いて、アリス君は額を押し付けてきた。

「……なんだそれ……サポートしろとか、導けとか……そんな大層な役、私にできるかっての……」

「君にしかできないと、私は思っているがね! HAHAHAHA!」

 笑いながら、私よりも小さな体を抱きしめる。

 

「……私は、私のルールを変えられない……」

「それでいい。死者蘇生なんて神の領域だ。侵すべきじゃない」

「……ヴィランと積極的に戦おうって思えない」

「構わない。先ほども言っただろう、私たちのサポートと若い世代を導いてくれればいい」

「……オール・フォー・ワンとの戦いで、貴方や他のヒーローがまた大怪我したり……死んじゃうかもしれない。私なら誰も傷つくことなく彼を……消すことができる」

「奴との戦いはワン・フォー・オールを継いだ私の役目だ。たとえ君でもその役目は譲らない。他にも何かあるのか?」

「…………この、ヒーロー……馬鹿……」

「何をいまさら」

 出てきた悪態に笑って見せると、腰に手を回された。

 

「……仕方ないから、サポート……してやる」

「あぁ、よろしく頼むよ」

 ようやく声に力が入ってきたのを感じて、息をついた。

 

「……世界……」

「うん?」

 小さく聞こえた声に、アリス君の顔を見る。

 泣いたせいで濡れた瞳と少し赤くなった頬で私を見上げていた。

 その姿に胸が高鳴った気がした。

 

「一緒に世界を背負ってくれるんでしょ……? 死んだら許さないからな」

 そう言って、彼女が腕の中から消えた。

 後ろからパタパタと走っていく音が聞こえたので、どうやら言い逃げした様だ。

 

 そして私はと言うと

「…………」

 熱い顔を手で押さえて、しゃがみこんでいた。

 

 胸の動悸が収まらず、彼女の最後に見えた嬉しそうな笑顔が脳裏から離れない。

 それを凄く嬉しいと思っている自分がいるのに気が付いた。

 

 この感情…………もしかして……私は彼女に…………

 

 




何だこいつら、シリアスしてるのに甘いぞどういうことだ!?
しかも付き合ってないのにプロポーズみたいなことしてるし。
なんか、私が思ったように話を書こうとすると、こいつら勝手に動くんだが!?

ちくしょう、はよ結婚しろ!


今回の補足として
神綺は強い力を持っただけの一般人です。
辛い修行をして心身を鍛えたわけでもなく、突然与えられた力で今まで生きてきた弊害とも言えますね。
だからこそ、自分の行動の結果、人が死んだと言う事にあそこまで過剰反応してしまう訳です。
災害救助でもう少し早く来ていれば助けれたのに、と思うことはあってもそれは神綺の所為ではありませんでした。
ですが、今回は神綺の所為で人が死に、そして自分のルールを守るために生き返らせることをしなかったと言うのが、自身の汚れてる発言に繋がるわけです。

補足の補足
神綺の精神が脆すぎるとの意見について
オールマイト視点だった為、詳しく書けませんでしたが神綺はオールフォーワンの拠点についた時点で『負の感情の揺り幅を大きくする個性』の攻撃を受けています。
不安や恐怖の感情をより大きくする個性で、精神が酷く脆くなっているのはその所為でもあります。
神綺の予測にも精神干渉系の個性を受けていたのかもしれない、と言っていましたからね。
……これで伏線は回収できたかな?

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