私はピカチュウ! ポケモンの中でも一番の人気者! 勝負はあんまり強くないけど活躍するとみんな大騒ぎするし、そういうことはしないけど大事にしてくれる人間がいっぱいいるの。
なんでそんなこと知ってるのかって?それは私がタマゴから産まれた時からそだてやさんに育ててもらって、今はピカチュウとして『おや』のニンゲンに大事にしてもらってるからよ。ずっとニンゲンの社会で育ったから、ピカチュウがどういうふうに見られてるか知ってるの。だから普段は家にいて、時々『おや』の友達が持ってるポケモンと一緒に遊んでるの、素敵でしょう?
「それじゃカチュア、行ってきます」
今声をかけてくれたのが私の『おや』で名前はヴェイン。優しそうな男の人でしょ? 彼は学校っていうところに通ってるの。ニンゲンにとっては勉強っていうのが大事らしいんだけど、それが上手で先生に褒められてるんですって。
あ、カチュアっていうのが私の名前ね。ピカチュウの女の子だから、カチュア。ちょっと安直だけど、響きが可愛いから私は気に入ってる。
ヴェインが学校へ出ると、私の自由時間の始まり。こっそり勝手口から見つからないように外へ出ていく。一人でいくのは危ないってヴェインや仲間のポケモン達は言うけど、暇なんだもの。大事にしてくれるのはとっても嬉しいけど、窮屈なのはイヤ。
家からすぐ近くの草むらへ。いつもは飛んでるヤヤコマやアブリーを電気で撃ち落としたりイワンコと追いかけっこをして遊ぶんだけど――あれ、何か変なのがいる。なんかボロボロの布を着てて、それをずりずりと引きずって歩いてる。怪我でもしてるのかしら?
「わあっ、ピカチュウだ……ねえねえ、君は本物のピカチュウなんだよね?」
心配してあげたんだけど、そんなことお構いなしでボロボロの子が話しかけてくる。何よ本物のピカチュウって。当たり前でしょ。
「やった、初めて会えた……あのね、聞きたいことがあるんだけど聞いてもいい?ぼくって、ピカチュウに似てる?」
返事をする前に質問される。何言ってるのこの子。似てるも何も布かぶってて顔が見えな……ああ、確かによく見れば布に耳とかピカチュウっぽい模様つけてるわね。でもそんなボロボロじゃ似てるなんてお世辞でも言ってあげられないわ。
「そっかぁ……頑張って作ったんだけどなぁ……」
私の返事にしょんぼりしたのかがくりと布が項垂れる。ちょっと悪いことしたような気分になるけど仕方ないじゃない、似ても似つかないんだから。
「あ、ぼくはミミッキュっていうんだぁ。心配してくれてありがとう」
ボロ布の子はようやく名前を言ってお礼を言ってきた。このまま何も言わなかったらさっさと立ち去るところだったけどちゃんと礼儀はあるじゃない。でもなんでそんなこと聞いてきたのかしら?
「ぼくね……君みたいな人気者になりたいんだぁ。でもそのままの姿は怖くて嫌われちゃうから……人気者のピカチュウになれれば僕もみんなに好かれるかなあと思って……」
なるほど、よくわかっているわね。ピカチュウといえばみんなの人気者。二十年以上前からずっとそう決まってるのよ。まあ私は二歳だから受け売りなんだけど。
「でもあんまり本物のピカチュウに会えたことがないから想像で作るしかなくて……勇気を持ってニンゲンの街に来たんだけど、会えてよかったぁ」
今まであんたみたいなポケモン見たことないし、普段は別の場所にいるポケモンなのね、ミミッキュって。
「普段はもっと暗くて静かなところにいるよ。あのね……それでもしよかったらその……ぼ、ぼくと……と……とも……」
なによ、あんたも私と友達になりたいの?確かに私は人気者だけどそんなに緊張しなくたっていいわよ。ここにはよく来るからあんたがここに来るなら一緒に遊べるし。
「ありがとう……!よかったぁ、これで布のモデルが出来たよ……もっと練習していつかそっくりになるから、よろしくね」
そこなのね……まあいいわ。謙虚で悪い子じゃなさそうだし。新しい遊び相手が出来るのは嬉しいわ。よろしく。
それからヴェインが学校に行く日は私も積極的に草むらに行くようにしたわ。会うたびに少しずつ被ってる布が私に似てくる……といってもやっぱりボロボロなんだけど。でも頑張ってるのがわかるから面白かったし、私の事尊敬してくれて謙虚だから一緒にいると気分が良かったの。
臆病で町の中に入りたがらないから私が案内してあげたらね。そりゃあもう喜んで。特にウインディの剥製を見たときなんて「こんなのがあるんだ……ニンゲンってすごいなあ……」ってすごく感心してたわ。正直ポケモンの皮を飾りにするのって私としては気分が良くないんだけどでもあの子は喜んでたしそれでいっかって思ったの。
でね、一か月くらい経ったかしら。あの子がまた新しい布を作ってやってきたんだけど……今日は、自分が被ってるやつだけじゃなくてもう一つ持ってきてたのよ。
「えへへ、よかったカチュアいたぁ……」
なによ変な笑い方して。今日は二つも持ってきたの?珍しいわね。
「そうだよ。カチュアのおかげでぼく前よりはずっと上手に作れるようになったからね、そのお礼に……プレゼントしたくて持ってきたんだぁ」
ミミッキュは手に持っている方の布を広げてみせてくれる。それはピカチュウの姿に似せた布。やっぱり私と同じとは言い難いけれど、でも今までで一番似ていると言ってあげてもいい出来だったわ。……これを私に?
「うん……やっぱり似てないかなぁ? 迷惑だったら持って帰るから……良かったら、着てみてほしいんだぁ」
ミミッキュの体は私と同じくらいに見えるけど、実はもう少し小さい。ボロ布の下からとはいえ上目遣いで見つめられると、いやだとは言えなかった。これも私を人気者だと思ってくれてるからこそなのもあるしね。わかったわ。貸して。
「えへへへへへ……嬉しいなあ、これでぼくやっと……」
やっと……? 何かしら。まあとにかく渡してくれたんだし着てみて……っと。前が見えるか不安だったけどそこはちゃんと目の位置に合わせて穴を開けてくれてるみたい。さすが私をモデルにし続けただけのことはあるわね。気を遣ってくれたのか普段よりは綺麗な布だし、そういうファッションだと思えばありだわ。
「それじゃあ今日も一緒に遊ぼう。ぼくかけっこがいいなあ」
いいわよ。ただし私がこの布きてるから遅くなると思ったら大間違いだからね?いつも通りびしっと捕まえちゃうんだから。
「じゃあぼくが逃げるね。すぐ捕まらないように頑張るよお」
ミミッキュがずりずりと引きづるように逃げ始める。だけど私は自分の足で走ってミミッキュを捕まえた。ちょっと途中で転んじゃったりしたけど、それでも私の方が早かったわね。だけどミミッキュはいつもよりもとっても楽しそうだった。私が布を着てあげたのがそんなに嬉しかったのかしら。
「ふう……今日もいっぱい遊んだねえ」
時間は夕暮れ。楽しそうなミミッキュに釣られていっぱい遊んじゃった。もうヴェインは学校終わる時間かも出しそろそろ帰らなきゃ。
「そっかぁ……ピカチュウってすごいよねえ。強いのにそんな風に心配してもらえて……」
当然よ、だって私はピカチュウだもの。それじゃあこの格好で帰るわけにもいかないしあなたの服は返すわ――あ、あれ?脱げない?布が折れて、体にくっついて……!
「あれえ、どうしたのぉ? 自分じゃ、脱げなさそう?」
……体が、一気に冷たくなった。日が沈んで涼しくなったとかそう言うことじゃない。いつも通り笑いかけてくるミミッキュの声が、すごく怖い。このっ、脱げなさいよ……!足元も首元も絡まって動きが……こうなったら電撃で……
「あはは、無駄だよ。その布は……少しでも傷がつくと、ぼくじゃなきゃ治せないんだからぁ。ミミッキュ特製で特性の、『化けの皮』なんだからねえ」
電気ショックを放ってみても、布はまったく焦げる様子がない。もがく私を見て、ミミッキュが笑ってる。私を尊敬してて真似してたはずのあの子が、私を嗤ってる。
「でもね、これだけじゃまだ半分なんだぁ。ぼくの『化けの皮』を君にあげたから……今度は、君の『化けの皮』をぼくが貰わなくちゃねえ」
ふざけないでよ! 私には化けの皮なんてないしこんなことしてヴェインが許すと思ってるの! 薄汚れた野良ポケモンの癖に!!
「えへへへへへ、それが君の本音だよねえ。僕と友達になってくれるっていったけど、ぼくの事なんて君は都合のいい遊び相手にしか思ってないよねえ」
首元が曲がった布のせいで前がよく見えない。でもあの子がこちらに近寄ってきたのは気配で分かった。でも一体何を……あっ!?
「いた、ああああああああああああああああああああああ!!ぎ、あ、いやあああああああああああああああああああ!!!ぎい……あっ……」
べりっと何かを剥がす音と、激痛。嫌、痛い、死にたくない、誰か助けて、無理、ほんとに、死んじゃう許して痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い――――――――
「あの剥製を見た時思ったんだあ。布で作るよりも本物のピカチュウの皮を被ったほうがそっくりになれるよねえって」
………………なん、でよ。
「それでも出来ることならそんなことせずに頑張ってそっくりの布を作ろうとしたけど……やっぱり無理だったねえ。残念だよ。だからもう、こうするしかなかったんだぁ」
私のこと、人気者だって尊敬してくれてたんじゃないの……?
「人気者だとは思ってるけど尊敬なんかしてないよぉ。むしろ対して強くもないのに見た目だけで可愛がられるピカチュウなんて嫌いだもん。自分の可愛さを自覚しててお姫様気取りのカチュアの相手をするのは本当にイライラしてたし正直君の皮を被ること自体出来ることならごめんこうむりたかったんだからねえ」
ミミッキュの姿は、正真正銘私そっくりになっていた。私の皮を剥がして被って、ボロ布なんかとは違う剥製のような綺麗な姿になっていた。ニンゲンの愛する、人気者の姿だ。ミミッキュがずっと求めていた、私の姿だ。
「それじゃあ、ぼくは家に帰るねえ。……やっとニンゲンの家で暮らせるんだぁ。君が当たり前のように話して時々愚痴を言ってたあの家が、ぼくにとってはどれほどのリゾートだったかわかる? ずっとあそこにいれば、ぼくにこうして皮を取られることもなかったのにねえ」
……か、えせ。
「やだよ。じゃあその姿で元気でね。慣れればきっと、生きていけるよ」
私を元の姿に返せえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!
学校から帰ると、うちのカチュアがいなくなっていた。この一か月くらい勝手に出かけることが多かったけどちゃんと俺が帰るまでには戻ってたからあまりきつくは言わなかったが……そろそろ一回お説教しとかないとな。とにかく探しにいってやるか。もしかしたら危ないポケモンに追われてるかもしれないし、ゴロニャも連れていくか。
「あのピカチュウ高かったんだから、ちゃんと面倒みなさいよね」
母さんが事情を離した俺にやれやれと告げてくる。わかってるよ、もう許可なく外に出ないように言うから。
外へ出て近くの草むらへと歩いてく。最近はそこに行っていることが多いから多分そこだろう。毛づくろいのブラッシングをしてやるときに葉っぱがよくついてるからな。――あれ?
「ヂュウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!」
「ちゅ~!」
ピカチュウ……いや、カチュアが変な布ポケモンに追いかけられてる!?しかも化け物みたいにやばい声だ……カチュアは怪我でもしたのか足を引きづって……くそっ、危ない!頼んだゴロニャ、カチュアを助けてくれ!!
「ちゅうう~」
布ポケモンは途中で転びながらも足を引きずるカチュアを追ってくる。俺はダッシュでカチュアに駆け寄りつつ指示を出した。
「下がってろカチュア!! ゴロニャ、ストーンエッジだ!!」
俺の叫び声に驚いたのか、変な布ポケモンの体が硬直し後ろに下がった。その隙を捕らえて、ゴロニャは布ポケモンの足元から大量の岩を打ち出して吹き飛ばす。岩の一つが布を貫通したが、破れることはなく中身はわからなかった。ともかく変な布ポケモンは動かなくなった。それを確認してから足元で震えるカチュアに呼びかけた。
「危ないところだったなカチュア……大丈夫か? 最近外に出過ぎだぞ。これに懲りたら一人で外に出ちゃダメだ。わかったな?」
「ちゅう~!」
……? カチュアは元気よく返事をした。でも声がいつもと違うような気がした。でもあんなのに追いかけられて息が上がってるみたいだし怖かっただろうからそんなもん……だよな?
それからというもの、カチュアはめっきり外へ出なくなった。追いかけられ時に負った傷のせいか、足は引きずるように歩くようになりポケモンバトルもやらなくなった。でも俺と一緒に出掛けてるときは楽しそうだし、他のポケモンに会ったときも仲良くやっている。さすがピカチュウ、みんなに愛される人気のポケモンだ。そんなポケモンを連れていると俺も人と話しやすいし、高い金出して買ったんだからこれからも大事にしてやらないとな。