私はあのとき確かに死んだはずだった。
通常の方法ではまず回復することがありえないダメージを受けていたはずだ。
冷たいコクリアの床と嘉納の道化の嘲笑が耳の奥と肌に残っている。
だが、あれからどれだけの時間が経ったのか分からないが、私が自身を自分と認識できているのは確かだ……
「目が覚めましたね。高槻先生」
私の意識を失う前に最後に聞いた声が気遣わしげに耳に届いた。
全く違う生い立ちを辿ってきていながらも、私とどこか似通った存在がそこにいた。
「駄目ですよ。僕の手の届くところで勝手に死ぬなんて」
彼の声がかつて聞いたことのないほど穏やかに染み渡る。
「あなたの作品のファンが図らずも居合わせて、あのままおめおめと見過ごすと思いますか?あなたの作品をまだまだ僕は読みたいんです」
そっと目を開くと後事を託した青年が椅子に座っていた。
「それに『王のピレイグ』、まだちゃんと完結していないと思えるのは僕だけでしょうか?」
少し茶目っ気を感じさせる物言いで「彼」は真剣な眼差しを送ってくる。
そして、彼のすぐ後ろにいる笛口雛実が「……エトさん……。いろんな人たちの人生を捻じ曲げるだけ捻じ曲げただけで責任を取らないのはズルイです」と、なかなか辛辣な言葉を心配しているらしい声音で向けてきた。
「商業ベースで作品を発表するだけが文芸作品の発表の仕方ではないです。インターネットを利用すれば、より広く拡散できるとも思えるんです。かつてある捜査官が自身の成果を積み重ねるために動画サイトを利用したように……。漫画や小説の投稿サイトっていうツールもアリなんじゃないですか」
含みを感じさせる言葉がかかる。
「いいのか?青年……わたしは……わたしは…………」ふいに目の前の視界が滲み……私は不明瞭に言葉を紡げなくなり俯いた。
しばらくの間の沈黙。
目の前にいる二人は何も言わずに私が口を開くの静かに待っていてくれた……。
そうだ、まだだ。
まだ、私にはできることがあるかもしれない。
まだ、やらなければならないことがあるかもしれない。
父とちゃんと向かい合うこと。
あの道化に落とし前をつけさせること。
そして、私たちの「希望」の行く末を見届けること……。
私は顔を上げて笑いを込めながら彼の目を見た。
「……そうだな。確かに王には后が必要だからな。青年、いや、隻眼の王よ、そういうことでよろしくな。もちろん、わたしは一夫多妻はOK!だ。ふふっ」
わたしの自分で思うところの会心の返しに目を白黒させているカネキケンとどこか憤慨している様子のフエグチに向けて、わたしは笑い声をあげた。
作品登場人物でのキャラクターの確立という意味で、エト、もったいないキャラだな~と。
最近の連載は……ゲフンゲフン……そとなみ先生頑張れ~~~~