正義の味方候補の魔術使い   作:ラグーン

26 / 30
長らく投稿をせずに本当に申し訳ありませんっ!!((土下座
投稿するモチベが色々とありガックリと無くなり更新するのが遅れてしまいましたっ!本気で反省していますので今回はいつものfgo(私の自己満足)日記は書きません(´・ω・)

長らくお待たせしましたが、第26話をお読みください!


第26話 ヒカリ

 

 

目の前の魔物の首を干将で跳ね飛ばし、そのまま干将を投擲し更に一体葬る。手元から得物が無くなったのを好機と見なして2体の魔物が左右から飛んでくる。無防備になったのを狙うのはいいが詰めが甘いと呟き、油断しきっている魔物2体に容赦なく回し蹴りを叩き込む。連携をとるとしても四方八方から襲ってこないかぎり無様に捕まるつもりはない。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

残りの数はもはや片手で数える程度だがこれ以上の時間をかけるつもりはない。愛用の黒の弓と残りの魔物の数の剣を投影し剣から矢へと変質させ1体も逃さずに射抜く。魔物とて頭や胸部を射抜かれては流石に生きてはおるまい。だがもしもがあるため念のために壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)も使い確実に葬る。

 

「……これで終わりか」

 

周囲を警戒するが魔物の気配はなく、なにもなかったかのように静かになる。投擲した干将と手元にあった黒の洋弓を消滅させて浅く息を吐く。魔物との戦闘による疲労は特になく準備運動とさして変わりない。元より通常の魔物ならその程度で、今後のことを考えるならちょうだい準備運動だ。

 

「恭介君、お疲れ様。それにしても妙に魔物が多いわね……やっぱり昨日の膨大な魔力に引き寄せられたのかしら?」

 

「ああ、昨日の魔力に引き寄せられて集まったのか、それとも湧いたと言うべきか……どちらにしろ道を塞いでくるなら押し通るだけだ」

 

今回は悠長に魔物の相手をしてあげるほど暇ではない。今日はきっとこの生い茂る木々の先にいる彼女に出会うことが目的だ。今すぐにでも駆け出したいという衝動はあるがリーゼロッテ1人をこの森の中に置いて行くわけにはいくまい。俺はともかく彼女をビブリア学園に無事に返すことは最優先事項でもあるからな。

 

「そうじゃないと魔物が沢山いることについては説明できないもんねー。幻想種クラスがいないのが救いだけど……少し歩けば魔物とバッタリ遭遇する回数の多さにはゲンナリするわ」

 

「無視をして進むのも一つの手段ではあるが、今回の件が終わり次第にまた此処に来なければならないことを考えるのなら、今のうちに少しでも魔物の数を減らしておくのも悪くはないさ」

 

「それはそうだけど……恭介君の負担にならない?普通の魔物程度なら今の私でも代わりに相手できるわよ」

 

「いや、普通の魔物ぐらいでは負担ならないさ。むしろ準備運動としても少しばかり足りないぐらいだ。それにリーゼロッテの方が万全ではない状態だろう。魔物と戦闘をして悪化するという可能性もあるからむしろ控えてくれ」

 

「うー、確かに今の私は魔王因子が無くなった影響で魔力が万全じゃないのは確かだけど……」

 

「それでもイレギュラーということがある。君に同行を頼んだ俺が言うのも可笑しな話だが早く魔力を万全にし、セリナに必要以上に心配させないようにするんだな」

 

うっと気まずそうにリーゼロッテは視線を逸らす。リーゼロッテは魔王因子が抜けた影響もあり実は魔力に関しては万全の状態ではないのだ。本来ならリーゼロッテを巻き込む気はなかったが今回の任務について同行者としてリーゼロッテ以上の適任がいないこともあり頼み込むことにした。……まず同条件を当てはまるのならレヴィしか候補者がいなかったりするが仕方ないと達観するしかない。

 

「さて、そろそろ進むぞ。さっきの戦闘が影響でこの場所に他の魔物が寄ってくるかもしれないからな。遭遇次第倒しはするが必要以上の戦闘は避けたい」

 

「そうね。私も流石にこれ以上は魔物の姿を見たくはないかも……でも、この森の中で恭介君のお目当の人を見つけることできるかしら?その辺は大丈夫なの?」

 

「……ああ、多分大丈夫だろう。きっと''彼女''はこの先にいるはずだ」

 

確証もない確信の言葉だが間違いなくこの森の奥に''彼女''はいる。森の奥から俺を導くかのように過去の英雄の皮を被った人型の魔物と対峙した時と同じこの世界とは大きく異なる違和感を感じる。先に進むため歩くのを再開するが背後からリーゼロッテが付いてくる気配がなかったため振り返ると珍しく呆然と立っている彼女がいた。

 

「いったい立ち止まってどうしたんだ。……もしかして体調が悪くなったのか?」

 

「えっ、いや、ちょっと待って……恭介君が今から会おうとしてる人って女性なの?」

 

「確かにそうだが……むっ、そういえばそのことを教えていなかったか。我ながら情報を共有するのを失念するとは……阿呆か俺は……」

 

なにを初歩的で致命的なミスを俺はしているんだ。情報共有は2人で行動することについて必然であるのになにを失念していた。素人でも行わないミスをした自分に苛立ちを感じるがこれ以上冷静さを欠かすわけにはいかん。

 

「……すまないな、どうも昨日から冷静さが欠けていたようだ。自分のことに夢中になりすぎて情報共有をするのを忘れていたようだ……」

 

「ううん、私は気にしていないから大丈夫。今回は恭介君にとって一大事だから伝えることを忘れたってしょうがないし誰にだってミスはあるわ」

 

リーゼロッテはそう言うが一つのミスで命の危機に陥ることだってある。今回は会おうとしている人物についてだからこそ良かったものの……いつも通りの魔物処理だったら冗談ですまなかった。自分自身が今から会おうとしている金髪の少女に固執している自覚は少なからずあったが、まさかここまでだとは思いもよらなかった。

 

「一つ聞きたいけどいいかしら?ちょっと個人的に気になることがあって。恭介君は初めからその人のこと覚えていたりする?」

 

「……ああ、唯一俺が初めから覚えていた人だよ」

 

「むぅ、つまり恭介君にとって特別な人ってことになるのね。なにもかも忘れていたのにその人のことだけ覚えていた、このことは凄くロマンチックな話で憧れるんだけど……恋する乙女としてはちょっと複雑なのよねぇ」

 

「……いったいなにを思って君が複雑かどうかはイマイチわからないが、彼女が特別かどうかはを言えば特別に入るだろう」

 

リーゼロッテから特別だと言われて俺は否定することなく肯定する。固執していることも含め、彼女の記憶を誰にも今まで口にしていなかったことを考えれば''特別''ではないと否定した方がおかしな話だ。そこにどんな感情が入り混じっているかどうかを除けばであるが……それについては自身の胸の内で隠しておくべきだろう。

 

「……むぅ、これはまずいわね。恭介君に特別と断言できる人とこれから会うのはちょっと想定外すぎるわ。ただでさえ私は少しどころか、かなり出遅れてるっていうのに」

 

「ブツブツと何かを呟くのは言いが少しばかり先を急ぐぞ」

 

俺が歩くのを再開すればリーゼロッテは気の抜けた返事をして俺の横に並ぶように早足で駆け寄ってくる。俺にしても彼女がそばにいてくれた方がもしもの時が起きた時に対処がしやすい。リーゼロッテに無理をさせるわけにもいかなければ怪我をさせるわけにはいかんしな。

 

「こんなに静かということは今回は''彼女達''は動いてないのかしら?あんな膨大な魔力を感知したんだったら彼方側にスカウトでもすると思ってたんだけど」

 

「……それはどういうことだ?」

 

「ほら、私って少し前まではみんなの敵で悪の魔道士だったわけじゃない?その時に私ちょっとした組織に所属してたのよね。福音探究会(イシュ・カリオテ)っていう組織にね」

 

「……その福音探究会(イシュ・カリオテ)というのはどういった組織なんだ?」

 

「簡単に説明するのなら魔王討伐を目標にしている悪の魔道士が沢山いる組織ね。かつての私のように組織全員が魔王因子を取り込み、なんらかの方法を使いトリニティセブンの領域まで達しているわ。……もちろん真っ当な方法じゃなくて禁忌を犯してね」

 

組織全員が魔王因子を取り込んでいると聞くだけで福音探究会(イシュ・カリオテ)がいかに本気で魔王討伐を掲げているかわかる。そして禁忌を犯しトリニティセブンの領域まで達しているということは俺の知るトリニティセブンメンバーと同等の実力を持っていることに驚きを隠せない。

 

「つまり魔王討伐のために膨大な魔力を保有している彼女と接触を試る可能性があると?」

 

「ええ、魔王討伐を遂行するためには膨大な魔力を保有している人物は福音探究会(イシュ・カリオテ)にとって喉から手が出るほどスカウトしたいわけ。今回の件は間違いなく福音探究会(イシュ・カリオテ)が動いてもおかしくない案件なのよねー」

 

「……なるほど俺にとっても今回ばかりは無関係ではなさそうだな。彼女と再会ができなくなるのは俺とて好ましくない」

 

「それもそうなんだけど……恭介君も今後はその1人にいつカウントされるかは時間の問題だったりするのよ?魔力量は確かに平均より上ぐらいだけど実力に関しては申し分ないわ。私は恭介君と真っ向から勝てる気は全くわかないし……少なくとも一対一の状況だったらトリニティセブンといえど恭介君に勝てることはまずないと思う。なにより劣勢に追い込まれても宝具だったかしら?アレを使えば状況を一からひっくり返すこともできるんだから」

 

勘弁してくれと項垂れるがこればかりは自身の力である以上どうしようもないと達観もしている。だから隠蔽などをして誤魔化しているのが現在の俺なのだがそれももう時間の問題だと薄々感じており、俺の魔術が錬金術ではないとバレるのもそう遅くはあるまい。自身の問題をずっと後回しにしていたツケがきたようだ。そろそろみんなに白状するべきかもなっと考えながら気になったことをリーゼロッテに聞く。

 

福音探究会(イシュ・カリオテ)がどのような組織はある程度わかったがそこまでして魔王討伐に力を入れているのはどうしてだ?そこに明確な理由がないとは到底思えん」

 

「……うん、魔王討伐にどうしてそこまでするのかはきちんと理由があるの。魔王が誕生した際にはこの世界に未来がなくなるのは確定事項になり……世界は崩壊してしまう。その誕生した魔王の手によってね……だから福音探究会(イシュ・カリオテ)はどんな手段を選ぶことになっても魔王討伐を実行するの」

 

「魔王が誕生した時には世界は崩壊するか……」

 

魔王が誕生すれば世界は崩壊の道を辿る。リーゼロッテの雰囲気から察するに彼女は嘘は言ってはいなさそうだし真実だろう。魔王という存在については魔王因子やら魔王候補やらがあるので今更疑問を持つわけにはいくまい。気になることがあるとすればリーゼロッテがなぜ福音探究会(イシュ・カリオテ)に所属することにしたのかなのだが、そのことについて深く聞くわけにはいかないだろう。誰にも話したくないことは一つや二つある……俺もあの大災害のことはなるべく語りたくはない、思い出すだけでも左腕の火傷の跡から未だに痛みを感じる。

 

「私がどうして福音探究会(イシュ・カリオテ)に所属したか追求しないのね」

 

「気にならないと言えば嘘になるが誰しも話したくないことはある。世界と妹を捨てたと言っていた君が再度妹との傍に戻ってきてくれた時点で俺から言うことは特にない」

 

「むぅ、一応は世界のためにも戻ってきたりするのよ?それはこの世界にセリナを残しておくのも不安だったりもするけど……居場所を作ってくれるって恭介君が約束してくれたからもあるんだからね」

 

あくまでもシャルロック姉妹の居場所がなくなった時の話だが彼女が此方側に戻ってきた理由の一つになってくれたのなら嬉しいものだ。まぁ、今現在はシャルロック姉妹の居場所はあるし問題なく毎日学園を楽しく過ごしている。リーゼロッテ襲撃事件は関係者以外に真実を伏せられていることもあったりするがリーゼロッテが今まで通りに学園を過ごす際に必要であるため関係者も特に不満は上がらなかった。

 

(居場所か。レヴィに俺の居場所はビブリア学園だと言ったが俺の居場所は本当に学園なのだろうか……?)

 

シャルロック姉妹の居場所を作ると大それたことを言ったが、その場所もわからず未だに迷子なのは自分だろうにと隣にいる彼女にバレないように静かに自嘲する。ビブリア学園が自身の居場所になっているのは否定しないが、本当にそうかと自問自答すれば頷くのに時間がかかる。……だからこそ今回で記憶を少しでも回復しなければならない、己自身が何者なのかを。密かに決意を固めると人であり人ならざる気配を感じ足を止め警戒をする。リーゼロッテも近くまで来てこの先から感じる気配を感じたり気を引き締めていた。

 

「俺が先に出るからリーゼロッテはここで待機していてくれ。危険性がないと判断したら君を呼ぶ」

 

「……ええ、わかったわ。でも、何かあったら私が独断で動いちゃうの忘れないでね?」

 

「なに、そう簡単に何かが起きることはないさ。では、行ってくる」

 

「……うん、気をつけてね恭介君」

 

不満そうにしながらも頷いてくれたリーゼロッテに感謝しながら俺は歩みを進める。光の射す方へと歩みを進めていき森を抜ければ廃墟同然の状態である城がそこにあった。その城を初めて見たはずなのに懐かしい感じがしたのは気のせいではない、元よりこの森に足を踏み入れた時からなんとも言い難い感情を感じていたのだから。ーーーーそしてその城を守る門番のように佇む彼女がそこに居た。

 

「ーーーーーーっ!」

 

彼女の姿を見た俺はただ呆然と立ち尽くす。声をかけようとしてもどのように彼女の名前もわからない俺は声が詰まる。ただ彼女の姿が視界に入って懐かしさと複雑な感情が入り混じりこれ以上足を進めることができない。そんな俺を察したのか閉じていた瞳を開けゆっくりと口を開く。

 

「ーーーーやっと貴方と再度会うことができた。元気そうでなによりです」

 

「……君は俺が誰なのかを知っているのか?記憶を失う前の俺のことを」

 

「はい、記憶を失う前の貴方のことを私は知っています。記憶を失う前の貴方がどのような人物でどのような道を歩み辿り着いたのかも……そしてなぜ貴方が記憶を失ってしまったのかも」

 

目の前の少女は俺が何者か知っていると凜とした声ではっきりと答え、そして俺がなぜ記憶を失ったのかも知っていると口にする。記憶をどのようにして失ったのかすらわからなかった俺にとってその言葉を聞けただけでここまで来た甲斐があったと言うものだ。

 

「……頼む、教えてほしい。君が誰なのか、そして俺がいったい何者だったのか」

 

「ええ、もちろんです。そのために私は此処に来た、貴方の記憶を取り戻せるために。……ですがその前に私に示してほしい、貴方が歩み続け身につけたその力を私に」

 

「いったいどういうーーーーっ!!」

 

先程まで穏やかな空気が嘘のように彼女は突然と武装をする。青いドレスのような甲冑を纏いいつのまにか彼女の両手には目に見えることのできないなにかがあった。彼女の両手にあるものが武装した時点で武器なのはわかるがそれが何かかを隠されて見極めることができない。……彼女と剣を交えるのは正直断りたいが威圧感がそれを許さない。やるしかないと心の中で覚悟を決め、愛用である干将莫耶を投影する。

 

(……彼女の得物が目視できない以上受けに徹するのは不利だが攻めようにも彼女の隙が見つからない。……リーゼロッテを呼ぶのが遅くなりそうだ)

 

彼女の実力と得物が未知数な以上は迂闊に動けない。彼女の手に持つ得物の間合いは戦いながら測る必要がありそうだ。目に見えることができないというのは実際にやられると厄介極まりない。……落ち着くんだ。攻めたところでカウンターを決められるのがオチ、相手の実力が未知数な以上は下手に攻める方が逆に危険だ。静かに息を吐き彼女の動きにいつでも対応できるように干将莫耶を構える。この動作で彼女は俺から攻めに動くことはないと悟ったようで彼女も構える。

 

「貴方が攻める気がないのなら私からいきましょう。ーーーあの時からどれほど強くなったのか試させてもらいます!」

 

「ーーーーーっ!!」

 

目の前の少女を相手に油断をしていたわけではなかった。むしろ最大限の警戒をし、瞬きすらせずに彼女がとる行動に注意を払っていた。だが少女はその警戒をも無意味とばかりの恐ろしい速度で間合いを詰められることに大きく目を見開いてしまう。目の前で生まれた隙を見逃してくれるほど彼女は甘くなく容赦なく視認できない得物を振るう。

 

「ーーーハァァァァァァァ!」

 

「ぐぅっ……!」

 

たった一度で終わることはなく彼女の猛威は止まることはなく激しくなる。その猛威に俺はカウンターはおろか、反撃することすらできず致命傷を負わないように防ぐことに徹するのが精一杯だった。間違いなく彼女の腕前は自分を凌駕し一流の腕前、その一つ一つの動きは洗練されておりこの防衛の最中でも思わず見惚れてしまいそうになる。

 

(自惚れているつもりはなかったんだが、な……!上には上がいるとはわかりきっていたが彼女の実力はそれ以上だ……!)

 

一瞬でも気を抜いたり、判断を見誤れば命を落とす姿が脳裏に浮かび嫌な汗が流れる。その華奢の体からこんなに重く鋭い一撃を振るうことかできるんだと内心で舌を巻くことしかできず、得物を視認できないことは厄介なことで彼女の腕前もあり間合いを把握することすら難しい。この状況をどう打開するかを頭を捻らせていれば彼女の得物から不自然なほどのに風が膨張していき魔力の気配が強まっていくことに気づく。それに気づけば本能的にそれがマズイとわかり背筋に悪寒が走る。

 

「……くっ!」

 

当たれば一溜まりもないと察し、直撃を避けるため後方に下がろうとすれば彼女は前に踏み込んでくることはなくなにやら水平に得物を構える。その姿を見て自身の行動が迂闊だというのが瞬時に理解し、しまったと思うがもう手遅れでしか無い。

 

「ーーー風よ、舞い上がれっ!!」

 

解き放たれた風はこの身を襲おうと牙を剥く。この状況でできる防衛手段など高が知れている。盾の投影は到底間に合わず、他のモノを投影しようとしても真名解放をする時間が結局足りない。何もしないでこのまま相手の一撃を食らえば致命傷は避けられず戦闘を続けるのは困難になる。ならば可能性を信じて最後の悪あがきをするしかない。

 

「ーーー壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

気休めになるかすら怪しいがバックステップをしながら両手に握っていた干将・莫耶を前へと投げ爆裂させ、その瞬間に暴風がこの身に直撃し後方へと吹き飛ばされ大木を何本かを突き破り吹き飛ばされたこの身は止まる。

 

「……ぐぅっ……よく、生きていたな、俺は……」

 

一瞬意識を失いそうになったが体の隅々から激痛に襲われて結果的に意識を失わずにすんだ。彼女の宝具が直撃した時は正直死を覚悟していたがなんとか生き延びたらしい。よくあの一撃を直撃して生きていると我ながら軽く引いてはいるものの重症なのは変わりない。自身に解析の魔術を使わなくとも骨が何本も折れているのはわかるし、現に右腕がどうも動かない。

 

「……くっくっ、先ほどの一撃だったら、死んだとしても本望だった」

 

誰かが聞いたら何を馬鹿なことを言っているんだと問い詰められそうだが俺としてはあの一撃で命を落としてもよかった。いや、なんなら本望だったのだろう。俺は心の何処かで彼女に殺されることを望んでいる。その理由はなにか?それは記憶の無い俺にとっては身に覚えがないのだが、無くしても心と体が本能的に覚えているのだろう。

 

「……さて、この死に損ないの体でどれほど、やれる?」

 

万全な状態ですら彼女に勝てることすら難しかったのにこの満身創痍の体でなにができる?立つことはできるがこの体を襲う痛みはどうすることもできない。このまま諦めるか……?いや、それは違うだろう。彼女に一矢報いずに終わるわけにはいかない。

 

「恭介君!!」

 

悲痛な声を出しながら近づいてくるのは待機していてくれた頼んでいたリーゼロッテだった。首を動かしてリーゼロッテを確認するが今にも泣き出しそうな表情をしていた。ここに真っ先に来たということは多分俺と彼女の戦闘をひっそりと見ていたのだろう。

 

「……すまないな、あんな事を言っておきながら、こんなザマだ……」

 

「それについては後で!今は早く恭介君を学園に連れて帰らないと……このまま何もしないのは危ないから応急処置もしないと」

 

「……応急処置が、できるのか?」

 

「私の魔術を応用したね。本格的な治療は無理だけど止血や骨折とかならなんとかなるから。だから今から魔術を使うけど小言は無しだからね」

 

俺の勝手な予想だが恐らく彼女の魔術を利用した応急処置なのだろう。頭のどこかを切っており、先ほどから血が流れていたのだが彼女の魔術を応用した方法の応急処置により一時的に止まる。体の怪我についても応急処置以上の処置をしてくれ期待していた以上だ。リーゼロッテは応急処置が終えたことにほっと胸を撫で下ろす。その姿を見た後だとこの後する行動に心が痛むがこれについては譲れない。

 

「ふぅ……ざっとこんなものね。止血はできたけどやっぱり本格的に治療すると一度学園に戻らないと無理みたい」

 

「……いや、これほど治療してくれれば充分だ。さっきよりかなり痛みはマシになったようだし、これなら俺はまだ戦える……」

 

俺はフラつきながらも立ち上がり両手に再度干将・莫耶を投影する。体は応急処置をしてもらいながらもボロボロではあるが魔力に関しては余力はある。干将・莫耶を投影する出し惜しみはなしだ。まず先に魔力よりも体の方が根をあげるのは目に見えている。だったら出し惜しむことなく投影をした方が一矢報いる確率が高くなるし、干将・莫耶の性質をフルに活かすために温存はしない。

 

「まさか、その体でもう一度あの人と戦うつもりなの……?そんなの駄目!いくら恭介君でもその体でもう一度挑むのなんて絶対に許さないわよ」

 

リーゼロッテはきっと睨みながら俺の前に立ち塞がる。リーゼロッテの行動は正常でなにも間違ってなどいない。リーゼロッテは言葉にはしていないが俺と彼女の実力差があるのはわかっているだろう。俺がとっている行動はただの自殺行為、勝てもしない相手に挑もうとしている正に無謀な行動。

 

「一度撤退して、怪我を治療してからまたあの人に挑みに行きましょうよ。対策を立てて万全な状態でーーーーきやっ!?」

 

「……悪いな、リーゼロッテ。これが無謀であるのはわかっているが、彼女には俺の全てをぶつけないといけないんだ……それで死ぬことになったとしてもな」

 

「そんなの私が許すわけないんだから!鎖ぐらい瞬間移動でーーーーって、瞬間移動ができない……?恭介君、まさかこれ拘束具を応用したもの……!?」

 

「流石頭の回転が早いな。ご明察の通り、あの時に君がしていた拘束具を応用して作り上げたものだ。アレに比べると魔力を封じる制度はかなり劣るが拘束に関してはこちらが上だろう」

 

身を張って止めようとしてくれているリーゼロッテを鎖の形をした拘束具で緩く縛る。気まぐれに作った代物でもあるし、今回使うどころか永久に使うつもりはなかったのだが……こんな代物でも使わんとリーゼロッテを振り切るのは今の俺では不可能だ。気まぐれにあの拘束具を解析しておいて損はなかったようだ。……ふむ、あとは自分の遺品としてこの外套でも置いていくとしよう。

 

「もし俺が死んだ後に学園に戻ったら『衛宮恭介は独断行動で命を落としたと』報告をしてくれ。そうすれば君が疑われることはないだろよ。そしてその拘束具は簡単に抜け出せるように緩くしているから数分あれば解けるはずだ」

 

「ーーーーっ!お願いだから止まって!お願い、恭介君!」

 

「……悪いな、リーゼロッテ。止めてくれたことは嬉しかったよ、ありがとう」

 

リーゼロッテの必死に呼び止める声を俺は無視をして歩く。最後にリーゼロッテの方に振り向き笑みをみせる。そしてずっと待っているであろう彼女の元へとボロボロの体を引きずるようにゆっくりと向かう。やはり吹き飛ばされる前の場所に戻れば武装を解除することなく獲物を地面に刺し静かに佇む彼女がそこにいた。

 

「待たせてしまって申し訳ない。傷口を防ぐのに少しばかり時間がかかってしまってな」

 

「いえ、貴方なら必ずまた来ることがわかっていたので問題ありません。ふふっ、それに懐かしい姿ですね。あの黒の外套を脱いできたこともあって、髪が下りている貴方を見ていると昔を思い出します」

 

彼女が懐かしそうに俺をマジマジと見て微笑む。彼女のその微笑む姿を見ればなぜか胸が暖かくなる。どうやら宝具の直撃を受けたことが原因で髪が下がっているようだ。再度髪をかき上げるかっと思うが目の前の少女に挑むことを考えるとこのままの状態がいいだろうと不思議に感じてしまう。少しだけ小っ恥ずかしくなったので咳払いをして干将・莫耶を構える。

 

「……昔と言っても悪いが俺は覚えていない。だからその記憶を思い出す方法を教えてもらうぞ」

 

「それは貴方の頑張り次第だと答えておきましょう」

 

「だったら君のその言葉どうり頑張るとしようっ!」

 

今度はこっちの番だという意趣返しも含め此方側から攻めることにする。体の負傷を無視をして最高の速さで間合いを詰め躊躇うことなく干将・莫耶を振るうが彼女はそれすらも遅いと言わんばかりに防いでみせ、そしてお返しのつもりか膨大な魔力を放出しながらの横薙ぎを繰り出してくる。

 

「っ……!なんという馬鹿力だっ!」

 

横薙ぎを防げば体制は崩れ、両手にあった干将・莫耶がひび割れ完膚なきまでに砕ける。投影の精度は完璧で簡単に壊れる代物ではないはずなのだが彼女は力を込めた一度の攻撃で干将・莫耶を見事に砕いてみせた。唖然としかけるが彼女が次の動作に入り追撃をしてこようとしていたので即座に再度干将・莫耶を投影するが、その出来は良いとは言えず追撃を捌いただけでヒビが入る音が聞こえた。

 

「……ちっ、精度が甘かったか!ならばっ!」

 

この干将・莫耶で打ち合っても後2・3回が限界なため大きく下がりながら無造作に彼女に向かって投擲するが容易く弾かれる。再度干将・莫耶を投影しようとすればガクリと突然と力が抜け膝をついてしまう。

 

(……たった数分もみたない攻防でこのザマか。精神力があってもすでに体の方が限界だったか……仕込みは甘いが一気に決めるしかあるまいっ!)

 

両手に再度干将・莫耶を投影する。先ほど投擲し弾かれた干将・莫耶は彼女の背後に弧を描きながら確実に近づいていく。俺は限界である体に鞭を打ち力を振り絞りながら彼女へと疾走する。俺が近づいてくることに彼女は構えるが背後から近づいてくる気配に感じとり後ろを振り向き背後から近づいてきた干将・莫耶を今度こそ完璧に破壊する。初めから破壊されることはわかっていた。だからこそ今作り上げたこの瞬間を無駄にはしない……!!

 

「ーーーーオォォォォ!!」

 

疾走をしている中で干将・莫耶を巨大な剣へと変え、雄叫びを上げながら最後の一撃を振るえば彼女は目に捉えることが難しい速さで一閃、すれ違い側に彼女の表情を見た俺は静かに笑みを浮かべる。

 

「ーーーーー強くなりましたね、恭介」

 

「ーーーーーああ、そして俺の敗北だ」

 

彼女に斬り伏せられたことに後悔はないと胸の中で思いながら力無く倒れる。致命傷を負ったことによりこればかりはどうしようも無いっと他人事に思いながら意識が薄れてくる。リーゼロッテの悲鳴に近い声が聞こえるが俺はそれに返答することもできず意識を失った。




ずっと投稿していなかったのにこんなクオリティなの?って思われるかもしれませんが許してください((土下座
私の戦闘描写に関してはぶっちゃけ期待しないでください(´・ω・)私には高度なものは書けませんので:(;゙゚'ω゚'):

そして今回のタイトルはDEEN版のFateの一度だけ流れたEDをひねることなくタイトルにするという阿保っぷりです(´・ω・)今回だけはDEEN版の曲名を僅かに変えて投稿しようと考えた結果思いつかずこうなりました((白目
……もしかしたらタイトルを変えるかもしれません((

次回は恭介とリーゼがいないビブリア学園のことでも書こうかなっと思っておりますbあくまで予定ですので変わることもありますのでその辺は許してもらいたい……!!そして次回についても更新は未定なので首を長くしてお待ちしてもらえると嬉しいです((土下座

(PS.ちなみに次回から前回同様無駄の前書きと後書きを再開します)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。