Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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アバンタイトルⅠ

 ――力を寄越せ、東方の大英雄■■■■■■■よ。我が一族の悲願を叶える為に。

 

 何処かで誰かの声が、己を求めている。英雄はそれを聞いて、まず耳を傾けた詳細を知ろうとした。それは戦へ参ずるように求める魔術師の声であった。

 ――聖杯戦争。七人の魔術師が七騎のサーヴァントを使役し殺し合い、最後の一騎となったものが万能の願望器を手に入れる。そういった戦いへの参加を求める声であった。

 英雄はそれを聞いて、魔術師の頼みを断った。此の英雄には座に留まり、やらねばならないことがあったから。

 それに加えて英雄には聖杯を手に入れてまで叶えたいと思う願いが無かった。

 生前の英雄は――己の主観に因るが――古今東西、あらゆる英雄の中で最も幸せな人生を送っていた。

 世界を滅ぼすほどの力を持った龍を倒し、臣民を食らい続ける凶王を打ち滅ぼし、明日の生すら危うい人々に希望と笑顔を与えることが出来た。そして、五百年の長きに渡り善政を敷いた賢王として君臨し、曾孫が立派な王になったのを見届け、総てが満ち足りた儘死んだ。

 曾孫とそれに仕える二人の勇者に、後の人の世の“幸福”を見出し、総てを託して穏やかな儘死ねた。

 願いらしい願いもないことはない。

“人の世がもっと幸せになりますように”

 今の人の世に目を向ければ、絶望や不幸が幾らでも転がっている。それに立ち向かえるだけに強い人間ばかりでないことも英雄は承知もしている。だからこそ、“英雄”と呼ばれる人間がいることも心が痛くなるほど分かる。

――だが、それでも英雄は思うのだ。今の人の世は、矢張り、今を生きる人の手に因って作り出されるべきものなのだと。既に黴臭くなった、過去の遺物に出番などない。

 加えて自分を呼び出そうとする魔術師の願いには、自分が武器を振るわなければならない程の理由を見出せなかった。“この世界の森羅万象の因果でありまた結果である根源を目指し人間という種により良い変革を齎す”……壮大な理想に過ぎて、英雄には何が何だか分からなかった。

 屹度、大事な人を助けたいだとか、傷つく人を見たくないだとか、そういったある意味俗的で――けれど優しい願いであったならば、重い腰を上げていただろう。

 そう考え乍ら英雄は再び自身の使命を遂行する。

 そして、また別の声が英雄の耳に届いた。

 

 ――人類史の危機だ。頼む、力を貸してくれ。

 

 それは人理焼却という偉業に立ち向かうマスターに付き従う英霊――サーヴァントの声であった。

 立ち上がるべき時だ。英雄は居ても立っても居られず、直ぐに人類最後のマスターに力を貸そうとした。

 併し――直ぐに冷静さを取り戻した。こんな時だからこそ、自分は座に居なければならないと。そもそも英雄が座に留まり続けているのは、生前天使からの予言を受け取り、世界と契約をしたから。そして、英雄はその予言の内容を鑑み――動くべきではないと結論を下すしかなかった。

 苦渋を呑んだ。数多の英雄が星のような輝きを放ちながら人類最後のマスターに力添えをしている中、何も出来ない苦痛に耐えた。

 耐えて、耐えて――そして、人類最後のマスターは勝ちを得た。

 人類史は未だ不安定乍ら、滅びは漸く過ぎ去り、英雄はほっと胸を撫で下ろした。

 仮に若し、このマスターが力を求める事があったならば、今度は力を貸そうと思いながら、英雄は再び使命の遂行を続ける。

 そんな時だった。今度は別の声が聞こえて来た。

 

 ――殺さないで、誰か、助けて……

 

 それは助けを求める声。単純明快な弱者の懇願。分かり易いと、英雄は思った。

 誰かを救いたいと思う気持ちは本物だ。

 幸いにして複雑な柵を気にする状況が過ぎ去っていたのを良いことに、英雄は今度こそ立ち上がる。

 

 

 †

 

 人類史を救った最後のマスター、少年、藤丸立香には一つ決意していたことがあった。

 否、正確には出来たと言うべきか。 

 最後の戦い、時間神殿で人類の為に、共に聖杯探索を駆け抜けた立香やカルデアの職員達が生きる明日の為に、文字通り全存在を掛けたロマニ・アーキマンのその選択によって。

 初めてロマニと出会った時に交わした、会話。何気なく、そして何処にだってあり得るような他愛のない言葉の数々。それら総てが素敵な響きになって聞こえる日が来るように。この旅を乗り越えたマシュやダ・ヴィンチとその日を迎えられるように……。

 それまでは何があろうと生きることを諦めないと決めたのだ。何があろうと生き続けると。

 だから、人理定礎が確定した後に現れた亜種特異点にも立ち向かった。其処で相見えた崩壊する時間神殿から逃れた魔神柱の残党にも立ち向かい、これを倒すことに成功した。

 偏にそれは、自分の中の決意が強かったから。立香はそう確信していた。

 だが――

 

「はぁ……」

 

 一人、自室のベッドに腰かけ、深い溜息を吐く姿は、到底覚悟を決めた人間のそれには見えないことだろう。

 鎮痛な様子で項垂れるその姿は朝起きたばかりの漠然とした憂鬱――と言い訳するには無理があるほどであった。

 

「うぃーす。エミヤが朝飯出来たってよぉ」

 

 例えば、丁度そのタイミングでマスターの自室に入ってくる男には到底誤魔化せる筈もない。

 

「おいおい、如何した如何した。朝っぱらから湿気た顔してよぉ」

 

 気軽な笑声と共にマスターの隣に腰を掛けたのは、美しい牡丹の刺青に覆われた屈強な肉体を惜しげもなく晒す如何にも派手な男であった。

 

「燕青」

 

 “浪子”――伊達男という意味合いの異名に相応しい、自身のサーヴァントの整った顔を確認すると、立香はその真名を呟いた。

 

「……アンタと付き合いが深いわけでもねぇ、最近カルデア(此処)に来たヤツが何言ってんだかって、感じかもしんねぇけど、なんかあったなら言ってみろよ、マスター。ちょっとは楽になるかもしれねぇよ?」

 

 立香の顔が何処かやつれているように見えたからか、燕青は軽薄を装いながらも主を気に掛ける言葉を口にする。

 

「そうだね」

 

 何でもないなどと強がりも言えず、立香は無理くりな笑みを作って話始める。

 

「ドレイクって、分かる?」

「ん? 此処に来て何度か酒交わしたくらいだから知ってるたぁ言い難ぇけど、顔くらいは分かるよ。あの傷面(スカーフェイス)の姐さんだろ?」

 

 燕青がカルデアに来たのは新宿に出来た特異点を修復した直後であり、それは約一ヶ月半前になる。仲間というにはまだ日の浅い燕青ではあったが、人柄の為もあり、人理修復以前から立香と契約していたサーヴァントとも打ち解けていた。

 フランシス・ドレイク――人類初の世界一周を成し遂げた女海賊もそんな立香のサーヴァントの一人であることも燕青は当然把握していた。

 

「そのドレイクの姐さんが如何したってんだ?」

 

 躊躇いながら立香は口を開く。

 

「……いなくなったんだ」

「は?」

「だから、カルデアからいなくなったんだよ」

 

 燕青はまず自分の耳を疑った。

 だがこれは事実であり、故に立香は気落ちしていのだ。

 順を追って、燕青に昨夜起こったことを話す。

まず立香は昨晩、夕食も早々に、日課となっていた英霊の伝承について勉強をしていた。

と、言えば聞こえは良いかもしれないが、詰りは就寝前の読書である。その途中であった。突然ティーチが血相を変えて、立香の部屋にやって来たのだ。

 ――ドレイクと酒を飲んでいて、彼女が席を外したと思ったら中々戻って来ない。慌てて、カルデア内を探したが何処にもいない。

 大凡そのような内容をティーチに伝えられ、立香はティーチを連れ出し心当たりのある場所にレイシフトをし、彼女を探した。

 

「……で、見つからなくて、座に帰っちまったんじゃとか考えた――ってか?」

 

 燕青はマスターの気持ちを推察して、そのように訊ねるが立香は首を横に振った。

 

「帰るなら帰るで別に良いんだ。そこはドレイクの自由なんだから。でも、若しそうなら、俺に何も言わないでって所が辛い」

「実はアイツが信頼してくれなかったって思ったのか」

 

 小さく、そうはしたくはないかのように、立香は頷く。

 

「……それに、最近俺、人理修復を乗り越えて、亜種特異点を戦って、どっかで調子に乗っていたような気がするんだ。サーヴァントの力あってのことだったのに、それを自分が強くなったと勘違いしていた感じがして――それでドレイク、愛想尽かしちゃったんじゃないかって」

 

 はぁと、燕青は深い溜息を吐き、頭を掻き毟った後、ポンと立香の肩を叩く。

 

「燕青?」

「……安心しな。他人の力を自分のものだと思い込んでるヤツってのはもっと無自覚で無神経だ。そんな風に思い込めるウチは絶対ェそんなこたぁねぇ……そんなアンタに、黙ってどっかに行こうだなんて輩はカルデア(此処)には絶対いやしねぇ」

 

 肩に伝わる優しい暖かさに、立香は思わず燕青の顔を見た。何かを懐かしむように、遠い所を見つめ、そして哀し気であった。

 屹度、これは生前の主、盧俊義のことを言っているのだろうと、立香は考える。

 とある拳法の祖とされる燕青であるが、そもそも彼は中国四大奇書の一つ、水滸伝の登場人物であり、悪政汚職を敷き、権力を恣にする官吏と戦った、凶兆を示す百八の魔星の生まれ変わり――梁山泊の無頼漢の一人である。

 彼は同じく百八の魔星の一人である盧俊義に育てられた忠実な部下であったが、その扱いは散々であったそうだ。

 彼に武術や芸能を叩き込んだ本人ということもあって、屹度盧俊義は、燕青の力を自分のものであると勘違いをしていたのではないだろうか。

立香はそのように感じたから、

 

「有難う、燕青」

 

 笑って、彼の言葉を素直に聞き入れることにした。屹度、彼の人生は主に裏切られ続けた人生だったから。自分だけは彼を裏切ってはならないと思ったのだ。

 

「分かりゃ良いんだ、分かりゃ」

 

 からからと笑うと燕青は立ち上がり、

 

「そんじゃ食堂行って、朝飯食おうや。まず何をするにしても腹ごしらえからだぜ?」

 

 と、立香に促す。

 

「そうだね」

 

 立香も続いて立ち上がり、食堂に向かう。

 

「所で、実際ドレイクは何処に行ったんだろうね?」

 

 歩きながら立香は燕青に訊ねた。

 

「さぁ? 大方、悪酔いした勢いで大海の龍王を叩き起こして苦戦してるとか、そんなんじゃねぇの?」

「ありそうで困る……」

 

 立香は思わず苦笑した。

 何しろ只の人間だった頃の時点で、海神(ポセイドン)に立ち向かい、大したことないと言ってのける女傑だ。

 どんなことが起ころうとも不思議ではない。というか、カルデアではよくあることである。

 

「まぁ、もしホントにそうだったらあの姐さんでも加勢しねぇとヤベェだろうし、飯食ったら探しに行こうぜ。黒髭の旦那や、エミヤのヤローも拾ってよ」

「うん、そうしよう」

 

 そう気持ちを新たにしたその時であった。

 

『あ、あぁ――本日は青天なり、ってホントは猛吹雪だけど。お呼び出し申し上げまぁす。マスター“藤丸立香”』

 

 カルデア中に素っ頓狂なアナウンスが響く。

 

「あ、ダ・ヴィンチちゃんの声だ」

 声色にすら現れている溢れる自信。疑いようもなく彼女――否彼であった。

 

『サーヴァント“燕青”』

「おっと、俺もお呼び出しか」

 

 まさか自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったのか、燕青は殊更に驚いた顔をしていた。

 

『“エミヤ”、“エドワード・ティーチ”、“エレナ・ブラヴァツキー”、“フェルグス・マックロイ”。以上の方は管制室、御集まり下さい。只今より、緊急ブリーフィングを行います』

 

 燕青ははしゃいだように、立香の肩を叩く。

 

「やったな、マスター。多分、ドレイクの姐さんが見つかったんだ!」

 

 そう言って彼は、管制室の方へ駆け出していく。

 

「ほら、マスター! 早く行こうぜ!」

「う、うん」

 

 立香はこの時、胸騒ぎを覚えた。燕青のように、プラス思考に考えても良い筈なのに。

 そして、この悪い予感は現実となる。

 

 




 この特異点のナビゲーターですが、副題にもなっている“■■の邪龍殺し”です。
 さぁ、サーヴァント真名当てクイズの始まりだ。

 あと、これが終わるまで関羽とケイネスのことは忘れて下さい。マジですいません。でも、これを書きたいんです。
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