Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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 投稿するとな、俺の顔くっしゃっとなるんだよ。


第三節 くたばれ、アマゾーンⅣ

 立香と燕青はアマゾネスの奴隷となっている男達を次々と解放しながら、彼女らが集う広場に向かう。

 

「あの人達、連れて来なくても良かったのかな?」

 

 燕青が示すアマゾネスの軍勢が在る場所に向けて走りながら、立香は自由の身となった男達をそのまま放置してしまったことを懸念し、燕青に訊ねた。

 

「若しかしたらこれからアマゾネス共と戦うかもしれねぇんだ。一緒にいねぇ方が寧ろ安全だろ。レジスタンスのランサーとやらもいることだし、俺も色々と手を打ってあるし」

「色々って?」

「それはナイショ」

 

 悪戯っぽい笑みと共に、燕青は唇に人差し指を当てた。

 

「それよか主。そろそろアマゾネスさん方の集会場近いぜ?」

 

 立香の詮索を妨げるように燕青は道の先を指差す。

 

「……そっか」

 

 実際に立香はそれで追及を辞めた。

 思考がそちらに向いた為に。

 

「向こうは気付いてるの?」

「俺のクラス、何だったっけ?」

 

 この人を食ったような態度が答えであった。

 気配遮断を持つアサシンのクラスは当然――サーヴァントが固有に所有するスキルを考慮に入れなければであるが――敵の察知の点で優位に立てる。

 索敵が先ならば、先手を取れる。

 然もその先手が“戦闘行動”でさえなければ、例えば“逃走”などであれば、アマゾネスは敵が近くまで来ていたことを知ることすらないのだ。

 アサシンのクラスの妙とは畢竟、情報戦に於ける優位性である。

 

「さて、まずは女王様がどんなもんかこっそと品定めといきますか……っと」

 

 男伊達にして武芸者というのが本質である魔星は、併しそんな自分に宛がわれた役割(クラス)の在り方に相応しい行動を取らんとする。

 

「うわっ」

 

 燕青がまずやったのは主である藤丸立香を抱きかかえることであった。

 断りもなしに、唐突に。

 そして、そのまま屋根の上に飛びあがったのだ。

 

「なっ……」

「おっと、お口はチャックな」

 

 驚きの声を上げようとした立香の口を塞ぎながら、燕青は飛翔する。

 天狗のようにと言うが相応しいかもしれなかった。

 また元来、天狗とは日本の伝承や絵物語に描かれるような妖怪変化の類ではなく、失墜する流星を狗に例えたものだという。燕青の飛ぶさまは逆しまの流星のようでもあった。

 

「心臓に悪すぎる……」

 

 併し、立香は自身のサーヴァントの飛翔の美しさを褒める事はせず、屋根への着地後、まず悪態を吐いた。

 

「悪ィ、悪ィ。でも、観察すんなら全体を見渡せるところの方が良いだろ?」

 

 立香は反論しようとしたが、今はそんな場合ではないと思いそれを呑み込み、

 

「……燕青、下ろして。このままだと目立つ」

 

 やろうとしていたことに思考を向ける。

 耳に僅か乍らも届く、乱痴気沙汰と紛うほどの女達の歓声へと。

 アマゾネス達の狂騒へと。

 

「了解」

 

 燕青は立香を下ろすと、彼と共に身を屈めながら、音のする方へ匍匐前進気味に移動する。

 

「さて、祭りの会場はここかな、っと」

 

 そして大棟から顔を出し、燕青と立香は恐るべきものを目撃することとなった。

 そう、耳に届いていた騒々しさは、決して戦前の宴などではなかったのだ。

 立香の目に映っていたのは晒し台(ピロリー)にかけられたハルモトエーであった。その隣にはもう一人、別のアマゾネスが同じく晒し台に掛けられている。

 衣服を脱がされ、目からは光が失せていた。股からは濁った白色の液体が滴り落ちていた。

彼女たちの傍らには、それぞれ牛刀を持った男が控えている。ズボンも下着も穿いていない。

 何が起こったのか立香と燕青は何となく察した。

 だが、立香は分からなかった。

 

「如何してこんなことに」

 

 ハルモトエーがされている仕打ちの意図が。

 

「刑罰……なんだろうな。俺達を討ち損ねたことに対する」

 

 燕青は耳に届くハルモトエーに対する悪言から想像する。

 ――家畜のモノは美味かったか、スベタ。

 ――子猫一匹仕留められん戦下手の癖に、そっちの戦は得意かよ。

 ――売女のアソコは何色だったぁ? 教えてよ、犬ゥ!

 

「品がねぇなぁ……」

 

 喧騒に対して、燕青は思わず感想を漏らす。

 出来れば止んでくれないだろうかと、そんな願望を燕青が抱いたその時であった。

 意外にも喧しい罵詈雑言の雨は止んだ。

 

「鎮まれぇい!」

 

 この一喝によって。

 その声は晒し台の更に奥に座した人物からであった。

 木で組んだ簡素な椅子に腰を掛けた少女。銀色の髪を持つ美しい少女であった。併しその肉体は極限にまで鍛え上げられており、発する闘気は鎧のような筋肉をも千切らんばかりである。

 燕青は彼女から充満する魔力と周囲に満ちる気で理解する。

 立香は背筋が粟立つ感覚で察する。

 この少女こそがアマゾネスの女王――ペンテシレイアであると。

 

「これより我らの誇りを穢したハルモトエー、並びにその惰弱を許容した愚かなる戦士を処刑する。私は願うぞ、ここに集いし我が同胞(はらから)がこの愚か者とは違う、誉れ高き戦士であるということを! 禊の儀がこれで最後になることを!」

 

 瞬間、戦士達は沸きたった。

 大空洞の天蓋を揺らさんばかりの咆哮。女王万歳と皆が、ペンテシレイアを讃えた。

 そして、その後に殺せ、殺せの大合唱が始まる。

 

「コイツら、イカレてやがる……いや、この女王がイカレさせてんのか?」

 

 人の上に立ち、人々を狂気に落とし込む人間というのはいる。

 そういった資質こそが“カリスマ”であり、それの持ち主が王たる者である。

 燕青は理解する。彼女は生まれついての、天性の王であると。

 

「やれ」

 

 この時、燕青は彼女の才気が生んだ異様な雰囲気に呑まれ、意識が白んでいた。

 だから、ペンテシレイアの端的な命令が意味することを考える間もなく行動に移させてしまったのだ。

 

「ぎゃぁぁあああ!」

 

 悲鳴によって燕青が意識を取り戻した時には遅かった。

 ことは既に成っていた。

 

「そんな……」

 

 呆然とその様子を見つめる主の姿が、燕青には嫌に印象的に映る。

 その気持ちには大いに共感できた。何故なら彼の目線の先では、とても残酷なことが起こっていたのだから。

 ハルモトエーとその隣にいる女戦士は、自分達を犯した男に牛刀で四肢を切断されようとしていたのだ。

 男達は泣いていた。唇が動いている。燕青はそれをよく観察した。

 彼等は謝っていたのだ。“ごめん”と。何度も何度も――。

 世の中には色々な人間がいる。戦いが好きな者、そうでない者。家族を愛する者、そうでない者。願いを持って生きる者、そうでない者――。

 屹度彼等は、自分の主のように誰も殺さずに生きたい、“普通の人間”なんだろうと、燕青は思った。出来る事ならこんなことなんてしたくなかった人間なのだろうと。

 だが、何故それがこんなことをしているのか。それは単純であって、死にたくないからだ。自分の命か、他人の命かと言われれば普通は自分の命である。人間が生物の範疇にある限りそれは仕方のないことだ。いざその機会が来て、その選択に押し潰されないか否かは別として――。

 彼等はそんな自分の仕方のない選択で、押し潰されてしまったのだろう。

 

「酷い……」

 

 立香はただ一言、呟いた。

 

「如何して、こんなことを……」

 

 男達にこれを強いているのがペンテシレイアであることを前提に立香は疑問を口にした。

 その答えは、囃し立てるアマゾネス達の中から齎された。

 

「しっかりやれー! お前たちの飯になるんだからなぁ! シャッハハハハハッ!」

 

 それを聞いて立香は、故郷である日本の“築地市場”に思いを馳せる。実際に行ったことはないが、そこでは二〇〇キロはあるマグロの解体を、市場を訪れた客に見せているのだ。所謂、“解体ショー”である。

 今、立香の目の前で行われているのは解体ショーであった。

 

「……成程ね。テメェらの恥になったものは、“家畜”の餌にする。戦士であるアマゾネスにとっちゃ屈辱だろうな」

 

 と、燕青は涼しい顔で語ったが内心では腸が煮えくり返っていた。

 別に食人に対して忌避があるわけではない。息子を殺しその肉を桓公に捧げた易牙然り、名君である劉備に捧げる肉がないと自身の妻を食事に振る舞った劉安然り、燕青が生きていたとされる中国に於いては寧ろ人の肉を振る舞うのは義を示すことの最たるものとして捉えられている。

 併し、目の前で行われていることはそれとは違う。ただ名誉を穢し、その過程を見世物にする悪趣味だ。

 それだけならば、燕青個人の見解というだけで拳を振るう理由には身勝手というものだろう。

 だが、それを無関係のこの時代を生きる人間にふりかざすというならば話は変わる。

 

「燕青――」

 

 今ここにいる主が否とするならば話は変わる。

 

「こんなことは駄目だ。止めなきゃ、どんな理由があっても。それが仕方なかったとしても!」

 

 立ち上がり、立香は悲痛な顔で訴える。

 こんなことは間違っていると。

 にぃと、笑みを浮かべ燕青は立ち上がる。

 

「よし来た。我が主の御心のままに」

 

 そう応え燕青は猫科の獣を思わせる前傾姿勢を取る。

 立香は自らの右手の甲に刻まれた刺青のようなものを見た。盾を模様に置き換えたような、三画で構成されるそれは“令呪”と呼ばれるものである。

 強力な魔力の塊であり、サーヴァントの切り札である宝具の魔力消費の代替など、サーヴァントの行動を三回に限りサポートすることが出来るものだ。本来の聖杯戦争――カルデアの英霊召喚の元となった儀式に於いてはサーヴァントの意を無視した命令すら強制させるほど強力なものであったが、立香の手に宿るそれにはそこまでの力はない。

 令呪の使い切りという弱点を補い、カルデアのシステムによる充填を可能にする過程で弱体化した型落ち品である。

 それでも立香にとっては強力な武器であるのは間違いない。

 

「令呪を以て、アサシンのサーヴァント“燕青”に請う。『彼等を救え』」

 

 況して、この場で意にそぐわぬ殺人を強要される者達を救うには十分に過ぎる。

 

「良いよぉ」

 

 燕青はまるで簡単なことであるかのように笑い、狂った催しの只中に降りた。

 令呪の魔力に寄り、燕青は男達を救うまでの間、ステータス以上の速力を得る。

常態であってさえ無影の体捌きを誇る義侠の脚は屋根から晒し台の前までの距離を一歩で踏み砕く。

 ペンテシレイアや周囲のアマゾネス達が驚く間もなく、次の瞬間には燕青は晒し台を蹴り砕いていた。

 それとほぼ同時に、掌底と肘鉄砲でハルモトエーと名も知らぬ戦士を近くの建物の壁まで弾き飛ばし、その後次いでとばかりに男の手に握られていた牛刀を蹴り落とし、

 

「楽しそうな宴だな。邪魔させて貰うぜ?」

 

 と皮肉りながら、ペンテシレイアを前に左手を伸ばし下から突きだす挑発的にも見える構えを取る。

 瞬間、文字に起こすことすら出来ないような、言語として体裁すら曖昧模糊なが鳴り声がアマゾネス達から湧き、次々に腰に帯びた剣を抜刀し、燕青に襲い掛かろうとする。

 

「狼狽えるな!」

 

 併し、そんな彼女らの声よりも大きくペンテシレイアが大きく一喝しその行動は止まる。

 

「……何だ、貴様は?」

 

 配下の戦士達が鎮まったと見ると、ペンテシレイアは椅子から立ち上がり、いきなり現れた胡乱な男に訊ねる。

 

「通りすがりの義侠さ」

「一体どういう道理があって我等の禊を邪魔した?」

「こう見えて飲んで騒ぐ宴の類には、一家言も二家言もあってねぇ。気に入らないんでぶち壊したくなった」

 

 と、満面の笑みで以て、答える燕青の鼻先に突然強い風が吹き、刹那と経たぬ間に豪と足元で轟音が鳴った。

 足元の石畳を抉るそれは鉄球であった。鎖で繋がれ、辿ると其処には女王がいた。

 

「……そんな道理が許されると思っているのか?」

「じゃあ、無理にでも許して貰おう」

 

 燕青はペンテシレイアの言葉に更に軽口を返す。

 ぴきりと音を立て、女王の絹のような白い肌に青筋が浮かび、戦闘が始まろうとしたその時であった。

 

「女王!」

 

 突然、ペンテシレイアを呼びかける声が上がった。

 それは燕青に突き飛ばされたハルモトエーだった。

 

「その男は勇夫王の仲間に御座います! 無影の拳を駆使する拳士、どうか――」

 

 相手が誰であるのかを伝え、自分を辱め命まで奪おうとした女王にハルモトエーは必死の忠告をしようとする。

 

「クロニエ」

「はっ!」

 

 だが、それはペンテシレイアの命に因って放たれた矢によって中断させられた。

 額に命中した矢は、フェリドゥーンの一方的な暴力と、仲間に寄って受けた拷問と凌辱で既に襤褸切れのようになっていたハルモトエーの命をいとも簡単に奪い去った。

 

「なっ……」

 

 驚愕する燕青を尻目にペンテシレイアは心底厭そうな顔をして毒づく。

 

「それ以上口を開くな、空気が淀む」

 

 女王の言葉にアマゾネス達はどっと爆笑した。

 

「おい、貴様。一体何のつもりだそれは」

「何のつもりか、だと? 不敬だな、貴様は。だが、良い。答えてやろう」

 

 寛大な態度のつもりなのか、ペンテシレイアは嘯いた。

 

「弱者の吐いた息など吸いたくない。私まで腐ってしまいそうだろう? だから息の根を止めたまでだ」

 

 さも当たり前のことを言っていると言わんばかりの態度で。

 燕青は心の中で『蹴鞠野郎より酷い』と彼女を評価した。それと同時に、立香の目にこの振る舞いがどう映っているのかも気に掛る。

 

「それよりも、貴様の先程の動きだ。影すら残さない拳とは面白い。かの竜殺しを殺る前の準備運動には悪くないぞ。私と死合え。拒否権はないぞ?」

 

 だが、気をそちらに向ける暇はなさそうだと燕青はすぐに改める。

 女王が今にも自分と殺し合いたくて堪らないことを見て取ったから。

 

「上等ォじゃねェかァ……」

 

 ならば今はそれに応えるしかないだろうと、闇の侠客は狂ったような笑みを浮かべながら、自ら闘争の火ぶたを切った。

 

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