Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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 インフルエンザから回復後初めての投稿。



第五節 不死鳥の計画

 街を離れて暫く。

 アトラスの肩に揺られながら羿は密林を征く。深い、深い森の奥。それはフランス革命頃のヨーロッパの街並みが広がっていた場所から程近くにあるとは信じがたい熱帯雨林を抜けると、そこにはあらゆる建物が黄金で出来た都市が広がっていた。

 そこにある建物群は南米の古代文明に見られる物と――金造りか石造りかの違いはあれど――極めて近く、都市の中央に聳え立つ神殿はメキシコに存在するアステカ人に因るものにそっくりであった。

 ここは“エルドラド”。黄金卿の伝説にその名を記す空想の土地にして、この地下世界に於けるアマゾネスの本拠地でもある。

 羿はアトラスをエルドラドの神殿の傍に付けると、ペンテシレイアを担ぎ上げ飛び降りる。

 

「そこで待っていろ、アトラス」

「■■■■」

 

 アトラスにそう命じると羿は神殿の中へと入っていた。

 神殿の中に置かれた調度品などに一切目をくれることもなく羿は神殿の奥を目指す。そこには玉座が一つ置かれていた。

 その玉座の上にペンテシレイアを放り投げると、

 

「己の力の分も弁えず、命までかけやがって。これだから子供は苦手なんだ」

 

 気持ちよさそうに眠る少女の姿で限界したアマゾネスの顔を見ながら忌々し気に呟いた。

 羿は子供が苦手であった。子供とは大抵親或いはそれに準ずる己よりも強き存在からの庇護を受ける者のことを指すが、羿は子供であった期間がなかった。

 ある日気が付くと羿は一人だったのだ。日々の糧を得るのにすら苦心する両親に山の中に置き去りにされた。乳離れをするかしないかといった幼子であったにも関わらずだ。普通ならばここで死ぬのだろうが、何せ普通でない者のことを英雄と言う。英雄である運命にあった羿は山にただ一人残されたことを自覚した瞬間に弓を作り、矢を射て獣を殺し、肉を食らって生き延びた。

 英雄という運命が羿を生き永らえさせたのでないとして、もし他に理由を求めなければならないとすれば、羿は生まれながらに特別な目を持っていた。人より多くのモノが見えて同じ年の子供よりも余程多くのことをその時点で見ていた為、羿は乳飲み子から射手へ一足飛びに成長したのである。

 その生き方を後悔したこともそう生きさせた両親を恨んだことも羿はなかった。羿は生まれながらにして羿であったと確信しているが故に。

しかし事実として、それ以降ただ生を勝ち取る為だけに魔獣や幻獣と戦う日々が天帝に弓の腕を認められ神の勇士として召し抱えられるまで十余年にも及んだ。その日々の中に他の子供を観察するだけの余裕があったかと言われれば、そんなことはなく結局羿は無力な子供というものが理解出来ぬまま力ある英雄として完成してしまったのである。

 だから羿は子供が苦手だ。いや、子供でなくとも力無き者は須らくともいうべきではあるが。

 

「二度と子供のお守りなんぞはしないと誓った筈だったんだがな」

 

 そして、力無き者の中でも一等子供が苦手だ。

 羿の中には子供と接した記憶があるから。

 その時点で羿は二度と子供には接しないと誓っていた筈だった。それが、世界を壊すという目的の下再びその機会が巡って来るのは一体どういう理由なのか。

 

「感傷に耽っているのか?」

 

 そこに想いを馳せていると己の口がそう問うので、羿は笑い飛ばした。

 

「馬鹿馬鹿しい。羿の感じるとは羿が定めるということよ。ならばそこに(ヒビ)が入る余地はないだろうが」

 

 それに関してだけは羿にとって譲れないところであった。

 

「さて、ではそろそろ問い質そうとしようか」

 

 再び羿は、いや羿の中に潜む者が己の体に向かって声を掛けた。

 

「何故、藤丸立香に我らの目的を話した?」

 

 自分の口から紡ぎ出された言葉に羿は失笑した。

そして、突然手の中に矢を作り出すと、

 

「話して悪いか!」

 

 とそれを壁に向かって投げつけた。

 瞬間、黄金で出来た壁は爆砕し大穴が穿たれる。

 

「羿がヤツのことをこの手で殺すに値する勇士と定めた。だから話した。俺はそう言った筈だ。手前ェも聞いていただろう、フェニックス?」

「違う。話す必要などなかったと言っているのだ」

 

 フェニックスは羿の口を借りて続ける。

 

「アレは我らが大願の障害、知識を与える我らに損害。如何して、それを理解しない?」

 

 羿のした行動は二人の目的を思えば益にならないどころか、カルデアが特異点の修復を目的としている以上完全に不利益になるものであった。

 

「そもそもわざわざあの場に危険を冒してまで介入したのは、アマゾネスの女王が未だ必要な駒であった為! 龍殺しと矛を交え、況して宝具を開帳する必要などなかった!」

「手前ェに何が分かる!」

 

 苛立ちの儘に羿は怒鳴った。

 

「羿の心はそうじゃねぇ! 人の心はそうじゃあねぇんだ! 合理でしかモノを考えられん術式風情が知ったような口を叩くんじゃねぇ! その足りてねぇ言の葉で俺の口をこれ以上穢す気なら今度という今度はもみ消してやろうか!?」

「ま、待ってくれ! 分かった! 次からは羿、お、お前の好きなようにやらせよう。戦いにも口を挟まないし、その理由についても詮索しない。だから頼む、消さないでくれ!」

 

 フェニックスは慌てて命乞いをした。

 

「ハッ。もう何度聞いたか分からん言葉だ。そもそも、手前ェ、利用価値があるから活かしてやっているがそこの真偽も怪しいものだ」

 

 そもそも羿がフェニックスに体を貸しているのも、その恩義を忘れて度々羿の行動を阻んだことを不問にしているのもフェニックスの計画が正しく遂行された場合の見返りが大きかったからだ。

 フェニックスの理論が正しくなければこの場で消した方が良いだろうと、羿は思っていた。

 ――体にへばりついていても、下手詩を吟ずるくらいで役に立ちはしないのだから。

 

「あのアトラスを完成させて本当に根源の渦とやらに行けるのか?」

 

 その一点さえ不確かなことが明らかになれば、羿は今すぐにでもフェニックスを消すつもりでいた。

 併し――

 

「間違いなく、可能だ」

 

 フェニックスの言葉には確信めいたものが帯びていた。

 

「ほう? 術のことなんぞ聞いてもつまらんと思っていたから聞かなかったが……話せ。もう少し生かしてやる」

 

 そしてフェニックスは、羿から生を勝ち取ったのだった。

 


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