Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し 作:源氏物語・葵尋人・物の怪
さて羿がペンテシレイアをエルドラドに戻したその頃。
立香達四人はすっかり人気の無くなったアマゾネスの拠点だった街を歩いていた。
「そういえば、フェリドゥーン。さっきのアレはなんだったの?」
立香は隣を歩くフェリドゥーンに訊ねる。
「ああ、これのこと?」
そう言いながらフェリドゥーンは赤い鱗の怪人に変化してみせる。
「俺、宝具で竜になれるでしょ? その力を収束して人型にしたのがこの姿なんだ」
そう言いながらフェリドゥーンは人の姿に戻る。
「そもそもフェリドゥーン、アンタどうやって竜になってんだ?」
燕青は疑問を口にした。
無論、宝具でなどという具体性の欠ける回答ではなくその宝具の原理に関する解を求めているのだ。
「悪竜現象――燕青くんも英霊なら知っている筈だろう?」
フェリドゥーンの問いに燕青はああと肯定する。
「宝物に執着した人間が竜になるってヤツだろ」
例えばジークフリートが倒したファーブニルがそれである。伝承に曰く、あの竜は宝に執着した人間が身に余る欲望の為に変じた姿であるという。
「正解。まぁ、それ以外にも条件があるんだけど、俺はそれを発生させてしまった」
「だから竜になれるってわけか。だけど俺にはアンタが欲深な人間には見えねぇな」
燕青にはフェリドゥーンが至って能天気な男にしか映らなかった。
こと戦闘になると加減が分からず暴走する嫌いはあるが勇夫王の闇とも言えるその部分でさえ欲が深いとは結び付かない。
「いや――」
だが、立香は知らず知らずのうちに燕青の言葉を否定していた。
立香にはフェリドゥーンがこの場にいる誰よりも――それどころか今まで出会って来た誰よりも欲の深い人間に見えて仕方なかった。
「どうした、マスター?」
「ううん。なんでもない」
併し、それを口に出して言うのは憚られた為、燕青に追及された立香は首を横に振る。
「というか、話は変わるがフェリドゥーンさんや。どうして到着が遅れたんだい?」
関羽がフェリドゥーンにもう一つの疑問を訊ねた。
そもそも当初の予定では、フェリドゥーンは関羽が率いるレジスタンスがアマゾネスに捉われている奴隷を助け街から脱出した時点で関羽や立香と合流することになっていたのだ。
「ああ、それは……」
と、フェリドゥーンがそのことについて答えようとした時だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
男の悲鳴が言葉を割る。
「街の外からだ」
「話の途中でワイバーンが……ってか?」
街の外にはレジスタンスの男達やアマゾネスの奴隷だった男達がいる。
そしてその街の外には狂暴化した魔獣が跋扈しているのだ。襲われたとしても不思議はない。
「とにかく、急ごう!」
立香はそう言って走り出した。
†
立香達が声のした場所に辿り着くと、そこではレジスタンスの男達が解放した奴隷を守りながら戦っていた。
いや、レジスタンスの男達は全員が戦っていたがその殆どが敵に対して押される一方でほぼ一人が奮戦していた。
黒く長い髪を後ろに撫で付け、無精ひげを生やした強面の男だった。中華風の軽鎧を纏う長身の男で、手には簡素な意匠の戟を持っている。その大刀で敵対者である
対する女達は皆一様の黒いロングドレスのようなものを纏い、顔面を布で隠していた。手に持った得物は鋸のような刃のついた刀剣や平形の金鑢のような形をしたびっしりと棘の付いた鈍器といった戦闘に使う武器というよりもどちらかと言えばもっと一方的な暴力行動に使われる拷問具といった風情の代物であった。
つまりは元々戦士ではない女達であったがその数は筆舌に値するものがあった。レジスタンスの男たちが三〇〇人に対して女達の数は一五〇〇人程。
人数の差に開きがあるし、一人一人の戦闘力も向こう側に分があるという絶体絶命の状態である。
「関羽、あれは!?」
「不夜城の酷吏だ!」
立香は関羽に質問したが返って来たのは初めて聞く単語であった。
「不夜城って?」
「説明は後だ!」
関羽は話を切って戦陣へと走る。
「周倉ォ!」
奴隷達の頭上を飛び越えレジスタンスの男達の前に出ると関羽は青龍偃月刀を振り回し酷吏と呼ばれた女達を蹴散らす。
そして、ものの一分も立たぬうちに、戦力の一割から二割ほどを削られた酷吏達は攻撃の手を止める。
「撤退だ。男の捕獲は辞める」
関羽の介入に因って圧倒的優勢を崩された為に、一人の酷吏がそのようなことを言った。
「委細承知。これ以上の流血は無意味也」
「是。犠牲を払えど果は莫し」
口々にこれ以上戦うだけ無駄だと言って酷吏達は立ち去っていた。
それを確認すると関羽は、
「
総髪の男の傍に寄り無事を確認した。
「横文字で聞かんで下せぇ、旦那。あっしにゃ何言ってんだかさっぱりでさぁ」
困ったような顔をする男に、関羽はあからさまに顔を覆ってしまったと言うかのように振る舞った。
「それはすまんかった。大丈夫かい、周倉?」
「心配にゃ及びやせん、あっしゃあ無事です」
「さっきの悲鳴は何だい?」
周倉は言葉を詰まらせた。
「話せ、周倉。
「その大変情けのねぇ話になりやすが……」
関羽の言葉に周倉は躊躇いながら口を開いた。
「旦那達を待ってる間に不夜城の連中がやって来やして。それで、つい勇んだ男が敵に突っ込んじまって」
「それで返り討ちにあったと……」
関羽は後ろのレジスタンス達を見た。その中には確かに一人、深手を負った男が別の男に庇われながら立っているのが確認出来た。
「面目ねぇ。止めきれなかったあっしの責任でさ。何なりと申し付けて下せぇ」
周倉は沈痛な面持ちで首を垂れる。
すると関羽は苦笑して、
「おいおい周倉。大げさだってば。お前が止められなかったからってそれで死なせてしまったわけじゃないんだ」
と周倉の肩に手を置いた。
「旦那……」
「人間なんだ。そりゃ怪我したら痛いかもしんないけど、生きてりゃ治る」
そう言って今度は怪我をした男の元に歩み寄る。
「キミ、怪我は大丈夫かい?」
「なんとか……」
男はバツが悪そうに答えた。
先走って相手を焚き付けた挙句に怪我までしてしまったことが恥ずかしいのだろう。
だが、関羽は、
「良い
と彼の行動を寧ろ称賛した。
彼は驚いて関羽の顔を見る。
「魁るってのは誰にも出来ることじゃあない。敵を見るや真っ先に切りかかる
関羽は男の胸を叩いて言った。
「だが、それ以上に大事なのは敵を見て味方を見るってのはもっと大事なことだ。己より力の強い者に一人で立ち向かう必要はない。協力は恥ずべきことじゃあない。それに千斤力の周倉も着いていたんだ。強者にはどんどん頼れ。自分一人で解決出来ないことは数の力やそれを解決出来る力に頼ったって良いんだ」
「ランサーさん……」
男を励ます関羽の言葉を聞きながら立香はおおと声を上げた。
「どうした主?」
「いや、なんというかリーダーって感じだなって思って」
見たところ関羽はレジスタンスの男たちに頼りにされているようであった。その言葉にも皆しっかりと耳を傾けている。
「関羽雲長は特に身分の低い兵卒には慕われてたみたいだからな。得意なんだろ、ああいうのが」
燕青はその様子を見ながら関羽という男についてそのように評した。
「さて、そろそろ傷を治さないとね。フェリドゥーン!」
目の前の男の傷は、致命傷でないとはいえ出来るだけ速く治療した方が良いと判断した関羽は治癒魔術をフェリドゥーンに頼もうとした。
しかし、フェリドゥーンの声が返ってこない。
そもそも立香や燕青の傍にもフェリドゥーンの姿は見えない。
「ねぇ、フェリドゥーンは?」
「そういえば……」
「どこに行ったんだろう?」
三人が探していると、
「ここだよ」
少し離れた場所から声がした。
なんとフェリドゥーンはそこに座り巨大な魔猪をナイフで捌いていたのだ。
「何してんだアンタ!?」
立香達三人の声が重なった。
「いや、今まで囚われてた人達、ロクなモン食べてなかったのかやつれてる感じだったから。腹ごしらえをと思って」
「ボクが戦ってる間ずっとやってたのか!?」
こくりとフェリドゥーンは頷く。
「関羽くん――あ、関羽くんって呼んで良いかな? 関羽くんと燕青くんに任せとけば戦闘の方は大丈夫そうだったし。俺がやるとやりすぎるし。だからって手持ち無沙汰なもんで」
「何なんだキミは……」
関羽は脱力した。
今まで関羽は自分以上に身勝手で自由な振る舞いをする人間に出会ったことがなかったのだ。
「ところで、その魔猪は?」
「ああそれはさっきその人達を襲った魔獣のうちの一匹だよ」
フェリドゥーンはレジスタンスの男達を指で示す。
さっき――というのはフェリドゥーンが立香達と合流する前のことである。
そのうちの一匹と言われ関羽は辺りを見渡した。
酷吏に夢中で気が付かなかったがあちらこちらにワイバーンや魔猪、さらには巨大な竜の死骸が転がっている。
「なるほど、だから来るのが遅れたのか」
立香はフェリドゥーンが遅れたことに合点がいった。
「あの男が多勢に無勢で困っていたあっし等を助けて下すったのは事実でさ」
「うむ」
元よりそこを疑うつもりはなかったが、周倉の耳打ちに関羽は頷く。
「でも、フェリドゥーン。まずは、怪我人の治療が優先だ。そっちから……」
「ほい」
ナイフで肉を大きく切り分け、串に刺しながらフェリドゥーンは怪我を負った男の傷を治した。
「……話が速くて助かる。でも、もう一つキミに言わなければならないことがある」
少し苛立ったような笑みを浮かべながらフェリドゥーンににじり寄ると、フェリドゥーンの手から猪肉の串を取り上げ、
「猪の肉をこんなに厚く切ったら固くて食べられないでしょうが!」
分厚く乱雑に切られた肉を指差しながら叫んだ。
関羽を除いたこの場の誰もが口をポカンと開ける。
「確かに奴隷ぐらいで活力がない人達に腹一杯食わせたいって気持ちは分かる! ここからボク等の隠れ家まで結構な距離有るから活力がいるのも確かだ、それは分かる! でも、薄く切って煮込むんだよ、猪は! 特に弱った人に食わせる場合、喉に詰まらせるかもしれないしね!」
話が四方八方に飛びまくる、支離滅裂な主張だったがこの時の関羽には有無を許さない圧があった。
そして、関羽は頭上で大きく手を打つと、
「ということでみんな鍋を探すぞ!」
と言い始める。
最早誰もが困惑の坩堝に落ちていたが、ともかく今この瞬間の関羽を止めることは不可能だということだけは理解出来た。
「よ、よし、探すぞ。街の中漁れば見つかるだろ」
「俺、あっち見てくる」
「出来るだけ大きいヤツの方が良いかな?」
レジスタンスの面々は口々に言い出して、鍋探しに乗り出す。
「マスター、俺たちもやんの?」
ウンザリとした顔で燕青は立香に救いを求めるように問い掛ける。
「なんか面白そうだし、やろっか」
満面の笑みで返す。
力無く肩を落とすと燕青は立香の後に続いた。
猪肉は実際、厚く切って唐揚げとかにすると固いので気を付けよう。