Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

25 / 27
 お久しぶりです。
 
 生きていました。



第十節 Disclosed 真実! Ⅰ

 フェリドゥーンは気分を変えようと空を見上げた。

 すると、

 

「おーい」

 

 視界の奥からやって来る赤い胡麻粒のようなものから、こちらに掛ける声があった。

 次第に近づいてくると、その声の主が関羽雲長であることが分かった。赤兎馬を駆りここまで飛んできたのである。

 

「よっと……首尾の方はどうだい?」

 

 軽妙な調子でとんぼ返りを決めながら愛馬から飛び降りると、関羽はフェリドゥーンと立香に状況を訊ねた。

 

「こっちに来たってことは何となく分かってるんだろ?」

「Exactly《イグザクチュリー》。とはいえ、実際やられるとAstonished(アストゥニシュド)。一人の中華の人としてね」

 

 フェリドゥーンの勝利は関羽にとっては青天の霹靂であった。

 中華の英雄の一人である彼にとって后羿とは競う意味すらない程強大な射手であり、打ち破るなど奇跡に値する存在であったから。

 

「倒しきれなかったけどね。あの弓兵は本当に強い。俺の戦って来た中で一番強い敵と並ぶくらいだ」

 

 そう説明するフェリドゥーンの顔が曇っているのを関羽は見て取った。

 

「ほう」

 

 関羽は眼鏡のブリッジを持ち上げながら、表情に指した影の原因を探る。

 ――強い羿を生かしたままにしてしまった……ってわけじゃなさそうだ。これは“痛み”か?

 関羽はフェリドゥーンの体を具に観察し、彼の右手の指が不自然に固まったまま動かないことに気が付いた。

 

By(ヴァイ) the(ズァ) way(エイ)勇夫王。ここからの行動なんだが、羿に対してツメに入った方が良いと思うんだ。単独任務に当たらせた伊達男クンが気にかかるところだけど……」

 

 フェリドゥーンの右手が動かないのは羿の宝具かスキルによって何らかの呪詛を受けた影響である。

 そう踏んだ関羽は、解呪の可能性を考えてフェリドゥーンにそう提案した。

しかしフェリドゥーンは、

 

「いや、燕青を助けに行った方が良い」

 

 その提案を棄却した。

 

「羿の戦術も宝具も既に見切った。万全の状態でも多分いける気がする」

 

 ここまでフェリドゥーンが強気でいられるのは彼の保有する啓示スキルの性質によるところが大きい。

 彼の持つ啓示スキルは、自らの意思で予め前兆を知っておきたい概念を設定することが出来るのである。

 現状フェリドゥーンの脅威となるものは羿の不意打ちと彼の切り札たる旭日天墜の太極射であり、この二つを事前に察知出来さえすれば、封印宝具と持ち前の耐久力と速力で充分に対処可能だ。

 それでも厳しい戦いにはなると思うが、現状に於いて万全の状態の羿は差し迫った問題とは言えない。

 

「それよりも今心配すべきはアトラスの存在だ」

 

 寧ろフェリドゥーンにとっての懸念はそれであった。

 

「羿が弱ったことでアトラスは一時的にその支配から離れることになる」

「もしかして、暴走する?」

 

 立香の問いにフェリドゥーンは首を縦に振った。

 

「大変だ!」

 

 暴走したバーサーカーがどのような行動に出るかは立香にも想像が出来た。

 それは誰にも分からなかった。もしかしたらイースに現れるかもしれないし、不夜城に向かうかもしれない。無論、岩壁を破壊して桃源郷を荒らす可能性もある。

 それに加えて、立香の目にはアトラスはカルデアにいたヘラクレス以上に狂化しているように見えた。

 しかもどの場合にせよカルデアやレジスタンスにとっては好ましくない。

 それがどこに行くにせよ、特異点に巻き込まれた男達がいるからだ。

 

「勇夫王、あの巨人がどこら辺にいるか分からないのかい?」

「正確な場所は分からない。ただ、一番近いのはイースだ」

 

 フェリドゥーンの回答に関羽は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべた。

 

「……ヤバイな。イースの外には周倉に率いさせた部隊が待機してる。彼らであんなMonster(ムォンスツァー)に太刀打ちできるわけがない」

 

 周倉は百人力とも語られる剛腕と赤兎馬にも匹敵する速力を持つ戦士であるが、空を支える巨人の霊格で強化されたギリシャ最大の英雄に及ぶ是非はない。

 況や、戦士ですらないただの人をや。

 アトラスと相対すればレジスタンスの部隊は一分も持たずに全滅するだろう。

 

「関羽君、馬を出してくれ。君の愛馬と俺の速さなら間に合う筈だ」

 

 フェリドゥーンは関羽の肩に触れ、宝具の召喚を促すと“愛し子らよ、新世界へ飛翔せよ(サルム・トゥール・イラージ)”を起動しようとした。

 だが、

 

「Fished?」

 

 突然、関羽はフェリドゥーンの腕をはねのけた。

 慮外のことにフェリドゥーンの思考が一瞬止まる。

 

「“美塵葬・大紅蓮《チンロン・ユーメイレン》”」

 

 その僅かな隙間にフェリドゥーンは絶対零度の偃月刀を振るう。

 このまま呆然としたままだったならばフェリドゥーンはここで死んでいただろう。

 しかし、受け入れられないまでも状況を理解。足のみを竜化させ、後方に飛び氷の牙を躱す。

 そして、フェリドゥーンは腰を落とし力強く拳を突き出した構えを取ると、

 

「“愛し子らよ、新世界へ飛翔せよ(サルム・トゥール・イラージ)”」

 

 再び竜人態に変身した。

 

「え!? 何? どういうことなの?」

 

 立香は目の前で起きていることを飲み込めず、動揺していた。

 

「どうもこうもない。見ての通りだ。関羽雲長は俺たちを裏切った」

「裏切ったって、なんで?」

 

 少しだけ顔を下げたフェリドゥーンの表情は立香には分からなかった。

 フェリドゥーンの竜人態に表情は存在しないのだ。

 

「……俺たちが后羿と戦っている間に不夜城の女帝に何かされたんだろう」

 

 どこか希望が籠ったような想像に、

 

「FuHAHAHAHAHAHA!」

 

 関羽は盛大に失笑した。

 

「座からキミの頭に流れ込んだ関羽雲長(ボク)ってのはそんなに弱かった?」

 

 関羽は自分の頭を人差し指で突きながら、フェリドゥーンの言葉を否定する。

 

「こうしてキミ達に刃を向けているのはボクの意思だ。それにまず前提が違う。ボクは全存在が終わるまで劉備玄徳以外の誰かに与する気はないんだ」

「どうして今劉備玄徳の名前が出てくる?」

 

 マシュが言及した通り、劉備玄徳というのは三国時代の中国に於ける蜀を統治した王であり、関羽にとっては自身の主君でもあった人物だ。

 現時点に於いて、この特異点自体には無関係な人物である筈だった。

 

「決まっているだろう。今こうして君に切りかかったのは劉備玄徳の命令だからだ」

 

 しかし、ここでその前提は覆る。

 そして、立香の頭に最悪の想像が過る。

 

「まさか、さっき関羽が連れて来たあの子が……」

「そう、ボクの義兄(あに)。漢中王劉備だ」

 

 関羽から帰ってきた答えは肯定であった。

 

「奴隷を助けてレジスタンスを結成したのも?」

「義兄さんの命令さ。三つ巴の小競り合いに横合いから現れてはアマゾネスや女海賊達の奴隷を開放し、期が熟したところで総取りして一気に覇権を握る。そういう算段だった」

「カルデアに協力したのは?」

「……羿の撃破っていうのも与えられた任でね。アイツがいる限り義兄さんに明日は無い。その上で人理焼却を防いだカルデアと大陸のほぼ全てを支配した勇夫王の存在は大きかった。だから利用したのさ」

 

 関羽は立香に青龍艶月の切っ先を向ける。

 

「――聞かれる前に言っておくぜ。キミたちと今こうして敵対しているのは羿を瀕死に追い込んだ以上はもう用済みになったから。そして、ペラペラと明かしちゃいけないような真実を喋っているのは、知る意味がここで途絶えるからさ!」

 

 そう宣言すると関羽は詠い始めた。

 

「8935901,347,321109,299462――

 334022, 225986973, 238070, 139555346433, 12284――

 4739456, 154634094, 185862, 14881, 156――

 343980, 347, 146848625814――」

 

 その詠唱は――否、演算は関羽最大の奥の手を起動する為のものであった。

 関羽雲長の神としての名は関聖帝君。司るものは財。

 ならば詠唱も数式であるのも当然である。

 

「地面が光って……」

 

 立香は足元から湧き上がる青白い光に目を覆った。

 

「これは……」

 

 フェリドゥーンはそれが関羽を中心にして周囲二百メートル程に起こっていること、鬼火のような光の粒体が可視化された魔力であることを理解する。

 

「定礎――玉皇伽藍(グァンディー・ミィアオ)

 

 そして紡がれた宝具の真名と共に関羽の傍に二人の英雄が現れた。

 立香にとっては既知の顔である。

 

「周倉! 関平!」

「一応忠告しとくけど、呼びかけても無駄だぜ。彼らの思考はボクと完全に同化している。ま、分かれてたってキミよりはボクに従う可能性の方が高いんだけどね」

 

 それは本来星の抑止力として召喚される英霊と似ているかもしれなかった。

 目的遂行の為だけに用意された人の形をした力の塊。

 関羽の隣にいる表情を無くした二人の英雄はまさにそれであった。

 

「まぁ、無駄話はこれくらいにしよう。今はゆっくりとボクの(たまや)を観光していってくれたまえ」

 

 一方的に話を切り上げると関羽は立香が言葉を返すよりも早く立香の前に現れ、

 

「ただしその時間があったらね!」

 

 その頭に大紅蓮地獄を内包した翡翠の輝きを振り下ろした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。