Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し 作:源氏物語・葵尋人・物の怪
月日が経つのは誠に早いですね。
「やめろォ! 関羽ッ!」
咄嗟にフェリドゥーンは火炎を吹いた。
炎の噴射速度は立香の脳天に落とされる偃月刀の速さを大きく上回る。
関羽はそれを見抜き攻撃を中断。宙を翻り、竜の吐息を躱す。
「“
返す刀で関羽は青龍艶月を投げつけた。
藤丸立香に。
関羽は槍兵であっても投槍の逸話は存在しない。そもそも青龍偃月刀の重量を考えれば本来投擲に使用することなど不可能なのは明々白々だ。それを関羽はいとも容易く投げつける。
発射速度はごく一般的なライフルとほぼ変わらない。大刀の質量と相まってそれだけでも並程度のサーヴァントならば決別の一撃となるだろう。ただの人間については言うまでもない。
とはいえ、悪竜の肉体を近接戦闘に特化させた形態である“竜人”の速力にかかれば関羽の投槍など雀のようなものだ。フェリドゥーンは問題なく、立香に大刀が直撃するよりも速く回り込むことが出来る。
併し、ここまでは関羽の予想の範囲内である。
――どうする竜殺し? 流石の竜の吐息だろうと神造兵器を焼き尽くすなんて真似は出来ない筈だ。防ぐには
絶対零度の刃を放った真意は藤丸立香を殺すことでも、フェリドゥーンを殺すことでもない。
本命は勇夫王の最大宝具“鐵の牛よ、新世界を起こせ”を封じることである。
美塵葬・大紅蓮はその刃に一寸でも触れた者を殺すが、何もそれはサーヴァントや人に限らない。真名解放された青龍艶月は宝具をも凍結し、破壊することが出来るのだ。
宝具の格が上がれば上がるほど、破壊は困難になるがいかにも強力な宝具であろうと凍結することに変わりはない。
たとえそれが鐵化神牛のような高ランクの宝具であってもだ。
そして凍結した宝具は人体で譬えれば仮死状態に陥り、真名解放が出来なくなる。
「せいりゃあ!」
武装に触れさえすれば。フェリドゥーンは無論、青龍偃月刀を防いだがそれに用いた武器は牛頭の戦槌ではなかった。
右腕の甲から骨で形成された刃が突き出していた。フェリドゥーンはそれを振るい美塵葬・大紅蓮を防いだのだ。
「なっ……!?」
それは関羽にとっては予想だにもしない行動であった。掠りでもすればあらゆる命が死に絶える氷の刃をよりにもよって体で受け止めた形になったのだから。
当然フェリドゥーンの肉体は凍結が始まる。最上の神秘を内包する竜の肉体であっても例外なく。
しかし、フェリドゥーンは刃から肉体に凍気が侵食するよりも速く、手の甲にある刃を抉り取る。
夥しい流血。それに比例し激痛も凄まじいものがあったはずだが、その痛みに怯みすらせずフェリドゥーンは関羽に飛びかかる。
左の腕の前腕に魚の鰭を思わせる刃を作り出し、その刃道を関羽の喉元に目掛けて。
「攻略法なら知ってる。アマゾネスの女王が教えてくれた!」
「このッ……!」
だが、竜の刃は関羽の首を史実と同じようにすることはなかった。
聴色のごつごつとした刀身の双頭の剣だった。鉱石が剣のような形を胡乱に象っているように見えるその剣は、けれど竜の肉体から生み出された刃をまるで寄せ付けぬ硬度を有し、フェリドゥーンの斬撃に傷一つ付かない。
フェリドゥーンの膂力を以って破壊されないその強度がただの武具である筈はない。これは、ランサーの宝具である。しかし、フェリドゥーンはそれ故に驚愕していた。
――
刀剣の宝具を持つサーヴァントが必ずしも
しかし、
故に関羽が剣の宝具を持っているのは不自然であった。
――と、そんな疑問をフェリドゥーンが抱いた隙を関羽は見逃さない。
「周倉! 関平!」
呼びかけに応じ、二騎の英霊が立香を挟み撃ちに襲う。
――殺らせない!
フェリドゥーンは立香に向かい自身の口から何かを吐き出した。立香の周囲にばらまかれたのは無数の歯であった。そして、その歯はまるで種から芽が出るように裂け割れると、そこから骨で出来た戦士が生れ、あっという間に立香と変わらぬ丈にまで膨れ上がりさらには枝分かれし、分裂を始め無数の軍勢へと拡大した。
立香はこれを知っていた。今までの冒険でも幾度となく見てきた。
「竜牙兵!?」
ギリシャ神話において竜の牙から生まれたとされる戦士が存在する。それこそがスパルトイ――竜牙兵である。とはいえ、生れたての竜牙兵などサーヴァントにとっては象に嚙みつく蟻も同然の惰弱な存在である。一体、二体ではまるで意味を成さないだろう。
それが一体、二体であれば。だが、現れた竜牙兵はその数は二千体。
骨で出来た雑兵達はスクラムを組み、周倉と関平の突進を受け止める。
「ッ……!」
周倉と関平は竜牙兵に纏わり付かれてもなお、前に進もうとするが何しろ数が数だ。二人の戦士はすぐに制止を余儀なくされ、そこに竜牙兵が山のように積み重なり完全に沈黙。
「何!?」
「隙アリだ!」
そして、その間にもフェリドゥーンは関羽に火の吐息を浴びせつつ、地上に蹴り落とした。
「……やった?」
地上に降りたフェリドゥーンに立香が訊ねる。
「まだだ」
フェリドゥーンは首を横に振った。
「たっくもう。嫌になる無法っぷりだよね、勇夫王ってのはさ」
彼の目線の先には、火達磨になりながらも余裕の笑みを浮かべる関羽がいた。
「悪いけど、俺パルスの王様だからね。イモータルくらいは率いるさ」
「Immortal? これが? HAHAHAッ! 確かにこりゃあ不死身の軍勢だ」
関羽は苦笑を漏らした。
イモータルまたは
何故ならば――
「身一つ、ほぼNo riskで兵士をいくらだって増やせるんだ。悪い冗談の大行進だろ」
フェリドゥーンの竜牙兵は尽きることがないからだ。
ただ呼吸だけで魔力を精製する永久機関に等しい存在である竜種であるが、同時に竜が強大である理由は人を含めた凡百の生物が有する細胞分裂の限界――言い換えれば命の限界と言われるものが存在しないからだ。
神話や伝承に描かれる竜は多くの場合、寿命で死ぬことはなく、大抵“英雄”という外的要因でその活動限界を終える。
そして、細胞分裂が無限に行われる為、竜の牙というものは抜け落ちてもまたすぐに生えてくるのである。故に勇夫王の兵は彼が生きる限り尽きることがない不死隊と化すのである。
「良いよなぁ、それ。大陸を支配するとか楽だったんだろうなぁ。ボクの王様にも、蜀にもそういうのがいてくれればなぁ」
子供のような羨望を向ける関羽はなおも火達磨であったが、余裕の態度を崩さなかった。
「まぁ、でも勝つのはボクだけどね」
何故なら、炎を消すことはいつでも出来たから。
関羽がフィンガースナップを打つと、頭上から滝のような大量の水が降り注いだ。
そして、水で肉体を焼く炎をそうやって払うと、もう一度フィンガースナップ。
すると、今度は竜牙兵の山に埋もれていた筈の周倉、関平の二騎が関羽の傍に現れた。
「なるほど宝具が発動している間、周倉と関平は君の隣か。まさしく関帝廟だ」
「関帝廟って横浜にある関羽を祀った神社みたいなヤツだよね?」
「ヨコハマっていうところが何処かは分からないが、君が言ってるモノは関帝廟で間違いない」
ここでカルデアからの通信が入り、マシュが関帝廟についての説明を繋ぐ。
『関羽さんは義に厚い中国では古くから人気のある武将でやがて神として拝されるようになりました。その神としての関羽雲長――関帝を安置する場所が横浜を始め世界の各地に存在する関帝廟です』
「そして、恐らく関羽の本当の切り札の正体でもある」
『関羽雲長が関帝廟を“使う”……ですか?』
訝し気な顔をするマシュを見ると関羽は小馬鹿にしたような微笑を浮かべた。
「何もおかしなことはないさね。サーヴァントの宝具ってのは多かれ少なかれそういうもんだし? ボクの場合はまだlogicalだぜ?」
『論理的だというならちょっと証明してみてくれないか?』
ダ・ヴィンチから求められると、関羽は親指で自分の顔を指した。
「ボクがいる」
『……何だって?』
「いや、だからボクがいる。関帝廟には関聖帝君が、つまりは関羽雲長たるこのボクが祀られている。そしてボクを祀りさえすればどんな形式だろうと、他に何が祀られていようとそれが関帝廟だ。なら、いまボクがいるここが関帝廟でしょ?」
『どこが論理的だ! 暴論じゃないか!』
「そういった文句はボクじゃなくてボクを崇めた連中に言ってくれ給え」
関羽は呆れ腐ったような表情で溜息を吐いた。
「大体にして関帝信仰なんて宗旨は滅茶苦茶なんだ。関帝に祈りを捧げるだけで、何を祈ろうとどんな形で祈ろうとOK。そんなのが何百年にも渡って支持されているんだ。ボクの宝具が簡単な発動条件とそれに見合わない絶大な効力を発揮するのも当然さね」
「絶大な効力?」
立香が抱いた疑問に答えたのは、啓示のスキルを以って関羽の宝具の全容を暴いたフェリドゥーンであった。
「関帝廟であると決めた場所にいる間のステータス強化し、知名度によって受ける補正を最大化。同時にあらゆるクラス、あらゆる可能性におけるスキル、宝具の使用を可能にする。そうだろう?」
「おっと勇夫王。彼らのことを忘れちゃあ駄目だぜ」
関羽は両脇に控える臣と義理の息子の肩に手を回すとフェリドゥーンを窘めた。
「“そこが関帝廟である以上関羽の隣に周倉と関平が在るのは当たり前”――関帝に祈りを捧げる人達の中ではそういうのが常識になってるお陰でボクが宝具を発動させるとこの二人が勝手に現れるんだが、二人ともボク以上に強くて優秀だからね。一番の強みと言って良いだろう。ボクの宝具もしっかり使いこなせるしね」
そう言いつつ関羽は周倉が後ろ手に持っていたものを見せた。
「例えばこういうのとかね」
どこか未来的、空想科学めいた意匠ではあったが立香にはそれが、
「ソロバン?」
に、しか見えなかった。
「Right!そう、算盤だよ。しかも、ただの算盤じゃない。ボクが開発したオリジナルの魔術deviceさ」
『魔術……デバイス?』
「トンデモパワーも所詮は情報に過ぎないわけだからね。コイツはそれを数式化することが出来る。そして、その数式をコイツに打ち込むことで術理を再現することが出来る」
その言葉を聞きダ・ヴィンチは顔を強張らせる。
『まずい! みんな、そこから逃げろ!』
「もう遅いぜ、Lady。とっくに発動してる」
関羽は人差し指で地下空洞の天井を指差した。
「神の杖とかって兵器が現代にはあるらしいが、まぁ、それみたいなモンさね」
顔を上げた立香は驚愕に目を見開く。
アガルタの空の一部が筒状になって自分達の上に落ちてきていたのだ。
それも途轍もない速さで。
「お前が喋っている間、周倉が算盤にコマンドを打ち込んでいたのか!?」
「今さら気が付いても遅いよ。キミたちの上に落ちてくるの、ここから地上まで全部だから。勇夫王がいくら頑丈だっていっても流石に死ぬでしょ」
そう言っている間に関羽の生み出した神の杖が立香とフェリドゥーンに直撃した。
「ボクの言葉には針で出来た筵が織り込まれていると思った方が良い。言ったろ? 無意味にペラペラと喋っているわけじゃないんだ」
砂塵が巻き上がり白んだ視線の向こう側に向かって関羽は勝ち誇ったように語りかけた。