Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し 作:源氏物語・葵尋人・物の怪
A.デュエマのCSとか出てた
「勘違いしてもらっちゃ困るな」
しかし、意外。
関羽の耳には聞こえてはならない筈のフェリドゥーンの声が聞こえていた。
いや、聞こえてしまうのも無理はなかった。
「おいおい嘘だろ……。噓と言ってくれよ、フクリュー先生」
「伏龍じゃなくてただの竜で言いなら俺が真実を語ろう。勇夫王フェリドゥーンは我慢強さと諦めの悪さだけが取り柄だ。だから、大地が脳天に落ちたくらいじゃ死なない!」
フェリドゥーンは生きていたのだから。
砂埃が晴れた先には、大地をくり貫いた超大な円筒を片腕で受け止めるフェリドゥーンがいた。
大地は割れ大きく凹んでおり、隣に立つ立香は立っているのがやっとであったがそれでも生きていた。
「……と、カッコ付けてみたのは良いんだが、流石に片手一本じゃキツイな」
フェリドゥーンの目配せを受け取ると、立香は表情を引き締める。
「分かった! 礼装起動“瞬間強化”!」
そして礼装に内包された術式を発動させる。
行われるのはフェリドゥーンの筋力ステータスの一時的な強化。
強化された腕力で大地の砲弾を支えつつフェリドゥーンは、
「そぉい!」
膝の
そして円筒にくり貫かれたヒマラヤ山脈だったものは元の位置に戻り、フェリドゥーンの魔術を以って元通りに修復される。
「だったらこれはどうだ!」
だが関羽は自分の戦術が崩されるのを見るや否や、すぐに冷静さを取り戻し次の手を繰り出す。
算盤に入力した数式によって構成されるのは召喚術。時空間の壁を引き裂いて現れたのは、石と木材と金属で出来た巨人であった。
「……ロボット?」
立香がそれに対して抱く率直な感想であった。
子供の頃見ていたテレビアニメや特撮ドラマに出てくる、ビルよりも大きな巨大ロボット。目の前に現れた巨人を敢えてカテゴライズするならばそれになると思われた。
「違う。これはボクの城だ!」
と関羽は嘯いたが正確には少しだけ違う。
確かにその城の主であったことはあったがそもそもこの城の持ち主は関羽雲長ではない。
本来の主の名を呂布奉先。半人半機という同時代の武人にあっては極めて異質な性質を持つ彼の為に超軍師陳宮が拵えた変形し起動する“鎧”。それ単体でも自走式の対軍殲滅兵装として機能するその名を荊州城。
「Show time! Full burst!」
関羽の
爆裂を伴った猛烈な熱風と共に。
「――
その爆風の中を赤き竜と化した王が翔ける。
カルデアのマスターを背負って。
「大丈夫か、立香君?」
背に跨る立香にフェリドゥーンは立香に声を掛ける。
「
立香は横風に振り落とされそうになったところを背中に生えた突起に掴りながらなんとか耐えると、
「もうちょっと、真っ直ぐ飛べない?」
フェリドゥーンに苦言を呈した。
先程からフェリドゥーンはフラフラとした不安定な飛行姿勢を取り続けている。
「荊州城、主砲用意……Fire!」
関羽が駆る荊州城は熱光線を放ちながら、凄まじい速さで追いかけてくる為、速度を出さなければならないのだが、立香の場合は竜の背から落ちた時点で致命傷となる。
いや、確実に死ぬ。
故に飛行姿勢の安定は文字通りの死活問題であるのだが――
「ごめん! 今は調子が悪い!」
立香の提案は断られる。
何故とは、立香は聞かなかった。
原因をなんとなく察することが出来たからだ。
恐らくは羿の宝具を受けて動かせなくなった右腕。竜化した際にはその右腕が右翼に対応するのだろう。つまりフェリドゥーンは現状、左翼のみで飛んでいるということだ。
バランスを欠くのは当然であり、高速での飛行を可能に出来ているだけでも驚くべきことなのである。
「それよりも関羽君をまずどうするかだ、立香君。一応あの城ごと彼を焼き払う炎は出せるけど……」
「待って欲しい」
真っ向から関羽を排除しようとするフェリドゥーンを立香は制止した。
「立香君?」
「ねぇ、マシュ。関羽が劉備玄徳といった子、君にはどう見えた?」
『え? そうですね……』
マシュが長考に入っている間にも荊州城の砲撃は続く。
フェリドゥーンは旋回し躱す。だんだんと立香の腕からも力が抜けていく。
『先輩!?』
「大丈夫だよ。続けて」
『高貴な身なりをしているように見えました』
「劉備玄徳って、確か子供の頃は貧しい身分だった筈だよね?」
『いえ身分というよりも、暮らしが貧しかったというべきでしょうか。父劉弘の死をきっかけに暮らし向きが悪くなり筵織りをして日々の糧を得ていたと言われて……あ!』
自分で話しながらマシュは気が付いた。
『関羽さんが劉備と呼んだあの少女は』
『偽物だろうね』
ダ・ヴィンチもまた正解にたどり着いた。
サーヴァントは特殊なケースを除き基本的に、英霊本人が全盛期の姿で現界する。本人が現れる以上、歴史書で男とされていた人物が女であることもあるし、“全盛期”は当人の捉え方にもよるためそれは若年期かもしれないし老年期かもしれない。
故に劉備玄徳が童女の姿で現れることは問題ではないのだが、それが高貴な身なりをしているとなると話は変わってくる。サーヴァントとして現界する際の装束は、当人が生きていた頃とは異なっていることもあるが、それに影響を与えるのはズバリ集合知。万人が持つその人物に対するイメージである。
広く知られている劉備のイメージとは三国志演義に描かれる聖人君主たる英雄であり、その物語の始まりに於いては貧しい身分であったことが語られている。
であるならば高貴な身なりの子供の姿での現界というのはまず有り得ないのである。
『でも、だとしたら関羽さんはどうしてあの少女を劉備玄徳だと言ったのでしょうか?』
その疑問にダ・ヴィンチはこのような仮説を立てた。
『認識操作か記憶操作か。恐らくそのどちらかを何者かに受けたんだろう』
その推測を聞き、フェリドゥーンは立香の狙いを察する。
「成程。関羽君を再洗脳しようってわけだな」
『簡単に言うなフェリドゥーン。結界宝具を展開した関羽の対魔力は神代の大魔術だろうと容易にレジストする。いくら君が魔術の達人と言えど、それは不可能だ』
カルデアの管制室のモニターに映し出された関羽雲長のステータスを見ながらダ・ヴィンチはそう断じた。
「ああ、だから立香君にも命を賭けてもらう」
「俺の命を?」
「関羽の懐に潜り込んで直接彼の
『そんな、危険すぎます!』
強く反対したのはマシュであった。
「いや、俺はやるよ」
『先輩!?』
「多分だけど、関羽にとっての劉備は、とても大切な人だ。それが分からなくなるなんて、そんなのは駄目だ」
仮に自分の身に同じようなことが起こるとして。
もしも、明日マシュのことを忘れてしまうとして。
それを考えることさえも藤丸立香にとっては嫌なことだった。
屹度それは関羽にとっても同じこと。
「だから――フェリドゥーン、頼むよ」
「お安いご用だ」
そう言いつつフェリドゥーンは竜人態に変わり立香を背に乗せ直すと、
「それじゃあ行くぞ、カルデアのマスター! 舌噛むんじゃないぞ!」
掌と足の裏から青白い魔力の光を噴出し、関羽を乗せた荊州城に突撃する。
「向かって来たな……何をする気だ!?」
フェリドゥーンが自分と接触するまでに掛かる時間を割り出すと、関羽は手元の算盤に
それは現代に於いてトンネルボーリングに用いられるシールドマシンに似ていた。おろし金状の細かい歯が付いた円盤の回転によって岩盤を掘削し土中を掘り進むための機械だ。
無論荊州城の右腕に取り付けられた円筒も回転し目の前にあるものを砕く為にある。接触すれば竜種といえども挽き肉になるだろう。
「食らえ!」
カウンターの形で飛び込んで来たフェリドゥーンに右腕を当てに行く関羽。
だが、荊州城の右腕が龍人を破砕することはなかった。
出来なかったのだ。荊州城の回転する円筒は、ドロドロに溶かされていたのだから。
フェリドゥーンは炎を吹いて攻撃を無力化したのだ。腕に飛び乗り、フェリドゥーンは関羽に向かって走る。
関羽は青龍艶月を召喚し、フェリドゥーンを迎え撃つ。
「
宝具を発動するが、ここで急に関羽は体に違和感を覚える。
刃の速力が自分で思っている以上に出ない。
あっさりとフェリドゥーンに躱されてしまう。
――しまった!? ボクとしたことが、こんなことを失念するなんて!?
その理由はすぐに分かった。時間切れだ。結界宝具を展開し続けた結果少しずつ綻び始めたのだ。まずそれがステータスの一部に現れた。大刀の速さが鈍ったのはそれが原因だ。
しかし――
「捕まえたぞ」
気付いた時には遅かった。関羽は腕を掴まれ、フェリドゥーンが体を変形させ生やした棘が突き刺さり身動きを取ることが出来なくなってしまった。
「場は整えた! 頼むぞ立香君!」
自分の後ろに立つ立香に声を掛けた。
「任せて!」
息も絶え絶えにそう答えた立香の姿を見て関羽は目を見開いた。
彼は震えていた。いや、震えるのも当然なのだ。何せフェリドゥーンは風すらも置き去りにするほど速く飛んでいたのだから。ただの人間である藤丸立香は最悪死ぬ可能性だってあった。本来人は死ぬのが怖い生き物だ。そうではない種類の人間も関羽は何人も知っているが大抵は死を恐れるものだ。自分も例外でなく。
おまけに体のあちこちに焦げたような跡まで見られる。先程フェリドゥーンが炎を吐いたためにその熱に当てられたのだろう。
「そんなザマでどうして立てるんだよ!? オマエも! アイツも!」
関羽の叫びに立香はこう答えた。
「分からない。気が付いたらここにいた」
と。
そして紡ぐ。
「令呪を以って命ずる。関羽に大切なものを思い出させろ」
その言葉と同時にフェリドゥーンに膨大な魔力が充填される。
「良かったら、聞かせて欲しい。その、“アイツ”の話を」
『荊州城』
・超軍師陳宮が呂布奉先用に作った城兼鎧。本来は呂布と変形合体することでその機能を発揮するが単独でも自走する機動兵器となる。
関羽が一時曹操の下に身を寄せることになった戦いに於いて関羽が立てこもったのもこの城であり、大いに義軍を手こずらせたという。