Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し 作:源氏物語・葵尋人・物の怪
煙は、一人の男が肉を焼いた為に上がっていたものだった。
木の枝に細かく切った肉を突き刺し、香草のようなものを乗せて焙るだけのBBQのような簡素な料理。
極めて常識的な調理法である。
……深紅の鎧に身を包んだ男の傍に転がっている死骸が、立香がオルレアンで戦ったファーブニル程もある巨大なドラゴンでなければ。
「ああっと……」
燕青は言葉に詰まった。
男の行動に困惑したのだ。
『先輩、サーヴァント反応です。目の前のその人はサーヴァントです』
「うん、見れば分かるよ」
ふざけているとも取れるマシュの発言に、立香は苦笑いを浮かべた。
燕青も彼と同じ気持ちだ。
状況から見て、この大型ドラゴンを倒したのは目の前の男だ。仮に、この男が只の人間だとしよう。果たしてそれを立香と燕青は受け入れるだろうか。いや、受け入れられない。
サーヴァントであってくれて良かったと燕青は心の底から強く思った。
――にしてもコイツ……。
燕青は改めて男を見て思う。やっていることは理解不能であったが、男から感じる力はかなり強い。恐らくこの力はオジマンディアスや、ロムルスといったサーヴァントにも比するだろう。
マシュもモニターに表示されるサーヴァントのデータを確認し、驚愕する。高水準で纏まったステータス、破格の霊格――数値上でも疑いようがないトップサーヴァントである。
またダ・ヴィンチは焚火の傍に無造作に放置された男の得物と思われる、槌矛に注目する。彼の鑑定眼と解析されたデータは、少なくともAランク以上の宝具であるという結果を導き出す。幾ら宝具が頑丈だとはいえ、焚火の傍に置くという扱いが不可解に思える程の代物であった。
併し、この時点ではそんなことを知る由もない立香はもっと別の場所に目を向ける。浅黒く健康的な肌、三つ編みした長い髪、快活で人が良さそうな野性味を感じさせる顔立ちといった見た目。そして、そこから受ける、男の印象。
“無害”という概念が服を着ているのではないかと思える程に、この男には安心感がある。立香は彼のことを疑いようもない善人として認識した。
「俺になんか用?」
肉の焼き加減を見ながら、男は無言のままの立香と燕青に問いを投げる。
「ええっと、俺は藤丸立香。こっちは燕青。カルデアって所から来た」
人としての常識として、立香はまず自己紹介をする。
「藤丸立香……君があの藤丸立香君か!」
「知ってるんですか?」
「勿論! だって座にいながらもずっと活躍を見てたから!」
サムズアップと共に男は太陽のような笑顔を立香に向ける。
「お近づきと、お詫びの印――っていうには足りないけど、コレ、あげるよ」
男が差し出してきたのは焼き立ての肉であった。
「オイ、いい加減にしろよ、アンタ。誰がそんな得体の知れねぇ肉を……」
「いただきまーす」
「って、食うのかよ!?」
「美味い。やっぱりドラゴンの肉は最高だ!」
燕青は、ドラゴン肉の串焼きに舌鼓を打つ立香を唖然とした表情で見る。
『これが所謂、“飯テロ”というものでしょうか? 羨ましい……ジュルリ』
「後輩ちゃんも何言ってんの!?」
マシュのずれた発言に燕青は頭を抱えた。
――この時彼は、常識人不在の恐怖を覚えたという。
「思えばお腹空いてたんだ。朝食食べ損ねたし。美味ェ」
「マジか? イヤ、もう一度聞くけど、マジか?」
疑いの眼差しを向ける燕青にも、肉が差し出された。
燕青は恐る恐る、それを受け取り、南無三と念じながらかぶりつく。
「……うめぇじゃねぇか」
男は二人の反応に、満足そうな笑みを浮かべた。
「まだあるから、好きなだけおかわりして良いよ」
そう言いながら、男もまた肉を口にする。
「ところで、お近づきっていうのは、分かるだけど。その、お詫びって?」
立香は素朴な疑問を口にする。
男とは初対面で、何かされたということなどあるわけがなく、わざわざ謝られる言われはないのである。
「君たちの旅を知りながら、俺は力を貸せなかった。……戦えない事情っていうのはあったけど、それでもとっても悪いことをしている気がして、ね?」
「いや、そんなこと……気にしなくても良いから」
申し訳なさそうな態度の男に、立香は逆に申し訳ないという気持ちで一杯になった。
『……なんというか。良い人ですね。その、心配になるほどに』
マシュと同じ感想を立香は抱く。
「変な壺とか買わされそうだよね……」
「壺? 何それ? あ、竜は壺焼きでも美味しいよ?」
立香の言わんとしていることの意味が分からず、男はからからと笑ってそんなことを言い出し、身振り手振りを交えて“竜の壺焼き”なる料理の作り方を話し始めた。
……なんというか、大分、呑気で緩い人だな。
立香は男の評価を更新する。
『すまない。壺焼きの話は大変結構なのだけどそろそろ君のことについて聞きたいんだが』
実際、男のマイペースぶりは凄まじく、ダ・ヴィンチが口を挟まなければ、与太話は留まることを知らなかっただろう。
「あ、そっか。俺、まだ自己紹介してなかったね」
そう言って彼は、鎧の中をがさごそと漁り、掌ほどの大きさの木の板を立香と燕青に差し出した。
何か、文字が描かれていたが、
「読めねぇ……」
その内容を理解することは出来なかった。
「マシュ、なんて書いてあるか分かる?」
見たこともない言語を前に、立香は匙を投げた。
『これは、アヴェスター語ですね』
「あヴぇすたー語? 何それ?」
『拝火教の聖典“アヴェスター”を記す為の専用言語です』
「うん、分からん。何て書いてあるの」
『今、解読します。えぇっと……“夢を追う王様 笑顔を愛する男 フェリドゥーン”』
立香はその名前を聞き、腕を組む。
「“フェリドゥーン”……なんか知ってるような……どっかで見たことがあるような……」
『多分、“王書(シャー・ナメ)”ですね。アーラシュさんの講義を受ける前に、先輩が読んだ本に書いてあったのかと』
「あ、多分それ」
立香は英霊の伝承に関する知識の無さを改善しようとして、勉強をしようと思ったことがある。
“王書”は、立香がアーラシュの伝承について調べようとした時に読んだ本だ。内容の大半は理解出来なかったが、如何やらそれに登場した英雄の名前だけは記憶に残っていたようだった。
『フェリドゥーン……東方の大英雄アーラシュが仕えたマヌーチェフル王の曾祖父に当たる人物だね』
『はい、邪神アンリマユに因って産み出された千の魔術を操り人々を苦しめる邪竜アジ・ダハーカ。それを退治した神代の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)。それがフェリドゥーンさんです』
フェリドゥーンは自分の評価に対し、苦笑を浮かべる。
「そこまで持ち上げることじゃないって。俺は武器を持って竜と戦った。それでも倒せなくて封印するしかなかった。ただそれだけの話だよ」
謙遜ではなく、本当に自分の成したことの大きさを理解していないともとれる言い方であった。
拳を見せてフェリドゥーンは語る。
「これで解決出来ることをこれで解決しただけなんだ。そんなの、全然凄くないよ」
自分の掌に拳を打ち付けるフェリドゥーンの顔には苦悶が浮かんでいた。
立香はフェリドゥーンのこの表情に何を言うべきか迷った。否、何を感じているかも分からなかった。
『ところで気になったのだが。若しかして、君が力を貸せなかった理由というのはひょっとして邪竜の封印に関わることなのかい?』
そして、立香の問いは、遂にはダ・ヴィンチの好奇心に呑み込まれる。
「へぇ、カルデアの魔術師ってのはすっごいな。そんなことまで分かっちゃうのか」
『勿論、このダ・ヴィンチちゃんにはまるっとお見通しなのさ』
ダ・ヴィンチとフェリドゥーンの会話の内容がまるで分からない立香はポカンと口を半開きにしたまま呆ける。
『フェリドゥーンさんが封印した邪竜は、世界が滅びるその日に目覚めるという伝承があるんです』
「……つまり、人理焼却とかが起こると封印が解けるってこと?」
『そういうことだと思います』
マシュの説明を聞き、立香は漸くダ・ヴィンチの言わんとしていることを噛み砕いた。
『確かアジ・ダハーカは目覚めたその日にフェリドゥーンの子孫に倒されるという予言がなされていたが……成程、実際は座に押し上げられた英霊フェリドゥーンが安全装置だったわけか。となると、アヴェスターに於けるフェリドゥーンは最初、キリストと同じく復活をする存在だったというのか? うん、これは興味深いな』
ダ・ヴィンチがさも愉快そうに話しているが、立香は何が面白いのか分からなかった。
取りあえず分かるのは、学者肌の者にしか分からない世界があるということくらいか。
と、此処で、
「盛り上がるのは良いけどよ、皆さん、話戻して良いかい?」
燕青が閑話休題を要求した。
頬を栗鼠のように膨らませながら。すっかりドラゴン肉に味をしめたのか、既に彼の膝の傍には串が三本も転がっていた。
「俺ら、まだこの人からなんも聞いてねぇからさ」
「あ」
その指摘で立香は本来の目的を思い出した。
情報収集である。
「あの、フェリドゥーンさん」
「フェリドゥーンで良いよ」
「じゃあ、フェリドゥーン。君はアガルタ――この特異点について詳しい?」
フェリドゥーンは首を横に振った。
「ここに召喚されたのはついさっきって所。だから、俺はこの世界について知っていることが一つもないんだ」
「じゃあ、他に人間かサーヴァントを見かけたりした?」
「人間なら十人くらいは見たよ」
その言葉に表情を明るくしたが立香であったが、直後にフェリドゥーンが告げた事実はそんな彼を打ちのめす。
「全員、死んでいたけどね」
「え?」
「この世界について、一つだけ分かることがある。魔獣の人に対する殺意が異様に高い」
フェリドゥーンが見た死体は状況と状態から見て、魔獣に殺されたと見て間違いはないらしい。ただ、不可解なのは死体には食われた形跡がなく、死体の近くを通り過ぎる魔獣も興味を示さなかったこと。詰り捕食目的ではなく、単純に人間を殺すことだけが目的だということだ。
縄張りに侵入した外敵を倒しただけとも考えたが、その後出会った魔獣達の悉くがフェリドゥーンを執念深く襲ったらしい。足の一本や二本を欠損した程度では止まらないその様は、まるで、絶対に殺すまでは止めないと設計されているかのようだったという。
『うーん。さっきの魔猪の不自然な挙動を見るに、フェリドゥーンの見解には説得力があるね』
立香は先程の魔猪の行動を思い出し、今までの特異点で出会ってきたエネミーと比較する。
――そして、確かに、作り物臭い動きだったという見解に落ち着く。
「他に何か、気になることとかない?」
「ある。これも死体に関してだけど……」
と、話し出そうとしたフェリドゥーンが急に槌矛(メイス)を手に取り立ち上がった。
それに合わせて燕青も立ち上がり、目を細め、構えを取る。
『すいません、生体反応が此方に近づいてきます。僅かに、拾えた音と熱源、魔力の質から恐らく、騎馬隊のようなものかと思われます。数は……』
「二百騎くらいだね」
マシュの言葉の先をフェリドゥーンが続ける。
立香も慌てて立ち上がり、燕青の隣に立った。
「たまたまこっちに来てるだけ……ってわきゃねぇよな……」
冗談交じりに燕青はフェリドゥーンに訊ねた。
「あれだけ盛大に煙立てておいてそれはないでしょ」
フェリドゥーンは槌矛の柄で準備運動をしながらそう返した。
詰り、狙いは自分達ということである。
「まぁでも、狙い通りといえば狙い通りか。あとは、俺の知りたいことを知ってるかどうかってことだけど……さて、どうなるか」
だが、地の向こう側から遣って来る土埃を見据えながらも、フェリドゥーンは余裕を崩してはいなかった。
【出典】アヴェスター、王書
【CLASS】ランサー
【真名】フェリドゥーン
【性別】男
【身長・体重】190cm・90kg
【属性】秩序・善・地
【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷B++ 魔力B+ 幸運A+ 宝具A++
【クラス別スキル】対魔力A
【固有スキル】カリスマA、啓示Cなど
【宝具】???
東方の邪竜殺し。ガチで世界を救った男。神代が生んだ山育ち。
彼の曾孫に神代最後の王マヌーチェフル――アーラシュが仕えた王がいる。
『夢を追う王様 笑顔を愛する男』を自称し、マイペースで緩い性格。彼に加護を与えた女神が“健康”や“豊穣”を司る為か、かなりの健啖家。好きな食べ物は竜。でも、アジ・ダハーカは食べない。