Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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第二節 勇夫王の涙Ⅰ

 馬に乗って遣って来たのは、女の集団であった。

 野獣の皮で作られた簡素な衣服を纏った彼女らは、それぞれが弓や槍、剣に円盾などで武装していた。

 

「……戦士、かな?」

「これで大道芸人だったら面白れぇけどな」

 

 立香に冗談を吐くだけの余裕がある燕青であったが、その実、顔からは笑みが消えていた。

 如何やら立香が抱いた印象が、そのまま彼女達の性質であるようだった。

 

「男だ、野良の男だ!」

「私の言った通り、見に来て良かったろう?」

「赤い鎧の男は強そうだな」

「私は隣の刺青の男の方が好みだ。良い筋肉をしている……それに美人だ」

「なんでもしてくれそうな、いやらしい顔がたまらない」

「……もう一人はてんでへな猪口そうだが、まぁ使い道はあろう」

 

 立香達に向けられる、舐め回すような視線。見下したような下卑た笑声。

 女戦士達は、皆、並外れた美貌の持ち主であったがその振る舞いはそれを台無しにして余るものであった。

 

「何にせよ、男は皆、我々のものだ」

 

 一斉に武器を天高く掲げ、鬨の声を上げる女戦士達。

 その気迫と、主や自分に向けられる性的な視線を警戒し、燕青は“臨戦”から“死合”へと、感情を切り替える。

 

「……殺さないでね」

「あいよ」

 

 不意に主から齎された難題を燕青は安請け合いする。笑顔と共に。

 だが、主の要求は別段難題でもない。彼が操る燕青拳は、足捌きに重きを置いた無影の拳だ。一歩目の踏み込み、そして其処からの“次”の速さに関してはカルデアのサーヴァントの中でも随一であるという自負が燕青にはある。

 その速さでもって、女達に肉薄し、最小限の動作で二、三人を同時に沈黙させる。女戦士達の士気は高いが、それでも、出鼻を挫かれれば浮足立つ筈だ。そこを一気に攻める。その状態ならば、実質的に不意打ちに近い状況になる。

 ――気絶を狙うならそういった状況を狙うのが最も良い方法だ。燕青は刹那の内に戦術を纏め上げ、行動を起こす。

 然して、燕青が一歩を踏み出そうとしたその瞬間であった。

剛――……。

 地下空洞そのものが大きく揺れた。立香は一瞬、地震かと疑う。若し地震であれば、震度は三ほどか。

 だが、これは地震ではなかった。フェリドゥーンだ。牛の頭を模した特殊な形状の穂先を持つ槌矛(メイス)。その穂先を、地面に叩き付けたのだ。

 一瞬、時が停止したかのように、女戦士達とカルデア双方の動きが止まる。

 そして、外套(マント)を翻し、両陣営の真ん中に歩み出ると、

 

「俺の名はフェリドゥーン! 恐れ多くも“有夫王”と呼ばれた者である!」

 

 フェリドゥーンはいきなり名乗りを上げた。

 

『な……』

 

 この光景を見たマシュは絶句する。

 特異点での行動は、修復を確実に行うために、またその過程に於ける人類最後のマスターの身の安全を確保するために、慎重に慎重を重ね、臨むべきものだ。

 だのに――この“有夫王”はそれをたった一言で一切合切台無しにした。

 

「この名を恐れ、震えたというなら今すぐ武器を下ろして欲しい。そして、俺の質問に答えて欲しい!」

 

 然も、いきなり相手に全面降伏を要求する傲岸さ、そして迂闊さである。

 ともすれば、これは侮辱である。戦場そのものを馬鹿にしているとさえ捉えられる。現に、女戦士達は、皆一様に、怒りに面容を歪めていた。

 

『これは……いや、私が言えることじゃないが、それでも敢えて言わせて貰おう。これはひどい! 最悪だ!』

 

 いつもは寧ろ、その頓狂な行動で周囲の人間を困らせてばかりのダ・ヴィンチすら苦笑いを浮かべていた。

 

「フェリドゥーン? ハ、知らん名だな」

 

 女戦士達の戦う理由が加わる。憤怒、或いは、戦士の誇りを傷つけたことに対する断罪。

 女たちは手綱に込める力を強め、フェリドゥーンへと馬を突撃させようとする。

 だが、

 

「うぎぃっ!」

「あんぎゃっ!」

 

 その刹那、馬上にいた戦士が五、六人、宙を舞う。

 立香は何が起こったのかまるで分からなかった。

 燕青は見ていて尚、自分の目を疑った。

 女戦士達とは大分隔たった場所にいる筈のフェリドゥーンが、槌矛を振るったのだ。そして、武器の軌道に因って生じた圧が、女戦士達を馬上から跳ね上げたのである。

 

「……胸椎、腰椎」

 

 フェリドゥーンはぼそりと、呟く。

 

「――座から得た知識に照らし合わせると、その娘(こ)たちが今、痛めた場所を然う言うみたいだ。走ることと、馬に乗ることには間違いなく、支障が出る。いや、放っておけば死ぬ可能性だってある」

 

 呆然とする女戦士達にフェリドゥーンは、自分が攻撃した者達の状態を告げる。

 真剣な眼差しで。

 

「でも、今ちゃんと手当すれば、ただ日々を暮らすことは十分出来るくらいには回復すると思う。今、俺がやったのはそういう攻撃だから」

 

 立香は、吹き飛ばされた女戦士に目を遣る。

 確かに、苦しみ悶えながらも、歩行が出来ないながらも、生きていた。

 彼としては、彼女達が生きているならば構わないのだが、それでも気に掛った。一体、フェリドゥーンは何がしたいのだろうと――。

 その答えは直ぐに出た。

 

「……お願いだ。俺が言うのはおかしいことだっていうのは分かる。でも、武器を下ろして、この娘(こ)達を手当てして欲しい。そして、頼むから俺達と戦おうなんて思わないで。それと、俺の質問にも答えて欲しい」

 

 ――フェリドゥーンは本気で戦いを避けようとしていたのだ。

 眉間に深い皺が刻まれ、瞳は悲痛に潤んでいる。武器を握る手は震え、今にも泣き出しそうだ。

 心が痛くなる。可哀想だとすら思えてくる。

 立香にはフェリドゥーンの姿がそのように映った。

 だが、

 

「その必要はない」

 

 女戦士の一人は、そんな彼の言葉をあざ笑い、地面に転がっていた女戦士に槍を突き立てる。それに続く様に、一人、また一人と、生きていた者達に槍が突き立てられていく。

 短い悲鳴の後に、足の不自由を約束されながらも、それでも生きていた女達が死んでいく。

 

「我等“アマゾーン”は誇り高く、そして強き戦士。戦場を駆けられる足も持たない弱者などいらんのだ!」

 

 女戦士達の応えを聞くと、フェリドゥーンは仮初の空を仰ぐ。

 そして、

 

「そっか……」

 

 と短く落胆の言葉を発し、落涙した。

 ――赤い。涙が赤い。血の涙だ。

 フェリドゥーンの頬を伝う赤い一筋を立香が認識したすぐ後――今度は、血の雨が降った。

 フェリドゥーンは女戦士達を鏖殺していく。一度、槌矛を振れば、十人の女が肉と血の飛沫になった。二度、槌矛を振れば、二十頭の馬がはじけ飛んだ。三度、槌矛を振れば、馬ごと女が死滅した。

 女戦士達はいとも簡単に生み出される死を決して恐れることはせず、剣で或いは槍で反撃を試みる。だが、その反撃すらも槌矛の一振りに呑み込まれ、そのまま死んでいく。

 

「え、燕青!」

「分かってる!」

 

 余りにも唐突に始まった虐殺に、思考が凍結していた立香は漸く覚醒し、燕青に指示を出す。

 それは相も変わらず、なるべく殺さないように戦うこと。

 こんな虐殺の中でそれが適うかは分からない。燕青を嵐の中に飛び込ませることに対する申し訳なさもある。だが、それでも、人が死んでいくのは見逃せなかった。

 加えて放っておけないものはもう一つある。他ならぬフェリドゥーンだ。

 これだけ酷い殺し方をする癖に、そこに情け容赦はない癖に――フェリドゥーンは泣いていた。

 祈るように武器を振るいながら、何か使命感のようなものを持って、震えながら戦っている。

 是は、あくまでも立香の所感ではあったが、“彼は戦いに向いていない”。精神性が極端に戦闘向きでないのに、戦闘能力が高すぎるのだ。

 ならば、なるべく戦わせてはいけない。なるべく殺させてはいけない。

 彼が一人多く殺すより先に、一人多く生かさなければならない。

 実際に戦うのは自分ではない癖に、そんな自分勝手な想いをサーヴァントに背負わせていることを自分の中で憤り乍ら、立香はそれでもその想いを捨てきれなかった。

 

『……そん……な……』

 

 やがて、戦闘が終わり、出来上がった光景にマシュは言葉を失う。

 地上に大きな赤い染み。腕の一本、肉片の一つすら、ほとんど見当たらない、地底の草原に出来た大きな染み。

 それが結果であった。マシュの記憶の中に在る光景でこれより酷いものは、バビロニアの魔獣戦線くらいであった。

 二百人いた戦士達の中で生き残ったのは僅かに五人だけ――。

 

「その、悪ぃ、マスター」

 

 燕青は立香から目を逸らした。

 自分がいながら、このような結末を止められなかったことに責任を感じたのだ。

 

「大丈夫、うん、大丈夫……」

 

 そうは言ってみせたが、立香はそもそも、どこにでもいるただの少年である。凄惨な光景に慣れる訳がなかった。

 

「おい、アンタ」

 

 燕青はフェリドゥーンに掴みかかる。

 

「いくらなんでもやり過ぎだ。此処までする必要があったかよ?」

「ごめん。でも、俺、これしか知らないんだ……」

 

 血みどろになりながら、フェリドゥーンは力無く笑う。

 

『不死身の怪物とばかり戦ってきたから、加減の仕方が分からないってことかい?』

 

 ダ・ヴィンチは彼の逸話からそのような推測を立てた。

 邪竜にせよ、臣民を食らう凶王にせよ、フェリドゥーンが戦ってきた敵の中には殺せる者がいなかった。

 倒したと思った怪物が実は死んでおらず、仕方なく封印するという流れになるのが彼の物語である。

 そもそもフェリドゥーンは、カルナやアルジュナのように、或いはケルトの戦士達のように幼い頃から戦い方を学んでいたわけでも、鍛錬を積み重ねていたわけでもない。いずれ凶王を打ち滅ぼす者になると予言を受けながらも、それを知らずに母や父代わりの老人と山で暮らすただの人であった。生きる為に武器の振り方くらいは習っていただろうが、その程度の技術が、優れた戦士を生み出そうとする英才教育に並ぶわけがない。

 戦士としての教育の中には当然加減というものも含まれており、それが一切施されていないということがどういうことを意味するかは想像に難くないだろう。そして、戦士になりきれないまま、手加減がいらない敵とばかり戦ってきたから、フェリドゥーンはそれを知らずに、五百年を生きてしまったに違いない。

 ――ダ・ヴィンチのそのような推論に、フェリドゥーンは肯定するでも否定するでもなくただ押し黙った。

 

「……つーか、どうすんだよ、レオナルド。さっきの口ぶりから考えるに、コイツ、俺達に協力する気満々だったらしいけどよ。コレはマズいんじゃねぇの?」

 

 燕青は、親指で今自分達がいる血だまりを指差す。

 あまり人の死を見たくないであろう立香のことを考えての発言であった。

 

『まぁ、かなりのトラブルメーカーだが、戦闘力だけを見ればこれほど心強いサーヴァントはいないし、私としては付いて来てもらった方が良いと思う。それに、そのフェリドゥーンは信用出来る』

「一体何の根拠があって言ってる?」

『君たちがフェリドゥーンと会話している間、ずっと彼を嘘発見機(ポリグラフ)に掛けて置いた。その結果、彼の言葉の中に何一つ嘘がないことが分かった』

 

 フェリドゥーンはずっと“善性”を感じさせる言葉を口にしていた。その言葉に嘘がない以上は、それがそのままフェリドゥーン自身の本質ということになる。

 

『ですが、実際に特異点を調査するのは先輩です。最終的な判断は先輩にあります』

 

 実益があろうと、実害があろうと、誰に協力を仰ぐか決めるのは最終的な決定は立香に委ねられる。

 現に、新宿に於いて、モリアーティと行動をすることを決めたのは立香の意思であった。

 

「フェリドゥーン」

 

 そして、立香は今回も決めた。

 

「俺に協力して欲しい。着いて来てくれない?」

 

 これにはフェリドゥーン自身すら驚いたようで、目を、少しだけ見開いた。

 だが直ぐに、柔らかな笑みを浮かべ、

 

「うん。元からそのつもりだよ。こんな有り様な俺でも良いなら、協力する」

 

 と返した。

 こうして、この特異点の探索に新たな仲間が加わった。

 

「それで、俺が最初にしなきゃいけないことは何かな? マスター」

「えっと……」

 

 いきなり問いを投げかけられ、立香は答えに困り、燕青に視線を送る。

 面倒臭そうに頭を掻くと、燕青は、

 

「どう考えても情報収集だろ? 折角何人か生きてるんだ」

 

 と地面に気を絶したまま転がる、ごく少数の生き残りを指して言った。

 

『くれぐれも慎重に。発言と、装備や服装から彼女達が“アマゾネス”――勇猛果敢な女戦士であることは間違いないんだ。醜態を晒すくらいならばと、自害をする可能性もある』

 

 ダ・ヴィンチの忠告を聞くと、フェリドゥーンはこくりと頷き、周囲に縄になりそうなものが落ちていないか探した。

 




 フェリドゥーンのステータスを変更致しました。
 
 それにしても、水着イベント始まりましたね。
 自分、アンメア引きましたが、清姫欲しいっす。その、関羽的な意味で。
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