Fate/Remnant Order 改竄地下世界アガルタ ■■の邪竜殺し   作:源氏物語・葵尋人・物の怪

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Q.プライベートが忙しくて更新が遅れた僕は一体如何すれば良かったんだ?

A.ヴァルゼライド閣下なら出来たぞ?


第三節 くたばれアマゾーンⅡ

『待って下さい! 空からって……そんな無茶看過出来ません!』

 

 フェリドゥーンの案にマシュは強く反対する。

 

「大丈夫だって。俺、竜になると目が良くなるし。山より高く飛んだって、地上の足跡ぐらいは見えるからさ」

 

 フェリドゥーンはあっけらかんとして答えた。

 ――口を閉じたまま。この大きな竜は一体何処から声を出しているのだろうかと、立香は疑問に思ったが、それを問う場合ではないと敢えて触れなかった。

 今論ずるべきはそこではないのだ。

 

「フェリドゥーン、一つ聞くけどよ」

 

 燕青が問い掛ける。

 

「空から発想は……まぁ、意味不明だけど分かるわ。けど、上がってから実際に向こうさんの拠点に侵入する算段ってのはあるのかい? まさか、そのデカい図体で奇襲かけるってわけじゃねぇよな?」

「そんな騒ぎと被害が大きくなりそうなことはしないさ。勿論、君たちに飛び降りて貰おうと思ってる」

 

 冗談で言っているとは思えない真剣な口調で齎されたフェリドゥーンの作戦は、とても策などと言えたものではない、場当たり的で――有体に言ってしまえば馬鹿の発想であった。

 

『なんでそんな突飛な発想に行き付くんですか!?』

 

 マシュはエルサレムでの“アーラシュフライト事件”を思い出す。そもそも“アーラシュフライト”とは陸路で二日掛かる距離を攻略しようとした際にアーラシュが考え出した、台に括りつけた矢をアーラシュが弓で飛ばすという至極単純な移動方法である。

 理論など存在しない手段ではあったが、そこは西アジアに於いて弓兵といえば彼と言われる程の大英雄、ペルシャ・トゥルク間の国境制定の為に距離にして二五〇〇kmを飛翔した矢を放った男である。二日掛る道のりが、十数分程度で済んだ。

――済んだのだが、この移動方法に伴う危険性については言うに及ばないだろう。少なくともマシュは立香に、二度と行って欲しくないと思っている。

 

「……つーか、一体どれくらいの高さから落とす気だよ?」

 

 生前の主を遥かに超える無謀ぶりに燕青は半ば呆れつつ、流石にそれを超える無謀を見せる事はないだろうと期待しながらフェリドゥーンに訊ねる。

 

「勿論、この空洞の天井からだよ。アマゾネス達に見つかるわけにはいかないからね」

『何言ってるんですか! それ、高度二万フィートを超えてますから!』

 

 マシュは声を荒げ、予想の遥か上をいく勇夫王の馬鹿っぷりに燕青は頭痛を覚える。

 立香もその具体的な高さ――旅客機の飛行高度とほぼ同じ――は分からなかったが、二万という数字に極単純な戦慄を覚える。

 

「おいおい、そんなにビビって如何したんだよ? 君だって魔術師だろ。ちょっと高い所から飛び降りるくらいは余裕じゃないの?」

 

 フェリドゥーンは、自身も魔術を扱えるが故にそう考えた。

 気流制御と、質量操作による自律落下。高高度から、羽毛が舞うようにふわりと柔らかな着地を決めるということは、魔術師であれば造作もなくこなせることだ。

 藤丸立香が、本当に魔術師であったのならば――。

 

「ごめん、フェリドゥーン。俺には出来ない」

「……如何して?」

「俺、魔術が使えないんだ。簡単な魔術ですら、礼装の力を借りないと駄目なんだ」

 

 立香は普段意識するまいと努めている自分の無力さを噛み締め、顔を悲痛に歪めた。

 フェリドゥーンは少年の言葉をすぐには理解出来ず、その咢を半開く。

 

「魔術が……使えない?」

 

 鸚鵡返しは驚く程愚鈍で、立香の発した言葉の意味を解していないようであった。

 暫しフェリドゥーンは押し黙った後、

 

「じゃあ、君は本当に何も持たないまま最後まで駆け抜けたの?」

 

 立香にその真偽を問う。

 その問いに立香はただ頷いた。

 

「嘘……だろ……?」

 

 立香は特異点の戦闘の中でしか竜というものを見たことがない。

 大抵そういった場面は自分の命の危機であって細かな仕草を観察する余裕などありはしないし、戦闘以外で竜を見たことが無いから平素どういった振る舞いをするのかも詳しくはない。

 それでも、フェリドゥーンが驚愕しているということが、立香にはありありと理解出来た。

 ――まさかカルデアの、人類最後のマスターがこんな無力なヤツだなんて思ってなかったんだろうな。

 フェリドゥーンの気持ちを推測し、立香は自身を心中で卑下した。それが証拠と言わんばかりに、フェリドゥーンは黄玉のような大きな両の瞳から車軸の涙を流していた。

 

「ごめん、フェリドゥーン」

 

 立香の口からは怠状の言葉が吐いて出た。

 

「如何して謝るの?」

「だって……」

 

 立香は言いよどんだが、そんな彼の振る舞いからフェリドゥーンはその内を察し、

 

「違う。そうじゃない」

 

 と、それを否定する。

 

「……嬉しかったんだ。力がないことを分かっていながらそれでも前に進んで行ける人間がいるってことが。そんな人が困難でいつ投げ出したっておかしくない道を最後まで進んで来れたってことが」

 

 そう言われる意味が立香には分からなかった。

 立香にしてみれば、生きる為にはそれしかなかったから、また自分しかいなかったから戦うことを選んだというだけだ。

 然もその戦いも、藤丸立香である必要はなかった戦いである。或いはカルデアに集められた他の候補生であってもこのオーダーは乗り越えられたかもしれない。

 人理修復という大偉業の成立は英霊の力とそれを繋ぎ止めるシステムフェイトが所以であり藤丸立香個人の資質は特に関係はないからだ。寧ろ魔術を扱え、英霊の伝承をよく知っていたであろう他の候補生達の方が戦力という意味では上である。

 誰でも良かったことなのだ。少なくとも藤丸立香の認識に於いては。

 それをフェリドゥーンに伝えると、

 

「そっか、君はそう思ってるのか」

 

 と嬉しそうに返した。

 そして暫し宙を仰いで、

 

「まぁ、そういう感じでも良いんじゃないかな。いや、君はきっとその方が良い」

 

 と断ずる。

 どういうことと、立香が訊ねようとすると、

 

「ごめん、話が逸れた。本題に戻ろう」

 

 フェリドゥーンは自ら話題を切り上げた。

 

「さて、如何したもんか。見ての通り俺は斥候とか潜入ってのは苦手でさ。姿形を彼女達に似せる事は出来なくもないけど、振る舞いまで再現する自信は正直に言ってない。これは立香君も同じだろう?」

 

 立香はこくりと頷き、別の方法

 

「じゃあ、ここはまず燕青一人に任せて、下調べをしてから街に入るか決めるのはどうだろう? 燕青の負担が大きくなっちゃうけど、ドッペルゲンガーの能力を使わなくてもアサシンクラスの燕青一人ならばれずに済むんじゃない?」

 

 事実、燕青は戦闘行動に移りさえしなければサーヴァントしての気配を完全に断ち索敵に対応する“気配遮断”のスキルと、気配そのものを敵対者だと思わせない“諜報”のスキルを持つ。

 敵陣に紛れ込むことは彼にとって造作もないことだろう。

 

「いや、まぁそりゃ俺にとっちゃそんくらい軽いけどよ……」

 

 だが、燕青は目線を逸らし、また歯切れも悪かった。

 

『如何したんですか? 何か心配なことでもあるんですか、燕青さん?』

 

 マシュの問いに、フェリドゥーンが代わりに答えた。

 

「俺が信用出来ないんだよ」

 

 立香は燕青の顔を見た。

 フェリドゥーンの醸し出す雰囲気に立香がすっかり油断をしている間にも、燕青は警戒をしていたのだ。彼が敵である可能性を。故に立香から離れる

 その答えを燕青は慌てて否定しようとする。

 

「いや、良いんだ。見知らぬ土地で会って間もないヤツが信用出来ないっていうのは当たり前のことだから。況して良き従者であろうとしてるサーヴァントなら特に」

 

 フェリドゥーンの言葉に燕青は赤面し、声を張り上げる。

 

「おまっ……何人の内面勝手に決めてんだよ!」

「君こそなんで恥ずかしがってるの?」

「恥ずかしがってなんかねぇつーの! てか、お前変身解け! 頭が高くて、こっちは首が痛ェんだよ!」

「そっか、俺、変身解いてなかったか」

「今気付いたのかよ!」

 

 ケラケラと笑声交じりにごめんごめんと軽く謝りながら、フェリドゥーンは人の姿に戻ろうとした。

 だが、

 

『待った!』

 

 それを制止する声があった。

 不意の大声に立香はびくりと背筋を伸ばし、燕青は盛大にこける。

 

『ダ・ヴィンチちゃん!?』

「黙ってたと思ったらいきなり大声出しやがって……ビックリするだろうが!」

 

 股の間から逆さまに顔を覗かせる芸術的な体勢から訴えを起こす燕青に、

 

『メンゴメンゴ』

 

 とダ・ヴィンチはふざけているとしか考えられない返し方をした。燕青の着地姿勢をせせら笑いながら。

 

「それで如何して俺が変身解くのを辞めさせたの? ダ・ヴィンチさん」

『勿論、君が竜である必要があったからさ』

 

 一同は、彼女の言っていることの意味を解せず、胡乱気に眉を吊り上げたり、口を半開きにしたりする。

 

『分かり難かったかい? まぁ、はっきり言ってしまうとだ。私としては、上空からの侵入――名付けて“フェリドゥーン降下作戦”を推奨する! ってことさ』

「もっと捻ったネーミング出来なかったの?」

「ツッコむべきはそこじゃねぇ!」

 

 燕青は鮮やかな宙返りから立ち上がり、立香の脳天に手刀を叩き込む。

 すこんと、小気味の良い音が鳴った。

 

「レオナルド、テメェ話聞いてたか? 空から侵入するのは無理って結論が出たばっかりだったよな?」

 

 燕青がいれば飛び降りても死なないということはないだろう。

 無論それは到底潜入とは言えない。

 敵陣中という死地を自ら作り出す愚行である。

 

『フッフフフフ』

 

 併し、ダ・ヴィンチは不適に笑っていた。

 

「ダ・ヴィンチちゃん?」

『心配御無用。天才は“こんなこともあろうかと”と下準備は怠らないものさ。ちょっと驚きに掛けるお披露目会だが魔術礼装に追加しておいた新機能を使う時が来たようだ』

「新機能!? 一体いつの間に!?」

『そりゃ勿論君が寝ている間にこそっと部屋に忍び込んでさ。いやぁ、添い寝組は強敵だった』

 

 自信満々に語るダ・ヴィンチであったが、この時立香は彼女のことを本物の馬鹿だと思った。

 所謂添い寝組――清姫、静謐のハサン、頼光の三人は戦闘向きでない文化英雄であるダ・ヴィンチがまともに相手にすべきサーヴァントであり、そして戦った理由がサプライズの演出に過ぎないともなれば、これを馬鹿と言わずしてなんと呼ぶべきか。

 

『さぁ早く、赤き竜の背に乗りたまえ。私の発明が見せられないじゃないか!』

 

 最早当初の目的も忘れ、自分の発明を自慢することにのみ固執し出したダ・ヴィンチに呆れつつ、立香は大人しく彼女の指示に従った。

 

 

 †

 

 

「うはぁ! 高ェ! 絶景だな、マスター!」

「そうだね」

 

 フェリドゥーンの背から見える下界の光景に子供のようにはしゃぐ燕青に、立香は同意した。

 木々や川、山脈のようなものや町、あらゆるものが豆粒のように小さく見える。

 吹き付ける風は鼓膜が痛むほど五月蠅かったが、それもまた悪くないと立香は思った。

 

『先輩。体に不調はありませんか?』

 

 渺々と喧しい風の隙間から、マシュの声が響く。

 

「特に無いかな?」

『ふむ。こういった高高度に出ると気圧の変化で何かしらの不調が出るものだが……バイタルが地上……この場合は“床”というべきか。そこにいた時と変わっていない。この地下空洞の気圧は高地だろうが低地だろうが一律みたいだ』

 

 ますますアガルタという特異点が胡乱な存在になっていく。

 

「……そこを論ずるのは後にしよう。ホラ、あいつらの拠点の真上に来たぞ」

 

 フェリドゥーンは自らの背に向けて言葉を掛ける。立香と燕青は浮かれていた気持ちを再び引き締めると下を覗く。

 立香の目には、小さな塵のような、辛うじて煉瓦造りの建物かもしれないと思うものが見えていただけであった。

 

「燕青、何か見える?」

「勿論。これでも本領は弓兵(アーチャー)と自負してる身でね。目は良い方なんだよ」

 

 にっこりと燕青は笑みを返し、状況を立香に伝える。

 

「……人が一ヵ所、街の中央の開けたトコに集まってるな。しかもかなりの数だ。イスカンダルのおっさんと喧嘩でもすんのかってくれぇの。んで、全員が全員鎧と武器で固めてやがる」

「それってもしかして……」

「ご名答。アイツら昨日の今日どころか、さっきの今でいきなりこっちに報復しに来るつもりみてぇだ」

 

 と、燕青が意見を述べ、

 

「で、フェリドゥーンアンタの目には何が見える。アンタの方がもっとよく見えるんじゃないか?」

 

 と自分の足元に呼び掛けた。

 

「人が集まっているのは燕青くんの言った通り。武器で固めてるのも確かだ。でも、よく見ると、武器を持ってないヤツらが半々くらいいる。そして、武器を持っていない方は全員鎖で繋がれている。性別は……」

「男か」

「この目で見るまで信じないつもりだったけど、男が奴隷になっているっていうのは、残念だけど本当みたいだ」

 

 此処まで真実が重なったのだ。

 傷つけられ、また過酷な労働を強いられている男がいるのも本当なのだろう。立香はそれを歯がへし折れそうな程に、食いしばった。

 

「それと、その街の中央から強い魔力を感じる。恐らく、コイツが女王様ってヤツだと思う……立香くん、気持ちは分かるし、俺も気が狂いそうなほどブチギレてるけど抑えて。うっかりしてると足を踏み外すかもしれない」

 

 フェリドゥーンは至って冷静に立香を宥め乍ら、燕青との状況確認を続ける。

 

「まぁでも、俺としては潜入のついでに奴隷の救出も視野に入れたい所ではあるかな……と、話が逸れたな。俺の悪い癖だ。燕青くん、他に気が付いたことはある?」

「街の外に別の軍勢がいる。数は、さっき俺達が戦ったくれぇか。街の連中と合流する気かね?」

「いや、アマゾネスじゃない。彼等は違う」

 

 燕青の意見をフェリドゥーンは否定する。

 その根拠はわざわざ語るまでもなかった。

 

「成程、“男”ってことね」

「うん。然も、率いてるのはサーヴァントだ」

「何?」

「それもかなり強力なヤツだ。得物から言ってクラスはランサー。そして……多分トップサーヴァントだ」

 

 と、ここで立香が意見を挟む。

 

「ひょっとして、そのサーヴァントが奴隷にされてた男達を解放したんじゃないかな?」

 

 その答えに、フェリドゥーンはそうだねと同意を示す。

 

「ねぇ、そのサーヴァントにも協力して貰えないかな?」

「敵の敵が味方とは限らねぇんじゃねぇか?」

 

 燕青はそう諫言するが、フェリドゥーンは、

 

「やってみようか」

 

 と立香の意見を肯定した。

 

「おい」

「いくらソイツが強力といってもアマゾネス達との間にある戦力差には大分開きがある。というか、実質一騎対数千内サーヴァントを含むとの戦いだ。猫の手も借りたい状況だろう。それに……」

「それに?」

「若しかしたら、ソイツがすっげぇ良いヤツかもしれない!」

 

 燕青は元気の良いフェリドゥーンの答えに脱力し、その勢いで空中に投げ出されそうになる。

 寸での所で踏みとどまり、足元の発言者を思い切り蹴りつける。尤も、鋼のような鱗の為か竜は対して痛がる素振りを見せなかったが。

 燕青は思わず溜息を漏らした。そして、疑問に思った。如何してこんな気の抜けた発想に至れる脳内に花が咲いたような人物が王になれたのだろう、と。

 彼の脱力をよそに、フェリドゥーンは件の英霊に念話を飛ばす。

 

「繋がったよ、立香くん」

「何て言ってる?」

「皆に聞こえるようにするね」

 

 フェリドゥーンがそう言うと、立香と燕青の脳内に声が響いた。

 

『Hello(ヘルォー),Hello(ヘルォー)! Boys(ブォウィズ) and(エン) girls(グァリゥズ)! Not(ナァト),Ladies(ルェデス) and(エン) gentlemen(ゼントォメン)? まぁ、どっちでも良いんだけどね? 始めまして、知らない人達』

『フェリドゥーンだ。今は偶々出会ったカルデアのマスターとそのサーヴァントと行動を共にしている』

『Oh(ヲー),Really(ラァルィ)? あの勇夫王、そしてあのカルデアか。コイツは流石に驚いたぜ。メンツがメンツなだけにボクとしても自己紹介したいんだがこっちにも都合ってのがあってさ。真名は伏せておきたいんだ。でも呼ぶのに困るから此処はレジスタンスのランサーか、さもなくば桃園のランサーとでも名乗っておこう。便宜上ってヤツ。You(ウー) understand(イァンダースタン)?』

『了解した。では、早速だが本題に移りたい』

『ほいな』

『俺達は今、大体君の頭上の遥か上、もっと言えばアマゾネス達の拠点が置かれてる街の上空にいる』

『ほうほう、それで?』

『そこから街への潜入を試みようと思っているんだ』

『またすっごい所から入ろうとするね。まぁ、でも一番監視が手薄な所と言えばそこだし悪くはないんじゃないかね? ……ああ、成程。詰りボク達と君達で多分利害は一致するから協力しないかってことね。良いよ!』

『……マジか』

『マジだよーん。てか、君らこのままボクらの仲間になりなって。寝る場所とか隠れ家とか困るでしょ? カルデアってことなら協力は惜しまないからサ!』

『話が速くて助かる』

『それで具体的に僕らは何をすれば良いの?』

『まずカルデアのマスターとそのサーヴァントが街に侵入する。そこからカルデアのシステムを使ってあるものの有無を確かめる。それが終了し次第……』

『奴隷の解放に以降? 街の中でカルデアのサーヴァントサンに暴れて貰ってる間にボクと君が乗り込んで横合いから殴りつける? 阿鼻叫喚?』

『……頼めるか?』

『正直、ペンちゃん――ああ、アマゾネスの女王ね。結構強いんで一騎打ちになったら協力してね』

『分かった』

『んじゃ、お互いに良き戦を。Have(ファヴ) a(ァ) nice(ヌァス) day(ドゥエ)!』

 

 ここで念話は切れた。

 

「なんか、うん……」

「ああ、そうだな。うん……」

 

 立香と燕青はどっと疲れた顔をした。

 

『先輩、燕青さん!? 一体たった数分間の間で何があったんですか!?』

「ああ、マシュ……うんとね、嵐に巻き込まれた感じ? それと英語の発音が大分怪しい」

『すいません。私には、全く意味が分かりません』

 

 マシュは困惑するばかりであった。

 

『結局、その協力者の英霊とやらはどんなヤツだったんだい?』

「分かったのはよく分からんヤツということだけだった。多分、話してると疲れる」

 

 念話までは拾うことが出来なかったカルデアサイドとしては、謎が一つ増えるという結界を残しただけだった。

 

「疲れてるとこ悪いが早速降りて貰いたいんだけど良い?」

「テメェ、鬼かよ!?」

 

 マイペースなフェリドゥーンに燕青は声を荒げる。

 嵐のような会話の矢面に立っていたのはフェリドゥーンだというのに疲れた様子すら見せていないのには、尊敬すべきか呆れるべきか。立香は苦笑した。

 そして、一度思い切り息を吸う。

 協力者の所為ですっかり穴を開けられてしまった気を再び入れ直す為に。

 そして、立ち上がり、

 

「行こうか、燕青」

 

 自身の、今は唯一のサーヴァントに声を掛けた。

 




イスカンダルのおっさん(推定年齢32歳)

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