桜セイバーをあの漫画に放り込んでみた(仮)   作:諭吉

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題名を「人斬り沖田さん」にしようか
「るろうに沖田さん」にしようか
考え中。



明治

 

時は十年流れ新時代――明治。

狂乱の時代からようやく訪れた平和の時代。

四民平等の誰も、もう泣く事もない幸福の時代。

開国を果たしたことにより鉄道をはじめとした華やかな西洋の文化が各地に目立つようになった。

暗い夜にはガスの街灯が燈る様になり横浜や神戸など大きな港がある街には外人の姿もちらほらと見えるようになっている。

庶民の間にも洋服を着た人々が目立つようになってきており流行に聡い人ならばコーヒーも嗜んでいるくらいだ。

そして一番の人気といえば牛鍋であろう。

牛鍋とはなにか?居留地の日本国外の人々から食肉文化が伝わってきた事により全国へと広まった関東風すき焼きみたいな料理と思ってもらえればいい。

ここ東京でもソレは人気の料理である。

巷で話題一番の牛鍋屋 赤べこにて。

 

 

 

 

 

お天道様が一番高い所に上ったころ。時は丁度昼くらい。

お腹をすかせた人々が次々と店の暖簾をくぐり店内は活気ついている。

今日も赤べこは大繁盛で大忙しのようだ。

看板娘の妙さんも燕ちゃんも店内をかけずりまわっている。

この店の日常風景である。

そしてお座敷席の一席。

剣道の出稽古の帰りにふらりと寄った常連客の3人が舌鼓を打っていた。

 

「弥彦!! そんなに慌てて食べると」

 

「うるせぇ!! せっかくの牛鍋なんだ、もっとくわねぇと……うっぐ!!」

 

「もう!だから言ったのに」

 

居候している道場の女師範代神谷薫とその弟子明神弥彦の微笑ましいやり取りを見て剣心は笑う。

なにがそんなにおかしかったのか?ただの日常の一コマであろう光景だがそれがうれしいのだ。

 

人々が幸福を得られるように、もう誰も泣かなくていいように……ただ平和な時代を迎えられるようにとあの幕末の時代を戦い、そして逆刃刀を腰に下げて“るろうに”として

流れてきた。

あの時代がおわってすぐに人々に幸福が訪れたか?

ソレは否。

形だけの維新は成立し明治となってもまだ古き時代に苦しめられる弱者はそこにいる。

明治となった今の世にもまだ悲しみを消すことはできていない。

幕末そして明治の時代はたしかに変わった。

だがまだ真の平和の時代へはまだまだ……

全ての人を救おうなんて考えるのは欺瞞なのだろう。

所詮自分は人斬り。この手は血に染まりきっている。

そんな自分が人助けとは師匠が知ったら馬鹿とでもいうだろうか。

だが馬鹿でも阿呆でも何でもいい。せめて目の前にいる誰かを救えれば……笑顔を一つでも守れればそれだけでいい。

ソレを願い日本中を回りつづけてきた。時に人を救い、時に力及ばず救えなかったこともあった。

剣を幾度となく振り続けてきたが理想を叶えることは簡単ではない。

分かっていたことだが……

 

『ソレを腰に剣客やってみな 自分が言ってることがどれだけ甘いか身に染みてわかるってもんだ』

 

この刀を打った男が最後に自分に言い捨てた言葉だ。

 

『もう決して人を斬らず人を守る道』

――なるほど

確かに自分がどれだけ甘い事を言っているのかソレはこの10年の月日で改めてよく分かった。

自分の力だけでこの日本を救うと言う事は出来ないかもしれない。

剣は凶器 剣術は殺人術 どんな綺麗事やお題目を並べようがそれが真実。

所詮は人斬りの自分にできることなどないかもしれない。

 

「すいませ~~ん、お水持ってきてください!! 大至急!!」

 

「く、くるちぃい」

 

だが確かに目の前にいる人々の顔に笑みを浮かべられるようになった。

たったそれだけの事だがそのことがなぜかとてもうれしく温かい気持ちにさせてくれた

 

緋村剣心はのほほんとした笑顔で肉を口に入れ……

 

「はい!! お客さんお水です!! 慌てて食べたらいけませんよ」

 

沖田さん霊衣解放 赤べこ従業員の和風エプロンスタイルで颯爽と登場!!

 

「こふっ!!」

 

飲み込もうとしていた咥内の肉が変なところに入った。

いきなりのクリティカルヒットが剣心に叩き込められた。下手したら即死だったかもしれない。紙一重。

これほどの衝撃は幕末の戦場ですら喰らったことはない。

こんな隠し玉を持っていたとは、油断した。

きさま自分の年齢を考えろ。お前確か斎藤よりも歳う……

 

ガッと剣心の肩を掴み「おひさしぶりですね 緋村さん~~会いたかったですよ~~。え?相変わらず若くて美人?アハハ!! やだなぁ照れるじゃないですかぁ。まったく緋村さんてばぁ!!」

目が笑っていない笑顔でブンブンと剣心を揺さぶる沖田。

十年の歳月の間に読心も会得していたのか?

 

「お、おろぉぉ……」

 

「えっ?エプロン姿の沖田さんがかわいくて思わずときめいてしまったですって? やだなぁ緋村さん!! 相変わらず上手なんだから」

 

お盆で口元を隠すようにして照れて恥じらう新撰組一番隊組長……

鮮血を浴びて冷酷に嗤うような非情の人斬りが頬を染めて照れる乙女のような反応である。

 

「ん?昔を思い出してしまって二人っきりでお話をしたいですって? 

緋村さん 私を口説くつもりですか?あははは!!!! いいですよ丁度休憩時間ですし。お妙さん!! ちょっと出かけてきますね、行きますよ緋村さんデートです。デート!!」

 

剣心を脇に抱えて縮地で店を飛び出していく沖田。

沖田総司恐るべし……剣心は薄れゆく意識の中でそう思った。

 

「「け……剣心!!?」」

 

一瞬の間の訳の分からない妙なコントで

薫と弥彦は何が何だか呆気にとられてしまい気が付いたときには剣心は連れ去られた後であった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ久々ですね。緋村さん。かれこれ十年ぶりでしょうか?」

 

河原の橋の下。

昔と全く変わらない顔で沖田はニコリと剣心に微笑みかけた。

『昔と全く変わらない』此処重要。

なんか下手に突っ込んだら首を即座に刎ねてきそうな感じがして剣心は其処に触れないようにした。

女性に歳とかいうのはやっぱり無粋であろう。

うん。

 

「まさかお主が生きているとは驚きでござるよ。沖田」

 

てっきりどこかで血を吐いてとっくにご臨終しているとばかり……

 

「むぅ!! なにやらさっきからやたら失礼な事ばかり考えてませんか?

酷いですよ緋村さん。あなた私の事をなんだと思ってるんですか?」

 

「人斬り病弱娘」

 

「斬りますよ」

 

「ごめんでござる」

 

アハハと談笑しているがお互い目が笑ってはいない。

ピリピリとした空気が辺りに充満している。

飛んでいる鳥たちも向きを変え春の陽気な温かいも肌寒く感じる。

異常な空間。

互いに腰の刀の鍔に指が掛かっておりいつでも抜刀できるという臨戦の状態だ。

 

「……そんなに気を張り詰めなくても良いですよ。此処でアナタと決着をつける気はありませんし」

 

「お主の場合その言葉を信じると背中から斬られそうな気もするが」

 

やれやれと首を振り、放っていた剣気を収める剣心。

剣を交える気は無いのなら自分に異存は無い。

十年前の決着など別に拘る気も無い。

その場に張りつめていた緊張が消え

川から清流の涼やかな音が聞こえてきた。

そして沖田も刀から手を離し、そのまま両手を上げて……

くるりとその場で回って見せた。

 

「おろ?」

 

一体何の真似だ?回天剣舞?

沖田の謎の行動に首を傾げていると

沖田はなにやら頬を染めて恥じらうように剣心に問いかけてきた。

 

「ところでどうです?この沖田さん……かわいくありませんか?ねぇねぇ?」

 

「年齢を考えなければ……」

 

「やっぱり斬りますか?」

 

「わるかったでござるよ」

 

いつのまにか抜刀し剣心の脳天から必殺の一撃を叩き込んできた。

沖田の一撃を真剣白羽どりで何とか受け止めたがやばかった。

刀から伝わってくる「次に年齢の事をネタにしたら今の倍の速さで叩き斬る」と言う強い意志。流石の剣心もヒヤリと汗を流して肝に銘じた。

『もう歳をからかうのは止めよう』と。

とりあえず納刀してくれたのでほぅっとため息を吐いた。

こんな形で十年前の決着というのは些か考えものだろうし良かったと思う。

ごほんと沖田が咳払いをして場を仕切り直す。

どうやらどうしてもこの格好の意味を話したいらしい。

 

「いやぁ、沖田さんちょっと前からあの店でちょっとした“あるばいと”を始めたんですよ」

 

「あるばいと?」

 

「ええ、ちょっと道端で血を吐いて動けなかった私をお妙さんが看病してくれたのがきっかけでしてね」

 

「また血を吐いて動けなくなって……よくこの十年生き延びてこれたでござるよ。それで?」

 

何処か呆れたような顔で先を促す。

新撰組という最強の宿敵に対しても見る目が変わってしまった気がする。

あぁ、頭が痛くなってきた。

 

「恩返しの代わりにあの店で看板娘兼用心棒兼取り立ての仕事を……」

 

「まて。色々突っ込みたいところがあるでござる。……取り立て?」

 

赤べこは牛なべの店であって阿漕な金の貸し借りなど無縁の店の筈……

剣心もさっきまであの店にいたが何か変わっていたようなところ等なかったと思うのだが。

 

「なんでもあの店でいつもツケを払わずにいる困った常連客がいるというので、正義の新撰組としては放っては置けず三日前の晩に悪・即・斬を決めてきました☆

あっ大丈夫。命はとらずにおいてあげましたから。ええ。

着ぐるみ全部剥いでツケを払わせただけです」

 

「さのーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

まさかの池田屋事件左之助長屋バージョンが起きていたとは。

無駄に頑丈な左之助と言えど大丈夫か?

あとで甘味でももって見舞いに行こう。

 

「そんなわけであの店で働き始めたんです。沖田さんがいる限りもうタダメシとかさせませんから」

 

むふーーっと胸を張って息巻く沖田。

新撰組一番隊組長がそんな“あるばいと”なんてやっているなんて……

ああ。なんか空虚な気分になってしまったでござる。

 

「るろうになんて言いながら働きもしないでゴロゴロしている誰かとは違いますからね」

 

口元を吊り上げて小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

――お前が何をしていたか全部お見通しだとでも言いたげだ。

――――

――

沖田の目から光が消えた。

 

「お見通しですよ。アナタが神谷道場で居候を始めた時から……

幕末のあの時からずっと……アナタが変わっていない事なんて」

 

――沖田は何が言いたい?

 

「人斬りは所詮死ぬまで人斬り。他の物には決してなれない。

例え時代が幕末から明治に変わろうが私達は変わらないんです」

 

人斬りは所詮死ぬまで人斬り……

あの狂人が最後に言い残した言葉だ。

その言葉は剣心の心に強く刻み込まれている。

 

 

 

「さて、私もそろそろ赤ベこに戻りますね。あまり時間をとると妙さんも燕ちゃんも大忙しだろうし緋村さんと違って私は働き者なんですよ。ああ忙しい忙しい。私もるろうにやろうかな」

 

こいつ、年歳をからかった事を根に持っているでござるな。

人の事を『明治のるろうニート ☆5』扱いしてくるでござる。

執念深い奴でござるな。

斎藤といい沖田といい新撰組とはやはり相容れぬ仲でござるよ。

 

剣心が嫌な顔をするのを楽しむように沖田は「ふふ」と童女のような笑いをひとしきりした後赤べこへと足をすすめた。

 

「では私は此処で。

緋村さんもちゃんと働いてくださいね。いつまでも根無し草のるろうにを言い訳にしているとどこかの警官に突き殺されてしまいますよ」

 

またさり気無く毒を吐いて行く沖田。

毒じゃなくて血を吐いて倒れてしまえ。

 

剣心も沖田を見送った後左之助の様子を見に行こうと長屋へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――新撰組 沖田総司

この剣客が現れたことはおそらく何かの予兆なのだろうと妙な確信があった。

そしてそれが絶対に避けて通れない。運命であろうということも。

彼女と共に来た動乱の嵐に剣心はまた飲み込まれようとしている。

なにかおそろしい巨大な闇が覆い尽くしていくような……柄も知れない不気味な感覚に剣心を感じ取ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幕末の炎はまだ消えてませんよ」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 




鵜堂刃衛 ☆3
「我! 不敗! 也!

我! 無敵! 也!

我…最強なり!」

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