マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ブレイキング・モーメント

「―――待って」

 

 戦闘に入りそうだったシュテルの動きを声で止める。なのはの方へとチラリ、と視線を向ければレイジングハートを握っていない方の手が強く拳を作る様に握られ、血が出ているのが見える。……時間が必要だと直感的に理解する。表面上は責任と信念で平静を装っているが、知り合いが敵として出現している状況はあまりにもダメージが大きい。幸い、自分は知り合いだが親しくはない。相手を知っている仲、という程度のレベルだからそこまで精神的にはキツくはない。だから時間を稼ぐ意味でも、

 

「生きていたんだね」

 

 話しかける。目的としては時間を稼ぐ意味と情報を引き出す意味がある。だから相手が乗っかってくる事を期待し、シュテルを眺めていると―――彼女は此方へと視線を向け、そして口を開いた。かかった、もしくはかかってくれたという事を認識する。

 

「えぇ、まあ、それなりに派手にやりましたが一応の死亡偽装でしたからね。あの程度の火災で死ぬとか非常に心外ですね。近くにデバイスが存在しているというのに、我々が全員そろっている状況で死ぬわけがないでしょう。完全戦闘用に調整されている人造魔導師を甘く見過ぎです」

 

「おい、姐御」

 

 肩に乗っているのはサイズとその感覚からしておそらくユニゾンデバイスの類だろうか、彼女がシュテルに対して注意を入れるが、シュテルは片手で彼女の言葉を制す。そして笑みを浮かべ、話を続ける。

 

「いいんですよアギト。私達の目的は時間稼ぎで仕事をキッチリやれば対価が貰える。おしゃべりして時間が稼げるならそれだけ上等って話ですよ。まあ―――」

 

 シュテルがパチ、と指を鳴らす。瞬間自分となのは、そしてシュテルを囲う様に大量の火の粉が現れる。一つ一つは魔力弾よりも小さい炎の塊だが、それは巨大な炎のケージを作る様に囲い込み、逃げ場をなくす。少なくとも成人女性が抜けられるようなサイズの隙間は存在しない。

 

「逃がす気はさらさらありませんけど。で、何か質問があるのならゆっくりどうぞ? 結局の所それは自分の首を絞めるだけの結果を生みますから。情報か、もしくは新人たちの命か。好きな方をお選びください」

 

 そう言ってシュテルは杖を持ち上げ、構える。面倒な手合いだと思う。彼女はなのはとほぼ同質の存在だ。だとすれば彼女の能力はなのはに近いはずだ―――そしてなのはの厄介さを一番知っているのは自分だ。だからこそ強敵だと理解している。それに、相手はそこに炎の変換資質を所持している。純粋な破壊力でいえばなのはを上回っているかもしれない。とすれば―――相手が実力を発揮する前にクロスレンジに引き込んで切り伏せるしか方法はない。砲撃戦型魔導師を相手にする場合はそれが最善だ。

 

「……ねえ、シュテル」

 

 バルディッシュを握り直したところでなのはが口を開く。

 

「なんでそっち側にいるの? 凄く悲しんだよ?」

 

 それに対してシュテルの返答は簡単だった。

 

「―――そんな事今更過ぎて遅いんですよ。アギト」

 

「おう、待ってました!」

 

 アギトと呼ばれたユニゾンデバイスがシュテルの中へと消えてゆく。次の瞬間、シュテルのバリアジャケットの色が紫から赤へと変質し、そしてノースリーブ、装飾を減らしたものへと変化する。そして、杖型のデバイスを握っていない左手は炎に覆われる。その姿は色濃くデバイスの影響を受けている姿だった―――つまりユニゾンデバイスもまた炎に対する高レベルの親和性を持った炎属性のユニゾンデバイス。炎の変換資質を保有しているシュテルとは最大レベルの相性を発揮している。シュテルがユニゾンした瞬間に体は動き出す。一秒も与えず背後へと回り込み、

 

「さて―――」

 

 バルディッシュを振るう。だがそれは突き出されたプロテクションによって防がれる。炎の盾が防御するのと同時に爆発し、炎の衝撃波を放ってくる。だがそれが体へと届く前に回避運動に入っている。

 

「Sランク魔導師相手に二対一ですか」

 

 次の瞬間桜色の砲撃がシュテルを薙ぎ払う。だが火の粉を残しながらシュテルは最小限の動きで回避し、掠らせることなく砲撃を回避すると、炎に覆われた腕を振るう。ワンアクションで数十の火球を生み出すと、それを此方となのはへと向けて振るう。

 

「とはいえ、リミッターによって大幅弱体化していれば”この程度”ですか。話になりませんね」

 

 火球を切り払い、なのははアクセルシューターで迎撃する。その瞬間には杖の形をなのはの使うストライクフレームモードへと似た様な形へと変形させたシュテルがノーモーションで砲撃を繰り出す。自分となのはを両方纏めて飲み込む様な砲撃、それを左右へと別れる事で回避し、再び接近する。バルディッシュの形態を一瞬でザンバーへと切り替え切りかかる。だがそれをシュテルはデバイスを槍の様に振るい、弾く。

 

 ……上手い!

 

 こう見えて執務官になってもバルディッシュを、刃を振るう事は止めていない。だから防ぎ難いやり方で切りかかったつもりだが、それをあっさりと弾かれた。それだけの技巧が相手にはあるという事の証拠だ。此方を”その程度”と評価するだけのことはあると判断する。リミッターを外せればまた違う結果だったかもしれないが、それだけはどうにもならない。

 

 弾かれるのと同時に熱波が襲い掛かってくる。完全に避けられる類の攻撃ではないと理解しつつ全速で動き、身体に降りかかる炎の波による被害を最小限で食い止める。瞬間、

 

「ハイペリオンスマッシャー!」

 

 なのはが砲撃を叩き込む。それと合わせる様に、

 

「ディザスターヒート」

 

 炎の砲撃が正面から衝突し、なのはの砲撃をうち破る。それはリミッターによって制限されている此方と、そしてユニゾンによって強化されているあちらとの差だ。うち破られた瞬間になのはが回避動作に入り、攻撃を避ける。そしてシュテルとの間に微妙な距離が開いた時、シュテルが杖を構えながら言う。

 

「―――我が愛は情熱の炎。愛によって身を焦がし滅ぼすもの。我が愛の前に散れ、有象無象よ。我が焔は常に我が愛しきを焼き続ける情熱に過ぎぬから。―――燃え散れ、卿らは勝利すべき者にあらず」

 

 そして焔が空を薙いだ。

 

 

                           ◆

 

 

「チッ」

 

 恐ろしい程に素早い動きで敵が懐に入り込んでくる。自分には決して届かない領域だと相手の動きを見て、理解する。だから体は回避の動きをしない。それよりも遥かに効率的なのが―――転移だ。体が動くよりも早くクロスミラージュが演算を完了させ、一瞬で魔法陣は出現し、魔力が消費される。次の瞬間には体が後方へと飛んでいる。そして前方には攻撃を空ぶった敵の姿が見える。

 

 赤髪の女だ。全身をボディスーツの様な服装に身を包み、各所にプロテクターを装着している。体のラインがハッキリと浮かび上がる様な服装だが、その服装が活動する上では非常に優秀なのは相手の動きを見ていれば解る。行動を阻害する要素が存在しないから羞恥心にさえ勝てれば最良の服装なのではないかと。まあ、羞恥心に打ち勝つなんて不可能なので却下なのだが、

 

 ……これが。

 

 なのはの言っていた逃げるべき相手だ。だからその判断に従う。逃げるべきだと思考を形作る。素早く離脱の為の手順を整えようとして、だがその動きは不発に終わる。

 

 黄色いウィングロードが檻の様に展開される。逃がさない様に、狭くも広くもない戦闘フィールドが生み出される。

 

「ティアッ!」

 

「解ってるわよ!」

 

 此方の横へとスバルがやってくる。彼女が名前を呼んだ意味は理解できている。だが、この状況は不味い。なのはが逃げろと言った言葉の意味が理解できる―――無茶と自殺はまた違う事だ、という意味なのだ。

 

「どうしたハチマキ、オレンジ。臆したか?」

 

「は、ハチマキじゃないよ! リボンだよ!!」

 

「どう見てもハチマキだろそれ」

 

「違うよ! あと私の名前スバルだよ!」

 

 スバルが名を訂正させようとしたことで、相手が構える。良く見れば相手が腕と足に装着している装備はデザインや細かい所では違うが、スバルと同じ様な装備に見える。つまりインファイターだ。―――それもおそらくスバルよりも優秀な。彼女の構えはスバルから感じないような凄みを感じる。そしてそれを自分よりも敏感に感じ取ったスバルは顔から困った様子を完全に消し去り、警戒した様子で構え直す。

 

「反応は悪くない、か。―――ノーヴェだ、今からお前らを泣かす相手の名前だ、覚えておけ」

 

 そして、ノーヴェが踏み込んで来る。その動きは速い。相手が何であるかを把握する前に、此処から逃げ延びるには確実に生き残る事が条件だ。だからこそスバルは前に出る。そして自分も、迷うことなく引き金を引く。スバルに攻撃の機会を与える為に、一瞬でも多くの隙を作るために弾丸を放つ。しかし、

 

 魔力弾をノーヴェは壊すことなく掴み、そして投げ返してきた。

 

「んなっ!?」

 

 アホな、何て言葉が出る前にクイックドロウで投げ返されてきた魔力弾を撃ち落とす。収束技能で消費した魔力を回収しようとするが、辺りに展開されるAMFがそれを阻害して、魔力の吸収回復を許してはくれない。AMFが展開しているこの状況では正確な長距離や複数人数転移は難しいし、支援行動も難しい。

 

「チ」

 

 此方はダメージを出す事が出来ない。なら―――別のやり方へと脳をシフトさせる。第一目標は生存する事だ。

 

「おぉ―――!」

 

「来な」

 

 そう言ってノーヴェとスバルが衝突する。先に動いたのはスバルだった。拳をノーヴェへと向けて叩き込む。それをノーヴェは避ける事無く、身体で受け止める。その瞬間に一瞬だけスバルの動きが止まる。技後硬直だ。その瞬間にはノーヴェの腕が振るわれ、拳がスバルの腹へと叩き込まれ、スバルの体がくの字に曲がる。

 

 そして、身体が此方へと向かって吹き飛んでくる。

 

 迷うことなくスバルの背後へと体を動かし、そして飛んでくるスバルの体を自分の体を使って受け止める。次の瞬間ノーヴェが足のローラーを稼働させながら一気に接近してくる。故に迷うことなく自分達二人を幻影で隠す動作と、全く同じ姿のフェイクシルエットを出現させることを同時に行う。AMF影響下もあって魔力の消耗は激しい。だが無視できないレベルではない。

 

 回避動作が完了するのと同時にノーヴェがフェイクシルエットを殴り壊す。だが透明になっているはずの此方側へとノーヴェは視線を向けてくる。

 

「そこか」

 

「なんで解るのよ!? アンタちょっと私に対してメタ張り過ぎていない!?」

 

「正解か」

 

 しまった……!

 

 そう思っている暇もない。迷うことなく攻撃してくるノーヴェの攻撃をスバルと別れるように回避すると、幻影により姿を消す効力が消え、自分とスバルの姿が相手に晒される。短距離転移で素早くノーヴェから距離を離した瞬間、スバルが再びノーヴェへと攻撃を、拳を叩き込む姿が見えた。それをノーヴェは回避する。片手で拳の横を押しのけるようにスバルを横へと流す様に力の流れを変えていた。

 

「くっ!」

 

 それをスバルは前へ倒れる事で強引に流れを変えた。前へ倒れ、両手で屋根に触れる。そしてそのまま両手で体を支えて蹴りを繰り出す。流石のノーヴェもそれは予想外だったのか、腹にスバルの蹴りが決まる。そしてノーヴェの体が僅かにだが後退する。アクロバット染みた動きでスバルが体勢を整え直すと、素早くノーヴェが踏み込んでくる。接近と同時に繰り出される拳をスバルがダッキングで回避し、そっからリバーブロウを繰り出す。それをスウェイによる回避から回し蹴りをノーヴェは繰り出し、スバルはバックステップでそれを回避する。

 

 ……介入する余地がないわね!

 

 二人の戦いはスタイルがかみ合いすぎて介入する暇がない。だったら自分がやる事はそれとは別。この檻―――相手が張ったウィングロードらしきものを解析するべきなんだろう。調べようと近づいた瞬間、

 

「必殺!」

 

 スバルの声が響く。その声に引かれ、スバルの方へと視線を向けると、リボルバーナックルを回転させたスバルが踏み込みながら拳を振るう姿が見えた。だがそのモーションは―――ノーヴェと全く一緒だった。そして次の瞬間、二人が口にした名も、

 

「―――ヘアルフデネ」

 

 衝突した。全く同じモーション、全く同じ技。その光景に思わず口から言葉が漏れる。

 

「……嘘」

 

 結果はスバルの敗北だった。ノーヴェの一撃がスバルを押し切る様にその体を吹き飛ばす。そして吹き飛ばしたスバルを見下す様にノーヴェが視線を向ける。

 

「ま、ちゃんと教わってないし師もなければこの程度か」

 

「なんで……!?」

 

 今の動き、技は、スバルが彼から教わり、不完全ながら再現させたものだ。自分みたいに、完全に教わる事が出来なかったから一緒に頑張って再現したものだ。だがノーヴェが放ったのは完全版だった。だからこそ全く同じ動きのように見えてもスバルを吹き飛ばす程の威力を持っていた。

 

 そして、最悪の考えが脳裏をよぎる。

 

「かかって来いよ。短期間とはいえハチマキ、お前も同じ師で学んだろ? ―――お前もオレンジ頭も殺る時は痛くしないでやるよ」

 

 確信を取れそうな相手の言葉に心は―――。




 数の子で顔を覚えているの5人ぐらいだなぁ。

 シュテるん+アギトvsなのフェイ
 ノーヴェvsティアスバ
 眼帯チビvsロリショタ

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