マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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スリップ・アンド・スライド

 背を向け走り出しながら猟犬の噛みついた腕を壁へと叩きつける。腕と壁に挟まれた猟犬の頭が破裂し、消滅する。だがそれはたった一匹の話だ。全力で床を蹴っても、すぐ背後から食らいつこうとする猟犬が存在するのを認識する。逃げ切れるか、と己に問うと無理だな、と経験が伝えてくれる。相手の数が多いのと、基本的に自分は速力はそこまで高くはないのだ。瞬間的にであれば地を蹴れば早いかもしれないが、レヴィやトーレの様に常時加速した状態でいられるわけではない。だが、その代わりに―――自分には頑強さがある。そして機能こそが戦闘における自分の信頼の置けるものの一つだ。だから速力が落ちた所に無数の猟犬が体や腕に噛みついてきた事を理解しつつも、足を止めず、

 

 前進する。

 

「騎士イスト!」

 

「騎士は死んださ、残ったのは怪物だ」

 

 そう、ヴェロッサは厄介な相手だが同時に戦闘員と言うわけではない。あくまでも、査察官だ。ストライカー級と比べればその戦闘力は落ちる。ましてや俺はタンクタイプのグラップラー。この程度のダメージ、猟犬が十数噛みついたところで、

 

 それは全くダメージにならない。

 

「止まらないか」

 

 止まらない。ここまでの道程を全力で走り続けてきたのだ。たったの一度も、足を止める事無く。だからこの程度で折れる人間だと侮ってほしくはない。

 

「相性が悪い、けど」

 

 後ろに足音が追加される。四足獣が床を蹴る音と、若干引きずる様な足音だ。ヴェロッサ自身はもはや脅威ではない。だがあの猟犬は厄介だ。そう思考するのと同時に更に数匹体に噛みついてくる猟犬が増える。左手で抱えるユーノを逃がそうと腕に、足に、肩に、背中に噛みついてくるが、それは全く成果を上げない。ヴェロッサの言葉通り相性が悪いのだ。火力に欠けるあの男では此方の速度を落とすぐらいしかできる事はない。接近して思考を読みとるにも開幕での一撃が確実に尾を引いている。そこまで近づいてくるだけの力がヴェロッサには残ってはいない。

 

 それでも体に噛みついてくる猟犬の数は増え、そして此方の動きをなるべく遅延させようと動いてきている。

 

 それは何故か。

 

 相手の思考で考えれば答えは簡単だ。

 

「―――そこか」

 

 踏みとどまり、蹴りを上へと向かって放った瞬間、天井を突き破ってシグナムの姿が現れた。その表情には迷いはなかった。両手でレヴァンティンを握り、此方へと攻撃を叩き込んでくる。それを蹴りと衝突させることで相殺しつつ、そのまま回転げりへと持って行き、シグナムを蹴り飛ばす。それを彼女は短いバックステップを数度繰り返す事で距離を開ける。

 

 来るな、と口に出さず呟いた瞬間、ユーノを手放し、両足を床に固定する様に踏みとどまり、そして左半身をシグナムへ、右半身を背後だった位置へ―――ヴェロッサの方へと向ける。そしてそれと同時に両側へと向けて拳を放つ。その瞬間、体に噛みついていた猟犬が全て消え去り、狭まっていた視界が広がる。同時に両腕に感じるのは重度の衝撃だった。全身を貫く様に発生する魔力付与の衝撃を体を通して床へ流し、足元を砕きながら耐え抜く。そして目撃するのは両側を挟む烈火の将と、そして赤色のバリアジャケットで少女の姿をしている―――鉄槌の騎士。

 

「久しいな」

 

「かもな」

 

 そう言って力を込めてシグナムと鉄槌の騎士ヴィータのデバイスを少しだけ弾く。その隙にユーノを回収しようとしていた猟犬を蹴り飛ばしてユーノを掴み、左腕で抱えて右拳で構える。両側から挟み込むように武器を構え、向けてくる騎士を確認し、ここからどう動くか、と思考する。―――未だゼストから連絡が来ない限り、自分のやっている事を放棄するわけにもいかない。ともなれば続行しかあるまい。

 

「おい、テメェ答えろ」

 

 ヴィータがデバイスを此方へと向けながら語りかけてくる。それを正直有難いと思いながら聞く。

 

「投降する気はあるか」

 

「ない。あと俺からも質問だ」

 

 ニンマリと、笑みを浮かべる。

 

「ベルカの騎士は一対一を誇りとするんじゃないのか?」

 

 そう言うと、ヴィータがデバイスを構える。

 

「悪ぃな。そうしてやりたいけどはやてに言われてんだよ―――”馬鹿はボコれ”ってな」

 

「相変わらずだなぁ……」

 

 そう答えるのと同時にシグナムとヴィータが突貫してくる。迷う事無く二人で襲い掛かってくる二人の行動に軽く舌打ちをしたかった。だがそんな事が出来る筈もなく、ユーノを上へ放り投げる。そしてその瞬間に振り下ろされたヴィータのデバイスを左腕で受け拳を顔面へと叩き込もうとする。瞬間、ヴィータが体格差を利用してしゃがむ事で回避し、横から首を狙って放たれる斬撃を目視する。ガードに出した腕を素早く戻し、手の平で張り手を繰り出す様にシグナムの一撃を受け、ヴィーターへと向かって蹴りを繰り出す。

 

 ヴィータがバックステップし、デバイスにカートリッジをロードするのを目撃した瞬間、シグナムが剣を引きながらバックステップする。

 

「その感触、義手か」

 

「解ってるなら言わなくてもいいんじゃないか」

 

「最近、口に出さぬば伝わらないということが解ってな」

 

 なるほど、それもまた真理だろう。その言葉に納得しつつ落ちてきたユーノを掴み、跳躍する。向かうのはシグナムが登場する時に開けた穴、そこへ飛びこんで一つ上のフロアへと移動する。チラリ、と肩に担ぐ意識の無いユーノの姿を確認し、心の中で最低限の謝罪をしておく。それにほとんど意味はない―――謝っても改める気がないのであれば反省するだけ無駄なのだ。だから本当に形だけの謝罪を心の中で済まし、そして思考する。

 

 これだけやれば十分だろう。

 

 ユーノは床に降ろし、解放する。既に仕込みは終わった。あとは状況を動かすだけだが―――依然、ゼストから何もないのが怖い。おそらく作戦が早く始まった事もあって、何かが上手くいっていない気がする。だがそれでもやるべき事を殺るだけだと判断し、

 

 目を閉じ、そして動く。

 

 ……ここ、来るな。

 

 確信にも似た経験が体を動かす。目を開く。そして、次の瞬間には加速術式で出現したシグナムの姿が存在した。言葉を漏らす事はなく、滑るように移動、接近と同時にレヴァンティンが振るわれてくる。それを左腕でガードした瞬間レヴァンティンが解れる。そのもう一つの形である連接剣へと姿を変貌させ、腕と顔に巻きつく。そしてそれと同時に床を抉りながら巨大な鉄槌が打撃せんと迫っていた。

 

 それを防御することなく体で受け止めながら右手でシグナムの顔面を掴む。背中から重い衝撃が体を貫くような感触を得る。だが、まだ制限された、フルドライブでもないこの程度の一撃ではまだまだ沈まない。だから健在であると証明する為に掴んだシグナムの後頭部をそのまま、

 

 全力で床へと叩きつける。

 

 バキリ、と掴んだ頭の裏側から砕ける床の音が響く。だが頭蓋骨の音ではない。と言う事はまだ生きている事だ。ならまだ全然余裕と言う事で。自分をスタンダードにするわけではないが、ベルカ人、特に古代の将ベースにしているのであればこのぐらい余裕だろう。

 

 故に叩きつける。再び叩きつける。三度叩きつける。四度目でシグナムが血を吐いた。だが止めない。五度目を叩き込んだところでシグナムがレヴァンティンを手放す。左腕と顔を拘束していたレヴァンティンが取れる。

 

「退けぇ―――!!」

 

 横殴りの衝撃が体を吹き飛ばし、壁を貫通させながら衝撃を伝えさせる。貫通した壁の先、衝突した勢いで真っ二つに破壊してしまったベドから降り、直撃を受けた脇腹を軽く擦る。砕かれた壁の向こう側で既にシグナムは立ち上がっていた。レヴァンティンは既に姿を変え、弓の姿へ―――矢は構えられている。髪留めは切れて髪が降ろした状態になっていたが、その視線は更に鋭いものになっている。

 

 懐かしい、目に、なっている。

 

「―――駆けろ」

 

 次の瞬間、矢が胸に突き刺さる。だがそれは非殺傷設定だ。心臓に突き刺さっても非殺傷設定では意識を失いそうなほどの魔力的ショックダメージが心臓へと流し込まれ、受けたものの意識を奪おうとする。だがその程度で意識を失うわけがなく、片手で矢を胸から引き抜き、折る。視線の先、猟犬に運ばれて行くユーノを確認しつつ、笑みを浮かべる。

 

「は、はは、ははは……」

 

「チ、狂ってやがるな、テメェ!」

 

 すかさず迫ってきたヴィータが鉄槌を振るう。それをノーガードで受け止め、逃げられない様に左手でヴィータの顔面を掴む。そして、

 

「覇王断空―――ッ」

 

 拳を叩き込もうとして次の瞬間、余分なバリアジェケットのパーツをパージした衝撃でヴィータが拘束から抜け出し、攻撃を空ぶる。そしてその隙を埋める様にシグナムが飛び込んでくる。相手の動きに遠慮も隙もないな、と苦笑を軽く漏らしながらもシグナムの動きの迎撃に入る。

 

「狂っている? 寧ろ愛と狂気しか残ってねぇよ」

 

 寧ろそれ以外の何があるのだと言ってやりたい。それ以外の何があればこんな風になるのだ。

 

 だから、踏み込みと同時に放たれる上段斬りに対応する。刃の表面を撫でる様に左腕を滑らせ、人工皮膚の表面を抉れさせつつ左拳を繰り出す。それがシグナムが右へと動いた事で回避された事を確認しつつ、後ろへとスウェーする様に動く。次の瞬間、バリアジャケットがパージされ、少しだけ軽装のヴィータが頭の位置に鉄槌を振り下ろしていた。面倒な相手だと判断する。お互いに動きを熟知しているからコンビネーションが”ハマリ”だすと付け入る隙が少ない。ただの数年ではなく、十数年、もしかして”闇の書”の守護プログラムとして活動した数百年分の経験がこの二人に存在しているのかもしれない。だとしたらこの世でもっとも戦いたくない部類の存在に入る。

 

 が、経験の濃さではまず間違いなくこの二人には負けない領域にあると自信できる。

 

 何故なら、

 

「―――オリヴィエよりは弱い」

 

「その名は―――!!」

 

「は、はは、ははははは……!」

 

 何も言わず、笑って答えて殴りかかる。もちろんヴィータとシグナムはその動きに合わせて回避を選択する。そして回避と同時に、スウェーバックの一撃が体へと向かって振るわれる。それの回避を放棄して、身体に叩きつけられるデバイスを掴む。この数年で成長しているのは決してアイツらでもコイツらだけでもなく、

 

 家族以外の全てを捨て去ると決意した結果、俺も変わった。

 

 ―――スカリエッティでさえ認めるストライカー判定だ。

 

「おおおおぉぉぉぉ―――!!」

 

「なっ」

 

「くっ」

 

 デバイスを握った女を二人、そのまま振り回す。意識が遠ざからない限り、この二人はデバイスを自分の手から離す事などない。その瞬間こっちがデバイスを壊しに来るのは見えている事だから。だから武器を失わない為にも此方が何をやるのか解っているにもかかわらず、武器を手放せない。そして、そのままデバイスを手放しつつシグナムとヴィータを壁へと叩きつける。左右の壁へと叩きつけられて半分埋まる様な状態の二人へ、部屋の中央から足を床へと叩き込み、半分埋める様に固定してから腕を交差させるように掌底を双方へ、掌を叩きつけるように勢いよく突き出す。

 

「ヘアルフデネ―――覇王双掌!」

 

 壁を貫通して二人の姿が遠ざかって行くのを感じ、そしてそれに違和感を覚える。今の行動、二人は被害を避ける事よりも受け止め、吹き飛ばされたように思えた。自分から遠くへと移動する為にわざとうけきる様な、そんな手応え。それを認識した途端、理解する。

 

 呼んだかヴェロッサ。

 

 そして、

 

 釣れたな。

 

 ―――次の瞬間、桜色の光が空間全てを満たした。

 

 全身を焼き、そして貫く砲撃。それが壁や家具を粉々に砕きながらありとあらゆるものを飲み込み、滅ぼして行く。リミッターがついているだろうに昔食らった時よりも威力は確実に上がっていると思える。その衝撃を懐かしく思いながら、対処法は昔と全く変わらない。いつぞやの時と同じく桜色の奔流の中で、全身が焼かれている事も構わず、前へと踏み出しつつ、右拳を振るう。

 

「ベオウルフ」

 

 瞬間魔力が消え去る。空間が弾ける。桜色の奔流が消え去り、そして荒れ果てたホテルの惨状が映し出される。だがそんなものには欠片の興味もなく、向けるのは先の光景だ。砲撃が叩き込まれた場所には大穴があき、此処まで届いている。外まで続く大穴の先、そこには白いバリアジャケットに身を包んだ一人の魔導師の姿があった。既に次の砲撃を発射する為に収束は始まっており、終わりを迎えようとしていた。だが砲撃を放とうする前に、少女だった魔導師は笑顔と共に口を開いてくる。

 

「久しぶり元先輩」

 

「よぉ元後輩」

 

 久しぶりの挨拶。

 

 そして、

 

「お前さ、元気―――」

 

「何を人の嫁に手を出してるの。超ぶち殺すっていうか死ね」

 

 ―――もはや懐かしい何時も通りの流れで収束砲撃が叩き込まれた。




 ドッグブリーダーの出番はやはり短かった。

 そして管理局側のラスボス登場。殺意高すぎませんかね。

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