マテリアルズRebirth   作:てんぞー

119 / 210
バトル・フィールド

 轟音が響く。それに気にすることなく左腕を引く。そこに魔力が収束し、それを一直線に振るう。

 

「貫け」

 

「ブリューナク!」

 

 メカニズムが魔力の杭を叩きだし、それが光槍と衝突し、双方に砕ける。だが既に右手で別の術を組み上げている。人間では届かない領域の思考速度とマルチタスクの数―――それこそがデバイスに、主と共に戦う事を許されたユニゾンデバイスに与えられた特権。故に相手が思考するよりも早く魔法を完成させて放つ。魔法陣を空に何十と浮かべ、そこから出現させるのは黒と赤の短剣群。迷う事無くそれを放ち、それが相手と、そして相手の味方を薙ぎ払おうと降り注ぐ。その前に杖と本を握る姿―――八神はやてがいる。短剣群、ブラッディダガーは彼女を貫こうとするが、その前に一つの姿が現れる。

 

「通しません!」

 

 小さなユニゾンデバイスの姿が氷の短剣を生み出し、それを迎撃のために放ってくる。その速度は此方とほぼ同等だ。故に相手へと到達する前に短剣はぶつかり合い、氷り、砕け、そして魔力の破片となって輝きながら散って行く。その瞬間に再び左腕の武装を―――ナハトヴァールと呼ばれていたものを形だけ再現した兵装のアクションを起動させる。ステークが素早く後ろへと引かれ、魔力が収束し、そして杭となって射出される。

 

「溜める時間さえくれへんなぁ!!」

 

「”チャージ等させるものか!”と彼なら言うだろうな」

 

 少しだけ口調を真似て話してみる。そうすればウンザリとした顔を見せながらはやてが同意してくる。

 

「正しいだけに厄介やなぁ」

 

「はやてちゃん! ユニゾンする暇がありません!」

 

「解っとる……!」

 

 ユニゾンをさせるだけの暇を絶対に与えない。AAの魔導師が二人存在するよりも、Sランクの魔導師が一人存在している方が圧倒的に厄介なのは経験が伝えてくれることだ。たしかに管理局は一つの隊に保有できる戦力の上限が決まっている―――だがユニゾンによる一時的なブーストはその制限の限りではない。此方の隠密や奇襲が突破された中で、はやてがユニゾン状態で戦場に登場しなかったのが最大の戦果だったかもしれない。イストも己の役割の最後の一つを果たしている最中だ。あとはゼストだけ―――ともなればここは己の領分を果たさなくてはなるまい。

 

「デアボリックエミッション」

 

「うわぁ」

 

 露骨に嫌そうな顔をはやてが浮かべるのと同時に闇の球体が辺りを飲み込む様に広がって行く。地上で戦うイングの存在を考慮する必要は一切ない―――彼女は己よりも強いのだ。であれば巻き込むことなど気遣わず戦えばいい。故に全てを飲み込む勢いで魔導を放つ。そこに遠慮や考慮は一切存在せず、気にすることもない。そして、再び相手が魔導を放つ気配を感じ、マルチタスクに待機させておいた魔法を起動させる。

 

「だらっしゃああ―――!!」

 

 砕ける様に球体が内側から崩壊する。そこには先ほどまでなかった鉄槌の騎士、ヴィータの姿がある。地上では烈火の将シグナムが守護獣のザフィーラに混じり、イングと戦う姿が見える。隙を狙って襲い掛かる緑色の猟犬は―――データによればヴェロッサ・アコース査察官の技能だ。なるほど、自分が活躍できる戦場に出てきたか、と判断し、

 

「どこを見てんだよッ!」

 

 正面から迫ってくるヴィータの姿を確認する。その目的はまず間違いなく背後にいるはやてとリインフォース・ツヴァイのユニゾン時間を稼ぐことだろう。故にやる事は変わらない。迫ってくるヴィータに対して左手のシールドを構え、パイルバンカー機構を稼働させる。それを確認しても、ヴィータは正面から突撃し―――空にて此方と衝突する。それを左手で受け止めつつ、右手で再び魔法を放つ。

 

「デアボリックエミッション」

 

「遠慮なさすぎやない!?」

 

「気のせいだ」

 

「いい性格しやがってコンチクショ―――!!」

 

 デアボリックエミッションに魔法が叩き込まれるのを感じつつも、左手を弾く。そうして弾かれたグラーフアイゼンをヴィータが凄まじい速度で振るってくる。再びそれを左腕で防御する。だがそれを貫通して衝撃が体へと伝わってくる。左腕がしびれる様な感覚を得、それでこれが俗に言う”鎧通し”である事に気づく。素手で放つところは何度も見た事があるが、武器で目撃するのは初めてであったためにワンアクション遅れてしまった。

 

 が、問題はない。

 

 所詮デバイスの体だ―――もし千切れていても問題なく動くのが非常に優秀な所だ。

 

 故に、命令を与えればあまりにもあっさりと体はそれに従う。自分の中に存在する最も近しく、そして長く接している人の動きをアレンジして再現する。左腕とシールドを盾にだし、右手でヴィータに打撃する。その表情には驚愕が浮かんでいるが素早く回避動作に入っている辺り、流石だと評価するしかない。

 

 だが回避動作で距離が広がった。

 

「デアボリックエミッション」

 

「いい加減にせぇぇぇやぁああ―――!!」

 

 デアボリックエミッションを相殺した瞬間に次の物を放つ。魔力が続く限りはこのイタチごっこを続けるのが理想の状態だが―――今度ははやては相殺する事もなくそのまま攻撃を受け入れる。ヴィータがそれに焦ることなく此方へと叩き込むという事は、

 

『通された』

 

『把握しました』

 

 それだけで言葉の意味は通じる。相手が被弾覚悟でユニゾンするとは思いもしなかった―――ここは殺傷設定で攻撃するべきだったのかもしれない。

 

 過ぎた事は思考していてもしょうがない。

 

「待たせたのぉ!」

 

「待ってもいなければ望んでもいない」

 

 はやてが魔法を行使する。その速度はまず間違いなく此方と同じ速度だ。魔力量に関してはユニゾンの影響もあって此方を超越している―――厄介だと判断するが、一対一であればまあ、なんとかなるだろうというのが評価だ。だがその前に自分とはやての間にいるヴィータの存在が厄介だ。彼女がいる限り直接的にはやてへ迎撃行動を叩き込むどころか、アクション自体がワンテンポ遅れる。

 

 だから、ヴィータを無視して魔法を行使する。

 

「デアボリックエミッション」

 

「デアボリックエミッション!」

 

「アイゼン―――」

 

 もちろん、といった風にヴィータがカートリッジを消費しながら巨大化したグラーフアイゼンを振りかぶる。その目標は魔法を放ったばかりの此方への必殺行動だ。だがそれを完璧に無視し、左腕の兵装に魔力を収束させ、デアボリックエミッションの衝突地点―――その向こう側のはやてへと狙いを定める。

 

「―――貴女は此方です」

 

「ちょっ」

 

 地上から飛び上がったイングがヴィータの足を掴み、そのまま大地へと落下しながら彼女の体を叩きつける。正直有難い話だ。だから終わったら感謝の言葉を告げる事で結論し、漆黒の魔力の杭をデアボリックエミッションの向こう側へと放つ。デアボリックエミッションとデアボリックエミッションがぶつかり合い、相殺した空間の向こう側、はやても既にほぼ同じ速度で魔法を放っていた。

 

「行くで、ブリューナク!」

 

 光槍が漆黒の杭とぶつかり合い、爆発を起こす。完全な相殺現象―――いや、魔力量的にやや此方が押されている。だがそれはどうとでもなると判断する。そこから一歩も動くことなく、素早く、そして数の多い魔法を生成し、互いに放ちあう。弾幕として放たれた魔法が空中でぶつかり合い、空に魔法の花を咲かせて次から次へと散って行く。その光景を美しく思う者もいるが、今の自分には違う意味がある。

 

「千日手だな」

 

「千日手やな」

 

 はやてと同じ言葉が漏れる。それは互いに認識し合う状況だ。はやて魔法の組む速度はユニゾンによって加速しているが―――それは此方とさほど変わらないレベルだ。故に魔法を同威力で放てば相殺しあう事になる。そしてこの状況はまず間違いなく自分達―――ではなく相手の有利となる状況だ。千日手、つまりは次へと進めない、此処に停滞している状態だ。時間が経過すればするほど援軍が到着する可能性がある。もちろん、到着しない可能性だって存在するが、この状況、ストライカー級が乱立する戦場で援軍を呼ばない手があるのだろうか。

 

「ええんか?」

 

 それを相手は示唆してくるが、

 

「無駄だな」

 

 無駄だと断じる。

 

「我々には負けられない理由がある。そちら同様……な。故に、この虚無を埋め尽くすあの人の光と存在が貴様ら程度に劣っているなどとは断じて認めん。私に付き合ってこのまま部下の敗北を見届けろ―――ベルカの伝説とは言葉以上のものであるとそこから眺めろ」

 

 そして眼下、一つの影が無数の姿を蹂躙していた。

 

 

                           ◆

 

 

 震脚。

 

 大地が揺れる。それによって振動が発生する。必然的に大地に足をつけていた存在は―――破裂する。大地を通して発生させる衝撃にはそれだけの威力があるそれを理解できずに食らうのは緑色の猟犬だ。学習能力はあれど、所詮は獣。少しだけテンポをズラせば面白い様に弾ける。故に猟犬は雑魚だと判断した……それでも鬱陶しいが。大昔、味方側にこの希少技能が存在した時は非常に便利だった。単純に数を用意できるだけではなく、捨て駒だと認識すれば盾や遮蔽物、囮などに仕える優秀な駒だ。

 

 今の様に。

 

「テオオアァァァ!!」

 

 緑の猟犬に隠れていた守護獣が姿を現す……名前は何だったか……どうでもいいと判断し、現れた守護獣が防御の姿勢に入れる前に打撃する。震脚の対策として浮遊魔法を地面の上、スレスレで使用する事はまあ、いいだろう。だがその後が温い。温すぎる。なんだその動きは、

 

「生温い」

 

「レヴァンティン!」

 

「アイゼン!」

 

『Cartridge load』

 

 守護獣を打撃した瞬間、此方の硬直の合間を縫うように二人の騎士が攻め込んでくる。仲間を犠牲にした誘導、実に懐かしい手段だ。涙で頬を濡らしながら砕けた遠い昔の仲間を思い出す。だがそういう感傷の心は捨てている。美しいのだろうが一切心に響く事はない。故に硬直していると思っている愚鈍な騎士達の目を覚まさせる。相手の得物が此方へと到着する前に空破衝を繰り出す。それを受けても未だに全身を止めない二人の姿を見て、嘲笑する。

 

「透けて見えますね」

 

 背後から接近していた駄犬を蹴り飛ばし、同時に飛来してきた魔力弾を掴み、握りつぶす。そのまま足を捻り、接近してきた騎士を二人とも蹴り飛ばし距離を生む。これが現代のベルカの騎士か、全く持って嘆かわしい……とは思わない。非殺傷等というものが布教しているこの世界で、それを使用して戦い続けるのであれば……まあ、こんな風になるのではないかと思う。

 

「立てるかザフィーラ?」

 

「なんとか……な」

 

 次があると思うから安易に有限の命をすり減らそうとする。非殺傷設定等というものがあるから甘える。次があると思ってしまう。広めた人間が弱体化を狙っているのであれば今頃死の世界で高笑いを上げているだろう。その光景が想像できる。まあ、正直どうでもいい話だ。そう、自分には彼がいる。全力でぶつかって、全力で応えて、全力で愛してくれた彼がいる。その事実だけで満たされている。故に、有象無象などどうでもいい。彼と彼の世界さえ守れればそれで十分だ。

 

「木偶の剣に罅割れた鎧に玩具の鉄槌に駄犬。どれもこれも雑魚ばかりですね」

 

「言ってくれるじゃねぇか!」

 

 激情を見せるが相手は踏み込んでこない。感情を制御し、冷静に戦うだけの知性はあるらしい。まあ、どうせ彼女たちが己に勝つことなどありえない。現世において自分を倒す事を許しているのはただ一人だけ。そしてそれ以外の誰にも負けはしない。右足を前へ強くだし、大地を踏み抜く。その衝撃で大地が砕け、地割れが起きる。そしてそのまま構える。

 

「そもそも、その程度で私を倒そうというのが気に入りませんね。来るなら最低限死兵とでもなってください―――あぁ、別段期待している訳じゃりませんけど。そもそも飼い主に尻尾振っている犬が騎士を名乗っているなど失笑ものですから、騎士道ごっこを好きなまでやるといいですよ。えぇ、出来たら此方に関わらない所で」

 

 それでも相手は動いてこない。挑発は無意味か、と把握したところでまあ成功するしないは正直どうでもいいな、と思い出す。

 

 天地がひっくり返ってもこの程度じゃ自分を倒す事はありえない。

 

 故に相手が瞬きした瞬間、無拍で踏み込み、守護獣の腕を掴んで大地へと叩きつけ、背後からの斬撃を横へと流れて回避する。そのまま相手の脇腹に拳を叩きつけて吹き飛ばし、迫ってくる鉄槌を掻い潜って鉄槌の騎士の顔面を掴み、瞬きをする前に大地へと叩きつけ、

 

 踏む。

 

「イング・バサラ、夫の言葉を借りて宣言させていただきます―――鏖殺する」

 

 純然たる力の差は絶対に、覆らない。




 38度の熱の中で執筆、皆さんも風邪や病気には気を付けましょう。

 それにしてもはおー様のラスボス感。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。