マテリアルズRebirth   作:てんぞー

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ドント・セイ・ソーリー

 ―――痛みを感じる前に安堵を覚える。

 

 助かった、と。

 

『ごめんスバル!』

 

『大丈夫……慣れてるから』

 

 そうは言うが、スバルの声は若干苦しそうだ。それもそうだ。あの爆発の瞬間、シルエットと黒霧を生み出したのはいい。だがその瞬間襲い掛かってきた”敵”から自分を庇って、距離を稼いだのはスバルだ。そこらへんはもう阿吽の呼吸で、此方を抱きながらローラーを全開に、全力でダッシュして逃げてきた。それなりの距離を敵との間に開けてきたつもりだ。

 

 それなのに逃げ切れたという気分にはならないし、身体には悪寒が残っている。何よりも頭に聞こえてきた声がこびり付いて剥がれない。だがそれを今は、友人の無事を確かめる為だけに追いだす。脳裏にへばりつく声を無視しながら、スバルの体を見る。そこには綺麗な赤い線があった―――つまりは斬られた、という事だ。それもかなり綺麗に。血が滲んでいるのは見えるが、それが少ない。皮膚と皮膚の切れ目が綺麗過ぎて、動いた後でもまた切れ目が合わさって繋がっている様になっているのだ。簡易的だが回復魔法を使う事で簡単に治療できる。少なくとも出血は止められる。幸いレリックは無傷だし、喪失してもいない。これは確実に成果だ。ただフリードは爆破の衝撃で目を回している。キャロ以外には全く利用価値の無いダメドラゴンだと思う。

 

『ティアだけ逃げられない?』

 

『逃げないし逃げられない』

 

 念話でスバルに答える。無理だって。バイクへと接近する瞬間を見ることも感じる事も出来なかった上にスバルは斬られたという事を傷口が開くまで理解できなかった。そんな相手にどうやって勝てるというのだし、どうやって逃げるというのだ。立ち向かうしかないのだろう。

 

 相手が、相手が、……相手がたとえ……。

 

『ティア?』

 

『任せなさいスバル―――今度は私の番よ』

 

 色んな意味で、己の番だ。そう思って立つ。息を殺して耳を澄ませば聞こえてくる。こつ、こつ、こつ、と足音を響かせながら近づいてくる存在が。強烈な存在感を放ってくる存在が。左手にクロスミラージュを、右手にタスラムを握り、短くホロウィンドウを出現させてから消す。その内容はもちろん全周波数で居場所を送信する事だ。敵に既に見つかっているので後は味方に見つかるだけ―――妨害をどれだけ突破できるかは解らないが、やらないよりはいい。警戒を最大限に、怪我をしたスバルの前に立つ。今の自分にできることを再び思考し、そして決める。

 

 この状態でもできることはある。その為に魔力を全て放棄し、構えた両手のデバイスをだらり、と下げる。そうする事で戦意がない事を証明し、そして相手の奇襲や攻撃を防ぐ―――相手に対して此方に興味を持たせる。これが全く関係のない相手やらなのはなら全く意にも介さず襲ってくるだろうが、近づいてくる姿にそれだけはないと思う。いや、彼女はなんだかんだで他人に甘い所がある。だから絶対に引っかかってくると思う。

 

「アレ、逃げないんだ。もう少し意地が悪いと思ってたんだけどなぁ」

 

 そう言って、下水道の奥から一つの姿が複数の姿を連れてやってくる。先頭を歩く女の髪色は水色だ。だらりと伸びるポニーテールにまとめられ、バリアジャケットは黒く、露出部分が多い様になっている。……それは非常に良く知っている人物に、フェイト・T・ハラオウンに似ている人物であり、印象と髪色さえ変えれば全くの同一人物だと言ってもいい。なぜなら喋り方が違うだけで声は一緒なのだ。それほどまでにフェイトに似た人物、その背後には水色のバインドで縛られ、浮遊する三つの姿がある。エリオ、キャロ、そして救助対象だ。三人とも意識が無いように見える。ただ怪我をしていない所を見ると無駄な暴力などは加えられていないように見えるから安心できる。軽く安心したところで問題は一切解決はしていない。ここね、と心の中でつぶやきつつ、答える。

 

「合理的に生きているだけですよ―――レヴィさん」

 

 レヴィ・B・ラッセルの姿がそこにいた。良く世話になっていた人物の娘的ポジションだった人物だ。大事な人の家族だった。大きくなって、もう子供ではないと解る。いや、元から自分よりも年上だったが、昔の子供っぽい雰囲気は完全に消え去って、大人としてのレヴィがそこにいた。彼女は此方を見ながら懐かしそうに微笑むが、剣呑な気配を一切消す事はない。完全に此方を敵として見ている事の証拠だ。だから口を開く。

 

「ほんと、本当に……久しぶりです」

 

「うん、久しぶりティアナ。胸以外は色々と大きくなったみたいだね。何というか、僕も結構君に会えてうれしいよ? こんな状況じゃなきゃ一緒に映画館にでもいってポップコーンの一つでも買ってあげたい気分だよ。今まで良く頑張りました、ってね」

 

「だったら……今からでも遅くはない時間ですし一緒に映画見に行きましょうよ。最近雑誌を見たんですけど結構面白いアクション映画やっているらしいですよ? 古代ベルカの超兵器が目覚めてそれと戦う管理局のお話なんですけど物凄いB級感があって逆に面白そうなんですよ」

 

「うーん、全部終わったら、かなぁ。今の僕ってホラ、見ての通り凄く忙しいし。シュテるんも王様も結構忙しいんだよねぇ……あ、もちろんそこにははおー様やナルるんやイストもいるわけなんだけど。だから全部終わったらみんなでポップコーンとコーラを手に持って見に行こうよ。その時になれば僕達全員暇だし。え? ユーリ? アレは働いちゃいけない類だから」

 

「一人だけ仲間外れは良くないです」

 

 そう言って、レヴィの言葉に軽く笑ってしまう。何とも普通過ぎる会話に。依然とレヴィからは剣呑な気配が―――殺気を感じる。だけど和やか過ぎる会話に、昔通りの会話に笑うしかなかった。そして出てきた懐かしい名前や敵だった名前に、あぁ、本当にこの人たちは何時も通りなんだ、と納得してしまう。誰よりも、何よりも聞きたくて聞きたくなかった名前。それが普通に彼女の口から出て来た事に納得と安心を感じてしまう。

 

「レヴィさん達……生きてたんですか?」

 

「うん、そうだよ。あの頃には既にスパゲッティと取引していたから死亡偽装する為とレリックの奪取の為に空港は焼き払ったんだよ。だから一人も欠ける事無く、皆生きているよ」

 

『私スパゲッティじゃなくてスカリエッティなんだけど!!』

 

 出てきたホロウィンドウをレヴィが笑顔のままチョップで叩き割った。その反応を見るに割とあちらの芸風って機動六課とそう変わらないんじゃないかなぁ、と思う。ただそうやって向こうが此方側と対して変わらないと考えてしまうと―――

 

「―――ティアナ? 泣いているの?」

 

「あ」

 

 涙が流れていた。頬に触れると涙が頬を濡らしていた。どうしてだろう、と思う。今は涙を流すよりもやらなくちゃいけない事がある。なのに何もやる気がしなかった。ただ最も聞きたかったことが、それが聞けて、そして充実感と敗北感がそこには存在した。彼が生きていた。そして、彼が裏切っていた。何故スカリエッティ側と繋がっていたのか。何故スカリエッティ側へと行ったのか。……何故私を頼ってくれなかったのか。私達は家族じゃなかったのか。そう思ったのは私だけだったのか。様々な感情がごちゃ混ぜになって、涙となって頬を伝う。

 

「悲しい?」

 

 そう聞いてくるレヴィに多分違う、と答える。悲しいのではない。

 

「たぶん……嬉しいのと、結構怒っています。なんで……なんで教えてくれなかったんだ、って」

 

「それは簡単だよ」

 

 レヴィは笑顔のままその答えは実に簡単だよ、って言ってくる。その言葉はとても残酷なものだと理解している。マルチタスクによって割き、冷静に考える脳がいくつかの答えを予想している。頭がいいと先に残酷な真実にたどり着く事がある―――だから私は、賢い自分が嫌いだ。スバルの様になりたかった。もっと体当たりでぶつかれて、自分の体で誰かを守れて、そして馬鹿だから深く考えなくてすんで……スバルのような馬鹿になりたかった。

 

「―――本当はティアナの事はどうでもいいからだよ。僕達は僕達だけで十分で、そして精一杯なんだ。これ以上手を広げたら零れ落ちちゃうし、今だって頑張って手を繋いで生きているんだ。だからこれ以上誰かに構ってあげられる時間も暇も余裕もない。あと少しなんだよティアナ」

 

 そう言って残酷な言葉を発しながら、レヴィは鎌の形をしているデバイスを―――バルニフィカスを此方へと向けてくる。

 

「レリックの六番。それがアレば全部終わるんだ。ドクターの思惑とか、管理局の狙いとか、そういうのは全部どうにでもいいんだ。僕達は僕達で一緒に、幸せに、平和に暮らしたいそれだけなんだ。争いはもういい。勝手に他の人たちで勝手に殺し合っていてくれ。僕達はそんな事どうでもいい、ただ当たり前の日常が欲しいんだ。プライドも立場も友達も全部かなぐり捨てて欲しいんだよ、ティアナ」

 

 レヴィはそれを淡々と言うが、それには物凄い切ない響きが存在した。心の底から渇望する様な、叫び声の様な感覚がレヴィのその言葉にはあった。たぶん、いや―――自分には理解してない事が多いのだろう。そしてその中にレヴィ達が求める答えや望みがあるのだ。今までの全てを捨ててまで、

 

「何をしようと言うんですか……!」

 

「自由を。自由を欲しいんだよ、ティアナ。当たり前の自由を。普通に生きて暮らせる自由を。愛している人と隣で笑って生きていける自由を。愛している人の子供を身ごもる自由を。子供を産んで育てる自由を。普通に暮らし、普通に死ぬ自由を。今の僕達にはそれすら許されない。皆で笑って生きることができない。だったらそれを勝ち取るしかないんだよティアナ。当たり前の様に生まれて育って生きてきた君には永遠に理解できないかもしれない。だけどこれは僕達の悲願なんだ」

 

 もう後戻りはない、レヴィはそう言って、バルニフィカスを此方へと向けたまま、魔力刃を形成する。魔力光と同じく水色の刃だ。それが出現するのと同時に会話の間にも途切れることなかったレヴィの殺意がある種のプレッシャーを得る。この人は間違いなく本気だ。最初から最後まで此方を排除の対象として、ただの単なる障害としか見ていなかった。ティアナ・ランスターなんかじゃなくて、”管理局の局員”という風にしか見てなかった。……本当に私達は敵だったんだな、と理解してしまった。

 

 ……無理だ。

 

 クロスミラージュとタスラムを握る手に力を込める。

 

 ……戦えない。

 

 両銃を構える手は持ち上がって構えられる。魔力は通されていないが、引き金を引けばカートリッジが消費されて魔力弾が放たれる。

 

 …………この人とは戦えない。

 

 戦闘態勢を取る。何百回、何千回と繰り返されてきたコンバットスタイル、戦闘前体勢、戦闘をするための構えを取る。引き金にかける指は震える事無く、正面にいる敵を真直ぐと見据える。

 

 ―――それでも心は折れない。

 

「イスト……イスト兄さんはどうしているんですか。何を思っているんですか。何をしたいんですか。……平気、なんですか?」

 

「知りたい? ―――だけど残念、教えられないよ。彼は僕達の王子様なんだ。そう簡単にどこにいるのか、どう思っているのかは教えられないよ。彼は僕達だけの宝で、光で、愛しい人なんだ。誰にも渡さないし誰にも分けてあげない。聞きたい事があるなら僕達を倒して聞きだしてみなよ―――ま、多少してやられたって気分だけど」

 

 レヴィが少しだけ毒づくと、次の瞬間にはレヴィの姿が消え、そして斬撃が下水の中で連続して発生する。目にも止まらない―――ではない。”目には映らない”斬撃を繰り出し、レヴィが迎撃したように……見える。それを追える程自分の目は優秀ではない。ただ数秒の間に重なるように発生した斬撃と、そして迎撃。それによって下水の中の空間自体が振動し、震えるような感触を得る。頬を撫でる風を認識した次の瞬間には破砕の音が消え、少し離れた位置にレヴィの姿を確認できた。

 

 何時の間にかバインドが破壊されてエリオ達が解放され、そして少し離れた位置でレヴィが鍔競り合いをしていた。レヴィの向こう側にいるのは長剣を構えた騎士の姿だ。ピンク色の髪で、騎士甲冑を装着し、視覚できない剣戟に対応した烈火の将、シグナムの姿だった。

 

 その姿は何時も通りなのに、彼女に感じる剣呑な気配はレヴィに匹敵するも負けることはなかった。

 

「―――良く時間を稼いだランスター。お前は直ちに撤退しろ。長距離は無理だが短距離転移であれば影響を受けずに離脱できる。ショートジャンプを繰り返して迅速に離脱しろ。ここは」

 

 レヴィの姿が消える。だが次の瞬間シグナムは目を閉じたまま、片手でレヴァンティンを振るう。虚空から発生する斬撃をレヴァンティンで切り払いつつも、突如襲ってくる刃に対応し、そして再びレヴィとの鍔競り合いを発生させる。

 

「―――私に任せろ。ベルカの戦乱を生き抜いた烈火の将の”真”の実力を披露しよう」

 

 古代の記憶を呼び覚ませた烈火の将の姿がそこにはあった。




 奥義古代ベルカインストール。キャラはキチガイになる。

 なんかヴォルケンって古代ベルカ時代に存在した人のコピーって感じがするし、その頃の記憶呼び覚ましたら強くなるんじゃね、という発想でヴォルケンズがかませからラスボス枠にアップを開始しました。

 なんでなのはって古代ベルカってだけでラスボスっぽくなるんだろう。

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